小型立坑の話(第1回∼第30回)

小型立坑の話(第1回∼第30回)
(目次)
頁
第1回 鋼製ケーシングの厚さはどうやって決めたの?(その1)
2
第2回 鋼製ケーシングの厚さはどうやって決めたの?(その2)
4
第3回 鋼製ケーシングをもっと自由に使おう
6
第4回 最終ケーシングを転用しよう
8
第5回 玉石層に超硬ビットは有効か?
10
第6回 底盤コンクリートは何故厚い?
12
第7回 底部コンクリート登場
14
第8回 底盤コンクリート、底部コンクリートの特殊な事例
16
第9回 底盤コンクリート安定計算の問題点
18
第10回 底盤コンクリートの安定とは?
20
第11回 立坑の浮上について
22
第12回 小型立坑の水とレイタンス
24
第13回 鋼製ケーシング立坑の埋戻し
26
第14回 コウワ機は大きい?
28
第15回 コウワ機と進入路
30
第16回 コウワ工法による架空線直下の施工
32
第17回 コウワ工法による近接施工
34
第18回 コウワ工法による傾斜地、段差地での施工
36
第19回 コウワ工法による呼び径の自由設定
38
第20回 覆工板設置離隔と準備掘削深
40
第21回 底盤コンクリートの漏水事故について
42
第22回 底盤コンクリートの漏水とコンクリートの品質
44
第23回 コンクリート製立坑は経済的
46
第24回 鋼製ケーシングとコンクリート製立坑(1)
48
第25回 鋼製ケーシングとコンクリート製立坑(2)
50
第26回 コンクリート製立坑は何故使われない?(1)
52
第27回 コンクリート製立坑は何故使われない?(2)
54
第28回 コンクリート製立坑拡大のためには?
56
第29回 引き上げないのがお得?
58
第30回 揺動と回転、2つの圧入方式
60
1
第1回 鋼製ケーシングの厚さはどうやって決めたの?
「推進工法用設計積算要領 推進工法用立坑編」
(2008年改訂版)では、鋼製ケーシン
グについて以下のとおり規定しています。
表3.7−58 鋼製ケーシングの諸元
呼び径
項目
1500
1800
12
12
厚 さ (mm)
有効長 (m)
備考
2000
12
2500
3000
19
22
16
1∼3
1∼2.3
1.立坑1基毎に、厚さは同一のものとし、現場条件にあわせて0.1m単位の長さ
で製作することができる。
2.表3.7−58の厚さは最低厚さとし、礫質土及び玉石混じり土等現場状況に
よっては別途考慮する。
3.呼び径2000
t=16mmのケーシングは、立坑深が6.0mを超えるも
のに適用する。
この表を使えば、問題なく設計できることになっています。
ところで、この表はどうやって作成したのか、ご存知ですか?
話は、「推進工法用設計積算要領
推進工法用立坑編」(平成10年度版)作成時に遡り
ます。このとき鋼製ケーシングとコンクリート製ブロックの立坑が小型立坑として標準化
され、鋼製ケーシングの諸元も規定されました。
その時の表です。
(備考は、現在と同じです。
)
呼び径
1500
1800
厚 さ (mm)
12
12
有効長 (mm)
2000,3000 ただし先頭部は3.0mとする
項目
2000
12
2500
16
19
現在との違いが分かりますか?
呼び径3000は、まだありません。有効長も異なっています。
でも、厚さは現在と同じ、10年余り同じ値です。
それでは、それまで各工法ではどうだったのでしょうか?
2007年12月の「月刊推進技術」にレボ工法とPIT工法の鋼製ケーシング諸元が
掲載されています。これは、鋼製ケーシングが標準化される前の数値です。
レボ工法
呼び径 (mm)
1500
1800
2000
外
径 (mm)
1524
1829
2032
内
径 (mm)
1500
1805
2008
肉
厚 (mm)
12
12
12
※ 立坑深が 10m を越える場合には、各ケーシング径に応じて肉厚を変更
するか補強部材を追加して対応する。
2
PIT工法
呼び径
外径
内径
肉厚
1500
1590
1566
12
1800
1890
1866
12
2090
2066
12
2090
2058
16
2590
2558
16
2590
2552
19
2000
2500
注記 1)呼び径2mまではケーシングの標準肉厚は 12mm、
呼び径2.5mは 16mm とする。
2)立坑深10mを越える場合又土質条件により
肉厚は 16mm 及び 19mm とする。
同じ雑誌にケコム工法の諸元も掲載されていますが、これは設計積算要領の値とほぼ同
様です。
(設計積算要領は、ケコム工法をベースに作られたので当然のことです)
ただし、呼び径2000の場合の 12mm と 16mm の境界が若干異なります。
ケコム工法では、鋼製ケーシングが2本までの場合 12mm、3本以上の場合 16mm とし
ています。当時のケコムの標準的な最大ケーシング長は、先頭(ファースト)ケーシング
が4m、最終(ファイナル)ケーシングが3mでしたから、ケーシング長7mが分岐点で
した。
それが標準工法では何故立坑深さ6mになったのでしょうか?
皆さんで推理してみてください。ヒントは、本文中にあります。また、数値はm単位に
丸めました。
正解は、次回のレポートに記載します。
厚さ 12mm では問題があったために、16mm にする必要があったことは各工法に共通し
ています。ただし、その分岐点や対象呼び径が若干異なっており、当時抜群の実績を持っ
ていたケコム工法をベースに定めたのが、現在の標準設計の値です。
次回は、鋼製ケーシングの諸元について、厚さの続編と外径、長さなどを取り上げます。
3
第2回 鋼製ケーシングの厚さはどうやって決めたの?(その2)
一般の土留めでは、土留め壁の厚さ(部材)は仮設計算により求めます。
これは、土留め壁に土圧、水圧などの荷重を作用させ、それにより発生する応力に耐えら
れるような厚さ(部材)を選定するものです。
鋼製ケーシングでこのような計算はできないのでしょうか?
日本下水道管渠推進技術協会では、平成17年11月の技術講習会において土留め計算
による応力照査の試算例を紹介しています。
詳細は、その時のテキスト「小型立坑の設計・施工上のトラブルとその対応
平成17
年11月」を参照していただきたいのですが、結論から言えば「計算結果が安全すぎて、
厚さ(部材)の決定には使えない。
」ということでした。
試算例では、通常の応力計算では安全率が30以上、座屈を考慮しても4以上でした。
このことから、鋼製ケーシングは土圧、水圧に対しては十分に安全であることが分かりま
した。過去においても、土圧、水圧により鋼製ケーシング土留めが破壊した報告はありま
せん。
従って、
「推進工法用設計積算要領」では、底盤コンクリートに関する計算のみが記載さ
れ、鋼製ケーシング厚さは表で与えているのです。
さて、前回の課題についての回答ですが、呼び径2000の鋼製ケーシングで 12mm と
16mm の分岐点を立坑深さ6mとしたのは、当時のケコム工法と同様にケーシング2本ま
では 12mm、ケーシング3本からは 16mm としたからです。
ただし、ケコム工法では先頭ケーシングの最大長が4m、最終ケーシングが3mですが、
標準工法では先頭、最終ともに最大3mとしたため、3+3=6mとなったのです。厳密
には、底盤コンクリートへの根入れ長が 30cm ありますが、m単位に丸めて立坑深6mとし
たのです。
また、当時の「推進工法用設計積算要領」では、小口径管推進工事標準立坑深さを6m
とする記述もあり、これを6mの根拠とする考え方もあったと記憶しています。
ケコム工法がケーシング本数で厚さを分けた理由は、
(あまり記憶が定かではないのです
が)薄いケーシングで変形が大きいと溶接接合が困難になるということだったと思います。
また、当時はアート工法が全周回転方式で施工していましたが、その他の工法は揺動圧
入方式であり、圧入時の変形が大きく、変形のため通常の推進作業ができないなどのトラ
ブルが報告されています。これも、ケーシング厚さを変更する理由です。
余談ですが、ケコム工法ではケーシング外径に 90mm の端数がついています。
これは、聞くところでは開発当初のケーシングがダブルチューブで厚さ 45mm、それに
あわせて機械を作ったためだそうですが、現在までこの寸法を踏襲しているのは、立坑の
変形による推進作業の困難さと無関係ではないと思います。
前述のアート工法では、機械幅を2.5m以下にするため、ケーシング呼び径=内径で機
械を設計しました。ところが、メーカーである三和機材は、エンビライナーのメーカーで
もあり、推進機の関係者から「なぜ、2090mm のケーシングにしなかったのか?」と
文句を言われたそうです。変形の小さな全周回転方式でも、当時の推進工法にとっては、
4
数十 mm の余裕が重要だった訳です。
現在は、標準工法が呼び径=内径を基本として数量計算を行い、大は小を兼ねる原則か
ら大きな径への変更は容易ですが、過去にはアート工法でケコムサイズからの変更が認め
られなかったこともありました。
さて、前回の鋼製ケーシングの諸元で、ケーシング長が平成10年と現在で変更されて
いたのを覚えていますか?
呼び径2500以上では1∼2.3mに変わっています。これは運搬の関係です。最近の
規制強化で、幅2.5m以上の資機材の運搬が難しくなりました。呼び径2500のケーシ
ングは外径2538mm です。これまでは立てて運搬していましたが、それでは荷台から
はみ出します。そこで長さを短くして、横にして運搬するため、最大長2.3mとしました。
ところが最近、呼び径2000以下でも長さを2.4m以下にする動きがあります。
これは、ケーシング材料の平鋼の運搬時に同様の規制から、幅2.4m以下となり、その
ためケーシング長がこの値となるとのことです。
ケコム工法の平成21年度積算資料では、このように変更されています。
ちなみに、コウワ工法では施工機械の関係で従来から短尺のケーシングを標準として
います。
(最大2.4m)
そのため、これまでは溶接個所が標準工法より多くなり、工費、工期の面で不利だとさ
れてきましたが、短尺化の動きが広まればこのハンディもなくなります。
最後に今回も問題です。
ケコム工法やエルモール工法では、呼び径3500から5000までの超大口径の鋼製
ケーシング立坑を施工していますが、この場合のケーシング厚さは何 mm でしょうか?
回答は、次回のレポートで。
次回は、鋼製ケーシングをもっと自由に使いこなす提案をします。
5
第3回 鋼製ケーシングをもっと自由に使おう
最初に、前回の課題の回答です。
呼び径3500∼5000の超大口径でも、ケーシング厚さは呼び径3000と同じく
22mmです。
標準設計とあわせると、以下のようになります。
呼び径
項目
1500
1800
12
12
厚 さ (mm)
有効長 (m)
2000
12
2500
16
3000
19
3500∼5000
22
1∼2.4
1∼2.3
呼び径1500∼3000の標準設計では、呼び径とケーシング厚さには相関がありま
す。しかし、呼び径3500∼5000では、ケーシング厚さは一定です。
前回、「土留め計算では安全すぎる結果が出て、厚さの決定には使えない。」と書きまし
たが、ケーシング厚さは、土留め計算の要素である呼び径、土質、立坑深さでは決められ
ていないのです。
ケーシング厚さを決めるのは、施工機械や施工方法です。
主な工法の圧入機について、回転トルクあるいは揺動トルクを比較してみましょう。
工法別圧入機のトルク
工法
呼び径
ケコム
(kN・m)
レボ
PIT
アート
コウワ
揺動
回転
揺動
揺動
回転
回転
1500
343
−
−
401
−
245
2000
480
864
470
548
392
368
2500
823
980
−
931
490
441
3000
1180
1471
−
1176
980
686
備考1.一般に、同じ呼び径では揺動トルクのほうが回転トルクより大きい。
2.ケコム工法の回転式は、岩盤対応の機種であるため回転トルクが大きい。
トルクと施工能力との関係については、号を改めてとりあげてみたいと思いますが、
ここでは、トルクとケーシング厚さの関係について考えます。ケーシングに作用するトル
クが大きいと、変形が大きくなります。また、ケーシングを把持するためのチャック力は、
トルクの大きさに相関がありますから、チャック力による変形も大きくなります。
施工方法による違いとして、回転式ではケーシングに偏荷重による曲げ応力がほとんど
発生しないためコンクリート製の施工が可能です。これを鋼製ケーシングに当てはめれば、
まげ応力による変形が小さいということです。
次に、鋼製ケーシングの呼び径について考えます。
標準設計の呼び径は1500,1800,2000,2500,3000の5種類です。
何故中間はないのでしょうか?たとえば、呼び径2200というサイズは不可能なのでし
ょうか?それともとんでもなく高くなるのでしょうか?
答えは、
「可能です。工事費もそれほど高くなくできます。
」
こう言うと「それは、コウワ工法だけでしょう。
」と反論されそうですが、そうではあり
6
ません。どの工法でも、適用呼び径より小さな径であれば施工は可能です。
(コウワ工法は、
適用呼び径より大きくても可能な場合があります。
)
まず、コウワ工法が任意の呼び径に対応している理由を述べます。
第一は、ケーシングを把持せず、ピンで回転トルクを伝える構造だから、呼び径が変化
しても機械の改造が小さくてすむからです。
第二は、仮設ケーシングを使わず、呼び径毎に仮設ケーシングを用意する必要がないか
らです。
コウワ工法の第一、第二の特長に替わる工夫をすれば、他工法でも任意の呼び径に対応
できます。
第一の特長に替わる方法は、チャックに縮径用のアタッチメントを付けることです。こ
れは、呼び径2000用の圧入機で呼び径1500、1800のケーシングを施工する際
に一般的な方法です。
第二の特長については、仮設ケーシングを複数の呼び径に対応可能な形状とすることで
代替できます。
もちろん、もっと優れた方法もあると思います。しかし、上の方法でも費用は数十万円
で済むと思われます。
少し古いデータですが、深さ5mの立坑を呼び径2500、ケーシング厚さ19mm で
構築すると336万円、呼び径2300,ケーシング厚さ12mm では235万円と、そ
の差は100万円以上になります。
「特殊な呼び径では鋼製ケーシング材料が高くなるのでは?」とのご心配もあると思い
ますが、鋼製ケーシングは注文生産で平鋼をロールにかけて製作します。平鋼のサイズに
よっては材料ロスが若干大きくなる可能性がありますが、製作過程や歩掛等は標準サイズ
も特別サイズも変わらないと思われます。
標準設計により、だれでも安心安全な立坑を簡単に設計できるようになりました。
しかし、損害保険などにリスク細分型で価格を抑制する考え方があるように、施工機械
や施工方法、設計条件を限定することにより鋼製ケーシングの厚さや呼び径を目的にあわ
せて自由に設定し、経済性にチャレンジすることも大切ではないでしょうか?
コウワ工法では、呼び径2000、立坑深さ9m超で厚さ12mm、呼び径3000、立
坑深さ7m超で厚さ19mm の鋼製ケーシング立坑を構築しました。
これまでの経験から、以下のような条件ならば施工可能と考えています。
呼び径
ケーシング厚
土質
立坑深さ
備
考
2000
12mm
砂質土 N≦30
10m
KBE-20 型の適用範囲
2500
16mm
粘性土 N≦15
8m
KBE-25 型の適用範囲
3000
19mm
礫質土は除く
8m
KBE-30 型の適用範囲
このような条件にチャレンジできる場を与えていただければ幸いです。
本件に関しては、コウワ工法技術協会東日本支部(TEL:047-304-2188)までご連絡くだ
さい。
次回は「最終ケーシングを転用しよう」です。
7
第4回 最終ケーシングを転用しよう
小型立坑で鋼製ケーシングは存置ですが、上部 1.5m 程度は撤去するのが一般的です。
標準設計では、ケーシング撤去工があり、呼び径2000の場合には次のような代価に
なります。
D−1−3 ケーシング撤去工
(1個所当り)
単位
数量
単価
金額
世話役
人
0.08
18,600
1,448
特殊作業員
人
0.08
16,500
1,320
普通作業員
人
0.16
13,500
2,160
時間
0.67
5,430
3,438
ケーシング切断工
m
12.3
1,461
17,970
諸雑費
式
1
種
目
クレーン付トラック運転費
形状寸法
4t 積、2.9t 吊
摘要
E-1-2
4
26,580
計
E−1−2 ケーシング切断工
種
目
形状寸法
(1m 当り)
単位
数量
単価
金額
摘要
世話役
人
0.19
18,600
3,534
溶接工
人
0.38
18,900
7,182
普通作業員
人
0.19
13,500
2,565
諸雑費
式
0.67
5,430
1,328
労務費合計の 10%
計
14,609
10m 当り
1m当り
1,461
切断撤去された鋼製ケーシングはスクラップです。材料としての鋼製ケーシング価格は、
1.5m で 354,000 円(236,000 円/m)ですから、撤去費とあわせて 380,000 円の費用が
かかっています。
(スクラップ戻入を除く)
これ以下の費用で、1.5m 分の最終ケーシングを転用できないのでしょうか?
