みんなで考えよう 食と放射線 ~クッキング&見学会

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2012.11.5
Vol.
みんなで考えよう食と放射線
~ クッキング&見学会 ~
クッキング…………………………
放射線講座…………………………
見学会………………………………
放射線勉強会
ネットワークグループ活動支援…
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みんなで考えよう 食と放射線 ~ クッキング&見学会 ~
2 0 1 2.9.2 8(金 )、1 0.5(金 )
福島原子力発電所事故から 1 年半。いまだ首都圏の消費者は放射線の影響に無関心ではいられません。風評に
惑わされずに暮らしていくために、放射線の基礎知識を学び、福島の郷土料理を通じて福島を想い、福島発電所事
故で緊急出動した医療チームが所属する放射線医療総合研究所を見学して放射線医療の現場で放射線の学習をし
ました。クッキングでは 2 1 名、見学会は 1 6 名が参加しました。
福島郷土料理クッキング
講師:江上料理学院 副院長 江上 佳奈美氏
2 0 1 2 年 9 月 2 8 日 東京・江上料理学院にて
江上 佳奈美
氏
【プロフィール 】
学習院大学仏文科、パリ ・ コルドン
ブルー料理学校卒業。フランスチー
ズ鑑評騎士の会会員。1 9 8 9 年より
江上料理学院副院長をつとめ、祖母
江上トミ氏、母江上栄子氏から受け
継いだ伝統を踏まえながらも、より
現代的な料理を発表している。
クッキングは福島県の歴史や郷土の話から始め
られました。福島県は浜通り・中通り・会津の 3
地区に分かれ、それぞれの地域に歴史がありま
す。地元の食材の紹介や、大勢が集まる時の料理
や食べ方、その時使う器など情景を話されたの
で、福島を身近に感じ福島で暮らす人を想う大切
さに気がつきました。
海に面した浜通りの料理として「秋刀魚のポー
ポー焼き」、中通り・会津の料理として「くるみ
めし」「こづゆ」の 3 品を作りました。講師によ
る模範調理で手順を見せて頂いてから、参加者は
4-5 名のグループに分かれ調理台で実習。参加者
は主婦なので手際よく調理を作りました。試食会
は 3 品とも好評でしたが、特に秋刀魚ハンバー
グ・「ポーポー焼き」は秋刀魚の新しい食べ方で
驚きとともに美味しさに目覚め、早速自宅で作り
家族に味わってもらった方もいました。
「こづゆ」
は秋の根菜類を色々盛り込んだけんちん汁に似た
汁物。もともと武家料理で会津のお祝い事には欠
かせないそうです。あっさりした味付けで健康志
向にピッタリでした。「くるみめし」は茶めしに
ゆでたくるみを混ぜた風味豊かなご飯です。秋の
味覚たっぷりの福島の郷土料理を味わいました。
試食後に、福島産・千葉産・鳥取産の梨を丸ご
とミキサーにかけ、放射線を測定しました。3 つ
の梨からは放射線量の差は検出されませんでし
た。福島産の農水産物を買うかどうかという話題
では、頭では大丈夫と理解できたが気持ちの安心
となかなか結びつかない。何度も繰り返し学習す
ることで、市場に出回る食品は大丈夫なのだと思
えるようになってくると思う。みんなが同じよう
に福島産は問
題ないのだと
理解できると
ようになると
良いという感
想がありまし
た。
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Vol.
