第 52号 2009. 1 テクニカルレポート Hitachi Chemical Technical Report ISSN 0288-8793 ■日立化成の半導体パッケージ基板 日立化成独自製法による半導体パッケージ基板は, 低熱膨張材料(自社開発)上の線幅20 µm,線間距離 20 µm以下の微細配線形成に対応している。また, 全層アディティブ配線,コアレス構造への対応も可 能である。さらに,プロファイルフリー銅箔と組み 合わせることで,フラット樹脂上への微細配線形成 が可能である。 テクニカルレポート 第 52 号 2009年1月 巻頭言 熱硬化系ポリマーアロイ ───────────────────────────────────────────── 5 ―ジュラルミン代替から半導体材料へ― 井上 隆 総 説 反応誘起相分離を応用したダイボンディングフィルム ──────────────────────────────── 7 ―柔らかく,強く,使いやすい材料を追求して― 稲田 禎一 論 文 200℃硬化に対応した次世代パッケージ向け感光性耐熱材料 ───────────────────────────── 13 峯岸 知典・野北 里花・岩下 健一・河村 智子・大江 匡之・松家 則孝 ウェットエッチングによるマイクロファブリケーションとFAMによる高密度プリント配線板 ────────────── 17 高井 健次・田村 匡史・鈴木 邦司 全固体化レーザー用強誘電性BaMgF4単結晶 ──────────────────────────────────── 23 青嶌 真裕・ナチムス セングットバン・住谷 圭二・島村 清史・ガルシア ビジョラ 鉛フリーバナジウム系低融点ガラスペースト ─────────────────────────────────── 27 立薗 信一・吉村 圭・内藤 孝 眼アレルギー迅速診断薬 アレルウォッチ涙液IgE ───────────────────────────────── 31 樋口 雅之・鈴木 菜穂子・中野 勇一・大竹 隆利 製品紹介 ──────────────────────────────────────────────────── 35∼37 高耐熱・高周波多層材料 MCL-HE-679G モータ用低VOCワニス WP-2008 アレルウォッチ 涙液IgE 業務車両用バッテリー 新「Tuflong(タフロング) 」シリーズ 建設機械用長寿命ブッシュ ニッカロイヘリカルグルーブブッシュ 3 Contents Commentary ──────────────────────────────────────────── 5 Takashi Inoue Development of Die-Bonding Film for Semiconductor Packages by Applying Reaction-Induced Phase Separation -Pursuing Soft, Endurable and Controllable Materials- ──────────────────── 7 Teiichi Inada 200℃ Curable Heat-resistant Photodefinable Material for Next Generation Semiconductor Packages ──── 13 Tomonori Minegishi・Rika Nogita・Ken-ichi Iwashita・Tomoko Kawamura・Masayuki Ohe・ Noritaka Matsuie Micro Fabrication by Wet Etching and High Density PWB Made by FAM ───────────────── 17 Kenji Takai・Tadashi Tamura・Kuniji Suzuki Ferroelectric BaMgF4 Single Crystal for All-solid-state Lasers ────────────────────── 23 Masahiro Aoshima・Senguttuvan Nachimuthu・Keiji Sumiya・Kiyoshi Shimamura・Encarnación G. Víllora Lead-free Low Melting Glass Paste Based on Vanadium ──────────────────────── 27 Shin-ichi Tachizono・Kei Yoshimura・Takashi Naito Rapid Test for Allergic Conjunctival Diseases ───────────────────────────── 31 Masayuki Higuchi・Nahoko Suzuki・Yuichi Nakano・Takatoshi Ohtake Product Guide ───────────────────────────────────────── 35∼37 4 巻 頭 言 熱硬化系ポリマーアロイ ―ジュラルミン代替から半導体材料へ― エポキシ樹脂との出会いは20年前である。それまでは熱可塑性プラスチ ックやゴムとのつきあいだけで,熱硬化性樹脂とは無縁であった。当時, 山形大学大学院理工学研究科 教授 岐阜大学で修士課程を修了した学生Y君が東工大の博士課程に入学し,それ までにやってきたゴム補強エポキシ樹脂の研究を続けたいと希望してきた。 これを受け入れたのが熱硬化性樹脂を扱う契機になった。 Y君の実験を見てみると,エポキシ化合物(低分子量液体)にニトリルゴム (NBR)と硬化剤を溶かし込んだ後に加熱すると,相分離が始まり,硬化剤 井上 隆(いのうえ たかし) Takashi Inoue 略 歴: 1966年 京都大学工学部高分子化学科卒業 1971年 同大学 大学院博士課程修了 1971年−1981年 JSR㈱ 1981年−2001年 東京工業大学工学部助教授・教授 2000年 山形大学工学部教授、現在に至る 2002年 東京工業大学 名誉教授 の種類や硬化温度によって相分離構造が違ってくることがわかった。Y君が 登場する直前から線状高分子同士のブレンドの研究を始めていた。異種の 高分子は水と油のように溶け合わないのが一般的であるが,水とアルコー ルのように相溶(分子レベルで溶け合う)する系もいくつか見つかっていた。 相溶系は高温になると溶け合わなくなることが多い。低温で相溶させた後 に昇温すると相分離する。たいていはスピノーダル分解(SD)様式で相分離 して,SDに特徴的なパターン(構造)が形成される。パターン形成の速度論 を研究課題としていたわけである。 研究歴:ブロック共重合体のミクロ相分 離,リビングラジカル重合,オレ フィンメタセシス重合,ポリマー リサイクル,耐油性エラストマー, ポリマーアロイ 賞など:繊維学会賞(1989年),オーエン スレーガー賞(2000年),アクロ ン大学Morton 特任教授(1997年) , 上海交通大学客員教授(1998年), 四川大学客座教授(2001年),日 本ゴム協会会長(2005年−2006年) エポキシ/NBR系は昇温するだけでは相分離しない。反応によって相分離 が起こる。硬化反応の初期にエポキシの分子量が増大するために相溶でき なくなって相分離する。つまり反応によって誘起されるSDということにな る。エポキシ樹脂によく似た構造の線状高分子であるフェノキシ樹脂と PES(ポリエーテルスルホン)は相溶することが知られていた。そこでNBR の代わりにPESをエポキシに溶かして熱硬化させたところ,規則正しい構 造が形成され実に美しいデータ取りができた。“Reaction-induced phase decomposition・・・・”と題して論文発表した(1989年)。この論文で提唱 した『反応誘起型相分解』という概念は今ではすっかり定着して世界中で用 いられている。 残念ながらPES/エポキシの組み合わせそのものは新規ではなかった。大 型の変圧器(トランス)にエポキシ樹脂の絶縁皮膜をかける際に,硬化すべ く高温にすると塗布したエポキシが流れ落ちて硬化皮膜の膜厚が不均一に なるという不具合を解決するためにPESを添加して増粘させるという技術 がすでに開発されていた。一方で,PES/エポキシ系がカーボン繊維補強プ 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 5 ラスチック(CFRP)用のマトリックス樹脂として使われようとしていること もわかった。航空機の尾翼をジュラルミンからCFRPに代替しようとしてい た英国ICI社と共同研究することになった。巨大な尾翼が本当にCFRPで持 ちこたえるのかどうか正直なところ不安であったが,米国のICI関連会社で 生産されたはずである。一昨年になってボーイング社が尾翼のみならず機 体全体をCFRP製にすると意思決定した。日本のカーボン繊維メーカーにと って大きなビジネスチャンスになっている。CFRP製ジャンボ機が世界に飛 び回る日も近いであろう。 ジュラルミンはアルミニウムに銅やマグネシウムを加えて高強度化した 合金である。それが焼入れによるSDの初期課程で構造凍結した材料である ことが最近になってわかってきた。皮肉にもSDによる金属材料が類似の機 構による有機材料によって代替されようとしているわけである。 2001年にスタートした経産省NEDO『精密高分子技術』プロジェクトにお いて,研究課題の一つとして日立化成工業㈱より「エポキシ/アクリルゴム 系接着剤の開発」が持ち込まれた。半導体パッケージの高集積度化と軽薄短 小化のためにチップ間の接着剤の高性能化を図ることが目的であった。 本年3月にプロジェクトは成功裡に終了したが,高集積度化への要求は止 まることがない。近い将来,接着剤層の厚みを現在の50 µmから5 µm程度 まで薄くする必要がある。薄肉化しても従来どおりの接着性・耐ハンダ特 性・耐温度サイクル性を保持させなければならない。 ジャンボジェット機と比べると,数cm角で厚みが数mmの半導体パッケ ージは極めて小さいが,反応誘起型相分解という原理原則は同じである。 10 µm以下の狭い空間での反応誘起型SDにともなう構造形成は興味深い研 究課題である。拘束空間におけるSD,とりわけ基材界面近傍での相分離構 造形成についての基礎的な研究が望まれる。 Silicon die 図1 ジュラルミン代替:航空機の尾翼 6 図2 半導体材料:チップ間の接着剤 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) Diebond film U.D.C. 621.382.21.3.049.7:621.798.1:621.778.678.686:678.744.3:538/539 総 説 反応誘起相分離を応用したダイボンディングフィルム −柔らかく,強く,使いやすい材料を追求して− Development of Die-Bonding Film for Semiconductor Packages by Applying Reaction-Induced Phase Separation -Pursuing Soft, Endurable and Controllable Materials先端材料開発研究所 稲田禎一 Teiichi Inada 本稿では,反応誘起相分離を応用したダイボンディングフィルムの基盤技術と材料 設計について概説する。ウエハの極薄化,チップ積層段数の増加に伴い,ダイボンデ ィングフィルムへの要求特性はより多様に,より厳しくなっている。これらの種々の 要求特性に対応するため,われわれは半導体分野でまったく実績のなかったアクリル ポリマ/エポキシ樹脂からなる反応誘起型相分離材料に着目し,この材料技術の深耕 をはかるとともに,ダイボンディングフィルムへ応用した。その結果,相分離挙動の コントロールとナノフィラー添加により,応力緩和性と耐リフロー性を高レベルで両 立することに成功した。また,このフィルムは弾性率,流動性などの主要な物性値を 非常に幅広く変更できるため,最先端の半導体パッケージの用途で広汎に使用される に至っている。 Low-modulus die-bonding films are useful for stacked multi-chip packages that are suitable for compact electronic devices. In particular, to cope with the widespread application of very thin semiconductor wafers and Pb-free solders, the films should have both low viscosity in the attaching process and high reliability of bonding in the high temperature reflow process. We examined the phase structure and the properties of a new reaction-induced polymer alloy consisting of a low-modulus acrylic polymer and a highly heat-resistant epoxy resin. The results showed that this alloy film has both high resin flow and good reflow-crack resistance. 構造変化に追従するため,材料開発にはこれまで以上のスピ 〔1〕 緒 言 ードやフレキシビリティが望まれている。 ダイボンディングフィルムは図1の半導体パッケージの中 単一の熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂ではこのような要求・ で,シリコン半導体チップと支持体 (基板,リードフレーム, スピードいずれにも対処できない。また,これらを混合した テープなど) 間の接着に使用されるフィルム状接着剤である。 系は物性調整は容易であるが,応力緩和性と耐熱性などトレ 従来,ダイボンドにははんだや銀ペーストが使用されていた ードオフの関係を解決することは困難である。 が,当社は世界に先駆けて1995年に耐熱性に優れるポリイミ しかし,もし基本的な特性に優れ,広範囲に物性調整が可 ドを用いたダイボンディングフィルム1)を開発した。膜厚均一 能な材料があれば,半導体パッケージの変化に応じたフィー 性や作業性に優れるダイボンディングフィルムは,現在では ドバックをかけながら,必要な材料をタイムリーに開発でき 高密度パッケージではなくてはならないものになっている。 るはずである。このような材料の候補として,われわれは耐 近年,パッケージの高密度化に伴い,このフィルムに対す 熱性不足のため半導体分野でまったく実績のなかったエポキ る要求は多様かつ高度になっている。さらに,パッケージの シ樹脂とアクリルポリマからなる反応誘起型相分離材料に着 目した。われわれはこの材料のもつ抜群の柔軟性や物性調整 の自由度に賭けたのである。この材料をナノコンポジット化 封止材 することにより耐熱性を改良した結果,反応誘起相分離を応 金ワイヤ 半導体チップ(ダイ) ダイボンディングフィルム はんだボール 支持体 (ガラスエポキシ基板) 銅配線 スルーホール 用したダイボンディングフィルムは1998年に上市され,現在, 高密度パッケージ,特にフラッシュメモリを多段に積層した スタックドCSP用途で幅広く使用されている。 本稿では,ダイボンディングフィルムの必要特性と,反応 誘起相分離のベース技術,さらに,これを応用したダイボン 図1 半導体パッケージ構造の一例 ディングフィルム開発経緯に絞って説明する。 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 7 総 説 〔2〕 半導体パッケージの動向とダイボンディングフ ィルムの必要特性 同一のフィルムで樹脂流動性が高いほどよい粘着性と,樹脂流 動性が低いほど良い耐熱性を両立させることである。従来から 耐熱性に優れるポリイミドを用いたフィルム1,5,6),粘着性に優 近年,パーソナルコンピュータ,携帯電話,デジタルカメラ れるアクリルポリマとエポキシ樹脂などを使用したフィルムは などを中心に実装の高密度化の進展が著しく,図2に示すよう あった。しかし耐熱性に優れるポリイミドを使用するとラミネ に従来の接続用のリードフレームが外部に露出したパッケージ ート性が悪化し,柔軟なアクリルポリマを使用すると耐熱性が から,より高密度化が図れる接続端子をパッケージ下部に配列 悪化するなど,これらを両立することは困難であった。 したCSP (Chip Size Package) ,チップを多段に積層したスタ しかし,以下の3要素を満足する材料であれば,上述の相反 ックドCSPへと進化している2-4)。それに応じて,チップの厚さ する要求を両立することは不可能ではない。 は従来の300 µm程度から50 µm以下まで大幅に減少している。 ①応力緩和性= 「柔らかい」 :粘着性を発現し,熱応力に起因す このような極薄チップを多段積層することで,パッケージの外 るチップのそりを低減するため,弾性率が1,000 MPa以下であ 形,寸法は同じでも機能や記憶容量を数倍に増すことができ ること。 る。そのため,スタックドCSPはパソコンや携帯オーディオに ②耐熱性= 「強い」 :はんだリフロー工程においてパッケージク 使用されるフラッシュメモリ用途で多用されている。 ラックが発生しないこと。 ③プロセス適合性= 「使いやすい」 :未硬化状態での樹脂の流動 性,弾性率,タックなどが組み立てプロセスに適合するように 調整できる裕度を有すること。 2∼9chip われわれは,この課題を解決するために,柔軟なアクリルポ 10∼chips ウエハ厚さ 300 µm 1990 70 µm 1998 25∼50 µm リマと耐熱エポキシ樹脂の混合系において,エポキシ樹脂の架 2006 橋反応による相分離構造形成を検討した。このような材料系は 2008∼ 図2 半導体パッケージの動向 従来の接続用リードフレームが外部に露出 したパッケージから,より高密度化が図れるスタックドCSPへと進化している。 Fig. 2 Trend of semiconductor packaging technology Stacked CSP, in which multiple chips are stacked, has been widely used and is under further development because semiconductor packages have become smaller and have higher performance. 反応により相構造が誘起されるので,反応誘起型相分離材料と 呼ばれる。 〔3〕 反応誘起型相分離材料 3.1 相分離構造形成のメカニズム 反応誘起型相分離材料は,硬化反応で相分離が誘発される系 であり,硬化前後の相分離構造や物性を制御することが可能で 図3にこれらの半導体パッケージの組み立てプロセスを示 ある。これまでもアクリロニトリルブタジエンゴム/エポキシ す。ダイボンディングフィルムに求められる代表的な必要特性 樹脂系7),ポリエーテルスルホン/エポキシ樹脂系8)などが検 は,以下の通りである。 討されている。熱硬化性樹脂のモノマーは多くの熱可塑性高分 1)80℃以下でウエハにラミネート (仮貼り) できること。 子と相溶する。これらの一相状態にある系を熱硬化させると 2)ブレードダイシング時にチップやフィルムにバリが生じな Flory-Huggins理論9,10)から予測されるように,熱硬化性樹脂の いこと。 分子量増大にともない相図の二相域が拡大し相溶域が減る。例 3)チップをダイシングテープからピックアップする時にチッ プが破損しないこと。 えば,エポキシ樹脂/PES (ポリエーテルスルホン) の相図は, LCST型を示し,硬化温度をT-cureとすると,反応とともに二 4)半導体パッケージをはんだにより配線基板に接続するリフ 相域が次第に低温側に移動しT-cureは二相域に入る (図4) 。つ ロー工程 (265℃) 時に,剥離やふくれを生じないこと。 まり,反応によってスピノーダル分解が誘起されて相分離が起 5)チップと実装基板間の熱膨張係数の差を吸収できること。 こる。このような反応誘起型相分離では,相分解のさまざまな 低温 (80℃以下) ,低圧力でラミネートでき,かつパッケージ 過程で構造を凍結することで相構造の制御が期待できる。