paper

情報処理学会第71回全国大会
2Y-1
タッチセンサ入力に操作感を付与する効果音についての諸考察
渡辺 北斗†
木村 朝子‡
柴田 史久†
立命館大学大学院 理工学研究科†
1. はじめに
我々は,これまでに一般のメカニカルなスイッチ(以
下メカスイッチ)の操作音(以下,メカスイッチ音)を
効果音として提示することでタッチセンサ入力に押下感
を付与する試みを行った[1].その結果,メカスイッチ音
を提示することで押下感を付与可能であることが分かっ
た.本稿では,上記研究で得られた知見を単純な電子音
に適応した場合にも,同様の結果が得られるのか,操作
感は向上するのかについて実験した結果を報告する.
2. 目的と実験準備
2.1 目的
タッチセンサやタッチパネルは,メカスイッチと比べ
てサイズやレイアウトの自由度が高く,デザイン性が高
い一方で,押下感がなく操作感に欠けるという問題があ
る.先行研究では,この問題を解決するために触覚提示
機構を導入し,押下感を再現している[2][3].これに対
して我々は,触覚提示機構を用いず,入力時にメカスイ
ッチ音を提示することで押下感を付与する試みを行い,
(1) メカスイッチ音の種類によっては,タッチセンサ入
力に押下感を付与することができる
(2) 「カッチン」というメカスイッチ音の提示タイミン
グを手の動きと連動させ,スイッチに指が触れたと
きに「カッ」,離れたときに「チン」と再生される
方が,押下感が向上する
(3) タッチセンサを押してすぐに効果音が提示される方
が,押下感が向上する
の 3 点が明らかになった[1].しかし,これらの結果が,
メカスイッチ音特有の結果なのか,単純な電子音を効果
音として用いた場合にも同様の結果が得られるのか疑問
が残った.そこで本研究では,文献[1]と同様の実験を単
純な電子音に対して行い,上記を確認する.
2.2 実験準備
【実験環境】実験には,オムロン社製 36 ch 静電容量式
タッチセンサ,音処理用 PC,小型スピーカを用いる
(図 1).音処理用 PC はタッチセンサとシリアル通信
を行い,ユーザの指が触れるか離れるかすると,その ID
オーディオ出力
36 chタッチセンサ
スピーカ
音処理用PC
シリアル通信
図1
システム構成
The Considerations for Sound Effects to Give an
Operational sensation to Touch Sensor Input
†Graduate School of Science and Engineering, Ritsumeikan
University
‡PRESTO, Japan Science and Technology Agency
田村 秀行†
科学技術振興機構 さきがけ‡
と指の状態(触れた/離れた)が音処理用 PC に送信さ
れる.音処理用 PC は,受信した ID と指の状態に従い,
該当する効果音を再生する.
【使用する電子音】実験では単純で音自体に意味を含ま
ない効果音として正弦波を採用した.音の高低や再生時
間が実験結果に影響する恐れがあるので,事前に様々な
周波数,再生時間の正弦波をタッチセンサの効果音とし
て比較する予備実験を行った(被験者成人 8 名).その
結果,周波数 500 Hz,再生時間 125 ms の正弦波の評価
が最も高かった.よって,以降の実験では電子音として,
周波数 500 Hz,再生時間 125 ms の正弦波を用いる.
【予備実験】まず,タッチセンサの効果音として上記電
子音を使用した場合に,押下感が付与可能かを確認する
ために,予備実験を行った.3 名の被験者に対して実験
を行ったところ,電子音では押下感は得られず,(1) に
ついてはメカスイッチ音特有の結果で単純な電子音には
当てはまらないこと分かった.そこで,(2) (3) の場合に
操作感が向上するかについて本実験を行うことにした.
3. 実験
【目的】以下の 2 点を確認することを目的とする.
