全文 - 東芝ソリューション株式会社

特集記事
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近年
携帯電話で, 大手運送会社ドライバ向け
集配業務端末アプリケーションを実現
丸山 智孝 / 宮島 英礼 / 二野屏 昌
BREW®により,
携帯電話上に多様なアプリ
ケーションを搭載することが可能となり, 多くの企業
が携帯電話の情報端末化に注目しています。
今回, 専用端末で行っていた機能を携帯電話上
に実装し, 大手運送会社ドライバ向けに国内最大
規模といわれる BREWアプリケーションを実現しまし
どの伝票情報の入力を行います。
・ 軒先業務
外出先にて, 集荷作業, 集金作業, 配達完了作業,
持戻作業などの伝票情報の入力を行います。
・ 業務報告
ドライバの勤務情報の入力, 走行情報の入力, 補給し
た燃料 ・ オイル情報の入力などの報告を行います。
た。 本アプリケーション構築にあたっては, 多彩な
業務への対応, 外部機器との連携, サスペンド レ
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ジューム処理などの課題がありましたが, 複雑な,
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あるいは共通の処理をフレームワーク化するなどの
工夫をして解決し, 専用端末と同等の機能と操作性
を実現しました。
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モバイルソリューションの展開
近年, 携帯電話の高機能化, 高性能化は目覚しく,
ビジネスシーンでの活用においてもコミュニケーションツー
ルとして定着しており, 通話機能のみの利用というのは時
代遅れと言っても過言ではありません。 メールや Web を
利用したデータ通信はもとより, 携帯電話に付随している
カメラ機能, ストレージ機能, 無線通信機能が業務に利
用されています。
BREW を活用することにより, これら機能をプログラム
で制御することが可能になり, これまで PC や PDA, そ
の他専用端末で行われていた作業を携帯電話に置き換え
ることが可能になりました。
当社ではこれら携帯電話を活用した企業システムを
「モバイルソリューション」 と定義して, 様々な業種へ展開
しています。
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運送業への適用,
ハンディターミナルと同等機能を実現
運送会社のドライバの業務は, 専用端末であるハ
ンディターミナルを使用して行っています。 ハンディター
ミナルは, 営業所内で行うセンター業務, 外出先で行
う軒先業務, その他業務報告や出退勤管理, 業務日
報など様々な業務をすべて賄っています。 本アプリケー
ションでは, ハンディターミナルで行われていたこれらの
業務を BREW を使用し, 携帯電話上に実現しました。
以下にドライバの1日の業務を紹介します。 (図 1)
・ センター業務
各営業所内で配達業務の準備として荷物の持出作業な
図 1. ドライバの1日の業務
営業所で配達や集荷の準備をし, 客先へ外出して荷物の配達や集荷
を行い, 営業所に戻ってきて業務報告を行います。
これらの業務を携帯電話で行えるようにしたことにより,
繁忙期などでドライバを増員する際に, 高価なハンディ
ターミナルだけでなく, 携帯電話も利用できるので, 機器
導入コストの削減が期待できます。
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開発課題をフレームワーク化などで解決
BREW アプリケーションでハンディターミナルと同等
の機能を実現するには, 以下に代表される幾つかの課題
がありました。
(1) 多彩な業務への対応
本アプリケーションは, センター業務, 軒先業務, 業
務報告など業務の種類の多さに加え, 23 商品, 7 顧客
分類などサービスが多彩で, 全機能を実現する画面は
500 画面を超えます。 また, 荷物を仕分けするために必
要な全国 12 万件の町域情報をはじめとし, 顧客情報や
サービス情報などの情報をデータベース (DB) 化する必
要があり,サイズにして約 30MB の DB が必要になります。
これら処理をヒープメモリ 10MB という限られた携帯電話
のリソース内でいかに実装するかが課題になります。
限りあるリソースを有効に利用するために, 図 2 に示す
ように共通の処理をフレームワークとして切り出しました。
