katunao - Toyohashi SOZO College

Bulletin of Toyohashi Sozo College
1997, No. 1, 33– 44
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C I M の課題と展望(佐藤)
CIMの課題と展望
佐 藤 勝 尚
キーワード:CIM,エルゴノミックス,VMS
論旨
バブル経済の崩壊後,日本の製造業におけるCIMは1990年前後のCIM構築ブームを経
て大きな転換期を迎えている.本稿はこうした中での CIM を検討して,日本型 CIM の課
題と将来の方向を示した.とりわけ,これからのCIM構築においてはエルゴノミックスの
アプローチをもつことが重要であり,システム構築においてはネットワークをベースと
したVMSやCEの活用,さらにCIMを十分操作しうる人的資源の能力開発が求められる.
1. はじめに
日本において CIM が具体化されるようになったのは 1980 年代中ごろからである.FA の普
及期の80 年代前半は「少品種大量生産」に代わって「多品種少量生産」の確立と国際競争力の
強化を図った時期であった.そして,1985年9月のG5の「プラザ合意」による急激な円高は日
本の製造業をCIMに対して大きく目を向けさせた.日本の製造業はこの円高の影響を克服し
バブル期に入っていった.
この時期は市場の変化速度が早く,
また大きく変化する顧客ニーズ
に合わせて製品のライフサイクルが短縮化されるという国内市場の競争,
また一方で情報化投
資意欲の高まりという,2 つを背景として FA の高度化と,異なる現場積上げのソフト技術を
ベースとした生販一体型の日本独自のCIM概念を創出していった.バブルの崩壊後から現在
は90年代前後のCIM構築ブームを経て急速に普及したシステムでのシステムの優位性をめぐ
る競争期に入っていると見ることができる.
本稿はこうした中で,CIM を検討することによって日本型 CIM がどのような課題と方向を
もつかを考えてみたい.
2. 日本における CIM の動態
(1) C IM の概念
1)
CIM の概念は必ずしも一定していない が日本で ME 化が最も進んでいると考えられる総
1) 人見勝人『CIM 概論』
(1989 年)では「共通データベースで真に融合化された総体」を CIM としてい
る.CAD,CAM,CAP は CIM を支える三本柱(3C)であり,三位一体であるとし,
“物の流れ”と“情
報の流れ”の統合を CIM の概念としている.
また,米国のCAM-IのATPCによればCIMの概念は次の諸構造で構成されている.①管理構造②機
能/活動構造③情報構造④コンピュータシステム構造⑤物理構造
(CAM-I,
1989, “The Function and Activity Structure in a CIM” CIM Review, Spring)
.
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合電気メーカーの定義を次表に示した.総合電気メーカーは重電,家電,コンピュータ,半導
体,
ソフトウエアといった一連の事業内容を重層的に展開しておりME製品の製造者であると
ともにユーザーでもある.
表 1. 総合電気メーカー各社の CIM の定義
日立製作所
受注から設計・製造・検査・納入に至る企業活動のすべてをコンピュー
タにより,総合データベースと情報ネットワークによって,ひとつにつ
ないでしまう,高効率かつフレキシブルな情報戦略統合システム
東
製品の販売,生産,開発・設計管理を統合した市場対応型の生産管理シ
ステム(OT-CIM)
芝
三 菱 電 機
生産(販売・物流・製造・資材・設計等を含む広義の生産)の適応速度
を市場の変化速度に匹敵するレベルに高める為の具体的な業務設計及び,
これを支援するコンピュータシステムであり,これにより①市場要求に
対し機会を失う事なく,②生産仕組み内の冗長性(例えば在庫,間接人員)
最小を達成し経営に対する競争優位に貢献すること
日 本 電 気
開発・設計・生産・販売にわたる全ての生産活動に関するさまざまな情
報をネットワークで有機的に統合し,コンピュータによる計画・指示の
もとに各部門のアクションの同期化と協調化を実現する生産システム
富
通
工場レベルに主体を置いた生産・技術統合システムの概念をさらに発展
させて,企業レベルにおける販売・生産計画システムを結び付け,受注
から製品納入までの生産活動を統合した生産システム
日本IBM
製造における技術,生産,販売の諸機能を,経営戦略のもとに統合する
情報システム
士
(注)
各種資料により作成.ただし,時期・場所は未調整.順不同.
〔出所〕
野口 祐(編)『CIM 経営管理の国際的展開』
これら定義から日本におけるCIMの輪郭を描いてみると「CIMとは受注から設計,製造,運
搬,在庫,出荷までのFA化された生産部門と販売,技術間の統合により市場環境の変化に素早
く対応しようとするシステム」であるといえる.
