close

Enter

Log in using OpenID

コミュニティの醸成に寄与する 女性起業家の新たなモデル

embedDownload
21 世紀社会デザイン研究 2015 No.14
コミュニティの醸成に寄与する
女性起業家の新たなモデル
The Capacity for Women Social Entrepreneurship
in a Thriving Community
服部 篤子
HATTORI Atsuko
1.はじめに──ハイブリッド組織の女性起業家
2015 年、女性活躍推進法が施行され、女性の社会進出が一層促進される中で、女性
の起業家への着目も高まってきた。就業構造基本調査によると、起業家に分類される
人々は、500 万人を超える。そのうち、女性は、2007(平成 19)年度調査で 106 万人、
2012(平成 24)年度調査で 92 万人に達する。もっとも、この数字は、女性の 15 歳以
上の労働力人口の 3%にすぎない(表 1)。
他方、1999 年より継続的に実施されてきた国際比較調査グローバル・アントレプ
レナーシップ・モニター(以下 GEM)では、日本の女性の起業活動率は、1.9%と推
計されている(1)。また、この GEM の 11 年分のデータを分析した報告書であるベン
チャーエンタープライズセンター(2014)によると、日本では、男性に比して女性の
起業活動率の低さの理由を、女性起業家のロールモデルがないこと、また、起業家に
求められる知識や経験、能力が不十分であることと、指摘している。
女性の起業家の実態は、近年の社会的企業やソーシャルビジネスに対する調査から
表 1 男女別起業者数と割合
15 歳以上
有業者総数
有業者の
男女比(%)
総数(平成 24 年) 64,420.7
起業者総数
(千人)
起業者の占め
起業者の
る割合(%) 男女比(%)
5,138.2
8.0
男
36,744.5
57
4,220.7
11.5
82
女
27,676.2
43
917.5
3.3
18
総数(平成 19 年)
65,977.5
5,909.7
9.0
男
38,174.8
58
4,846.7
12.7
82
女
27,802.7
42
1,063.1
3.8
18
出所:就業構造基本調査
—7—
も推測することができる。三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(2015)は、社会的
企業の経済規模を計ることに挑戦したものであるが、実施したアンケート調査の回答
者から、社会的企業の代表者の性別をみることができる。社会的企業を営利法人で運
営している場合、その女性比率が 10%に対して、非営利法人の女性比率は、公益法人
と一般法人に限ってはいるが、5%前後にすぎない。しかしながら、日本金融公庫総合
研究所(2014)では、ソーシャルビジネスに関する調査から、
「ソーシャルビジネスは、
女性にとっての働き場となりうること、また、起業の場ともなりうる」と結論づけた。
社会的企業やソーシャルビジネスは、営利と非営利セクターの要素を併せ持つハイ
ブリッド組織及び事業といえる(服部、2015a)。これらに携わる女性起業家に共通の
特徴があるのではないだろうか。また、国際比較調査で従来から指摘されてきた通り、
女性のロールモデルの低さや知識、経験の不足による起業への影響は、このようなハ
イブリッド組織においてもいえることなのだろうか。そこで、本稿は、この問題意識
をもってハイブリッド組織の女性起業家に着目し、統計データとインタビュー調査か
ら実態を考察し、女性起業家が携わるソーシャルビジネスの強みと課題を導くことを
目的とする。
2.学習機会と起業支援
(1)多様な女性支援組織とその視座
起業家教育実態調査報告書によると、日本の大学及び大学院での起業家教育プログ
ラムは、米国の大学と比して不十分である、と結論付け、ベンチャーエンタープライ
ズセンター(2014)が指摘した「起業家に求められる知識が不十分である」という結
論を女性に限らず裏付けることになった。
しかし、大学教育の他に、女性のエンパワメントを目的に生涯学習機会を提供する
機関として、自治体設置の女性センターのほか、民間の法人として、NPO 法人、公益
法人、営利法人など多様な担い手があげられる(2)。女性センターは、公設は全国 200
超にのぼるが、官民の運営を含むと 330 を超えるほど広がりがある。しかし、大野
(2011)によると、主として、「1975 年の国際婦人年とそれに続く国際婦人の 10 年に
