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JCER 研究員リポート No.10 日米の貯蓄率は、本当に「急接近した」か

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JCER
研究員リポート
No.10
日本経済研究センター副主任研究員
(短期予測班総括)
飯塚 信夫
日米の貯蓄率は、本当に「急接近した」か
「日米の貯蓄率が急接近。近いうちに逆転する」――。こうした試算、議論が花盛りだ。
確かに、国民経済計算(SNA)ベースの日本の家計(個人企業を含む)の貯蓄率は 99 暦年
には 11.1%、2000 暦年には 9.8%であったのが 2001 暦年に 6.9%まで低下した(年度ベー
スでは、11.0%→9.3%→6.6%)。米国の貯蓄率が4%台まで上昇してきたこともあり、こ
のままでは日米逆転は近いと見るのも不思議ではないかもしれない。
しかし、2000、2001 年の貯蓄率が急低下したことは、SNA 統計の計算上の決まりごと
の影響を大きく受けている。この影響を排除すると、実は、2001 暦年にかけて貯蓄率は急
上昇していたのである。
まず、SNA 統計上の貯蓄率の計算方法から確認しよう。
貯蓄率(%)=貯蓄÷(可処分所得+年金基金年金準備金の変動)×100
貯蓄=可処分所得+年金基金年金準備金の変動−最終消費支出
可処分所得
=
雇用者報酬…………………………………サラリーマンの給与・賞与など
+営業余剰・混合所得………………………自営業者の所得など
+財産所得(受取)…………………………預貯金の利子、配当所得など
+現物社会移転以外の社会給付(受取)…年金給付など
+その他の経常移転(受取)………………生命保険以外の保険金など
−所得・富等に課される経常税(支払)…給与や利子などにかかる所得税
−社会負担(支払)…………………………年金保険料など
−財産所得(支払)…………………………住宅ローンの利子など
−その他の経常移転(支払)………………罰金など
上記の式を踏まえて、貯蓄額の前年差を要因分解したのが図1である。家計の貯蓄額は、
2000 暦年に前年に比べて約4兆 4000 億円減、2001 暦年に約9兆 7000 億円減とこの2年
間で大幅に減少しているが、その最も大きな要因は財産所得(受取)の減少である。2000
暦年には約3兆円、2001 暦年には約4兆円も減少している。その財産所得の減少の大半は
預貯金などの利子所得であり、2000 暦年には1兆 4000 億円減、2001 暦年には約3兆 7000
億円減となっている。
財産所得の次に、貯蓄減に寄与しているのは税支払いの増加である。税負担が増えれば
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可処分所得がそれだけ減少するためである。2000 暦年には約 1 兆 6000 億円、2001 暦年に
は約1兆 7000 億円増えている。
図1 貯蓄の前年差の要因分解
(
10億円)
30000
20000
10000
0
-10000
雇用者報酬+営業余剰+年金受取など
その他の経常移転(
純)
+年金基金年金準備金の変動
利子支払いなど
貯蓄
-20000
財産所得の受取
税・社会保障負担
消費
-30000
1991
1992
1993
(
資料)内閣府『国民経済計算年報』
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
(
暦年)
グラフをみればわかるように、2000 暦年、2001 暦年は給与や年金給付などの合計額はプ
ラスになっていない。財産所得の受取もマイナスである。増税もしておらず、所得も増え
ていないのに、なぜ税支払いが増加したのか。
実はこの原因が、SNA統計の計算上の決まりごとなのである。
SNAでは銀行や郵便貯金の決算書、国税庁の資料など様々な基礎統計をもとに作成さ
れている。そのため、利子所得は家計が利子を受け取ったときではなく、金融機関側が利
子を支払ったと認識したときに家計が受け取ったとしてカウントしている(発生主義とい