つま 製造後は,はんだリフローに耐える耐熱性を備える,これは, り,相構造制御は,相分解と化学反応 (硬化反応) の相対的な速 1) ウエハラミネート ダイボンディングフィルム 2) ブレードダイシング ウエハ 3) ピックアップ, ダイボンド ダイヤモンドソー ウエハ チップ ダイボンディング フィルム ヒートブロック (80℃) ダイシングテープ ダイボンディング フィルム 実装基板 図3 スタックドCSPの組み立て工程 5)封止材モールド 4) ワイヤボンディング ラミネー ト,ダイシングなど多様な工程が必要である。 Fig. 3 Manufacturing process of stacked CSP The process includes a variety of individual processes such as laminating and dicing. 8 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 総 説 0.80 二相域 0.60 10,000 0.40 200 0.20 Δ Gmix (J) 温 度(℃) T cure 2,000 0.00 −0.20 1,000 −0.40 100 −0.60 エポキシ樹脂、硬化剤の平均分子量 Tg −0.80 500 −1.00 −1.20 −1.40 相溶域 0 0 図5 エポキシ樹脂の分子量とギブスエネルギーの変化 φ 0 0.5 10 Gibbs energy as a function of percentage and molecular weight of epoxy resin and hardener 熱硬化性樹脂の分子量増大に伴い相図 Phase separation between the acrylic polymer and epoxy resin is enhanced with the increase of the molecular weight of the epoxy resin and hardener の二相域が拡大し相分離が始まる。 Fig. 4 エポキシ樹 脂,硬化剤の分子量増大に伴い,相分離が進行する。 Fig. 5 PESの重量分率 図4 硬化に伴う相図とTgの変化 100 エポキシ樹脂の比率 used. Phase diagram of reaction-induced polymer alloy Increase of the molecular weight of the epoxy resin causes phase separation. 度関係の大小関係によって可能であると予測できる。つまり, 構造周期Λmの小さな相構造を得るには,相分離速度 〈 〈硬化速 エポキシ樹脂相 度の状態にして初期段階で網目を形成させればよい。相分離 速度 〈 〈硬化速度を実現するには,硬化温度をガラス転移温度 アクリルポリマ相 (Tg) 付近まで下げることが効果的となる。なぜなら硬化速度 に比べて相分離速度はWLF式に沿ってTg付近では非常に遅く なるためである11)。 3.2 アクリルポリマ/エポキシ樹脂系の基礎検討12,13) アクリルポリマ/エポキシ樹脂系の相分離のメカニズムに 硬化前(Bステージ) 硬化後(Cステージ) ついてFlory-Hugginsの式を用いて検討を行った。エポキシ樹 図6 アクリルポリマ/エポキシ樹脂系フィルム表面のSEM観察結果 脂系の分子量を変化させて,混合エンタルピー変化量 (ΔHmix) 硬化後のフィルムには表面に明確な逆海島相分離形状が観察される。 およびエントロピー変化量 (ΔSmix) を計算し,さらにこれら Fig. 6 から混合のギブスエネルギー (ΔGmix=ΔHmix-TΔSmix) を求 めた。なおSP値は凝集エネルギーの加算式により算出した値 を用いた。結果を図5に示す。この図から,エポキシ樹脂の Scanning electron micrographs of surface of acrylic polymer/epoxy alloy film The phase separation structure is observed at the surface of the cured film. が可塑剤として作用しているためと推測される。一方,Cステ 分子量が500から2,000に増大すると,ギブスエネルギーが負か ージの弾性率はアクリルポリマの軟化点である40℃付近で急 ら正に変化し,エポキシ樹脂相とアクリルポリマ相に分離が 激に低下するが,60∼250℃までの広い温度範囲で30∼100 MPa 始まり,分子量が10,000まで増大すると明確に相分離すると予 程度の値を維持している。また,エポキシ樹脂のTgである 測された。 170℃付近ではわずかな弾性率の低下しか見られない。一般的 実際に架橋性官能基を共重合したアクリルポリマとエポキ に相分離材料の弾性率には海相の寄与が大きいことから,硬 シ樹脂および硬化剤などからなるフィルムを作製し,硬化反 化後フィルムは,アクリルポリマが海相であり,その中にエ 応前後の相構造を調べた。図6に示すように,硬化前 (Bステ ポキシ樹脂および硬化剤からなる島相が多量に分散する相分 ージ) はエポキシ樹脂および硬化剤がアクリルポリマ中にほぼ 離構造を形成したと考えられる。なお,アクリルポリマが海 均一に溶解した状態であり,一方,硬化後 (Cステージ) は予測 相を形成する理由については,分子量が大きく絡み合いが多 の通り明確な相分離構造を形成した。 いアクリルポリマ中でエポキシ樹脂の相分離が起こる際,ア 次に,このフィルムについて硬化前後の弾性率の温度依存 クリルポリマが島相になるためにはその絡み合いや架橋網目 性を測定した結果を図7に示す。Bステージフィルムの弾性率 を切断しなくてはならず,島になりにくいためと考える。従 は100℃付近で1 MPa以下に低下している。これは,エポキシ 来はエポキシ樹脂が海でゴム相が島状に分散する相構造が多 樹脂および硬化剤がアクリルポリマと相溶し,エポキシ樹脂 く検討されていたが,この材料はまったく逆の構造であり, 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 9 総 説 ィラー未添加の場合の弾性率0.5 MPaに対して,フィラー粒 104 貯蔵弾性率(MPa) 103 Bステージ 径が0.8 µm以上の場合にはほとんど弾性率が向上しないのに Cステージ 対して,0.02 µm以下では弾性率の向上効果が大きいことが わかる。さらに,ナノサイズフィラーの添加量を0または4.5 vol%とし,また触媒種,添加量を変更することで架橋密度を 102 調整した各種フィルム硬化物の高温弾性率および引裂き強度 の関係を調べた。図9に示すように,フィラー添加系は,フ 101 ィラー未添加系と同様に弾性率の上昇とともに引き裂き強度 が低下する傾向を示すが,未添加系に比べて高水準で推移す 100 ることがわかる。このフィラー添加系の接着性向上効果を高 10−1 −50 0 50 100 150 200 温引き裂き試験後の凝集破壊面を観察することによって確認 250 した。図10から明らかなように,フィラー未添加系に比べて, 温度(℃) 図7 アクリルポリマ/エポキシ樹脂系フィルムのB,Cステージの貯 蔵弾性率の温度依存性 Bステージでは弾性率が1MPaまで低下し,ラミネ フィラー添加系は凝集破壊面の凹凸が複雑であり,凝集破壊 面に島相界面の露出がほとんど見られなかった。このことか ート性,充てん性が向上している。 ら,ナノサイズフィラー添加により海相/島相界面の補強機構 Fig. 7 が働き,その結果引裂き強度が向上しているものと推測して Temperature dependence of storage modulus for acrylic polymer/epoxy alloy film at B- and C-stages いる。開発した新規なフィラー含有フィルム (HS-230) とフィ The B-stage film has a decreased storage modulus of 1 MPa at 100℃, resulting in improved laminating and filling. 250 「逆海島構造」と言えよう。このような特異的な構造のフィル ムはエポキシ樹脂相が耐熱補強材の役割を果たしながらも,網 引き裂き強度 (N/m) るため, 「柔らかくて強い」材料になりうる。また,未硬化状 態ではエポキシ樹脂は可塑材やタッキファイヤとして働くた め,その量の変更により流動性,粘着性などを数十∼百倍に も及ぶ範囲で調整可能である。このことは,半導体パッケー ジのすばやい変化に応じてフィードバックをかけながら,必 150 100 50 要な特性を持つ材料をタイムリーに開発するのに適している。 〔4〕 アクリルポリマ/エポキシ樹脂系フィルムの 耐熱性向上14,15) 耐熱性をさらに向上させるため,上記フィルムにナノから ナノサイズ フィラー添加系 200 状に分散した柔軟なアクリルポリマ相が応力緩和性を発現す フィラー 未添加系 0 0.0 2.0 4.0 引張弾性率 (MPa) 図9 高温弾性率と高温引き裂き強度の関係 ナノサイズフィラーを含 マイクロメートルサイズの異なる粒径のシリカを添加した結 むフィルムは引き裂き高温ピール強度が高水準で推移 果を紹介する。 Fig. 9 シリカをダイボンディングフィルムの樹脂中に4.5 vol%添 加した場合の硬化後フィルムの高温弾性率を図8に示す。フ 6.0 Relationship between modulus and peel strength at 240℃ of die- bonding films Peel strength under high temperature is increased by mixing nano size filler. エポキシ樹脂 2.5 ナノフィラー 引張弾性率(MPa) フィラー4.5vol%添加 2 アクリルポリマ ナノコンポジット 技術の併用 エポキシ樹脂/アクリル ポリマの界面にフィラー介在 1.5 1 0.5 0.001 0.01 0.1 1 破断面が平滑 10 フィラー平均粒径(µm) 図10 図8 フィラー粒径とフィラー含有フィルムの高温弾性率の関係 ナ ナノコンポジット技術の併用 破断面が複雑化 微細フィラ混合によりエポキシ/ア クリルポリマの界面が複雑になり,凝集力が向上する。 ノサイズフィラー添加が高温弾性率の増大に効果的である。 Fig. 10 Fig. 8 Cohesion of die-bonding film becomes stronger as the surface between epoxy Relationship between filler size and modulus Nano size filler is effective for improving of modulus at 240℃. 10 Technology of mixing micro filler and low elastic modulus polymer is complicated by mixing of filler. 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 総 説 ラーを含有していない従来フィルムの一般特性を表1に示す。 10,000 開発品は従来品に比べて室温および240℃での引き裂き強度が 表1 開発ダイボンディングフィルムHS-230の一般特性 HS-230は 240℃での弾性率,引き裂き強度が著しく高い値を示す。 Table 1 General properties of novel die-bonding film HS-230 弾性率 (MPa) 著しく向上している。 1,000 100 HS-230 shows remarkably high tearing strength and modulus at 240℃. 評 価 条 件 単位 フィラー非含有フィルム HS-230 30℃ MPa 420 432 240℃ MPa 1.3 2.3 熱分解温度 TG/DTA ℃ 338 349 Tg TMA ℃ 164 165 量,フィラー量により弾性率は30倍以上変化する。 吸湿率 85℃/85%RH % 0.63 0.6 Fig. 11 室温 N/m 1710 2300 240℃ N/m 33 120 引張り弾性率 引き裂き強度 10 図11 0 50 100 150 温度 (℃) 200 250 アクリルポリマ,フィラー含量と弾性率の関係 300 アクリルポリマ Storage modulus of polymer alloy films with varying amounts of acrylic polymer and filler The storage modulus can change over 30 times depending on the amounts of epoxy resin and filler. 〔5〕 ダイボンディングフィルムとしての応用15,16) ステルスダイシング用フィルム 小チップ用高弾性フィルム 開発したHS-230について,組み立てプロセスにおける各種 作業性および信頼性を評価した。低温でのラミネート性およ びダイシング性が良好であり,表2に示すように耐リフロー 金ワイヤ充てん用 フィルム スペーサ用フィルム 性についてもPbフリーはんだ実装に対応した265℃での高温リ フ ロ ー 試 験 に お い て JEDEC ( Joint Electron Device チップ/チップ間 用フィルム チップ/基板用 フィルム Engineering Council)で規定されるレベル1 ( 吸湿条件:85℃ /85%RH,168時間) を満足している。 表2 HS-230を使用した半導体パッケージの信頼性評価結果 HS-230 を使用した半導体パッケージは265℃での耐リフロー性レベル1を達成した。 図12 Table 2 Fig. 12 Results of reliability evaluation of packages fabricated with HS-230 ダイボンディングフィルムの適用形態と製品群 Application of die-bonding film in semiconductor package HS-230 shows excellent reflow resistance in packages at 265℃. 項 目 単 位 耐温度サイクル性*1 ダイボンディングフィルム フィラー非含有フィルム HS-230 サイクル >1,000 >1,000 高温耐リフロー性*2 JEDEC規格 レベル2 レベル1 耐PCT性*3 h >168 >168 *1:FR-4基板実装後−55∼+125℃,*2:IRリフロー:265℃/10s×3, *3:121℃/100%RH剥離 うな特性が必要かわからないことがほとんどである。同一の 材料系で幅広く物性を変更できることは,実装技術の急速な 変化に追随し,タイムリーにフィルムを開発するための重要 な技術となっている。 〔6〕 ダイシング・ダイボンディング一体型テープ としての応用 チップの多段積層化が進むにつれて,ウエハ搬送性の確保 さらに,この系に,ナノサイズからミクロンサイズのシリ といった新たな課題を解決することが急務となっている。ダ カフィラを加えることで,弾性率や流動性を幅広くコントロ イボンディングフィルム付のチップをピックアップし,基板 ールできると考え,Bステージフィルムの流動性および硬化 にダイボンドするプロセスにおいて,ダイボンディングフィ 物の弾性率範囲を調査した。図11にアクリルポリマ含量 (30 ルムとダイシングテープの2度のラミネート工程は工数を増 ∼50%) とフィラー含量 (18∼42 vol%) を各々変更したフィル 加させるだけでなく,特に薄ウエハの場合,工程間のウエハ ム硬化物の弾性率を示す。硬化物の弾性率はフィラー,エポ 搬送時にウエハダメージ (割れ,欠け) を生じやすいといった キシ樹脂比率が高いほど,大きくなる傾向を示した。また, 欠点を有していた。 100℃では30倍程度の広範囲で弾性率制御が可能であること そこで,これらの課題解決のため,ダイボンディングフィ がわかった 。同様に流動性も100倍程度の範囲で制御可能で ルムとダイシングテープの組み合わせによるダイシング・ダ ある。このことは図12に示すような種々の半導体パッケージ イボンディング (以下,DC・DBと略す。 ) 一体型テープが重要 の形態や組み立てプロセスに応じた多様なフィルム(チッ になっている。このテープを使用することで,これまで,ウ プ/基板間,チップ/チップ間,金ワイヤ充填用など) のラ エハにダイボンディングフィルムとダイシングテープをそれ インナップを可能にしている。フィルムへの要求特性はそれ ぞれ貼付していたのが,1回の貼付で済むため,工程が簡略 ぞれ異なるうえ,実際にプロセスを通してみるまで,どのよ になり,一旦ラミネートした後はウエハリングにウエハおよ 17) 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 11 総 説 びテープを固定した状態となるため,ウエハの搬送性が向上 形態では,相分離過程で相構造が空間的な束縛を受けること する。結果として,ラミネート工程でのウエハの破損が少な が予想される。われわれは経産省NEDO精密高分子技術プロジ くなる。 ェクトにおいて山形大学井上隆教授の指導の下,被着体の極 当社は,UV反応型ダイシングテープと上述のダイボンディ 性が相構造形成に及ぼす影響を詳細に調査し,自発的傾斜構 ングフィルムを積層したDC・DB一体型テープ「ハイアタッ 造を発現することにより,これまでにない接着力,応力緩和性 チFHシリーズ」を古河電気工業 (株) 殿と共同で開発した (図 を発現する新規なダイボンディングフィルムを開発した20,21)。 13) 。このフィルムは,ダイシングテープとダイボンディン また,相構造サイズをナノレベルまで小さくすることにより, グフィルム間の密着性に優れ,ダイシング工程においてダイ 透明でじん性に優れるフィルムも開発しており,ダイボンド シング時にチップ飛びが発生しない。一方,UV光照射により だけでなくディスプレイ周辺材料としても評価が進んでいる22)。 両者間の剥離強度を大幅に低減することにより,ダイボンデ 半導体産業はドックイヤーとも言われる速さで進化してお ィングフィルム付チップを容易にピックアップ可能である18, り止むことはない。この変化に追随するために,フィードバ 。また,開発品は,被着体とダイボンディングフィルムの ック制御23)や線形計画法などの概念を材料にも応用して材料 19) 密着性を封止樹脂充填時の圧力と温度で確保するプロセスを の最適化を図る研究にも着手している24)。今後も常識にとら 採用している。本開発品は熱処理時のフィルム硬化反応を制 われず,材料の構造を制御し,機能を発現させる新規な材料 御することにより,ワイヤボンディングなどの工程中の熱履 設計の技術を磨いてゆく所存である。 歴がある場合でも,封止材充填時に十分な埋め込み性が確保 できるように設計している。このようにプロセス適合性,信 参考文献 頼性に優れたDC・DB一体型テープを開発した結果,広く使 1 )武田真司,増子崇,湯佐正己,宮寺康夫:日立化成テクニカルレ ポート,24,25(1995) 用されるに至っている。 2) 「システム・インテグレーション(電子実装)技術研究会」中間 報告書,平成10年3月 3 )春田亮:電子材料,12,96(2007) 4 )山本和徳:日本ゴム協会誌,79,35(2006) 5 )加藤利彦,諏訪修,藤井真二郎,山崎充夫,増子崇:日立化成テ クニカルレポート,43,25(2004) 図13 ダイシング・ダイボンデ ィング一体型テープの形態 Fig. 13 Appearance of dicing/die- bonding double functioning tape 6 )増子崇,武田信司:ネットワークポリマー,25,181(2004) 7 )K. Yamanaka and T. Inoue:Polymer, 30, 662 (1989) 8 )T. Inoue:Prog. Polym. Sci., 20, 119 (1995) 9 )P.J. Flory:J. Chem. Phys., 9, 660 (1941) 10)M. L. Huggins:J. Chem. Phys., 9, 440 (1941) 11)J. Maruta, T. Ougizawa and T. Inoue:Polymer, 29, 2056 (1988) 〔7〕 結 言 12)岩倉哲郎,稲田禎一,井上隆:機能材料,22,21-27(2002-11) 以上,本稿では,反応誘起型相分離材料をベースとして,ナ ノフィラーとのコンポジット化により,ダイボンディングフ ィルムを開発した経緯について述べた。このフィルムは応力 緩和性,耐熱性のほか,ダイボンド,ピックアップなどの作 業性に優れている。つまり, 「柔らかくて」 「強く」かつ「使 いやすい」材料が実現できたわけである。