は、施設設置を女性政策として推進し、婦人会館に対し女性センターの名が普及した」。
「女性教育活動の拠点としての婦人会館から女性問題の解決や女性の地位向上に取り組
む女性センターへの流れは、行政内では女性教育施策の予算減、既存の女性団体の組
織力低下につながった」と分析している。
現在、女性センターの中には、例えば、横浜や仙台では、起業支援プログラムを行
うところがでてきた。起業機会の提供は、女性の生き方、働き方の選択肢を広めるこ
とに寄与していると考えられる。また、菅原(2015)は、札幌市男女共同参画センター
では、男女共同参画視点の起業支援を始め、「初めて部局を超えて経済局と連携」する
事業を展開したという。起業支援とうたった事業は、男女共同参画の視点だけでなく、
むしろ、例えば、2015 年から実施した東京都のように、産業労働振興の施策として女
性起業支援事業に取組んでいる。そこでの学習機会は、財務、事業計画策定といった
実践的な内容を E ラーニングによって学ぶことができるなど子育て世代にも多様なメ
—8—
21 世紀社会デザイン研究 2015 No.14
表 2 NPO 法人等の女性起業支援団体推測数
検索結果
主たる活動目的:男女共同参画
活動目的に含む:男女共同参画
主たる活動目的:職業能力
活動目的に含む:職業能力
内閣府全国 NPO
法人の検索
─ 4,576
─ 「NPO ヒロバ」
NPO 法人データ
ベース
公益法人行政総
合情報サイト
102
1,338
299
334
12,289
2,134
定款 keyword 女性
*
594
758
72
定款 keyword 起業
*
361
531
15
73
73
230
113
keyword 起業 and 男女共同参画
keyword 女性 and 職業能力
男女共同参画 or 職業能力
14,710
子ども or 職業能力
28,978
検索サイト掲載団体総数
50,883
13,213
9,398
2015 年 9 月 23 日時点での検索結果に基づき筆者作成
*定款 keyword とは、定款の目的に明示しているかどうかを内閣府のサイトから検索した結果。NPO ヒ
ロバの検索サイトでは、定款への明示の有無を問わず、検索上のキーワード。
ニューが用意されている。学習提供者は、地方銀行や NPO 法人、中小企業支援団体な
どが担う(3)。このように、女性の起業支援には、男女共同参画の視点と産業振興など
経済的な視点が包含する。行政内部でどこまで部署間の連携をとることができるのか、
また、施策によって輩出される起業家や事業モデルに相違がでるのかは、今後の成果
をみていく必要がある。
他方、NPO 法人が提供する女性支援は、その活動目的に、男女共同参画を含む団体
と考えられるため、内閣府が提供する検索サイトからその数をみると、全国の NPO 法
人の認証数 5 万強団体のうち、4,576 法人が検出された(表 2)。しかし、女性の起業
支援に携わる NPO 法人の件数を推測するために、団体の定款に「女性」を明示し、か
つ、活動内容に「職業能力」を含む法人をみると、その数は 230 法人となる。定款に
「起業」を明示し、活動内容に「男女共同参画」を含む法人はわずか 73 団体となり、
男女共同参画の視点と経済的な視点を併せ持った起業支援団体は多くない。
社会課題を解決するための起業を目指す女性に対する中間支援団体は、官民双方と
も量的には不十分ではないかと推察された。そこで、ここでは、特徴的な事例をみる
ことにする。
(2)女性への起業支援
女性への学習機会の提供に加え、起業支援事業にも取り組みだした組織として、公
益財団法人日本女性学習財団がある。当財団は、1941 年に設立し戦後の全国の女性教
育をリードしてきた。日本女子会館の運営と学習支援を柱に、リーダーシップやキャ
リア支援プログラムを開発してきた。女性のキャリアを支援する側の人材の育成に取
—9—
り組み、キャリア形成支援士の認定も行う。また、自治体、NPO、大学との連携事業
も進め、現在においても、受講者は、首都圏を中心に全国から集まる。起業家支援は、
新たな事業であり、2014 年、女性起業家のシェアオフィスを設置し働く場の提供を始
めた。国際会議開催などアドボカシー活動を行い、時代とともに変遷する女性の活躍
支援に向けて発信を欠かさない。
他方、2011 年に、政策投資銀行が設立した女性起業支援センターは、主として開始
