日本工業大学研究報告 第 45巻 第 1号 (平成 27年6月) Report of Researches, Nippon Institute of Technology, Vol.45, No.1 (June, 2015) 修士論文概要 射出成形における汎用離型抵抗計測金型の開発† 中西 貴洸* (2015 年 2 月 3 日受理) Development of Demolding Resistance Measurement Mold in Injection Molding Takahiro Nakanishi (Received February 3,2015) 1.緒言 エジェクタピン 成形品 プラスチックレンズには、 形状・寸法や表面性状に高い精 突出し 離型抵抗 度が要求されている。しかし、高い寸法精度と良好な表面 性状を得るために樹脂に高い圧力を負荷すると、製品を抜 き出す際に、図 1 に示すような離型抵抗が発生し、その結 キャビティ 果、成形品に変形や割れが引き起こされる。そのため、高 い転写率を保ちながら離型抵抗を低減させる方法が検討さ れている (1)Before demolding 1),2)。これらの方法を検討する際には、まず、離 (2)Demolding process Fig.1 Generation of demolding resistance 型抵抗を正確に計測することが重要となる。そこで、これ プリロード 調整用ボルト までに、各種離型抵抗計測金型が設計・製作され、各種成形 渦電流式変位センサ キャビティブロックホルダー キャビティブロック 条件において計測実験が行なわれてきた 3),4)。しかし、様々 キャビティ なキャビティ形状や表面性状・処理において、離型抵抗を より高精度に計測するためには、汎用性を有し、かつ、高 い測定感度を持つセンサを内蔵した離型抵抗計測金型が必 要となった。そこで本研究では、上記要求を満足する新し い汎用離型抵抗計測金型を設計・製作し、 その評価を行った。 2.離型抵抗計測金型の設計・製作 本研究において設計・製作した離型抵抗計測金型の基本 構造を図 2 に示す。本金型は、横井らが提案した離型抵抗 計測金型 4) 高感度力センサ と、基本的に同じ計測原理となっている。本金 分割面 樹脂圧力センサ Fig.2 Structure of measurement mold 型には、離型抵抗を計測するための高感度力センサが取り センサ支持部 B 付けられた離型抵抗計測ユニットが組み込まれている。ま センサ支持部 A キャビティ入れ子 シャフト た、エジェクタピンの変位を計測するための渦電流式変位 センサ、および、樹脂圧力センサが取り付けられる構造と なっている。キャビティは、2 個設けられている。ゲート プリロード調整用ボルト は、サイドゲートである。図 3 に本金型の離型抵抗の計測 ユニットを抜き出して示す。従来の金型 3) (1)Structure of sensor units では、使用した キャビティブロック 力センサの測定感度が低いために、離型抵抗の計測精度に 問題が生じた。そこで本研究では、図 4 に示す 500N 以下の 高感度力センサ ___________________________________________________________________________________________________________________________________________ † * キャビティブロックホルダー 本論文の一部は、プラスチック成形加工学会 第 22 回秋季大会 成形加工シンポジア'14(新潟)において発表した。 (2)Cross section of sensor units 日本工業大学大学院 博士前期課程 機械システム工学専攻 2015 年 3 月修了(村田研究室) 離型抵抗 Fig.3 Measurement method of demolding resistance 97 日本工業大学研究報告 第 45巻 第 1号 (平成 27年6月) Report of Researches, Nippon Institute of Technology, Vol.45, No.1 (June, 2015) 力を高い感度で計測できる高感度力センサ Type9217A (日本 3.センサ出力較正実験 キスラー㈱) を使用した。エジェクタピンによる成形品の 3.1 較正実験方法 突出時に、成形品がキャビティ入れ子に貼り着くことによ 実成形における計測実験を行う前に、本金型の出力較正 り、センサ支持部 A が図の右側に引っ張られ、センサ受圧 実験を行なった。図 8 に実験装置の構成を示す。また、表 面がセンサ支持部 B の面に押し付けられる。その結果、離 1 に較正実験の条件を示す。センサに負荷するプリロード 型抵抗が計測される。計測の際に、受圧面とセンサ支持部 値を、0 から 30N へと段階的に変化させながら、重錘を用 B との間に隙間が生じると、正確な計測できないため、本 いて 4 段階にキャビティ入れ子に負荷をかけてセンサ出力 金型では、プリロード調整用ボルトにより、上記隙間の調 の計測を行った。 整が行える構造とした。また、従来の金型において、キャ 3.2 出力検定実験結果 ビティ形状や表面性状・処理の違いが、離型抵抗に及ぼす 影響を検討するためには、キャビティ形状や表面性状・処理 各プリロード値における出力(センサ出力-プリロード をそれぞれ変更した各種入れ子を製作し、その都度交換し 値)と重錘重量の関係を図 8 に示す。図中の破線は、キャビ ながら計測を行う必要があった。