みんなで考えよう食と放射線
2 0 1 2 年 9 月 2 8 日(金 )江上料理学院にて
「 食と放射線、放射能 」 情報システム開発部 掛布 智久 氏
財団法人 日本科学技術振興財団
掛布 智久
氏
【プロフィール 】
京都大学・エネルギー科学研究
科修士課程終了後、
(財 )日本原
子力文化振興財団を経て、
(財)
日本科学技術振興財団に勤務。
平成 1 9 ~ 2 3 年度簡易放射線
測定器「はかるくん 」の貸出し
事業(文部科学省委託事業 )に
従事し、全国の小・中・高の学校
を中心に、年間 4 0 回程度の講
師を担当。
「放射線と聞いて思いつくことは何ですか?」
という質問で始まった学習会。
「福島の事故、放射
線測定、被ばく、レントゲン・・」参加者が自分の
イメージを確認した後、
「では放射線とはどんな
のものか 」と講演を開始された。
これだけ覚えれば来た甲斐があると感じたの
は、二人がキャチボールをする場面。ボールが飛
んでいる様子を放射線として、投げる人が放射性
物質。ボールをどれくらいたくさん投げ出すか
ということが放射能。キャッチする人の受ける
大きさが被ばく量。放射線を測る時は、出す側と
受ける側の単位が違う。ピッチャー側はベクレ
ル( Bq )。キャッチャー側がシーベルト( Sv )。
ソフトボール・野球などボールの種類があるよう
に、アルファ線、ベータ線、ガンマ線等がある。
投手はプロなのか小学生なのかは、例えばヨウ素
1 3 1 やセシウム 1 3 4 等ガンマ線のエネルギーの
違いになる。ピッチャーの違いと 2 人の距離で、
キャッチャーが受ける力(被ばく量 )が異なる。
事故直後に気にしなければいけない放射性物質
はヨウ素 1 3 1 だったが半減期が 8 日と短いため
に、現在はセシウム 1 3 4,1 3 7 に変わっている。
国は、食品からの被ばく線量の上限を年間 1 ミ
リ Sv に決め、それを基に食品群別に 1㎏当たり
の基準値を決めた。この基準値は、基準値上限の
食品を 1 年間毎日食べ続けても 1 ミリ Sv に届か
ないという数値。食品の放射線測定は、専門機関
や学校現場・農協などで行われ数値が公表されて
いる。測定器の数値は嘘をつかないが、その数値
をどのように解釈するかは各人の問題。基準値以
下でも不安な人は不安を感じていたが、市場に基
準値以上の食品が出回ることはないと話された。
空間線量や食品に関心が高いが、欠かすことの
できないミネラルのなかにはカリウムのように一
定の割合で放射性同位体をもつものがある。私た
ちの体には食物から取り込んだカリウム 4 0 など
の放射性物質がある。6 0㎏の体重の人は、カリウ
ム 4 0 で 4 0 0 0 ベクレル、炭素 1 4 など他の放射性
物質を含めると 7 0 0 0 ベクレルほど放射能があ
るが、普通に暮らしている。
医療では、CT・MRI などで放射線被ばくをし
ても病気の診断という利益を選んでいる。健康と
放射線との関係は切っても切れないので、食品だ
けでなく全体で考えて欲しいと話された。
現在の食品の放射線量は心配する値ではなく、
測定は今も継続され常に公表されている。今回の
事故で一番注目すべきところは、初期段階で放射
性ヨウ素をどのくらい体内に取り込んだかという
こと。その時居た屋外・室内などの場所や天候・時
間が重要で、福島県の子供たちは甲状腺がんの健
康診断を全員受けている、と締めくくられた。
疑問や質問は常に受け付けているが、一般の消
費者からの問い合わせは 1 年前くらいからほとん
どなく、あるのは事業者の方からの問い合わせだ
とのこと。今は、大学や研究機関の研究者の言葉
が信じてもらえず、様々な研究やデータを紹介し
ても、かえってその内容を疑われてしまうケース
が多いと話されていた。放射線を科学的に理解す
るには繰り返し学習しなければ難しいと思った
が、量を知ってデータをもとに正しく不安を感じ
る必要がある。
~ 参加者の声(アンケートより)~
・放射能と放射線の違い、必要以上に不安だったことがクリアにされた
(放射線講義)
・福島の郷土にふれたので福島が身近になりました(クッキング)
・広大な施設と地道に研究を続けていられることに感心しました。放射能の除染、有効利用の治療実績に驚きました(見学会)
・緊急時の医療対応や重粒子線治療は印象的でした(見学会)
2
独立行政法人 放射線医学総合研究所 見学
2 0 1 2 年 1 0 月 5 日 ( 金 ) 千葉県千葉市稲毛区
日本の放射線利用の中心機関である(独 )放射線医学総合研究所見学に 1 6 名が参加しました。
放医研の広い敷地内には、
「放射線の医学利用の研究 」
