みんなが「わかる・できる」を目指す算数科授業の工夫

沖縄県立総合教育センター
後期長期研修員
第57集
研究集録
2015年3月
〈発達障害教育〉
みんなが「わかる・できる」を目指す算数科授業の工夫
-授業のユニバーサルデザインを取り入れて-
沖縄市立北美小学校教諭
我喜屋
育
子
Ⅰ テーマ設定の理由
2008年に示された小学校指導要領解説の学級経営と生徒指導の充実(第1章第4の2(3))の一節に
「わかる喜びや学ぶ意義を実感できない授業は児童にとって苦痛であり,児童の劣等意識を助長し,情緒
の不安定をもたらし,様々な問題行動を生じさせる原因となることも考えられる」という指摘がある。児
童にとって「授業」とは、学校生活の中心といえる。そのため全ての児童にとっての「わかる・できる」
授業を考えるとき、教室内には多様な教育的ニーズをもった児童が在籍していることを念頭に置く必要が
ある。全ての児童にとって、「わかる・できる」授業が非常に大切だと考える。
文部科学省の調査(平成24年度)では、義務教育段階で、知的発達に遅れはないものの通常の学級にお
ける特別な教育的支援を要する児童生徒の割合は、約6.5%という結果が出ている。これは、1学級40名
と仮定した場合、学級の中に約3名は特別な教育的支援を要する児童が在籍しているということになる。
現任校である沖縄市立北美小学校は、1学年3学級、児童数616名の中規模校である。本研究の対象と
なる3学年の通常の学級にも学習面で「特別の配慮が必要な児童・気になる児童」が数名いる。これまで、
学級全員に個別指導や補習指導などを行ってきた。しかし、教師の説明を聞くこと学習活動に集中して取
り組むことが苦手な児童に対する配慮は十分とは言えず、児童全てが基礎的・基本的な知識・技能を習得
できる授業の展開が課題となっている。また、基礎的・基本的な知識・技能は学習や生活の基盤ともいえ
る。そのため、どの児童にとっても「わかる・できる」授業を目指し、全ての児童が学習に参加でき、基
礎的・基本的な知識・技能の習得とその活用を図るための指導・支援の工夫が必要である。授業で学んだ
ことを次の学習に生かしたり、新たに学習したことを使ったりすることは、児童の達成感・成就感となり、
さらに学習したことが日常生活の中で結びつくことは、大きな喜びや感動につながると考える。授業を通
して全ての児童がわかる喜びや学ぶ楽しさを味わうことを目指して、本研究では算数科の指導に「ユニバ
ーサルデザイン」の手法を取り入れたい。ユニバーサルデザイン化された授業は、全ての児童にとって参
加しやすい授業・わかりやすい授業になると考える。授業のユニバーサルデザインでは、3つの観点を重
視しながら授業改善を行う。3つの観点とは、1つ目に、授業のねらいを明確化し、課題に対する指示を
短く具体的に行うことなどの「焦点化」。2つ目に、知識を構造的にイメージできるように提示する、視
覚的な手がかりを重視して授業を構成することなどの「視覚化」。3つ目に、教師が児童の発言に関わり
ながら話し合い活動をスモールステップで組織化することなどの「共有化」である。授業のユニバーサル
デザイン化によって、つまずきのある児童には理解の手がかりがあり安心できる授業であると同時に、学
級の他の児童にとっても理解しやすく、自分の考えを確かめられる授業を目指す。こうした授業を展開す
ることで、全ての児童が授業に参加し、基礎的・基本的な学習内容を「わかる・できる」ようになるので
はないかと考え、本テーマを設定した。
〈研究仮説〉
算数科の授業においてユニバーサルデザインの手法を取り入れ、授業の「焦点化」「視覚化」「共有化」
を図ることによって、全ての児童が基礎的・基本的な学習内容を「わかる・できる」ようになるであろう。
Ⅱ 研究内容
1
ユニバーサルデザイン教育
ノースカロライナ大学のロナルド・メイスは、ユニバーサルデザインの定義として「できるだけ多
くの人が利用可能であるように製品、建築、空間をデザインすること」とした。つまり、老若男女や
障害の有無といった差異や個人のそれぞれの感じ方を問わず、誰もが安心して利用することのできる
