京都マイクロコンピュータ株式会社

Success STORIES
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内部バストラフィックを見える化。
PARTNER-Jet2が
「統合コックピット」を提唱している。その 3 つ
としたデバッガに注力してきており、R-Car の多
とは、(1)フレキシビリティ、(2)スケーラビ
くのユーザーへの納入実績がある。しかし、最
リティ、(3)パーソラナイズである。フレキシ
近ではソフトウェアのサイズが大きくなり、プ
ビリティは、自動車メーカー各社の要求に対す
ラットフォーム系やオープンソース系の OS が
ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)は、以前から自動車分野を注力分野のひとつとしてきており、制御系や情報系に向
るマルチ仕様を実現することだ。スケーラビリ
使われるようになると、ユーザーのデバッグに
けた多くのソリューションを提供してきている。情報系に向けた SoC である R-Car の第二世代の出荷を開始している。R-Car は第
ティは、エントリーからプレミアムまでライン
対する要望に変化が出てきた。
二世代から内部バスのトラフィックが計測可能な機能を追加し、京都マイクロコンピュータ(以下、KMC)の JTAG エミュレータ
ア ッ プ を 持 た せ、 い ず れ の R-Car で も ソ フ ト
R-Carの性能を最大限に引き出す。
「PARTNER-Jet2」で、バストラフィックがリアルタイムかつビジュアルに計測できるようになった。
「ソースコードデバッグはできて当たり前で、
ウェアの互換性を持つことで、マルチ車種に拡
それに加えてバストラフィック計測など、い
張できること。パーソラナイズは、個人に応じ
ろいろ SoC 内部に探りを入れたいというニー
たマルチニーズを手軽に実現できることとなる。
ズが出てきています。そこで第二世代の R-Car
こういったコンセプトを満たすためのソフ
に入っている機能を用いて、バストラフィッ
トウェア開発やデバッグは、複雑かつ大規模化
ク計測ができようにしました。バストラフィッ
しており、効率的な開発ツールが求められてい
ク計測は、半導体メーカーが開発に使用して
る。そのニーズに応えたのが、KMC の PARTNER-
いる高価なツールやシミュレータでは可能で
Jet2 である(次ページ 図 2)
。PARTNER-Jet2 は、
すが、JTAG ポートで手軽にできるのは珍しい
Linux など IT 系の OS 上で動作するアプリケー
PARTNER-Jet をベースに 64 ビットコアやバス
と思います」
(KMC 辻氏)という。CPU とメモ
ションは ARM を活用することが多いという。ま
トラフィック計測に対応するなど進化させたも
リ間のトラフィックが性能に大きく影響する。
た、以前 SH 向けに開発し、安定しているアプ
のだ。
以前のように複数のデバイスを基板上で接続
ルネサス エレクトロニクス株式会社
車載情報システム事業部
車載情報戦略部
部長
吉田 正康 氏
リケーションは、そのまま SH で動かしたいと
いうニーズも多く、それらに応えているとのこ
していた時には、ロジックアナライザなどを
内部バストラフィック計測を
JTAG ポートでできるのは珍しい
とだ。
ルネサスでは、車のオーナーや自動車メー
用いて測定することも可能だが、R-Car のよう
な近年の SoC は、機能が統合されているため、
それもできない。
KMC は、以前から JTAG エミュレータを中心
カーなどのニーズに応じた 3 つのコンセプトの
「 従 来 は ユ ー ス ケ ー ス を い た だ き、 ト ラ
フィック幅を机上で計算していました。でも
その方法ですと、お客様が仕様を変るたびに
H2
幅広いラインアップと
3 つのコンセプト
もはや自動車は、動くコンピュータと言っ
の幅広いラインアップを持つ。ちなみに第一世
として SH-Navi や EMMA Car などカーエレクト
代の R-Car は、R-Car H1、R-Car M1A、R-Car E1 と
ロニクス分野に向けた SoC を提供してきまし
なる(図 1)。開発用ボードも各 R-Car ごとに用
た。いままで複数のアーキテクチャが混在して
意されている。
ても良いほど、エレクトロニクス化が進んでい
いたのですが、2011 年にそれらを統合したのが
い ず れ の R-Car も ARM® と SH な ど の マ ル
る。ECU(Electronic Control Unit)に代表される
R-Car です。2013 年~ 2014 年にかけて、R-Car の
チ CPU 構成としており、使用されるアプリケー
制御系はもちろんのこと、カーナビゲーション
システムなどに代表される CIS(Car Information
System:車載情報システム)の普及もめざましい。
ルネサスは、CIS に向けた SoC として R-Car を
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提供している。「以前からルネサスは、情報系
ARM PARTNERS SUCCESS
第二世代の出荷を開始しています」
(ルネサス吉
田氏)。
第 二 世 代 の R-Car は、R-Car H2、R-Car M2、
