コヒレント社製 次世代小型連続発振レーザとその応用 (2010 年 9 月 22 日現在) コヒレント・ジャパン(株) 産業用レーザセールスG 山崎 達三 〒135-0016 東京都江東区東陽 7-2-14 TEL:03-5635-8700 1.はじめに 近年、LD の高出力化、長寿命化と非線形光 学技術の発展により可視や紫外光を発振する LD 励起固体レーザや LD モジュールは、ガス レーザの置き換え光源として注目され導入が急 速に進んでいる。一方、Coherent 社は、独自 の技術を用いて従来の結晶レーザ技術に代わる 次世代レーザの開発、製品化を進めている。本 稿では、注目の次世代連続発振レーザである光 励起半導体レーザとその応用について紹介する。 2. 市販の連続発振の紫外及び可視レーザ 表1に示すのは、ガスレーザの主な発振波長 と当社の可視から UV 領域において連続(擬似 連続)発振が可能な LD モジュールないし全固 体レーザの発振波長ならびにモデル名を示した ものであるが、ほとんどの発振波長で置き換え が可能な状況であることがわかる。 ガスレーザの発振波長 当社の製品 He-Ne レーザ 660nm (CUBE) (633,612,594,543nm) 640nm (CUBE) 577nm (Genesis) Kr レーザ 561,568nm (647,568,531,413,351nm) (Sapphire,Compass) 532nm Ar レーザ (Verdi,Genesis,Compass) (514,488,458,364,351nm) 514nm (Sapphire) 488nm Ar レーザ SHG (Sapphire,CUBE-FP) (257,244nm 等) 458,460nm (Sapphire,Genesis) He-Cd レーザ 445nm / 405nm(CUBE) (442,325nm) 375nm(CUBE) 355nm (Paladin355/Genesis355 ) 266nm(Azure266) 表 1:ガスレーザの発振波長と当社の製品 一方、GaN 系の LD は 375 nm-488 nm の発振 波長領域で数十 mW レベルのシングルモード 発振の製品が市場導入されており、波長変換を 用いたこの領域を発振する固体レーザはコスト 面で厳しい状況に追い込まれている。このよう な状況において、当社は特定の発振波長を半導 体チップの設計により生み出すことが可能で、 しかも小型、高出力化が実現できる光励起半導 体レーザの製品化に注力している。 3.光励起半導体レーザ技術を用いた次世代レ ーザとその応用例 バイオ応用分野では、当時主流であったレー ザの発振波長に適合した蛍光色素が開発されデ ータが長期において蓄積されてきた。一方、従 来の結晶を用いた LD 励起固体レーザでは発振 波長が励起媒体により制限されてしまうため、 ガスレーザが発振する波長に完全に一致させる ことができない。一方、LD 光を励起源にし、 光(フォトン)で特定の組成の LD を励起する ことにより波長変換を行う VECSEL(Vertical External Cavity Surface Emitting Laser) を用いた面発光レーザ技術が、新たなレーザ発 振技術として注目されている。当社では、励起 の対象となる半導体チップの前に特定の曲率を もったミラーを配置し共振器を構成し、半導体 チップを光励起することにより波長変換と空間 モードの整合が可能な画期的な技術特許を 1997 年 Micracor Inc(米国)から取得した。 更には、すでにグリーンレーザ開発の際に培っ た内部 SHG 変換技術を組み合わせることによ り、UV からイエローの連続発振レーザ光の発 振に成功し、製品を市場に導入している。光励 起 半 導 体 レ ー ザ (OPSL:Optically Pumped Semiconductor Laser)とは、VECSEL(Vertical External Cavity Surface Emitting Laser)と 呼ばれ、通常電気で駆動する半導体レーザと異 なる特長を持ち、レーザ発振を光(フォトン) Superior Reliability & Performance で励起することにより実現する。 図1のように、 励起媒体には当社が開発製造する InGaAs系量 子井戸式半導体レーザを用い、励起用高出力長 寿命 InGaAsP 系半導体チップ全体に照射し、縦 励起する手法〔面発光〕を用いている。面発光 レーザとの違いは出力ミラーを配置し、共振器 を組んでいる点であり、このことにより空間モ ードに優れた理想ビームを得ることができる。 