都市における時間課金型空間ビジネスの立地分析 ~複合カフェを中心

人が利用する
中の複合カフェであることを確認し、330 店舗が抽出された。
(3)複合カフェの機能面の特徴による分類
複合カフェが有する機能を 330 店舗のHPから抽出し、表2の8つに分
都市における時間課金型空間ビジネスの立地分析
類した。各店舗のHP閲覧や電話調査により、全 330 店舗が有する機能
~複合カフェを中心として~
を調べ(2)、まとめたものが表 2 である。その結果、「オフィス機能」は
Spatial Analysis of Time-Charged Space Business in the City
96%の複合カフェで利用可能であり、
かつ 9 割以上が 24 時間営業等の
「宿
- Focused on Complex-Café –
泊機能」を有することが分かった。また「リラクゼーション機能」「メ
ディア機能」も 1/2~2/3 の複合カフェに備わっており、複合カフェの多
機能化が大いに進んでいることが分かる。「アミューズメント機能」は
03-0983-2 小林 淳一 Junichi KOBAYASHI
まだ 1 割程度だが、多機能化競争の中で普及することが予想される。
指導教員 土肥 真人 Advisor Masato DOHI
3.東京都における複合カフェの立地に関する特徴
(1)複合カフェの商業地としての特徴
1.研究の背景及び目的
対象 330 店舗の立地を用途地域により分類すると、312 店舗(94%)の複
商業施設・サービスを利用する際、例えば喫茶店のコーヒーのように
合カフェは商業系の土地に立地している。そこで東京都発行の「東京の
商品・サービスの提供に対して価格が決められているものもあれば、カ
小売業」5)を用いて立地場所の商業地特性から複合カフェ立地の特徴を
ラオケボックスのように利用する時間に対して価格が設定されているも
明らかにする。同書で指定される立地環境特性商業集積地区細分から、
のも見られる。後者は、前者と比べ利用する時間と支払う金額を利用者
商業集積地区に含まれる 310 店舗の立地の性質を見ると、駅の立地に影
がより自由に決めることができる。特に余暇施設に関しては、レジャー
響を大きく受けていると考えられる「駅由来型」(同書の細分の駅周辺
白書(2002)によれば、これは「時間消費の欲求」に応える業態だとされ、
型、及び市街地型のうち地下鉄駅周辺のもの)は 239 店舗(72.4%)が
デフレ不況下で消費者が「時間と金を必要なだけ合理的に使いたい」と
該当し、
駅を中心とした商業地に複合カフェが多く立地すると分かった。
望むことへの供給側の答えとも言える。では、このような業態は都市の
(2)複合カフェのある駅の特徴
どのような部分に現れ、
どんな都市住民のニーズに応えているだろうか。
そこで次に、駅由来型の複合カフェ店舗周辺の駅の特徴を見ていく。
本研究ではこのように時間に対して価格が設定されているサービスの
「東京 23 区便利情報地図」6)で乗換駅とされている駅を「駅群」として
うち、「10 分」や「1時間」といった細かい単位の時間に応じて料金を
統合し、239 店舗から 400m以内にある 141 の駅(群)について、東京都
設定しているものを「時間課金型ビジネス」と定義し、近年急増してい
内にある全 564 の駅(群)と年間乗降客や鉄道乗入れ本数を「都市交通
る「複合カフェ」を中心としてその立地を分析することで、時間課金ビ
年報」7)データより比較した。すると、141 の駅は平均2本の鉄道路線が
ジネスの性質と立地する地域の特性との関係を考察する。具体的には、
乗り入れる乗換駅であり東京全体よりも高い。また 1 駅当りの年間平均
まず①時間課金型ビジネスにはどのような特徴があるのか(2章)、②
乗降客数 2400 万人は、全体平均 1660 万人の 1.4 倍である。以上から、
複合カフェは東京都内にどのように立地しているか(3章)、③密集エ
複合カフェが周辺にある駅は比較的規模の大きい駅であると言える。
リアはどのように分布しどのような特徴を有しているか(4、5章)を
4.複合カフェの密集エリアの特徴
明らかにし、時間課金型ビジネスの現代都市における位置づけについて