このフィルムは1998 年に上市された後,現在,高密度パッケージ,特にフラッシ ュメモリを多段に積層したスタックドCSP用途で幅広く使用さ れている。 13)稲田禎一,畠山恵一,松崎隆行:ネットワークポリマー,25,1319(2004-3) 14)稲田禎一,岩倉哲郎,畠山恵一,松崎隆行:ネットワークポリマ ー,26,18-24(2005-3) 15)稲田禎一,岩倉哲郎,畠山恵一,増野道夫,松崎隆行,日立化成 テクニカルレポート,37,33(2001) 16)富山健男,田中俊明,細川羊一,稲田禎一,土田悟,35,13-16 (2000-7) 17)稲田禎一,岩倉哲郎,富山健男,住谷圭二,松崎隆行,日立化成 テクニカルレポート,47,15-20(2006-7) また,われわれはこれらの基本,応用特許含めて国内外で 400件の出願,100件超の特許権利化を行い,包括的な特許網 18)松崎隆行,稲田禎一,畠山恵一:日立化成テクニカルレポート, 46,39-42(2006-1) 19)松崎隆行,宇留野道生:p.62 を構築している。 今後も,電子機器の高密度化,小型化に伴い,半導体パッ ケージの軽薄化が進むと予測される。ダイボンディングフィ ルムもそれに対応して極薄でかつ信頼性に優れた新材料への 要求が高まっているが,開発を進めるにあたりさまざまなテ クノロジーの障壁が登場してきている。例えば,パッケージ の小型,薄型化に対応してダイボンディングフィルムを薄膜 コンバーテック(2003-8) 20)宮内一浩,岩倉哲郎,井上隆:ネットワークポリマー,28,48 (2007) 21)郷豊,宮内一浩,井上隆:ネットワークポリマー,29,31(2008) 22)T. Iwakura, T. Inada, M. Kader and T. Inoue: E-Journal of Soft Materials, 2, 13-19 (2006-6) 23)Norbert Wiener,Cybernetics, or Control and Communication in the Animal and Machine (Hermann & Cie, Paris, 1948) 化すると,接着性や応力緩和性は低下する傾向があるが,そ 24)稲田禎一:熱硬化系接着フィルムのB,Cステージ特性の多要素材 の一方で,接着力や応力緩和性は従来以上のレベルを要求さ 料設計の基礎検討 第58回ネットワークポリマー講演討論会予稿 れている。 集(2008/10/10) ダイボンディングフィルムが狭い被着体間での拘束された 12 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) U.D.C. 621.38.032.04:678.747.8:773.92:536.49 200℃硬化に対応した次世代パッケージ向け感光性耐熱材料 200℃ Curable Heat-resistant Photodefinable Material for Next Generation Semiconductor Packages 峯岸知典* Tomonori Minegishi 野北里花* Rika Nogita 河村智子** Tomoko Kawamura 大江匡之*** Masayuki Ohe 岩下健一* Ken-ichi Iwashita 松家則孝*** Noritaka Matsuie ポリイミドやポリベンゾオキサゾールは,バッファーコート,バンプ保護膜,層間 絶縁膜など電子材料用途で広く用いられている。最近,新たな用途として半導体パッ ケージの再配線層への適用が検討されている。本来,ポリイミド,ポリベンゾオキサ ゾール系材料は硬化の際に,300℃を超える高温での熱処理を必要とする。しかし, デバイスの性能劣化を避ける目的や,耐熱性の低い材料が用いられる場合に,硬化温 度を下げることが求められている。当社および日立化成デュポンマイクロシステムズ はすでに225℃硬化対応材HD-8910を開発,販売している。さらなる低温硬化に対応 するため,ベース樹脂へのフレキシブルな構造の導入や低温でも効率良く反応が進行 する架橋剤を検討した。これらをもとに200℃硬化に対応したポジ型感光性耐熱材料 を開発することができた。 Polyimides and poly (benzoxazole) s are widely used for electronic applications, such as buffer coating, bump protecting, interlayer dielectrics, and so on. Recently, the redistribution layer in semiconductor packages has become an attractive application. Basically, these materials need a temperature higher than 300℃ to be cured completely. However, it is desirable to treat the materials at below 300℃ to avoid thermal damage of the semiconductor devices and thermally unstable materials in the packages. We have already developed HD-8910, which is designed to satisfy 225℃ curing process. To make the curing temperature lower, we introduced flexible units to a base polymer and tested crosslinkers efficiently working under the curing conditions. Thus, we have successfully developed a 200℃ curable positive-tone photodefinable material. 〔1〕 緒 言 ポリイミドに代表される耐熱性樹脂は,バッファーコート, 銅配線 バンプ保護膜,層間絶縁膜などの用途で広く半導体デバイス 半田バンプ 絶縁材料 に用いられている1)。これらの用途では,加工工程の簡略化の ために感光性化された材料の需要が増している。当初は有機 溶剤を用いて現像するネガ型の材料が主流であった2),3)。最近 LSIパッド では,コスト削減と環境負荷低減の目的から,アルカリ水溶 再配線層 液で現像可能な材料が注目されてきている4)。 このアルカリ現像対応材として,ポリイミドと同等の耐熱 パッシベーション チップ 性,機械特性を有するポリベンゾオキサゾール(PBO)材も 提案されており5)-7),バッファーコート材等の用途で広く実用 図1 再配線の構造略図 化されている。 ンゾオキサゾールが使用される。 半導体デバイスの小型化,高速化が進むに伴い,半導体パ ッケージの形態もさまざまなものへと移り変わっている。す Fig. 1 再配線層の絶縁膜として,ポリイミドやポリベ Outline structure of redistribution layer Polyimides and polybenzoxazoles are used as dielectrics for the redistribution layer. な わ ち Ball Grid Array( BGA) や Chip Size/Scale Package (CSP)などのエリアアレイ型パッケージが普及してきた8)。最 近では,LSIのパッドをモジュールボードに直接バンプ接続で これらポリイミドやPBO系の材料は,通常,対応する前駆 きるよう再配線する技術が用いられている。ポリイミドおよ 体の状態で供されている。これを300∼400℃で高温処理する びPBO材の新たな用途として,この再配線層の絶縁膜として ことで,環化反応が起こり対応するポリイミドまたはPBOと 適用することが検討されている。一例として概略図を図1に なる。なお本報では,この熱処理による前駆体の環化と,そ 示す。 れに伴う分子の配向が起こる一連の過程を硬化と呼ぶ。最近 * 当社 新材料応用開発研究所 高機能電子材料グループ 当社 電子材料事業部 半導体材料部門 ウエハープロセス開発部 *** 日立化成デュポンマイクロシステムズ株式会社 技術開発センター ** 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 13 では高温処理によるデバイスの性能劣化を避ける目的に加え, 耐熱性の低いパッケージ材料が用いられることから,硬化温 2.0 度の低温化が求められている。 1.0 当社およびHDマイクロシステムズは,従来のアルカリ現像 温化したHD-8910を開発,上市している9)。今回,われわれは 他社製品とのさらなる差別化を図るため,200℃硬化をターゲ 0 発熱量/mW ポジ型感光性耐熱材料の改良を行い,硬化温度を225℃まで低 HD-8910のベース樹脂 ットとしたアルカリ現像ポジ型感光性耐熱材料の開発を行っ −1.0 287℃ −2.0 新たに設計した ベース樹脂 −3.0 た。本報では,その開発経緯と特性について報告する。 214℃ −4.0 〔2〕 ベースポリマーの設計指針 −5.0 50 アルカリ現像ポジ型感光性耐熱材料HD-8910は従来300℃以 100 200 150 上の高温を要する硬化プロセスを,硬化促進剤の添加により 225℃まで低温化した。実際,硬化促進剤の触媒作用によりベ 250 300 350 400 温度/℃ 図3 ベース樹脂のDSC測定結果 環化反応に相当する吸熱ピーク温度か ース樹脂であるヒドロキシ基含有ポリアミドの環化温度は,約 ら,新たに設計した樹脂は,HD-8910のベース樹脂に比べ約70℃も低い温度 40℃ も 低 下 す る こ と が DSC( Differential Scanning で環化すると期待できる。 Calorimeter)の吸熱ピークの比較より明らかとなった9)。しか Fig. 3 し,硬化促進剤の添加だけではさらなる低温化に限界があり, Based on the shift of the endothermic peak corresponding to cyclization, the ベース樹脂自体を硬化しやすいものとする必要がある。当社 Results of DSC analyses for base resins newly designed resin is expected to cyclize at ca. 70℃ lower than the HD8910 resin. では,これまでにベース樹脂の構造と硬化の効率について詳 しく調べてきた。例えばPBOの前駆体であるポリ(ο-ヒドロ キシアミド)は,図2にXおよびYで示す樹脂骨格のジカルボ 環化前のベース樹脂 ン酸あるいはジアミン部に,柔軟な構造を導入することでPBO への環化が起きやすくなることがわかっている 環化後のベース樹脂 。柔軟な構 10) , 11) 造の方が樹脂のガラス転移温度(Tg)が相対的に低くなるた め,硬化過程での分子の自由度が上がり,環化に有利なコン 硬化 フォメーションを取りやすいためと考える。一方で感光性を 具備した材料とするには,樹脂の柔軟性以外にも露光光源で 架橋反応による 三次元構造の導入 架橋剤 あるi 線(365 nm)の波長領域において十分に透明であること や,汎用のアルカリ性現像液である2.38 wt.% TMAH(テトラ メチルアンモニウムヒドロキシド)に溶解することが必要であ 図4 期待する硬化時の反応 る。これらの観点に基づき柔軟性に富むベース樹脂を新たに 反応が進む。それにより硬化膜の耐熱性や耐薬品性が向上する。 設計した。まずDSCの吸熱ピークにより環化開始温度を調べ Fig. 4 た結果を図3に示す。HD-8910に従来用いてきたベース樹脂と Crosslinkers are expected to react with polymer chains accompanied with 比べ,環化反応に相当する吸熱反応のピーク温度は70℃以上 も低いことがわかった。次に,このベース樹脂をもとにポジ 樹脂の環化反応とともに,架橋剤との架橋 Expected reactions during cure process cyclization of the polymer. The crosslinking enhances the thermal stability and solvent resistance of the cured film. 型の感光性樹脂とするために,配合組成を検討した。ベース 樹脂を柔軟な骨格としたことでTgが下がり,硬化過程に有利に 中の安定性が悪くなる。さらには硬化の進行を妨げ,脆弱な 作用すると期待できる。一方で樹脂本来の耐熱性や耐薬品性 硬化膜にしかならない恐れがある。一方で反応性が低過ぎる の低下が危惧された。そこで架橋剤を用いて,硬化の度合い と硬化過程で十分な効果が得られない。このような観点で種々 と硬化膜特性のバランスを取ることにした。期待する反応の の架橋剤を検討し,適度な反応性を持つ材料を設計すること 様子を図4に模式的に示す。ここで用いる架橋剤は,反応性 ができた。上記ベース樹脂と架橋剤に加え,ジアゾナフトキ が高過ぎると配合したワニスや,プリベークなどのプロセス ノン系感光剤,硬化促進剤を主成分として用い,ポジ型の感 光性材料(以下,本開発材)とした。以下,本開発材の特性に ついて述べる。 X O NH O Y HO 〔3〕 本開発材の特性 Δ NH OH O X N Y O ポリ (o -ヒドロキシアミド) N O ポリベンゾオキサゾール 3.1 硬化率と硬化膜特性 種々の温度で硬化させた本開発材の硬化率について調べた。 硬化率は,硬化の進行に伴い消失するベース樹脂のカルボニ ポリ(o-ヒドロキシアミド)は熱 ル基の吸収をもとにIRにより算出し,320℃硬化時の硬化率 処理により環化反応が起こり,対応するポリベンゾオキサゾールとなる。Xあ を100%とした際の相対値として求めた。既報のHD-8910とと るいはYに柔軟な構造を導入することで,環化反応開始温度を低温化すること もに結果を図5に示す。本開発材はHD-8910に比べ,低温で 図2 ポリ(o-ヒドロキシアミド)の構造 ができる。 Fig. 2 より硬化が進行し,200℃以上でHD-8910の推奨温度(225℃) Structure of poly (o-hydroxyamido) Thermal treatment makes a poly ( o -hydroxyamido) cyclize to the における硬化率を凌いだ。ベース樹脂の環化開始温度の差が corresponding polybenzoxazole. The cyclization temperature falls when 反映したといえる。続いて各温度において硬化した膜の硬化 flexible structures are incorporated at point X or Y. 膜特性を調べた。結果を225℃で硬化したHD-8910および 14 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 表2 本開発材の200℃硬化膜の薬品耐性 本開発材は,有機溶剤,酸, アミン系レジスト剥離液に対して良好な耐性を持つ。 100 Table 2 Solvent resistance of developed material cured at 200℃ The developed material has preferable resistance to typical organic solvents, acid, and amine-type resist stripper. 80 薬 品 硬化率/% 膜厚変化 NMP 23℃×15 min なし なし PGMEA 23℃×15 min なし なし 10% H2SO4 23℃×180 min なし なし アミン系レジスト剥離液 80℃×15 min なし 10%程度膜厚増加 60 40 処理条件(温度×時間) クラック HD-8910 本開発材 20 表3 感光特性評価におけるプロセス条件 Table 3 0 100 150 200 250 300 項 目 プロセス条件 塗 布 1,000 rpm/3 s+2,000 rpm/30 s プリベーク 120℃×3 min 露 光 i 線ステッパ 現 像 2.38 wt.% TMAH 40 s+40 s(2段階パドル) 350 硬化温度/℃ 図5 HD-8910と本開発材の硬化率の比較 本開発材は,HD-8910より も硬化の効率が高く,さらなる低温硬化プロセスに対応できる。 Fig. 5 Process conditions for evaluations of photolithographic properties. Comparison of cure degree between developed material and HD-8910 The developed material shows a higher cure efficiency than HD-8910, and lower temperature curing processes can be applied. 3.2 感光特性 表3に本開発材の感光特性評価のプロセス条件を,硬化後 膜厚7 µmに対応したものを一例として示す。本開発材はi線 350℃ で硬化したPIX-3400(非感光性ポリイミド)と比較し による露光および2.38 wt.% TMAHによる現像に対応し,ポジ て表1に示す。本開発材は200℃硬化において,より高温で 型のパターン形成が可能である。塗布時の回転数を変えて得 硬化したHD-8910およびPIX-3400と遜色ない機械特性を示し られた膜厚と,各々のi線感度 (最小開口露光量で定義)の関 た。Tgや分解開始温度はこれらと比べ,若干低い値となった。 係を図6に示す。ここで膜厚は硬化後の膜厚とした。硬化後 しかし,低温プロセスを必要とする用途で用いることを想定 膜厚7 µmにおけるi線感度は250 mJ/cm2と高感度で,さらに硬 すれば,実用上問題ないと考える。さらに本開発材の200℃ 化後膜厚10 µmを超える厚膜加工も可能とわかった。また図 硬化膜の耐薬品性について調べた。結果の一例を表2に示す。 7に示すように,マスク寸法に対し実際に開口したパターン 有機溶剤,酸,アミンベースのレジスト剥離液のいずれに対 寸法をプロットした時の直線性も良好であった。加えてマス してもクラックの発生や,膜厚に大きな変化は見られなかっ ク寸法3 µmから開口しており解像度も高いことがわかる。硬 た。これら高い機械特性や耐溶剤性は,硬化に適したベース 化後膜厚7 µmにおけるマスク寸法10 µmおよび100 µmに相当 樹脂の設計に加え,架橋剤による架橋構造の導入によりもた するパターンの硬化後の断面SEM写真を図8に示す。本開発 らされたと推察している。 材は再配線層用途に好適な順テーパーで,かつパターンの角 以上の結果から,本開発材は再配線層を想定した半導体パ ッケージ用途において200℃硬化に十分適用可能な硬化膜特 性を持つと考える。 500 表1 本開発材の硬化膜特性 本開発材は,200℃硬化において既存の製 品HD-8910,PIX-3400(非感光性ポリイミド)と比べ,遜色ない機械特性を有 400 Table 1 Cured film properties of developed material The film of the developed material cured at 200℃ showed sufficient properties for practical use, compared with HD-8910 and non-photodefinable polyimide PIX-3400. 項 目 単位 硬化温度 ℃ 180 本開発材 200 250 225 350 破断強さ MPa 116 182 150 110 112 弾性率 GPa 2.2 1.9 1.8 2.4 2.6 感度/mJ・cm−2 する。そのほかの特性においても実用レベルの特性を持つ。 300 200 HD-8910 PIX-3400 100 0 0 2 4 6 8 10 12 硬化後膜厚/μm 破断伸び % 36 74 64 127 100 * ガラス転移温度 (Tg) ℃ 239 238 241 260 298 5%重量減少温度 ℃ 290 319 358 435 515 上の厚膜形成も可能である。 比誘電率 − − 3.1 − 3.0 3.4 Fig. 6 吸水率 % 1.9 1.3 − 1 1.6 The developed material shows excellent photosensitivity and suggests * TMAによる。 