実は、これまでもいろいろな試みがされてきました。
1.仮設ケーシングとして引き上げ撤去
(1) 圧入機で引き上げる
最初に考えつくのがこの方法です。最終ケーシング(L=1.5m)をボルト接合の仮設ケー
シングとして、圧入機で引き抜き・撤去します。圧入機には(コウワ工法機を除いて)引
き上げ機能がありますから、立坑の埋戻し時に圧入機を搬入・設置して仮設ケーシングを
引き上げればよいのです。
この方法の致命的な欠陥は、費用(特に運搬・設置・撤去)が大きいことです。標準設
計での設置撤去費は約9万円、これに運搬費、作業費(機械損料)、仮設ケーシング損料を
加えると現行の方法より割高になってしまいます。
(2)引き上げ専用機で引き上げる
一部で実際に行われた方法です。一辺2m程度の正三角形の枠を鋼材で製作し、その頂
点に汎用の油圧ジャッキを装着した引き上げ専用機を製作します。重量は約1tで小型の
ユニットから油圧を供給する仕組みです。運搬設置には 4t ユニック(回収した仮設ケーシ
8
ングの運搬にも使います。
)を使い、作業は2名で可能です。
この方法の積算資料も拝見しましたが、現行の費用とほぼ同等の価格設定でした。
2.分割型仮設ケーシングを人力で解体・撤去
一体型の仮設ケーシングを長期間設置していると、周面の土と付着して、引き抜き時に
大きな抵抗となり、クレーン等で直接引き抜くことはできません。
そこで、最終ケーシング(仮設ケーシング)を人力で解体可能な大きさに分割して、ク
レーンのみで撤去搬出しようというものです。
(1)分割セグメント
これも実際に商品化されたものです。シールド工事に使うセグメントを撤去部分の仮設
ケーシングとして使い、人力で解体し、ユニックで回収・運搬します。詳細な性能は不明
ですが、シールド用セグメントと同等ならば、強度や止水性は十分だと思われます。
問題はコストです。構造が複雑な分、製作費は一般の仮設ケーシングより高くなると思
います。また、一般の仮設ケーシングは、存置用ケーシングに転用可能ですが、セグメン
トでは困難ですので、転用回数が少ない場合には償却費用が発生する危険があります。
(2) 分割型仮設ケーシング
コウワ工法では、これまでのさまざまな方法を検証した結果、縦2分割の分割型仮設ケ
ーシング「RESケーシング」を実用化しました。
「RESケーシング」は、近畿地区で施
工されています。
構造は、仮設ケーシングを縦に2分割し、ボルト接合により一体化したものです。撤去
時は、人力で縦方向のボルトを外し、地山との縁を切り、ユニックで回収します。
分割セグメントと比較して、接合部分のボルトが少なく、縦2分割のため構造的に安定
で、構造補強のリブなどが最小限ですみ作業性がよいのが特長です。
他方、止水構造にはなっていないため、地下水位の高い現場では使用できません。
費用は、現行の1/2程度になります。
ただし、コウワ工法ではケーシング引き上げを行わないことから存置ケーシングが標準
工法より 90cm 長く、それを考慮すると標準工法で現行の撤去方法を行う場合とコウワ工法
でRESケーシングを使用する場合では、ほぼ同じ価格になります。
なお、RESケーシングはコウワ工法専用です。
3.その他の方法
最終ケーシングの転用ではありませんが、コンクリート製沈下構築式で行われているよ
うに、上部に別な土留めを設置するのも有効な方法です。
具体的には、上部 1.5m には鋼製ケーシングよりも大きな呼び径のライナープレートを設
置して鋼製ケーシングは GL-1.5m 以下に使用する方法です。これも従来の材料、施工方法
ですので、比較的安価に実施可能です。
ただし、ライナープレートですから地山が自立していることが前提条件です。
経済性や環境負荷の点から、最終ケーシングの転用を考えてみてはいかがでしょうか?
「RESケーシング」についてのお問い合わせは、コウワ工法技術協会本部
(TEL:0742−30−1621)まで。パンフレットも用意しております。
第5回は、
「玉石層に超硬ビットは有効か?」です。
9
第5回 玉石層に超硬ビットは有効か?
結論から言いますと「ほとんど無効です。
」
まず、超硬ビットの働きから考えてみましょう。鋼製ケーシングの超硬ビットには2つ
の働きがあると考えられます。
機
能
対
象
備
考
切
削
固結土、岩盤
回転とともに切削溝を深くする
割
裂
玉石(転石)
圧縮荷重(点荷重)+衝撃
第一の働きは切削です。固結土や岩などの表面にビットを立てて、回転により同じ軌跡
を通過させることによりだんだんと深く切削することができます。
第二の働きは割裂です。コンクリートの引張強度試験に割裂試験があります。これは、
コンクリート供試体の上下から一定以上の線荷重をかけると供試体が割れるというもので
す。また、車などに使われている強化ガラスは、通常のハンマーで割ることは困難ですが、
先の尖った特殊なハンマーでは軽い力でこなごなに割ることができます。超硬ビットには、
この特殊なハンマーと同様の働きがあると考えられます。
私は、最初の全周回転式立坑構築工法である「アート工法」の開発に携わっていました。
アート工法では、それまでの揺動圧入式では不可能だった硬質土、岩盤、玉石(以下、転
石も含めて「玉石」という)への適用性と施工能率の検証のために、実証実験を行いまし
た。その際には超硬ビットを使用しました。
実証実験の中でも、玉石層(人工地盤)での回転圧入は興味深いものでした。花崗岩系
の玉石(MAX500mm)数十個と砂質土で作成した厚さ1m人工地盤で、掘削は行わず、
水を張った状態で鋼製ケーシング(呼び径1500)を回転圧入させて玉石の状況を目視
で観察しました。
回転中は、超硬ビットが玉石に当たる甲高い音が断続的に耳をつきました。回転を続け
るうちに、刃先の玉石が坑内に移動し始めました。それが地盤中のマトリクス分と水で泥
土状になった土砂の中をぐるぐる回転しますが、割裂された玉石は観察されませんでした。
この間の圧入力は、圧入機の自重以下(4∼5t)で回転トルクも通常の地盤とあまり
変わりませんでした。圧入速度は、2cm/分程度でした。
圧入完了後、鋼製ケーシングを引き上げ、ビットの状況を観察しましたが、一部ビット
の破損と鋼製ケーシング刃先の変形が見られました。
この実験では、超硬ビットの効果は見られませんでした。ただし、その後の検討では、
砂岩や頁岩系の玉石では超硬ビットを改良することにより割裂できる可能性があると結論
づけました。しかし実際の現場で考えると、玉石の組成は不明確ですし、万能な超硬ビッ
トもありません。
その後、アート工法ではローラビットによる施工なども試みていますが、対費用効果か
ら問題があります。
コウワ工法では、鋼製ケーシングの回転軸が固定されていません。そのため玉石層では、
回転圧入時に鋼製ケーシングが若干ぶれます。精度管理上ではオペレータの負担が大きく
10
なりますが、玉石を坑内にはじき出す効果があります。そこで、刃先を二重にして補強し、
断続的な衝撃を与えることにより玉石を坑内に移動させながら圧入します。
玉石が多く細粒分が密な場合には、坑内をすり鉢状に若干先掘りすることがあります。
また、玉石が移動した空間にはケーシング刃先外の土砂が落ち込みます。これらのために、
ケーシング背面に緩みや空隙が生じて、地表面にも沈下が見られます。しかし、これは超
硬ビットを使用しても完全に割裂できなければ同様に起こる現象です。
積算上、超硬ビットは1個当り1万数千円かかり、鋼製ケーシング1基当り20∼40
個装着します。「ほとんど効果のないものに、数十万円の費用をかける必要はない。」とい
うのが私どもの考えです。
コウワ工法の昨年度の施工実績では、呼び径3000の立坑でφ500∼700mm の
玉石が4tダンプ1車当り数十個出現する地盤で、2∼3m/日の圧入を実現しました。
もちろん超硬ビットは使用しませんでした。
一般には、ケーシングの引き上げの有無により標準工法より高いコウワ工法ですが、玉
石層においては、超硬ビットの有無により経済性が逆転します。
玉石層での鋼製ケーシングを設計される際には、是非コウワ工法をご検討ください。
なお、固結土や岩盤ではコウワ工法も超硬ビットを使用しますが、ケーシング引き上げ
がありませんので経済性は標準工法と同等か優れています。
次回からは、底盤コンクリートを取り上げます。
11
第6回 底盤コンクリートは何故厚い?
はじめて鋼製ケーシング立坑の図面を見た方は、底盤コンクリートの厚さに違和感を抱
かれると思います。
「何故、こんなに厚いのか?」
その疑問に答える前に、底盤コンクリートの役割について説明します。鋼製ケーシング
立坑は、軟弱地盤や地下水位の高い地盤では立坑内に水を張って水中掘削をします。この
とき、ケーシング刃先を掘削底面以下に貫入させ、坑内の水位を地下水位以上に保って掘
削すれば掘削底盤は安定しており、地盤改良なしで掘削できます。
しかし、立坑として使うには立坑内の水を排水しなければなりません。このときに掘削
底盤を安定させるために打設するのが底盤コンクリートです。つまり「掘削底盤に蓋をし
て安定させ、地下水の浸入を防ぐ」のが底盤コンクリートの役割です。
底盤コンクリートには、地下水やヒービングなどによる揚圧力が作用します。しかし、
「揚
圧力に対抗できる重量を確保するため厚くする。
」のが答えではありません。確かに、底盤
コンクリートを厚くすれば重量が重くなり、掘削底盤の安定に寄与します。しかし、地下
水位が高い場合に重量のみで安定を確保するには厚さが足りません。
「底盤コンクリートを薄いが強固な構造体にして、揚圧力に対抗する。
」ことも一つの方
法です。しかし、これを施工するのは大変に難しいことです。
というのは、底盤コンクリートの蓋が完成するまでは坑内水を排水できないため、水中
で強固な構造体を作るか、別な場所で作った構造体を水中で底盤に精度よく設置するかの
いずれかを行わなければならないからです。
水中の構造体としては、水中コンクリートによる鉄筋コンクリートが考えられます。し
かし、この方法では強度発現に時間がかかり、強度確認のための品質管理も必要です。現
在のように底盤コンクリートを打設した翌日に坑内水を排水することはできません。
別な場所での構造体の製作は立坑掘削に先行してできますから、工期や品質管理につい
ては問題がありませんが、「水中掘削した底盤にいかに正確に据え付けるか?」「鋼製ケー
シングとの隙間をいかに止水するか?」の2つが問題です。水中掘削された底盤はでこぼ
こです。そこに構造体の上面を水平に据えなければなりません。これについては、据えた
後で均しコンクリートで仕上げることも考えられます。
大きな問題は、構造体と鋼製ケーシング内面との止水ができるかどうかです。
ただし、沈設立坑では近年、底盤コンクリートに替えて底盤ブロックを使用しています。
この結果によっては、この方法も有力になると思われますが、現状では一般的ではありま
せん。
「底盤改良の代替として、ある程度の強度と止水性のある底盤コンクリートを打設する。
」
のが、現在の考え方です。立坑構築の過程で打設できる底盤コンクリートは、工期、工費
および品質などで薬液注入による地盤改良よりもすぐれています。
そこで、底盤コンクリートの安定についても、地盤改良と同様に曲げ強度を考慮せずに
12
ブロック(塊)として計算することにしました。
曲げ応力が発生しないための必要条件が、厚さ≧1/2×内径(幅)です。さらに数値
を50cm単位に丸めて現在の底盤コンクリートの厚さが決まりました。
10年近く前に、会計検査で「底盤コンクリートが無駄ではないか?」と問題になりま
した。それまで、漫然と1mの厚さで施工していた業者では答えることができず、各工法
協会の技術担当者が当時の建設省(本省)から個別に呼び出されて、回答を求められまし
たが、その際の見解が「底盤コンクリートは地盤改良の代替である。」ということでした。
以来、厚さ1mの底盤コンクリート(呼び径2000以下の場合)が認知されました。
ところが数年後、また底盤コンクリートが会計監査で問題となりました。
なにが問題となったかは、次回までの宿題とします。
次回は、底盤コンクリートの2回目です。
13
第7回 底部コンクリート登場
会計監査で底盤コンクリートが再度問題となったのは、
「地下水位が低く、掘削底盤が安
定しているにも関わらず、厚さ1mの底盤コンクリートを打設している」現場でした。
それまでに厚さ1mの底盤コンクリートが認知されたことで、無条件にこれを採用する
ケースが出ていたのです。
それまで大部分の鋼製ケーシング立坑は、軟弱地盤や地下水位の高い地盤に適用されて
いました。ところが、全周回転式の登場により硬質地盤や岩盤での施工も増えてきました。
また、土留めの確実さや工期の短さなどから、自立しない地山ではそれまでのライナープ
レートに代わって標準的な工法になりつつありました。自立しない地盤といっても、掘削
底盤より地下水位が低い砂質土や、ヒービングや盤膨れのおそれがない粘性土で底盤コン
クリートを使えば過大設計となります。
この指摘を受けて、日本下水道管渠推進技術協会では底部コンクリートを提案しました。
すなわち、
「地下水位以上の掘削および掘削底面が安定している場合」水中掘削が不要であ
り、底盤コンクリートに替えて底部砕石と底部コンクリートを施工することにしました。
底部砕石、底部コンクリートは、一般の立坑における基礎砕石、基礎コンクリートに当た
るもので、それぞれ厚さ20cm、15cm を標準とします。
水中掘削をしないため、掘削底面を目視できますから、鋼製ケーシングの根入長もゼロ
としました。(水中掘削の場合には20cm)
以来、土質により底盤コンクリートと底部コンクリートとを使い分けることになってい
ます。
同じ立坑深さの場合で底盤コンクリートと底部コンクリートとの数量の比較をします。
(呼び径2000の場合、覆工板設置離隔および準備掘削深ゼロ)
種
目
底盤コンクリート
底部コンクリート
圧入掘削積込み工
立坑深さ+1.0m
立坑深さ+0.35m
ケーシング長
立坑深さ+0.3m
立坑深さ+0.35m
底盤コンクリート厚さ
1.0m
0m
底部コンクリート厚さ
0m
0.15m
底部砕石厚さ
0m
0.2m
レイタンス厚さ
0.4m
0m
ケーシング引上げ
0.9m
0m
底部コンクリートでは、ケーシング引上げがありません。
これは、コウワ工法の施工方法と同じです。
すなわち、底部コンクリートの場合には、コウワ工法と標準工法とは同じ図面になり、
区別が付きません。ただし、仮設ケーシングがコウワ工法では不要ですが、標準工法では
必要です。
14
ページ数が余ったのでちょっと横道にそれます。
鋼製ケーシングのケーシング長はどこからどこまでだか、ごぞんじですか?
「分かり切ったことを訊くんじゃない、天端から下端までに決まっている。
」と答えた方は
不正解です。
ノコギリ状に加工された刃先は、ケーシング長に含まれません。通常の先頭ケーシング
では、ケーシング本体の外側にノコギリ状の刃先を巻いて溶接してあります。さらに、ノ
コギリ状の谷部はケーシング本体よりも5cm程度下になっています。
そのため、根入長ゼロといっても、ノコギリ状の部分はもちろんこの余裕分(約5cm)
も実質的には根入れされています。
ただし、土質や工法によっては鋼管の下端をノコギリ状に加工しただけの先頭ケーシン
グを使うことがあります。この場合は、ノコギリ状の谷部までがケーシング長で、実質的
な根入れ部分は、そこから下になります。
それでは、次回までの宿題です。
「底盤コンクリートでも底部コンクリートでもないケースがありますが、それはどんなケ
ースでしょうか?」
15
第8回 底盤コンクリート、底部コンクリートの特殊な事例
前回の宿題である「底盤コンクリートでも底部コンクリートでもないケース」とは次の
ようなケースです。
1.プレキャストコンクリート版(底盤ブロック)
2.岩盤における底部コンクリート
3.地下水位が立坑底盤付近にある場合の底盤コンクリート
4.軟弱粘性土の場合の底盤コンクリート
5.超大口径の場合の底盤コンクリート
これらには、底盤コンクリート、底部コンクリートとの名称を使っているものもありま
すが、それぞれの標準的な厚さとは異なっているため、ここで紹介します。
1.プレキャストコンクリート版(底盤ブロック)
前回紹介しました沈設立坑(コンクリート製沈下構築式)で使われているものです。コ
ンクリートブロック内径別に厚さが決められています。
項
内
目
ブロック厚さ
径(mm)
(m)
1,500
0.45
1,800
0.45
2,000
0.55
2,500
0.65
ブロック厚さの根拠は不明ですが、プレキャスト版ですので曲げ強度は確保されている
ものと思われます。
また、コンクリートブロック躯体と底盤ブロックとの隙間には特殊グラウト材を注入し、
一体化することで止水をはかります。これにより、水中にコンクリートを打設する従来の
底盤コンリートより薄くできるとともに、レイタンスが発生しないためその処理が不要に
なるとのことです。
一方課題は、特殊グラウト材による一体化と止水の確実さだと思われます。(沈設立坑の
関係者は大丈夫と言っていますが・・・・)
なお、この底盤ブロックも扱いは地盤改良の替わりです。なぜなら沈設立坑では、これ
とは別に躯体の底盤コンクリートを打設するからです。
2.岩盤における底部コンクリート
回転方式の工法は、岩盤にも対応しています。この場合は、底部コンクリートを打設す
るのが標準的です。掘削底盤が地下水位以下でも、岩盤でしたら排水しながら推進作業が
できるため、止水目的の底盤コンクリートは不要です。ただし、標準的な底部コンクリー
トとは異なる工法があります。
ケコム(カッティングロック)工法では、底部砕石を省略し底部コンクリート厚さを
次頁のように規定しています。
コウワ工法では、特段の規定は設けていません。
16
項目
呼び径
1500
底部コンクリート(m)
1800
2000
0.30
2500
3000
0.50
標準的な底部コンクリート厚さが0.15mですから、約2∼3倍の厚さです。
この理由は不明です。
(ケコム協会にお問い合わせください。)
3.地下水位が立坑底盤付近にある場合の底盤コンクリート
たとえば、地下水位が底盤コンクリート天端から50cmの高さにある場合の厚さはど
うなるでしょうか?
