図書館員のノートから 参考図書のご紹介 55 <続>音楽作品になった題材を 調べるときに −美 術 篇− Music inspired by art : a guide to recordings Gary Evans(Music Library Association index and bibliography series ; no. 30) Lanham, Md.: Scarecrow Press : Music Library Association, 2002 (請求記号⃝X-060/E) 以前、当欄で Kompendium der musikalischen Sujets (Bärenreiter, 2001)という歴史や文学等に関する人 物・作品・事件を対象にした音楽作品を取り上げた (注) 今回は、美術作品を 便覧が紹介されています。 題材にした音楽作品を探したい時、便利に使える参 考図書を紹介します。 参考図書室のレファレンス・カウンターでは 「この曲のもとになった絵を見たいのだが……」 という質問を受けることがあります。ムソルグ スキーの《展覧会の絵》、ラフマニノフの《死 の島》、リストの《水の上を歩くパオラの聖フ ランチェスコ》等々。当館所蔵の画集の種類は 限られているので、必ずしも利用者の希望に 応えられるわけではないのですが、最近はイン ターネットの画像検索という強い味方を得ら れるようになりました。そんな時、「どんな絵 に誰が作曲をしているか」網羅的に調べられる トゥールはないかしらと思っていたら、ありま した!今回、紹介する Music inspired by art で す。この本は、副題からわかるようにディスコ グラフィーなのですが、本文にあたる美術家別 リストの膨大さに、肝心の録音情報は「おまけ」 にしか思えないほどです。 著 者Gary Evans(1942− ) は ア メ リ カ 人。 ヴァージニア州のフェラム・カレッジで音楽理 論を教え、且つピアニスト、作曲家でもあり ます。美術に関しても学際的な研究を続け、 Music inspired by art and literature という講 座が本書のもととなりました。 本書は3部分から構成されています。まず、 美術家の名前別に音楽作品を列挙したリスト (約500名、全317ページの内268ページを占め ます)。画家ばかりでなく彫刻家、版画家、写 真家、漫画家(ディズニーも)等も含まれてい ます。その次は、特定の人名ではなくメディア 樋口眞規子 別(建築、彫刻等々)の作品リスト、最後は作 曲家名(クラシックからポップス、ロック・グ ループまで、その数1,200)による索引です。 本体にあたる美術家別リストは、以下の記載 事項から成ります。 氏名(生没年、国籍、活動ジャンル) 作曲家名(生没年、国籍)作品名、作曲年、 演奏手段、[演奏時間]、コメント (録音メディア)レーベル、録音番号、 タイトル、発売年 上記凡例を見ると、美術作品名の項目があり ません。リストアップされた音楽作品が、特定 の美術作品だけでなく複数の作品や美術家自身 やその周辺を対象としているものも含まれてい るからです。 試しにパウル・クレーの項目を見ると、13ペー ジに渡り作曲家76人の86作品が載っています。 その中には助川敏弥、武満徹、吉松隆といった 日本人の名前もあります。 彼らは他にどんな画家に関連した作品を書い ているのかな、と今度は作曲家別索引を見る と、”S”で始まる項目には坂本龍一の名が。”Y” の項目には山下洋輔の名も。武満徹の項目には、 クレーの他にもデルヴォー、デュシャン、ミロ、 北斎等12人もの画家の名が挙げられています。 北斎?それでは広重は?写楽は?歌麿は? 特定の目的がなくてもページを繰っていくと 芋蔓式に楽しみの広がる書誌です。 (注) 曽根雅俊「音楽作品になった題材を調べるとき に」『ぱるらんど』235(2003.6)p.6(請求記 号⃝P1154 / 235) ひぐち まきこ 読み止しのままになっていたI.マキューアン『贖罪』に再挑戦。 読後、ざわざわと心波立つまま放り出されるのはわかっているけれど。 8
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