表 1.臨床材料の採取・輸送・保存法

表 1.臨床材料の採取・輸送・保存法
輸送・保存法注)
検
査
材
料
採
取
法
(可能な限り短時間に抑える)
1. 表皮, 爪, 毛髪 10)
いずれも,患部をアルコールで消毒する.
表皮,爪,毛髪:いずれも室温
表皮:鱗屑,痂皮,丘疹および水泡蓋などは滅菌
または 4℃に保存.
した眼科用小ハサミ,円刃メスおよびピンセット
癜風患者の鱗屑を採取したテ
などを用いて採取し,滅菌容器に入れる.
ープ:滅菌シャーレなどに入れ
癜風患者の鱗屑:細かいので,透明粘着テープを
室温または 4℃に保存.
病変部に押しあて粘着面上に鱗屑を採取する(ス
検体の輸送:院内の検査室で実
コッチテープ法).
施する場合は,採取後,速やか
爪:爪先端を爪切りで切って捨て,爪甲下の角質
に検査室に届ける.時間を要す
を眼科用小ハサミ,円刃メスなどで,できるだけ
る場合は冷蔵状態で輸送する.
小塊に削り,滅菌用器に入れる.
毛髪:毛抜きやピンセットを用い,容易に抜去で
きる毛髪(患毛)を,毛根部を含め採取し,滅菌用
器に入れる.
2. 組織
生検皮膚組織:採取部位をヨード剤で消毒・局所
(生検,剖検)
麻酔後,滅菌メスを用いて採取する.材料が少量
組織:4℃に保存.
で乾燥し易いので,滅菌用器に入れた湿らせた滅
検体の輸送:院内の検査室で実
菌ガーゼの上などに採取する.
施する場合は,採取後,速やか
針生検組織:ヨード剤で消毒・局所麻酔後,外筒
に検査室に届ける.時間を要す
針を穿刺し内筒針に組織をからめ採る.経気管支
る場合は冷蔵状態で輸送する.
的肺生検は内視鏡下に採取される.開胸肺生検は
この際,必要に応じ,輸送培地
全身麻酔とし,病変部近辺を開胸して採取し,滅
を用いる.
菌容器に入れる.材料は少量で乾燥しやすいの
で,少量の滅菌生理食塩液などを加える.
剖検組織:採取表面をアルコール消毒後,さら
に同部位に灼熱したスパーテルをあてて滅菌し,
滅菌メスで病巣部を切り出し,滅菌用器に入れた
湿らせた滅菌ガーゼの上などに採取する.
3. 血液(2セット採取) 採血部位は,異なる 2 カ所(例えば左右の肘静脈) 血液を接種したボトルは直ち
とし,穿刺部位を最初にアルコール,次いでヨー
に自動検出機器にセットする.
4. 骨髄 11)
ド剤で消毒する.それぞれの部位から各 20ml 採
用手法のものは孵卵器で培養
血し,直ちに好気ボトルと嫌気ボトルに各々10ml
する(採取後,2 時間以内).
ずつ接種する(1セット)。もう一カ所からも
直ちに培養できない場合は室
20ml 採血し、同様に血液培養ビン(2 本)に接種す
温で保存する(許容時間はメー
る.抗酸菌/真菌用ボトル(BD)には 5ml の血液
カーの添付書に従う).
を接種する.
冷蔵保存は厳禁である.
穿刺部をアルコールとヨード剤で消毒する.局所
骨髄:滅菌試験管に採取した骨
麻酔後,ヘパリンを添加した注射器に 0.5ml 程度
髄は,4℃に保存する.なお,
の骨髄を吸引採取し,直ちにベッドサイドで培地
一般細菌検査も必要な場合は
に接種し、残りはブイヨンなどの液体培地に接種
室温保存とする.
する.同時に直接鏡検標本も作製する.Isolater
検体の輸送:院内の検査室で実
10®(試験管内で溶血させ,遠心分離後,沈渣を接
施する場合は,採取後,速やか
種する検査キット.現在,市販品は無い)システ
に検査室に届ける.検査までに
ムは Histoplasma capsulatum や他の糸状菌の検出
時間を要する場合,一般細菌検
に有用とされる.標準血液培養ボトル(好気用, 査も同時に実施の場合は室温
嫌気用,小児用)への接種は推奨されない.直ち
で,真菌のみでよい場合は冷蔵
に培地に接種できない場合は,滅菌試験管に採取
状態で輸送する.
する.
5. 髄液,
髄液:腰椎穿刺または脳室穿刺により得られる. 髄液:髄膜炎菌の感染も考慮
その他の穿刺液
採取部位の皮膚消毒は,アルコールとヨード剤で
し,35℃に保存する.
(胸水,腹水など)
厳重に行い,穿刺後に自然流出する髄液を,可能
他の穿刺液:真菌(4℃保存)
であれば 2mL 以上採取する.