半導体チップは希望の基本波長が発振する材料 の配合により設計、選択されている。更には、 共振器内に配置された SHG(第二高調波発生)結 晶を組み合わせることにより効率的にブルー、 グリーン、イエロー光を発振する。下記にこの OPSL 技術を用いた製品ラインアップについて 説明する。波長選択は BRF(複屈折フィルタ) により選択されているため長期使用においても 発振波長が同様となることも特長となっている。 BLUE OR GREEN OUTPUT MIRROR SECOND HARMONIC GENERATION CRYSTAL BRF WAVELENGTH TUNER PUMP LASER DIODE HEAT SINK MIRROR PUMP LENS OPS CHIP AR COATING QUANTUM WELLS DBR MIRROR HEAT SINK 図 1 OPSL 概念図 3.1 低出力モデル SapphireTM シリーズ Sapphire シリーズ(写真)は、空冷 Ar レーザの 置き換え光源として2001年5月に製品発表して 以来、その性能、省電力、長寿命、信頼性が評 価され、ブルー(488 nm)モデルは、バイオ応用 ニーズを中心にすでに 20,000 台以上の納入が 完了している。更には、空冷イオンレーザの置 き換えニーズに対応すべく、イエロー(561 nm) 発振モデルやグリーン(514 nm)発振モデルを加 えてラインアップの充実化を図っている。 写真 1 Sapphire LP 概観 モデル名 波長 出力 (TEM00) Sapphire 568 LP 567 nm 20,50,75,100,150,200 mW Sapphire 561 LP 561 nm 20,50,75,100,150,200 mW Sapphire 532 LP 532 nm 20,50,75,100,150,200,300 mW Sapphire 514 LP 514 nm 20,50,75,100,150 mW Sapphire 488 LP 488 nm 10,20,25,30,40,50,75,100, 150,200 mW (488HP : 500mW) Sapphire 460 LP 460 nm 10 mW Sapphire 458 LP 458 nm 20,50,75 mW 表 2 Sapphire シリーズの発振波長と出力 3.2 高出力モデル GenesisTM シリーズ レーザリアプロジェクションテレビ(RPTV)や ライトショー、メディカル応用等、Wクラスの 全固体 RGB レーザのニーズに対応するため、 OPSL レーザの高出力化に取り組んできた。従来 の結晶励起の固体レーザでは、高出力化に伴い 共振器長を伸ばす必要があるため小型化には限 界が生じていた。OPSL レーザは発振効率がこれ までの結晶レーザより高く、更には低コストで の生産が可能となるため、小型かつ低価格のW クラスの開発、製品化に取り組んできた。製品 化された Genesis シリーズは用途やコストニー ズに応じ、空間モードがマルチモード(MTM)と シングルモード(STM)のモデルを取り揃えてい る。下記に、各々のモデルにおける現在供給可 能な波長及びその出力ならびにその特徴に関し て説明する。 写真 2 OPSL を用いた RPTV への適応例 3.2.1 Genesis MX シリーズ MTM(マルチモード) タイプ 本モデルは、リアプロジェクションテレビ (RPTV)の応用で求められる低コヒーレンス性 能を満足し、ライトショーにおける直接出力変 調(>100 kHz)のニーズに応えた、小型で低コス Superior Reliability & Performance トの高出力 RGBY レーザである。 コリメータ付モ TM デル(Genesis Taipan )やファイバーカップリ ングオプション等、用途に応じたラインアップ を取り揃えている。写真 3 に MTM の概観、表 3 にGenesis Taipanの波長及び出力モデルを示す。 また、小型かつ低価格が実現されたため、複数 台を光学系と組み合わせて、数十Wレベルの高 出力発振器の構成も可能となるため高出力CW の応用ニーズに新たなる可能性を拡げている。 