「底盤コンクリートは、曲げ応力を考慮しないため呼び径の1/2以上とする。」とされ
ていますが、今回の場合には、地下水による揚力を底盤コンクリートの重量でおさえてし
まいますから荷重はかかりません。そこで、揚力と底盤コンクリート重量の釣り合いから
厚さが決まります。
安全率を1.2、コンクリートの比重を2.3とすると、本条件での底盤コンクリート
の厚さは0.55mになります。
4.軟弱粘性土の場合の底盤コンクリート
軟弱粘性土でも底盤コンクリートを打設する場合があります。ヒービングの恐れがある
場合です。
ヒービングも、土質条件によっては底盤コンクリートの重量のみで抑止できる場合があ
ります。この場合、ヒービングの計算により厚さ1m未満で安全率が確保できるのであれ
ば、その厚さで OK です。
5.超大口径の場合の底盤コンクリート
こちらもケコム工法の場合です。呼び径3500∼5000の底盤コンクリート厚さは
すべて2mと規定されています。これでは呼び径4500と5000では1/2×内径よ
り小さな値となります。この根拠も不明です。
(ご存じの方がおられましたらご一報ください。
)
超大口径の場合、ケーシング厚さも呼び径3000と同じ22mm ですし、これらの根
拠が標準呼び径とは異なっているようです。
特殊な底盤コンクリートや底部コンクリート、いかがですか?これらは、施工途中で土
質が急変して、圧入不可となり底盤コンクリートの標準厚さが確保できない場合などにも
応用できる考え方です。
この連載の主要テーマである「標準」がすべてではないことが、底盤コンクリートや底
部コンクリートについてもいえると思います。
次回は、底盤コンクリートの安定計算について取り上げます。
17
第9回 底盤コンクリート安定計算の問題点
底盤コンクリート安定計算とは一般に「推進工法用設計積算要領
推進工法用立坑編」
記載の小型立坑浮上の検討と底盤コンクリートの検討をさします。ちなみに、下水道協会
編「推進工法の指針と解説」にも同様な記載があります。
ここで取り上げる底盤コンクリート安定計算の問題とは、このうちの底盤コンクリート
の検討です。本連載の第6回で「底盤コンクリートは地盤改良の代替である」と書きまし
た。また、構造体として考えるには、コンクリートの強度確認のための品質管理ができな
いとも書きました。
そのため、底盤コンクリートを曲げ強度を考慮せずにすむ厚さ(内径×1/2以上)と
したわけです。
ところが、底盤コンクリートの検討計算ではコンクリートの強度を使っています。
ここで、底盤コンクリートの検討計算について述べます。
検討項目は、以下の2つです。
1.ケーシング刃先の支圧強度
2.底盤コンクリートのせん断強度
1.ケーシング刃先の支圧強度
完成した立坑の底盤コンクリートには、ケーシング刃先が30cm 根入れしています。
(立坑呼び径2000以下の場合)
底盤コンクリートの安定が確保されるには、浮力による上向きの力をケーシング刃先
で支えなければならず、刃先の支圧強度≧上向きの荷重(=地下水による浮力−底盤コ
ンクリート自重−底盤コンクリートと地山の付着力)の関係を検証するものです。
ここで地下水による浮力は地下水位の調査により正確に求められます。底盤コンクリ
ートの自重も、掘削深さやコンクリート打設量を間違わないかぎり正確に求められます。
また、底盤コンクリートと地山の付着力は、道路橋示方書で長年使われている信頼性の
高い数値です。
問題は刃先の支圧強度(ここで使われているコンクリートの許容支圧応力度)です。
「推進工法用設計積算要領 推進工法用立坑編」では、
「底盤コンクリートに荷重が作用
する時期を材令3日程度とし、許容応力度を40%とした」と記載されています。これに
は2つの問題があります。材齢3日と40%です。
底盤コンクリートに荷重がかかるのは、坑内のうわ水を排水した時点です。これは一般
的には材令1日です。材令3日というのは危険側の数字です。
次に、材令3日で許容応力度の40%を採用する根拠が示されていません。この数値は
「推進工法用設計積算要領
推進工法用立坑編」に小型立坑が登場する以前から、ケコム
工法やPIT工法で使われていたものです。手元にあるPIT工法の「底スラブ厚検討書」
(平成11年5月)には、次頁のような記述があります。
なお、ここでは底盤コンクリートに使用する生コンの JIS 規格として、24-18-20(25)を
採用しています。
18
(検討書からの抜粋)
2)材令3日の圧縮強度F3d の推定
PIT工法では、コンクリートを打設してから3日の養生が必要としている。呼び強度は材令2
8日の強度(F28d)である。F28d からF3d を推定する。
「コンクリートの基礎知識と特殊コンクリート 建設材料研究会編著 技術書院 P35」に清水
養生の場合、下表の1行目のデータがある。
F3d/F28d 比 0.4 を同じとして2行目のようにF3d=98kgf/cm2 と推定した。
28日強度F28d
3日強度(F3d)
F3d/F28d 比
普通ポルトランド
295
117
0.4
上記 24-18-20(25)
245
98
0.4
ここに、0.4(40%)の根拠がありました。同時期、ケコム工法の検討書にも同じ参
考文献があり、当時その文献を購入し、内容を確認したのち、アート工法の検討書で
もこの数値を使った記憶があります。おそらくケコム工法が最初でPIT工法、アー
ト工法と広がったのではないかと思います。
(今、その文献は私の手元にありません。
)
蛇足ですが、この検討書では底スラブ厚さもコンクリートの許容引張り強度を使って
計算しています。その値は、圧縮強度の 1/10 として F3d=9.8kgf/cm2 です。
話を戻しますが、ここでも問題点は解決されていません。この文献の信頼性については
ひとまずおくとしても、0.4 の前提は清水養生だということです。これをそのまま使えばこ
れも危険側になります。
さらにここで記載されているのは圧縮強度についてであり、支圧強度やせん断強度につ
いての記述ではありません。にも拘わらず底盤コンクリートの検討では、許容支圧応力度
や許容せん断強度で 40%の値を使用しています。
以上の問題点をまとめると、
1.養生期間3日を前提としている
2.清水養生を前提としている
3.許容圧縮強度の低減数値を支圧強度、せん断強度にそのまま使っている
さらに、出展となっている文献の信頼性についても、確認はされていません。
このように問題のある検討方法ですが、実際の適用実績での問題は指摘されてきません
でした。つまり、このように危険側の数値を使った検討計算であっても、計算結果がOK
ならば実施工上の問題は生じなかった(少なくとも問題の報告はなかった)のです。
これはどうしてでしょうか?
次回、検討してみたいと思います。
19
第10回 底盤コンクリートの安定とは?
底盤コンクリート安定計算が清水養生を3日間行うことを前提とした許容応力度を使っ
ているのに、実施工では翌日(泥水養生1日未満)に荷重をかけても、安全なのは何故で
しょうか?
考えられるのは、
「安定計算の方法が基本的に間違っているのではないか?」ということ
です。
仮に、支圧応力度もせん断応力度も許容応力度を超えた場合を考えます。このとき底盤
コンクリートはどうなるでしょうか?
局部的には破壊する部分があるかもしれませんが、全体が鋼製ケーシングから抜け出し
たり破壊したりすることはないと思います。
第一の理由は、降伏応力度や破壊応力度と許容応力度との大きさに差がある。
第二の理由は、たとえ破壊応力度を超えても、底盤コンクリートの安定は保たれると思
うからです。
第二の理由の根拠は、鋼矢板土留めなどでの底盤改良にあります。この安定計算では、
鋼矢板内面と改良体との付着力を考慮することがあります。
コウワ工法ではケーシングを引き上げませんから、底盤コンクリートは一般の土留めに
おける改良体と同様な形状になります。そこで安定計算は、浮力に対してケーシング内面
と底盤コンクリートとの付着力で抵抗するとの考え方で行います。ちなみに、ここでも許
容付着応力度を使用しますが、これは実際に試験を行った結果を安全率(3)で割ったも
のを使っています。
話を戻します。
標準的な施工でも、底盤コンクリートは地山とケーシング内面に付着しています。これ
が底盤コンクリートの安定に寄与していると思われます。
次に、標準的な底盤コンクリートは、ケーシング刃先より深い部分でケーシング内径よ
り大きくなっています。このような形状では、たとえ局部的な支圧やせん断破壊を生じて
も、全体がケーシング内に入り込むとは考えられません。
以上のような理由から、許容応力度を超えても底盤コンクリートの安定が保たれるので
はないでしょうか?
はじめに戻ります。
底盤コンクリートの破壊にはどのような形態があるのでしょうか?
第一は、コンクリートが十分に固まらないための破壊です。この原因は、コンクリート
の打設方法にあります。底盤コンクリートは水中に打設します。この際にトレミー管を使
用しますが、この先端が先行して打設されたコンクリートに十分貫入されていないと、材
料分離を起こしコンクリートが硬化せず、荷重がかかると破壊します。
次にごくまれなケースですが、打設されたコンクリートが土圧によりケーシング内径よ
り痩せてしまうため、浮力や坑口改良のための薬液注入の圧力を受けて抜け出すことがあ
ります。
昔の図面では、底盤コンクリートがケーシング外径より外側に球根状にはみ出している
20
ものが一般的でした。
しかし、土圧とコンクリート打設時の圧力から計算するとこのようなことは起こりま
せん。土質条件によっては、コンクリート打設時の圧力より地山の主働土圧のほうが大
きくなる場合があります。このような場合には底盤コンクリートが痩せてしまいます。
この計算根拠は、コウワ工法技術積算資料に記載してありますので、興味のあるかた
はご覧ください。ただし、前述のとおりこのような破壊は、ごくまれなケースです。
底盤コンクリートで最も問題となるのは、それ自体の破壊より漏水です。この原因は
施工にあります。防止法は、最終掘削時にケーシング先端付近に付着した土羽を丹念に
落とすことです。
この場合、ケーシングを引き上げない方が底盤コンクリートとケーシングとの接触面
が大きく、安全性が高いと思われます。通常はケーシングを引き上げるケコム工法など
でも、大口径で立坑深さが大きい場合には、ケーシングを引き上げずに底盤コンクリー
トを打設します。
底盤コンクリートの安定では、もうひとつ大きな課題があります。こちらのほうが頻
繁に起こります。
立坑の浮上です。この安定計算にも問題があります。
これについては次回取り上げます。
21
第11回 立坑の浮上について
立坑が浮き上がる?
小型立坑以外では想像もできないことでしょう。
事の発端は、十年ほど前に遡ります。ケコム工法で構築された呼び径3000の立坑が
人の背丈ほど浮上し、その様子が全国放送の番組で放映されたのです。それまでも、関係
者の間では鋼製ケーシング立坑の浮上は知られていましたが、これで世間の耳目を集める
ところとなりました。
これを受けて各工法協会では、独自の実態調査と対策および事前検討の方法について検
討を開始しました。私は当時アート工法の開発に携わっていましたので、アート工法の実
態調査を行いましたが、浮上の報告はありませんでした。
その後、当時下水道管渠推進技術協会の立坑部会でご一緒していたケコム工法とPIT
工法の関係者の方とともに、統一的な検討方法(検討式)の作成と提案をしました。これ
をもとに、「推進工法用設計積算要領」(日本下水道管渠推進技術協会)や「下水道推進工
法の指針と解説」
(日本下水道協会)に、掲載されている検討計算式ができました。
検討式の内容は単純です。立坑の自重(鋼製ケーシング+底盤コンクリート)と浮力お
よび立坑周面の摩擦抵抗のバランスがとれていれば浮上せず、最大周面摩擦力+立坑の自
重が浮力を下回れば浮上するというものです。
(別途、安全率を考慮します)立坑の自重は、
仮設図から求めます。浮力は土質調査資料から求めます。周面摩擦力は、
「道路橋示方書・
同解説 下部構造編」より、ケーソン周面摩擦力度を転用しています。この計算式により、
事前に浮上の危険性を評価することが可能になりました。
しかし、事前検討でOKだったにも拘わらず、実施工では浮上するケースがあります。
原因は、施工方法です。鋼製ケーシングは、摩擦抵抗が小さいほど早く圧入することがで
きます。そのため、過度な揺動をかけたり、滑材を使用して摩擦抵抗を軽減しようとしま
す。また、自立性の高い粘性土で揺動をかけると、ケーシング背面に空洞ができているこ
とが観察されます。このような場合には周面摩擦が計算式の値を下回るか、全く考慮でき
ません。
一般には立坑の自重のみでは浮力に抵抗できませんから、周面摩擦がなければ浮上が生
じます。浮上の検討式は、良好な施工を前提としていることに注意が必要です。
しかし、早く施工したいのは業者の本音です。また、過度な揺動は論外として、滑材の
使用は圧入困難な場合に有効な対策ですし、立坑を正確に圧入する効果もありますから、
一概に悪いことだとはいえません。この場合には、対応するための施工方法があります。
第一は、ケーシング背面へのセメントミルクやモルタルなどの流し込みです。滑材を使
用するといっても多くの場合は、地表からの流し込みですから、深い部分まで浸透してい
るわけではありません。そのため、圧入完了後セメントミルクなどを流し込めば効果があ
ります。ケーシング背面に空隙が生じているようでしたら、モルタルや底盤コンクリート
の余剰分を詰めることも効果的です。また、砂を詰めて付き固めたり、水締めするだけで
も効果があります。
第二は、坑口注入の先行です。坑内排水の前に坑口注入することにより、薬液が立坑周
面に回り込み硬化することで、浮上を防ぎます。
22
コウワ工法には独自の対策として、立坑内部から鉄板を地山に突き出し、その上の土や
路盤、舗装などのせん断抵抗により浮上を防止する方法があります。
いずれも、浮上に対しては有効です。そのため、事前に検討し、良好な施工(滑材使用
時の対策なども含む)を行えば、浮上が起きることはありません。
さて、裏話をひとつ。
ある現場では、鋼製ケーシングの天端が切断された形跡がありました。この原因はなん
でしょうか?