これにより画面処理や業務処理を簡素化することができ,
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「東芝ソリューション テクニカルニュース」2007年(春季号)
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結果としてモジュールサイズの肥大化を抑えることができま
した。
DB には,KDDI株式会社殿が提供している携帯電話
用小型データベース管理システムである ISKDDIDB を
利用しました。 ISAM 型 DBMS モジュールで, 大量の
データに対しても非常に短時間で検索やデータ操作を行
うことができるので, 必要最低限のデータのみを読み込む
ようにし, 使用ヒープメモリを低減しました。
(2) 外部機器との連携
携帯電話でハンディターミナルと同等の利便性を確保す
るために, バーコードリーダー, プリンタ, 決済端末など
の外部機器と連携する必要があります。 これらの機器は,
図 2. フレームワークの概要
フレームワークは, 画面 ・ 業務処理に必要な処理を一括
して行います。 また, 外部機器の制御なども行います。
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運用実績と今後の展開
本アプリケーションは, 年末年始の繁忙期である
2006 年 12 月に実運用を開始しました。 全国の営業所
へ展開され,約 7,000 台の携帯電話が投入されています。
目覚しい速度で機能が向上してきた携帯電話ですが,
Felica や高画質の動画対応など拡張機能の追加が行わ
れ, 今後も搭載メモリの増加や処理速度の更なる向上が
期待でき, より高機能になることが予想されます。 当社で
は, 本稿で紹介した大規模アプリケーションの対応実績
を生かし, 様々な業務 ・ 業種ソリューションへの導入を推
進していきます。
携帯電話に内蔵されている Bluetooth 機能を使用して
BREW ア プ リ ケ ー シ ョ ン か ら 制 御 し ま す。 た だ し,
BREW アプリケーションでは, 通信チャネルが一つしか
制御できないため, それぞれの外部機器を使う際に通信
チ ャ ネ ル の 切 り 替 え が 必 要 と な り ま す。 そ の た め,
Bluetooth 機器制御のインターフェースを統一し, 各々
の機器制御ドライバをフレームワークにて隠蔽 (いんぺい)
し, フレームワーク内で切り替えることにより, 一つしかな
い通信チャネルを有効に, かつあたかも複数の機器と同
時に接続しているような操作性を実現しました。
(3) サスペンド レジュームの対応
携帯電話上でアプリケーションを実装する際に必須とな
るのが, 着信時の処理です。 携帯電話は電話としての機
能が最優先されるため, 着信時には起動しているアプリ
ケーションをいったん終了させ, 着信終了または通話終
了時にアプリケーションを再起動する処理 (サスペンド レ
ジューム処理) が必要となります。 一般の携帯アプリケー
ションでは, アプリケーション起動直後の状態か特定の画
面に復帰させることがほとんどですが, ハンディターミナル
と同等の操作性を実現するには, 終了直前の状態まで復
帰させる必要があります。 具体的には, アプリ終了時に
入力中のデータだけでなくカーソル位置までも記憶し, ア
プリケーション再起動時に復帰させています。
このために, 画面遷移の履歴の保持に加え, 画面描画
部品を作成し, 画面内の部品の状態の保持をしています。
これらの機構は, フレームワーク内に隠蔽 (いんぺい) し,
決められた手順を実装すれば必要なデータと画面状態の
保存と復元を行えるようにし, 処理の統一化を図りました。
Profile
丸山 智孝
エンベデッドソリューション事業部
モバイルコンピューティング技術部
モバイルコンピューティング第一担当
携帯電話を使用した法人向けモバイルソリューション
の開発に従事。
宮島 英礼
エンベデッドソリューション事業部
モバイルコンピューティング技術部
モバイルコンピューティング第一担当 主任
携帯電話を使用した法人向けモバイルソリューション
の開発に従事。
二野屏 昌
エンベデッドソリューション事業部
モバイルコンピューティング技術部
モバイルコンピューティング第一担当 主任
携帯電話を使用した法人向けモバイルソリューション
の開発に従事。
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「東芝ソリューション テクニカルニュース」2007年(春季号)