図6 硬化後膜厚と感度の対応 本開発材は良好な感度を有し,10 µm以 Relationship between thickness of cured film and photosensitivity fabricateing film over 10 µm is possible. 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 15 がなだらかな形状を持つとわかった。このように本開発材は, 感光特性においても実用レベルにあると言える。 〔4〕 結 言 225℃での硬化に対応したアルカリ現像ポジ型感光性耐熱材 料HD-8910に対し,硬化温度のさらなる低温化を目的に,ベー ス樹脂の設計を行った。ベース樹脂に柔軟な構造を導入し,か 40 つ硬化条件下で効率良く反応が進行する架橋剤を併用するこ とで200℃硬化に対応したアルカリ現像ポジ型感光性耐熱材料 を開発することができた。200℃で硬化した本開発材は,既存 の材料と比べても遜色ない,実用レベルの硬化膜特性を有し, 30 高い薬品耐性を持つ。さらに良好な感度やパターン形状が得 開口寸法/ μm られており,再配線層を想定した次世代半導体パッケージ用 途への展開が期待できる。 20 参考文献 1 )A. Saiki, S. Harada, T. Okubo, K. Mukai, and T. Kimura, J. Electrochem. Soc., 124, 1619 (1977). 10 2 )R. Rubner, H. Ahne, E. Kuhn, and G. Kolodziej, Photogr. Sci. Eng., 23, 303 (1979). 3 )N. Yoda and H. Hiramoto, J. Macromol. Sci., Chem., A21, 1641 (1984). 0 0 10 20 30 40 マスク寸法/ μm 4 )三輪 崇夫,最新ポリイミド−基礎と応用,今井淑夫,横田力男 編,エヌ・ティー・エス,327(2002) . 5 )R. Rubner, Adv. Mater., 2, 452 (1990). 本開発材は3 µm角以上のスク 6 )R. Sezi, H. Ahne, R Gestigkeit, E. Kuhn, R. Leuschner, E. Rissel, and エアホール状パターンを解像した。またマスク寸法に対する開口寸法の直線 E. Schmidt, Proceedings of the 10th International Conference on 図7 本開発材のマスク寸法と開口寸法 性も良好である。 Fig. 7 Photopolymers, Ellenville, 444 (1995). 7 )H. Makabe, T. Banba, and T. Hirano, J. Photopolym. Sci. Technol., 10, Mask size vs. resolved pattern size of developed material The material resolved the hole patterns bigger than 3 µm square. A fine linear relationship between mask size and resolved pattern size was also observed. 307 (1997). 8 )村上 元,図解 最先端 半導体パッケージ技術のすべて,半導 体新技術研究会編,工業調査会,14(2007) . 9 )大江,ほか:日立化成テクニカルレポート,48,27-30(2007) . 10)K. Iwashita, T. Hattori, T. Minegishi, S. Ando, F. Toyokawa, and M. Ueda, J. Photopolym. Sci. Technol., 19, 281 (2006). 11)K. Iwashita, T. Hattori, and T. Minegishi, ibid., 20, 143 (2007). S4800 10.0kV×2.50k SE(M) マスク寸法10μm 20.0μm S4800 10.0kV×6.00k SE(M) 20.0μm マスク寸法100 μm パターン角部 図8 本開発材の硬化後パターンの断面形状 本開発材は順テーパーか つパターンの角がなだらかな形状となっている。 Fig. 8 Cross-sectional images of developed material after cure The developed material showed taper-shaped patterns with smooth edges. 16 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) U.D.C. 621.38.049.75:621.794.4:546.56:531.424:531.75 ウェットエッチングによるマイクロファブリケーションと FAMによる高密度プリント配線板 Micro Fabrication by Wet Etching and High Density PWB Made by FAM 高井健次* Kenji Takai 田村匡史** Tadashi Tamura 鈴木邦司** Kuniji Suzuki 近年のプリント配線板(Printed Wiring Board)は情報化社会の発展とともに高密度 化が進んでいる。高密度プリント配線板の製造方法はセミアディティブ法が主流とな っており,銅のエッチングが必須となっている。しかしながら,配線板分野のエッチ ングは経験則によって行われており,学術的な理解が追いついていないのが実情であ る。本報では各種エッチング液の特性と速度支配因子についての検討結果について紹 介する。エッチング液の中でも硫酸/過酸化水素系エッチング液は化学反応率速に近 く,均一エッチング性が良好であることがわかった。また,硫酸/過酸化水素系エッ チング液の特性は塩素イオンが大きく影響することがわかった。また,エッチング技 術を駆使した当社独自技術であるFAM(Foil Additive Method)による高密度配線板 の特徴についても併せて報告する。FAMによる高密度配線板は従来のセミアディティ ブ法と異なり,コアレス化や全層微細配線,絶縁層の低アルファ化(≦15 ppm/℃)と いった需要に対応可能であるため,生産量が急増している。 With the evolution of the information society, the printed wiring board (PWB) is becoming thinner and smaller. The fabrication of a high density PWB is mainly a semiadditive process, and the key of this process is wet etching technology. However, academic knowledge struggles to keep up with business. In this report, we studied the characteristics of some etchants and the ratedetermining step. Sulfuric acid/hydrogen peroxide was found to be a suitable etchant for wet etching. In this process, the rate-determining step is the chemical reaction between copper and hydrogen peroxide. Furthermore, the etching behavior is influenced by chloride ions. We have developed a high density PWB made by the foil additive method (FAM), conducting micro fabrication through wet etching. The production volume of the PWB is continuing to grow because the process is suitable for the core-less PWB, all fine-line PWB, and PWB whose insulation layer has a low CTE. 〔1〕 緒 言 40 近年,プリント配線板(特に半導体搭載基板)では最小ライ 35 30 ライン幅(μm) ン/スペース(以下L/S)=20/20 µm以下の微細配線形成性が スペース幅( μm) 要求される。図1に一般的な半導体搭載基板のL/Sの推移を示 す。 μm 25 20 15 10 5 0 2000 2003 2005 2010 S-4700 20.0kV 18.2mm×400 SE(M) 年度 100 μm S-4700 20.0kV 10.6mm×150 SE(M) L/S=15/15μmの銅配線 図1 半導体搭載基板の最小L/Sの推移 図2 パッケージ基板の一例(SEM像) Fig. 1 Fig. 2 * ** Minimum line/space of packaging substrate 300 μm パッケージ基盤の銅配線部 SEM image of packaging substrate 当社 新材料応用開発研究所 当社 電子部品事業部 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 17 図1のデータは各ロードマップと各社の実情を参考にした。 2.2 狭ピッチ配線を有する半導体搭載基板の一例を示す。 〔2〕 プリント配線板の製造方法とエッチング液 2.1 各種配線形成方法 セミアディティブ法とサブトラクティブ法のエッチング 液の違い 2010年以降も狭ピッチ化の傾向は続くと考えられる。図2に セミアディティブ法,サブトラクティブ法のいずれにおい てもエッチングを行うが,必要なエッチング液は大きく異な る。セミアディティブ法では全体を均一にエッチングするこ とで,給電層を除去する必要がある。一方,サブトラクティ 図3にプリント配線板で用いられる各種回路形成方法を示 ブ法ではエッチングに方向性を持たせ,配線のトップ幅を維 持したまま配線の深さ方向にエッチングを行なう必要があ す。 フルアディティブ法は文字通りAdditive(足し算=めっき)に る。セミアディティブ法では化学反応律速であるエッチング よって回路形成を行う手法であり,微細配線形成に有利であ 液(エッチング速度が化学反応に依存するエッチング液)を用 ると考えられてきた。一方,サブトラクティブ法はSubtractive い,サブトラクティブ法では液側物質移動律速であるエッチ (引き算=エッチング)によって回路形成を行う手法であり, ング液(エッチング速度が液攪拌に依存するエッチング液)を マザーボードなどの一般的な配線板の回路形成の主流である。 セミアディティブ法は,両者の中間であり,めっきとエッチ ングを組み合わせて回路形成を行う。 用いるのが理想であると考えられる。 〔3〕 各種エッチング液の速度支配因子 3.1 物質移動係数 一般に固液界面の単位断面積,単位時間当たりの物質移動 量を1式のように定義することができる。 フルアディティブ法 サブアディティブ法 セプトラクティブ法 銅(電解銅) 絶縁層 レジスト レジスト 絶縁層 JA=KL(CA,S−CA,b) ………………………………………… (1式) 絶縁層 銅(給電層) JA:単位断面積,単位時間当たりの物質移動量 無電解銅めっき 電解銅めっき エッチング KL:ターゲット物質の物質移動係数 CA,S:固体表面のターゲット物質濃度 CA,b:バルク中のターゲット物質濃度 レジスト剥離+エッチング レジスト剥離 すなわち,エッチング速度はターゲット物質の物質移動係 数および固体表面のターゲット物質濃度とバルク中のターゲ ット物質濃度の差で表すことができる。 次に反応が液側物質移動律速である既知の系(安息香酸と 水の反応)を用いて,図4に示す攪拌槽の物質移動係数を確 図3 各種回路形成方法 Fig. 3 認した。結果を2式に示す。安息香酸の水溶媒中での溶解速 Various PWB fabrication processes 度は液攪拌の0.7次に依存する。 表1に各種配線形成方法の比較を示す。フルアディティブ KL=0.0629D0.7ν−0.4n0.7 …………………………………… (2式) 法は強アルカリ,高温,長時間の無電解銅めっきを行う必要 がある為,絶縁層やレジストが限定される。さらに,レジス ト直下のめっき触媒の存在が狭ピッチのライン間の絶縁性を 低下させる。以上の理由により,近年はフルアディティブ法 に変わってセミアディティブ法が微細配線形成の主流となっ Motor Condenser ている。従って,近年の微細配線形成はエッチングが重要な Thermocouple 要素となっている。 表1 各種回路形成方法の比較 Table 1 Comparison of various PWB fabrication processes フルアディ ティブ法 セミアディ ティブ法 サブトラク ティブ法 絶縁層自由度 × △ ○ レジスト自由度 × ○ ○ エッチング量 不要 狭ピッチ絶縁性 × ○ ○ 微細配線形成性 △ ○ × 総 括 材料が限定さ れ,発展性が 乏しい 微細配線形成 の主流 狭ピッチ以外 の配線形成の 主流 18 Baffle Specimen Stirrer 0.5∼5 µm程度 10∼35 µm程度 Heater Agitated vessel 図4 本実験で使用した攪拌槽 Fig. 4 Agitated vessel used for this study 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) Water bath KL:ターゲット物質の物質移動係数 香酸と水の反応と同じなので,塩化第二銅や塩化第二鉄と銅 D:ターゲット物質の拡散係数 の反応は液側物質移動律速であるといえる。この結果は既報1) ν:液体の動粘度 の結果と同じである。図6に硫酸/過酸化水素,ペルオキソ n:攪拌数 二硫酸アンモニウム,ペルオキソ二硫酸ナトリウムを用いた 際の銅のエッチング速度の攪拌数依存性を示す。硫酸/過酸 3.2 各種エッチング液の攪拌依存性 化水素,ペルオキソ二硫酸アンモニウム,ペルオキソ二硫酸 図4に示した攪拌槽を用いて各種エッチング液の特性を把 握する為の実験を行った。攪拌羽根は2枚羽根でその直径は −2 7.5×10 mである。まず反応容器内に濃度を調整したエッチ ング液を7.5×10−5m3投入し,所定温度に保持する。その後, 3.16×10 −2m角の基板上に圧延銅箔を貼り付けた試料をエッ ナトリウムと銅の反応の攪拌数依存性は小さい。特に低温, 高攪拌領域(≧5.0 s−1)では完全に攪拌依存性がなくなる(0次 の依存性) 。 次にアレニウスプロットから求めた各エッチング液と銅の 反応のみかけの活性化エネルギーの値を表3に示す。 チング溶液中に浸漬し,所定の攪拌数でエッチングを行っ た。 本検討で用いたエッチング液を表2に示す。エッチング液 の酸化剤濃度は1×103 mol・m−3に統一して実験を行った。 硫酸/過酸化水素 図5に塩化第二銅,塩化第二鉄を用いた際の銅のエッチン 10 エッチング速度 (mg/s) グ速度の攪拌数依存性を示す。 エッチング液に塩化第二銅,塩化第二鉄を用いた場合,銅 のエッチング速度は液攪拌の0.7次に依存する。この値は安息 30℃ 1 40℃ 50℃ 0.1 1 10 表2 本検討で用いたエッチング液(酸化剤濃度を統一) 攪拌数(s−1) Etchants used for this study (unified oxidizer concentration) 硫酸/過酸化水素溶液 H2O2:1×103 mol・m−3 H2SO4:0.72×103 mol・m−3 塩化第二銅溶液 CuCl2:1×103 mol・m−3 HCl:2.89×103 mol・m−3 塩化第二鉄溶液 FeCl3:1×103 mol・m−3 ペルオキソ二硫酸アンモニウム溶液 (NH4)2S2O8:1×103 mol・m−3 ペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液 Na2S2O8:1×103 mol・m−3 温度 30,40,50℃ 攪拌数 1.67,3.33,5.00,6.67s−1 ペルオキソニ硫酸アンモニウム エッチング速度 (mg/s) エッチング速度 (mg/s) 40℃ 0.7 50℃ 攪拌数(s 50℃ 30℃ 1 40℃ 50℃ 0.1 1 100 −1 100 ペルオキソニ硫酸ナトリウム 30℃ 10 10 10 1 1 40℃ 0.1 攪拌数(s−1) 10 1 30℃ 1 1 塩化第二銅 0.1 10 エッチング速度 (mg/s) Table 2 100 10 100 攪拌数(s−1) ) 図6 エッチング速度の攪拌数依存性(2) Fig. 6 Relationship between frequency of agitating and etching-speed (2) 塩化第二鉄 エッチング速度 (mg/s) 10 表3 各エッチング液と銅の反応の見かけの活性化エネルギー 30℃ 1 40℃ 0.7 1 0.1 1 50℃ 10 100 −1 攪拌数(s ) 図5 エッチング速度の攪拌数依存性(1) Fig. 5 Relationship between agitating number and etching-speed (1) Table 3 Activation energy of reaction of various etchants and copper 活性化Eg エッチング液 銅種 攪拌依存性 塩化第二鉄 圧延 0.7次 塩化第二銅 圧延 0.7次 15.9 硫酸/過酸化水素 圧延 ≦0.1次 23.6 (kJ/mol) 16.3 ペルオキソ二硫酸アンモニウム 圧延 ≦0.1次 29.4 ペルオキソ二硫酸ナトリウム 圧延 ≦0.1次 25.8 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 19 一般に活性化エネルギーが大きい場合は化学反応律速,小 Cu(s) +H2O2→CuO(s) +H2O……………………………… (3式) さい場合は液側物質移動律速であるといわれる。硫酸/過酸 CuO(s) +H2SO4→Cu SO4(1) +H2O ……………………… (4式) 化水素,ペルオキソ二硫酸アンモニウム,ペルオキソ二硫酸 ナトリウムと銅の反応は完全な化学反応律速とするにはやや 一般に配線板処理に使用される濃度領域では,硫酸/過酸 活性化エネルギーが小さいと考えられる。エッチング速度の 化水素と銅の反応は3式が律速になっていることがわかる。 攪拌依存性と活性化エネルギーの結果から,銅のエッチング 4.2 液と律速段階の関係を表4のようにまとめることができる。 銅の種類の影響 図8に銅の種類によるエッチング速度の違いを示す。 表4 銅のエッチング液と律速段階の関係 Table 4 Relationship between copper etchants and rate- determining step 液側物質移動律速 (サブトラクティブ法に有利) 硫酸/過酸化水素 ペルオキソ二硫酸アンモニウム ペルオキソ二硫酸ナトリウム 塩化第二鉄 塩化第二銅 塩化第二鉄 2.5 混合律速∼化学反応律速 (セミアディティブ法に有利) 硫酸/過酸化水素 2 ペルオキソニ硫酸アンモニウム 1.5 1 すなわち,塩化第二銅や塩化第二鉄はサブトラクティブ法 に有利であり,硫酸/過酸化水素,ペルオキソ二硫酸アンモ ニウム,ペルオキソ二硫酸ナトリウムはセミアディティブ法 0.5 に有利であるといえる。 0 〔4〕 硫酸/過酸化水素系エッチング液 4.1 無電解 硫酸と過酸化水素の濃度依存性 3.2で述べたように,硫酸/過酸化水素系エッチング液は活 電解1 電解2 圧延 図8 銅の種類によるエッチング速度の違い(圧延銅のエッチング速度 を1としたときのエッチング速度比。電解銅1:高電流密度で作製,電解銅2: 性化エネルギーが高く,均一エッチング性が良好であるため, 低電流密度で作製,50℃,6.67s−1) セミアディティブ法での微細配線形成に有望である。図7に Fig. 8 Dependence of etching rate on variety of copper 硫酸/過酸化水素系エッチング液における過酸化水素濃度が エッチング速度に与える影響を示す。濃度は一般にプリント 高温,高攪拌領域では硫酸/過酸化水素と銅の反応はほぼ 配線板で使用される範囲とした。 