検体の輸送:院内の検査室で実
その他の穿刺液:採取部位の皮膚をアルコールと
施する場合は,採取後,速やか
ヨード剤で消毒後,必要に応じ,局所麻酔を行う. に検査室に届ける.真菌のみの
穿刺後に得られる自然流出液または吸引によっ
検査の場合は輸送・保存とも冷
て得られる液を 2mL 以上採取する.
蔵状態で行う.
6. 血管内留置カテーテ
カテーテル刺入部の皮膚をアルコールで消毒後, 血管内留置カテーテル:4℃に
ル
カテーテルを抜去する.抜去したカテーテルの先
保存.
端 5~7cm を無菌的に滅菌容器に採取し,乾燥を
検体の輸送:院内の検査室で実
防ぐため滅菌生理食塩液 2~3mL を加える.Maki
施する場合は,採取後,速やか
ら
12)
の方法(半定量培養)を行う場合は,滅菌生
理食塩液を添加せず直ちに培養する.
に検査室に届ける.時間を要す
る場合は冷蔵状態で輸送する.
7. 喀痰,
気管支肺胞洗浄液
(BALF)
喀痰:早朝起床時の痰が望ましい.歯磨きやうが
喀痰,BALF:4℃に保存,
いをして口腔内を清潔にし,大きく咳をして下気
長時間の室温放置は厳禁.
道(気管や気管支)の分泌物を喀出させる.また, 検体の輸送:院内の検査室で実
ネブライザーで生理食塩液を吸入させ,痰の喀出
施する場合は,採取後,速やか
を誘発させる方法も有用である.
に検査室に届ける.時間を要す
BALF:気管支鏡下に,滅菌生理食塩液で肺胞を
る場合は冷蔵状態で輸送する.
洗浄し,回収した洗浄液を検査材料とする.
8. 舌および口腔,
舌および口腔分泌物:うがい後,舌圧子などを使
舌・口腔,膣分泌物:4℃に保
鼻腔,膣分泌物
用し,口腔内あるいは舌の白苔を滅菌綿棒に採取
存.
する.
検体の輸送:院内の検査室で実
鼻腔粘液:鼻鏡を挿入して鼻腔を広げ,滅菌綿棒
施する場合は,採取後,速やか
や滅菌ガーゼで検査材料を採取する.
に検査室に届ける.時間を要す
膣分泌物:膣鏡を挿入して膣腔を広げ,滅菌綿棒
る場合は冷蔵状態で輸送する.
で分泌物を採取する.
9. 膿汁,膿腫
10. 角膜,硝子体 13)
採取部位をアルコール消毒する.膿汁を圧出して
膿汁,膿腫:4℃に保存
滅菌綿棒に採取,または注射器で膿汁や膿腫内容
検体の輸送:喀痰などに準ず
を吸引する.
る.
角膜:麻酔薬を点眼後,滅菌した綿棒を用い,角
角膜,硝子体:直ちに検査する.
膜の病巣辺縁部を十分に擦過する.乾燥し易い材
検体の輸送:院内の検査室で実
料なので,その場で培地への接種および鏡検標本
施する場合は,採取後,速やか
作製を行うのが望ましい.
に検査室に届ける.時間を要す
硝子体:毛様体偏平部から穿刺あるいは硝子体手
る場合は冷蔵状態で輸送する.
術時に採取する.乾燥しやすい材料なので、その
場で培地への接種および鏡検標本作製を行うの
が望ましい。
11.耳垢
12.尿
耳鏡を挿入し,滅菌耳用鉗子などで外耳道の膜様
耳垢:室温または 4℃に保存
物質(耳垢)をつまみ取る.あるいは小さい滅菌綿
検体の輸送:角膜,硝子体など
棒や滅菌ガーゼを用いて採取する.
に準ずる.
中間尿:男性は亀頭を露出させ,消毒綿で清拭
尿:直ちに検査できない場合
する.出初めの尿は捨て,中間尿を滅菌コップに
は,4℃に保存する.
採取する.
検体の輸送:院内の検査室で実
女性は,外尿道口を消毒綿で清拭する(尿道から
施する場合は,採取後,速やか
陰唇部へと外側に向けて清拭).片方の手で陰唇
に検査室に届ける.時間を要す
部を開いた状態を保ち,排尿する.出初めの尿は
る場合は冷蔵状態で輸送する.
捨て,中間尿を滅菌コップに採取する.
留置カテーテル尿:留置してあるカテーテルの,
尿
道に近い部分の表面をアルコール消毒し,そ
こに注射器をつけた注射針を穿刺して,カテーテ
ル内の尿を吸引採取する.
注):材料の保存はできるだけ避ける.保存時間は目的菌や検体の種類にもよるが 24 時間を超えない.