5 年以内のアーリーステージの起業家を対象として顕彰事業を行い、女性起業大賞など
最大 1 千万円の資金授与と専門家によるメンタリングなど経営支援を実施している。表
彰の審査基準は、採算性・実現可能性・成長性をみた「事業性」
、独創性・競合優位性
をみた「革新性」
、経営者としての適性・能力・意欲などをみた「経営者評価」に基づ
く(4)。その後新設した「DBJ 女性起業地域みらい賞」は、地域の人材や資源の活用、地
域内に人材を惹きつけるまちづくり、地域密着事業の他地域や海外展開を行う事業の 3
つの視点を評価し奨励している。受賞団体には社会の課題解決につながる事業が多く、
女性起業家の事業にソーシャルビジネスを数多くみることができると考えられる。
このように、官民ともに、女性のエンパワメントの視点から学習機会の提供は全国
に広がっているものの、その普及度合いに比較すると、男女共同参画の視点からみた
起業支援は、始まったばかりだといえるのではないだろうか。女性の生き方とキャリ
ア形成の選択肢として起業をどのようにとらえ、支援していくことができるのか、従
来から女性支援をおこなってきた中間支援組織の新たな役割が期待される。
次に、女性起業家が展開するソーシャルビジネスを考察するために、起業家の起業
動機から特徴をつかむことにする。
3.起業動機にみる女性起業家の選好
U.S. Department of State (2012)は、女性の起業実態に対する調査結果を示したもの
であるが、近年女性の起業家精神が高まっていること、それは、先進国よりもむしろ
途上国においてみることができ、そこには未知のビジネス機会が大きいことを指摘し
ている。また、ここでは、女性起業家の起業動機は男性と同様であるという調査結果
を紹介し、「収入を増やすこと」、「自らのアイデアを事業化すること」、「自らが事業経
営をすること」が主要な動機であると述べた。
日本での創業調査では、まず、「自由に仕事がしたかった」が男女ともに最も大きな
動機となる(表 3)。男性は、第 2 番目に「収入を増やしたかった」、続いて「仕事の
経験・知識や資格を生かしたかった」への項目に 50%程度の回答を得た。対して、女
性は、第 2 番目に「仕事の経験・知識や資格を生かしたかった」に続いて「収入を増
やしたかった」と回答した。性別によって 10 ポイント以上の差がでた項目は、「収入
を増やしたかった」、「年齢や性別に関係なく仕事がしたかった」、「事業経営という仕
事に興味があった」であり、経済的動機に相違がみられた。しかしながら、「社会の役
に立つ仕事がしたかった」理由を上げた回答者に男女差はない。社会貢献性は、時系
列にみると、性別に関わりなく増加傾向にある。
一方、ソーシャルビジネスの経営実態調査から得られる創業動機は、社会性を想起
— 10 —
21 世紀社会デザイン研究 2015 No.14
表 3 起業家の開業動機
開業動機(3 つまで複数回答可)
女性(%)
(n=395)
男性(%)
(n=2,575)
自由に仕事がしたかった
① 47.6
① 54.5
仕事の経験・知識や資格を生かしたかった
② 44.8
③ 48.5
収入を増やしたかった
③ 38.5
② 50.0
自分の技術やアイデアを事業化したかった
31.4
30.4
年齢や性別に関係なく仕事がしたかった
30.1
11.3
社会の役に立つ仕事がしたかった
28.4
26.0
事業経営という仕事に興味があった
20.3
37.5
時間や気持ちにゆとりが欲しかった
17.0
14.3
興味や特技を生かしたかった
12.4
5.6
適当な勤め先がなかった
8.4
8.7
その他
2.0
1.1
2013 年度「新規開業実態調査」より筆者加筆
図 1 ソーシャルビジネスの創業動機(単位:%)
日本金融公庫総合研究所「ソーシャルビジネスの経営実態調査」から筆者作成
する項目が上位に挙がった。「家族や友人、社員など身近に社会的問題の当事者がいた
から」が最も大きな動機となり、男性 36%に対して女性は 45%に達する(図 1)。「社
会や地域の役にたっているという実感を得たいから」は、性別による差はみられず、
男女とも 2 割の回答であった。しかし、「ビジネスチャンスがあった」には 2%の回答
を得たにすぎなかった。双方の調査の起業動機から、社会貢献性を動機とする起業家
に性別の差が見られないことがわかった。また、ソーシャルビジネスの起業家は、「ミ
クロな視点」でみた身近に感じる課題を「マクロな視点」へと転化し、社会課題とと
らえて解決策を見出すことのできる人材ではないかという仮説がみえてきた。
