「風景 100 年、時代を超えるランドスケープ」現地見学会・現場セッション

日本造園学会関東支部設立30周年記念大会報告
「風景 100 年、時代を超えるランドスケープ」現地見学会・現場セッション
~未来に残すレガシー、明治神宮と東京オリンピック~」
報告者:小松・粟野・濱野・古谷
●日
時
:平成 25 年 10 月 26 日(土)9:30~17:00
●場
所
:明治神宮内苑・外苑
●参加者数 :講師等含め 25 名
●内
容
9:30~10:30
明治神宮正式参拝
明治神宮に正式参拝。
小木曽支部長が御社殿に玉串を奉納し、神楽殿に移動。お祓い・
斎主の祝詞奏上、巫女による神楽「倭舞(やといまい)」奉送を賜り、参
拝終了。関東支部設立30周年の節目に、造園学会の今後の更なる
発展を祈願した。
神楽殿にて記念撮影
10:30~12:30
明治神宮内苑の見学
講師:沖沢幸二(明治神宮)、濱野周泰(東京農業大学・関東支部副支部長)
■社殿・参道における造園技術
①本殿前の楠:過去に踏圧による生育阻害があったため、現在の御影石の浮き貼り舗装となった。石板は
モルタル止めをしていないため適宜補修が必要。玉のような樹形は、ロープワークによる特
殊な剪定技術により整えられている。
②正参道側溝:参道に水が溢れないよう、参道の勾配に合わせて段差がつけられ、内側にはオーバーフロ
ーの排水口が設けられている。
本殿前のクスノキ
■内苑の杜
参道の側溝(沖沢講師)
側溝内側のオーバーフロー
①概要説明 : もとは青山練兵場で全て原野状であった。1915 年に明治天皇、照憲皇太后を祀る目的
で明治神宮造営が決定。福羽逸人、本多静六、上原敬二、原熙ら多分野の専門家が集
まり林苑造営にあたる。全国から10万本の樹木が奉献、延11万人の勤労奉仕があった。
照葉樹林を目標に天然更新による 50 年後・100 年後・150 年後という段階的な経年変
化による林苑整備計画を立て、1920 年に完成。
②経過観察調査:現在植生と昆虫の調査を実施中。造営時の計画と現状との比較検討を行い、今後の方
向性を決める参考データーとする。
③植生管理 : 林内は自然の遷移に任せている。大木が倒れてできたギャップ空間も数十年で埋まる。
現在の杜は落葉広葉樹主体だが、後継樹が育っていないのが課題。今後樹種は減ってい
くと予想され、今のうちに間引き、あるいは補植を行うべきとの意見もある。菖蒲田では、き
め細かい品種管理を実施。南池では放流されたアカミミガメがスイレンを食べるためネット
を張って保護している。杜の中には神事で用いる榊を育成するため榊林がある。
倒木で出来た空間
菖蒲田
榊の採取林
④芝生広場 : 宝物殿を訪れる人のくつろぎの場として造られた。現在は、子供会のキャンプやもちつき、
その他様々なイベントが開催され、市民の憩いの場としても利用されている。当日は降雨
があり、風情ある小川が出現した。
⑤林縁植栽 : 苑内の標高の高い場所に植えられた樹木が大きく成長したことで、周囲のビル群を隠し、
騒音を遮蔽する効果がもたらされている。
⑥北参道口 : 北参道口のムクノキ、鳥居前の雌雄のイチョウは鎮座前からあった。このイチョウとの連続
性を保つために外苑までの連絡通路の並木もイチョウにしたといわれている。
林縁植栽と芝生広場
13:30~15:00
雨が降ると小川が
北参道口からの連絡通路
明治神宮外苑の見学
講師:小野良平(東京大学大学院)
■計画・設計の特徴
①概
要 : 神社である内苑に対し、外苑は洋風公園としての位
置づけ。建築・土木・造園が一体となって進められた
(アーバンデザイン)例としてその後匹敵するものがな
い。1926 年に完成、同年風致地区第一号に指定さ
れた。
小野講師
②デザインの系譜: フランス式の整形的な要素を取り入れた。福羽逸人⇒折下吉延の系譜。
