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グローバルCOE教育プログラム
≪リベラル・アーツ≫
【創造性の開発】
“創造性の開発「技術者のために」岩波書店
を中心に
E・K・ヴァン・ファンジェ著”
この本は、GE社T・V・レシーバーのエンジニアで創造工学のクラス指導
者だった“ヴァン・ファンジェ氏”が 5 年の歳月をかけて資料、記録を収集・
整理し執筆したもので、GE社の社内用教科書に利用されただけでなく、米国
内の各大学や研究所の参考書としても広く採用された。
(ダイジェスト化:G-COE 教育支援員 秋葉恵一郎)
平成 21 年 5 月 29 日
創造活動の道は、熟練技術者の行動とはどこか異なり、純粋に知性
的な羅針盤では対処が難しい。しかしながら、そんな中でも着想の
取っ掛かりがないわけではない。この本には幾つかの重要な手順が
示されている。
創造性:研究活動の源泉
創造性とは何か?
素質、資源、計画を効果的に関連させ創造的貢献をするにはどうしたらよいか
既存要素の新しい組合せである“創造”が、利用者にとって有用かつ価値あるものであ
ることを期待し、研究者や技術者は自分にとって新しい組合せを日々創り出している。こ
の意味で創造的であることはそれ程難しいことではない。しかし、別な見方をすれば創造
的だということだけでは何の価値もない。「他の人々にとって価値あるものでなければ」と
いう言葉を補うと分かり易いだろう。そこが難しいところである。
では、どうすればよいか? 偶然のインスピレーションで研究や仕事上の課題を解決で
きた経験を皆さんは持っているだろう。しかし、その一方で、やり方を一つ見つけたら最
後、それから離れたくないという気持ちを持ちたくなるのも人情で、経験もこのことを教
えている。
創造性にまつわる諸要因、諸事情を考えるために、まず自分と自分の廻りを見てみよう。
創造性を阻んでいる要因や事情はないだろうか?
我々はどこかのグループに属しており、当然のことながら自分達が育ったグループの習
慣を守る。時と場合によって又は稀に仲間が作った規則を盲目的に受け入れ、その鋳型に
流しこまれ、言われた通りのことをし、グループに受入れられるような順応さを繰り返す
傾向が我々に無いではない。また社会に受け入れられるために言われた通りのことをし、
たまたま廻りに非共感的な環境が存在した場合、従順で思考しない存在と化してしまうこ
ともまた無いではない。
では、真に創造的であるためには、あらゆる理論を無視し、規則や習慣を排除し、現在
の教育環境に一大変革を起こさせればいいかというと、そうではない。創造性を生産的に
発揮するためには、
“習慣”の本質を知ることである。我々や他の人々がしていることの多
くは習慣によって決定されている。このことを認識することである。
そして、素材や道具の機能を固定して考えないことも重要である。塩ビパイプは雨どい、
家庭排水の排出管になっているが、冬季には摩擦静電気発生用の理科の実験道具にもなる。
前者のみに固定的に考えると創造性の萌芽にはならない。
また、偉大な貢献をするためには、確かに高度な知能があることは望ましい。誰にも五
感と想像力はある。知識、記憶、想像力がある。そこに創造的意欲が加わり、合わせて情
動的動機が十分に高まってくるとだんだん判断や概念が意識のフィルターに入ってきて出
口を探そうとする。こんな感覚を多くの人は経験している筈である。したがって、高度な
知能であった方がよいかも知れないが、不可欠なものではない。
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“着想の技法”
我々に新しい観点を与えるもの
研究課題を持つ人が、身につけるべき創造性の技法とは、次のようなものだろう。
① 興味を起こさせるものを言葉で現そう。これが創造性の動機付けになる。
② 自分の“フィルター”の精度と柔軟性を保持しよう。これで想像力と判断が有利に働く。
③ 知識を蓄積しよう。正確な情報がないと“既存要素の新たで効果的組み合わせ”ができ
ない。
自分の活動領域の基礎知識は大事である。人間の記憶はどうも信用できない。従って、
単なる耳学問に頼っていると知識の正確性が欠けてくる。それに気が付いたら、責任の
持てる最初の情報源まで遡る必要がある。そのため我々が学んだあらゆる知識について、
出所と内容のメモを残しておく習慣を身につけよう。
④ 情報・知識の結合を速めよう。どうも問題の根底にある概念と取り組む、たとえば、缶
切りに役立つ新たな原理が求められている場合、“開けること”のように一般的命題化
することが役に立つ。
創造活動は岩だらけの未知の道、試行錯誤の道のように見えるが、上記の技法ととも
に試してみる手法もある。黙っていても誰しもしていることである。確認のため、適当
なデバイスや装置を思い浮かべて、以下の観点から創造して見よう。
・他に使い道はないか(そのままの形、形の修正)?
・改造したら?
・修正したら?
・拡大したら?
・縮小したら?
・代用して見たら?
・組み立て直したら?
・反対にして見たら?
・組み合わせたら?