施設や製品のデザインを目指すといったことである。これを学校教育に当てはめたのが「ユニバーサ
ルデザイン教育」である。廣瀬由美子(2012)は、「ユニバーサルデザイン教育とは、支援教育の融
合をめざすものであり、学力の優劣や発達障害の有無にかかわらず、全ての子どもが、楽しく『わか
る・できる』ことを目指し、教科における工夫や、さまざまな子どもへの配慮、個性に特化した配慮
- 1 -
- 2 -
評価項目の決定
評価項目の決定
を駆使して行う、通常の学級における授業のデザインである。」と述べている。ユニバーサルデザイ
ン化された授業は、全ての児童にとって参加しやすい授業・わかりやすい授業ということである。通
常の学級にいる特別な教育的ニーズを要する児童を含む全ての児童の学力向上を保障する授業づくり
が求められているため、全ての児童の教育的ニーズに対応できる多様な学習方略の工夫や配慮が必要
である。本研究においては、誰にでも得手不得手があるという視点から、授業をユニバーサルデザイ
ン化することで全ての児童が必要な情報・手立てを自由に選択でき、課題意識や意欲をもって学習で
きるよう、授業の展開や指示・提示のしかた、個に応じた学習活動の目標などを工夫していくことと
した。
(1) 授業のユニバーサルデザイン化のモデル(図1)
① 第一階層・・・「参加・活動する」の段階。参
加することは、授業の前提であるが、発達障害
のある児童やそれと同等の困難さをもつ児童は
この階層でつまずくことがある。そのため、時
間や場など環境を整えることが大切である。
② 第二階層・・・「理解・わかる」の段階。参加
し、理解することができて、授業を楽しいと感
じることができる。「わかる」を増やすために
焦点化・視覚化・共有化などの工夫が必要とな
図1授業のUD化モデルhttp://www.udjapan.org/より抜粋
る段階である。
③ 第三階層・・・「習得・身に付ける」と、
「活用・使う」の段階。
「わかった」ことを「身に付ける」
「使える」ようにするための配慮を、実践を通して考えていくことが必要である。
本研究では、特に、第一階層・第二階層における指導方法の工夫について取り組んでいく。
(2) 「焦点化」「視覚化」「共有化」について
① 焦点化とは、授業のねらいをより明確化するために、シンプルな構成にして焦点をしぼることで
ある。また、授業の展開を明確にし、授業全体を理論的な構造にすることが必要である。さらに、
授業の指導目標の達成に向けて、そのステップを細かく構成し達成可能なものにすることで児童の
集中力・意欲の維持を図る。他に、複数の情報を制限して情報を整理することもあげられる。
② 視覚化とは、見えないものを実際に目で見えるものに置き換えるなどしてイメージ化を図ること
である。その例として、図や表・写真や絵の提示の工夫、操作を示して見せる、動作化をする、
教材・教具を工夫することなどがあげられる。また、不必要な視覚刺激を減らす環境作りも必要
である。
③ 共有化とは、互いの考えを伝え、確認し合うことである。考えを言語化し、相手に伝えることで
自分の意見を深めることができ、理解に不安がある児童にとっては、他者の意見を聞くことで、自
分の意見に不足している部分を補足して理解することができる。これには、ペアやグループで互
いの考えを伝え合う方法や、他の子の考えと自分の考えをつなげる、広げるなどの役割がある。
(3) 授業のユニバーサルデザインの構成
授業の内容
小貫悟(2014)は、「授業の内容は『指導の工夫』だけで全
ての児童が理解するようになることは難しく、児童全員が授業
に参加できるようにするための『個別の配慮』が必要になって
想定されるつまずき
担任
くる。さらに『個別の配慮』を行っても全員が理解するために
は不十分であり、そのために『個に特化した指導』
『補充指導』
指導の工夫 個別の配慮
個に特化した指導
が必要になる。」と述べている。「指導の工夫」の一つとしてユ
ニバーサルデザイン化された授業をあげることができる。「個
授業
補充指導
配慮事項の要請
別の配慮」とは、児童が授業に参加するための配慮のことであ