浮上が起きた可能性があります。鋼製ケーシングの設計では、ケーシング天端は必ず地
表面から数 cm 下がっています。これは、立坑深さが mm 単位であるのに対して、ケーシ
ング長さが10cm であるために生じた端数を地表以下に追い込んだものです。これがある
ため、地表に設置した円形覆工板がケーシング天端に乗り上げることを防いでいます。ケ
ーシング天端が切断されているということは、元の天端が地表から出ていたことになりま
す。施工管理上、特別な理由がないかぎりケーシングを地表で止めることはありませんか
ら、このケーシングは施工後に地表に飛び出し、切断された可能性が高いのです。
この場合、底盤コンクリートも設計より高くなるため、表面をはつって薄くなっている
危険があります。ただし、一般の施工でも底盤コンクリートの天端の出来型は若干低く管
理されています。これは、推進作業(推進機の設置)を容易にするためです。浮上が、こ
れら余裕の範囲内であれば、底盤コンクリートの表面をはつらなくても対処できますが、
浮上が大きければ、底盤コンクリートを所定の厚さより薄くはつっている可能性がありま
す。
次回は、立坑内の水について考えます。
23
第12回 小型立坑の水とレイタンス
小型立坑の特徴の一つに水中掘削があります。
その目的は、掘削底盤の安定です。
小型立坑における土留めは、鋼製ケーシングおよびコンクリート製ブロックとも根入れ
がほとんどありません。このような場合、軟弱地盤や地下水位の高い地盤では、湧水、ボ
イリング(パイピング)
、盤膨れ、ヒービングなどによる掘削底盤の破壊や、それらによる
周辺地盤の沈下などの危険があります。
立坑内に注水し地下水や土圧とバランスさせることにより、掘削中も底盤の安定を保ち
ます。そのため、底盤の地盤改良が不要です。
砂質土では坑内水位を地下水位と同じ高さにします。しかし、軟弱粘性土での水位はど
のように決定するのでしょうか?これは、次回までの宿題としましょう。皆さんでお考え
ください。
水を張ったままでは立坑として利用できませんから、水中にコンクリートを打設してコ
ンクリートが固まったら、坑内のうわ水を排水します。
水中にコンクリートを打設すると多くのレイタンスが発生します。その量は、土質や施
工方法により異なりますが、設計上は厚さ40cmとしています。これをバキューム車で
吸い取って、産業廃棄物として処分します。レイタンス処理は、コンクリート打設後1∼
3日で行います。早すぎるとコンクリートの強度が不十分ですし、遅すぎるとレイタンス
が固化してバキュームでは吸い取れず、ピック等で壊さなければならなくなるためです。
水中掘削した土砂の扱いについて、一部には建設汚泥とみなすことがありましたが、日
本下水道管渠推進技術協会では、設計積算要領のなかで『廃棄物処理法の対象外である「土
砂」に相当するとみなす。
』と明記しています。
同じ設計積算要領でも低耐荷力方式編では、掘削残土をバキューム車で仮置き運搬して
いるので一見矛盾しているようですが、小型立坑でも運搬車両は道路を汚したりしないよ
うに注意するよう記載されていることから、低耐荷力方式では実績の多い運搬としてバキ
ューム車を記載しているのであって、掘削土砂を汚泥として扱っているわけではないと思
われます。
底盤コンクリートの止水について、以前は完全止水をいわれた業者さんもおられました
が、現在は立坑については周辺地盤に影響を与えない程度の漏水はやむをえないとの考え
方が一般的だと思います。
坑内水位の管理で難しいのが、地下水位が変化する場合です。たとえば潮汐の影響をう
けるような海岸近くの施工では、坑内水位の管理が不十分なことによる底盤コンクリート
からの漏水が見られることがあります。一般的には、地下水位より高めに管理すれば問題
ないのですが、大量の水が必要なため臨機応変な措置が出来ない場合もあります。
(水道水
を蛇口から流し込むのでは時間がかかりすぎて不十分です。
)
また、坑内への給水は設計積算に含まれていないため、専業者から元請けに必要性を説
24
明するのが大変です。さらに狭い現場では、水槽などによる貯水が出来ず、その都度給水
車で水を運搬しなければならず、費用がかかります。坑内水の排水が設計積算に計上され
ているのですから、注水も計上すべきではないでしょうか?
最後の話題は、埋戻しです。鋼製ケーシング立坑の埋戻し材として以前は埋戻し用砂を
使っていましたが、最近では流動化処理土やコンクリート、砕石などに変わってきました。
これは、止水性の高いケーシング内の埋戻しでは水締めが出来ず、狭い空間での転圧も一
般には出来ないためです。また、埋戻し土が転圧できても長年の間には、地表から水が流
入しケーシング内の土が水で飽和し、地震時に液状化する可能性が出てくると思われます。
この埋戻し材が新たな問題を発生します。
それは次回で。
25
第13回 鋼製ケーシング立坑の埋戻し
まず、前回の回答です。
粘性土の場合でも、盤膨れやヒービング防止のために水中掘削が必要です。盤膨れに対
しては地下水による揚圧力に抵抗する荷重として、ヒービングに対しては土留め背面の土
の重量に抵抗する荷重として、坑内水の重量が作用します。したがって、それぞれの検討
式の荷重からこれを引いて所定の安全率になる水位が、軟弱粘性土の坑内水位となります。
しかし、ヒービングの場合には、検討式が溝型の掘削を前提としているため、小型立坑
のような形状では安全側すぎるとの考え方もあることを付け加えておきます。
さて、今回の本題に入ります。
前回、鋼製ケーシング立坑の埋戻し材は、流動化処理土やコンクリート、砕石などに変
わってきたと申しました。止水性が高く、狭い鋼製ケーシング立坑内の埋戻しでは、転圧
等が出来ないためです。これらのうち、固化する流動化処理土やコンクリートに問題があ
ります。それは管渠の耐震性に関する問題です。
近年、推進管でも耐震性が問題とされるようになってきました。鋼製ケーシング立坑と
ともに使われることの多い塩ビ管についても、耐震性の検討式が塩化ビニル管・継手協会
から提案されています。しかし、ここで案外知られていないのがこの検討式の前提条件で
す。
それは、塩ビ管とマンホールとの接続部分には可とう性継手が使用されているという事
です。もし、この部分が剛結やそれに近い状態でしたら、検討式自体が成立しません。固
結した埋戻し材を使用した場合には、可とう性の継手を使用してもその先で変形が拘束さ
れてしまうため、塩ビ管の検討式は無効になってしまいます。
検討式を有効にするためには、可とう性継手を使うのはもちろんですが、そのうえで鋼
製ケーシング立坑内の塩ビ管の周囲をクッション材で巻き付けるなど、自由に変形できる
ような状態を確保しなければなりません。
最近、耐震計算上から有利だとの理由で、SUSカラー付直管の採用が増えていますが、
以上の前提条件が確保されなければ、かえって危険な結果となる可能性もあります。耐震
検討の際には、埋め戻しにも十分配慮してください。
さて、埋戻しに関連する問題をもう一つ。
マンホールの沈下問題です。
開削で設置されたマンホールの重量は、元の土より軽くなる場合が多いので、沈下に対
しては比較的安全です。(危険な場合も後でご紹介します。)しかし、鋼製ケーシング内に
設置されたマンホールは、鋼製ケーシングと一体として挙動します。
マンホールと鋼製ケーシング(埋戻し材を含む)の重量は、元の土より重くなることが
多いため、正規圧密粘土などでは沈下の危険があります。これは、一般の支持力計算や圧
密沈下計算で検討できますので、設計時点で安全性を確認してください。
マンホールの支持力計算では、活荷重の扱いによって結果が左右されることがあります。
T−25の後輪荷重を直接マンホールの蓋や鋼製ケーシング立坑表面に作用させると、軟
弱地盤では支持力が不足することがあります。しかし、実際の既設マンホールでは沈下が
26
生じていない場合がほとんどです。
これはどうしてなのでしょうか?
実際の後輪荷重の作用時間にヒントがあると考えられます。つまり、道路橋などでは後
輪荷重は移動しながら一定時間作用します。また、複数の後輪荷重が同時に作用しますか
らそれらを分布荷重として評価するケースもあります。
ところが、マンホールでは後輪荷重が作用するのは通過時の一瞬です。荷重の作用時間
が短い場合、粘性土の変形(沈下)は生じません。さらに、マンホールの位置は車両のタ
イヤ位置とずれているのが一般的ですが、この場合には駐停車時を含めて荷重がかかるこ
ともありません。以上の理由から、活荷重を作用させた場合に支持力が不足しても沈下が
生じないと思われます。であれば、支持力計算から活荷重を除外してもよいのではないか
と思われます。もし、これに関する研究や実験結果をご存じでしたらお教えください。
本連載ではこれまで小型立坑一般の話題を取り上げて参りましたが、これからしばらく
は、コウワ工法の独自性について具体的な事例とともに解説します。
コウワ工法は、他工法では施工が困難(不可能)な狭隘な場所でも施工出来る一方で、
鋼製ケーシング立坑では、ケーシングの引き上げを行わないため存置ケーシングの数量が
増え、工事費が高くなります。また、コウワ工法で施工出来ないような場所では代替工法
はありません。従って、設計採用に当たっては詳細な検討が必要です。
そこで、コウワ工法技術協会では設計時点で現場を拝見して施工性を確認させて頂ける
ようお願いしておりますが、設計者の方々からも採用条件の目安を提示して欲しいとの要
望が寄せられております。
これからの連載が、それらの一助となれば幸いです。
27
第14回 コウワ機は大きい?
今回から新しいシリーズです。
主役はコウワ機です。これから競合工法の機械と比較します。このシリーズで取り上げ
る工法と機種を紹介します。
工
法
機
種
寸法(L×B×H)
質量(kg)
摘
要
ケコム
HBM-2000
8610×2800×7200
25,100
掘削機一体型
PIT
PC1520
3360×2330×1070
3,860
圧入専用機
アート
ART-200
3990×2500×1560
8,900
〃
コウワ
KBE-20 型
6554×2490×4500
21,450
〃
これらは各工法の代表機種で、呼び径2000用では最も損料の安い機種です。
他の工法のうち、L モールはケコムと、レボはPITとほぼ同じ機械ですので、ここでは
省略します。
補足しますと、ケコム、PITは揺動式で別途カウンタウエイトが必要です。(PITで
は12t)
掘削機一体型のケコム機が大きいのは当然ですが、圧入専用機の中ではコウワ機が寸法、
質量とも最大です。この大きさにも拘わらず、コウワ機が他工法機では不可能な場所で施
工できる理由を説明します。
1.自走し、カウンタウエイトが不要
ケコムとコウワは自走しますが、PITとアートは据置式で運搬車両と積み卸しのため
のクレーンが必要です。
工
法
機
種
質量(kg) 運
搬 車 両
クレーン
PIT
PC1520
3,860
4tトラック
16t吊
アート
ART-200
8,900
10tトラック
25t吊
ケコム機でもカウンタウエイトの運搬車両やクレーンは必要です。
コウワ機ではこれらが不要です。
2.設置方法や動作が異なる
ケコムとコウワでは機械の動作が異なります。
ケコムの圧入機は本体の前部に固定です。本体に対して圧入機を回転することはできま
立坑
ケコム機
2800mm
せん。単純化すれば、下図のような機械が自走し、施工します。
8 6 1 0 mm
次に、PIT機ではカウンタウエイトの設置場所が必要ですし、掘削機(クラムシェル)
28
の位置が決まっています。
クラムシェル
立坑
3360mm
4000mm
2330mm
PIT
カウンタウエイトは、PIT機の側面あるいは前面に装着します。
作業中は、このスペースが必要です。
アート工法も、クラムシェルの位置はPITと同様に固定ですので、さらに大きくなり
ます。
コウワではどうでしょうか?コウワ機は、キャタピラに対して本体上部と回転盤は自由
3490mm
6554mm
このように本体上部を回転する
本体上部
ことにより、作業場所の形状に
あわせて設置することが可能と
なります。
キャタピラ
キャタピラ
本体上部
立坑
2490mm
に回転します。
移動の際にも、上部が回転する
メリットは十分に発揮されます。
また、立坑位置の周囲に圧入機が
ありませんから、地上の構造物に
立坑
近接した施工が可能です。
このように、機械の寸法や重量だけで施工性を判断すると、間違いを犯すことになりま
す。
次回は、施工機械を搬入するための進入路について検証します。
29
第15回 コウワ機と進入路
前回、各工法の代表的な機種の寸法、質量および搬入時の運搬車両とクレーンについて
記載しました。
今回は、これらをもとに立坑位置までの進入路について考えてみます。
まず、ケコム(HBM-2000)です。長さ 8,610mm、幅 2,800mm の長方形が移動するこ
とを想像してください。さらに、高さ2∼3m の範囲は揺動機や操作室などが幅いっぱい
を占用しています。
この機械が自走できるのは、ほぼ直線の進入路のみです。道路幅員6m以下の交差点を
曲がることは出来ません。
次に、PIT(PC1520)です。自走できませんから4tトラックで運搬します。トラッ
クの軌跡図は各メーカーから公開されています。これによれば、交差点を曲がれる幅員は
約5mです。荷台の短いダンプトラックでも幅員4mではほとんど余裕が無く、実際に曲
がることは困難だと思われます。
最後に、コウワ(KBE-20 型)です。この機種は幅員4mの交差点を曲がれます。
また、建設技術審査証明を受審した際の実験では、KBE-20TRA(幅員可変型)が下図の
KBE-20TRA(幅員可変型)
2500mm
ような通路を曲がりました。
標準機(幅 2,490mm)の場合
には、道路幅員3m、切り欠き
1500mm
は、最小幅 2,000mm ですから、
1mであれば、曲がることが可能です。
さらに、建設技術審査証明の実験では、
通路にはコンパネで仮のフェンスが作られ、
コウワ機は、空中でもこの幅を超えることは
許されませんでしたが、実際の進入路では
1500mm
2500mm
空中で一時的に道路境界外にはみ出してもよいケースが多くありますので、曲がることは
さらに容易になります。
ただし進入路が直線のみで、立坑位置付近に方向転換できるスペースがある場合には、
各工法とも 2.5∼3mの幅員を進入することが出来ます。
進入路の検証の際に注意すべきことがあります。
その1は、看板や軒先などが道路にはみ出していないかということです。
ケコムの説明でも述べましたが、必要な道路幅員は地上だけの問題ではなく、高さ2∼
3mの空中のも及んでいます。狭い道ほど、道路上空にはみだした構造物(看板や軒先な
ど)があるものです。これらは、現地を見なければ分かりません。狭い場所での施工性を
確認するには、現地を見ることが必要条件です。
30
その2は、線路の横断(踏切)です。機械を自走させての線路横断は許可されません。
詳細は分かりませんが、線路には微弱な電流が流れており、キャタピラでその上を通ると
障害が起きるとのことです。したがって、線路を横断する際は、機械をタイヤ式の運搬車
両に乗せなければなりません。
また、電化区間では架線からの離隔も求められますから、運搬車両に乗せたばあいの機
械高さも制限を受けます。
コウワの採用理由の中に、ケコムでは台車上の高さ制限のため、踏切をこえての運搬が
出来ないとの文言があったことがあります。
その3は、河川(用水路)の横断です。主要道路の橋はトレーラや重機の荷重に耐える
ように作られていますが、農道や大型車が通らない(通れない)道路では、橋の強度が不
足している場合があります。このような場合には、橋を補強するか、仮橋を架ける方法が
あります。コウワ機の場合には、本体と回転盤を分割して搬入し、現地で組み立てること
も可能です。(組み立てには、クレーンを使って1日程度かかります。
)
その4は、路肩や舗装、路盤の強度不足です。その3のような道路でよく見られます。
一見しっかりと舗装されているようですが、狭い道路では舗装工事用の重機が入れなかっ
たり、大型車両が通行しない道路では初めから強度を必要としていない場合があります。
このような進入路では、車両がタイヤをとられたり、キャタピラにより舗装が壊れるこ
とがあります。事前のチェックと事後の復旧が必要です。
このシリーズでは、狭隘な場所の例とそれぞれの工法の適用性を紹介しますが、最終的
な結論は、それぞれの工法の関係者(工法協会や専業者)が個々の現場を実際に見て判断
すべきです。
コウワ工法技術協会では、検討依頼を頂いた場合には、明らかに標準工法で施工可能な
場合や、コウワ工法でも施工不可能な場合以外は、現場を拝見してから施工の可否を回答
することを原則としています。
このシリーズでご紹介する事例も、あくまで施工判断の目安としてお考えください。
次回は、架空線直下での施工方法を中心に検証します。
31
第16回 コウワ工法による架空線直下の施工
近年の通信インフラの整備により、住宅地などでは新規の架空線が増えています。これ
らは地上から4.5∼6mの高さに設置されることが多いようです。この直下で、小型立
坑を構築できる工法は、沈設立坑とコウワ工法の2つです。
沈設立坑は、圧入機を使わないため架空線直下での施工も可能ですが、コンクリート製
沈下構築式のみに適用します。
鋼製ケーシング式とコンクリート製方式の両方に適用可能なのはコウワ工法のみです。
なぜ、この2つだけが4.5∼6mの架空線直下での施工が可能なのでしょうか?