化学反応律速であるので,液側物質移動律速である塩化第二 鉄と銅の反応に比べて銅の種類によるエッチング速度の違い が大きい。同じく化学反応律速であるペルオキソ二硫酸アン モニウムと銅の反応に比べても硫酸/過酸化水素と銅の反応 は銅種によるエッチング速度差が大きい。硫酸/過酸化水素 エッチング速度 (mg/s) 2 と銅の反応は過酸化水素による銅の酸化反応が律速となるの で,銅種によるエッチング速度の違いが大きいと考えられる。 一般的に金属のエッチング速度を決める要因は,①結晶の配 1 向性2)②結晶の大きさ3)③格子欠陥4)の3要素であると言われ る。硫酸/過酸化水素と銅の反応は③格子欠陥の要因が大き 0 0 1 2 3 過酸化水素濃度(103mol・m−3) い5)。 4.3 塩素の影響 硫酸/過酸化水素系エッチング液は塩素の添加を嫌う。し かしながら,実操業においては塩素の影響なしで配線板を作 図7 硫酸/過酸化水素系エッチング液の過酸化水素濃度とエッチン グ速度の関係(硫酸濃度を一定(0.72×103 mol・m−3)にしたときのエッチ 製することは不可能である。図9に硫酸/過酸化水素系エッ チング液における銅のエッチング速度と塩素イオン濃度の関 ング速度の過酸化水素濃度依存性,圧延銅,50℃,6.67s−1) 係を,図10に各塩素イオン濃度におけるエッチング速度の攪 Fig. 7 拌依存性を示す。紙面の都合上,詳細な説明は割愛するが,塩 Relationship between concentration of hydrogen peroxide in sulfuric acid/hydrogen peroxide etchant and etching rate 素イオンの上昇とともにエッチング速度は低下し,エッチン グ速度が液攪拌に依存しなくなる。実操業においては塩素濃 度を管理することで安定した回路形勢が可能になる。 一般に配線板処理に使用される濃度領域では,硫酸/過酸 化水素系エッチング液による銅のエッチング速度は過酸化水 素濃度のみに依存することがわかった(硫酸濃度には依存しな い) 。硫酸/過酸化水素と銅の反応は以下のように表すことが できる。 〔5〕 FAM(Foil Additive Method)による高密度配 線板 5.1 FAM(Foil Additive Method)の特徴 当社においては,極薄銅箔を給電層にした独自のセミアデ ィティブ法(Foil Additive Method)によりGEA-E-679Fや 20 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 表6 接続信頼性試験用の評価基板のViaデザインルール(mm) Table 6 エッチング速度(mg/s) 0.03 Design rule of via of test PWB for interconnection reliability 攪拌数 −1 1.67(s 0.02 −1 6.67(s ) 0.01 0.1 1 10 Normal Stack (1) Stack (2) Cyan 0.1 0.18 0.08 Red 0.08 0.16 0.08 Black 0.1 0.2 0.1 Green 0.1 0.2 0.1 ) 0.01 0 0.001 Color 100 塩素濃度(mol・m−3) Black:Layer1・ Cyan:Layer2 ・Green:Layer3 ・ Red:Layer4 A 図9 硫酸/過酸化水素中の銅のエッチング速度と塩素イオン濃度の 関係(銅:圧延,30℃,6.67s−1) Fig. 9 A’ Relationship between concentration of chloride ion in sulfuric エッチング速度(mg/s) acid/hydrogen peroxide etchant and etching rate 0.5 塩素イオン濃度 0.4 10 mol・m 0.2 1 mol・m−3 0.1 0.1 mol・m−3 Solder Resist −3 Glass Epoxy Substrate 0.01 mol・m−3 0 0 5 10 Stack via Prepreg 0.001 mol・m−3 図11 攪拌数(s−1) 図10 Normal via 100 mol・m−3 0.3 接続信頼性試験用の評価基板の断面図 Fig. 11 Cross section of test PWB for interconnection reliability 各塩素イオン濃度におけるエッチング速度の攪拌依存性 (銅:圧延,30℃,6.67s−1) Fig. 10 Relationship between frequency of agitating and etching speed at 5.0 GEA-E-679FGといった当社開発の超低熱膨張絶縁材料の上に 従来のセミアディティブ法並の微細配線を形成している。極 薄銅箔を給電層にした場合,配線が過剰にエッチングされる 恐れがある。しかし,当社は給電層と導体層とのエッチング 速度差を利用することによって,この現象の発生を抑制して いる。FAMの特徴を表5に示す。 Resistance Change Rate(%) various concentrations of chloride ion Copper Plating: (8-10 μm) 2.5 RT 0.0 500 1,000 2,000 4,000 5,000 6,000 −2.5 −5.0 cycle (−55℃;30分⇔150℃;30分を1サイクルとする) 表5 FAMと従来のセミアディティブの比較 Table 5 3,000 Comparison of FAM with conventional semi-additive 図12 FAM 従来のセミアディティブ 絶縁層熱膨張係数 CTE(X,Y) 約13 ppm/℃ 約46 ppm/℃ 困難 絶縁層低誘電化 対応可能 全層アディティブ 対応可能 困難 コアレス化 対応可能 困難 まとめ 高付加価値化が可能 加工が容易 すべてのViaの接続信頼性試験結果 (−55℃;30分⇔150℃;30分を1サイクルとする) Fig. 12 Interconnection reliability of all via (−55℃/30 min−150℃/30 min) により作製した高密度配線板は絶縁層が低熱膨張率であるた め,接続信頼性良好である。 5.3 5.2 絶縁信頼性 図13に絶縁信頼性用にFAMで作製した基板の構造を,図14 接続信頼性 図11に接続信頼性試験用にFAMで作製した特殊IVH構造の 基板断面図を,表6にViaのデザインルールを示す。絶縁材料 に絶縁信頼性評価結果を示す。絶縁層にはGEA-E-679FGを用 いた。絶縁信頼性評価は内層と外層で行った。 には無機材料を高充填化したGEA-E-679FGを用いている。 次にすべてのViaの接続信頼性試験結果を図12に示す。FAM 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 21 L/S:20/20 L/S:25/25 L/S:30/30 〔6〕 結 言 プリント配線板で用いられる各種エッチング液の速度支配 因子について検討した結果と,得られたエッチング技術を駆 Cross Section of pattern Test Pattern Test pattern Prepreg 使した当社独自のFAM(Foil Additive Method)による高密度プリ ント配線板の特徴について概説した。各種エッチング液の中 で硫酸/過酸化水素系エッチング液は化学反応律速に近く,均 一エッチング性が良好であった。FAMによる高密度配線板は 従来のセミアディティブ法とことなり,コアレス化や全層微 細配線,絶縁層の低熱膨張率化といった需要に対応可能な特 性を示した。 MCL Cross Section of PWB 図13 謝辞 絶縁信頼性評価基板の構造 Fig. 13 エッチングに関する本研究は,元東北大学金属工学科の松 Structure of test PWB for insulation reliability 本克才助手(現八戸工業専門学校物質工学科准教授)に実験設 備などの便宜を図って頂いて実験を行ったものである。快く 指導をしていただいた松本克才准教授に感謝したい。 Test Condition(150Deg, 2,000Hr) 1.00E+15 参考文献 Copper plating: (18-20 μm) Insulation Resistance 1.00E+13 1)船橋真吾, “塩化第二銅及び塩化第二鉄溶液による回路用銅箔の ウェットエッチング特性” ,MES2000.,2000,p.243 1.00E+11 2)T. H.Orem: J. Research of the National Bureau of Standards, 58, 1.00E+09 1958, p.157. 3)H. Kaesche: "Die Korrosion der Metalle", Springer Verlag, 1979, 1.00E+07 p.279 1.00E+05 :L/S=30/30 μm :L/S=25/25 μm :L/S=20/20 μm : (40 μm) 1.00E+03 1.00E+01 0 500hr 1,000hr 1,500hr 2,000hr (Hr) Insulation Resistance Interactions", Academic Press, 1967, p.147 5)松本克才,高井健次ほか, “ウェットエッチングのメカニズムと 処理パラメーターの最適化” ,サイエンス&テクノロジー,2008, p.32 Test Condition(65Deg./95%, 2,000Hr) 1.00E+15 1.00E+13 4)L. Brockway and A. Rowe: "Fundamentals of Gas-Surface Copper plating: (18-20 μm) 1.00E+11 1.00E+09 1.00E+07 1.00E+05 :L/S=30/30 μm :L/S=25/25 μm :L/S=20/20 μm : (40 μm) 1.00E+03 1.00E+01 0 図14 Fig. 14 22 500hr 1,000hr (Hr) 1,500hr 2,000hr 接続信頼性試験結果 Insulation reliability test 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) U.D.C. 621.3.038.8:537.226.4:546.46'43'13:548.55 全固体化レーザー用強誘電性BaMgF4単結晶 Ferroelectric BaMgF4 Single Crystal for All-solid-state Lasers 青嶌真裕* 住谷圭二* Keiji Sumiya Masahiro Aoshima 島村清史*** ナチムス セングットバン** Senguttuvan Nachimuthu Kiyoshi Shimamura ガルシア ビジョラ*** Encarnación G. Víllora UV/VUV領域におけるレーザー光源は,現在まで半導体や医療などさまざまな分野 で利用されており,安全性,低価格,小型化の観点から全固体化レーザーの開発が期 待されている。当社では独立行政法人物質・材料研究機構と共同で,全固体化レーザ ーの波長変換素子に適用可能な強誘電性フッ化物単結晶としてBaMgF4単結晶を検討 した。原料やスカベンジャーの選択,育成環境や方位制御育成などの最適化を図るこ とによって,VUV領域で高い透過性を持ち,かつ強誘電性を有するBaMgF4単結晶を 得ることができた。このBaMgF4単結晶からQPMデバイスを作製し,Nd:YAGレーザー に対して532 nmのSHG光を得ることに,フッ化物結晶として世界で初めて成功した。 今後,本技術がUV/VUV領域における全固体化レーザーの発展に寄与するものと期待 する。 All-solid-state lasers in the ultraviolet wavelength region have been attracting attention in various fields, such as semiconductor lithography, and for diverse medical applications. We have developed BaMgF4 single crystals for the frequency conversion device used in all-solid-state lasers, in collaboration with the National Institute for Materials Science. We have investigated growth conditions, such as growth rate, cooling rate, and seed crystal orientation, to obtain crystals with fewer cracks, better transmittance in the VUV region, and excellent ferroelectric characteristics. Second harmonic generation of 532 nm light with a fundamental light from a Nd:YAG laser, using a fluoride ferroelectric crystal was demonstrated for the first time in the world. Phase Matching) デバイス作製が実現できれば,SHGによる全 〔1〕 緒 言 固体化UV/VUVレーザー開発に大きく貢献できるものと考え 紫外・真空紫外(UV/VUV)領域のレーザーは,現在までに た1)。 半導体分野や医用分野などのさまざまな分野で利用されるよ 当社は,2006年から物材機構と共同で,相互保有する技術 うになり,今後さらなる応用が期待されている。この波長領 を基にBaMgF4単結晶を用いて短波長光源を作る研究開発を次 域の高出力レーザーとしてはKrF(248 nm)やArF(193 nm)な のように進めてきた。すなわち,まずBaMgF4単結晶を適用し どのエキシマガスレーザーが用いられているが,価格,寿命, たQPMデバイスによるSHGを実現し,その後VUV領域への短 有害性,ビーム品質などの点で課題が指摘されている 1)。一 波長化を進めた。本報告では,SHGの実現に向けた開発内容 方,UV/VUV領域における全固体化レーザーは,固体レーザ について述べる。 ーと非線形光学結晶からなる波長変換素子を組み合わせた構 成である。これが実用化すれば高繰り返し発振,波長の狭帯 域化が可能となり,より安全で小型,信頼性の高い光源が実 現できると考えられることから,その開発へ期待が高まって 〔2〕 全固体化レーザー用QPMデバイス材料への 要求仕様 QPMデバイスから構成される全固体化レーザーの概略を図 1に示す。QPMデバイスは,周期分極反転構造を持つ単結晶 いる。 全固体化UV/VUVレーザーについては過去にいくつか試み から構成され,分極反転した単結晶中をレーザー光が通過す られているが,その多くは酸化物系の非線形光学結晶を用い ることによりSHGの位相も周期的に反転し,位相整合が行わ たものであった。また,波長変換において第2高調波発生 れる1)2)3)。QPMデバイスによるSHGの特徴としては,①材料 (SHG:Second Harmonic Generation) が最も効率が高いが, が透過するすべての波長領域で使用可能である,②材料の複 酸化物系の場合,波長205 nmよりも長い波長でのみ波長変換 屈折の制約を受けない,③SHG効率が最大となるような非線 が可能なため,波長200 nm以下でのSHG実現は現状不可能で 形光学定数を選択可能である 3),という利点がある一方,高 ある1)2)。そこで独立行政法人物質・材料研究機構 (物材機構) い強誘電性が要求される,という側面もある。 では,UV/VUV領域での透過性が高く,かつ強誘電性を有す フッ化物単結晶はUV/VUV領域で透過性を有するものが多 るフッ化物非線形光学単結晶に着目した。そして,同単結晶 いため,前述のように全固体化UV/VUVレーザーにおける の適用化検討を進めることで擬似位相整合(QPM:Quasi QPMデバイス用材料として期待されている。しかし,フッ化 * 当社 新材料応用開発研究所 **当社 新材料応用開発研究所 Ph.D 独立行政法人物質・材料研究機構 光材料センター *** 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 23 固体レーザー 市販の高出力レーザー 3.1 波長変換素子 単結晶から構成されるQPMデバイス BaMgF4単結晶の高効率育成 a 炉内温度環境の適正化 多結晶化や割れの発生を阻止する高効率育成には,炉構造 周期的に分極が反転 λ1 第二高調波(SHG) SHG強度の平方根 入射光 の設計と炉内温度分布の把握が重要である。そこで,炉内断 λ1/2 分極反転構造あり 熱材やルツボ形状の変更,炉内各箇所に流れる循環冷却水の 流量・温度制御を行い,炉内温度分布を最適化した。その結 果,単結晶育成開始地点での温度勾配が十分にあり,種結晶 を用いた育成が可能なことや,炉内下部の急激な温度低下が 分極反転構造なし なく育成後の単結晶の急冷が抑制できることが確認でき,単 結晶育成に最適な温度分布を形成できた。 伝播方向 図1 QPMデバイスから構成される全固体化レーザーの概略図 分極 反転構造を持つ波長変換素子(QPMデバイス)によって,入射光の1/2の波長を b 単結晶育成条件の最適化 次に,多結晶化の防止およびクラック低減を目的として, 持つ第二高調波が発生する。 育成速度等の条件最適化を行った。単結晶育成において,育 Fig. 1 成速度や冷却速度を低速化することで割れが低減することは Schematic diagram of all-solid-state lasers containing a QPM device The frequency conversion element has a periodically poled structure (QPM device) to create SHG; the wavelength of the incident light is λ and that of the SHG light is λ/2. 十分予測される。一方で,低速化は単結晶育成が長期化する 問題があるため,ここではクラックが少なく比較的短時間で 育成可能であるという観点から,高効率育成が可能な条件を 探索した。 物単結晶は一般に複屈折が小さいことから,酸化物単結晶の 育成条件の検討による単結晶外観の一例を図2に示す。速 ように複屈折による位相整合を行うのは困難である。そのた 度が速いうちはクラックが多いが(Ⅰ) (Ⅱ) ,適切な速度に めフッ化物単結晶でSHGを得るにはQPMデバイスの作製が必 することで単結晶部分が大きくなる(Ⅲ) 。しかし,さらに 須であり,フッ化物単結晶には高い強誘電性が要求される。 速度を遅くしてもクラックはほとんど変化しない(Ⅳ) 。従 以上から,QPMデバイスに適用可能なフッ化物単結晶を適 って, (Ⅲ)の育成条件が BaMgF4単結晶の高効率育成に有効 用するにあたって,①UV/VUV領域において高い透明性を有 であることがわかった。 する,②高い強誘電性を有する,③デバイスに適用するのに c 方位制御育成 十分な大きさの単結晶を育成する,の3点が求められる。こ 育成条件の最適化によって結晶中のクラックを低減するこ れらの条件を満たす材料の探索および評価を行った結果, とができたが,完全には消失しなかった。そのため,さらな BaMgF4単結晶を着目するに至った。 るクラック低減を目的として,方位制御育成を検討した。 BaMgF4は空間群Cmc21の斜方晶であり,波長150 nm以下の BaMgF4の結晶構造は斜方晶であるため,結晶軸方向により 領域での透過性と4),圧電特性が報告されている5)。そのため, 物性が大きく異なる。その一例として,各結晶軸における チョクラルスキー法で育成されたBaMgF4単結晶を用いて周期 BaMgF4単結晶の熱膨張係数を図3に示す。筆者らは,BaMgF4 分極反転が試みられてきた 1)2)が,SHGが確認されたという 単結晶の育成方向に対し垂直となる二方向の熱膨張係数の比 報告例はこれまでになかった。 が小さい場合に,単結晶のクラックが低減できるのではない 〔3〕 高効率,高特性BaMgF4単結晶の開発 そこで筆者らはブリッジマン法により高効率,高特性の かと予測した。