(1)複合カフェの密集エリアの抽出
考察する。なお特定の業種・店舗を扱う研究は、石崎(1998)のコンビニ
次に複合カフェが密集するエリアの特徴を明らかにするため、500m
エンス・ストアの立地分析研究1)があり、新業態が都市住民の多様なニ
メッシュで 4 店舗以上が含まれるものと連担する複合カフェの存在する
ーズに応えるという意味においていくつかの立地傾向があることを示し
メッシュを抽出、このメッシュ群が投影される町丁目のうち複合カフェ
ている。本研究も新業態を扱うが「時間課金」という空間の使い方と都
が含まれるものが連担したものを密集エリアとして定義、その上で 24
市住民のニーズとの関係についてさらに考察したい。
密集エリア(165 店舗)を抽出した(図1)。
2.時間課金型ビジネスの類型と複合カフェの特徴
(2)密集エリアの特徴
(1)時間課金型ビジネスの分類と複合カフェの位置づけ
①機能面の特徴:密集エリアにある 165 店舗の機能と全 330 店舗のそれ
タウンページの業種分類を参考に、一般に時間課金型の料金設定がな
を比較すると(表2Ù表3下欄)、大きな差はないもののメディア機能、
されている業種をリストアップし、内容によって、利用者がその場所で
リラクゼーション機能で複合カフェの率が高い。
サービスを受けるもので、料金は空間・設備にかかる「空間ビジネス」、
②商業特性の特徴:商業集積地区細分と販売額特性を用いて密集エリア
同じく接客サービスにかかる「サービスビジネス」、利用者の所有物を
の商業特性をみると、地区細分ではあまり差がないが、販売額特性では
その場所で保管する「保管ビジネス」、利用者はその場所で物品を借り
密集エリアの方が特性1(大規模百貨店等が主)の率が高く(全体 34%、
出し、他の場所で利用する「レンタルビジネス」の大きく4つに分けた
密集 42%)、特性3(飲食料品が主)で低い(全体 29%、密集 18%)。
(表1)。「複合カフェ」は空間ビジネスの1つであり、テニスコート
全東京の複合カフェのある159 の商業集積地区と密集エリアの60の商業
や雀荘など目的が限定的な業態と異なり、多様な設備機能を付加し、か
集積地区について、商業規模の平均を比較すると、年間商品販売額にお
つ料金単位時間を短く設定する等、進化し続ける特徴的な業態である。
いて密集エリア(649 億)が全体(338 億)の 2 倍近い値となり、商業規模
(2)複合カフェの定義と調査方法
の大きさが窺える。
本稿では基本的な設備機能である「マンガ」「インターネット」の両
③駅特性の特徴:密集エリアの 165 店舗の最寄り駅(群)は 48 駅あり、
方が利用できるものを「複合カフェ」として定義する。業界団体である
1 駅あたりの平均年間乗降客数は 3386 万人、都内全体の複合カフェ最寄
日本複合カフェ協会のHP2)の加盟店舗リストに掲載の店舗、及びタウン
駅の 1660 万人に比べ規模が大きい。
ページ3)やiタウンページ4)の「マンガ喫茶」「インターネットカフェ」
(2)密集エリアのグループ分類
に掲載の店舗を抽出し、各店舗のHP閲覧や電話調査を通じて現在営業
表1 時間課金型ビジネスの分類
商業の
表 2 機能タイプの8つの定義
複合カフェ
プール
貸し自習室
機能分類
内容
店舗数
該当率
性
質の違
カラオケ店
サーキット場
貸し会議室
カフェ機能
無料ドリンクを自由に飲むことができる
330 100%
雀荘
テニスコート
貸しホール
い
から密
空間・設備
330 100%
ビリヤード場
トレーニング
貸しスタジオ・ 空間ビジネス ライブラリ機能 漫画や雑誌・新聞など自由に読むことができる
の利用
集
エリア
インターネット機能
インターネットを利用することができる
330
100%
卓球場
ルーム
洗車場
オフィス機能 ワープロソフトなどの利用可能なパソコンがあり、
317
96% を 分 類 す
酸素バー
貸し画廊
釣堀
日焼けサロン
ライブハウス
かつプリンタ出力ができる
接客サービス 時間制理髪店
キャバレー
エステ店
サービス
宿泊機能
24 時間営業している
303
92% るため、縦
ビジネス
の利用
風俗店
マッサージ店 ホストクラブ