他の工法について考えてみます。
ケコム工法(エルモール工法)は、圧入機と掘削機が一体です。なおかつ、掘削はワイ
ヤー式のクラムシェルバケットで行います。これを吊すためのアームが立坑直上にあり、
作業時の高さが6m超(機種により異なる)あります。
アート工法、PIT工法、レボ工法は、圧入機を分離した据置式です。この場合、機械
やケーシングの設置はクレーンを使用します。この時の最小作業高さが概ね6mです。
これに対して、コウワ工法ではあらかじめ設置されたケーシングの上部に回転盤を被せ
る施工方法ですから、すべての機種で作業高さは4.5m以下です。
このように説明しますと、
「掘削時には、4.5m以上の作業高さが必要ではないか?」と
のご質問を受けることがあります。
「そのとおりです。」もし4.5mの高さに天井があれば、
クラムシェルによる掘削はできないと思います。
(その場合でも、対策はありますが・・・)
しかし、架空線は天井とは違います。立坑のまわりのどこかで上空が空いています。こ
の空間を利用すれば、たいていは掘削可能です。クラムシェルの形状を思い浮かべてくだ
さい。伸縮型のアームの先にバケット部がぶら下がっています。掘削深さ10m前後の機
種ではアームを縮めると6∼8m程度、バケット部が2m程度ありますから、アームとバ
ケットでは8∼10m程度の高さになってしまいます。これでは高さ4.5mの架空線に引
っかかってしまい、施工不可能に思えます。ところが、掘削作業中はアームが地上に立つ
ことはありません。
実際の作業状況を検証します。
1本目のケーシング(2∼2.4m)を圧入します。回転圧入では、掘削なしでも地表近く
まで圧入可能です。ケーシング天端を地上 0.1∼0.2m まで圧入した後、掘削を始めます。
掘削は、アームを倒したままでバケット部分をケーシングに突っ込むようにして行います。
掘削・積込みの一連の作業では、バケットが掘削底面からダンプトラックの荷台まで移動
します。このとき、クラムシェルのアームをできるだけ倒したままで、クラムシェル本体
をこまめに移動させることにより、高さ4.5m以内での作業が可能になります。
2本目以降の掘削では、クラムシェルのアームを立てなければ掘削できません。この場
合が最も問題です。
次頁に、立坑掘削時のアームの動きを模式的に示しました。このような動きのために、
6∼8mのアーム長であっても、作業時の最大高さは5∼6m以下となります。
32
アームを立坑に斜め
に入れ、立坑内で
徐々に立てる。直立
したところで、アー
ムを伸ばし掘削す
る。
ただし、このような作業を行うためには、クラムシェル本体は1本目の掘削と同様に頻
繁に移動しなければなりません。ただし、それでもアームの高さが4.5mを超える位置が
あります。それを上空が空いている位置になるように、機械を移動しながら掘削します。
このような移動は、前述のアート、PIT、レボでは不可能です。したがって、掘削時
に機械を頻繁に移動できる(圧入機がいない)コウワ工法と沈設立坑のみがこのような上
空制限下で施工可能となります。そのためには、施工範囲のなかにアームを立てることの
できる空間があることが必要です。これは、設計時に現場を踏査して判断します。
コウワ工法が上空制限下で施工可能な理由として、トラッククレーンを使用しなくても
よい事があります。呼び径2000以下の鋼製ケーシングであれば、クレーン付トラック
で搬入・設置が可能です。これならば、高さ4.5mの架空線直下でも作業可能です。
標準工法では、架空線の移設が必要でしたら、是非コウワ工法をご検討ください。
施工性について図上で判断できない場合には、現場に出かけて検討致します。
次回は、コウワ工法による近接施工です。
33
第17回 コウワ工法による近接施工
コウワ工法が設計採用される理由として架空線についで多いのが、既設構造物に対する
近接施工です。
コウワ工法の建設技術審査証明書では、
「既設構造物との離隔距離10cm 以上」と記載
されていますが、ここではもう少し詳細に説明します。
第14回に記載したコウワ機とPIT機の概要図です。
本体上部
立坑
3490mm
6554mm
2490mm
(コウワ機)
立坑
クラムシェル
4000mm
3360mm
2330mm
(PIT機)
第14回では、機械はPIT機の方が小さいが、本体およびクラムシェルの位置に制限
があると申し上げました。近接施工の場合にもこの制限を受けます。すなわち、上図の状
態で設置できるスペースがまず必要です。次に、この状態での既設構造物からの離隔は、
図の上下方向については、立坑呼び径2000で(2330−2000)/2+αですか
ら約200mm、呼び径1500では(2330−1500)/2+αで約500mm です。
図の右では、呼び径2000の場合(3360−2000)/2+αで約700mm、呼
び径1500の場合(3360−1500)/2+αで約1000mmです。
コウワ機の場合の離隔は、
(回転盤の外径−立坑径)/2+αです。回転盤は、呼び径毎
に取り替えられます。回転盤の外径は、呼び径+100mm 程度です。また、全周回転式
ですのでαも揺動式のPIT工法より小さくて済みます。α=50mm とすると、離隔は
各呼び径で100mm となります。
ただし、標準呼び径以外の立坑(たとえば径1300など)では、専用の回転盤があり
ませんから、離隔も大きくなります。
また、既設構造物の位置もコウワ機本体設置位置以外の3方向いずれでも構いませんし、
3方向すべてに存在しても施工可能です。実際にはないかもしれませんが、下図のような
場所でも離隔10cm で施工可能です。
立坑
34
次に、大きな径の回転盤でも近接施工可能な裏技を紹介します。標準呼び径以外の径や
専用の回転盤がない場合には、仮設ケーシングを使うことにより近接施工が可能です。た
だし、既設構造物の高さは1∼1.5m程度までです。下図のように回転盤が既設構造物の
上部までしか降りないように仮設ケーシングを使えば、近接施工が可能です。
回転盤
仮設ケーシング
既設構造物
中間ケーシング
先頭ケーシング
ただし、この場合には短尺のケーシングを使うため溶接個所が増え、仮設ケーシング損料も必要
ですので、工事費は若干高くなります。
近接施工では、円形覆工板の設置も問題です。「推進工法用設計積算要領」(日本下水道
管渠推進技術協会)
によれば、円形覆工板はケーシング外径から20cm はみだすのが標準です。
これでは、離隔10cm の立坑には使えません。しかし、実際には、覆工板のセンターを立
坑のセンターから10cm ずらして設置します。前述の標準的な覆工板では立坑内側の余裕
は50mm ですが、実際には、100mm 程度の余裕を持つものがあります。近接施工で
は、このような覆工板をレンタルして使用します。
さらに、マンホール位置や埋設管の関係から、立坑が民地にはみ出してしまう場合にも
対策はあります。
下水道計画から、民地内にマンホールを作ることはできません。ですから、マンホール
と民地には離隔があります。その程度により、1号マンホールを築造するのに必要な最小
立坑(呼び径1300)を構築するのが第一の対策です。
これができない場合には、塩ビマンホールを使い立坑は呼び径900とする方法があり
ます。小口径管推進では1号マンホール到達が一般的です。であれば、呼び径900の立
坑でも到達可能です。これが第二の対策で実績もあります。
塩ビマンホールでは駄目だというのでしたら、立坑兼用マンホール(MMホール、MM
ホールS)を直接回転圧入してはいかがでしょうか?コウワ工法では、これらも近接施工
可能です。
(標準施工とは若干異なる工夫が必要です。
)
さまざまな工夫やノウハウにより、コウワ工法では離隔10cm の超近接施工を実現して
います。
次回は、コウワ工法による、段差や勾配のある場合の施工方法です。
35
第18回 コウワ工法による傾斜地、段差地での施工
傾斜地、段差地での施工が容易なことも、コウワ工法の大きな特長です。
コウワ工法の建設技術審査証明書では、「傾斜地
勾配9%以内」「段差1m以内」とな
っていますが、実際には勾配15%でも施工していますし、段差も短尺のケーシングを使
えば1.5m程度は可能です。また、ここでいう段差とは施工基面がコウワ機より高い場合
であり、低い場合には仮設ケーシング(ヤットコ)使用により数mの段差施工が可能です。
パンフレットには、3mの段差施工の例が記載されています。
(ただし、立坑センターから
コウワ機までの離隔は機種により異なります。
)
標準的な工法では、ケーシングを把持して圧入するため、圧入機を立坑位置に水平に設
置しなければなりません。そのため、傾斜地や段差地では作業用の仮設足場が必要です。
呼び径2000の立坑では、コウワ工法は標準的な工法より10万円程度高くなりますか
ら、足場の工事費がこれ以上かかるのでしたらコウワ工法のほうが経済的です。さらに、
足場の設置撤去に要する時間や重機による作業は、近隣への影響が無視できません。
前述のように、コウワ機は立坑位置から離して設置できます。これを段差地施工と組み
合わせると、小規模な構造物をまたいで施工することも可能です。
たとえば歩道上の植込みです。コウワ機は片車線規制された車道に設置して、歩道上に
立坑を設置できます。そのとき、間に植込みがあってもこれを撤去せず施工できます。
歩道上に圧入機を設置しないため、歩道の舗装やタイルを痛めることがありません。
また、コウワ工法技術協会ホームページの施工写真にあるように、間にコンクリート壁
をはさんだ施工も可能です。
ここで、コウワ機のアームについて説明します。コウワ機は、バックホーをベースマシ
ンとしてそのアーム部分を改造し、先端に回転盤を付けた構造です。
このアーム構造は3種類あり、それぞれに得意、不得意があります。
一般のバックホーのアームは、ベースマシンに取付けられている1本目と、1本目に取
り付けられ先端にバケットを取付ける二本目の2段階構造です。これらが油圧シリンダに
より上下に運動します。
コウワ機のアームは、バックホーの2本目あるいは1本目、2本目の両方を改造して先
端に回転盤を付けた構造です。
第一番目の構造を模式的に示します。
このタイプは、それぞれの接続部が上下方向に自由に動かせます。
テレスコアーム
一本目
2本目
本体
回転盤
テレスコアームのストロークも大きいため、
段差地や立坑から離隔のある場合には有利です。
36
一方、ケーシングを鉛直に圧入するためには、ベースマシンをこまめに前後に移動させ
なければならず、オペレータの熟練が必要です。
第二の構造は、アームが1本です。
テレスコアーム
1本目
回転盤
本体
本体に対して上下動かせるテレスコアームを
取り付け、その先端に回転盤を吊り下げています。
この方式は、操作が簡単です。アームが1本で、回転圧入中にテレスコ部分の油圧をフ
リーにしてアームを下げると、本体を前後しなくても回転盤は鉛直に下がります。さらに、
架空線直下では、第一の構造より長尺のケーシングを圧入できます。
また、アームの剛性が高いため同型の機種より回転トルクに対する安定性があります。
一方、アームが1本であること、テレスコの伸縮長さが第一の構造より短いことから、
立坑と機械本体の離隔はあまり大きくとれません。
第三の構造は、大口径の立坑用です。大口径用の回転盤は重量やトルクが大きく、これ
をアームで支えることはできません。
そこで、一本目のアームに
門型のスライドアームを
取付け、そこに回転盤を
スライドアーム
2本目(門型)
設置しました。
一本目
回転盤
回転圧入時には、アウトリガで
本体
スライドアームは地表に固定されます。
そのため、回転盤やケーシングの重量
および回転トルクを十分に負担できます。
アウトリガ
こちらも操作は簡単ですし、回転圧入時に
機械を移動する必要はありません。
一本目のアームは機械が自走する際に用います。
ただしこの構造では、段差地での施工や障害物をまたいでの施工は、制限を受けます。
以上3つの構造ともに、キャタピラに対してコクピットとアームは360°回転できま
すから、機械の設置位置の自由度は、他の自走式の工法よりも格段に優れています。
次回は、コウワ工法による呼び径の自由設定について説明します。
37
第19回 コウワ工法による呼び径の自由設定
本連載3回目で、呼び径の自由設定は標準的な工法でも可能だと申し上げました。その
ために、呼び径別にアタッチメントと仮設ケーシングを新設する必要がありますが、費用
はわずかな増加にすぎません。
鋼製ケーシング材料は、標準呼び径でも注文生産ですから、特殊な呼び径であっても単
位重量当たりの価格には大差ありません。
コウワ工法では、鋼製ケーシングを回転盤にピン結合しているため、アタッチメントが
簡易であり、仮設ケーシングを使用しないことから、標準的な工法よりも呼び径自由設定
が容易です。
ここでは、呼び径を自由設定した場合の用途とメリットについて、それぞれのケースに
ついて考えます。
(呼び径900)
小口径管推進における到達立坑として使用します。小口径管推進には、既設人孔(1号)
到達可能な工法があります。このような工法は、呼び径900(=1号人孔の内径)の鋼
製ケーシング立坑にも到達可能です。この場合の人孔は、塩ビマンホールになります。
ただし、掘削バケットの容量が小さいため、圧入掘削積込工の標準作業時間は、呼び径
1500の場合より長くなります。
(呼び径1200,1300)
組立マンホール(1号)を設置出来ます。
呼び径900と同様に、圧入掘削積込工の標準作業時間は、呼び径1500の場合より
長くなります。
呼び径900とともに、埋設管などにより標準的な立坑の設置スペースが確保出来ない
場合に計画されます。
コンクリート製立坑兼用マンホールとの比較が必要です。
(呼び径1600,2100,2600)
鋼製ケーシングでは、呼び径=内径が標準ですが、ケコム工法などでは外径に 90mm の
端数が付いています。この経過については、連載2回目に掲載していますのでそちらを参
照してください。
他工法でもケコム工法に追随してこのサイズを採用しているものもあり、設計図がこの
サイズになっているものが現在でも残っています。このような場合、内径1500mm で
はサイズダウンしてしまうため施工承認されない場合があります。
また、推進工法によってはこのサイズでなければ発進が困難なものもあります。
このような場合には、呼び径1600,2100,2600を使用します。費用の増加
分は企業努力で吸収することになります。施工歩掛り等はそれぞれの標準呼び径と同様で
すから、費用増といっても鋼製ケーシングの材料費部分だけです。
(呼び径2100∼2400)
鋼製ケーシング立坑の工事費は、呼び径2000から2500に変わると約2倍になり
ます。以下のような理由によります。
38
1.ケーシング厚さが12(16)mm から19mm に増加する。
2.圧入機が大型になり、基礎価格と損料率が大きくなる。
3.圧入掘削積込工の1m当り標準作業時間が長くなる。
中間の呼び径として1∼3の影響を除く(軽減する)ことにより、工事費の低減を図り
ます。具体的には、
(土質、立坑深さにより異なる。
)
1.ケーシング厚さを12∼16mm にする。
2.呼び径2000用の圧入機を使用する。
(土質、立坑深さにより異なる。
)
3.圧入掘削積込工の1m当り標準作業時間を呼び径により比例配分する。
これにより、工事費の大幅低減が可能です。
(呼び径2600∼2900)
呼び径2500から3000に変わっても、以下の理由から工事費は約1.4倍になりま
す。
1.ケーシング厚さが19mm から22mm に増加する。
2.圧入機が大型になり、基礎価格と損料率が大きくなる。
3.圧入掘削積込工の1m当り標準作業時間が長くなる。
前述と同様に、工事費の低減を図ります。
)
1.ケーシング厚さを19mm にする。(土質、立坑深さにより異なる。
2.呼び径2500用の圧入機を使用する。
(土質、立坑深さにより異なる。
)
3.圧入掘削積込工の1m当り標準作業時間を呼び径により比例配分する。
これにより、工事費の大幅低減が可能です。
コウワ工法では10cm 単位で呼び径を自由設定可能です。
用途にあわせて最適なサイズの立坑を採用することにより、工事費の低減を図ることが
出来ます。
次回は、円形覆工板とケーシング天端との離隔について説明します。
39
第20回 覆工板設置離隔と準備掘削深
小型立坑には、独自の用語がありますが「覆工板設置離隔」「準備掘削深」もそれらの一
つです。設計積算要領2008年改訂版から使われている用語ですが、その前は「施工余
裕」「先掘深」と言っていました。これではなにをさすのか明確でないため、「覆工板設置
離隔」
「準備掘削深」に直しました。
まず、
「覆工板設置離隔」について考えます。その意味は、円形覆工板とケーシング天端
との間隔です。なぜ覆工板とケーシング天端に間隔を取らなければならないのでしょう
か?
円形覆工板は「建設工事公衆災害防止対策要領」
(建設事務次官通達 平成5年1月制定)
における路面覆工の条件を満たしていません。詳細は省きますが、条件のひとつに、覆工
板は受桁の上に設置しなければならないとされています。
しかし、円形覆工板は直接地表面(舗装面)に設置します。そのため、車両の通行によ
るがたつきや沈下などが生じる危険があります。
もし円形覆工板をケーシング天端に直接載せたらどうでしょうか?車両が通過するたび
がたがたと騒音がでます。振動も発生します。活荷重が繰り返し作用すれば、円形覆工板
とともにケーシングも沈下します。
底盤コンクリート打設後にケーシングを引き上げた直後では、これらの危険が最も大き
く、それによりケーシングと硬化中のコンクリートの縁が切れてしまいます。その結果、
ケーシングとコンクリートの間に水道ができ、坑内水を排水した後の漏水原因となります。
以上のことから、
「覆工板設置離隔」は必須です。
「覆工板設置離隔」の数値はどのように決めるのでしょうか?