すなわち,c軸方向で育成した場合に最も割 れが少なくなると考え,この予測を検証することも兼ねて, 各結晶軸に配向した種結晶を用いてBaMgF 4単結晶を育成し BaMgF 4 単結晶を作製することで上記課題の解決を試みた。 た。図4に示した単結晶育成結果から,クラックの割合が少 BaMgF4はコングルエントメルト組成を持つ材料であり,ブリ ない順にc軸<a軸<b軸となっていることが確認でき,この ッジマン法で単結晶を育成することが可能である。しかし, 結果は筆者らの予測と一致した。また,c軸で育成した場合 同法では融液の対流が起こりにくいため,組成不均一による においてはクラックがない単結晶を得られ,当初の目標を達 多結晶化やクラックが発生しやすいことが予測される。以上 成した。 の点を踏まえ,第一にBaMgF4単結晶の高効率育成技術の確立, このような,育成環境および育成速度の最適化,方位制御 第二にBaMgF4単結晶の特性向上を目的とし,各要素技術に焦 育成の検討により,直径50 mmのBaMgF4単結晶の高効率育成 点を当てて育成条件の最適化を進めた。 技術を確立できた。 図2 育成速度,冷却速度の異なるBaMgF4 結晶の外観 育成,冷却を適切な速度にするこ 50mm とで,BaMgF 4結晶中のクラックは低減したが, 完全には消失していない。 Fig. 2 Appearance of BaMgF4 crystals obtained under various growth conditions Suitable rate of growth and cooling reduces cracks in BaMgF 4 and improves growth efficiency; however, some cracks still remain. 24 (Ⅰ) (Ⅱ) (Ⅲ) (Ⅳ) 相対速度:8 相対速度:4 相対速度:2 相対速度:1 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) (単位:×10−6K−1) a 軸育成 a b 軸育成 b 軸 19.1 c軸 4.5 b軸 13.5 育成方向に 対し垂直な 2軸の熱膨張 係数の比 c 軸育成 c 軸 13.5 軸 4.5 c軸 4.5 b/c =3.0 図3 BaMgF4の熱膨張係数 80 b軸 13.5 a軸 19.1 100 a軸 19.1 a/c =4.2 a/c =1.4 大きい→割れやすい 小さい→割れにくい 透過率(%) 育 成 方 向 スカベンジャーX添加 BaMgF4単結晶 (原料B) 60 スカベンジャーY添加 BaMgF4単結晶 (原料A) 40 スカベンジャーX添加 BaMgF4単結晶 (原料A) 20 育成方向に対して垂直となる2軸の熱膨張係 数の比が小さいほど,結晶にかかる応力歪が抑制されクラックが低減できる と推測される。 Fig. 3 0 120 Coefficients of thermal expansion of BaMgF4 160 200 240 280 波長(nm) 320 360 400 We estimate that a smaller difference in the coefficients of thermal expansion between two axes perpendicular to the growth direction would lead to fewer cracks in the crystal. 図5 BaMgF4単結晶の透過率スペクトル(※) (※反射含む) 適切な 原料とスカベンジャーを選択することで,酸素,水分を単結晶育成段階で適 切に排除し,UV/VUV領域で高い透過性を有するBaMgF4単結晶が得られた。 Fig. 5 Optical transmittance spectra of BaMgF4 single crystals A high transmittance single crystal is obtained by selecting suitable raw 50mm materials and a proper scavenger, with the aim of carrying out oxygen and moisture exclusion during crystal growth. 200 nm付近で凹状の吸収が見られる。これはスカベンジャー Yが酸素や水分等の排除に対して不十分であることを示唆し ている。また原料の比較については,上記の結果から原料B は原料Aよりも酸化物等の不純物を多く含むと推測される。 a軸 b軸 c軸 さらに,原料Bは粒子径が小さく比表面積が大きいことから, 保管中に水分や酸素を多く吸着した可能性も考えられる。 図4 育成方位の異なるBaMgF4結晶の外観 c軸方向に結晶方位を制御 して育成することにより,割れのないBaMgF4単結晶が得られた。図3の熱膨 張係数比が小さいほど,クラック量が少ない傾向にある。 Fig. 4 Appearance of BaMgF4 crystals grown along different crystallographic e 強誘電性の向上 透過率の改善と並行して,強誘電特性の向上について検討 した。強誘電性発現において,ドメイン構造の制御が大きく orientations. 影響する。ドメイン構造は様々な要素によって変動するが, Crack-free BaMgF4 single crystals can be grown by using c-axis oriented 結晶性や,単結晶中の不純物分布なども寄与する。そこで, seed. As shown in Fig. 3, the smaller difference in coefficients of thermal 原料中の金属不純物量を調査し,金属不純物の少ない原料A, expansion between two axes perpendicular to the growth direction leads to fewer cracks in the crystal. および多い原料Bを用いてBaMgF4単結晶を育成し,強誘電性 を評価した。図6に,原料A,原料Bから育成されたBaMgF 4 単結晶の電界ヒステリシス曲線を示す。電界ヒステリシス曲 3.2 線はBaMgF4単結晶の強誘電性を表すが,原料Bから得られた BaMgF4単結晶の特性向上 d UV/VUV領域における透過率の改善 BaMgF4単結晶の光学特性向上には,単結晶中の不純物を可 能な限り除去することが重要である。特に,UV/VUV領域に とが必要である。原料,ルツボ,炉内各部には多くの酸素や 水分が吸着しているため,単結晶育成の段階で適切な化合物 をスカベンジャーとして添加し,酸素や水分を炉外へ排出す る技術が有効である。そこで筆者らは,原料や添加するスカ Polarization(a.u.) 単結晶育成を行う工程で酸素,水分を単結晶外へ排除するこ Polarization(a.u.) おける透過率には酸素,水分が大きく影響する。そのため, ベンジャーの組み合わせを変えながら,十数種類の条件につ いてBaMgF4単結晶を育成し,透過率特性を評価した。図5に BaMgF4単結晶の反射を含む透過率の代表例を示す。原料Bか −10 −5 ら作製したBaMgF 4 単結晶は,ArFエキシマレーザーの波長 193 nmの光を透過しないことがわかる。一方原料Aの場合は, 添加するスカベンジャーに依存するものの,波長193 nmに対 してスカベンジャーXで透過率約87%,スカベンジャーYで約 79%と,高い値を示した。ただし,スカベンジャーYを添加 0 5 10 −20 −10 0 10 20 Electric field(kV/cm) Electric field(kV/cm) 原料A 原料B 図6 BaMgF4単結晶の分極と電界間のヒステリシス曲線 原料の適正 化により対称性の良い電界間ヒステリシス曲線が形成された。 Fig. 6 Polarization hysteresis loops of BaMgF4 single crystals した場合の透過率曲線は,スカベンジャーXを添加した場合 A highly symmetric hysteresis loop is obtained by selecting suitable raw と比較して全体的に透過率が低くなっているのに加え,波長 materials. 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 25 単結晶の曲線は丸みを帯び,電気的なリークが確認された。 一方原料Aから得られた単結晶からは高い対称性を持つヒス テリシス曲線が確認でき,強誘電性を持つことがわかった。 〔4〕 結 言 全固体化レーザー用強誘電性BaMgF4単結晶の育成技術を確 以上まとめると,不純物量が少ない原料を選択し,かつ適 立することを目的に,炉内構造に基づく単結晶育成の温度環 切なスカベンジャーと組み合わせることにより,UV/VUV領 境,単結晶育成条件,そして原料およびスカベンジャーの最 域において高い透過率を有し,かつ強誘電性に優れたBaMgF4 適化を図り,これらの要素技術を組み合わせた単結晶育成技 単結晶が得られた。 術の開発を行った。その結果,UV/VUV領域において高い透 3.3 過性を有し,優れた強誘電性を持つ直径50 mmのBaMgF4単結 QPMデバイスによるSHG試験 上記の検討により透過率,強誘電性が改善されたBaMgF4単 晶を高効率に作製する技術を確立できた。また,そのBaMgF4 結晶を用い,強誘電性ドメインをマイクロメートル(µm)オ 単結晶から作製したQPMデバイスを用い,可視領域における ーダーで周期的に反転させたQPMデバイスを作製することが SHGの実現に世界で初めて成功した。今後,これらの要素技 できた。なお,原理確認を容易にするため,入射波長を1,064 術を進化させることで単結晶の品質安定や特性の向上を図 nmとすることでSHGが可視領域となるようにした。その結果, り,波長193 nmをはじめとするVUV領域でのSHG実現や波長 波長532 nmの緑色SHGが観測され,フッ化物単結晶から作製 変換効率向上,さらにはUV/VUV領域での全固体化レーザー したQPMデバイスとして世界で初めて,SHGの実現に成功し へと発展することを期待する。 た。その様子を図7に示している。その後,415 nm,406 nm なお,本研究の一部は独立行政法人新エネルギー・産業技 術総合開発機構(NEDO)産業技術研究助成事業の助成を受 のSHGについても成功した。 けている。 参考文献 SHG 緑色発光 (波長532 nm) 1)島村清史,Encarnación. G. Víllora,村松研一,青木和夫,中村優, 竹川俊二,一ノ瀬昇,北村健二,:紫外・真空紫外領域での応用 を目指した単結晶育成に関する研究,日本結晶成長学会誌,33, 3,p.147(2006) 2)島村清史,Encarnación G. Víllora,竹川俊二,北村健二:紫外・ Nd:YAG 入射光 (波長1,064 nm) 真空紫外非線形光学応用BaMgF4単結晶の育成と評価,Journal of 日立化成BaMgF4単結晶製 QPMデバイス 図7 BaMgF 4 単結晶で作製したQPMデバイスからのSHG緑色発光 波長1,064 nmの入射光に対し、半分の波長の532 nmの緑色SHGが得られた。 ニクス社,p.44(2005) 4)E. T. Keves,S. C. Abrahams.,J. L. Bernstein,J. Chem. Phys., 51,p.4928(1969) フッ化物結晶として世界で初めてSHGに成功した。 Fig. 7 the Materials Science Society of Japan,43,p.285(2006) 3)宮澤信太郎,栗村直:分極反転デバイスの基礎と応用,オプトロ SHG obtained by QPM device made of BaMgF4 single crystal Green SHG at 532 nm was obtained for a fundamental wavelength of 1,064 5)M. Eibschuetz,H. J. Guggenheim,S. H. Wemple,I. Camlibel,M. DiDomenjco,Phys. Left.,29A,p.409(1969) nm, the first time in the world to obtain SHG using ferroelectric fluoride crystals as the QPM device. 26 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) U.D.C. 661.1:621.791.048:669.018.42:546.881:669.292 鉛フリーバナジウム系低融点ガラスペースト Lead-free Low Melting Glass Paste Based on Vanadium 立薗信一* Shin-ichi Tachizono 内藤 孝 ** 吉村 圭* Kei Yoshimura Takashi Naito 500℃以下の低温気密封着には,低融点ガラスペーストが適用されている。しかし, このペーストに使用される低融点ガラスには,有害なPb(鉛)またはPbとともに産出 される希少資源のBi(ビスマス)が多量に含まれる。この度,PbやBiを含有しない日 立独自のV (バナジウム) 系低融点ガラスペーストを開発した。このガラスペーストは, 環境を配慮したうえで安定に供給できる特長がある。さらに,400∼500℃での低温 気密封着に適用可能で,従来からのPb系やBi系の代替材料として注目されている。ガ ラス封着を適用した各種製品分野へ幅広くサンプル供試を開始した。 Low melting glass is used as sealing paste at under 500℃. However, conventional glass frit includes harmful Pb or scarce resources such as Bi, which is mined with Pb. We developed the Hitachi original low-melting-glass frit based on V without Bi or Pb. It is environmentally friendly, widely available, and seals at 400-500℃. The developed glass frit is an alternate to Pb-based or Bi-based glass frits. It has been tested for many sealing applications in various fields. 着が得られなくなるため,結晶化開始温度は高い程好まし 〔1〕 緒 言 い。まずは500℃以上を目標とした。 プラズマディスプレイ,蛍光表示管,有機ELディスプレイ, ICセラミックパッケージなどでは,低融点ガラスペーストを 用い,500℃以下の低温で気密封着されている。しかし,こ ③熱膨張係数:被封着材と低融点ガラスの熱膨張係数が整合 しないと封着部に応力がかかりクラックが発生し,信頼性 が低下するため,熱膨張係数を調整する必要がある。 の低融点ガラスには,封着温度を下げるために有害な鉛が多 ④実用性:焼成プロセスの温度バラツキを考慮し焼成温度マ 量に含有されている。2006年7月のRoHS指令への対応や近年 ージンを±10℃以上とした。また,化学的安定性の目安で の環境への高まりなどにより,無鉛化が進められ,450℃以 ある耐硝酸性と真空材としての特性は現行のPb系やBi系よ 上の封着においては,鉛フリーBi系低融点ガラスペーストが り良好であることを目標にした。 使われ始めた1)2)。しかし,BiはPb精錬プロセスにおいて少量 2.2 低融点ガラスへの化学的安定性の付与方法 採取できる副産物(希少資源)であり,単独の製造プロセスは V2O5を多く含むガラスは,V2O5結晶に類似した層状構造を 存在しない 3)。そのため,鉛が規制される中,Biは新たな供 有し,その層間に粉砕雰囲気や溶剤中の水分子が容易に入り 給源も無く今後の供給不安が危惧されている。また,Pb系低 込み,層間力が弱まり,構造崩壊が発生する。 融点ガラスペーストでは450℃以下の封着が可能であるが, Bi系ではそれを達成することは難しい。このため,450℃以 化学的安定性の改善方法として還元剤として機能する酸化 物を添加するとV5+が還元され,V4+が生成し,層状構造を形 下の封着では,いまだにPb系が使用されている。そこで,Pb 成するピラミッド型VO5が,VO4四面体に変わることで,層状 系とBi系に換わる低融点ガラスペーストとして,PbやBiを含 構造から三次元網目構造になる。4)5)6)本開発では還元剤を用 有しない日立独自のV系低融点ガラスペーストを開発したの いて水分子によりアタックされにくい三次元網目構造に変化 で,報告する。 させた。さらに網目構造の中に適切サイズのイオンを導入し, 〔2〕 封着用低融点ガラスペーストの目標特性と ガラスの設計 2.1 ガラス構造を緻密化することでガラス構造内への水分子の浸 入を阻止し,化学的安定性の改善を図った。この際,熱膨張, 結晶化の観点より,BaOを選択した。 (図1) 目標特性 500℃以下での封着を考えた場合,低融点ガラスペースト には主に以下の特性が要求される。 ①軟化点:400∼500℃の気密封着を達成するために,軟化点 の目標は350∼450℃とした。 ②結晶化開始温度:低融点ガラスは結晶化すると基板との接 * ** 日立粉末冶金株式会社 株式会社日立製作所 材料研究所 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 27 40×10 mmの成形体を作製し,大気中470℃で焼成した後, 還元剤 スライシングマシンで4×4×15 mmの角柱状に切り出し評価 VO5ピラミッド 用試料とした。熱膨張係数は縦型熱膨張計を用い,昇温速度 5℃/minで伸び量を計測し,25∼250℃の温度範囲から求めた。 (3)耐硝酸性の評価 50℃,6 wt.%硝酸水溶液に上記熱膨張試験片を5,10 min 間浸漬し,浸漬前後の試料の重量より減少率を求めた。 Ba 3.3 熱膨張係数の調整 熱膨張係数の調整は,熱膨張係数の小さな溶融シリカ(熱 VO4四面体 膨張係数:5×10−7/℃)を添加し調整した。 O 図1 ガラスの分子設計 3.4 PO4四面体 低融点ガラスペーストの特性評価 低融点ガラスペーストの特性評価として特性温度,熱膨張 ガラス構造の三次元網目構造への変更と,さら 係数を測定した。評価方法はペースト乾燥粉末を作製し,低 なる緻密化。 融点ガラスの特性評価と同様の手法で測定した。また,実用 Fig. 1 性については焼成温度に対するマージンと耐硝酸性,真空特 Design of glass structure Formation of network and dense structure. 性評価を行った。 (1)焼成温度マージンの評価 低融点ガラスペーストをディスペンサーで塗布し,乾燥し た 塗 膜 を 昇 温 速 度 5℃ /min, 保 持 時 間 30 minで , 460℃ , 〔3〕 実験方法 3.1 470℃,480℃で焼成した。各焼成温度におけるガラス塗膜の 試料の作製 3.1.1 融解状態を観察した。 低融点ガラスの作製 (2)真空特性評価(昇温脱離ガス分析) 表1に,検討した低融点ガラスの組成を示す。V系低融点ガ 塗布・乾燥した低融点ガラスペースト塗膜を470℃で30 min ラスは,V2O5/P2O5重量比が大きいほど軟化点が低い特徴を有 焼成した後,昇温脱離ガス分析装置で加熱排気しながら500℃ している。そこで,還元剤量一定でV2O5/P2O5重量比を変えた まで10℃/minで昇温し,脱離ガスを四重極質量分析計で測定 配合A,B,CにBaOを添加し作製した。以下に作製方法を示 した。 す。原料混合粉末が入ったるつぼをガラス溶融炉に入れ,大 気中1,050℃で溶融した。その際,ガラスの均質化を図るため に,溶融物を攪拌した。加熱後,るつぼを溶融炉から取り出 し,溶解物を黒鉛鋳型に鋳込みガラス塊を作製した。このガ ラス塊をさらに加熱し,徐冷することにより歪を除去した。 〔4〕 実験結果および考察 4.1 BaO添加量がガラス軟化点に与える影響 図2に,BaO添加量と軟化点の関係を示す。BaOは網目修飾 酸化物でありガラス構造を緻密化し,ガラス状態を安定化す る効果があるため必須成分としているが,BaO添加量の増加は 軟化点を高める。したがって,本開発では軟化点の目標値を 表1 ガラスの検討組成 軟化点の調整のためにV2O5/P2O5重量比を調整し 考慮してBaOの添加量を5wt.