数学特別講義(現代保険リスク理論) 第 4 回:古典的リスク理論 . 清水 泰隆 . 早稲田大学 理工学術院 集中講義@京大 数学教室 2016 年 1 月 4–8 日 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 1 / 39 Part I 確率過程とマルチンゲール . . 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 2 / 39 確率変数とその情報 以下,確率空間 (Ω, F, P) を所与とする. 確率変数 X : (Ω, F) → (R, B) とは,(F -) 可測関数のこと. ⇔ 任意の A ∈ B に対して, X −1 (A) = {ω ∈ Ω|X (ω) ∈ A} ∈ F X −1 (A) という事象を知識として持っていれば,ω ∈ X −1 (A) なる ω が起こった時 “X ∈ A”となることが分かる.逆に X ∈ A となったことが分かれば,その原像 X −1 (A) のいずれかが起こったのだと分かる. ⇒ X −1 (A) は “X に関する情報”を与えている! このような情報の集まり: σ(X ) := {X −1 (A) | A ∈ B} (⊂ F) を X から生成される σ-加法族といい “X に対する情報”と解釈する. ※ X を可測にする最小の σ-加法族 (本当に σ-加法族?) 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 3 / 39 情報は σ-加法族である 2 つの “情報”F1 , F2 が与えられたとき,それらの合併 F 1 ∪ F2 はまた “情報”と言えるか? A, B を情報として持っている ⇒ Ac , B c , A ∩ B, A ∪ B などの情報も持っている 部分的な “情報”A が与えられれば,σ(A) とすることで完全な情報にできる. “情報”は σ-加法族の性質を持つべきである! ⇒ σ(F1 ∪ F2 ) =: F1 ∨ F2 と書く. たくさんの情報族 Ft (t ∈ Λ) の合併: ∨ t∈Λ 清水泰隆 (早大理工) ( Ft := σ ∪ ) Ft t∈Λ Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 4 / 39 確率過程とその情報 確率変数の族 X = (Xt )t≥0 を (連続時間) 確率過程という. 確率過程 X の時刻 t までの情報 ∨ σ(Xs ) =: σ(Xs : s ≤ t) s≤t Definition s ≤ t に対して Fs ⊂ Ft ⊂ F となる部分 σ-加法族の増大系 F = (Ft )t≥0 をフィルトレーション (情報増大系) という.特に,Ft := σ(Xs : s ≤ t) のとき,F を X から生成される自然なフィルトレーションという. (Xs )0≤s≤t がどんな値を取ったかがわかれば,情報 Ft = σ(Xs : s ≤ t) の中を調べる ことでどんな事象が起こったか,その候補がわかる (Xs )s>t の値が不明なので,普通 は ω は一意に確定しない (ランダムネスが残る).逆に ω が与えられれば,Ft から . 時刻 t までに X がどんな値を取ったのかがわかる (Ft -可測). 任意の t ≥ 0 に対して Xt が Ft -可測 (自然な仮定) ⇔ X は F-適合 (F-adapted). 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 5 / 39 停止時刻 Definition (Ω, F, F, P) を所与とする.確率変数 τ が,任意の t ≥ 0 に対して {τ ≤ t} ∈ Ft . を満たす時,τ を F-停止時刻 (stopping time) という. あるイベントの時刻 τ が時刻 t において起こったか否かを情報 Ft によって (t まで 観測を続ければ) 知ることができる,ということである. . Definition τ を F-停止時刻とするとき, Fτ := {A ∈ F | A ∩ {τ ≤ t} ∈ Ft , ∀ t ≥ 0} と定める.このとき Fτ は,F の部分 σ-加法族になることに注意する. Fτ は,未来において決まる時刻 τ までの情報を表す. 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 6 / 39 初期到達時刻 Definition 確率過程 X = (Xt )t≥0 によって確率変数 τ B を以下で定める: τ B := inf{t > 0 | Xt ∈ B}, B ∈ B(R). . ただし,inf ∅ = ∞ とする.これを B への初期到達時刻 (first hitting time) という. B = (−∞, 0) として τ0 := inf{t > 0 | Xt < 0} . で τ0 を定めるとこれは {Xt < 0} というイベント (破産!) の時刻. 本講義で考える資産過程 X = (Xt )t≥0 に対して, Ft := σ(Xs : s ≤ t) とすると,τ0 は F-停止時刻になる.