この数値は一般に1∼100mm です。その理由は、立坑深はmm単位で設定され、ケ
ーシング長は100mm 単位で設定されているためです。つまり、立坑深とケーシング長
の端数を「覆工板設置離隔」としている訳です。
この程度でしたら、舗装があるためケーシング天端から周囲の土砂が流入することはあ
りません。
但し、実際の施工では数十 mm で管理します。設計図に数 mm と記載されていても、大
きめに管理しますし、100mm 近い数値では、小さめに管理します。
以上が、
「覆工板設置離隔」の意味と数値の決め方です。
次に、
「準備掘削深」について考えます。その意味は、ケーシングの圧入掘削の前に先行
掘削して、あらかじめ施工基面を下げておくということです。代表的なものには舗装版撤
去工があります。ケーシング圧入時には舗装版は撤去しておかなければなりませんから、
カッタを入れ、舗装版を壊し、舗装を剥いで運搬します。圧入掘削開始時には、施工基面
は路盤になります。この場合の「準備掘削深」は舗装厚さになります。
40
次に、本格的な路面覆工を行う場合について考えます。この場合には、受桁、主桁まで
事前に掘削し、路面覆工を行ってから圧入掘削を開始します。従って、
「準備掘削深」は地
表から、受桁(主桁)下部までの深さです。
本格的な路面覆工の場合のケーシング天端はどう決めるのでしょうか?
こちらも、覆工板が直接ケーシング天端に載らないように間隔を空けます。しかし、覆
工板から受桁(主桁)の下端までは数十 cm あります。この空間のどの位置に天端を止める
べきでしょうか?安全面からは、円形覆工板と同様に、覆工板の下端から 1∼100mm 下
げるのがよいと思います。
なぜなら、あまり下げると雨水や土砂の流入の危険があり、覆工内でこれらが生じても
外部からは目視できないため、問題が進行してから気づくことになり、影響が大きくなる
恐れがあるためです。
積算上、円形覆工板より本格的な覆工のほうが安くなる事があります。ケーシング天端
を下げて、存置するケーシングを短くすればさらに経済的ですが、施工の安全性や工期の
短縮面からは、円形覆工板のほうが適しています。本格的な覆工で設計されていても、業
者が円形覆工板に変更するのはそのためです。
次回は、底盤コンクリートの漏水です。実は最近はじめて漏水事故に遭遇しましたので、
その体験から学んだことを報告します。
41
第21回 底盤コンクリートの漏水事故について
底盤コンクリートの漏水事故に初めて遭遇しました。
N 値0∼1の軟弱シルト質砂で地下水位が GL-1m 程度、ここに呼び径1500立坑深さ
3m前後の鋼製ケーシング立坑を構築する現場でした。
道路幅員が3m前後しかなく架空線もあることから、コウワ工法で石器江していただい
た現場でした。事前に地下水位が高く湧水も多いと聞いていましたので、十分な心構えで
臨んだのですが、最初の立坑では予想に反して掘削完了直前まで地下水が出ず、床付け間
近になってやっとちょろちょろと出はじめました。
このような事態はあらかじめ想定していましたから、給水車に水道水を満杯にして待機
させていました。床付け間近に、ケーシング内面の土羽を人力で掻き落とした後に、坑内
に水を張りました。厚さ1mの底盤コンクリートを打設することを考慮して、坑内水位は
GL−2m程度としました。
その後コンクリートミキサー車の到着を待って、底盤コンクリートをトレミー管で打設
しました。
レイタンス処理は、1∼2個所の立坑をまとめて、底盤コンクリート打設後1∼2日後
に行いました。この際にケーシングの縁から若干の漏水がみられる立坑がありましたので、
急結セメント等で止水をしました。
このような手順で立坑を構築していきました。最後の立坑のレイタンス処理の際に漏水
が起きました。最初は小指くらいの孔からちょろちょろと水が出ており、他の立坑と同様
に止水しようとしたのですが、他の立坑と異なり1個所を止めると、他の場所から漏水が
はじまり、これを繰り返すうちにモグラたたき状態になってしまいました。そこで、主な
孔をウエスでふさぎ、水を張って2∼3日養生してコンクリート強度が増すのを待つこと
にしました。水圧が水頭差で1m程度ですから、手で押さえれば水は容易に止まります。
従って、コンクリート強度が大きくなり、これ以上孔が広がらなければ、止水は容易だと
考えたのです。
立坑構築の作業員は次の現場に移動し、漏水対策は元請けの作業員で行うこととしまし
た。
しかし数日後、現場から「底盤コンクリートからの漏水が止まらないので、対策を考え
て欲しい。」との連絡を受けました。現場(元請)と私と施工業者との間で検討した結果、
当日たまたま他の立坑で坑口の薬液注入を施工中でしたので、問題の立坑の底盤注入をし
て止水することになりました。
現場からの電話連絡から20∼30分間での決定でした。原因の検討や費用負担より、
現場の安全を優先させたため、手早い対応がとれました。
数時間後現場に行くと、薬液注入の最中でした。その場で漏水状況を携帯で撮影した動
画を見せてもらいました。直径数cmの孔から土砂とともに地下水が流れ出ている状況で
した。漏水量はたいしたものではありませんでしたが、水とともに流出した土砂が底盤に
42
10∼20cm程度堆積していました。このまま放置すれば、流入土砂により立坑や周辺
の沈下の恐れがありました。
現場では、薬液注入を開始するところでした。薬液注入の効果を確実なものにするため、
坑内は排水され、漏水状況が再度目視できる状況でした。この時点では、漏水個所が2∼
3個所に分散しており、それぞれの個所での漏水量は動画で見たものよりは少なく、土砂
の量も少なく感じられました。
薬注は、ケーシングの外縁近くにロッドを下ろして、ゲルタイムを短く調整して行いま
した。注入開始から30分ほど経過すると薬注位置に近い漏水が徐々に止まり始めました。
そこでの漏水が完全に止まってからも若干の追加注入をしたのち、次の漏水個所の近くに
ロッドを下ろして同様に止水を行いました。
このように主な漏水個所と、そこにいたる水道を薬液で充填しましたが、完全止水には
至りませんでした。しかし、これ以上薬注を継続すると、ケーシングが薬注の圧力で変形
して、坑口改良の縁がきれてしまう恐れがあるため、底盤コンクリートの表面に新たなコ
ンクリートを増し打ちして補強する事にしました。というのも、この立坑は発進立坑であ
り、推進機の設置余裕のため、掘削深さや底盤コンクリート天端高さを 10cm 程度低く管理
しており、その分コンクリートの増し打ちが可能でした。また、レイタンス除去の際に、
コンクリート表面に硬化が不十分な個所があり、その分コンクリート天端が下がっていま
したので実際には10∼20cmの厚さで打設しました。さらに打設前には急結セメント
を大量に撒き、コンクリート強度が上がるようにしました。その後再度坑内に水を張り、
コンクリートを養生しました。
このような対策が功を奏し、湧水を止めることができました。
それでは、どうしてこの立坑だけが漏水したのでしょうか?
その考察は、次回行います。
43
第22回 底盤コンクリートの漏水とコンクリートの品質
これまで漏水は、鋼製ケーシング先端部に土砂が付着し、底盤コンクリートを打設して
もこの土砂部分が水道となって起きると考えていました。
もちろんこれも漏水の原因だと思いますが、今回の漏水は原因が異なると思います。
その理由は、冒頭の原因ならば漏水個所はケーシングとコンクリートとの間であるはず
ですが、今回の漏水は立坑中心近くからも起こっているからです。さらに、1個所を止水
すると、離れた場所から漏水がはじまり、それらがモグラたたきのようにあちこちに移動
したからです。
この現象から考えられることは、底盤コンクリート内部に多くの欠陥(水道)があると
いうことです。つまり、底盤コンクリートの品質に問題があるということです。そのため、
薬注でこれらの水道をふさぐ事により止水効果がありました。
以上が漏水現象から考察した原因ですが、施工状況からも検討します。
漏水した立坑の施工には立ち会っていませんでしたので、施工状況を確認したわけでは
ありません。しかし、作業員や元請けの職員の方の話でも他の立坑と変わったところはな
かったとのことですので、他の立坑の施工状況から考察します。
今回の現場は進入路が狭いことから小型のミキサー車で生コンを搬入しました。地元の
生コン業者には小型のミキサー車が無く、隣の市にある生コンプラントから運搬しました。
作業サイクルから、底盤コンクリート午後3時ごろの打設になることが多いのですが、事
前に時間指定しても生コンが現場に届くのは1時間程度遅れるのが常でした。そのため、
トレミー管で時間をかけて底盤コンクリートを打設しているとコンクリートの流動性が低
下して、シュートからトレミー管にコンクリートが流れていかない現象がみられました。
そのような場合には、人力でシュート上のコンクリートを掻き出すのですが、効率が悪く
さらに時間が経過し、ついにはシュート内でぱさぱさになってしまうことがありました。
そのため次回からはスランプをぎりぎりまで大きくして運搬しましたが、この運搬時間
の長さによるコンクリートの品質低下が疑われます。さらに、後半には現場の手待ちを減
らすため、若干早めにコンクリートを注文して、生コン車を待たせることもあったようで
す。これは、コンクリートの品質低下に拍車をかけた可能性があります。
ご存じのようにコンクリートは練ってから打設までの時間が長いほど品質が低下します。
また、鋼製ケーシング立坑の底盤コンクリートは薬注の代わりですから、構造物の場合と
違って、空気量やスランプなどの現場試験やサンプリングによる強度試験など施工時の品
質管理を行いません。そのため、打設時のコンクリートの品質は見た目と施工性で判断せ
ざるを得ません。
今回同じような施工をしながら1基だけが漏水したのは、微妙に品質が低下していたた
めだと思われます。それでは、これを防ぐ対策はどうでしょうか?薬注代わりの底盤コン
クリートでも構造物と同じような品質管理が必要なのでしょうか?
私は、不要だと思います。すべての鋼製ケーシング立坑でこれまでにない管理をする手
44
間よりも、数十個所に1回あるかなしかの漏水を補修する手間の方が少ないからです。
ただ、今回の教訓から構造物と同様に生コンの品質に気を配ることは重要だと思います。
生コンプラントからの輸送時間や現場での手待ち時間の管理、さらにはトレミー管による
打設方法の改善などに検討の余地があると思われます。
さらに、養生日数についても、地下水圧が高い場合には、コンクリートの強度が十分に
発揮されるよう2∼3日の養生日数を確保したほうがよいでしょう。
それでも、現状の施工システムでは底盤コンクリートと鋼製ケーシングとの間からの漏
水を完全止水することは困難です。底盤コンクリートが底盤改良の代用品であり、その程
度の品質管理しかされていない状況で完全止水を望むのは酷です。
大切なことは、有害な漏水を防ぐ事です。有害な漏水とはどのようなものでしょうか?
今回のように、漏水とともに土砂を吹き上げるもので、止水しても他の場所から同じよう
に漏水が始まるような場合です。
これが、底盤コンクリートが密実に固化していて、漏水個所がケーシングとの隙間に限
られているのでしたら、たとえ土砂を連行していても土砂の流入を止める程度の止水は、
容易です。
今回のように地下水圧が小さい(水頭差1m程度)では、漏水圧は100gf/cm2 にすぎ
ません。これが、水頭差5mであっても500gf/cm2 ですから指が数本入るほどの隙間で
あっても(断面積 10cm2 として)5kgf の重量で抑え込むことができます。蓋をしてうえに
人が乗れば十分な止水ができます。もちろん実際には人がずっと抑えているわけにはいき
ませんが、漏水部分の鋼製ケーシングに金具を点付け溶接して漏水している隙間にウエス
や止水モルタルを詰め込んでこの金具を蓋にすればその部分の漏水は止められます。
これは一例ですが、コンクリートの品質が良ければ、たとえ漏水があっても対策は容易
だと思われます。
底盤コンクリートの規格は、数年前に24−18−20N(25N)から30−8−20
(25)へ改訂になりました。この理由は、仮設といえども水中に打設するコンクリート
で品質を確保するには,富配合が必要だと言うことです。
今回の漏水事故は、私にとってはじめての経験であるとともに、底盤からの漏水に対す
る概念を変える出来事でした。
もちろんこれまでに書いてきたことは、たった一回の経験からの考察ですから、経験豊
富な方からすれば的外れな部分があるかもしれません。
底盤からの漏水問題は、小型立坑で最も多い問題だと思います。皆様の経験や対策があ
れば教えてください。
次回からは、コンクリート製立坑を取り上げます。
45
第23回 コンクリート製立坑は経済的
コウワ工法でコンクリート製(圧入構築式)を本格的に施工し始めたのは、平成18年
度の技術審査証明取得がきっかけです。
それまで、MMホールでコンクリート製立坑を構築していた中川ヒューム管工業と、コ
ウワ工法で主に鋼製ケーシング立坑を構築していた広和が、MMホールSという新しいコ
ンクリートブロックとその施工方法についての技術審査証明を取得したのです。
我々の想いは「経済的な立坑兼用マンホールを構築したい。
」ということでした。
それまでのMMホール(圧入構築式)や沈設立坑(沈下構築式)は、材料価格が高く、
施工コストも鋼製ケーシングと比べると高いものでした。従って、鋼製ケーシング立坑の
構築が困難な状況でしか使われませんでした。
しかし、
「鋼製ケーシングを仮設として存置するよりも、コンクリート製ブロックを本体
として利用する方が経済的でなければおかしい。
」との想いが我々にはありました。
そこで、コストカットを主目的に従来のMMホールを見直しました。その結果、躯体を
薄くして重量を軽減することで、材料費と施工費を低減することになりました。
また、製品の製造コスト削減のために、躯体の内外径を既存の組立マンホールと同じと
して、型枠などを兼用することにしました。
さらに、マンホール種別も1号、2号、3号の3つに絞り、MMホールでは1基のマン
ホールでも役割毎に異なっていた躯体形状を統一しました。
施工機械についても、鋼製ケーシングと兼用できるように、アタッチメント等はできる
だけ簡易なものにしました。MMホールでは一般に使われなかった円形覆工板も鋼製ケー
シング用をそのまま使用可能としました。
その他多くの工夫により、同じ用途の鋼製ケーシング立坑よりも経済的なコンクリート
製立坑を完成しました。
標準的な鋼製ケーシング立坑とコウワ工法により施工された鋼製ケーシング立坑および
コウワ工法により施工されたMMホールSの工事費は、コウワ工法技術協会ホームページ
の「レポート」に掲載されています。
ここでは、その中から抜粋して経済性を比較します。
MMホールSは1号∼3号(内径900∼1,500mm)ですから、立坑兼用といって
も到達立坑として使用することを想定しています。
「推進工法用設計積算要領
低耐荷力方式編」では、小型立坑の到達立坑寸法は、内径
1,500mm です。また、既設マンホール到達の場合は1号マンホールとされています。
そこでまず、呼び径1500の鋼製ケーシング(標準工法)と MM ホール S1号との工
事費を比較します。それぞれの積算条件は、ホームページをご覧ください。工事費に大き
な割合を占める鋼製ケーシングとコンクリート製ブロックの材料費は、鋼製ケーシングが
MM ホール S はメーカー価格を85%
建設物価調査会の調査価格を使用していることから、
したものを用いて比較しました。また、圧入機の損料も、MMホールSではコウワ工法機
の85%の価格を使いました。
46
鋼製ケーシング立坑呼び径1500とMMホールS1号との比較
(千円)
立坑深さ
3m
3.5m
4m
4.5m
5m
鋼製ケーシング
1,213
−
−
−
1,744
MMホールS
910
1,085
1,144
1,202
1,323
種別
鋼製ケーシング立坑とMMホールSの単純比較でも、約25%安くなります。鋼製ケー
シング立坑では、これにマンホール築造費を加えなければなりません。
さらにここでは、立坑深さを同じ条件で比較していますが、マンホールの底盤天端まで
の深さを3m確保するには、鋼製ケーシング立坑深さは約50cm深くしなければなりま
せん。これを考慮すると経済性はさらに大きな差になります。
次に、鋼製ケーシング立坑呼び径1800とMMホールS2号および鋼製ケーシング立
坑呼び径2000とMMホールS3号を比較します。
鋼製ケーシング立坑呼び径1800とMMホールS2号との比較
(千円)
立坑深さ
3m
3.5m
4m
4.5m
5m
鋼製ケーシング
1,356
−
−
−
1,944
MMホールS
1,314
1,480
1,568
1,730
1,816
種別
鋼製ケーシング立坑呼び径2000とMMホールS3号との比較
(千円)
立坑深さ
3m
3.5m
4m
4.5m
5m
鋼製ケーシング
1,524
−
−
−
2,084
MMホールS
1,873
1,991
2,099
2,316
2,434
種別
これらの比較は、到達立坑以外にマンホールポンプ室などの用途を想定しています。
鋼製ケーシング呼び径1800とMMホールS2号では、立坑のみでもMMホールSが
経済的です。鋼製ケーシング呼び径2000とMMホールS3号になって初めて、立坑の
みの比較では鋼製ケーシングのほうが経済的になりましたが、マンホール築造や立坑深さ
の差を考慮すればやはりMMホールSのほうが経済的です。
このようにMMホールSは開発当初から経済性を優先し、それを実現した材料です。
ただし、MMホールSは適用条件において、鋼製ケーシングやMMホールには及びませ
ん。適用条件を絞り込むことにより、経済性を向上させた訳です。従って、製品や施工の
品質はMMホールと同等であり、これが建設技術審査証明の取得につながりました。
次回は、コンクリート製の特長です。
(経済性ばかりではありません。
)
47
第24回 鋼製ケーシングとコンクリート製立坑(1)
鋼製ケーシングとコンクリート製立坑については、このホームページのレポートで、
「コウワ工法によるコンクリート製方式の検討」と題して比較表を掲載しています。
ここでは、コウワ工法に限定せずに鋼製ケーシングとコンクリート製立坑(沈下構築式お
よび圧入構築式)の3種類を比較します。
1.適用土質
適用土質のカタログ値は3種類とも同じで、以下の通りです。
土質名
適用範囲
砂質土
N≦50
粘性土
N≦30
礫質土
N≦50
備
考
礫径 200mm 以下
しかし、鋼製ケーシングは揺動方式が標準ですので、適用土質も揺動方式の数値です。
全周回転方式では、硬質土、岩盤、玉石・転石なども適用範囲です。
ただし、コンクリート製の値について私は若干の疑義を感じます。というのは、コンク
リート製でも圧入構築式は、鋼製ケーシングと同様に圧入機を使うため、材料の強度さえ
確保できれば同じような施工ができますが、圧入機を使用せず自重で沈下させるオープン
ケーソンタイプの沈下構築式では、硬質土へ適用は他の方式より格段に困難だからです。
私は小型立坑が実用化される前に、圧入ケーソンの開発、設計および施工に携わったこ
