県産食材に含まれるメラニン産生調節因子の探索

[普及事項]
新技術名:県産食材に含まれるメラニン産生調節因子の探索(平成11∼13年)
−鹿角霊芝由来の美白因子−
研究機関名
担 当 者
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総合食品研究所 生物機能部門
畠 恵司
[要約]
鹿角霊芝 (Ganoderma lucidum) メタノール抽出物よりシミ、ソバカス予防の美白成分とし
て ergosterol peroxide を得た。Ergosterol peroxide はキノコの主要成分である ergo-sterol
( ビタミン D2 の前駆体 )であり、市販の美白成分であるアルブチンより低濃度でメラニン生産
を抑制した。
[ねらい]
メラノサイトは、眼球・毛根部・皮膚などに存在している細胞で、それが産生するメラニンと呼ば
れる色素が黒色や肌色を司っている。メラニン色素の産生を抑制することは、すなわち肌の色素が減
少することであり、アルブチンなどの色素産生抑制活性を有する成分を配合したものが「美白」効果
を謳った化粧品として、近年大きな市場を獲得している。
我々は、食材の多様な生理活性を探索する観点から、メラノサイト細胞によるメラニン生産を評価
するいくつかの系を構築し、本県産食材に含まれるメラニン産生の制御因子の探索を行ってきた。そ
の過程で「美白」とは逆、すなわち抗白髪やタンニング(日焼け)促進につながるメラニン産生促進
活性を有するlupane骨格を有するトリテルペン化合物群を見出し、構造と活性に関して興味深い知見
を得た 1 , 2 ) 。
本稿では、メラニン色素の産生を抑制する美白因子の探索研究の中で見出された、鹿角霊芝(Ganod
erma lucidum )由来の活性物質について紹介する。
[技術の内容・特徴]
市販のB16 黒色腫細胞より、高メラニン色素生産株 B16 10F7 細胞を単離3 ) することに成功し、メ
ラニン色素産生抑制の評価系を構築した。この評価系を用い、県内に自生あるいは生産されている植
物、海藻、キノコ類などについてスクリーニングを行った。
その結果、近年(株)坂本バイオによって栽培技術が確立された鹿角霊芝のメタノール抽出物に、
顕著な活性が認められた 4 ) 。そこで、同活性を指標として活性物質を単離してその化学構造を解析し
たところ、Fig. 1に示したビタミンD2 の前駆物質であるergosterol (1 )と同じ骨格を有するergoster
ol peroxide (2 )であることが判明した 5 ) 。化合物 2 は、Fig. 2および3-Bに示すようにB16 10F7 細胞
によるメラニン生産を、細胞毒性が現れない 2 mg/mlの低濃度でほぼ完全に抑制した。加えて、化合
物 1 では同じ濃度域で活性が認められなかった(Fig. 3-A)ことは、活性の発現にB環5, 8位間のペルオ
キシ構造が関与していることが推測され興味深い。
以上、アルブチンと比較しても 2 は低濃度で活性を示す 3 , 5 ) ことから、 2 およびそれを含有する鹿角霊
芝などに、美白を目的とした化粧品素材としての展開が期待される。
[普及対象範囲]
鹿角霊芝の応用用途(化粧品・健康食品)として大きな期待が持たれる。また、県産農水産物の高
付加価値、多用途化への先導的実例としても本研究を捉えることが可能である。
[普及・参考上の留意事項]
本研究の一部は 、(株)坂本バイオとの共同研究であり、本県と同社の共同による特許を出願 6 )して
いる。
[具体的なデータ等]
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H
H
H
HO
H
O
HO
O
1
2
Fig. 1 Ergosterol (1) 及 び ergosterolperoxide (2 )の化学構造
Fig.2 Ergosterol perxoide ( 2 µg/ml) 無 添 加 (A) 及 び 添 加 (B) 72 時 間 後 の B16 10F7 細 胞
80
6
60
4
40
2
20
0
0
Fig. 3
1
2
5
0
10 (µg/ml)
100
B
8
80
6
60
4
40
2
20
0
0
1
2
5
Melanin content (µg/106 cells)
8
10
Cell number (x 10 5 cells/ml)
100
A
Melanin content (µg/106 cells)
Cell number (x 105 cells/ml)
10
0
10 (µg/ml)
Ergosterol (1, A) 及び ergosterol peroxide (2, B)の B16 10F7細胞増殖並びにメラニン
合成に対する影響
B16 10F7 細胞を種々の濃度の 1及び 2で 72時間処理後、細胞数 (
) 及びメラニン含量 (
) を測定した .
[発表文献等]
1)HataK.etal., Biol. Pharm . Bull., 23, 962-967 (2000), 2) Hata K. et al., J . Nat. Prod. (2002)
in press, 3) Hata K. etal., Natl. Med., 54, 144-147 (2000), 4) Miura N., Res. Commun. Pharmacol.
Toxicol., 5 ,176-178 (2000), 5) 畠 ら. Natl. Med., 55, 304-307 (2001), 6) 特 開 2002-114685