C. Carrier et al. (2008)は、男性起業家と女性起業家という性別による差を議論し
続けるよりもむしろ、女性の起業支援の方法を見出すためには、経験、価値、意義、
女性起業家による選好を調べることが有益であると述べている。さらに、Kaplan and
Vanderbrug (2014)は、「既存のシステムに適合しようと自らを変えることを女性に要
— 11 —
求するのでなく、女性が新たな視点をもつこと」を提案している。そこで、女性起業
家のビジネスモデルやビジョンに特徴があるのか、その事業はどのような価値を創造
しているのか、ヒアリング調査から考察することとした。
4.ソーシャルビジネスの挑戦
(1)女性起業家のソーシャルビジネスの特徴
C. Carrier et al. (2008)が指摘した通り、女性起業家に対して、ビジネスの分野、事
業概要、ビジネスが生み出す価値、そして、起業家自身の経験や事業に関する選好を
聞いた(表 4)。
4 団体と限られた事例ではあるが、いずれも社会課題への視点、事業モデルの構築
に際して、特徴的な発想を持ち合わせていた。ここからみえてくる共通点は、1 つは、
ソーシャルビジネスを起業する背景には特徴的な経験や問題意識があり、それが事業
の経験ではなくとも新たに取り組む事業モデルの実現可能性を高めることにつながっ
表 4 女性起業家によるソーシャルビジネス(ハイブリッド組織)
組織名
所在地
事業分野/
手法
アトリエ・エレ
マン・プレザン
Atelier Elément
Présent
ファーメン
ステーション
Fermenstation
三重県、東京都世 岩手県奥州市
田谷区
気まぐれ
八百屋だんだん
DAN-DAN
東京都大田区
アルーシャ
Arusha
東京都港区
ダウン症の人々の 農業活性化/米と コ ミ ュ ニ テ ィ 支 難民の雇用支援/
自立支援/アトリ 発酵技術を活かし 援/地域の子ども 難民の人々による
エと商品開発
た商品開発
達のための食堂と ネールサロンや語
自然食の販売
学教室など開催
社会価値
ダウン症の人々の
絵画は、人々に平
和・幸福感を提供
できること、美術
の専門家からみて
アウトサイダー
アートとは異なる
価値を認知させた
特別米の無農薬栽
培で耕作放棄地増
にブレーキ。地域
の多様な立場の
人々が資源を活か
す こ と を 誘 導 し、
人々のモチベー
ションを上げた
多世代が集まる自
然食店舗に子ども
の居場所を提供
し、地域に貧困の
子ども達の存在を
知らせたこと
日本に難民の存在
があること、また、
その現状を伝えた
こと
代表の選好
ダウン症の人々を
含む全ての人々が
活躍する街「ダウ
ンタウン」構想の
実現
地域の誉である田
園風景の復活と商
品を通じたライフ
スタイルの提案
地域の人々やボラ
ンティアの自発性
によるコミュニ
ティスペースの運
営と共助の実現
ネールサロンの規
模拡大は意図せ
ず。ソーシャルビ
ジネスの事業支援
を図る
画家の両親の教室
にダウン症の人々
が通い、幼少期か
ら身近に過ごす
ベンチャーキャピ
タルや国際交流基
金など多様なキャ
リアをもつ
歯科衛生士として
子どもの成長に問
題意識を抱いてき
た
人材発掘、ヘッド
ハンティングなど
コンサルティング
をキャリアとして
きた
営利法人
営利法人
代表の
経験等
組織運営
アトリエ(営利組 営利法人
織)、商品開発(非
営利法人)
— 12 —
21 世紀社会デザイン研究 2015 No.14
ていたことである。2 つは、これまで見過ごされてきたことや気づかなかった課題を
特定化したこと、あるいは、社会的弱者やコミュニティがもつ新たな価値を認知させ
る点に特徴があるといえる。3 つは、その結果、長期的な視野をもって事業に取り組
んでいる。事業自体が社会課題解決にむけた提案型ともいえる。4 つは、多様な人々
を共感者や賛同者として巻き込む参加型の事業を選好する傾向にあり、コミュニティ
のソーシャルキャピタルの醸成に寄与していた。しかしながら、事業自体を拡大する
選好を持ち合わせていなかった。
最後に、これらの事業は、既存の事業モデルの適用とは言えない、という点である。
身近なところにあった課題、あるいは、そこに身を投じたことによって見えてきた現
状に向き合い事業モデルを構築していった。いずれも新たな市場を創造しているわけ
ではない。既に成立している市場を活用しながら、自らの発想で社会課題の認知を高