る。「個に特化した指導」とは個別に授業外に行われる指導、
授業の評価
指導の評価
すなわち補充指導のことである。さらに小貫は、「授業のユニ
授業全体の評価
バーサルデザイン化は『指導の工夫』『個別の配慮』『個に特化
抽出児童
した指導』の三段構えで構成される」としている(図2)。本研
究では、特に指導の工夫と個別の配慮を中心に取り組むものとする。図2ユニバーサルデザインの構成図
2
評価の在り方
学習指導要領の下での学習評価について、児童の「生きる力」の育成を目指し、一人一人の資質や
能力をより確かに育むようにするため、目標に準拠した評価を実施し、個々の進歩の状況や学習目標
を的確に把握し、学習指導の改善に生かす。併せて、学習指導要領に示す内容が確実に身に付いたか
評価を行いたいと考える。
「算数への関心・意欲・態度」について、日常生活において児童が出会う事象を算数の問題として
捉えたり、自ら進んで問題解決に取り組んだりする意欲や態度を身に付けているか学習状況を評価す
る。また、新しい課題に出会ったときに既習の内容を用いて解決しようとする態度や、身に付けたこ
とを生活や学習に活用しようとする態度についても評価することが必要である。
「数学的な考え方」について、問題解決において考えたことを、表現・説明したことについて評価
する。そのために、解決のための方法や結果の見通しをもち、根拠を明らかにし、筋道を立てて考ら
れるようにする。そして、言葉、数、式、図、表、グラフを用いて考えたり、説明したり、互いに自
分の考えを表現し伝え合ったりしているかを評価する。さらに、自らの考えを振り返る中で考えのよ
さや誤りに気付き、よりよい考えを作るなどしていることについても大切に評価していく必要がある。
「数量や図形についての技能」については、数式やグラフなどの数学的な表現を適切に読み取り、
用いるなどの技能が身に付いているかどうかについて評価する。学習のねらいに照らし合わせて、児
童の学習状況を見取り、各時間の中で適切に評価することが必要である。
「数量や図形についての知識・理解」については、計算の意味やしかた、図形の定義や性質など、
算数において習得すべき知識や重要な概念などを児童が理解しているかを評価する。知識をいつでも
活用できるようになっているかについて見ることが大切である。そのため、算数の用語が正しく使え
るかといったことや、計算をする際にそのしかたや意味を的確に説明できるかといったことについて
も評価する必要がある。
本研究、図形領域、3学年単元「三角形」の学習内容と評価の観点を表1に示す。
小単元
表1
単元「三角形」
学 習 内 容
●長さの異なる4種類のストローで様々な三角形を作る。
関
考
技
◎
◎
○
知
◎いろいろな形の三角形を作ろうとしている。
●作った三角形を比べ、落ちや重なりを調べ、似ている形を探し分類する。
◎三角形について分類し、分類した観点や分
●ストローの長さを観点とした場合の分類のしかたを考え、その仲間を決める。
三
角
形
と
正
三
角
形
(4)
評価の観点
◎の具体的内容
類した図形ごとの特徴を見いだしている。
●三角形をつるしたときの下の辺の傾きによる分類のしかたを考え、その仲間を決める。
●互いの分類の仕方を確かめ合い、2辺が同じ三角形、3辺が同じ三角形の特徴を考える。
◎
◎2つの分類が同じ結果になることを見いだ
●2つの観点による仲間分けの結果が同じになることが分かる。
している。
●二等辺三角形を紙に写し取って、辺の長さを調べ、二等辺三角形の定義を知る。
◎
◎
●身近な生活の中から二等辺三角形が使われているものを探す。
◎三角形を折ったり、図ったりして性質を見
いだしている。
●三角形の中から、二等辺三角形を選ぶ。
◎二等辺三角形の定義や性質を理解している。
●二等辺三角形と同じようにして、正三角形の辺の長さを調べ正三角形の定義を知る。
◎
◎
●身近な生活から正三角形を探す。
◎三角形を折ったり、図ったりして性質を見
いだしている。
●三角形の中から、正三角形を選ぶ。
◎正三角形の定義や性質を理解している。
2三角形のかき方