(2) CIM の発展の段階
CIM はコンピュータ利用技術に支えられて発展して来たわけであるが,ここでこの CIM の
2)
発展の段階を CIM のシステムの統合レベルから見てみよう. これを示したのが図 1 である.
2) CIM の発展の段階については下記の文献による.
小原 重信 「CIM の経営フレームワーク」
『CIM と経営戦略』:54–55.
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図 1. CIM 発展の段階
〔出所〕
小原重信 1991,『CIM 経営戦略』工業調査会
① レベル 0:規模の経済の追求システム
このレベルでは大規模生産によって高い生産性を図り,
単位あたりの資本と製造コストの
低下を図る.同一あるいは類似製品によって繰り返し学習効果で良品質を追求するシステ
ムである
② レベル 1CIM(第 1 世代の CIM)
:混流生産・多品種生産などの範囲の経済追求システム
製品の多様化・差別化を指向しながら,バラエティコストや在庫を減少させて,コストと市
場の柔軟性を重視するシステムである
③ レベル 2CIM(第 2 世代の CIM)
:混流生産・多品種生産の高度情報化での範囲の経済追求システム
市場と生産・物流の統合全生産の自動化や高度の知能化のシステムである
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④ レベル 3CIM(第 3 世代の CIM)
:経営戦略と生産システムの統合化での統合の経済追求システム
市場――開発――生産――販売――物流を情報で一体化させ戦略展開を可能とさせるシステ
ムである.そこではシステムは知能化される
このような CIM の統合レベルをCIMの発展の段階から見ると次の2 つの方向で進展してい
くと考えられる.
① 設備面でのメカトロニクス化は推進され,その自動化はネットワークによる情報との統
合が図られていく
② 生産機能を中心として販売,開発,設計,技術,物流の各機能とが統合されていく
(3) CIM における CALS 標準
現在の CIM の典型的な例としては次の 2 つがあげられる.
3)
① JIT と標準化という枠組みの中で運用していく製販統合化 CIM
② 工程管理システムと組み合わせた,いわゆる JIT/CIM
これらいずれの CIM においても,時間競争への対応のための製販サイクルのスピード化と
在庫削減を大きなねらいとし,実需要を工場でいかに早く把握し,
それを生産計画に反映する
取り組みである.
そのため手段として関連する組織間でのネットワーク活用が,実需情報,計画・在庫情報,
調達・発注情報,等の情報の授受と共有化が行われ,またCIMの特徴である情報の双方向性を
持つことになる.
さらに,これらの情報や技術データ(情報)とのデータベース化による情報の共有化やそれ
4)
に基づくDSSによりビジネスは大きく効率化されていく.特に,近年のCALS の登場はビジ
ネスデータや技術データのデータ交換のオープンな標準化を押し進め,
グローバルな環境で製
品のライフサイクル全体にわたって,
飛躍的なビジネスの効率化とスピード化を果たすと期待
される.このようなCALS標準の採用を単なるデータ交換のフォーマットだけにとどめずに,
その再利用の有効化を図るため,
コンピュータがそのデータ内容を理解せるような業務の体系
化や標準化が必要とされる.
(4) CIM における組織と人的資源管理
CIM は「人間労働」から「情報」を主要資源とする生産のパラダイムシフトであるという点
3) 製販統合と生産システムについては岡本博公『製販統合』
(日本経済新聞社,1996,3章)が事例を含
めて論じている.
4) いわゆる CALS 標準としての代表的なものは次のものである.
①技術データ交換の STEP 関連標準
②技術ドキュメント交換の SGML
③ビジネスデータ交換の UN/EDIFACT
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を考えると,CIM による統合化は生産性に変化を起こし,組織,個人,職場習慣に大きく影響
を与える.例えば,個人にとっては各種の情報にアクセスする自由度の増加が問題の認識,問
題の解決をより容易にする.これは個人の自己充足,チャレンジ,改善,生産性の向上など
CIM の潜在力を発揮させる.しかしながら,他方では CIM によって情報の洪水,VDT などに
よる視力疲労,ストレスも発生する.これらのモデル化をヤング・スレム・レビイが図 2 のよ
うに示したが日本における CIM にも同じような状況が当然あると考えられる.
このモデルは CIM 化の影響として①組織,②職場環境と人間行動,③目標と効果,の 3 つに
プラスあるいはマイナスに与えられているとわかるが,
プラスあるいはマイナスの岐路を決定
するのは,組織の人的資源管理にあると位置づけている.
