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リーダーシップとしての創造思考

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【論説Ⅱ】シリーズ論説「リーダーシップとは何か」=第 3 回=
組織や人材について考えるシリーズ論説:「リーダーシップとは何か」。第 3 回は、「リーダーシップとしての創造思
考」です。前回で整理した「成功するマネジメント能力」と「成功するリーダーシップ能力」の違いを踏まえ、リーダ
ーに求められる創造性とそれを発揮する条件について考えます。
リーダーシップとしての創造思考
〔目次〕
1.前回の概要
2.創造思考
(1)創造性とリーダーシップ
(2)構造的対立の克服
(3)リーダーのジレンマ
(4)対立構造の変革
(5)リーダーを支えるフォロワー
(6)目標への到達プロセス
在しない価値を生み出すだけでなく、自ら生み出し
1.前回の概要
たものを現実のものにするための新たなマネジメ
前回は、「成功するマネジメント能力」と「成功
ント能力を創成することも必要となる。通常のマネ
するリーダーシップ能力」とが異なることを取り上
ジメントでは、マネジメント行為の前提となる枠組
げた。「成功するマネジメント能力」とは、既に存
み自体をつくり出す必然性はなく、すでに作り上げ
在する目標や計画、ルールなどに対して如何に行動
られた枠組みを遂行することが基本となる。しか
を合わせていくかの能力である。たとえば、目標値
し、リーダーシップ能力においては、自ら生み出し
を設定しそれに対する達成率を高めていくため
た枠組み自体を前提としてマネジメントを実現す
に、人的資源や資金を如何に有効に活用するかがマ
ることが必要となる。
リーダーシップ能力の前提たるサブマネジメン
ネジメント能力の問題であり、管理型能力といえ
る。これに対して、「成功するリーダーシップ能
ト力は以下の4つから構成される。
力」とは、「過去に存在しなかったものを実現する
①注意力のサブマネジメント
こと」である。すなわち、まず自らの行動の源泉と
②意味のサブマネジメント
なる価値自体を形成することから始まる。既に存在
③信頼のサブマネジメント
する価値に合わせてものごとを遂行する能力は「マ
④自己のサブマネジメント
①「注意力のサブマネジメント」とは、より広く、
ネジメント能力」であり、これに対して過去に存在
しない価値を生み出し実現していくことが「リーダ
より深い時間や空間を視野に入れてマネジメント
ーシップ能力」といえる。
する能力である。②「意味のサブマネジメント」と
は、自らのマネジメント行動に対して常に価値付け
加えて、「リーダーシップ能力」には、過去に存
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No.94)2005 年 7 月
を行い、一定の価値に基づく行動を形成することで
的な成功をみないことを認識する必要がある。新し
ある。③「信頼のサブマネジメント」とは、共有さ
い政策は、代替的な運営目標と暗黙の規範の存在を
れた価値観をベースにフォロワーとの間の信頼を
認識することなく採用されやすい。この場合、従来
形成することである。④「自己のサブマネジメン
の目標と規範に緊密に結びついた補正的フィード
ト」とは、以上の三つのマネジメントを実現するた
バックにより、有効性を低下させる要因となる。こ
めのセルフコントロールといえる。
れを克服するには、組織内の局地的な目標を有機的
に調和させることが重要となる。
管理型の「成功するマネジメント能力」によって
導入される政策は、短期的な改善には資するもの
の、結局、繰り返し生じている古い問題を再認識す
2.創造思考
るだけの結果に終わることも多い。なぜならば、新
しい政策が基本的な原因ではなく、目標管理を達成
(1)創造性とリーダーシップ
するための「問題の兆候」に対処するレベルに止ま
単なる管理型マネジメントから脱却し、「問題の
り、一時的な処方箋として患部を癒すにすぎないか
原因」に働きかける政策を創造することは容易では
らである。こうした場合、短期的な管理目標は実現
ない。変化を創り出すことが難しい原因は、現実に
するものの、実施された政策は、結局のところ、シ
動いている組織やシステムが変化や成長に向けて
ステム内、そして外部環境の強い干渉と依存の果て