●三角定規を用いて、二等辺三角形や正三角形を作る。
●与えられた長さを用いて、二等辺三角形を描く方法を考える。
◎
○
●角の大きさを調べて、二等辺三角形が描けたか確認する。
◎二等辺三角形をコンパスを使って描くこと
ができる。
●二等年三角形の作図の練習をする。
●二等辺三角形のかき方をもとに、正三角形の描き方を考え、ノートにまとめる。
○
◎
◎
○
○
●円の半径を使った正三角形の描き方を考え、説明する。
きる。
●折り紙を折り、切るなどして二等辺三角形や正三角形を作り重ねてその特徴を考える。
◎折り紙で二等辺三角形や正三角形を作る作
●正三角形や二等辺三角形の作図をする。
(4)
◎正三角形をコンパスを使って描くことがで
り方を定義をもとに考えている。
●正三角形を4枚、8枚組み合わせてさいころを作る。
◎
◎工夫して正多面体のさいころを作ろうとし
3三角形と角
ている。
●三角定規の角を写し取り、重ねてその大きさを比べる。
◎
◎角の定義と、角・頂点・辺・角の大きさの用
◎
◎二等辺三角形や正三角形について、角の性
●角の定義と、角・頂点・辺・角の大きさの用語を知る。
語を理解している。
●二等辺三角形、正三角形の角の大きさの関係を調べる。
○
●二等辺三角形、正三角形の性質を、角の大きさの関係からまとめる。
質を理解している。
4 模様
作り
(2) ●三角定規を2枚使って、既習の三角形、四角形の形を作る。
(1)
(1)
力だめし
( 1 )練習
●同じ大きさの2等辺三角形や正三角形の特徴を生かして、いろいろな形を考える。
◎
◎二等辺三角形や正三角形を敷き詰めて、き
●身の周りの中から、模様を探してみる。
れいな模様を作ろうとしている。
●既習事項の理解を深める。
●既習事項の確かめをする。
●正三角形の頂点を中心にして、1辺の長さの半分の長さを半径とする円を作図する。
●描き上がった模様の中の円の直径から、正三角形の1辺の長さを求める。
◎
○
◎円の半径と正三角形の1辺の長さの関係を
定義や性質を基に考えている。
本研究、数と計算領域、3学年単元「2けたのかけ算」についても表1と同様に学習内容と評価の
観点を作成し、実践を行った(表省略)。
- 3 -
Ⅲ 研究の実際
1
授業における留意点
児童全員が参加し、必要な情報・手立てを自由に選択でき、課題意識や意欲を持って学習できるよ
う以下の点に留意したい。
(1) 本時の流れを示す。
(2) ICTを活用し、既習事項の定着を図るとともに、学習課題を視覚化する。
(3) 説明活動を取り入れ、共有化を図る。
(4) 児童はそれぞれの習熟に合わせて個別の課題に取り組み、教師は個別指導を行う。
(5) 児童が主体的に学習に取り組めるように、発問や言葉かけの工夫を行う。
2 実態把握及び分析
児童の実態把握のため「観察」
「算数の学習についてのアンケート」
「算数科学習自己診断チェック」
「レディネスチェックテスト」「標準学力テストのアンケート」「i-check」を実施し、分析した結果
を表2に示す。
表2
児童の実態
児童の実態
☆付けたい力●個別の配慮
【観察】気持ちが安定しているときは進んで発表できる。授業中にぼんやりとしている
A ことが多く、促しても課題への取りかかりに時間がかかる。
児 【算数の学習についてのアンケート】問題文の漢字が読めずに困っている。
・ 【自己診断チェック】図形を摸倣して描くこと、仲間分け、加法・減法の計算に難しさを感じ
男 ている。
【レディネスチェックテスト】図形の定義、弁別、積を部分積の和とみることへの理解が不十分。
【標準学力テストのアンケート】算数の学習への関心・意欲が低い。
【i-check】自己肯定感は低い。
【観察】気持ちが安定しているときは、積極的に発表することができる。集中する時間
が短く、教師の話を聞き漏らすことが多い。課題に困難を感じると最後までやり遂げず、
私語が始まる。かけ算九九が定着していない。
B 【算数の学習についてのアンケート】計算問題がわからなくて困っている。
児 【自己診断チェック】道具を使って図形を描くことや図形を表す言葉、加法・減法の計算に
・ 難しさを感じている。