%とした。 た。 Table 1 Composition of glass frits Softening point adjusted by changing V2O5/P2O5 weight ratio. 配合A 還元剤量 V2O5/P2O5重量比 配合B 配合C 一定 2.7 BaO添加量 550 2.4 仕様A 2 仕様B 500 0∼30wt.% 3.1.2 低融点ガラスの粉末・ペーストの作製 低融点ガラス粉末はガラス塊をボールミルで粉砕後,ふる 軟化点(℃) 仕様C 450 400 いで粒径を調整し作製した。このガラス粉末と特性調整用フ 350 ィラーを混合し,バインダーと溶剤を加え,低融点ガラスペ ーストとした。 3.2 300 低融点ガラスの特性評価 0 作製した低融点ガラスの基本特性を評価した。 5 10 15 20 25 30 BaO添加量[wt.%] (1)特性温度測定 ガラスの特性温度(転移点;Tg,軟化点;Ts,結晶化開始 温度;Tcrys)の測定は,示差熱分析(DTA;Differential Thermal Analysis)によった。測定条件は昇温速度5℃/minで Fig. 2 550℃まで加熱した。 BaO添加量の増加は軟化 Influence of BaO content on softening point temperature of V-based glass frit (2)熱膨張係数測定 Softening point temperature increases with increasing BaO content at 5wt.% 熱膨張係数評価用試料は,低融点ガラス粉末を金型で50× 28 図2 V系低融点ガラスのBaO添加量と軟化点 点を高める。BaO添加量は5wt.%に決定した。 increments. 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 4.2 表4 開発品の焼成状態 低融点ガラスの特性 表2に,BaOを5wt.%添加したV2O5/P2O5重量比の異なる低 融点ガラスA,B,Cの基本特性を示す。試料の軟化点は, 415℃,423℃,445℃であり,軟化点が415℃でもっとも低い Table 4 470±10℃の間の焼成温度で滑らかに融解する。 Observation of baked glass frit The developed glass frit shows good melting after baking at 470±10℃. 焼成温度 塗膜外観 塗膜外観拡大図 A仕様は520℃で結晶化が開始した。 熱膨張係数は,すべての組成で約78×10−7/℃と,一般的な ディスプレイ用ガラス基板の熱膨張係数82×10−7/℃近くに調 整できる。また,耐硝酸性は,10 min間の浸漬ではほとんど 460℃ 溶解せず,化学的安定性が優れることが分かる。 表2 開発した低融点ガラスの特性 1 mm 300 um 1 mm 300 um 1 mm 300 um 開発材は,軟化点が低く,耐硝酸性 が優れる。 Table 2 470℃ Properties of developed glass frit The developed glass frit exhibits a low softening point and a higher nitric acidresistance. A 4.3 B C Tg(℃) 345 358 373 Ts(℃) 415 423 445 Tcrys(℃) 520 >550 >550 熱膨張係数(×10−7/℃) 77 78 78 耐硝酸性(減少率) (wt.%) 0.4 0.5 0.5 480℃ 封着ガラス基板の応力評価結果 40 ペースト化の検討は作製したガラスの中で結晶化開始温度 開発V系ガラス が550℃以上と高く,かつ軟化点が423℃と低いBの低融点ガ ラスを用いてペースト化の検討を行なった。 開発した低融点ガラスペーストの特性 (1)基本特性の評価結果 表3に,開発品の特性を示す。ペースト化後も429℃の軟 化点が得られ,結晶化開始温度も550℃以上と目標を達成し た。開発品は低軟化点で結晶化を起こし難い低融点ガラスペ 重量減少率[wt.%] 4.4 30 従来Bi系ガラス 30 従来Pb系ガラス 20 15 10 ーストである。 4.2 2.6 0 表3 開発品の特性 0.2 開発品は低軟化点で結晶化を起こし難い低融点ガラ 0.4 5min保持 10min保持 スペーストである。 Table 3 Properties of developed glass frit paste The developed glass frit paste has a low softening point and a higher 図3 開発品の耐硝酸性 Fig. 3 crystallization onset temperature. 開発品は従来品に比べて耐硝酸性が優れている。 Nitric acid-resistance of developed glass frit The nitric acid-resistance of the developed glass frit is better than that of Tg(℃) 354 Ts(℃) 429 Tcrys(℃) 550以上 熱膨張係数(×10−7/℃) 62 conventional frit. (4)真空特性の評価結果 図4に,開発品の真空特性を示す。500℃までの昇温で従 来製品のBi系やPb系に比べ,開発品からのガス発生量は少な く,真空排気を行う製品に適する。 (2)焼成温度マージンの評価結果 表4に,開発品の焼成温度に対する融解状態を示す。 460℃∼480℃までの温度で塗膜表面が滑らかに流動し 〔5〕 結 言 環境にやさしく,供給安定性のある材料を用いてガラス組 470℃±10℃以上の焼成マージンを有する。 成を検討し,V系低融点ガラスペーストを開発した。本ペー (3)耐硝酸性の評価結果 図3に,開発品の耐硝酸性を示す。Bi系が10 min間の浸漬 ストは,ガラス基板だけでなく,アルミナなどのセラミック で4.2wt.%,Pb系が30wt.%溶解するのに対して開発品は スに対しても強固に接着し封止信頼性を向上することが可能 1wt.%以下と化学的安定性が高い。 であり,今後,広く製品展開を行う。 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 29 参考文献 1)寺井良平:鉛ガラスから鉛を除く(1):マテリアルインテグレー 10−3 ション,17, (2004)pp.51-55 2)寺井良平:鉛ガラスから鉛を除く(2):マテリアルインテグレー ション,17, (2004)pp.55-61 全圧(Pa) 従来Pb系ガラス 3)吉田卓司:ビスマス 鉛の代替材になりうるか:工業材料,54, (2006)pp.44-45 4)T. Naitoh, T. Namekawa, S. Yamada, and K. Maeda: Effects of −4 10 従来Bi系ガラス Composition and Additives on Water Durability in V2O5-P2O5 Glass System, J. Ceram. Soc. Jpn. Inter. Ed, 97, (1989) pp.822-829 5)内藤孝,滑川孝,加藤明,前田邦裕:V2O5-P2O5系ガラスの耐水性 に及ぼすSb 2 O 3 添加の効果:日本セラミックス協会学術論文誌, 開発V系ガラス 100, (1992)pp.685-690 −5 10 0 100 200 300 温度(℃) 400 500 6)内藤孝,滑川孝,山田誠一,前田邦裕:V2O5-P2O5系ガラスの耐水 性に及ぼす組成と添加物の影響:日本セラミックス協会学術論文 誌,97, (1989)pp.834-841 図4 開発品の真空特性 従来品の低融点ガラスに比較してガス放出が少 ない。 Fig. 4 Evaluation of vacuum properties of developed glass frit The developed glass frit shows minimal gas emissions. 30 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) U.D.C. 616-022.8-056.4:616-002:617.711:615.1 眼アレルギー迅速診断薬 アレルウォッチ涙液IgE Rapid Test for Allergic Conjunctival Diseases 樋口雅之* Masayuki Higuchi 中野勇一* Yuichi Nakano 鈴木菜穂子* Nahoko Suzuki 大竹隆利* Takatoshi Ohtake アレルギー性結膜疾患はⅠ型アレルギー反応に関与する結膜の炎症性疾患の総称で あり,その確定診断法は「アレルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライン」にお いて臨床症状の診断に加え眼局所の好酸球の検出であると定められている。しかし, この方法は検査手技が煩雑であるため,実際の診療では血中IgE濃度の測定など血清 診断などを参考として眼局所の掻痒,充血などの臨床症状から診断されてきた。血中 IgEに比べ臨床症状との一致率が高いとされる涙液中IgEは涙液採取が容易ではなく, 微量のIgEを選択的に高感度で測定する方法は実用化されていなかった。そこでイム ノクロマトグラフィー法による涙液中IgEを半定量的に測定する迅速検査試薬の測定 系を構築してその性能評価を行った。本試薬は他社従来品を感度で上回り,総IgE濃 度 5 IU/mL未満から検出可能であることから,従来品に優る臨床的有用性を有するこ とが期待された。 “Allergic conjunctival disease (ACD)” is a general term for conjunctival inflammatory diseases, in which I-type allergic reactions are involved. In addition to the examination of clinical symptoms, the local detection of acidophile(s) from eyes has been defined as a method for the final diagnosis of ACD in the “Guideline for the diagnosis and treatment of ACD”. However, since the procedures for such detection method are difficult and complicated, and require a very skilful manual operation, usually, the diagnosis of ACD has been made by doctors mainly from the clinical symptoms (such as itch, congestion in eyes) observed in patients, using the results of serological tests or assays (the concentration of IgE in blood samples, etc.) only for reference. Although it is not easy to take tear fluid from each patient, the detection of IgE in tear fluid, compared with IgE in blood, has been reported to give a higher rate in “agreement” with the examination of clinical symptoms. However, neither test nor assay has been commercialized yet to enable the detection of very small amounts of IgE antibodies in tear fluid samples specifically and accurately. Thus, in the present study, we have established a new assay system for the rapid semi-quantification of IgE antibodies in tear fluid by applying the technique of immunochromatography, and evaluated the performance of this assay system. The findings of our study indicate that our new assay system shows higher sensitivity than the current assay system (developed by other company), and can detect less than 5IU/mL of total IgE antibodies in tear fluid samples. It is expected that this new assay can be more useful for the clinical diagnosis of ACD than the current assay. についてはアレルギー性結膜疾患で陽性,健常対照では陰性 〔1〕 緒 言 を示して両者が明確に区別されると報告しており 2),涙液中 近年アレルギー性疾患は増加の一途を辿っており,眼科領 IgEの測定はアレルギー性結膜炎の診断に有用と考えられて 域においてもアレルギー性の結膜炎として診断された患者 いる3)。この涙液中IgEを研究的に測定する方法も試みられて は,2,000万人にものぼると推測されている 。アレルギー性 いるが,涙液採取が容易でなく,迅速・簡易に測定できる方 結膜疾患はⅠ型アレルギーに基づくものであり,その診断は 法は実用化されていなかった。その後,海外で涙液中IgEを 掻痒,充血などの臨床症状に加え,血中総IgEや血中特異的 簡易的に測定する迅速診断キットが発売され欧州を中心に販 IgEを調べるなどの血清学的な試験を併用する方法が用いら 売されていたが,普及に至らなかった。その原因として感度 れている。このうち血清中総IgE値は健常者においてもみら 不足による罹患患者の正診率の低さが推測された。しかし, れ,他疾患においても高値を示すことからアレルギー疾患に 臨床症状との一致率が高い涙液中IgE濃度測定の要望は高く, 対する特異性は疑問視されている。しかし,涙液中総IgE値 一部の眼科専門医により研究的な測定が継続されてきた。こ 1) * 当社 機能性材料事業部 ライフサイエンス部門 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 31 れらの市場背景を踏まえ,イムノクロマトグラフィー法によ mm幅とし,中央部にニトロセルロース膜の判定部を設け, り涙液中IgEを高感度かつ迅速・簡易に測定する迅速検査試 涙液測定用ストリップとして設計した。 従来品は結膜疾患患者の微量の涙液を採取することにより 薬の自社開発に着手した。 アレルギー性の有無を診断する試薬でその最低検出感度は5 〔2〕 アレルギー性結膜炎の概要 IU/mL (約12 ng/mL) とされ,日本国内での臨床試験ではアレ IgEは,アレルギー症状を引き起こす物質の正体として ルギー性結膜疾患患者を陽性と判定できる一致率は65%と報 1960年代半ばに同定された分子であり,今日では気管支喘息 告されているが 5),軽症患者においての正診率が高くない 3)。 やアトピー性皮膚炎などの発症を誘導する重要な因子として そこで,最低検出感度として従来品を上回る2.5 IU/mL程度を 認識されている。特に花粉症などのⅠ型アレルギー疾患には 目標仕様とした。また,測定方法はストリップの検体採取部 IgEが大きく関与しており,肥満細胞などの細胞上に存在す に検体10 µLを吸収させた後に30 µLの精製水にて展開操作を る特異的IgEとアレルゲンが結合すると,細胞が活性化され 行い,10分後にコントロールラインとの比較によって検体中 てヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が遊離さ のIgE濃度を3段階で判定することとした(表1,図2) 。 れる。さらに,これが知覚神経終末や結膜神経終末を刺激し て,くしゃみや鼻水の増加,流涙などを引き起こす。アレル ギー性結膜疾患は,このⅠ型アレルギー反応により発症する 結膜の炎症性疾患の総称であり,次の5種類に分類されてい 表1 判定基準 Table 1 る 。 4) Judgment criteria 表示クラス ①季節性アレルギー性結膜炎 発色強度 (コントロールラインとの比較) (反応の程度) ②通年性アレルギー性結膜炎 ③アトピー性角結膜炎 ④春季カタル ⑤巨大乳頭結膜炎 判 定 0 ライン無し 陰 性 1 コントロールラインより薄いライン 弱陽性 2 コントロールラインと同等以上のライン 陽 性 このうち①の季節性アレルギー性結膜炎はスギ花粉症が代 表例であり,花粉症の眼の症状は花粉性結膜炎と呼ばれ,ア レルギー性結膜疾患の約85%を占めると推定されている。② は①と同様な症状であるが,花粉症のような季節性はなく, ダニなどの季節とは関係ないアレルゲンが原因となる。③は アトピー性皮膚炎の患者にみられる慢性結膜炎,④は男児に 多く見られ難治性で早期治療を要し,⑤はコンタクトレンズ コントロールライン 使用者に多く,物理的刺激によりアレルギー反応が起こりや すくなっている状態下で花粉などが付着して発症するといわ れている。 テストライン 〔3〕 測定試薬系の開発 3.1 製品設計と目標仕様 測定原理は検体を採取したその場で結果判定が可能な妊娠 検査薬やインフルエンザ迅速診断薬に代表されるイムノクロ マトグラフィー法を選択した。製品設計は従来品を参考に, クラス0 陰性 図1のような測定用ストリップ形態を設計した。涙液採取お よび試薬含浸部材として液体吸収性および厚さ方向への含浸 性の高い不織布素材を,試験液の展開部材として毛細管現象 を維持しやすい支持体付きのニトロセルロース膜を,検体吸 クラス1 弱陽性 クラス2 陽性 図2 判定方法 Fig. 2 Judgment method 収部材として高速吸収能を有するセルロース系部材を,各部 材の接合部材として裁断加工がしやすい高接着性のテープ材 を選択した。これらの部材を適用して,涙液採取に適した1.5 3.2 測定原理 本法ではまず検体中のIgEと金コロイド標識抗ヒトIgE抗体 が反応し,金コロイド標識抗ヒトIgE抗体−IgEの複合体を形 成させる (第一反応) 。毛細管現象により表面を移動した複合 展開部材 体は,その先に設けられたテストライン上のマウス抗ヒトIgE モノクローナル抗体と反応し,マウス抗ヒトIgEモノクローナ ル抗体−IgE−金コロイド標識抗ヒトIgE抗体の複合体が形成 涙液採取および 試薬含浸部材 される (第二反応) 。その結果,目視で判定できる赤色ライン テストライン部分 コントロールライン部分 検体吸収部材 (テープ材被覆) が形成される。一方,検体中のIgEの有無に関わらず,毛細管 現象で移動した金コロイド標識抗ヒトIgE抗体はコントロール 図1 ストリップの概略図 ライン上で反応し,目視で判定できる赤色ラインが形成され Fig. 1 る (図3) 。 32 Strip for assay 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 3.3.2 金コロイド標識− 抗ヒトIgE抗体 検体中IgE 試薬系の最適化 金コロイド標識抗ヒトIgE抗体としてロットAを,固相化モ ノクローナル抗体としてクローン5を適用した反応系でスト リップを試作し,品質特性の検討を行った。前述の製品設計 に基づき1.5 mm幅ストリップを製作し,IgE濃度が既知の数 種の管理検体を用いて初期評価を行ったところ,IgEを含ま ない陰性検体において発色を示す偽陽性が確認された。そこ 涙液採取および 試薬含浸部材 展開部材 テストライン 抗体 コントロール ライン抗体 検体吸収部材 で試薬系への界面活性剤添加による偽陽性抑制策を検討し た。