マーケットウィークリー・878号 産業ニュース 2016.6.3 排ガス・燃費不正問題のインプリケーション 作成者:兵藤三郎 完成車メーカーの 不正、背景には過 酷な燃費競争等 昨年9月のフォルクスワーゲン(VW;独)社による違法な排ガス規制クリア問 題に引き続き、本年4月には三菱自(7211)において燃費不正問題が発覚した。軽 自動車に強みを持ち、インド市場でトップシェアを誇るスズキ(7269)も、燃費 を国が定めたのと違う方法で測定していたと発表した。一連の完成車メーカーに よる不正には、過酷な燃費競争や各国・地域の厳しい環境規制をクリアするため の開発競争激化が背景にある。 衝撃が大きかっ た、日・独メーカ ーの不正 厳格主義のイメージが強いドイツの大手メーカーや日本企業の不正であること から、マーケットに与えた衝撃は大きかった。三菱自動車は今回の不正問題に対 処するため、業務提携先の日産自(7201)から出資を受け入れ事実上傘下入りし、 再建を模索する方向で調整を進めている。今後は各国の検査体制の厳格化・公正 化、メーカー側の環境対応車への開発強化、下請けメーカーを含めた業界再編の 動き等が予想されよう。今回の産業テーマでは同問題のインプリケーションを考 察してみたい。 環境車で評価も、 燃費競争で技術開 発が追い付かず 三菱自動車は「ランサー」、「パジェロ」などの車種を生産、ラリーの世界で は高い知名度を持つ企業であったが、2000年と04年、2度に渡りリコール隠しが発 覚、危機的な経営状況に陥った。その際は、三菱重(7011)、三菱商(8058)、 三菱UFJ(8306)の3社が増資要請に応じ、三菱グループ支援のもと再建を進め てきた。昨今は、世界初の量産型電気自動車を上市するなど、環境対応車では一 定の評価を受けていた。しかし、競合他社との燃費競争の中、技術開発が追い付 かず、不正に手を染めた模様。 電池メーカーの再 編も選択肢の一つ に 前回は三菱グループの総力を結集し支援体制を構築したが、今回は各社とも余 力は乏しい模様。中核3社では、三菱重は豪華客船建造に伴う追加負担、三菱商は 資源開発に絡む特損計上、三菱UFJは日銀によるマイナス金利政策やシャープ 支援等の問題を抱えている。三菱自側も開発体制の再構築が急務と判断、日産に 支援を要請した。三菱自は日産自に軽自動車をOEM供給する一方、EVの領域 では競合する立場。現状、国内で量販EVを供給できるのはこの2社に限られる。 主要部材のリチウムイオン電池の供給メーカーは、「リーフ(日産)」向けがN EC(6701)との合弁会社(日産がマジョリティー)、一方三菱自に電池供給す るのはGSユアサ(6674)との合弁会社(GSユアサがマジョリティー)。生産 効率、開発リソース低減等を模索すれば、車載用リチウムイオン電池メーカーの 再編も選択肢の一つとなろう。 リチウムイオン電 池の需要は拡大傾 向 VWの不正はディーゼルエンジンの排ガス浄化装置を試験場での走行時のみに 稼働させる不正ソフトウエアを搭載する手法で行われた。欧州において、環境対 応車でのディーゼル車のプレゼンスは高かったが、今回の問題発覚後はEV車、 PEV車への需要シフトも想定されよう。トヨタ(7203)のプリウス(PEV車) やテスラモーターの新EV車の人気も高い。中国でも現在、EV車が強力に推奨 されており、車載用リチウムイオン電池の需要は拡大傾向にある。部材メーカー も巻き込んだ業界再編の流れに注目したい。主要部材は日本の化学メーカーが高 い競争力を持つ分野である。正極材メーカーは三井金(5706)や住友鉱(5713)、 田中化研(4080:JQ)、負極材ではクレハ(4023)、東海カ(5301)、セパレー マーケットウィークリー・878号 2016.6.3 ターでは旭化成(3407)、WSCOPE(6619)、電解質では三菱ケミHD(4188)、 ステラケミ(4109)などが挙げられる。 