図 2. 職場と人間行動における技術変化の影響
〔出所〕
Andrew Young, Charles Slem『The Social CIM』
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3. 製造業・CIM を取り巻く環境変化
CIMは我が国企業を取り巻く内外の経営環境への適合を模索し,
その解決に取り組む中で当
該企業の競争力の大きく影響を及ぼす部分からその姿を発展させて来た.CIM の課題とこれ
からの方向を探るにあたりそれらの動向を見てみることにしよう.
(1) 顧客ニーズの変化
市場のニーズや欲求のますます高度化と,
不透明化は単に性能や機能だけでは商品が売れな
くなってきている.メンテナンス,保証,アフターサービス,周辺ソフトの提供といった商品
の増幅化を伴った商品の多品種化が求められるようになってきた.
また,特に顧客の嗜好変化
や嗜好革新が激しい商品はもちろんのこと全般的に商品ライフサイクルは短縮化傾向にある.
さらにサービスの比率の上昇の高まりも重要な要素となってきた.
これらはカスタマイズのフレキシブルな生産への要求を高めることになる.
また一方,
顧客
ニーズは地球にやさしい,
あるいはやさしいという言葉で代表されるようなエルゴノミックス
の視点を CIM にも要求してきている.
(2) 競争環境の変化
競争環境の変化の最も重要なものはスピードである.このスピードは商品が顧客に手に入
るスピードと目まぐるしく変化する顧客ニーズに即応できるスピード,
さらに情報の浸透する
スピード,すなわち情報が発信され,伝達され,コミュニケーションが成り立つまでのスピー
ド,さらにこれら情報の浸透の範囲のグローバル化である.ここでは,例えばこのために①実
需情報を始動点とする生産・販売管理システムであること②在庫を前提としない受注型・無
5)
6)
在庫の生産・販売システムとすること ③フレキシビリティ が高く,短いリードタイムで一
個流し生産とすること④顧客の受注から納品までの総合リードタイム短縮を目指し,情報や物
流ネットワークを整備・活用すること,が CIM に求められる.
またバーチャル・コーポレーションや,ディファクト・スタンダードでの競争は,商品・サー
ビスが市場に出た時点ではなく,商品が市場に出る前に結果が出てしまうという競争の形態に
変化させている.さらに,
この情報の浸透や情報伝達のスピードが加速することにより意思決
定の遅れやアクションの遅れのリスクは増大する.かつてのように他社の動向を見て競争対
5) このような無在庫のシステムとは異なる動きもある.
たとえばアパレルやファッション産業では物
造りの過程の中に消費者を参加させ始めている.
メーカーと消費者が一緒に物造りをしていくことで
新しい市場価値を創造する過程に変化しつつある.
ここではメーカーと消費者のコミュニケーション
の時間に相当する期間の半製品は仕掛在庫として存在する.
6)“フレキシブルな”
という意味は,例えば自動車産業では生産総量の実現をフレキシブルにしないた
めに品種(作業,物の流れ)の側にフレキシビリティを求めることをいう.小野隆生「CIMと生産管理」
『CIM 経営管理の国際的展開』2 章.
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応を考えるやり方では勝てなくなってきた.
勝敗は極めて短時間に決まってしまうのである.
このような競争環境は企業の経営機能の全体的な対応を求めると同時にその中で競争対応
として CIM にどのような役割を果たさせるべきなのか,を重要な検討課題とする.
(3) グローバリゼーション
製造業のグローバルな展開は製造拠点の分散化を地球規模で進めてきた.当該企業の工場
間さらに関連会社や取引先とのネットワーク,生産,ロジスティクス,R&Dや販売を地球規模
で展開する仕組みがますます重要となってきた.
(4) 人的資源問題
製造業離れは日本国内だけにとどまらず,NIES 諸国でも始まっている.若者は物造りを好
7)
まず深刻な状況 が目前に差し迫っている.特に日本の理工系の就職先での製造業離れと人
手不足の状況からも見ることができる.
前者は CIM を含めた科学技術に関与する人的資源が乏しくなる兆候であり,後者は技能者
の不足を物語っている.
日本の製造業はこれら技能者に負うところが大きく,それらの不足に
対応するシステムの見直しを迫られているといえる.
(5) 地球環境問題
地球環境問題の対策気運が高まっている.
「環境対策を行っていない企業の製品は買わない,
取引しない,輸入させない」さらには「ドイツ等では銀行の貸付利子を他社より高くする」な
どといった動きも起こっている.