(2) 効果音の提示タイミング:電子音の提示タイミング
を手の動きと連動させ,スイッチに指が触れたとき
に「ピッ」,離れたときに「ピッ」と再生される方
が,操作感が向上するか
(3) 遅延時間:タッチセンサを押してすぐに効果音が提
示される方が,操作感が向上するか
【手順】(2) を検討するために 500 Hz の正弦波を,
・触れたときにのみ
・指を離したときのみ
・触れたときと指を離したとき
の 3 種類のタイミングで,また,(3) を検討するために,
上記の 3 つのタイミングにそれぞれ,遅延なしと 100 ms,
200 ms の 3 つの遅延時間を与えた計 9 種類の効果音を用
意した.これらの効果音をランダムに提示し,タッチセ
ンサを被験者に触らせる.そして,
・操作感:確実に入力を行えたと感じたか
・安心感:操作に不安を覚えることがないか
・感度:感度よく動作する印象を持ったか
・音の鬱陶しさ:音を鬱陶しく感じたか
の 4 項目に対して被験者に 5 段階(「はい」「どちらか
といえばはい」「どちらともいえない」「どちらかとい
えばいいえ」「いいえ」)で回答させる.また,その他
気づいたことを自由にコメントさせる.
安心感を質問項目に入れたのは,操作感が安心感に繋
がるかを調べるためである.感度については,タッチセ
ンサでは反応の良さが重要であり,効果音によって,反
応速度が変化したように感じるのではないかと考えたた
めである.音の鬱陶しさについては,操作感,感度が良
いと感じたとしても効果音が鬱陶しいと感じるのであれ
ば効果音としては相応しくないためである.被験者は成
人 12 名である.
4-161
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【結果と考察】結果を図 2 に示す.図中の遅延なし,
100 ms,200 ms は効果音の遅延時間を示す.分散分析の
結果,(a) ∼ (d) の効果音の提示タイミングと (b) (c) の
遅延時間について,優位差が見られた (p < 0.05).図より,
操作感,安心感の項目において,触れたときと離したと
き双方で効果音を提示した場合の評価が,触れたときの
みより低かった.被験者から「同じ音が 2 回鳴ると誤入
力したと思う」というコメントが多くあり,1 回の操作
で 2 度同一の周波数である効果音を提示したことで,2
回操作を行ったように感じ,操作感や安心感が低くなっ
たと考えられる.また,「1 回のタッチで 2 回音が鳴る
のは鬱陶しい」といったコメントもあり,単純な電子音
を効果音として用いる場合,効果音の提示は触れたとき
のみでよいことが分かる.この結果は文献[1]と異なって
いる.これは,人がメカスイッチ音を聞くとき,経験的
に 2 音あることを自然と感じるためと考えられる.
遅延時間については,効果音に遅延時間を与えるほど,
評価は低くなり鬱陶しさを感じていることが分かる.被
験者からも「タッチセンサを押してから音が遅延すると
確実に操作したと思えない」などのコメントがあった.
以上の結果から,(2) についてはメカスイッチ音特有
の結果で単純な電子音には当てはまらないこと,(3) は
電子音の場合にも当てはまることが分かった.
【追加実験】上記の実験では,スイッチを触れたときと
離したときどちらも周波数 500 Hz の電子音を再生した
め,「同じ音が 2 回鳴ると誤入力したように思う」とも
考えられる.そこで,触れたときと離したときで周波数
の異なる 2 音を提示し,同じように実験を行った(図
3).この 2 音の組み合わせについても予備実験を行い,
評価の高かった 300,900 Hz の組み合わせを採用した.
遅延時間は,今回の実験で評価の高かった遅延なしを採
用した.追加実験の結果は,図のように本実験と同様で
あった.
4. むすび
タッチセンサ入力時の効果音をメカスイッチ音から単
純な電子音に変えた場合に,押下感・操作感を付与する
ことが可能か実験した.遅延時間に関しては,メカスイ
ッチ音同様遅延がない方が,操作感が向上するが,再生
タイミングに関しては手の動きと連動させると誤入力と
誤解し,操作感が下がることが分かった.今後は,ボタ
ンだけでなくスライドバーやダイヤルなどに操作感を付
与する効果音についても検討する.
参考文献
[1] 木村 他, “効果音によるタッチセンサへの押下感提示の研
究”, 情処研究会報告 2007-HCI-124, pp. 9 - 16, 2007.
[2] 赤羽 他, “触感提示機能を持つタッチパネルのための押下感
生成信号の検討”, HI 学会論文誌, Vol. 8, No. 4, pp. 591 - 598,
2006.
