中国の出入国 (管理法 7 月改正)

浜銀総合研究所 中国ビジネスサテライト「中国コラム」 2013 年 6 月号 http://www.yokohama-ri.co.jp
中国の出入国
(管理法 7 月改正)
チャイナ・インフォメーション 21
筧武雄
中国全国人民代表大会常務員会の昨年 6 月の決定にもとづき、今年 7 月 1 日から中国の
出入国管理法が改正される。今回改正の最大ポイントは、短期滞在の外国人不法就労者に
対する取締りと罰則が厳しくなる点にある。
本改正後は、外国人の不法就労が発覚した場合、1 日あたり 500 元、1 万元以下の罰金ま
たは 5∼15 日間の拘留処分が下されることになる。同時に不法就労外国人だけでなく、そ
の使用者および就労仲介者に対しても罰金が科され、使用者には不法雇用 1 人あたり 1 万
元、10 万元以下の罰金、不法就労仲介者に対しては不法仲介 1 人につき 5000 元、5 万元以
下の罰金となる。
さらに「労働者への労働報酬を支払わなかった者は、国務院関連部門または省、自治区、
人民政府が出国禁止を決定した場合、出国が禁止される(第 28 条)」という条文も盛り込
まれた。
もともと中国には「民事訴訟法」第 231 条という有名な条文があり、賃金不払にかかわ
らず、中国内で何らかの民事訴訟を起こされて被告の立場となり、そこで裁判所の判断が
あれば、その訴訟が結審するまで、あるいは判決にもとづいて支払いや「なすべき行為」
が実行されるまでの間、出国禁止の措置がとられることになる。
実例を挙げれば、中国人従業員を解雇した際、本人が解雇を不服として労働局仲裁委員
会に提訴し、結果として使用者である日系企業が敗訴、損害賠償金の支払い命令を受けた
ところ、日系企業は元従業員の不当行為を主張して裁判所の賠償支払命令を無視。そこで
元従業員が仲裁委員会命令書を持って地方裁判所(人民法院)に提訴し、同時に「民事訴訟法」
第 231 条の適用を申請、裁判所が適用を認めたため当該日系企業の日本人幹部たちはパス
ポートを差し押さえられ、帰国はおろか、中国から出国することすらまったくできなくな
ってしまった。
このように、いったん民事訴訟法第 231 条が適用されてしまうと、事情等は関係なく出
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国が禁止され、債務、命令、支払等を履行しない限り、出国できなくなる。今回の改正で
は、賃金不払いのケースは裁判所の訴訟を経ずとも、政府部門の判断だけで即「問答無用」
ということになる。
この法令は外国人だけを狙い撃ちしたものではないが、日本の国内法にはない制度であ
り、中国ビジネスで、特に労働紛争が生じた場合は、初期から専門家や弁護士などから法
的アドバイスを受ける必要もあるだろう。
ここ数年、中国では外国人不法滞在・不法就労者が急増しており、2000 年に 7.4 万人で
あった外国人就労者は、2011 年には 22 万人まで増加。2011 年に警察が不法入国・不法滞
在・不法就労として調査した事案は 2 万件に上り、1995 年から倍増。今年に入ってからは、
不法滞在の外国人による犯罪の事案もたびたび報道されている。各地主要都市では「キャ
ンペーン」と称して不法滞在外国人者の取り締まりを強化している。
日本人は 15 日間のノービザや短期 F ビザ(訪問ビザ)で中国に入国滞在することができ
るが、いずれのビザも中国内就労は禁じられている。万一、外国人がノービザまたは F ビ
ザで中国に入国して無許可で就労していた場合は、外国人本人および当該外国人を雇用す
る企業ともに処罰を受けることとなる。同時に、中国内で外国人を現地採用する側も注意
が必要で、たとえば就労許可証に記載された企業名と実際の勤務先名が不一致の場合、た
とえ兼務であっても外国人本人ならびに当該企業いずれも処罰を受けることになる。
なお、入国時にパスポートに記載された滞在許可期間を超え、延長手続きを怠ったまま
滞在を続けるとオーバーステイとなる。出国時にオーバーステイが発覚すると、1 日につき
500 元、5000 元以下の罰金が科せられ、情状酌量の余地なしと判断されれば 5 年間の入国
禁止措置がとられる場合もある。
たとえば、
「15 日間はビザ不要」の規定を利用して、15 日に 1 回ずつ香港やマカオ、韓
国等へ出国しては再入国を繰り返し、長期間の滞在を試みる行為は「ビザ免除措置」の本
来目的に合致せず、頻繁に出入国を繰り返すことが中国側当局の目に「不審な出入国」、
「悪
質な制度濫用」と判断された場合は、強制退去に加え、入国禁止措置を講じられる可能性
も十分にある。
また、短期滞在が重なって 1∼12 月までの年間滞在日数が合計 183 日を超えてしまうと、
中国で納税義務(全世界所得)が生ずる。就労ではなく出張の場合も、中国滞在日数が年間合
計で 183 日を超えないよう、複数者が交代で出張するなどの注意と工夫が必要である。
以上
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