これについては 1996 年 10 月に ISO14000 関連が国際規格として成立:発行される運びとな
り,
そこにおいては,①環境問題の対策は全経営活動と総合させる必要がある②環境保全にあ
たっては製品,
製造プロセス,
サービスという全般にわたる内容が対象になる③企業はできる
ことから,環境対策に着手すべきであり「継続的な改善」を進めることが必要である④活動は
EMS(環境マネジメント・システム)としての活動を重視し,監査の必要性がある,とされて
いる.日本においても,この ISO 関係に対応の必要があるとともに 1992 年 4 月に設定された
「再生資源の利用の促進に対する法律」いわゆる,リサイクル法への対応も必要である.これ
らのことは製造メーカーに対し,
いろいろな形で規制として迫っているといえる.これらに対
応するよう CIM の見直しが求められている.
7) 例えば「産業別就業者割合の推移」
(
『労働力調査』総務庁総計局)によれば製造業の割合(15∼29才)
昭和45年で34.8%であったのが平成 2年では24%,
「首都圏一部国立大学理工系学部卒業生の就職先」
(
“製造業離れへの対応”産業研究所)によれば製造業への割合は1966年で69.8%であったのが1988年
では 36.6% である.
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豊橋創造大学紀要 第 1 号
4. CIM の今後の方向
激しく変化する市場や多様化する顧客ニーズに対応できるスピード,
製品ライフサイクルの
短縮化,地球環境対策問題,労働力不足,技能者の不足,等これらは CIM に大きく変革を求め
ている.
ここではこれら CIM に対する課題を(1)理念レベル(2)システムレベル(3)運用レベルと
いう視点から,
重要と考えられる課題を選択的に取り上げてこれからの方向を探ってみたい.
(1) エルゴノミックスの考えに立脚した CIM の確立
CIMに対する理念レベルの課題はエルゴノミックスの考えに立脚した,
人中心の商品設計で
あり,CIM への対応であろう.人に優しいとは,安全であること,操作がしやすいこと,環境
性がよいこと,親近感があることである.さらに,これは消費者だけでなく生活者にも優しい
ことが求められ,環境破壊につながるようなもの,資源の有効活用でないようなもの,につい
ても定量化して明確にしていくことが求められている.
このことは,資源の採取から,商品企画,設計,製造,流通,消費,廃棄,リサイクルといっ
たすべての過程の中でCIMをとらえ,そこからエルゴノミックスの発想をもってCIMの構築
をしていくことが求められる.
この発想は DFD(Desighn For Disassembly)としてCIMのサブシステムである技術システム
や製造システムに取り入れられ始めている.
8)
このモデルケースとして,レンズ付フィルム は分解性とリサイクル処理性,それにリサイ
クルシステムを持つものとして注目されている.
この商品は設計段階での分解性を追求し,
リ
サイクル段階においても回収・分別・再資源化の追求をシステム化して運営するようになっ
ており,約 70% が再資源化されている.DFD をふまえた新製品開発のプロセスの例を次に示
してある.これからわかるように,製品のコンセプト段階から再資源化・環境への配慮が特に
重要であり,また設計段階においてもその分解性の考慮,再資源化材料の選定,再資源性の表
示による有要品分離のための工夫,等とそのための評価システムの確立が必要である.
しかしながら多くの企業ではまだその大きな関心は市場・顧客であり,
コストや品質である
のでこのような DFD による対応だけでは不十分で顧客消費,廃棄・処理の場面にかかわって
いる製品を生み出す企業,使用する消費者,回収・処理する業者,環境行政を担当する国,自
治体,といった全体のシステムの中での DFD の研究と実践が今後必要となると考える.
一方,CIM は工場における自動化,省力化・省人化を推進し,重労働,悪環境からの脱却が
期待できる.ただ,情報を取り扱う機会が増えるので VDT 作業が増加する傾向にある.した
8)「レンズ付フィルム現場の風景リサイクル」
朝日新聞,1994 年9 月 30 日「富士写真フィルム・EP 委
員会」
“TRIGGER”1992 年 12 月「年間 300 万本の 70% を回収しストロボユニットを再利用」
“日経メカ
ニカル”1991 年 9 月号.
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C I M の課題と展望(佐藤)
再資源化・環境によい製品コンセプトの追求
▼
最 適 な 材 料 選 定
技
●DFA ▼ 組立性設計・組立性の追求
術
情
組立のしやすさで組立コストの低減
●DFD ▼ 報
シ
ス
テ
ム
分解性設計・分解性の追求
分解のしやすさでサービスコストの低減
▼
再資源化包装材選定
再資源化とそのための分解コストの低減
再資源性表示の工夫
有要品分離とそのための分離
・
処理コストの低減
▼
評 価
▼
地球環境保護・資源保護
図 3. DFD をふまえた製品開発プロセス
がって,
エルゴノミックス発想による人に優しいCIMは作業者レベルでの労働の人間化,
工程
や職場単位での労働の人間化,企業レベルでの人間化の追求によってなされると考える.