モデル名 波長 出力 Genesis Taipan 460 460 nm 1,2W Genesis Taipan 480 480 nm 2,4W Genesis Taipan 532 532 nm 3,5,8W Genesis Taipan 577 577 nm 3,5W Genesis Taipan 639 639 nm 1W 表 3 Genesis Taipan の発振波長とその出力 写真 3 MTM モデルの概観(中央は Taipan)とファイ バーカップリングモジュールオプション(右図) 本レーザの製品化に先駆けて、ポータブル鑑 識用(指紋検知)システム(製品名:TracERTM Genesis 532-M 5W 搭載)を 2006 年 4 月に発表し 世界中で採用されてはじめている。 (写真4) 。 本システムは従来のランプ手法に比較して詳細 な情報を繊細な画像で検知でき、しかも低消費 電力であるため、装置の使用場所を選ばないバ ッテリー駆動が実現されている。更には、干渉 模様のない蛍光エリアを最適化して検出するオ プティカルズームや出力コントロールが可能な ファイバーカップル多機能ハンドピースを装備 することにより、簡易操作性と測定場所の制限 を受けない自由度を同時に実現した。 写真 4 TracERTM 外観と指紋観察例 更にはメディカル応用向けに、酸化ヘモグロビ ンに吸収が高い577 nm発振モデルを開発し眼科 治療器への適応がなされている。その他、流れ の可視化応用や各種非破壊検査応用にも導入が 検討されている。 3.2.2 Genesis CX/MX シリーズ STM(シングル モード)タイプ 本モデルは、空間モードが TEM00 となるよう設 計したシングルモード発振タイプであり、355 nm と 532 nm の発振モデルを 2009 年 1 月に製品 発表した。355 nm タイプは、351,364 nm で発振 する Ar レーザや 325 nm で発振する He-Cd レー ザの置き換え光源として開発された完全連続発 振の固体レーザである。そのためガスレーザと 比較し、 ヘッドサイズが小型になるだけでなく、 省電力で長寿命といった利点を持つ。 (図6)更 には、完全 CW 発振であるため、これまで採用が 検討されていたモードロックレーザと比較し、 ピーク出力によるダメージの心配がない。本製 品は、すでにフローサイトメトリーやコンフォ ーカル顕微鏡のようなUVレーザを用いるバイ オ応用において、搭載試験を繰り返し行った後 に製品発表を行っており、その性能と信頼性の 高さは実証済みである。一方、バイオ応用以外 の用途においては、これまで水冷イオンレーザ が主に採用されていたディスクマスタリング、 干渉露光、直接描画やラマン分光、非破壊検査 などの用途でも小型で低消費電力を実現するた め理想的な置き換え光源となると考えている。 図 2 に示すのは、Genesis CX 355 STM の共振器 構造(概念図)である。第3高調波(THG)結晶が 共振器内部に配置されており、低ノイズでの発 振性能を実現している。写真5に Genesis CX 355 STM の外観、表 4 に主な仕様を示す。 図 2 Genesis CX 355 STM の共振器構造(概念図) Superior Reliability & Performance モデル名 Verdi-G Verdi 出力タイプ 2,5,7W 2,5,6,8,10,12,18W 線幅(FWHM) NA 空間モード 光ノイズ 写真 5 Genesis CX 355 STM レーザヘッドと電源の概観 ヘッドサイズ <5MHz 2 TEM00 (M <1.1) <0.03%rms 281x156x85mm <0.03% rms 464.3x139.7x108.7mm 表 5 Verdi-G と Verdi の主な仕様比較 モデル名 発振波長 出力(CW) 空間モード 出力安定性 光ノイズ (10Hz-1MHz) Genesis CX 355 STM 355±2nm 40,60,80,100,150,200,250mW TEM00 (M2 <1.2) <±1% p-p <1%rms(40,60mW) <0.5%rms(80~250mW) 動作電圧/周波数 100-240VAC(単相) 50/60Hz 消費電力 500W サイズ 281x156x85mm (レーザヘッド) 290x210x97mm (OEM コントローラ) 表 4 Genesis CX 355 STM の主な製品仕様 一方、532 nm のモデルでは、すでに製品化さ れ多数の納入実績を誇る Verdi シリーズの安定 性を維持し、コストダウンを図るため開発、製 品化したモデル Verdi G シリーズである。 写真 6 にその外観を示す。表 5 に Verdi との主な相 違点を示す。 Verdi-G の出力は今のところ Verdi に及ばないものの、 サイズ、 低価格であるため、 今後の主力製品となる。