進むのではなく、むしろ従来の固定した行動様式を
しない罠にはまる結果となる。これは、短期的対策
強化する方向に進む体質をもっていることにあ
の多重性を生み出し、古い問題との間に抜け場のな
る。このため、真の創造を実現するには、環境を超
い循環を生み出すだけとなる。
越し、環境の構成や志向からも超越したイメージを
「成功するリーダーシップ能力」では、こうした
生み出す必要がある。こうした超越したイメージ
自滅を可能な限り防ぐため、低い影響力の政策変更
は、ひとたび構想されると基礎的な構造を確立し、
と高い影響力の政策変更とを峻別することが必要
ビジョンの最終的な成果を「可能なもの」にするだ
となる。高い影響力をもつ政策は、問題の兆候に対
けではなく、「現実のもの」にする流れを生み出
して時間的、空間的に密接且つ明確な関係は有して
す。すなわち、他人が根本的に方向転換することを
いない。原因と結果はより広い時間と空間の関係で
可能にする流れが形成される。
形成されているため、高い影響力をもつ政策の優先
創造性をもったリーダーシップによるイメージ
度は限定的となる。低い影響力をもつ短期的改善策
は、生み出そうとする成果をリーダーが構想し、そ
は、突然の危機に対しては積極的に反応するが、数
れをビジョンとして充分に外部に表明し、さらにそ
年あるいは数世代の期間にわたって起きる信頼
れを完全に現実のものとすることによって達成す
性、品質の改善をもたらす緩やかな成果を認識する
ることができる。その時、イメージが新たな意味、
ことには失敗しやすい。
新たな視野、新たな力をもつことになる。
システム的なものの見方の最初のステップは、
「問題の兆候」と「問題の原因」とを明確に区分す
(2)構造的対立の克服
ることである。問題の兆候を操作しようとする努力
創造性を阻む要因として、構造的対立がある。構
が、複雑なシステムにおいては極めて稀にしか本質
造的対立とは、相互に排他的な解消点を持つ二つ以
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上の要因が共存することを意味する。行政組織、民
身または他人の「動機付け」を行い行動させる方法
間企業、日常生活において最も一般的に見られる構
である。これには二つのステップがあり、①実行し
造であり、解決すべき問題点を自ら内包していると
ないこと、または不十分な行動に伴う望ましくない
きに生じる。解決点が自らの内部に矛盾を抱えたま
結末に関する「否定的なビジョン」を提示し対立の
ま共存する構造である。
度合いを増すこと、②対立を解除するように計画さ
具体例としては、一方に「一定の目的を満たした
れた行動を起こさせることである。この構造の長期
いという欲求」があり、また一方に「その欲求を満
的な結末は、「欲求―成果を得る」と「信念―成果
たすには能力不足である」という欲求を抱える構造
を得られない」との間の振幅を繰り返すことで、戦
がある。この二つは相容れない支配的な欲求として
略自体が回避したいと思う否定的なビジョンを強
共存する。このため、欲するものの方へ動いても、
調することにある。具体的には、財政危機が将来如
次にそこから離れることを繰り返すことになる。
何に深刻な状況を招くかを提示して対立の構図を
こうした構造的対立を解決するために、「望むも
克服し、財政構造改革の行動を推進しようとする方
のを手に入れにくい」という支配的信念を、「望む
法である。しかし、その際、第2ステップで必要と
ものは手に入れられる」という信念に変えることが
なる「対立を解除するように計画された行動を起こ
指摘される。しかし、能力不足とする欲求が内部に
させる」ことが難しく、対立を深める結果となる場
残されている限り、すべては失敗に終わる。そし
合も少なくない。
第3の意志力の操作とは、生じるものを見てみた
て、欲求放棄が新たな欲求放棄へと繋がり「失敗連
いという意志に自分を応じさせることで、構造的対
鎖の構造」が強まる。
構造的対立を根本的に打破するための戦略とし
立に打ち勝つように立案された戦略のことを意味
ては、①第1ステップとして耐えられる対立の領域
する。ただし、他の二つと連動させずにこの方法だ
にとどまること、②対立の操作を意識すること、③
けを導入した場合には、短期的には「ブレイクスル
意志力の操作を意識することが上げられる。
ー」を生み出し上手く達成したかに見せることはで