R-Car E2 というプレミアムからエントリーまで
ションによって CPU コアを使い分けることがで
きる。たとえば、エンジン起動時にカメラを立
ち上げるとか、ラジオのチューニングなど速く
起動させたいアプリケーションは SH を使用し、
H1 12K DMIPS
・4x Cortex-A9
・SH-4A
・Automotive, 45nm
・4x Cortex-A15
・4x Cortex-A7
・SH-4A
・Automotive, 28nm
M2
M1A 3K DMIPS
・Cortex-A9
・SH-4A
・Automotive, 45nm
E1 1.3K DMIPS
・Cortex-A9
・Automotive, 45nm
・2x Cortex-A15
・SH-4A
・Automotive, 28nm
CA15
CA15
CA7
CA7
IMP
Image
CA15
CA15
CA7
CA7
Ethernet
AVB
G6400
Graphics
CA15
SGX544MP2
Graphics
図 1:R-Car の製品ラインアップ。
USB3.0
VCP3
FullHD codec
アルタイムで計測ができませんでした。そこで、
R-Car の第二世代からは、バストラフィック計
測ができるような機能を追加しました」
(ルネ
Ethernet
AVB
CA15
USB3.0
サス伊藤氏)。
具体的には、バスの要所ごとにカウンタを設
け、メモリ間のデータの流れをカウントするこ
とでトラフィック数を見ている。各所にあるカ
E2
・2x Cortex-A7
・SH-4A
・Automotive, 28nm
VCP3
FullHD codec
再計算が必要になり、システムの動作中にリ
CA7
SGX540
Graphics
CA7
VCP3
FullHD codec
Ethernet
AVB
ウンタを一元管理する機能があり、それに対し
USB2.0
て、カウントのスタート/ストップ、カウント
のパターンなどの設定を JTAG を介してプログ
ラミングしている。
ARM PARTNERS SUCCESS
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要因の切り分けが可能になります」
(KMC由良氏)
。
きるなど、多くの特長を持つ。
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東京オフィス
ゼネラルマネージャ
こういったことができるのは、ARM のデバッ
「まずは状況を把握し、そして改善する。その後
とができる専用ソフトウェアを開発中していま
グアーキテクチャである CoreSight™ に寄るとこ
で、きちんと改善されたのかを検証する必要があ
す。これによって、バス負荷を高めている関数
ろが大きい。通常の CPU を介してデバッグする
ります。そのためにも手軽にバストラフィックを
を特定することができ、きめ細かなチューニン
ことに加え、CoreSight のオプションである AXI-
計測できるツールは有用です」
(KMC辻氏)
。さら
グが可能になります」
(KMC 由良氏)。
AP を用いることで、CPU を介さずにカウンタを
に、計測のための特別な準備が不要な点も大きな
また、PARTNER-Jet2 とのさらなる統合、ソフ
統合する機能ブロックにアクセスし各種設定が
メリットである。いままで、こういった計測を行
トマクロ方式のトレースへの対応、専用プロー
可能となったからだ。「CPU を介するデバッグ
う場合、バスの負荷を重くしたダミーのプログラ
ブの追加で LCD の LVDS(Low Voltage Differential
では、CPU を止めない限りメモリを読むことは
ムを用意するなど手間が必要だった。今回のツー
Signaling)のロギング、外部インタフェースのロ
できません。今回のバストラフィック計測の肝
ルでは、ダミーのプログラムなどを一切用意する
ギングなども可能にしていくという。
は、CPU を介さずに測定していることです。ま
ルネサス エレクトロニクス株式会社
車載情報システム事業部
コックピットソリューション部
担当課長
た、PARTNER-Jet 時代から培ってきた KMC の高
速 JTAG 制御技術があるため、高精度・正確な
辻 邦彦 氏
う。「現在、関数とバス負荷の関連性を見るこ
伊藤 伸高 氏
計測を実現できました」
(KMC 辻氏)。「しかも、
計測対象となるソフトウェアを変えずに済むこ
ことなく、実システムで計測できる。
「今回のバストラフィック計測は、R-Car に計
東京オフィス
「ダミーのプログラムの使用など実システム
測機能が搭載されていたからこそ実現できたも
のプログラムに手を入れると、バスの負荷が変
のです。しかし、オンチップデバッガが進化し
化したり、全体の挙動が変わってしまうことが
てきたように、今後はバストラフィック計測の
あります」
(ルネサス吉田氏)。さらに、手を入
ための機能が一般化していけば、他の SoC でも
たような複雑なソフトウェア開発やデバッグな
由良 守 氏
「あくまで計測ツールなので、ソフトウェア
とは、お客様にとっても大きなメリットがあり
ログラムを書くのは意外と難しいものです。こ
れたプログラムを再ビルドするだけでも多くの
できるようになるでしょう」
(KMC 辻氏)。「第
どのニーズに対して、パートナーと共に次々に