とがあります。10m×10mの矩形断面で、壁厚1mの現場打ちコンクリート製のケー
ソンを自重とアースアンカーによる反力により沈下させるものでした。埋立地で軟弱地盤
にも拘わらず、沈下に必要なアンカー力は数千tでした。
沈下構築式の立坑は円形で、直径や壁厚も当時のそれと比べれば1/10程度ですが、
その分自重も軽く使用するジャッキは20tが3基のみです。これで、N値50近い地盤
に刃先を貫入させることは非常に困難だと思います。
さらに沈下構築式の施工も何度か見ましたが、いずれの場合も、沈下が困難になると人
間が立坑内に入って刃先付近を掘削していました。このような経験から、地下水位が高く
内部で人力掘削が不可能な場合、沈下構築式では硬質土での施工は困難だと思われます。
2.浮上の検討
立坑完成時の重量バランスを考えます。
(試算例)立坑深5m、地下水位GL−1m、呼び径2000(コンクリート製内径2m)
鋼製ケーシング立坑重量(Ws)=鋼製ケーシング単位重量(ws)×ケーシング長(L)
+底盤コンクリート重量(wc1)
=0.6×5.3+2.0×2.0×3.14/4×1.0×2.4
=10.7 (t)
鋼製ケーシングへの浮力(Us)=地下水位以下の立坑容積(Vs)×1.0
=2.0×2.0×3.14/4×(6.0−1.0)×1.0
=15.7 (t)
48
コンクリート製重量(Wc):壁厚 175mm(立坑全長をブロックとして近似)
=ブロック重量+底盤コンクリート重量(厚さ 95cm)
=(2.35×2.35−2.0×2.0)×3.14/4×5.0×2.4
+2.35×2.35×3.14/4×0.95×2.4
=24.2 (t)
コンクリート製への浮力(Uc)=2.35×2.35×3.14/4×(6.0−1.0)×1.0
=21.6 (t)
従って、Ws<<Us および W c≧Uc の関係になり、鋼製ケーシングでは周面摩擦抵抗が
なければ浮上しますが、コンクリート製は自重のみで安全です。
3.マンホール築造後の沈下の検討
マンホール築造後の沈下については、地盤の支持力や圧密沈下などさまざまな視点から
の検討が必要ですが、ここでは元の土と構造物の重量比較により検討します。
また、マンホールは壁厚一定の円筒形構造物として近似します。
土質は軟弱粘性土を想定し、地下水の影響は考慮しません。
(試算例)立坑深5m、鋼製ケーシング呼び径2000+組立マンホール1号
コンクリート製(内径2m)
立坑の容積(Vs1)=2.0×2.0×3.14/4×(5.0+1.0)=18.8 (m3)
元の土の重量(W0)=18.8×1.6=30.1 (t)
鋼製ケーシング立坑重量(Ws)=10.7 (t)
組立マンホール重量(W11)=(1.05×1.05−0.9×0.9)×3.14/4×5.0×2.4
=2.8 (t)
埋戻材(流動化処理土:W12)=(2.0×2.0-1.05×1.05)×3.14/4×5.0×2.0
=22.7 (t)
立坑+マンホールの重量(W1)=Ws+W11+W12
=10.7+2.8+22.7
=36.2 (t)
よって、立坑+マンホールの重量(=36.2 t)は、元の土の重量(=30.1 t)より大き
く、正規圧密粘土などの軟弱地盤では沈下の危険があります。
一方コンクリート製では、
立坑の容積(Vs2)=2.0×2.0×3.14/4×(5.0+1.0)=18.8 (m3)
元の土の重量(W0)=18.8×1.6=30.1 (t)
コンクリート製重量(Wc)=(2.35×2.35−2.0×2.0)×3.14/4×5.0×2.4
+2.35×2.35×3.14/4×0.95×2.4
=24.2 (t)
コンクリート製重量(=24.2 t)は、元の土の重量(=30.1 t)より小さく、重量バラ
ンスで考えると、コンクリート製のほうが軟弱地盤での沈下の危険は小さいといえます。
次回も引き続き鋼製ケーシングとコンクリート製を比較します。
49
第25回 鋼製ケーシングとコンクリート製立坑(2)
1.液状化によるマンホールの浮上
近年、地震時の液状化現象によるマンホールの浮上が大きな問題となっています。これ
が起こると、管路が使えなくなるばかりではなく、道路上に頭を出したマンホールにより
通行が阻害され、緊急車両が現場に到着できず人命にも関わるからです。
この現象は主に開削で築造されたマンホールで生じます。原因は埋戻土です。通常、埋
戻しには山砂などが使われますが、この締め固めが不十分で地下水位が高いときには、液
状化の条件を満たしてしまいます。
そのため、幹線道路などでは埋戻しに砕石や流動化処理土などを使って、液状化による
マンホールの浮上対策を行うことがあります。また、浮上しにくい構造のマンホールが数
多く提案されています。
鋼製ケーシング内にマンホールを築造する場合も、開削工事ですから同様の対策が必要
です。鋼製ケーシングとマンホールの間は狭く転圧は非常に困難ですし、ケーシング内に
たまった水は排水されないので、一般の開削工事よりも浮上の危険性は大きいといえます。
一方、コンクリート製では埋戻しが不要ですから、地山が液状化しなければこれに伴う
マンホールの浮上もありません。
2.耐震継手について
地震対策として管渠とマンホールとの耐震継手があります。塩ビ管の場合、塩化ビニル
管・継手協会から耐震計算方法が提案され、その結果から必要な耐震継手性能が決まりま
す。しかし、この計算方法は管渠が継手部分で可動するのが前提です。
鋼製ケーシングでは、前述のように転圧が困難なため流動化処理土などが埋戻材として
使用されます。これは固化して管渠を拘束してしまいます。そのため、耐震継手を使用す
る場合には、管渠が可動できるように埋戻材との間に遮断層を作らなければなりません。
埋戻しが不要なコンクリート製では、耐震継手の効果を阻害するものはありません。薬
液注入で坑口部分が地盤改良された場合でも、その効果は短期間であり供用開始時点では
地山に近い状態にもどっていると考えられます。
3.流入管(後施工)について
鋼製ケーシング立坑でよく問題となるのは、後施工で流入管を接続する際の困難さです。
特に推進工法でマンホール到達させる場合、存置されている鋼製ケーシングの処理が問題
です。推進距離が短ければ、削進工法で鋼管とマンホールを切削して到達させることが可
能ですが、距離が長いとこの方法は使えません。
その場合には、マンホール躯体と埋戻材を内部から大きく削孔し、あらかじめ外部を地
盤改良した鋼管を切断撤去し、到達坑口を設置して到達させます。そのための削孔径は、
通常のマンホール到達より大きくなります。さらに到達後の管渠周囲の遮断層や外側の埋
戻しも再度行わなければなりません。
将来の流入管が予想される場合、流入位置が分かっていれば、あらかじめ鋼管に孔を空
けておいて、ビットで切削可能な材料で塞いでおけば良いのですが、そうでなければ、コ
50
ンクリート製を採用して、通常のマンホール到達を行う方が費用、手間およびお安全性か
ら有利だと思います。
4.立坑専用幅(面積)
コンクリート製の採用理由として多いのが、地下埋設物位置の関係から立坑専用幅が確
保できないからということです。
塩ビ管推進での最小立坑は、呼び径1500(外径1,524mm)です。一方、マンホ
ール到達では1号マンホール(外径1,050mm)です。この50cm の差が工法選定の決
定要因となります。
5.発生土、レイタンスの量
第23回の経済比較では、発生土やレイタンス(産業廃棄物)の処理については除外し
ましたが、同じ用途の鋼製ケーシング(呼び径1500)とコンクリート製(1号マンホ
ール)では、それらの量が2倍程度異なります。特に、コンクリート製沈下構築式では、
底盤コンクリートを打設せず底盤ブロックを使用するためレイタンスが発生しません。
これは、鋼製ケーシングにも応用可能だと思いますが、現状ではコンクリート製沈下構築
式のみの特長です。
前々回から、鋼製ケーシングに対するコンクリート製のすぐれた特性について述べてき
ました。
しかし実績は、鋼製ケーシングが年間2万基に対して、コンクリート製は圧入構築式と
沈下構築式をあわせても千基に足りません。何故なのでしょうか?
次回は、その理由を考察してみます。
51
第26回 コンクリート製立坑は何故使われない?(1)
これまで述べてきたように、コンクリート製立坑兼用マンホールは鋼製ケーシング立坑
と比べて多くの利点があります。それでも、実績は鋼製ケーシングの1/10にもなりま
せん。コンクリート製立坑は何故使われないのでしょうか?
それには多くの理由が考えられます。ここでは、それらについて検証してみます。
1.工法(業者)が少ない
コンクリート製の工法としては、圧入構築式の MM ホール(MM ホール S)と沈下構築
式の沈設立坑がよく知られています。それ以外にも、ケコム工法では「CCB−ケコム・
エース工法」「ケコムセグメント工法」として、コンクリート製あるいはコンクリート+鋼
製のブロックを圧入する工法を行っています。また、佐賀地方では「Vホール」の名称で
マンホールを回転圧入する工法があります。
これらの詳細はここでは省きますが、コンクリート製の構造物を立坑兼用マンホールと
して利用する点では共通しています。
しかし、それらはいずれも施工業者が1∼3社程度であり、鋼製ケーシングと比較する
と数がきわめて少ない状況です。
なぜ、施工業者が少ないのでしょうか?これまで私が関係したアート工法とコウワ工法
の場合について理由を考えます。
第一の理由は、コンクリート製ブロックの取り扱いの難しさです。両工法では同じ機械
(業者)で鋼製ケーシングとコンクリート製の両方を施工できます。しかし、軽量で使い
勝手がよく土質変化への対応が簡単な鋼製ケーシングに比べて、重く破損しやすいコンク
リート製は敬遠されがちです。
第二の理由は、施工精度、品質確保の困難さです。仮設構造物である鋼製ケーシング立
坑は、施工精度を要求されません。管理基準もありません。一方本設であるマンホールを
兼ねるコンクリート製では施工精度が要求されます。開削の場合にはmm単位での精度管
理が可能ですが、圧入構築式では不可能で3∼5cm の誤差を許容範囲としています。それ
でも、鋼製ケーシングよりは、遙かに厳しい値です。
さらに底盤コンクリートについても、鋼製ケーシングでは立坑としての機能に影響を及
ぼさない範囲での漏水は許容されますが、マンホールとしてのコンクリート製では完全止
水が要求されます。これには、底盤コンクリートの後施工で二次コンクリートを施工する
ことで対応することもあります。
第三の理由は、仕事量の少なさです。これは「卵が先か鶏が先か」の議論になりますが、
大きな理由です。
第四の理由は、
(これが最も大きな理由かもしれませんが)業者にとって利益が少ないと
いう事です。
小型立坑は工事費にしめる材料費の割合が高いのですが、コンクリート製は特にその傾
向が著しく、MMホールSの場合で直接工事費の50%はコンクリートブロックの材料費
です。底盤コンクリートその他を加えれば、60∼70%が材料費です。また、コンクリ
ートブロックはメーカーが独占的に供給しますので、値引きも鋼製ケーシングより小さく
なります。
52
以上が、施工業者が少ない原因だと思われます。
2.「下水道設計基準」(国土交通省監修)に未記載
下水道の新工法が標準工法として認められる関門が、「下水道設計基準」への記載です。
鋼製ケーシングも平成15年に記載されたことをきっかけに、大きく実績を伸ばしました。
これも「卵が先か鶏が先か」になりますが、「下水道設計基準」に記載されるにはある程
度の実績が必要です。鋼製ケーシングの場合、当時すでに10,000基/年程度の実績
がありました。現在のコンクリート製の10倍以上です。その意味では、まず実績をのば
すことが先決だといえます。
3.「推進工法用設計積算要領」
(推進協会)記載内容
鋼製ケーシングは、1984年の登場から約10年間で1,000基/年になりました。
それが大きく伸びた理由は、第一に1990年代半ばに複数の工法と多くの施工業者が登
場したこと、第二に1999年にそれらが標準化され「推進工法用設計積算要領」(推進協
会)に記載されたこと、第三が前述の「下水道工事積算基準」に記載されたことです。
「推進工法用設計積算要領」記載の前後で、5,000基/年から10,000基/年
に急増しました。
コンクリート製は、1999年に鋼製ケーシングとともに記載されましたが、最初は参
考扱いでした。その後の改訂で現在は同等に扱われていますが、記載内容が鋼製ケーシン
グとは異なります。
「推進工法用設計積算要領」では、「推進用立坑は、発進立坑で内径 2,000mm、到達立
」という原則があります。これは、推進設備や作業の安
坑で内径 1,500mm を最小とする。
全性などを考慮して推進協会が定めた値です。
しかし、小口径管推進工法(特に低耐荷力方式)の多くは、内径 2,000mm 未満の立坑か
ら発進可能ですし、1号マンホールへの到達も可能です。既設マンホール到達については、
「推進工法用設計積算要領」低耐荷力方式編で日進量を規定しているなど推進協会でも認
知されています。
そのため、2008年改訂版からは、「到達人孔として使用できる内径 900mm および
1,200mm のコンクリート製ブロックがある。」との文章が挿入されましたが、歩掛や代価
などが記載されていませんので、実質的には未採用です。
推進用立坑兼用マンホールの実績は、
内径 900mm と 1,200mm が大部分を占めています。
それらが、
「推進工法用設計積算要領」に未採用なことが普及にブレーキを掛けているとい
えます。
以上供給側や積算基準についての理由を述べてきましたが、技術面や適用性についても
鋼製ケーシングとは異なる問題が残っています。次回はそれらについて考えます。
53
第27回 コンクリート製立坑は何故使われない?(2)
コンクリート製立坑が使われない理由には、技術面や適用性についてのものがあります。
それらについて検証してみます。
2.既設マンホール到達の問題点
コンクリート製立坑に限らず、既設マンホール到達に共通した問題があります。
(1)止水について
地下水位以下のマンホール到達では、立坑到達と同様に止水器を用います。マンホー
ルの内側に設置して、坑口薬注をしたのち到達部分の躯体を人力ではつります。最後に
止水ゴムを設置して到達坑口の完成です。
到達作業は立坑の場合と同様に行います。
問題は到達後の止水器撤去です。立坑の場合には、止水器を存置するのが一般的です。
しかし、マンホール到達の場合には、止水器撤去後に管口仕上げ(場合によっては耐
震坑口設置)を行わなければなりません。この間の止水が問題です。坑口薬注していて
も、推進先導体(一般に推進管外径より大きい)の通過により塩ビ管の周囲には水道が
できていますから、止水器を取り外すと地下水がここからマンホール内に流入します。
そこで、地下水位の高い帯水砂層では止水器を取り外すための二次注入を行う必要が
あります。しかし、その費用を設計で見て頂けるケースはほとんど無いため、費用を負
担する業者側では既設マンホール到達をいやがる傾向があります。
(2)推進工事費の増加
日本下水道管渠推進技術協会の設計積算要領では、低耐荷力方式圧入二工程式の日進
量を立坑到達と既設マンホール到達で分けており、後者を30%程度低減しています。
これは、立坑よりマンホールの作業空間が狭いため、誘導管の回収作業が困難となり、
全体の推進作業にも影響するとの考え方によります。
低耐荷力方式では、一般的に圧入二工程式が最も経済的ですが、既設マンホール到達
では、日進量の低減によりオーガ方式より高くなってしまいます。言い換えれば、マン
ホール到達では推進の工事費が立坑到達より高くなるということです。
立坑を構築しなくても良いマンホール到達の経済的なメリットが推進工で失われてし
まいます。
3.円形覆工板の利用について
前述の設計積算要領では、鋼製ケーシング立坑が円形覆工板であるのに、コンクリート
製小型立坑は沈下構築式、圧入構築式ともに本格覆工です。
鋼製ケーシングが普及している要因の一つに円形覆工板が利用できることがありますが、
コンクリート製ではそれが利用できません。
本格覆工では専用面積が大きくなり、コンクリート製立坑のメリットの一つが損なわれて
しまいます。
3.底盤の完全止水
前号でも述べましたが、仮設構造である鋼製ケーシング立坑では許容されるような漏水
54
でも本体構造物であるコンクリート製では許されません。
底盤コンクリートだけで完全止水を行うことは困難です。そこで、ドライな状態で二次
コンクリートを打設します。しかし、現場打コンクリートを2回施工し、さらにインバー
トコンクリートを施工するのは無駄が多いと思われます。
また、底盤コンクリートを2回打ちするのに、途中でレイタンス処理する為のバキュー
ム作業をすることにも無駄を感じます。
以上、3点問題点を挙げましたが、それぞれに対策があります。
1.既設マンホール到達
(1)止水について
業者がわからすれば、二次注入の費用を設計で見ていただくのが最良ですが、わずか
な水道を閉塞させるだけでしたら、マンホール内からの薬液注入方法を考えるべきだと
思います。MMホールには坑口に注入用の孔があったように思うのですが、マンホール
内から注入する簡易な器具の開発はされていないようです。
なお、粘性土や地下水位の低い砂質土では、止水の問題はありません。
(2)推進工事費
日本下水道管渠推進技術協会では、設計積算要領低耐荷力方式編の見直し中です。
そこで、圧入二工程式のマンホール到達における日進量の低減も見直しされています。
というのも、この低減は国交省の下水道工事積算基準や主な工法協会の積算資料にも無
いからです。この設計積算要領は、今年3月末の発行にむけて作業中です。
立坑とマンホール到達での日進量の差がなくなれば、経済的なマンホール到達のメリ
ットが出てくると思われます。
2.円形覆工板の利用について
設計積算要領では、2008年改訂版からコンクリート製圧入構築式で浅型が記載され
ました。これは、MMホールSの名称でMMホールの中川ヒューム管工業とコウワ工法の
広和が共同で技術審査証明を取得した材料です。その施工では、まず鋼製ケーシング(L
=1m)を設置して、その中からMMホールSを回転圧入します。
この方法によれば、鋼製ケーシングで使用する円形覆工板をそのまま利用できます。従
来からあるMMホールでも同じ施工方法ができますから、円形覆工板の利用の問題は解決
できます。
3.底盤の完全止水
こちらは、コンクリート製沈下構築式で新たな動きがあります。設計積算要領2008
年改訂版では、それまでの底盤コンクリートからプレキャストの底盤ブロックに全面変更
しました。これにより、レイタンス処理は不要になりました。二次コンクリートは従来通
り施工しますが、こちらもインバートコンクリートと兼用するなどの方法が考えられます。
圧入構築式では、従来から二次コンクリートはインバートコンクリートと兼用で考えて
いるようです。いずれにしても、完全止水できれば問題はなく、今後の実績によりどちら
かに落ち着くと思います。
これらの対策を講じ、適用土質を吟味すればコンクリート製マンホール兼用立坑をもっ
と積極的に採用してもよいのではないでしょうか?