きても、長期的には損失をもたらす。なぜならば、
第1の耐えられる対立の領域にとどまることと
は、具体的に野心を限定し損失を最小化すること
構造自体はそのままであるため、望むものとは反対
で、まず「現実的」なものにのみ手を伸ばす戦略を
の動きを生じさせる可能性があるためである。
取ることである。このことによって、創造性の一部
(3)リーダーのジレンマ
が損なわれる一方、予測可能性と確実性に高い価値
を見出すことができ、そのことが損なわれた一部も
多くのリーダーが努力の後に見出すのは、自分の
含めて将来的に創造性を高める要素となる。たとえ
行動が目指したとおりの成果をあまり生み出して
ば、革新的政策を展開するときに、まずトリガーと
いない事実に他ならない。リーダーの地位についた
なる成功事例を規模の有無に関係なく実現させ、全
人間は、たとえ最も進んだ理論を完璧に実行したと
体として改革意識とそれに向けての創造力を高め
しても、約束したインパクトの深さをもたない結果
る等の戦略である。
に終わるだけとなり、たちまちのうちに意気喪失と
幻滅にさいなまれることも少なくない。
第2の対立の操作とは、行動を起こさない場合の
リーダーの大半は、「耐えられる対立の領域」の
否定的な結末のビジョンを提示することで、自分自
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中にとどまるという戦略を展開する。したがって、
の方へ動くにつれてエネルギーが放出され、とられ
リーダーが何を実行しても、「意志力の操作」と「対
た行動が直接的に現実をビジョンに至らしめてい
立の操作」とのいずれかの変化に止まりがちであ
るか、そして同時に②「ビジョンが現実に移ってい
る。「対立の操作」に基づいてリーダーが取るアプ
けるか」にある。仮に上位のビジョンが破壊され、
ローチは、短期的には肯定的な結果をもたらすが、
構造的対立が支配的になった場合、対立構造の変革
より長期的にみると組織内で再解釈されるか、それ
は失敗する。多くの場合、人々は自分のいる場の環
とも無視されるかに至ってしまう場合が多い。ま
境からビジョンを得ようとする傾向がある。こうし
た、「意志力の操作」に基づいてリーダーが取るア
たビジョンは「引き出し型のビジョン」と呼ばれ、
プローチは、他人を利するような使命を表明し、た
創造的行為にはつながりにくい。
とえば「最高業績」を促進して高い生産性やエクセ
真のビジョンを生み出すには、ビジョン自体が環
レンスの追及といった肯定的な価値を強化し、組織
境条件から独立して認識される必要がある。加え
の目立つメンバーを認知して個人や組織の功績を
て、表面的な達成可能性や達成不可能性には言及せ
助長し、組織変革への努力の成功例を流布させるこ
ずに認識されることが最善である。そこで真のビジ
とである。この手法は、一時的には上手くいくが、
ョンを生み出すためには、自分が創造したいと望む
このプロセス全体が非常に心地悪く、通常は不和を
成果を組み立てることから始めなければならない。
生じるため、人々には自分達の限界をもう一度見せ
一般的には、ビジョンを組み立てるよりも、行為
付けられるように感じられる。このため、組織にい
の方法、取るべきステップ、従うべき形式といった
る者は幻滅したまま放置されることとなる。
プロセスに焦点を当てるように訓練されている。こ
以上のように、構造的対立を根本的に打破する戦
うしたプロセスに焦点をあてることは、自分の望む
略としての、①第1ステップとして耐えられる対立
ものがわかっていれば有益であるが、そうでない場
の領域にとどまること、②対立の操作を意識するこ
合には役に立たない。たとえば、創出される成果を
と、③意志力の操作を意識すること、という手法に
予め限定して慣例、環境への適応を求める方法は、
は、限界がある。
創造性の開発を駄目にする。創造とは、組織設計の
形態や配置を全面的に再構成し、ビジョンがプロセ
スから独立している場合にのみ可能である。ビジョ
(4)対立構造の変革
そこで基本的な対立構造を変えるためには、耐え
ンは、創造者がつくり上げる成果を結晶させたもの
られる対立の領域に止まるのではなく、別の構造を
であり、明確に結晶させるにつれ、より多くの人々
機能させ、その構造が旧来の構造よりも上位に位置
がビジョンを目にし、支持し、調和し、貢献し、付
する姿を提示することが必要である。構造的対立よ