その際、入れ子外周の寸 ティ入れ子とモールドベースとの摺動面に発生する摩擦抵 法と表面性状が入れ子ごとに異なると、入れ子とモールド 抗がないと仮定した場合の理想値を示している。0 から 10 N ベースとの間のクリアランスと摺動面の表面性状が変化し、 のプリロード値では、重錘重量の増加に伴い、出力が直線 その結果、両者の間の摩擦抵抗が変化し、各種入れ子間に 的に増加している。一方、15N 以上のプリロード値では、 おいて計測誤差が生じることが問題となっていた。そこで センサ出力が理想値から徐々に離れ、直線性が失われてい 本金型では、図 5 に示すようにキャビティ入れ子を、キャ る。このように、本金型では、プリロード値の変化が出力 ビティブロックとホルダーの二重構造として、ブロックを に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。以上の結果 交換するだけで、上記クリアランスと摺動面の表面性状を より、本金型では、プリロード値を 0 から 10N 以内の一定 変えることなく計測を行なえるようにした。図 6 にキャビ 値に設定して、計測を行う必要があることが示唆された。 ティ形状を示す。エジェクタピンの先端を Z 形状にするこ プリロード調整用ボルト とで、型開時に成形品が、可動側キャビティ面から離れな チャージアンプ いようにした。図 7 に設計・製作した金型の外観を示す。 可動側金型 高感度力センサ アイボルト付入れ子 受圧面 滑車 紐 定盤 Fig.4 Appearance of Force transducer 台車 重錘 Fig.8 Experimental device for calibration Cavity block holder Cavity block Cavity insert Table 1 Fig.5 Appearance of cavity insert エジェクタピン (Z 形状) エジェクタピン (Z 形状) スプルーピン (Z 形状) Experiment conditions for calibration プリロード(N) 0/5/10/15/20/25/30 重錘荷重(N) 24.6/48.8/73.1/97.9 離型抵抗計測領域 スプルーピン (Z 形状) Fig.6 Shape of molded product(Units:mm) キャビティ部 固定側 可動側 Fig.9 Result of calibration experiment Fig.7 Appearance of measurement mold 98 日本工業大学研究報告 第 45巻 第 1号 (平成 27年6月) Report of Researches, Nippon Institute of Technology, Vol.45, No.1 (June, 2015) 4.プリロード調整機構の設計・製作 ウォームギア 4.1 計測における課題 出力較正実験から得られた結果に基づいて、プリロード 値を設定し、金型の射出成形機型締装置へ取付けを行った。 その際、金型への型締力の負荷や、金型温度変化に伴う金 型の膨張・収縮、さらに、金型組立時の組付けボルトの締 め具合などによって型板の厚みが変化し、その結果、プリ ウォーム軸受 ロード値が変動することが明らかとなった。この問題を解 ウォーム Fig.12 Appearance of preload adjustment mechanism 決するためには、成形工程の中で、プリロード値を調整す る必要があることが示唆された。しかし、 本金型構造では、 5.離型抵抗計測実験 図 10 に示すように、金型背面に取り付けられたプリロード 調整用ボルトが型締装置のプラテンにより隠れるため、プ 5.1 実験方法 リロードを調整するには、その都度、金型を型締装置から プリロード調整機構が設置された本金型を用いて、計測 取り外して調整を繰り返す煩雑な作業が必要となった。そ 実験を行った。 樹脂は、 フルオレン含有ポリエステ FBP2-2(大 こで、金型をプラテンに取付けたままの状態で、金型側面 阪ガスケミカル㈱)を用いた。射出成形機には、 よりプリロード値が調整できるように、ウォームギアを用 ROBOSHOTα-50iAP(ファナック㈱,最大型締力 500kN)を用い いたプリロード調整機構の設計・製作を行なった。 た。表 1 に成形条件を示す。本実験では、保持圧力を 5 水 4.2 プリロード調整機構の構造 準に変化させて計測を行った。各ショット毎に、プリロー 本研究において設計・製作したウォームギアを用いたプリ ド値を 10N に調節して成形を行い、離型抵抗を計測した。 ロード調整機構の基本構造を図 11 に示す。プリロード調整 Table 2 Molding conditions 用ボルトにウォームギアを取付け、ウォームギアに連結し 加熱シリンダ温度 金型温度 たウォーム調整用ボルトを金型側面から回して、プリロー (℃) (℃) 262/262/262/242/80*) 120 射出率 (cm3/s) 10.6 保持圧力 (MPa) 60/80/100/120/140 保持時間 (s) 17 冷却時間 (s) 300 エジャクタ ピン突出 速度 ( mm/ s) 20 プリロード (N) 10 *) ノズル下部/ 計量部/ 圧縮部/ 供給部/ ホッパ下部 ド値を調整する機構となっている。図 12 にプリロード調整 機構が設置された計測金型の外観を示す。 プリロード調整用ボルト : プラテン 5.2 離型抵抗の経時変化 図 13 に離型抵抗の経時変化を示す。 型開き開始から成形 品突出し完了までの経時変化を表示した図 13(1)より、成 形品の突出時だけではなく、型開時にも固定側キャビティ 面と成形品との間に離型抵抗が発生していることが明らか となった。 