男 【レディネスチェックテスト】図形の構成要素、定義、弁別、ある数を10倍したり、100倍したりす
ること、積を部分積の和とみることへの理解が不十分。
【標準学力テストのアンケート】算数の学習への関心・意欲が低い。
【i-checkの結果】自己肯定感は低い。
【観察】促しても課題への取りかかりに時間がかかる。手の不器用さがあり、字を書くの
に時間がかかる。道具を使った作業が上手くできない。また、発問や指示などへの反応が
C 薄い。
児 【算数の学習についてのアンケート】話を聞いていなくて困ることがある。
・ 【自己診断チェック】困難を感じていない。
男 【レディネスチェックテスト】図形の構成要素、定義、弁別、積を部分積の和としてみること、2
けた×1けたの筆算のについての理解が不十分。
【標準学力テストのアンケート】算数の学習への関心・意欲は平均的。
【i-checkの結果】自己肯定感は低い。
【観察】まじめに課題に取り組むことや、促すことで課題も最後までやり遂げることが
できる。手の不器用さがあり、字を書くことや道具を使っての作業が上手ではない。
E 【算数の学習についてのアンケート】図を描くことやコンパスを使うのが難しいと感じてい
児 る。
・ 【自己診断チェック】図形の仲間分けや図形の言葉、整数を読んだり書いたりすること、整数
女 の概念の理解、数の大小を比較、数を順番通りに並べること、加法・減法の計算へ難しさ
を感じている。
【レディネスチェックテスト】図形の定義、弁別については理解不十分。ある数を10倍、100倍する
ことについて理解しているが、積を部分積の和とみることへの理解が不十分。
【標準学力テストのアンケート】算数学習への関心・意欲が低い。
【i-checkの結果】自己肯定感は低い。
【観察】授業中は、集中して話を聞き、学習態度もまじめである。理解に時間はかかるが、
最後までがんばり続けることができる。かけ算九九の定着に不安を感じている。
F 【算数の学習についてのアンケート】話の聞き漏らしや、計算がわからなくて困ることがある。
児 【自己診断チェック】道具を使って図形を描くこと、図形に関する言葉、加法・減法の計算に
・ 難しさを感じている。
女 【レディネスチェックテスト】図形の構成要素、定義、弁別、積を部分積の和とみることへの理解
が不十分。筆算のかけ算の仕方は理解できているが不注意なミスが多い。
【標準学力テストのアンケート】算数の学習には関心・意欲が低い。
【i-check】自己肯定感は低い。
☆主体的に授業へ参加し、
活動する力。
●集中力・意欲の維持を図
るために、課題をスモー
ルステップ化する。
●課題把握ができるよう
に、漢字の読みを確認す
る。
☆授業に参加し、活動する
力。
●集中力・意欲の維持を図
るために、課題をスモー
ルステップ化する。
●意欲を喚起するために、
個別に言葉かけを行い、
できていることは誉め、
認める。
☆道具を正しく使う力。既
習学習を記憶する力。話
を聞く力。
●学習内容を理解し最後ま
で活動できるようにする
ために、道具を使うとき
の手指の動かし方の指導
・説明を明確化する。
☆道具を正しく使う力。算
数用語を理解する力。
●安心して学習できるよう
するために、道具を使う
ときの手指の動かし方や
算数用語を確認する。
●理解できていないことは
教師に伝えられるよう、
言葉かけを行う。
☆意欲を保持しながら学
習活動を行う力。
●意欲の持続を図るため、
課題をモールステップ化
する。
●意欲を喚起するために、
個別に言葉かけを行い、
できていることは誉め、
認める。
上記5名は、算数の学習において下位層となっており、本研究の検証対象とした。
- 4 -
3
検証授業1 単元「三角形」
(1) 本時のねらい 本時の指導(4/13)
辺の長さが指定された二等辺三角形を、コンパスを使って描く。
(2) 本時における「授業のユニバーサルデザイン」の視点
・書画カメラで教師の手元を拡大し、作図の流れ示すことで、作図のしかたについての理解を促す。
【視覚化の工夫】
・作図の流れについて動画や手順表を示すことにより、情報を選択し、主体的に作図活動を行える