(一般にはならない... ⇒ Ft の右連続性) 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 7 / 39 条件付き期待値 Definition (G-条件付き期待値) ある可積分な確率変数 X (E|X | < ∞) と F の部分 σ-加法族 G が与えられたとき,ある確 率変数 Y が存在して以下を満たすとする: Y は G-可測 Y は可積分で,任意の A ∈ G に対して E[X 1A ] = E[Y 1A ] . このとき,Y を X の G に関する条件付き期待値といい,Y = E[X |G] で表す. Y は情報 G の下では X を “期待値の意味で”近似している. X ∈ L2 (P) のとき,任意の G-可測な Z ∈ L2 (P) に対して E[(X − Z )2 ] ≥ E[(X − E[X |G])2 ] Why? (演習) をみたすので,この意味で Y = E[X |G] は X の最良近似である. . 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 8 / 39 条件付き期待値の性質 (1) G0 = {∅, Ω}(自明な σ-加法族という) のとき, (2) X と G が独立なとき, E[X |G0 ] = E[X ] a.s. E[X |G] = E[X ] a.s. (3) X が G-可測,E[Y ], E[XY ] が存在するとき, E[XY |G] = X E[Y |G] a.s. (4) E[X ] < ∞, G1 ⊂ G2 が F の部分 σ-加法族のとき, ] [ E E[X |G2 ]G1 = E[X |G1 ] 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory a.s. 第 4 回 9 / 39 マルチンゲール Definition フィルター付き確率空間 (Ω, F, F, P) 上の確率過程 X = (Xt )t≥0 が以下の (1)–(3) を満た すとき,X は F-マルチンゲール (F-martingale) であるという: (1) 確率過程 X は F-適合 (2) 各 t ≥ 0 に対して,E|Xt | < ∞ (3) 任意の t ≥ s ≥ 0 に対して, . E[Xt |Fs ] = Xs a.s. 公平な賭け? 時間がランダムでもよい? Theorem (任意抽出定理 (optional sampling theorem)) . X は F-マルチンゲールとし,τ, σ を有界な F-停止時刻とする.このとき, E[Xτ |Fσ ] = Xτ ∧σ 清水泰隆 (早大理工) a.s. Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 10 / 39 Part II 古典的破産理論 . . 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 11 / 39 Cramér-Lundberg Theory Lundberg (1903, 博士論文): Cramér-Lundberg (C-L) model Xt = x + ct − Nt ∑ Ui , i=1 (複合ポアソンモデル) F.Lundberg H.Cramér x > 0: 初期サープラス. Cramer−Lundberg Model c > 0: 保険料率 6 Nt ∼ Po(λt): クレーム数;平均 λt. 0 2 e > 0 に対して [仮定] 十分 (必要なだけ) 大きな R ∫ ∞ e e Rx F (dx) < ∞ Time of ruin : τ(u) −2 Reserve 4 Ui ∈ F , i.i.d.: クレーム額;平均 µ. 0 0 2 4 6 8 10 Time 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 12 / 39 ポアソン過程 Definition Wi ∼ Exp(λ) (i = 1, 2, . . . ) を IID 確率変数列とし, Tk := W1 + · · · Wk と定める.このとき,点過程 T = (Tn )n∈N から定まる計数過程 N = (Nt )t≥0 : Nt = ∞ ∑ 1{Tk ≤t} . k=1 強度 λ のポアソン過程 (Poisson process) と言う. . 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 13 / 39 Theorem Nt = ∑∞ k=1 1{Tk ≤t} に対して,以下の (1)–(5) は同値である. (1) N = (Nt )t≥0 は強度 λ のポアソン過程である. (2) 任意の t ≥ 0 に対して Nt ∼ Po(λt) であり,任意の有界関数 f : Rk → R に対して, E[f (T1 , . . . , Tk )|Nt = k] = E[f (U(1) , . . . , U(k) )] ただし,U(1) , . . . , U(k) は区間 [0, t] 上の一様分布に従う k 個の独立な確率変数に対 する順序統計量である. (3) N は独立定常増分過程で,h → 0 のとき以下を満たす P(Nh = 0) = 1 − λh + o(h), P(Nh = 1) = λh + o(h), P(Nh ≥. 2) = O(h2 ). (4) N は独立定常増分過程で,任意の t ≥ 0 に対して Nt ∼ Po(λt). 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 14 / 39 破産確率 Theorem (Lundberg 不等式) 方程式 log E[e r (X1 −x) ] = 0 (Lundberg 方程式) に負の解 r = −R (R > 0) が存在するとき, ψ(x) = P(τ0 < ∞) < e −Rx . . R を調整係数という. 