加し、最終的な創造物に参加することができるよう
りも上位である構造とは、構造的対立を自分自身の
になる。
中に組み込み、複雑な構造を簡素な構造に置き換え
ビジョンの確立の次には、「今の現実」を確定す
ることである。具体的には、①ビジョンと②現実と
るために「今どこにいるのか?」ということの認識
の緊張関係の提示である。
が必要になる。今の現実には構造的な特質を含み、
ビジョンと現実との関係は、①「今の現実がビジ
構造的な対立そのものを機能している関連構造と
ョンへ移っていけるか」、すなわち現実がビジョン
して認識することである。創造的リーダーが最初に
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実感することは、「たいていの人々は認識していな
てビジョン自体の範囲をむやみに拡張せず、ビジョ
い現実を知る糸口となる観点を見失いがちであ
ンに自分の力を加えることができる人である。共働
る」ということである。創造的リーダーに求められ
者がより効果的にビジョンに現実をもたらすのを
るものは、①現実の変化がわずかであろうと明白で
手助けしビジョンの範囲を拡張するのに対して、増
あろうと淀みなく知り続けること、②現実のどの面
幅者はビジョンの規模を拡大することに役立つ。
がビジョンと関連し、どの面が関連しないかを識別
第3の技能者は、高度に専門的なサービスを通じ
することである。以上のことは、創造的リーダーに
て、ビジョンの現実化の最終段階において付加価値
とって現実を知ることを意味する。
を高めることに役立つ。
第4の支援者は、技能者と異なり、その役割が技
リーダーとは、ビジョンと現実を共に明確化し、
構造的緊張という上位の力を確立して、空想家とし
能に基づくものではないが、ビジョンが具現化する
ても現実家としても働き、新たな構造的緊張関係を
ときに価値ある役割を果たす人々である。
確立する主体である。その上で、リーダーは、他人
(6)目標への到達プロセス
に自分のビジョンを押し付けずとも、リーダーがビ
ジョンを明確化すれば、他者は自分自身のビジョン
目標への到達プロセスは、以下の通りである。
を思いつくことができるように奨励され、勇気付け
第1は、力を集めることである。創造者としての
られる体制を形成する。創造者としてのリーダーの
リーダーは、人々を動機付けることを求めるのでは
役割は、他者が自分自身の創造プロセスを修得でき
なく、一人一人が実現したいと思うビジョンがある
るよう手助けすることにある。
という事実から、自然と生じる動機付けを持った
人々が集まるのを待つことが重要である。改宗者を
探さず、むしろ、その人の持っているビジョンが正
(5)リーダーを支えるフォロワー
リーダーを最もよく支える人々、すなわちフォロ
統的であり現実に対する見方が何物にも邪魔され
ワーは、自分自身の生活上でも卓越した想像力をも
ずに、はっきりしている共働創造者を探すことが有
つ人々であり、組織のビジョンについてはリーダー
用である。リーダーシップとは、適切な環境や適切
ほどには共有していないにも関わらず、自分のビジ
な状況ではなく、創造のプロセスだからである。
ョンが組織のビジョンと互換的である人々をい
第2は、基礎的な構造を変えることである。構造
う。組織のビジョンを完全に現実化するときには重
的対立を克服したり補償したりするのではなく、そ
要な役割を果たす。具体的にフォロワーとは、①共
のような構造を吸収し構造的緊張を新たにつくり
同者、②増幅者、③技能者、④支援者である。
上げることである。
第1の共働者は、ビジョンの特定に貢献する。
第3は、実験することである。創造者としてのリ
個々の共働者がビジョンの範囲を拡大するため、そ
ーダーは、限られた投資で小規模な実験を行うこと
れぞれの部分の総和よりも全体のビジョンは大き
でフォロワーの学習能力を増大させ、全体の創造の
くなる。共働の種類の形態としては、合意的タイ
プロセスの基礎を飛躍的に拡大させる。
そして第4は、ビジョンを現在のものとして据え
プ、階層的タイプがあり、リーダーはどちらのアプ
ることである。
ローチが役に立つかによって選択すべきである。
第2の増幅者は、ありふれたビジョンを取り上げ
(次号につづく)
「PHP 政策研究レポート」(Vol.8
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