Verdi 同様単一縦モー ドの発振であり、 干渉性が高い光源であるため、 応用範囲はレーザ励起用にとどまらず、ホログ ラム、干渉露光、各種非破壊検査など幅広い用 途に適応が可能である。 写真 6 Verdi-G シリーズの外観 更には、Genesis MX 532 シリーズ STM タイプ は、0.5-1W モデルを MX シリーズ MTM 同様小型 パッケージで実現している。シングルモード (TEM00 )が必要なニーズにおいて、高出力、 小型かつ低価格を同時に満たすため、水冷イオ ンレーザや他の DPSS レーザの置き換え理想光 源として注目されている。下記に主な外観と仕 様を示す。 写真 7 Genesis MX 532 シリーズ STM の外観 モデル名 発振波長 出力(CW) 空間モード 光ノイズ Genesis MX 532 532±2nm 500mW/1000mW TEM00 (M2 <1.1) <0.1%rms(典型値) (10Hz-10MHz) 100-240VAC(単相) 50/60Hz 121x44x65mm (レーザヘッド) 表 6 Genesis MX 532 STM の主な製品仕様 動作電圧/周波数 サイズ 4. LD(レーザダイオード)モジュール バイオ装置市場においては蛍光色素にあわせ て複数の波長のレーザを搭載する傾向にある。 固体レーザは発振波長に制限があり、また近年 GaN 系のバイオレットや UV を発振する LD の高 出力化や長寿命化が著しい。当社では、上記に 紹介した光励起半導体レーザに加え、LD モジュ ールの製品を CUBE シリーズとして、 ラインアッ プしそのニーズに対応している。本製品は、小 Superior Reliability & Performance 型のレーザヘッド(寸法:100x40x40mm)設計、 高速直接出力変調(最大 150 MHz、立上り/立下 り 2 ns 以下を保証)機能、ライトループなどの 安定機能を標準装備し、先に紹介した Sapphire と光軸の高さを共用し、組み合わせで多数ご使 用頂いている。最近では、640 nm と 405 nm モ デルの高出力化(100 mW)を図り、装置のスルー プット向上を現実のものとしている。表7に CUBE の波長ラインアップとその出力を示す。 モデル名 中心波長 出力 375-16C 375 nm 16 mW 405-100C 405 nm 100 mW 445-40C 445 nm 40 mW 635-25C 635 nm 25 mW 640-100C 640 nm 100 mW 660-100C 660 nm 100 mW 785-40C 785 nm 40 mW 表 7 CUBE シリーズの発振波長とその出力 表 6 CUBE-FP シリーズの発振波長とその出力 出力端コリメートないし FC/APC 写真 9 CUBE-FP シリーズの概観 まとめ 光励起半導体レーザは、従来の結晶レーザ では実現が難しかった小型、省電力、高出力、 低コストを同時に実現する次世代レーザとして 注目されている。今回は、この光励起半導体レ ーザについて紹介させて頂いたが、世界最大級 のレーザ発振器メーカーである Coherent 社に は、独自の技術力、生産能力がある。今後も、 ニーズに応じ最適なレーザの開発、製品化に努 めていきますので、ご要望のレーザがございま したら何なりとご相談頂きたい。 参考文献: 1) Efficiency Experts by Matthias Schulze (Photonics Spectra May,2001) 2)Lasers Target Chip Fabrication by Andrew Master (Photonics Spectra December 2003) 写真 8 CUBE シリーズの概観 更には、 要望にお応えしてファイバーカップリ ングモデル(FP シリーズ)を 2010 年 1 月にラ インアップに加えた。ファイバーの劣化やアラ イメントずれによる出力低下の問題を独自のフ ァイバー及びカップリング技術で解決した画期 的な製品となっており、顕微鏡応用をはじめと し多数のアプリケーションへの適応が検討され ている。 下記に FP モデルのラインアップを示す。 モデル名 405-50FP 445-25FP 488-30FP 640-30FP 640-75FP 660-75FP 中心波長 405 nm 445 nm 488 nm 640 nm 640 nm 660 nm 出力 50 mW 25 mW 30 mW 30 mW 75 mW 75 mW
© Copyright 2024 Paperzz