55
第28回 コンクリート製立坑拡大のためには?
これまではコンクリート製立坑の利点と問題点について述べてきましたが、ここではも
っと使われるための具体的な方法について考えてみます。
ここでもう一度鋼製ケーシングとコンクリート製との違いを考えましょう。新たに指摘
したいのは、開発主体の違いです。
鋼製ケーシングの各工法は、機械メーカーと施工業者が主体となって開発されました。
一方、コンクリート製は材料メーカーが主体となって開発され、普及にあたる工法協会も
開発した材料メーカーを中心に活動しています。
これにより、製品としての品質管理は容易ですが、施工者にとっては自由度が少なく、
面倒な工法となっています。26回で述べたように材料メーカーも独占体制であり、価格
決定権も材料メーカーにあります。そのために製品は高品質高価格になっています。
ぶっちゃけた言葉で言えば施工業者にとって「おいしくない」工法なのです。
高価格高品質の例を2つ挙げます。
第一は圧入構築式の例です。この方式は事実上MMホールを指します。コンクリート製
ブロックを回転圧入するためには、躯体の強度が必要です。そのため、開削用の組立マン
ホールより躯体が厚く配筋も多くなっていました。
数年前、コウワ工法でたまたまMMホール1号を施工する機会がありました。その時の
経験から「土質を限定して、施工方法を工夫すれば躯体の厚さはもっと薄くできる。
」との
確信を得ました。そこで中川ヒューム管工業と共同で開発したのがMMホールSです。こ
れは、
(財)下水道新技術推進機構から建設技術審査証明を取得しました。
材料メーカーの立場からすれば、躯体強度を小さくするのは施工中の破損に対するリス
クが大きくなり、価格が下げることは売上数量が増えなければ自分たちの首を絞めること
になります。しかし、施工者の立場からすれば重量が小さくなることで施工性が向上し、
材料費を低減できるメリットは大きく、そのために費用や労力をつかうことはやぶさかで
ないとの思いがありました。
結果として、まだ売上の飛躍的な増加にはつながっていませんが、コウワ工法でコンク
リート製が施工できることにより適用範囲が広がり、今後の売上増に寄与できると思って
います。
第二は沈下構築式の例です。10年ほど前「アート工法によるMMホールの施工」につ
いて発表するため台北に行ったことがありました。そこで、沈下構築式(沈設立坑)が広
く使われていることを知りました。さらに市内を歩いていると沈設立坑の現場に2個所遭
遇しました。
あとで聞いたところでは、日本のメーカーからライセンスを供与されて施工していると
のことでした。材料は、現地で製作しているとのことでしたが、日本の製品とは全く違っ
ていました。表面はあばたが出ており、色もくすんでいて「これで大丈夫なのだろうか」
と心配になるほどでした。
しかし後で考えれば、「日本の製品のほうが過剰品質ではないだろうか?」という疑問が
湧きました。
56
なぜなら、沈下構築式では躯体の回転力が作用するわけではなく、自重と補助的な押し込
み力で沈下させますから躯体には圧縮応力が若干発生するだけです。完成後には土圧、水
圧に耐えれば良いわけです。現場打ちのマンホールでは無筋あるいは有筋でも配筋量は小
さく、プレキャストの組立マンホールは沈下構築式の躯体よりは遙かに薄いものです。
極論すれば、
「組立マンホールをそのままでも使えるのではないか?」とも言えます。少
なくとも回転圧入するMMホールやMMホールSよりは低耐荷力でも良いと思います。
ただし、こちらも材料メーカーの立場では手をつけたくないところでしょう。沈設立坑
の施工業者から改善の声があがることを期待します。それが工事費の低減になり、シェア
の拡大につながると思います。
また、そうしなければ、安価な材料を沈下構築する工法が出現しないとも限りません。
たとえば内径 2000mm の立坑でしたら、鉄筋コンクリート製の現場打ち躯体を沈下させて
立坑として利用し、その中に組立マンホールを築造するほうが経済的ではないかと思われ
ます。施工期間を短縮するのでしたら、別な場所で分割製造した躯体を立坑位置で組み立
てることも考えられます。
かなり乱暴なことを書きましたが、沈下構築式のメリットを十分に生かすためには、躯
体を仮設構造物と割り切って、低価格なものとすることも有効だと思います。しかし、こ
れは、材料メーカーではまず不可能な話でしょう。
ここでの結論としては、コンクリート製拡大の一つの方法として、製品価格の低減が有
効であり、圧入構築式が先行したが今後の可能性としては沈下構築式が有望だと言うこと
です。
本連載も28回を数えましたが、協会業務が多忙となったため、一時お休みします。
次回は4月から再開する予定です。
57
第29回 引き上げないのがお得?
「コウワ工法は、ケーシングを引き上げないため、他より高い工法です。
」私がコウワ工
法のご紹介をする場合、必ずお話しすることです。
鋼製ケーシング立坑の標準的な施工方法は、ケーシングの圧入掘削の際に水を張り、圧
入掘削完了後に底盤コンクリートを打設し、すぐにケーシングを 0.9m∼1.2m引き上げ留
というものです。これにより、底盤コンクリートと地山が密着して安定した構造物になる
というのが一般的な考え方です。底盤コンクリートの詳細については本連載の第6回∼第
10回でとりあげましたから、そちらを参照してください。
一方、コウワ工法は「ケーシングを引き上げないことにより、機械の小型化や他工法で
は施工が困難な狭隘な場所でも抜群の機動性を発揮できます。」というものです。
ところが他工法の業者さん(複数)から、
「ケーシングを引き上げない施工をしている。
」
とのお話を伺いました。
「引き上げないほうが得」だというのです。
実は、コウワ工法の実施例の多くも、ケーシングを引き上げる標準設計を施工承認で引
き上げない施工に替えたものです。価格競争で受注しているものです。
「引き上げないのがお得」な理由について考えてみます。
(1)底盤コンクリートの漏水事故が少ない
他工法のある業者さんは、
「引き上げない施工を行うようになってから漏水事故が激減し
た。」と言っていました。ちなみにこの業者さんは、引き上げない施工を基本としているそ
うです。
ケーシングを引き上げて、底盤コンクリートに 30cm∼50cm しか根入れがないよりも、
ケーシングを引き上げずに、底盤コンクリート全面がケーシング内面に接している方が止
水効果があるのは自明の理です。
(2)施工時のケーシング沈下がない
ケーシング引き上げ直後は、刃先がまだ固まっていないコンクリートに根入れしている
状態ですから、沈下することがあります。これを防ぐためにケーシング天端を地表に固定
するなどの対策を講じますが、これが結構手間と費用のかかる作業です。
ケーシングを引き上げなければ、先端は地山に 20cm 根入れされた状態であり、その部分
の地山はケーシング先端で圧密されているため支持力が大きく、沈下のおそれはほとんど
ありません。
(3)圧入機が効率的に使える
これが最大の理由だと思います。
具体的な例で説明します。
呼び径2000,立坑深さ5m、普通土の場合の作業フローです。
(圧入機設置)
(圧入掘削積込)
(ケーシング接合溶接)
必要回数分繰り返す
(底盤コンクリート打設)
58
(次工程へ)
それぞれの、所要時間を積算基準の歩掛などから算出します。
(圧入機設置)
8×0.33/2
=1.3 時間
(圧入掘削積込)
5×0.9
=4.5 時間
(ケーシング接合溶接)8×0.23/10×6.3=1.2 時間
ここまでで7時間です。実働8時間として、この後の圧入機退避時間を加えれば1日目
はここまでです。2日目に、圧入機を再設置、底盤コンクリート打設、ケーシング引き上
げ、仮設ケーシング撤去、圧入機撤去などの作業が残ります。
ケーシングを引き上げない場合は、どこが異なるのでしょうか?
最終ケーシングの圧入直後に、圧入機を次の立坑(あるいは現場)に移動できるのです。
最終ケーシング(L=2.5m)圧入時間を 0.2 時間とすると作業時間は、以下のようになり
ます。
(圧入機設置)
8×0.33/2
=1.3 時間
(圧入掘削積込)
2.5×0.9
=2.3 時間
(ケーシング接合溶接)8×0.23/10×6.3 =1.2 時間
(圧入機撤去)
8×0.33/2
=1.3 時間
ここまでで 6.6 時間です。残った時間で最終掘削を継続することも可能です。2日目には、
最終掘削の一部と底盤コンクリート打設が残りますが、ケーシング引き上げ、仮設ケーシ
ング撤去はありません。また、他の立坑(現場)で、圧入機設置から圧入掘削積込以降の
作業を平行して行うことが可能です。
これが、標準工法でもケーシングを引き上げない最大の理由ですし、コウワ工法でも標
準工法と価格競争が可能な理由です。
ただし、ここで申し上げておかなければならないのは、(3)が成り立つのはレアケース
だということです。価格競争で有利になる最大の要素は運搬費です。つまり、コウワ工法
の業者が価格競争で標準設計に勝てるのは、運搬費が安くて済む地元の工事であり、かつ
立坑規模や土質条件などが合致した場合だけだと言うことです。
一般的には、ケーシングを引き上げないコウワ工法は、引き上げる他工法に比べて施工
費も高く、狭隘な場所で機動的に施工可能な付加価値によって採用されるのが大部分です。
今回は、引き上げることが可能な工法でも、引き上げない施工をする業者さんがいるこ
と、条件によっては引き上げない施工を選択する業者さんがおられることを紹介しました。
次回は、鋼製ケーシングの揺動圧入と回転圧入について考えます。
59
第30回 揺動と回転、2つの圧入方式
小型立坑の分類です。
鋼
製 方 式
小型立坑
ケ−シング式
沈下構築式
コンクリ−ト製方式
圧入構築式
ここで、鋼製方式がケーシング式に一本化されていることには、異論があります。
この分類は、
「推進工法用設計積算要領 推進工法用立坑編」に小型立坑が初めて掲載さ
れた平成10年に作成されたものです。それまで工法毎にバラバラだった設計積算方法を
一本化し、簡略化することにより、需要を拡大することをめざしました。その目的は十分
に達成され、年間数千基にすぎなかった実績が、現在は20,000基以上に増えました。
しかし、12年が経過した現状では問題があります。それは、揺動と回転という2つの
方式の分類がなされていない。というより、回転方式が無視されているということです。
平成10年当時は、揺動全盛でした。回転方式の先駆けであるアート工法が実用化され
たのが平成8年、設計積算要領の改定作業が始まったのが平成9年ですから、回転方式は
まだ世間から十分に認知されていませんでした。そこで設計積算要領も、揺動方式を中心
にまとめられました。
それ以降、設計積算要領は何度も改定されてきました。現在は2008年度版が最新で
すが、2011年度には新たな改訂版を発行する予定です。
この間、変わらない部分があります。それは適用土質で、以下のように記述されていま
す。(鋼製、コンクリート製とも、適用範囲は同じです。
)
「適用土質は、概ねN値は 30 以下の粘性土、50 以下の砂質土および礫質土(礫径 200mm
以下)とし、それ以外の場合は別途考慮する。
」
これは、揺動方式の適用土質です。「別途考慮する。」
「それ以外の場合」が回転方式を指
していると思われますが、具体的な記述はありません。
しかし、アート工法の登場以後それまで揺動方式であったケコム工法、エルモール工法
が相次いで回転方式の機械を投入し、新しい回転方式であるコウワ工法も登場しました。
現在、推進協会に所属する工法で揺動方式だけなのはPIT工法とレボ工法のみです。
揺動方式と回転方式は異なる工法と考えてもよいほど違っています。まず適用土質です。
回転方式では、N値50以上の硬質土、固結土、φ200mm 超の玉石や転石、岩盤まで
適用可能です。
(機械の仕様・性能によって適用範囲は異なります。
)
次に、適用材料です。揺動方式は鋼製のみですが、回転方式はコンクリート製にも適用
できます。
3番目は、周辺への影響です。揺動方式では振動が発生します。また、立坑周囲の地山
を緩めたり沈下を生じさせたりしますが。回転方式ではそれらはほとんど生じません。
相違点は多くありますが、詳細は次回にゆずるとして、設計積算上で重要なことは、圧
入機械の基礎価格が異なることです。機能的に優れている回転方式の機械のほうが、揺動
60
方式より基礎価格が高くなります。
現在、設計積算で使用されている基礎価格は、建設物価調査会あるいは経済調査会が掲
載している市場価格です。これがどの工法の機械かは不明ですが、回転方式の機械として
は価格が安すぎます。設計積算要領の適用条件下での基礎価格だとすれば、揺動方式で最
安の機械の価格だと思われます。
設計者の皆さんが適用条件から回転方式を採用された場合、建設物価調査会あるいは経
済調査会の基礎価格を積算に使うと過小な金額になってしまいます。
それを防ぐためにも、鋼製を揺動と回転を別々な方式として分類する必要があると思わ
れます。推進協会では設計積算要領の改定作業中です。そこでは、このことも議題に上が
っていますので、来年4月発行予定の改訂版では、それが実現しているかもしれません。
次回は、揺動と回転について、詳しく検証します。
61