添加対象は発色試薬である金コロイド標識抗ヒトIgE抗 体,被検物質の捕捉試薬である抗ヒトIgEモノクローナル抗 図3 測定原理 体が考えられたが,予備検討で前者は陰性検体を試験したと Fig. 3 き全体的な発色強度の低下傾向が観察され,後者では陽性検 Assay principle 体を試験したときテストライン上での選択的な偽陽性抑制効 果が確認された。そこで抗ヒトIgEモノクローナル抗体試薬 3.3 基本試薬系の構築 3.3.1 への非イオン性界面活性剤A,BおよびCの添加について追加 固定化抗体のスクリーニング 検討を行い,高検出感度を維持しつつ偽陽性を抑制する効果 イムノクロマトグラフィー法による測定試薬は通常の酵素 のあった界面活性剤Cにつきさらに至適濃度の検討を行った。 免疫測定法 (ELISA法) と異なり,ストリップ本体上で毛細管 界面活性剤Cは低濃度から偽陽性抑制効果が発現したが,高 現象による流れの中で反応を完了させるため,短時間での選 濃度においては高IgE濃度検体において発色強度が低下した。 択的かつ高感度の反応性が要求される。そこで発色粒子であ 中濃度で添加した場合は,1 IU/mL未満の管理陰性では発色 る金コロイドに標識する抗体として高感度が期待されるポリ しない陰性として,2 IU/mL以上の管理検体では用量依存的 クローナル抗体を,メンブレン上に固定化する固相抗体とし に発色強度を示す陽性として検出可能であった (表4) 。以上 て反応選択性が高いモノクローナル抗体を適用し,そのスク の結果から,界面活性剤C添加濃度として中濃度を選択し, リーニング検討を行った。金コロイド標識するポリクローナ 偽陽性が抑制された試薬系としての最適化を行った。 ル抗体は当社が販売する血清中特異的IgE測定試薬「マスト イムノシステムズ」向けに確保されていた高性能ポリクロー ナル抗体4ロットを評価対象とした。ロットDを除く3ロット 表4 界面活性剤添加による試薬系の最適化 はいずれも高感度を示し,中でもロットAは高濃度検体ほど Table 4 Optimization of reagent dilutions by addition of surfactants 強い発色となる良好な相関性を有することが確認された (表 2) 。そこでポリクローナル抗体としてロットAを選択した。 IU/mL 低濃度 中濃度 高濃度 0.0 1 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0.6 1 1 1 0 1 1 0 0 0 0 0 0 2.3 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 9.4 1 2 2 2 2 2 2 2 2 1 1 1 26.2 2 2 2 2 2 2 2 2 2 1 2 2 また,固相化するモノクローナル抗体としてIgE抗体の特 異部分を認識する5クローンにつき,上記ポリクローナル抗 体との相性試験を実施した。クローン1,3および5は陽性検 体で良好な発色強度を示したが,クローン3は陰性検体でも 反応するため特異性は十分でないと判断した。クローン1お よび5とも良好な特異性を示したが,低濃度検体から検出可 能なクローン5を選択した (表3) 。 表2 金コロイド標識ポリクローナル抗体のスクリーニング Table 2 Screening of gold colloid labeled polyclonal antibodies 感度 特異性 相関性 発色強度 ロットA ◎ ○ ○ ○ ロットB ○ ◎ △ △ ロットC ◎ △ ◎ ○ ロットD △ ◎ ○ ◎ 界面活性剤Cの添加濃度 なし 3.3.3 基本性能評価 最適化された試薬系で本ストリップと従来品とをIgE濃度 が既知の管理検体を用いて評価した。本開発品は2 IU/mLの 表3 固相化モノクローナル抗体のスクリーニング 管理検体で陽性 (クラス1) として判定され,従来品を上回る Table 3 感度であった (表5) 。さらに,両者のテストラインの発色強 Screening of immobilized monoclonal antibodies 特異性 相関性 発色強度 クローン1 ○ ○ ○ クローン2 N.T △ △ クローン3 △ ○ ◎ クローン4 N.T △ △ クローン5 ○ ○ ◎ 度をイムノクロマトリーダ (浜松ホトニクス社) で測定したと ころ,本開発品は発色強度の立ち上がりおよび濃度依存性勾 配とも従来品を上回る性能を有することが確認された(図 4) 。 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 33 表5 管理検体でのストリップの性能評価 Table 5 〔4〕 結 言 Evaluation of strip performance using control samples 検 体 IgE濃度 今回開発した涙液中IgEの迅速測定試薬は,既存従来品を 結 果 (IU/mL) 表示クラス 判 定 管理検体1 0 0 陰性 管理検体2 2 1 弱陽性 管理検体3 5 1 弱陽性 管理検体4 7 1 弱陽性 管理検体5 12 1∼2 弱陽性∼陽性 管理検体6 23 1∼2 弱陽性∼陽性 上回る検出感度を示すことが確認された。これは当社保有の 抗体スクリーニング技術および測定系最適化技術により実現 されたものである。 アレルギー性結膜疾患は一般には臨床症状などを総合的に 勘案して診断されることが多いが,アレルギー性結膜疾患ガ イドラインでは結膜擦過検体での好酸球の陽性確認が確定診 断と定められている 4)。しかし,本確定診断法は操作が煩雑 で浸襲性を伴う結膜局所の細胞診断であるため,一部の専門 医での実施に留まっている。本開発品は検体10 µL中のIgEを 10分程度で高感度に測定可能であり, 従来品を上回る臨床的 意義が期待されている。なお,本開発品は厚生労働省の製造 当社開発品 販売承認を取得しており,2008年11月に医療機関向けに上市 従来品 400 された。今後は臨床的有用性が詳細に検討されることにより, テストライン発色強度 結膜擦過物の細胞診に代わる簡易的確定診断法としてアレル ギー性結膜疾患患者の診断に寄与することが期待される。 300 参考文献 200 1)大野重昭:やさしいアレルギー性結膜炎の自己管理,5-10(2002) 2)庄司純:あたらしい眼科,25(2) ,155-162(2008) 3)日本眼科医会:アレルギー癌疾患調査研究班業績集(1993-1995) 100 4)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:日眼会誌, 110(2) ,103-104(2005) 0 5)中川やよい:臨床眼科,60(6) ,951-954(2006) 0 1 10 100 1,000 IgE濃度(IU/mL) 図4 開発品と従来品の感度および発色強度 Fig. 4 Sensitivity and color intensity of a new assay compared with the current assay 34 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 製品 紹介 高耐熱・高周波多層材料 MCL-HE-679G 近年,高度情報化社会の進展に伴 い,情報通信分野の電子機器で使用 応する高耐熱性やハロゲンフリー化 ラス転位温度が高いため,鉛フリー も求められています。 プロセスに対応可能な高耐熱性を有 される信号の高速大容量化(高周波 このような背景から当社では,高 数化)が進んでいます。これらの機 耐熱,高周波多層材料MCL-HE- 器に搭載される基板材料には,高周 679Gを開発しました。 しているハロゲンフリー材料です。 今後,サーバやルータといった高 多層板を使用するネットワーク関連 波数化に対応する伝送損失の低減が 本開発品は一般FR-4材と比較し 求められています。また,環境面か て誘電正接が低く,伝送損失の低減 らは,鉛フリーはんだプロセスに対 が可能です。また,熱分解温度,ガ 機器や高周波部品用途への展開が期 待されます。 (電子材料事業部 配線板材料部門) 表1 高耐熱・高周波多層材料MCL-HE-679Gの特性 条 件 単位 比誘電率 1 GHz 3 GHz 誘電正接 1 GHz トリプレートストリップライン*1 共振器法 3 GHz Tg TMA法 一般 FR-4 3.90∼4.10 4.00∼4.20 3.90∼4.10 4.00∼4.20 0.008∼0.010 0.019∼0.021 0.009∼0.011 0.020∼0.022 180∼190 120∼130 35∼45 50∼70 − − ℃ Z (<Tg) CTE (熱膨張係数) MCL-HE-679G 190∼220 250∼300 熱分解温度 TGA 5%重量減少 ℃ 370∼390 300∼320 耐熱性 T-288 (銅付) min >30 <3 吸湿耐熱性 PCT-5 h 288℃/20 s dip − OK NG 85℃/85%RH,100 V*2 h 耐電食性 (CAF) Z (>Tg) ppm/℃ 0 0 4 5 MCL-HE-679G −10 −15 一般FR-4 −20 −25 −30 w b >1,000 周波数 (GHz) 2 3 1 −5 伝送損失 (dB/m) 項 目 >1,000 *1: IPC-TM-650 2.5.5.5 *2:TH/TH 壁間 0.3 mm 表のデータは当社における代表的な測定値であり,保証値ではありません。 t ・ライン幅(w) :0.8 mm ・層間(b) :1.6 mm ・銅箔厚(t) :18 µm ・ライン長:200 mm 図1 HE-679Gの伝送損失 モータ用低VOCワニス WP-2008 揮発性有機化合物(Volatile なるため,使用される各材料には, Organic Compounds 以下,VOCと略 より高い耐熱性が要求されてきてい します)は,揮発性を有し,大気中 ます。 WP-2008は,表1に示すように, 現行品と比較して,低VOC化と耐熱 性向上(180∼200℃)を両立して で気体状となる有機化合物の総称で そこで,当社では,環境へ配慮し あり,大気汚染を起こす原因物質の たものづくりを目指し,ワニス処理 今後,モータの高出力化・コンパ 一つとなっています。そのため,昨 時に発生するVOCを現行品の1/40 クト化が強く求められる自動車分野 今の環境対応に関する法規制(VOC 以下に低減したモータ用低VOCワニ 等への用途展開が期待されます。 排出規制)および,事業者の自主的 ス,WP−2008を開発しました。 います。 (機能性材料事業部 電気機能材料部門) な取組みによって,効率的な排出抑 制が望まれています。 電気絶縁材料の分野でも,ワニス 処理時に発生するVOCの排出を抑制 表1 低VOCワニスWP-2008の特性 項 目 開発品 WP-2008 するため,ワニス処理設備に触媒燃 特 長 低VOC・耐熱性 高接着性 焼装置等を付設し,外部への飛散防 主剤の種類 不飽和ポリエステル 不飽和ポリエステル 止処理が行われています。しかし, 一部は,VOCとして大気中に飛散す る場合があり,ワニスの低VOC化が 求められています。 また,自動車の発電・駆動モータ や,産業機器用モータ等は,高出力 化・コンパクト化がますます進行 し,動作時のコイル温度がより高く 現行品 WP-2820 (GN) 主剤の引火点 (℃) 180 31 硬化剤 CT-50,1.5% CT-50,1.5% 1) VOC (%) <1 40 2) 耐熱温度 (℃,MW35C) 180∼200 180 3) 接着力 (N,23℃) 680 630 ワニス処理方法 滴下 浸漬・滴下 硬化条件 (℃/h) 130/1 130/1 注)1)ワニス5.0gを金属シャーレ(φ60 mm)に採取し硬化時の重量減少率を測定 2)ツイストペア・ヘリカルコイルを用いた熱劣化促進試験 3)ストラッカー法(φ2.0 mmAIW) 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 35 製品 紹介 アレルウォッチ 涙液IgE 近年国内ではスギ花粉症に代表さ れるようにアレルギー疾患が増えて います。アレルギー症状としては, いため,涙液の検査は実用化されて いませんでした。 当社では,妊娠診断薬などで用い くしゃみ,鼻水,かゆみなどがあり られている,イムノクロマトという ますが,眼のかゆみや充血といった 手法を用いて,涙一滴でその中の アレルギー性結膜疾患の症状を有す IgEを測ることができる体外診断用 る患者は,国民の約20%にものぼる 医薬品アレルウォッチ 涙液IgEを開 と推測され,今後も患者数は増加し 発しました。国内で臨床試験を実施 ていくと予想されます。 して厚生労働省の製造販売承認を取 アレルギー性結膜炎は,かゆみや 充血などの診察とあわせて,眼の擦 得し,11月から医療機関向けに販売 を開始しました。 過物の検査で診断できますが,手技 アレルウォッチ 涙液IgEは,操作 的に難しく簡単に実施できないため が簡単で特別な装置を必要とせず, ほとんど行われていません。また血 検査にかかる時間は10分で,すぐに 液中のアレルギーに関連するIgEと 結果がわかります。その場で迅速に いう抗体の検査が,アレルギーの診 対応できる診断薬として医療現場で 断でよく行われますが,眼の症状と の貢献が期待されます。 結果が一致しないなどの問題点があ (機能性材料事業部 ライフサイエンス部門) りました。血液以外には,涙液中の IgEを検査する方法もあり,症状と もよく一致しますが,検査に必要な 量の涙を採取することが容易ではな 業務車両用バッテリー 新「Tuflong(タフロング) 」シリーズ 業務用車両メーカーは,地球環境 保全のためのCO 2削減や高騰する燃 (1)市場で耐久性の高さで好評を得 た「電池極板群構造:HPL」 品へ展開し,業務車両の用途別 料コストのための燃費向上を実現す (日・米・欧州・カナダ特許取 に性能を特化させ,「Tuflong るため,アイドリングストップ&ス 得)を全機種に採用しました。 (タフロング)EX-Ⅱ,LX-Ⅱ, タートシステム(ISS:停車時に自動 (2)始動性と耐久性を向上する「正 HG-Ⅱ」のシリーズとしました。 的にエンジンを停止して燃費向上, 極格子構造:スリーBグリッド」 CO 2削減を図るシステム)等を採用 と,耐久性を向上する「正極活 し,さらに高性能化を目指していま 物質:特殊ハードペースト」を す。業務用車両はタクシー,宅配車, 採用し,耐久性を25∼30%(当 大型車(バス,トラック)に大きく 社比)アップしました。 分けられ,それら用途別に必要な特 (3)充電特性を向上する「新負極活 性が増えており,これらの要求に対 応できるバッテリーの開発が求めら れていました。 大幅に向上したバッテリーを開発し, (新神戸電機株式会社) 物質:ハイチャージペースト」 を採用し,充電回復性を30% (当社比)アップしました。 当社は電池の新構造や新原材料を 導入して,耐久性能と充電回復性を 図1 製品外観 表1 製品説明 シリーズ名 EX-Ⅱ LX-Ⅱ タクシー,営業車用 ISS対応車用 (走行距離が長い車両) (宅配車, トラック, バス用) HG-Ⅱ 大型車用 (トラック,バス) 業務車両用バッテリーを全面リニュ 用 途 ーアルして発売しました。 適 用 過充電傾向, アイドリング待機 ISS走行車, 都市部の短距離配送車 過酷な環境下で使用の 営業車 (ISS走行車両除く) ー:新Tuflong(タフロング) 」は以 機 種 1機種:D26 2タイプ 5機種:D26,H52ほか 8タイプ 16機種:D23,H52ほか 21タイプ 下の特長を有しています。 保 証 15ヶ月または15万km 18ヶ月または6万km 24ヶ月または6万km 開発した「業務車両用バッテリ 36 (4)性能のランクアップを各々の製 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 建設機械用長寿命ブッシュ ニッカロイヘリカルグルーブブッシュ 製品 紹介 油圧ショベル掘削部の関節部位に 命化が図れます。なお,ヘリカ 金)をベースとして,高い硬さ は,20∼30個のブッシュ(すべり軸 ルグルーブは機械加工を用いず を有する硬質粒子を分散させた 受)が使用されています。従来は炭 に,金型による粉末成形工程で 材料としました。 素鋼のブッシュが使用されていまし 形成させるためにコスト上昇を たが,頻繁なグリースアップが必要 抑えております。 本開発品は,油圧ショベルの掘削 部関節ブッシュのみならずほかの建 であるため,メンテナンス性に優れ (2)土砂を噛み込んでもブッシュの た焼結含油軸受の採用が増えてきて 摩耗を抑えるために,従来のブ おります。 ッシュ材質(Fe-Cu-C系焼結合 設機械やフォークリフト等への適用 も可能です。 (日立粉末冶金株式会社) 近年,ブッシュに対してさらなる 長寿命化の要求が高まっており,こ の要求に対して,新たなデザインの ブッシュ形状と新たな材料を採用し, 土砂が浸入する過酷な使用条件でも ブッシュを開発しました(当社従来 比5倍以上) 。 製品の特長 (1)ブッシュの内径面にヘリカルグ ルーブ(傾斜状の溝)を設ける ことにより,グリース溜まりに 摩擦係数 従来ブッシュより長寿命化が図れる 0.50 0.45 0.40 0.35 0.30 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0.00 0 ブッシュ寸法: φ80×φ90×L78 mm 面圧:80MPa, 周速:0.5 m/min, 揺動角:10° クリアランス:0.2∼0.35 mm グリース:ダスト5mass%混入グリース (ダスト:JIS試験用紛体1.1) 従来仕様ブッシュ ヘリカルグルーブブッシュ 20 40 60 80 耐久時間(h) 100 120 よる潤滑性向上と土砂等の異物 噛み込み防止の効果により長寿 図1 ヘリカルグルーブブッシュの耐久性能(過酷試験) 日立化成テクニカルレポート No.52(2009-1) 図2 製品外観 37 MEMO 編集後記 お問い合わせ先 本52号から総説欄を「復活」させることにいたしました。 今後,二通りの総説の交互掲載を予定しております。一つは, 弊社研究所に勤務する第一線の研究開発者が,一連の技術論文の 背景にある「研究開発コンセプト」を物語ります。もう一つは, 前線でビジネスをドライブしている事業部の開発者が,今後の製 品トレンド,ロードマップを紹介いたします。二種類の総説を交 互に掲載することにより,日立化成の保有技術,将来技術の方向 性,弊社開発戦略などをご理解いただき,忌憚なきご意見,ご批 判をいただければ幸いに存じます。 MK ・掲載事項に関するお問い合わせにつきましては,弊社 インターネットホームページの下記アドレスのお問い 合わせフォームをご利用くださるか,または下記事務 局までお問い合わせください。 お問い合わせページアドレス: https://www.hitachi-chem.co.jp/cgi-bin/contact/other/toiawase.cgi ・「製品紹介」に関するお問い合わせにつきましては,弊 社インターネットホームページの下記アドレスの各製品 紹介をクリックして,お問い合わせフォームをご利用 ください。 製品紹介ページアドレス: http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/products/index.html 編集委員 沼 田 俊 一 相 原 章 雄 片 雄 中 山 憲 一 市 村 茂 樹 前 川 麦 堀 部 治 篠 崎 明 渡 辺 伊 津 夫 安 克 彦 児 嶋 充 雅 板 橋 雅 彦 中 村 吉 宏 正 岡 和 隆 横 荻 野 晴 夫 長 谷 川 雅 之 関 泰 幸 山 口 正 憲 青 柳 壽 和 寄 家 光 泰 彦 日立化成テクニカルレポート 第52号 発 行 発 行 2009年 1月 元 日立化成工業株式会社 3346−3111 (大代表) 〒163-0449 東京都新宿区西新宿二丁目1 番1 号 (新宿三井ビル) 電話(03) 事務局 研究開発本部 研究企画室 電話 (03) 5381-2402 編集・発行人 金 文錫 印 刷 所 日立インターメディックス株式会社 〒101-0054 東京都千代田区神田錦町二丁目 1 番地 5 (ダイヤルイン案内) 電話(03) 5281−5001 ©2008 by Hitachi Chemical Co., Ltd. Printed in Japan (禁無断転載) 本資料に掲載している物性値は保証値ではありません。参考値です。実際の使用に当たりましては事前に十分なチェックをお願いいたします。 この印刷物は再生紙を使用しています。 印刷インキは大豆油インキを使用しております。 *このSOY INKマークは米国大豆協会承認マークです。 ホームページアドレス http://www.hitachi-chem.co.jp
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