道路計画では、十字路をつくらず三叉路とし中央に三角形の緑地を設けている。
③軸線と地形
:聖徳記念絵画館への軸線において、並木の樹高が低くなるよう管理し遠近感を出してい
るのは有名だか、自然地形が少しずつ下がっていることを活かしていることは意外と知ら
れていない。また軸線上にある聖徳記念絵画館の裏の葬場殿趾石碑は、明治天皇崩
御の際、この場所に棺を乗せる車が安置されたことから記念として建立された。石壇の
中央にあるクスノキは、建立と同時にメモリアルとして植樹されたもの。
④御観兵エノキ: 観兵式の際、明治天皇の御座所がこのエノキの西側に設けられたことからこの名に。葬
場殿趾クスノキと同様にメモリアルとなる場所に構造物ではなく、樹木を植えたことは日
本の文化を象徴している。
三叉路内の緑地
⑤国立競技場
イチョウ並木
葬場殿趾クスノキ・御観兵エノキ
:現在の競技場は 3 代目。1958 年に竣工したが、わずか 5 年後に前回のオリンピック
開催に向けスタンドの一部が拡張された。スタンド部分が地図上で道路へはみ出ている
のが分かる。 また、2020 年開催の東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場
の大きさ想定し、その景観を聖徳記念絵画館とイチョウ並木から確認した。
拡張されたスタンド部分
15:00~17:00
聖徳記念絵画館からの景観
イチョウ並木からの景観
現場セッション
コーディネーター:古谷勝則(千葉大学大学院・関東支部副支部長)
①概
要 : 明治神宮内苑と外苑における先人の思想や技術を濱
野講師と小野講師が解説した。
その後前回のオリンピックからの外苑の変遷を確認し、
2020 年東京オリンピック開催を踏まえた 100 年後の
風景について議論を交わした。
講師・コーディネーター
②神宮内苑 ・植物の力を再認識した、その力を活かす計画・設計
技術の蓄積と研鑚が求められる。
・現在は、150 年間計画の 93 年目、現状の把握と課
題を抽出し、杜のマネジメントが重要。
・内苑の側溝や浮かせた石張りなど、景観や植物に配
慮した高度な造園技術が用いられていることは大変
勉強になった。
・ゆっくりとした時間の流れの中でつくられた風景は、安
現場セッション
心感と感謝の念を人々に与えている。
・その他、内苑の杜が今後どのような目標で維持管理していくのかなど、多くの意見があっ
た。
③神宮外苑 ・前回の東京オリンピック時の外苑整備における世論の議論を検証した。
・2020 年の東京オリンピックにおける新国立競技場については、オリンピック自体は総じて歓
迎するものの、世界に誇れる日本の風景であり、風致地区である神宮外苑の場所性や歴史
的な観点から見てもこの場所には合わないという意見が大半であった。
・その他、同一地区で都市計画と景観計画が進められる矛盾性、例えるならアクセルとブレ
ーキを同時に踏んでいる状態の危うさなど利用と保全との不調和を指摘する意見やオリンピ
ック招致への盛り上がりの中で、十分な検討がなされなかったのではないか、一般市民の声
を聴く機会が設けられなかったことを指摘する声も挙がった。決定したものを覆すことは難し
いが、造園遺産の登録活動とアウトプットの重要性や 100 年先に評価される仕事のあり方な
ど造園界として今何をすべきかについて意見交換を行った。
④総
括 : 今回の見学会では、明治神宮内苑・外苑に込められた先人の奥深い思想や科学的知見に
基づいた高度な技術、日本の風土を理解した空間的・時間的スケールの大きさを感じた。
私達造園人がまずそれをよく知る必要があると同時に、造園界として国内外に発信していく
必要性を感じた。この見学会が日本の風景のあり方など今後の議論の足掛かりになれば幸
いである。