う)。一方、税支払いについては家計が利子を受け取ったときに支払ったことにしている(現
金主義という)。利子にかかる税金の支払いも同様である。
国税庁の年報を確認すると、金融機関などが支払った利子所得(非課税分も含む)は、
2000 暦年に前年比 55%、2001 暦年に同 28%も増加している。この利子所得には法人向け
に支払われているものも含まれているが、ほぼ 100%個人向けである郵便貯金では、2000
暦年に前年に比べて 7.7 倍、2001 暦年も 1.3 倍、利子所得の支払いが急増している。官民
あげての争奪戦で話題を呼んだ、「定額貯金」の集中満期があったためである。この集中満
期によって、郵便貯金の利子所得から差し引かれた税金(源泉徴収税額)も 2000 暦年は前
年に比べて 7.7 倍、2001 暦年は 1.3 倍に増えている。
定額貯金は半年ごとに利子が元本に加算され、「利子が利子を生む」金融商品。預け入れ
期間は6ヵ月以上の自由満期で、最長 10 年である。この商品では、郵便貯金の側では半年
に1回ずつ利子を支払っているので、SNA 統計でもそのタイミングで利子が支払われたこ
とになる。この定額貯金が集中的に預け入れられたのは 90、91 年と金利がピークをつけて
いた時期。その後は日本経済の停滞とともに金利水準が低下したため、多くの預金者が満
期まで解約しなかったようだ。つまり、SNA 統計上では 90、91 年から分割して支払われ
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ていた利子を、預金者は 2000、2001 年に 10 年分まとめて受け取り、その利子にかかる税
金を支払ったわけである。
そもそも消費額も実際に支払ったベースで計上されている。そこで、国税庁統計をもと
に利子所得の受取も実際に受け取ったベースに貯蓄額の修正(注)を試みて、貯蓄率を算
出、公式統計と比較したのが第2図である。公式統計では急低下した 2000 暦年、2001 暦
年の貯蓄率は、修正後は大きく上昇している。定額貯金の満期で得た利子の一部は消費さ
れず、再び貯蓄に向かったことが伺える。景気の先行き不透明感が強まっている中では当
然の動きであろう。
図2 SNAベースの貯蓄率の推移
16.0
15.0
14.0
13.0
12.0
11.0
10.0
9.0
8.0
貯蓄率
7.0
貯蓄率(
修正後)
6.0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
(
資料)内閣府『国民経済計算年報』、国税庁『統計年報書』など
1999
2000
2001
(
暦年)
もちろん、修正後の貯蓄率をみても、修正前の公式統計と同様に長期的な緩やかな低下
トレンドが伺える。これも日本が高齢化社会に進んでいくなかでは自然な動きである。し
かし、公式な貯蓄率データでのここ2年ほどの急低下は、SNA統計の計算上の決まりご
とが原因であり、日本経済の実力ではない。ちなみに、2002 暦年については、雇用者報酬、
家計の最終消費支出の金額が実績値として発表されている。これ以外の税支払い額などを
決算見込みなどから推定すると 2002 暦年は修正前の貯蓄率も修正後の貯蓄率も6−7%に
なりそうである。定額貯金の集中満期が終わり、家計が実際に受け取る利子所得が大きく
減少するためである。確かに 2001 暦年よりは低下するが、米国の貯蓄率にはまだ及ばない。
貯蓄率の日米逆転はまだ先といえるのではないだろうか。
(注)修正は以下の考え方で行った
国税庁統計ベースの利子所得(公益法人や金融機関などに支払われた「その他非課税分支払い金額」を
除く)のうち、郵便貯金の利子は 100%、銀行預金など郵貯以外は 50%(日本銀行の預金者別預金残高統
計などによる個人貯蓄残高の貯蓄全体に占める割合から想定)が家計の利子所得になっていると考えた。
SNA 統計上の可処分所得から統計上の利子所得を差し引き、上記で算出した利子所得を加えたものが修
正後の可処分所得、そこから消費額を差し引いたものが修正後の貯蓄額となる。
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