一部の電子部品メ ーカーは車載向け の比重を引き上げ 自動車業界における再編の動きは、電池等に限定されてはいない。代表的な例 は日産自のカルソカンセ(7248)全保有株式の売却(日経5月24日報道より)の検 討であろう。同社は熱交換器やマフラー等のメーカーで、8割強が日産自向け。売 却後の取引関係や、売却株式の行方に注目が集まろう。従来大手の完成車メーカ ーは系列を構成し、次期モデル等の開発を共同で行ってきた。しかし、電気自動 車の登場が象徴するように、車の動力はエンジン等の内燃機からモーターへのシ フトに伴い、電装化が急速に進行し、状況は大きく変化した。「系列」は死語に なりつつあり、新たな部品メーカーも登場している。従来電子部品メーカーと位 置づけられていた日電産(6594)、アルプス(6770)、TDK(6762)、京セラ (6971)等多くの企業が車載向け比重を上げている。 ◇主車載用途に注力する電子部品メーカー 銘柄 日電産 TDK アルプス イリソ電子 京セラ (単位:円、倍) コード 株価 PER コメント 6594 6762 6770 6908JQ 6971 8,382 6,430 2,174 6,190 5,481 25.4 16.2 13.3 13.9 23.7 ホンダ子会社の買収で車載ECU事業強化、事業の柱の一つに ハイブリッドエンジン用モーター部品供給 センサー、通信モジュール等車載向け展開、車載情報端末も 中堅コネクターメーカー、車載向けに強み グロープラグ、カメラモジュール等車載関連製品展開 (注)株価は5月30日の終値、PERは今期予想。コード横のJQは東証ジャスダック、他は東証 (出所)各種資料よりCAM作成 軽量化への取り組 み、炭素繊維、C NF活用が鍵 燃費向上への取り組みとして注目されるのが、車体の軽量化である。車体重量 の100kg軽量化は燃費1km/l向上につながると言われている。かつては、セラミッ クエンジン等の活用が模索されたが、その研究は頓挫した。一方、新たな取り組 みとして、まだ価格が高く一部高級車のみだが、炭素繊維の活用は実現化しつつ ある。植物由来の新素材、セルロースナノファイバー(CNF)の研究も進んで いる。炭素繊維の関連銘柄は東レ(3402)、帝人(3401)など、CNFでは日本 紙(3863)等の製紙会社、星光PMC(4963)や一工薬(4461)などの化学メー カーが挙げられよう。 検査の厳格化・公 正化で堀場製に注 目 検査体制の厳格・公正化では、排ガス計測装置大手の堀場製(6856)に注目し たい。同社はM&Aを活用し、排ガス以外の自動車向け計測装置への事業領域拡 大を図っている。国内の燃費計測はメーカー側の申告に基づいていたが、今回の 不正発覚に伴い、第三者機関の認証等が求められる方向へ改善されよう。計測機 器の需要拡大を想定する。 (単位:円、倍) ◇主な関連銘柄 銘柄 コード 株価 PER コメント 帝人 3401 382 10.4 炭素繊維事業展開、車載用途のポテンシャルは高い 日本紙 3863 1,930 12.4 CNF関連の中核銘柄、需要拡大の恩恵享受 WSCOPE 6619 6,140 37.9 セパレータメーカー、リチウムイオン電池需要拡大の恩恵享受 GSユアサ 6674 461 堀場製 6856 4,710 日産自 7201 1,105.0 カルソカンセ 7248 871 15.9 リスクは残るが、リチウムイオン電池の販売拡大を期待 18.4 排ガス計測装置大手、検査の厳格・公正化により需要拡大を見込む 8.7 三菱自をグループ化、販売台数拡大へ 9.3 日産自との関係変わらず、他社向け販路拡大を予想 (注)株価は5月30日の終値、PERは今期予想 (出所)各種資料よりCAM作成
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