ようにする。
【視覚化の工夫】
(3) 本時の展開(表3)
表3
単元「三角形」本時の展開
教師の活動
児童の活動
1
本時の「学習の流れ」を確認する。
めあて「長さが決められた二等辺三角形をかこう。」
★
全体への支援
☆
個への配慮
★板書し、本時の活動を全員で確認する。
2
☆ワークシートは厚紙を使用する。
どうしたら、3㎝、4㎝、4㎝の二等辺三角形が描けますか。 ☆事前にコンパスのつまみにゴムを巻きつけ
ておく。
3
予想して、発表する。
★児童の発言を全員が理解できるように具体
4㎝にな
定 規 を 2 つ、
定規を3つ
コンパスを
るように
4 ㎝ に な るよ
重ねて描け
使うといい。
線を引く。 うに重ねる。
ばいい。
物を操作し、考えを表現する。
★具体物の動きから、コンパスを使って二等
辺三角形が描けるという考えに導く。
やってみよう
★書画カメラで教師の手元を拡大し、コンパ
うまくいかない。 コンパスを使うとうまくいきそう。
コンパスを使う作図の方法の確認。
スの動きがよく見えるようにする。
4
☆聴覚からの情報処理が得意な児童のため
に、板書を読み上げる。
作図してみよう。
気付いたことを共有。
5
☆作図の手順表を掲示物を黒板に提示する。
☆作図方法の動画を繰り返し流す。
二等辺三角形を描く。
6
☆つまずいている児童には自分に合うヒント
を見るよう言葉をかけ、作業の補助をする。
★全員で共有できるように、児童の言葉でま
とめる。
☆課題を終えた児童は、説明活動の練習をす
るようすすめる。
ペアで作図のしかたを説
明し合う。
作図する場面を見ながら共
有する。
★作図の順番を確かめるために、代表児童の
手元を書画カメラで拡大し、全員で観る。
- 5 -
◎支援の様子:以下参照
1
2
視覚化
黒板の上部に本時の流れを板書し、時間の構造化
を図ることで、次に何をすればよいのか見通しを
もち、安心して学習に取り組むことができる。
3
個別の配慮
ワークシートは厚紙を使用することで、コンパス
の針がずれにくくなり、手先の不器用な児童にと
っても作図しやすくなる。
個別の配慮
4
視覚化
つまみ部分に
ゴムを巻きつ
けることで滑
りにくくもち
やすくなるた
め、不器用な
児童にとって
も扱いやすく
なる。
書画カメラで教師の手元を拡大して映すことで、
コンパスの動きがよく見えるようになり、作図の
方法がわかる。
5 焦点化・視覚化
6
視覚化
http://www.tos-land.net
作図の手順表を掲示することで、自分のペースで
取り組むことができる。また、同時処理の得意な
児童にとっては、作図の流れを一度に確認するこ
とができる。
フラッシュコンテンツを活用し、作図のしかたを
流すことで、繰り返し必要な部分を確認すること
ができる。また、継次処理の得意な児童にとって
は、順を追うことでわかりやすくなる。
- 6 -
4
検証授業2 単元「2けたのかけ算」
(1) 本時のねらい 本時の指導(4/8)
(2位数)×(2位数)を乗数の位ごとに計算する筆算の手順を理解し、筆算で求める。
(2) 本時における「授業のユニバーサルデザイン」の視点
・既習事項を掲示し、既習事項の考えを適応すれば課題解決できそうなことに気付かせることで主
体的な学習活動を促す。
【焦点化の工夫】
・計算の手順をフラッシュで提示することで、位ごとに計算する筆算の手順を理解することを促す。
【視覚化の工夫】
(3) 本時の展開 (表4)
表4
教師の活動
単 元 「2 け た の か け 算 」 本 時 の 展 開
児童の活動
既習内容を想起するために、前時の復習を行う。
立式する。
課題解決の方略を考える。
計算方法①
★テレビにお菓子の写真を映す。 7
★問題文の大切なところへ印を付け、かけ算の
公式を確認する。
☆机間指導にて、立式できているか確かめる。
☆「計算のしかた」のヒントカードを配布する。 9
★ 説明活動をスムーズに行うための言葉かけを行
う。
☆説明活動ができていない児童の支援をする。
ペアで互いに自分の計算方法を説明し合う。
35
×70
2450
個別の配慮