メディア機能
映画DVDの貸出等により、映画を見ることができる
220
67% 軸 に < 売
物を置く
駐車場
コインロッカー
貸倉庫
保管ビジネス リラクゼーション機能 マッサージ機、シャワー、岩盤浴などの設備がある
179 54.2%
場面積1
物を借りる
レンタルビデオ
レンタカー
レンタルビジネス
アミューズメント機能 卓球、ダーツ、ビリヤードなどの設備がある
35
10.6%
上野・御徒町
北千住
中野
㎡当りの年間商品販売額(平
400
ave. 448
高円寺
大塚
亀有
均 177 万円)>を、横軸に<
4
4
350
秋葉原
事業所数(平均 448 軒)>を
小岩 4
池袋 3
7
立川
22 水道橋
吉祥寺
用い散布図を描き、クラスタ
4 新小岩
Ⅲ
4 5
5
4 5
6
新宿
300
秋葉原
5
ー分析(標準ユークリッド・
27
葛西・西葛西
㎡
Ⅳ
5 4 3
9
当
Ⅱ
7
13 4
ワード法)で分類(図2)、
神田 新橋
新宿
上野・御徒町
り 250
八王子
年
門前仲町
大きく3つのグループ、細か
Ⅰ
間
神田
六本木
池袋
渋谷
販 200
水道橋
銀座
銀座
くは各グループ2つずつの
六本木
売
大塚
渋谷
町田
新橋
新小岩
額
ave.177
5
小グループ(タイプ)に分か
中野Ⅴ
門前仲町
蒲田
蒲田
6
150
れた。
高円寺
町田
北千住
図 1 東京都内の複合カフェの密集エリア
立川
①商業特性の特徴:Aグルー
葛西・西葛西 八王子
吉祥寺
100
小岩
m)。ま
プは、事業所数が多く、1 ㎡当販売額も高い商業地で、耐久消費財など
Ⅵ 亀有
た、駅前広
の買回り品を売る大規模商業地域である。Bグループは事業所数は多く
50
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
1800
場から、線
ないが 1 ㎡当販売額が高い商業地で、特に1㎡当販売額がタイプⅢで高
事業所数(小売業)
路と平行
い。相対的に商業規模は大きくはないが買回り品などの高級品を売る商
図2 事業所数と面積当年間販売額による散布図
な方向に
業地域である。そしてCグループは相対的に 1 ㎡当販売額が低い商業地
進み複合
で、事業所数は多いタイプⅤ、事業所数も少ないタイプⅥを含む。
カフェへ至る経路をたどるのは4店舗あった(平均距離約 75m)。②で
②駅特性の特徴:平均年間乗降客数をみると、Aグループは一億人を超
は、駅前広場から通りを直進した後に一度右左折し店舗へ至る経路をた
えており、Cグループは密集エリア平均よりも大きく下回っている。
③機能面の特徴:タイプⅠは、リラクゼーション機能が 70%(平均 59%)
どるもの1店舗ずつ見られ、平均 105m 直進し、右左後平均 40m で店舗
に至っている。複合カフェの立地する界隈の特徴をみると、複合カフェ
で高く、タイプⅡはメディア機能が 87%(平均 73%)と高いのが特徴で
は、駅前広場周辺、歓楽街、アーケード(歩行者専用)商店街、庇のか
ある。逆にタイプⅥはいずれの機能も平均値を超えていないことから、
基本的な機能のみを備えた複合カフェが立地していると言える。
かった商店街、高架下の商店街、幹線道路沿い、幹線道路沿いの商店街、
再開発ビル内といった界隈に立地していた。以上の平均的な立地をモデ
④地理的特徴:24 の密集エリアを地図上で概観すると、山手線内の都心
ル化したものが図3である。大分して駅前広場、線路沿い、商店街奥部
に数多く位置していることに加え、中野・高円寺、新小岩・小岩、葛西・
西葛西のように、区部郊外の連続する2駅でそれぞれ密集エリアになっ
の3ヶ所に複合カフェは立地する傾向があり、逆に駅前広場から商店街
に入ってすぐのところへの立地は少ない。
ている場所が見られる。しかもこれらはタイプⅥである点も特徴的であ
6.結論
る。特異的に密集エリアが成立したというよりも、商業規模や駅特性の
①時間課金型ビジネスは空間・サービス・保管・レンタルビジネスの4
みでは説明できない、沿線地域として複合カフェが多く立地する条件に
つに分類される。複合カフェは空間ビジネスの一形態で、カフェ・ライ