[3] 新井 他, “タッチパネル用透明触覚スイッチ”, 日本 VR 学会
第 9 回大会, pp. 5 - 6, 2004.
5.00
5.00
良い 4.00
良い 4.00
評価
評価
3.00
3.00
2.00
2.00
悪い 1.00
悪い 1.00
3.58
8
遅延なし
100 ms
200 ms
9
200 ms
︱
︱
100 ms
200 ms
触れたときと離したとき
に音を提示
離したときに音を提示
4.83
4.42
3.67
2.67
2.50
2.17
3.67
3.42
1
2
3
4
5
6
7
8
9
遅延なし
100 ms
200 ms
100 ms
200
200 ms
ms
︱
遅延なし
︱
200 ms
︱
︱
触れたときに音を提示
︱
︱
100 ms
︱
再生音なし 再生音なし 再生音なし 遅延なし
100 ms
触れたとき ︱ 離したとき
再生音なし 再生音なし 再生音なし 遅延なし
0.00
再生音なし 再生音なし 再生音なし 遅延なし
触れたときに音を提示
良い 4.00
良い 4.00
評価
評価
3.00
2.00
悪い 1.00
悪い 1.00
遅延なし
100 ms
200 ms
9
200 ms
︱
︱
200 ms
触れたときと離したとき
に音を提示
離したときに音を提示
4.75
4.42
4.00
4.08
3.92
3.58
3.25
3.42
1
2
3
4
5
6
7
8
9
遅延なし
100 ms
200 ms
100 ms
200 ms
︱
100 ms
︱
遅延なし
︱
︱
200 ms
︱
︱
︱
100 ms
100 ms
触れたとき ︱ 離したとき
再生音なし 再生音なし 再生音なし 遅延なし
0.00
再生音なし 再生音なし 再生音なし 遅延なし
再生音なし 再生音なし 再生音なし 遅延なし
触れたときに音を提示
100 ms
200 ms
図2
各提示タイミングと遅延時間における評価
5.00
4.00
4.00
4.00
4.00
3.00
3.00
3.00
3.00
2.00
2.00
2.00
2.00
1.00
1.00
1.00
3
900 Hz
各周波数の組み合わせにおける評価
4-162
2.83
2.50
1
2
3
300 Hz
900 Hz
︱
300 Hz
3.25
500 Hz
︱
900 Hz
0.00
︱
500 Hz
(c) 感度
(b)安心感
図3
3.58
2
300 Hz
︱
300 Hz
3.25
1
500 Hz
︱
900 Hz
1.00
4.17
︱
500 Hz
0.00
5.00
触れたとき︱ 離した とき
3
900 Hz
触れたとき︱ 離した とき
3.58
2
300 Hz
︱
300 Hz
3.67
1
500 Hz
︱
︱
900 Hz
(a) 操作感
3.67
︱
︱
500 Hz
0.00
触れたとき︱ 離した とき
3
900 Hz
︱
触れたとき︱ 離した とき
3.92
200 ms
(d) 音の鬱陶しさ
5.00
2
300 Hz
100 ms
触れたときと離したとき
に音を提示
離したときに音を提示
5.00
4.00
遅延なし
2.75
︱
3.17
8
︱
3.50
7
︱
4.17
6
︱
2.17
5
︱
2.92
4
︱
2.67
3
1
500 Hz
200
200 ms
ms
︱
3.25
2
3.75
100 ms
触れたときと離したとき
に音を提示
︱
4.33
1
︱
触れたとき ︱ 離したとき
4.58
(c) 感度
0.00
遅延なし
3.00
2.00
触れたときに音を提示
200 ms
(b) 安心感
5.00
再生音なし 再生音なし 再生音なし 遅延なし
100 ms
離したときに音を提示
(a) 操作感
5.00
0.00
再生音なし 再生音なし 再生音なし 遅延なし
2.92
︱
︱
3.58
7
︱
3.75
6
︱
2.42
5
︱
2.92
4
︱
3.17
3
︱
4.33
2
︱
4.58
1
︱
4.58
︱
触れたとき ︱ 離したとき
0.00
500 Hz
900 Hz
300 Hz
(d) 音の鬱陶しさ