★既習問題を黒板掲示する。 8
☆かけ算が定着していない児童には、九九表を
使うよう言葉かけをする。
既習内容の提示。
35
× 7
245
☆
☆めあてを読めているか、目視で確認する。
1個35円のおかしを70個買うと代金は何円になるでしょ
うか。
35
× 0
00
全体への支援
★パソコンとテレビを使ってフラッシュを行う。
めあて「2けた×2けたの筆算ができる。」
35
×70
00
245
2450
★
35
× 7
245
★計算方法②の手順をフラッシュで見せ、次に
再度計算方法②を板書する。
計算方法②
2つの方法があることを確認する。
計算方法①②を選択して
練習問題にチャレンジ
発展問題にチャレンジ
★挙手により、問題解決の見通しを確認する。
★練習問題と共に、ノートをきれいに書くため
のお手本を配布する。1 0
☆教師が個別に評価する。
☆黒板にネームプレートを貼り、学習の進度を
確認する。 1 1
12
- 7 -
★板書
◎支援の様子:以下参照
7 焦点化・視覚化
8 焦点化
既習問題を黒板に掲示するこ
とで、本時の課題に対応して
考えるようになるとともに、
課題解決の見通しをもつこと
ができるようになる。
お菓子を教材として提示し、生活体験と関連さ
せることで、興味・関心を引きつけ、意欲の喚
起や集中力の持続につなげる。
9 共有化
1 0 視覚化
ヒントカードがほしいという児童にカー
ドを配布することで考えを整理でき、ペ ノートの書き方のお手本を用意することで、まねて上手に
アでの筆算のしかたを説明し合う活動に 書くことができ、さらにノート(5㎜方眼・A4サイズ)
も自信をもって取り組める。
をきれいに書く方法がわかるようになる。
11
焦点化・視覚化
既習内容
課題
ネ ー ム プレ ー ト
ネーム
プレート
を 利 用
し、一人
一人の学
習の進度
をわかる
ようにし
た こ と
で、児童
同士の主
体的な学
び合いが
できる。
1 2 焦点化・視覚化
まとめ・児童の考え
練習・発展問題
板書は、シンプルに丁寧に書くことで、情報が整理されわ
かりやすくなる。
- 8 -
Ⅳ
研究仮説の検証及び考察
児童の変容を、「関心・意欲・態度」については標準学力テストのアンケート・観察・授業の振り返り
カードで評価し、「数学的な考え方」「技能」「知識・理解」については単元末テスト(正答率)で評価を
行った。
1 結果
(1) 「関心・意欲・態度」については、検証前と比較して5名全員が向上した(図3)。
(2) 「数学的な考え方」については、3名が正答率23%~35%上昇。2名が4%~23%下降(図4)。
(3) 「技能」については、3名が正答率1%~12%上昇。2名が4%~14%下降(図5)。
(4) 「知識・理解」については、3名が正答率8%~19%上昇。2名が33%~35%下降(図6)。
検証前
A児
C
B児
C
C児
C
E児
F児
B
B
検証後
評価の理由
対象児童 関心 ・意欲 ・態 度
評価の理由
対象児童 関 心 ・意 欲・態度
しばしば授業に参加しない
ほとんど授業に参加しない
促されてやっと授業に参加
促されて授業に参加
促されて授業に参加
図3
A児
B
B児
B
C児
B
E児
F児
A
A
促されると課題に取り組む
課題を最後まで取り組んでいる
課題を最後まで取り組んでいる
主体的に課題に取り組んでいる
主体的に課題に取り組んでいる
関心・意欲・態度
100%
100%
100%
90%
90%
90%
80%
80%
80%
70%
70%
70%
60%
60%
60%
50%
50%
40%
40%
50%
検証前
検証後
40%
検証前
検証後
30%
30%
20%
20%
20%
10%
10%
10%
0%
0%
A児
B児
図4
C児
E児
F児
30%
0%
A児
B児
C児
図5
数学的な考え方
検証前
検証後
E児
F児
A児
B児
図6
技能
C児
E児
F児
知識・理解
2
考察
(1) 「関心・意欲・態度」の変容について
標準学力調査におけるアンケート並びに授業観察の様子からは、対象児童のほとんどが算数に対