あることが予想される。次章ではこれらをケーススタディとして取り上
ブラリ・インターネット等の基本的な機能に加え、店舗によってメディア・リラク
げ、複合カフェが密集する街の特徴を考察する。
5.特徴的な密集エリアにおける複合カフェの位置付け(ケーススタディ)
ゼーション・アミューズメントの機能が加わる。②複合カフェは駅由来型の商業集積
地区に 7 割以上が立地する。③分布密度とカフェ所在町丁目の連担状況
前章で述べたタイプⅥに含まれる、中野・高円寺、新小岩・小岩、葛
から 24 の密集エリアが抽出され、
商業地規模や最寄駅乗降客数は複合カ
西・西葛西の全 26 店舗の複合カフェについて、ミクロな立地を現地調査
より明らかにする。
フェ全体の所在商業地よりも大きい。密集エリアは規模と単位販売額か
ら6タイプに分類され、タイプⅥには隣接駅のペアが 3 組みられるなど
(1)対象エリアの特徴
地理的な特徴を有している。④住宅地後背型の駅周辺商業地の複合カフ
6エリアの駅全てに駅前広場があり、いずれもバス路線が発達してい
る。26 店舗は用途地域の上では全て商業地域に属しているが、第一種住
ェの立地モデルを示し、駅近接部や商店街奥部に立地する傾向を示し
た。時間課金型空間ビジネスである複合カフェは、多くは繁華街に集積
居地域までの距離に着目すると平均 102m であり、生活住宅地に近接し
するものの、住宅地の駅前の利便性の高い場所に立地したり、或いは生
た、住宅地後背型の駅周辺商業地域という傾向が見られた。
(2)複合カフェ立地のモデル
活住宅地と駅前商業地との間に立地し、個人的空間である住宅地から程
近い場所にある、高機能設備の揃った共有空間としてのニーズに応えて
駅前広場周辺への立地は5店舗見られた。
他の 21 店舗は駅前広場から
いると推察される。
離れた場所に立地している。そこに至る経路は大きく2パターンあり、
補注
①駅から直線的な経路を辿るもの(19 店舗)、②一度だけ角を曲がる経路
(1)一般のホテルなど利用時間の最小単位が 1 日以上のものや、美術館など1回入場いくらなどの
を辿るもの(2 店舗)であり、いずれも生活住宅地へと続いている。①では
形態のものは利用者が自らの時間に対し柔軟に利用するという性質のものはなく、デイユースホ
テルなどは宿泊業の「副業」であるので、それぞれ除くこととした。
駅前広場から伸びる経路(駅前商店街等)で複合カフェへと至る店舗が
(2) リラクゼーション機能とアミューズメント機能については、店舗 HP によって調査した。
15 店舗見られた
参考・引用文献
表3 密集エリアタイプ別の特性
(平均距離約 125
1)石崎研二(1998)、「店舗特性・立地特性からみた世田谷区におけるコンビニエンス・ストアの
B
A
C
2.4
2.9
1.7
2.6
1.9
1.8
2.7
2.3
1.8
2.3
70%
87%
40%
76%
64%
68%
81%
69%
67%
73%
70%
63%
40%
52%
59%
55%
66%
50%
56%
59%
11%
9%
0%
5%
14%
9%
10%
4%
11%
9%
複合カフェ
立地場所
アーケード付商店街
144
165
136
86
68
55
157
98
61
106
メディア機能
257
213
346
225
128
129
212
245
128
177
機能の特性
アミュー ズメン
ト機能
リラクゼーショ
ン機能
1,549
865
332
117
583
277
1,002
153
371
448
駅の特性
平均乗り入れ
本数
平均乗降客
(
百万人)
面積当年間
販売額(
万円)
Ⅰ
1
Ⅱ
4
Ⅲ
1
B
Ⅳ
5
Ⅴ
4
C
Ⅵ
9
Aグループ平均 5
Bグループ平均 6
Cグループ平均 13
24 エリア平均 24
A
平均事業所数
含まれる
密集エリア数
タイプ
グループ
商業の特性
105m
商
店
街
38m
庇
付
商
店
街
歓楽街
駅前広場
ガード下
ガード沿い
Station
125m
75m
75m
125m
図3 住宅地後背型駅周辺商業地区における
複合カフェの立地モデル
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