以前に出てきた調整係数:mU (γ) = 1/p との関連は後述. mU (r ) = E[e rU1 ] と書くと,R > 0 は以下の方程式の正の解. ce r − λ (mU (e r ) − 1) = 0 . Yt = e −RXt は Ft -マルチンゲール (Ft = σ(Xs ; s ≤ t)): E[Yt |Fs ] = Ys (s ≤ t) ] e.g., s = 0 とすると E e = e −Rx . [ 清水泰隆 (早大理工) (演習) −RXt Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 15 / 39 調整係数の存在 θ > 0: 安全付加率. c = (1 + θ)λµ ⇔ E[Xt ] = x + θλµt θ > 0 (Net Profit Condition, NPC): 平均的に増加傾向 R > 0 が存在する ⇔ ψ(x) < 1 θ = 0 (収支相等の原則) or θ < 0: 平均的に減少傾向 R > 0 は存在しない ⇔ ψ(x) = 1 実際,次の定理が成り立つ. 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 16 / 39 Theorem C-L モデルにおいて,c = (1 + θ)λµ とする.このとき,以下が成り立つ. (1) 任意の θ ∈ R に対して lim t→∞ Xt = θλµ t (2) θ > 0(NPC) のとき, lim Xt = ∞ t→∞ . a.s. (3) θ < 0 のとき, lim Xt = −∞ t→∞ a.s. Remark θ = 0 のときは, lim inf Xt = −∞, t→∞ Asmussen (2003), pp.224–225. 清水泰隆 (早大理工) かつ lim sup Xt = ∞, a.s. t→∞ つまり,X は振動する. Modern Actuarial Risk Theory . 第 4 回 17 / 39 Proof. クレーム過程 S のパスは単調増加だから,任意の n ∈ N と h > 0 と t ∈ [nh, (n + 1)h] に対して Snh ≤ St ≤ S(n+1)h a.s. (1) h > 0 を固定し,確率変数列 {Snh }n=0,1,... を考えると, Snh = [Sh − S0 ] + [S2h − Sh ] + · · · + [Snh − S(n−1)h ] ※ S の独立定常増分性より,上記は IID 列の n 個の和になっている. 大数の強法則より, lim n→∞ 清水泰隆 (早大理工) Snh = E[Sh ] = λµh n Modern Actuarial Risk Theory a.s. 第 4 回 18 / 39 Proof.(つづき) 不等式 (1) より lim inf t→∞ lim sup t→∞ St St 1 Snh n = lim inf inf ≥ lim inf · = λµ. n→∞ t∈[nh,(n+1)h] t t h n→∞ n n + 1 S(n+1)h n + 1 St St 1 = lim sup sup ≤ lim sup · = λµ. t h n→∞ n + 1 n n→∞ t∈[nh,(n+1)h] t 結局, St → λµ t ⇔ Xt u St = +c − → θλµ. t t t (2),(3) については (1) から直ちに得られる. 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 19 / 39 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 20 / 39 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 21 / 39 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 22 / 39 Lundberg 不等式の証明 A quick proof. 1 2 3 Yt = e −RXt はマルチンゲール.有界な停止時刻 τ0 ∧ T に対して, [ ] E e −RX(τ0 ∧T ) = e −Rx (任意抽出定理) NPC の下で XT → ∞ a.s. (T → ∞) に注意して,T → ∞ とすると [ ] [ ] e −Rx = E e −RXτ0 1{τ0 ≤T } + E e −RXT 1{τ0 >T } [ ] T →∞ → E e −RXτ0 1{τ0 <∞} (単調収束定理) [ ] = P(τ0 < ∞)E e −RXτ0 τ0 < ∞ . e −Rx ] < e −Ru . E e τ0 < ∞ . ※この証明は X をレヴィ過程などに一般化しても同様に成り立つ. したがって,ψ(x) = 清水泰隆 (早大理工) [ −RXτ0 Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 23 / 39 Renewal Theory Theorem (不完全再生方程式 (defective renewal equation)) θ > 0 (NPC) の下で, ψ(x) = ただし, FI (x) = 1 µ ∫ 1 1 (ψ ∗ FI ) (x) + FI (x), 1+θ 1+θ x ≥0 x F (y ) dy (Integrated tail distribution) 0 FI (x) := 1 − FI (x) (Tail function) ∫ x F (x − y )G (dy ) (Convolution) (F ∗ G )(x) = . 