する関心・意欲・態度が低く(図3)課題をやり遂げることが難しかったり、課題に手を付けよう
としなかったりという状態だった。授業後の児童の感想には「授業はとても楽しかった」とあり、
その理由を「とっても得意な勉強だったから」「問題が正解できてうれしかったから」「簡単だった
から」とし(図7)、楽しんで意欲的に学習活動に参加でき満足した様子が読み取れた。
B児
図7
C児
単元終了後のアンケート児童の感想
- 9 -
F児
(2) 「数学的な考え方」の変容について(図4)
伸びが見られたのは、教師の説明や解決をするための方
法に見通しを持つことができるよう焦点化したことで、課
題解決に向けて考えたことを表現できるようになったこと
が要因と考えられる(図8)。対して、ポイントが下がっ
た要因として、特に図形領域で問題解決するための見通し
がもてなかったことが考えられる。従って算数的活動を 図8 板書や掲示物の説明を見ての自力解決
行い、図形の性質を十分に味わうことができる手立てが必要だったと考えられる。
(3) 「技能」の変容について(図5)
伸びが見られたのは、教師の説明と手立てを視覚
化することで図形や数式の表現を適切に読み取り用
いりやすくなったこと、また視覚情報を得ることの
得意な児童の技能習得の支えになったことに要因が
あると考えられる(図9)。対して、ポイントが下が
ったのは、既習学習の内容の定着が不十分であった
ことに要因があると考えられる。単元における基礎
図9 動画や絵を見ての自力解決
・基本の振り返りを行う工夫も必要であったと考えられる。
(4) 「知識・理解」の変容について(図6)
伸びが見られたのは、作図のしかたやかけ算の筆算のしかたを児童同士
で説明する活動を通して共有化が図られ、習得すべき知識や概念を身に付
けることができたと考えられる(図10)。対して、ポイントが下がったの
は、計算の意味やしかた、図形の定義や性質、算数用語を使うことなどを
授業内だけでは習得できなかったことに要因があると考えられる。加えて、
ポイントが下がった2名の児童については、病気による一週間の欠席があ
ったため、支援・指導を十分に受けることができなかったこともポイント
が下がった理由の一つとして考えられる。従って、児童相互の説明活動が
図10 学び合いの様子
十分にできるようにするための工夫とともに、児童の習熟別で段階的にい
くつかの手立てを用意する必要があると考えられる。
Ⅴ
成果と課題
1
成果
(1) 多様な角度からアセスメントしたことで、個別の言葉かけや手立てのしかたを工夫できた。
(2) 説明などの「焦点化の工夫」や課題の「視覚化の工夫」などをしたことで、児童に基礎的・基本
的な知識・技能が身に付きつつある。
(3) 授業の流れを示したり、個々の習熟に合わせて発展的な課題を用意したりしたことで、児童が主
体的に学習に取り組んでいた。
(4) 授業の目標は学級全員で統一したが、検証対象児童には学習のゴールを個別に設定したことで、
自分のめあての達成に向け、意欲を高め、自信をもって積極的に学習活動を行うようになった。
(5) 授業をユニバーサルデザイン化したことで、さらに児童理解を深めることができた。
2 課題
(1) 共有化については、児童が段階的に慣れることが大切であり、年間計画に位置付けて明確化させ、
学年当初からの指導を行うことが重要である。また、話し合う意図や学び合いのための工夫につい
ての研究を深める必要がある。
(2) 児童へ個別指導を行う時間の確保が難しかったため、活動内容の精選や授業内での個別評価のし
かたを工夫する必要がある。
(3) 児童の自信や高めた意欲を次年度も持続させるために、自身の研究内容や研究結果を現任校の他
教師へ伝えていく必要がある。
(4) 道具を使うことや机上の片付けが苦手な児童にも、教師による支援や言葉かけなど、さらに配慮
していく必要がある。
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教師用指導書』
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