(アレックス・オズボーン『独創力を伸ばせ』
(ダイヤモンド社)のチェックリスト)
課題の解決、洞察との出会い
純粋知性では対処が難しい。熱心な課題への取組み集中から忽然と現われる。
創造活動の道は、熟練技術者の行動とはどこか異なり、純粋に知性的な羅針盤では対
処が難しい。しかしながら、そんな中でも着想の取っ掛かりがないわけではない。重要
な手順を考えて見た。これも以下に示そう。
・自己の判断力を当面する課題に振り向ける。そしてそこに集中させる。
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・課題の一面、それもありきたりの面を意識的に取り上げる。啓示があれば、次第に
その一面に疑いを持つ。
・誰かに、自分の課題解決の目標を、締切期限、中間期限を設定して宣言する。
・適当な記録を残しておく。
このような探究目標を追求する道筋に、好意的な環境と本人の強い動機付けがあると、
以下のようなプロセスで洞察につながる。
まず、満足することなく熱心に課題と取り組む。しかしながら、途中で我々の関心が
他の物事に完全に捉われてしまう休憩時間のような場面ができてくる。そのとき、何か
の弾みで反復熟慮が起こるか、あるいは意識的な手段がそこに加わると、我々の心は求
めていた課題の方向に漂い戻って行く。我々がその課題に集中することを止めてからし
ばらくして、突然の洞察が訪れる。
これはほんの一例だが、課題の探求に真剣に取り組んだ人ならば似たような経験を持
っている筈である。ここで課題の解決へ大きく近づける要素は、知識や技法の成長では
なく、判断力の成長である。
課題解決に必要なフェーズ
変化に対する抵抗はなくならない。これを念頭に置き、フェーズを進めよう
最後に、課題解決に必要なフェーズと留意点をまとめてみる。
① 課題の設定
まず初めに有益な目標を選ぶこと、その上でそれがどうして課題になるか、課題の方向
性を調べつつ、必要事項を自分の言葉で書き留めることが重要である。データや情報解
析に裏付けられた課題ならば、解決に向けたアプローチは多分最適な方向性を示してく
れることになる。その方向に沿った計画と予定表に基づいて実行してみよう。
② 具体的、定量的、客観的な測定基準の設定
研究の出口にあたる“解決課題”を評価するための定量的、客観的な測定基準を持つこ
と。これにより研究成果の評価にあたり曖昧さと疑念が無くなり、自信につながる。
「誰が」行動を起こし、決定するか、
「何が」なされるべきか、
「何時」までに何をして、
責任が果たされなかったら「何が起こるか」を記述し、自分でコントロールできないこ
とは自分のアクションプログラムに規定しないようにしてみる。その上で自分の研究成
果を上記の測定基準に当てはめてみよう。そして自分の求めている成果が数量的に把握
できるようであれば、決定的でダイナミックな態度が育成される。
③ 課題解決方法の開発
通常、開発の成功はその過程で起きるたび重なる失敗の上に打ち立てられたものである。
だから開発の途中では、無数の代案が集積し Try & Error が繰り返されており、多くの
案は捨てられている。ただし、通常の研究成果については、成功した事例の記録だけが
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あまりに多いため、我々の後継者は失敗事例にぶちあたらないので、苦心惨憺し以前入
り込んだ袋小路にまた入り込んでしまうこともある。
したがって、
“成功”と同様に“失敗”を記録することが望ましい。勿論、アイディア
というものは記録しておかないと、二度と帰ってこないので、日頃から筆記用具とノー
トは持ち歩くべきだろう。
④ 最適条件の設定
まず、時間と予算に目を向ける必要がある。自分のテーマにどれだけの時間と予算を使
う意思があるのかを決定する必要があり、使用金額と使用時間に相当する価値や働きに
応じて、実行すべき細部の仕事を決定することが重要である。そして、研究成果を第三
者専門家に納得させることが求められるが、成果の理解を十分に認めてもらう価値構造
を持つ論理構成をする必要がある。何としても過少評価を避けるためである。統一、均
衡、調和のとれた良い第一印象を創造し、報告書の構成は論理的にすべきである。その
上で報告書の表題を刺激的にすることもテクニックとして使ってよい。
⑤ 解決策へ到達するアプローチ
研究を実際に行ってみると、必ず誤りや脱落箇所その他調和を要する要因となる事項に
ぶつかる。最適な条件、最適な仕組みを考えたにもかかわらず、企業で工業化すると、
思わぬ問題点が見つかることもある。これは珍しいことではなく、ごく一般的に見られ
る。しかし、ここでジタバタしてはならない。こんなときに、基本的に守ったらよい心
構えがある。
・組織内のコミュニケーション機構を無視しないこと
・自分の手で仕事を仕上げたいという衝動にかられても、一旦立ち止まってこれまで歩
んできた道やこれからの行動を詳細に考えること
・自分がしてもらいたいことについて、躊躇したり自信がないような様子を絶対に見せ
ないこと
・人に接するときは誠意をもって心から愛想よく挨拶し、ユーモア感を忘れてはならな
い。多くの協力を得ることを考えると、当然のことである。
⑥ 第三者による価値の納得
今も昔も新しいアイディアはなかなか受け入れられない。エジソンも「新しい物はすべ
て抵抗に出会う。発明者が、自分の言っていることを、人に聞いてもらうには何年もか
かり、それが紹介されるまでには、またさらに何年も待つことになる。
」と言っている。
以下の図から感覚的にそのことが分かる。
図1
変化に対する抵抗
創造的貢献
変化に対する抵抗(面積)
(逸脱の角度)
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研究成果の価値を第三者に分かってもらうためには、その基になるアイディアを考え付
かなかったことに対して、見下していると感じさせるような態度を少しでも示すべきで
はない。
以上
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