0 cf. Rolski et al. (1999), Asmussen and Albrecher (2010) 清水泰隆 (早大理工) などを参照. Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 24 / 39 再生型方程式の導出 (renewal argument) I 任意の T > 0 をとって,以下の場合分けを行う: 1 区間 (0, T ) でクレーム無し (破産しない): 確率 e −λT . 2 t < T に対して最初のクレームが [t, t + dt) で起こり: 確率 λe −λt dt クレーム額は y < x + ct: (破産しない) 3 t < T に対して最初のクレームが [t, t + dt) で起こり: 確率 λe −λt dt クレーム額が y > x + ct: (破産する) 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 25 / 39 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 26 / 39 再生型方程式の導出 (renewal argument) II 任意の T > 0 に対して, ψ(x) = e −λT ψ(x + cT ) (1. no claim) ∫ T ∫ x+ct + λe −λt dt ψ(x + ct − y ) F (dy ) 0 0 (2. first claim t < T , y < u + ct) ∫ T ∫ ∞ + λe −λt dt F (dy ) 0 x+ct (3. first claim t < T , but y > u + ct) 両辺を T で微分して T = 0 とおく: Lemma (Integro-differential equation) ψ が 1 階微分可能 (これは仮定しなくても証明できるが...) なら, [∫ x ] ′ cψ (x) + λ ψ(x − y ) F (dy ) − ψ(x) + λF (x) = 0. 0 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 27 / 39 再生型方程式の導出 (renewal argument) III 両辺を x について [0, x] で積分することにより, ∫ ∫ λ x λ x ψ(x − y )F (y ) dy − ψ(x) − ψ(0) = F (y ) dy c 0 c 0 を得る. ∫∞ ここで x → ∞ とすると,ψ(∞) = 0 (by NPC); 0 F (y ) dy = µ に注意して (ルベーグの) 優収束定理を使えば ∫ λ ∞ 1 ψ(0) = F (y ) dy = c 0 1+θ あとは FI (x) = 1 µ ∫x 0 F (y ) dy の記号を用いて整理すると ψ(x) = 1 1+θ ∫ x ψ(x − y ) FI (dy ) + 0 1 FI (x) 1+θ (証明終) 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 28 / 39 再生方程式から導かれる諸結果 I Corollary (ラプラス変換公式) θ > 0 (NPC) の下で,以下が成り立つ. Lψ(s) = ただし,LF (s) = ∫∞ 0 LF I (s) , 1 + θ − LFI (s) s > 0. e −sx F (dx) (Laplace-Stieltjes 変換) . Proof. L(F ∗ G ) = LF · LG となることを使って直ちに得られる. . 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 29 / 39 例:指数クレーム クレーム Ui の分布関数を F (x) = 1 − e −x/µ (平均 µ の指数分布) とすると FI (u) = 1 − e −x/µ , F I (u) = e −x/µ . 注意 K (u) = e −κx (x ≥ 0) と s > 0 に対して, ∫ ∞ LK (s) = K (0) − κe −(s+κ)x dx = 0 s s +κ . . . (∗) . LFI (s) = 1 − 1/µ s = , s + 1/µ s + 1/µ Lψ(s) = LF I (s) = LF I (s) 1 s . = θ 1 + θ − LFI (s) 1 + θ s + µ(1+θ) これと (∗) により,L−1 ψ の逆ラプラス変換を取ると ( ) 1 θ ψ(u) = exp − u , 1+θ µ(1 + θ) 清水泰隆 (早大理工) s . s + 1/µ Modern Actuarial Risk Theory u≥0 第 4 回 30 / 39 Pollaczek-Khinchin-Beekman 公式 Theorem θ > 0 (NPC) の下で,以下が成り立つ. ψ(u) = )n ∞ ( θ ∑ 1 FI∗n (u), 1 + θ n=1 1 + θ u ≥ 0. . ただし,FI∗n = 1 − FI∗n である. Proof. p := 1/(1 + θ) とおくと,ラプラス変換公式より Lψ = 最後の項 1−p 1−pLF pLF I p 1−p = LF I · 1 − pLFI (s) 1−p 1 − pLFI は複合幾何分布 I . ∞ ∑ (1 − p)p n FI∗n に対するラプラス変換であるから,両 n=0 辺の逆ラプラス変換を取ることによって結論を得る. (演習) 上記の証明を適当に補填し完成させよ. 