(2) CIM 構築におけるネットワーク活用の VMS と新しい CE の実現
① VMS の実現
CIMにたいしてシステムとして要求される重要なものはスピード化とフレキシビリティ
9)
化への対応であろう.これには,コンピュータネットワークを使ったVMS (バーチャル生
産システム)と CE(コンカレント・エンジニアリング)の高度な構築が必要である.VMS
は物理的な時空間の壁を越え,
コンピュータを利用して様々な検証や評価を事前に行える.
生産ライン,加工ライン,各種生産設備,材料部品,そこで働く人達,また,設計,解析,試
作,加工,生産といった生産プロセスを「モデリング技術」,
「シミュレーション技術」
,等の
技術を駆使し,人間の知恵,アイディア,経験を生かしながら要求される機能や条件を実現
するための最適な生産システムをコンピュータ内の仮想空間に実現し,
それを現実にトラン
スファーして様々に応用するものである.
9) このような方向での取り組みが始まっている.花王は1995年 4月に和歌山工場と九州工場の2つの
工場を高速・デジタル回線で結んで両工場の生産設備の操業状況を一目でわかり,コントロールでき
る環境を再現させた.同社はこれを「バーチャルファクトリー」と呼んでいる.平坂敏夫 1996,
『花
王情報システム革命』ダイヤモンド社.
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豊橋創造大学紀要 第 1 号
世界の中でどことどこにどんな工場と工程を作るのか,
そこにどんな生産システムを構築
するのか,どんな運営の仕方をするのか,等の検討・評価をVMSで行うことにより,スピー
ディに問題点が事前に発見でき,時間やリスクを最小にすることができる.VMS はこのた
めの有力なツールとなることが期待される.しかもこれらの検討・評価はネットワークを
介して地理的に離れている人達も参画できることになる.このようなVMSでのバーチャル
ファクトリの全体イメージを次に示しておく.
図 4. バーチャルファクトリーの全体イメージ
〔出所〕
野口 恒 1996,
『バーチャル・ファクトリー』日刊工業新聞社
C I M の課題と展望(佐藤)
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ここでは,当然ながら実際に物を造るのは現実の工場である.VMS は与えられた環境や条
件の中で最適な物造りが何かを実現するためのツールを提供することになる.これからの物
造りはバーチャルな世界とリアルな世界が相互に交換し,
影響しあいながら最適な物造りを実
現していく「バーチャル・リアル・相互交換システム」がCIMの主流を占めていくと考えられ
る.
② 新しい CE の実現
従来の CE(コンカレント・エンジニアリング)は製品の設計開発手法の色彩が強かった
が,これからのCEはそれに加えて顧客をも取り込んだ製品作りが必要となろう.ここでの
CEは情報ネットワークとコンピュータシミュレーションを駆使して設計から生産さらに
顧客までの情報の流れを“双方向”に行い最終製品を作りあげるものである.このことは顧
客1人1人を製品作りのプロセスに参加させて,そこでコンピュータ・シミュレーション機
能を使って顧客とインタラクティブに情報を交換するという製品作りのプロセスそのもの
が,
製品が市場価値を持つのと同じように市場価値を生み出すことになる.まさにその製品
はその人だけの仕様の製品となるわけである.
(3) CIM を十分操作しうる人的資源の能力開発
いかに,立派な CIM を構築したとしてもそのシステムを十分操作しうる人材がいなければ
システムは有効な稼動をしない.CIMを運用面から考えるとCIM を操作する人材育成は急務
である.
物造りのハードウエアを作る技術にはかなりの蓄積があるが,
それに比べてソフトウ
エア面では遅れている.VMSは物造りにおけるハードウエア技術のソフトウエア化を推進す
る強力な武器であるだけに,
CIMの統合体系に合わせた能力開発の体系化を図り,専門的で継
続的な訓練が要請される.
5. まとめ
これまでに展開した日本型 CIM の今後の方向は,CIM に関する細かい動きを捨象し,現実
的,概念的な形でその方向性を概観したものである.
これからの物造りは,
今後増々重要視されるべきエルゴノミックスの視点から,ネットワー
クを活用したバーチャルとリアルの世界が相互に影響し合いながら最適な物造りを実現して
いく「バーチャル・リアル・相互交換システム」と顧客 1 人 1 人がこの物造りに参加していく
「顧客参加システム」が CIM の主流を占めていくこになるだろう.ここでは,CIM を運用して
いく人的資源の能力開発を進めていくことが鍵になるであろう.
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豊橋創造大学紀要 第 1 号
引用・参考文献
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