「放射線の安全と緊急被ばく医療の研究 」の 2 つを目的と
する大きな施設が並んでいます。私たちは映像で全体説明を受けた後、3 施設を見学しました。見学後に、放射
線をむやみに恐れず正しい知識を持って放射線について考えて欲しいとのお話があり、暮らしの中の放射線を考
える良い機会になりました。
1. 重粒子医科学センター
2. 分子イメージング研究センター
放射線治療は細胞の中の DNA に分子レベルの傷
を付け、それ以上細胞分裂ができないようにしてが
ん細胞を殺す治療方法。最先端がん治療の重粒子線
照射に参加者の関心は高く、模型等による概要説明
を受け設備を見学しました。
重粒子線がん治療装置 HIMAC(ハイマック)は延
べ面積がサッカー場程もある巨大なマシーン。まず
重イオン(炭素イオン)を作る装置があり、生まれる
遅いイオンビームを 2 種類の加速器で光速の 8 0%
のスピードまで加速します。治療に必要なエネル
CT や MRI は体内の分
子の動きを画像化する
技術。施設見学した研究
センターの PET(ポジト
ロ ン 断 層 撮 影 法)と は、
陽電子を放出する放射
性同位元素標識薬剤(分子プローブ)を患者に投与
し、そこから放出される放射線を検出して、分子プ
ローブの分布を画像化する方法です。
PET 診断用分子プローブの放射線は、寿命が短い
ギーになると治療室に送られ、患者のがん形状に適
合するように照射装置で加工されて治療に用いられ
るという説明を受けました。装置の巨大さと高度な
内容に驚きました。重粒子線のがん治療はピンポイ
ントなので体にダメージが少なく、ガンがすっかり
消えてしまう成
功例があると聞
いて、多くの人が
利用できるよう
な研究開発を期
待しました。
ので、使用するたびに利用する設備の近くで製造し
供給しなければならないこと。放医研では 1 0 0 種類
以上の分子プローブを作ることができ、その半数以
上が人体に投与できること。同時に高度な検出装置
が必要なので高分解 PET を開発したこと等につい
て、パネルと展示機器で詳しい説明を受けました。
PET 検査での放射線利用ということが少し理解
できました。うつ病やアルツハイマー病などの精神・
神経疾患では抗うつ薬の服用前・後の脳 PET 画像
を比較して適正な投与量に役立つと聞き、治療に直
結する技術だと理解しました。
3. 緊急被ばく医療研究センター
故と福島事故だけ。福島の事故関連では 3/1 4 の爆
発の際がれきでけがをした自衛隊員 1 名、3/2 5、3
号機原子炉内の水に足を浸けた作業員3名ほか7名。
皆入院治療を要することはなかったとのこと。福島
の住民の皆さんにはホールボディーカウンターによ
る内部被ばく測定を行っています。体内に入った放
射性物質の除染薬剤の展示があり、核種によって摂
取する薬剤が違う事、アレルギーなどの副作用や他
のミネラルも排出してしまうなどの説明を受けまし
た。一般家庭にも事前配布が検討されているヨウ素
剤の服用は時間など様々な制限があり、専門家の指
示に従うことが必要だということを知りました。誤
飲を防ぐためにも家庭での保管方法もしっかりと考
えなければいけないと思いました。この施設は主に
定期検査、訓練、研究の為に使われていて、事故対応
で使わずに済むことは良いことです
が、精度を保つために機器を止める
ことができないので、設備の維持管
理が大変だという側面も知りました。
昨年の福島第一原子
力発電所事故で、緊急
被ばく医療支援チーム
(REMAT)第一陣が、
地震発生から 1 7 時間
後に自衛隊ヘリで福島に派遣されたという説明で、
一気に当時を思い出しました。放医研は、日本の緊
急被ばく医療体制の「全国レベルの三次被被ばく医
療機関 」として東日本ブロックを担当し、福島には
今までに延べ 1 2 0 0 名以上が派遣され今も支援し
ているとのことでした。施設見学は、患者の体表面
測定機、汚染患者医療処置設備、洗浄除染室エアモ
ニター機器を見学しました。福島で実際に使用した
計測器・モニター機器があり、汚染患者処置ベッド
に本物そっくりの怪我をしたマネキンが横たわり、
放射性物質を扱う研修をするとの説明で臨場感が
ありました。実際の患者を受け入れたのは JCO 事
3
放射線勉強会「低線量被ばくの健康へのリスクと除染 」 くらしをみつめる…柏桃の輪
2 0 1 2 年 6 月 2 3 日(土 )柏崎市にて
低線量被ばくによる健康へのリスクや、徹底した除
染をはじめ予防的な様々な対策について、独立行政法
人放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター
センター長 杉浦紳之氏に講演いただきました。当
日は福島から避難されている方々にも広く声掛けし、
若いパパ・ママさんを含め 5 2 名が参加、柏崎市民プラ
ザにて開催しました。
放 射 線 と が ん に つ い て、放 射 線 影 響 の 出 発 点 は
DNA 損傷であること。分子、細胞、臓器、個体のいず
れのレベルにも修復、回復の作用がある。身体の防御
機構という話に、自身の体の免疫力というものを改め
て感じました。また放射線障害の確定的影響のしきい
値は、絶対リスク(有害要因が病気をどれだけ増やす
か・自然発生の病気は関係しない)、また相対リスク(有
害要因が病気を何倍に増やすか ・自然発生の病気が
関係する )2 つのリスクの考え方があり、評価結果に
両者の違いはないとのこと。
次に除染について、除
染特別区域(警戒区域、
計画的避難区域 )は国の
責任で除染する。除染実
施区域とは国、県、市町
村は除染実施計画に基づ
き除染の措置を実施する。
住民への情報伝達は、国の対策、事実関係、伝達は一
方通行である。質問、意見がある時は誰かに言う、あ
るいは聞く。その時の「誰 」か、とは誰?・・・原子力防
災を含めて、自分自身がその立場に立ったらと考える
機会となりました。
参加者の中には質疑応答から理解が生まれたとの声
もあり理解する場面は様々と思いました。講義内容の
難易度は、それぞれの持ち合わせた知識によって違う
ことは否めませんが、繰り返し学習することによって
習得するものと思います。
放射線勉強会「 食品と放射能 」フリータイム
北海道教育大学函館校環
境科学専攻教授 鵜飼光子
氏に「食品と放射能 」、内閣
府原子力委員会委員 秋庭
悦子氏に「どうなる?これ
からの原子力政策 」につい
て講演いただいた。
鵜飼光子教授
鵜飼氏…①小中学校で
は、放射線についてどのような勉強をしているのか。
②放射性物質による汚染とはどのようなことかの 2 点
を中心に、鵜飼先生ご自身のご研究のことなどを交え
てわかりやすいご講演でした。
①文科省の小学生用の放射線副読本「放射線につい
て考えてみよう 」を使用して、放射線の基本的な知識
について解説。小学生用は「調べてみよう 」で終わっ
ているが、中学生用になると、タイトルも「知ることか
ら始めよう、放射線のいろいろ 」となり、ジャガイモの
照射や工業利用など放射線の利用例などが記載されて
いるそうです。
②わずかな数字に一喜一憂している人もいますが、
放射線を量るためには、バックグランドを考慮に入れ
る必要があり、どこまで有効な数字なのか考える必要
2 0 1 2 年 6 月 2 9 日(金 )青森市にて
があるとご専門の分析に関する実験などから話されま
した。
「どうして食品に放射線を照射するの?」という
質問にたいして、
「貧困からの脱却 」
「食糧確保 」を挙
げられ、世界各国で、食中毒防止、検疫、宇宙食や救援
物資などに照射されていることを教えていただいた。
6/2 5 付産経ニュース「レバ刺禁止 放射線の利用を
なぜ考えぬ?」を題材にして、きちんと衛生管理して
いれば問題がないとお答えいただき、タイムリーな話
題もあったため、参加者たちの関心も高かった。
秋庭氏…昨年 7 月の閣僚によるエネルギー環境会議
決定により、エネルギー政策の基本理念が示された。
また、原子力委員会が「核燃料サイクル政策 」、総合資
源エネルギー調査会基本問題委員会が「エネルギー
ミックス 」、地球環境審議会が「温暖化対策 」について
検討することになりました。本年 5 月末にそれぞれの
委員会から提出された資料を基に、エネルギー環境会
議は国民に 2 0 3 0 年のエネルギー選択肢のシナリオ
を提示された。
原子力委員会では、昨年の 9 月より原子力政策大綱
策定会議を開催、また、核燃料サイクル技術等小委員
会において、サイクルのシナリオを検討しました。
(本年 6 月 2 9 日の講演内容のため現状と異なります )
お知らせ
★電気のゴミワークショップ「高レベル放射性廃棄物ってなんのこと?」
今年度 NUMO が開催するワークショップにあすかエネルギーフォーラムが協力することとなりまし
た。10 月 27 日の中部ワークショップをはじめ、全国で 10 か所程度開催されます。
詳しくは NUMO 電気のゴミ特設ページをご覧ください。http://www.numo-ws.jp/
【お問い合わせ先】あすかエネルギーフォーラム [email protected] TEL:03-5640-0777 FAX:03-5640-2636
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