の改変が不要で、CPUを止めずにバストラフィッ
ます。測定のためのプログラムを作る必要がな
のツールを用いることでバス負荷を上げたとき
時間がかかってしまうことも避けられる。
三世代の R-Car には、さらに細かくバス負荷を
新しいソリューションを提供していきます」
(ル
ク計測が可能となっています」
(KMC 辻氏)。
く、実機に付いているデバッグポートを使用で
の状況を見ることができます」
(KMC 辻氏)
。
見られるようにしていきますのでご期待くださ
ネサス吉田氏)
。 「高性能な SoC を活かすのは
い」
(ルネサス伊藤氏)とのことだ。
ソフトウェアです。お客様が最もコストをかけ
ソフトウェア開発者にとって
使い易い情報が得られる
今回のバストラフィック計測は、第二世代の
R-Car に対して ARM 用 JTAG 接続のみで SoC 内部
も、測定用のソフトウェアやハードウェアの改
変が不要、ARM 用 JTAG さえ接続すれば製品出
ルネサス側のメリットとして、吉田氏は、ま
きます」
(KMC 由良氏)。「SoC 内部のバストラ
「自動車のアプリケーションは特に高い信頼
ずはお客様にとって問題点を洗い出せることで
フィック計測ツールは、シミュレーションのも
性が求められますので、バスの使用率やピーク
開発の効率化が図れること。次に、ルネサスと
のがほとんどなので、今回の PARTNER-Jet2 の
時の値を前もって知っておくことがポイントと
して、SoC 開発に際して内部バスや各ブロック
ように実システムでリアルタイム計測できるの
なります。バストラフィック計測ツールを用い
の動きの最適化を手軽に図れることを挙げた。
はほとんどなかったと思います」
(ルネサス吉田
ることで、いろいろな条件でピークを越えない
氏)。
ようにシステムを設計することが可能になりま
の AXI バス負荷などを測定できるものだ。しか
す」
(KMC 由良氏)。
チューニングに加え
さまざまな用途に対応可能
ことが必要になることから、キャッシュのヒッ
ト率/ミス率をバス負荷の計測と同じ時間軸で
ているのがソフトウェア開発であり、今回のよ
技術的な
無理難題を言い続けて欲しい
うなツールを活用することで、少しでも効率を
上げることができるでしょう」
(ルネサス伊藤氏)
。
「『速くて使い易い』をコンセプトにした JTAG
今後はよりソフトウェアとの
連動性を高めていく
バスの負荷とソフトウェアの相関を把握する
荷用 ROM でも計測可能、Cortex®-A15 / A7 プロ
バストラフィック計測ツールの今後として、
よりソフトウェアとの連動性を高めていくとい
「今回、R-Car に向けたバストラフィック計測
デバッガを提供してきました。そのコンセプ
ツールを KMC さんと一緒に開発してきました。
トに加え、『常に進化し続けるツール』であり
ルネサスとしては、今後 CIS の高性能化に応える
たいと思っています。PARTNER-Jet は提供から
べく、大規模化/複雑化するチップセットの開
10 年以上経過しますが、ハードウェアの改版
発に注力していきます。また、いままでになかっ
なしにソフトウェアの進化のみで常に最新の
セ ッ サ の PMU(Performance Monitor Unit)を
いままで見えなかったバス負荷が見えるよう
表示できるようにした。さらに、命令の実行状
アーキテクチャに対応してきました。もちろん
利用しキャッシュヒット率などを同時に測定で
になると、バストラフィック計測によるチュー
況を表示することで、ソフトウェア自体のビ
PARTNER-Jet2 もそのように進化させていきま
ニングに加え、さま
ジー状態とバス負荷の状況を合わせて表示でき
す。購入した後も常に進化し続けるツールを提
ざまな用途に対応
るなど、長年デバッカを提供してきた KMC なら
供していきますので、技術的な無理難題を言い
できるようになる。
ではの機能が盛り込まれている(図 3)。
続けて欲しいと思います」
(KMC 辻氏)。
「バス負荷を上
げるようなプログ
ラムを書いたとき、
さらに由良氏は、「PARTNER-Jet は進化し続け
バスの状態の把握と検証を
てきましたが、デバッガの範疇を出ていなかっ
手軽にできるのが最大のメリット
たと思います。R-Car のように SoC が大規模化し
CPU は キ ャ ッ シ ュ
図 2:PARTNER Jet2 の外観写真。
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た現在、デバッガに加えバストラフィック計測
を使ってしまうの
ユーザーにとってこのツールを使うことの最
ツールなど、違うアプローチにツールが求めら
でバス負荷が思っ
大のメリットは、状態の把握と検証にある。
「た
れています。そういったニーズにも KMC はお応
たように上がらな
とえば、ある程度開発が進んだシステムで、画面
えし続けていきます。PARTNER-Jet2 も 5 年後に
い こ と が 多 く、 バ
の一部が欠けるとか音が飛ぶなどの不具合が起き
は別の形になっているのではないかと思います
ス負荷を上げるプ
たとき、バスの問題かもしれないなど、不具合の
図 3:R-Car 内部バス計測画面。
ので期待していてください」と締めくくった。
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