また、型開時の経時変化を拡大表示した(2)では、 保持圧力 60MPa の場合を除いて、保持圧力の増加に伴い、 取付板 離型抵抗が増加している。ここで、保持圧力 60 MPa の方が Fig.10 Mold installed in platen 保持圧力 80MPa の場合よりも離型抵抗が高くなった原因は、 センサ支持部 A センサ支持部 B キャビティ入れ子 保持圧力が低いことにより、成形中に成形品にひけが発生 し、 成形品とキャビティ面との間に負圧が生じ、 その結果、 ウォームギア 成形品とキャビティ面との密着力が増加したためと推察さ れる。一方、(3)の突出時では、保持圧力の増加に伴い、離 高感度力センサ 型抵抗が減少していることがわかる。 また、 保持圧力 100MPa プリロード調整用ボルト においては、型開時に発生した離型抵抗が、成形品突出時 回転 まで低下せず、突出直前に約 20N の離型抵抗が残留してい ウォーム ウォーム調整用ボルト ることがわかる。このように、10N 以上のプリロードが負 荷されているため、保持圧力 100MPa の場合は、突出時の離 Fig.11 Structure of preload adjustment mechanism 型抵抗に大きな誤差が含まれているものと考えられる。 99 日本工業大学研究報告 第 45巻 第 1号 (平成 27年6月) Report of Researches, Nippon Institute of Technology, Vol.45, No.1 (June, 2015) 5.3 離型抵抗最大値と保持圧力の関係 80 図 14 に示す。各プロットの値は、5 回の計測値の平均値を 示しており、そのばらつき幅を併記した。なお、突出時に おける保持圧力 100MPa の場合は、前節で述べた問題から、 プロットから除外した。5 回の計測値のばらつきは小さい ことがわかる。型開時に固定側キャビティ面と成形品との 離型抵抗(N) 図 13 より抽出した離型抵抗の最大値と保持圧力の関係を 離型抵抗 (型開時) 60 離型抵抗 (突出時) 保持圧力 100MPa 140MPa 120MPa 60MPa 40 80MPa 20 間に発生する離型抵抗は、成形品を介して可動側で測定さ 0 れたものであるため、可動側で測定された突出時の離型抵 0 5 抗と厳密に比較することはできないものの、(1)より、型開 10 型開開始からの経過時間(s) 時における離型抵抗の増加に伴い、突出時の離型抵抗が減 (1)Entire process from mold opening to ejecting 少する傾向が表れている。これは、固定側キャビティ面と 80 成形品表面に発生する離型抵抗が増加することで、型開時 離型抵抗(N) に、成形品を固定側に引っ張る力が増加し、成形品との密 着状態に影響を及ぼすためと考えられる。 (2)に型開時と突 出時の離型抵抗を合算した結果を示す。保持圧力 60MPa の 場合を除いて、保持圧力の増加に伴って離型抵抗の合算値 が増加している。これより、保持圧力の増加に伴い、成形 60 140MPa 保持圧力 60MPa 40 120MPa 100MPa 80MPa 20 品全面とキャビティ面との密着力が増加することがわかる。 0 6.結言 1.5 1.75 2 2.25 型開開始からの経過時間(s) 高感度力センサを内蔵した汎用離型抵抗計測金型を設 型開開始 (2)Mold opening 計・製作し、その評価を行った。得られた結果を、以下に 80 列記する。 保持圧力 60MPa 80MPa 100MPa 突出し開始 離型抵抗(N) (1)出力較正実験を行い、プリロード値が、出力に大きな影 響を及ぼすことがわかった。そのため、プリロード値を 0 から 10N 以内の一定値に設定して、計測を行う必要が あることが明らかとなった。 (2)上記(1)項の計測を行うために、成形工程中においてプ 60 120MPa 140MPa 40 20 リロード値を調整するための、ウォームギアを用いたプ 0 リロード調整機構を設計・製作した。 9.78 (3)本金型を使用した計測により、 型開時と突出時に離型抵 9.8 型開開始からの経過時間(s) 抗がそれぞれ発生することが明らかとなった。そして、 (3)Ejecting 突出時の離型抵抗は、型開時に発生した離型抵抗の影響 Fig.13 Demolding resistance profiles を受けることが明らかとなった。 120 おわりに、 本研究究にご協力頂いた大阪ガスケミカル㈱、 型開時+突出時 計測金型の設計・製作にご協力頂いた池上金型工業㈱に謝 離型抵抗最大値(N) 100 意を表します。 参 考 文 献 1)佐々木他:型技術者会議,13(2001) 2)山本他:成形加工’21,1,38(2009) 3)寺内,根本,村田他:成形加工’11,97(2011) 4)横井他:成形加工’07,141(2007) 80 60 40 20 0 論 文 審 査 委 員 60 80 100 120 140 保持圧力(MPa) (1)Maximum demolding resistance (2)Addition value 主 査ア教 授 村田 泰彦 審査委員 教 授 梅崎 栄作 審査委員 准 教 授 高木 茂男 Fig.14 Relationship between maximum demolding resistance and holding pressure 100
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