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 31 / 39 サープラス過程 X に対して Rt := x − Xt = Nt ∑ Ui − ct i=1 をリスク過程 (risk process) という. 破産確率は ( ) ψ(u) = P inf Xt < 0 t>0 ( ) = P sup Rt > u = F R ∗ (u) t>0 ただし,R ∗ := supt>0 Rt ,となって確率変数 R ∗ の裾関数である. 保険会社の存続確率は FR ∗ (u) = ∞ ∑ (1 − p)p n FI∗n (u), n=0 p= 1 1+θ ⇒ 複合幾何分布! (FI に対する) 小・大規模災害の条件の下で,u → ∞ として近似を得ることができる. 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 32 / 39 Cramér-Lundberg 近似 Theorem 調整係数 R > 0 に対して,mF′ U (R) < ∞ ならば, ψ(u) ∼ c − λµ e −Ru , λmF′ U (R) − c u → ∞. . Proof. 以下のことに注意する:p = ∫ ∞ 0 1 1+θ とおくと,c = (1 + θ)λµ = e rz FI (dz) = 1 ⇔ p λµ p であり, . cr − λ (mU (r ) − 1) = 0 つまり,調整係数 R は第 2 回「小規模災害の条件」で述べた調整係数と同じものである. したがって,その対応する定理より直接結論が得られる. (演習) 上記の証明を適当に補填し完成させよ. 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 33 / 39 大規模災害下 Theorem 純益条件: θ > 0,を満たすとし,さらに FI ∈ S とする.このとき,破産確率 ψ に対して 以下の漸近近似が成り立つ. ψ(u) ∼ θ−1 F I (u), u → ∞. . Proof. これも第 2 回の定理をそのまま応用すればよい. 1 p= に対して, 1+θ ψ(u) = F R ∗ (u) ∼ 清水泰隆 (早大理工) p F I (u), 1−p Modern Actuarial Risk Theory . u → ∞. 第 4 回 34 / 39 いつ FI ∈ S となるのか? これについてはいろいろ結果があるが,例えば以下は分かり易い十分条件. Lemma ある κ > 1 に対して F U ∈ R−κ ならば FI ∈ S である. . Proof. 第 2 回で述べた結果によると, . ∫ x F U (y ) dy ∈ R1−κ 0 したがって,FI ∈ R−(κ+1) であるが,κ + 1 > 0 なので FI ∈ S である. その他の十分条件は,例えば Klüppelberg (1989) など. . 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 35 / 39 破産理論の応用例 破産確率をリスク指標として,初期備金 x ・安全付加率 θ を決定: ψ(x) ≈ e −Rθ x ≤ ϵ ⇒ x≥ log ϵ−1 Rθ (もう少し精密に評価できる ⇒ 後述) 代表的な応用例は再保険 「損保数理」(日本アクチュアリー会), 7–8 章を参照 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 36 / 39 ex. 比例型再保険 清水泰隆 (早大理工) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 37 / 39 破産理論の応用例 (ex. 比例型再保険) 出再割合 b ∈ (0, 1) のときの保険会社のサープラス: Xtb = x + [(1 − b)c − ∆b ]t − Nt ∑ (1 − b)Ui i=1 ∆b は再保険プレミアム: ∆b := b(1 + κ)λµ − b(1 + θ)λµ = b(κ − θ)λµ | | {z } {z } 再保険料 出再分保険料 ただし,κ は再保険会社が設定する安全付加率 (κ ≥ θ). このときの調整係数を Rb とすると [(1 − b)c − ∆b ]Rb − λ (MU ((1 − b)Rb ) − 1) = 0 Rb > 0 の条件は b ∈ (0, θ/κ). ※ b ≥ θ/κ だと,Rb > 0 が存在しなくなる ⇒ 確率 1 で破産. ψ(x) < e −Rb x より,Rb が大きいほど破産確率が小さいと考えれば. . . (optimal) b∗ = 清水泰隆 (早大理工) max Rb b∈(0,θ/κ) Modern Actuarial Risk Theory 第 4 回 38 / 39 Bibliography I [1] Asmussen, S. (2003). 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