めることに主眼がおかれていた。そして、創造する価値が利害関係者と共有できるこ
とを選好していた。このことから、女性起業家が取り組むソーシャルビジネスは、必
ずしもロールモデルを必要としていない、そして、共有価値を創造する(CSV)事業
モデルを構築しようとしている、という仮説を導くことができた。
いずれの事例とも、メディアの注目度は高く、社会的インパクトが評価されている。
一方で、経済的インパクトは大きくはなく、むしろ、持続可能性について課題を抱え
ながら挑戦を続けていた。ソーシャルビジネスの経営実態調査でも、調査対象の約 3
分の 1 は、ソーシャルビジネス単体では赤字であり、組織全体として黒字を計上する
結果であった。彼らが特定化した課題の解決には社会システムの変革が求められるが、
そのためには一般の人々の理解と行動が欠かせない。また、規模拡大を選好しないこ
とを考慮すると、事業をどのようにスケールアウトすることができるか、普及の観点
から課題が残る。そこで、ソーシャルビジネスの成果(アウトカム)に影響するファ
クターから持続可能性を高める可能性を考察する。
(2)ソーシャルビジネスの成果(アウトカム)に影響するファクター
ディーズは、ハイブリッド組織の評価について、以下のように言及している。
「価値は、企業において、売られている財やサービスを生み出すのにかかるコストよ
りも消費者がより多くを払おうとするときに生み出される。市場は社会起業家にとっ
ては十分に機能しない。市場は、社会の向上や公共の利益あるいは損害、さらに、
払う余裕のない人々に対して生じた利益を評価する役目を果たすことはない」。「社
会価値の評価基準は社会に対する影響力"社会インパクト"であり、社会、財務の
成果から事業の進展を評価する」。よって、「自分達が価値を生み出しているという
ことを証明しなければならない。」
(服部 2015a)
ハイブリッド組織にとって、顧客に社会性を明示することの有益性は先行研究より
指摘されてきたが、ディーズは、価値基準を自ら明確にし、それを社会に知らせてい
く必要があることを示している。例えば、ファーメンステーションは、奥州の田園都
市の実態や地域循環型商品であることを明示したことによって、バイヤーから評価さ
— 13 —
れ店舗での扱いが増えたが、むしろ、商品の質が高いことを訴えない限り消費者から
理解は得られないのではないかと発言している。「ソーシャルビジネス・コミュニティ
ビジネスに関するアンケート調査」では、「社会性があることに考慮しない」と回答し
た消費者が 66%を占めたことからも、自らの社会価値をどのように証明し、伝えるこ
とで消費者の賛同を得られるのか、ソーシャルビジネスに共通の課題であることがわ
かる。
日本政策金融公庫総合研究所(2015)は、ソーシャルビジネスがもつ特徴と成果と
の関係を回帰分析によって明らかにした。これまでの研究から、ソーシャルビジネス
がもつ特徴には、以下の点を挙げることができる。社会課題を詳細に特定し、その解
決目的を達成するためにアドボカシー(政策提言)を行うこと、ソーシャルビジネス
の成果を最大化させる手法として協働を重視すること、社会をどのように変えること
ができたのかという社会価値と、どれだけ利益を生みだすことができたのかという経
済価値双方を成果とし社会に伝えることである(服部 2015a)。
計量分析では、ソーシャルビジネスの成果を従属変数として、上記の通り、「ソー
シャルビジネスの成果を法人の内外に周知すること(成果の周知)」、「行政に助言や提
言を行うこと(アドボカシー)」、「他の組織と連携をしていること(協働)」、といった
変数に加えて、「啓発、広報をしていること(啓発)」、「事業に独自性・新規性がある
こと(新規性)」、そして、「運営組織の法人格が営利か非営利か(法人格)」などを説
明変数としている。分析結果は、成果の周知、アドボカシー、新規性の変数に有意な
結果が見られた。しかし、協働、啓発、法人格には有意な結果が見られなかった。
計量分析においても、成果を社会に伝えていくことの有益性が明らかとなったが、
具体的にどのようなコミュニケーション戦略の中で何を成果として伝えていくのか、
今後、起業家へのヒアリングに際して、調査項目に加える必要がある。
5.おわりに ── 公益と共益のバランスをもった新たな起業家モデルとして
本稿は、従来の起業に関する課題として取り上げられてきた、「女性起業家は知識、
経験、能力の不足やロールモデルの低さによって起業活動が低い」という指摘に対し
て、ハイブリッド組織を立ち上げる女性起業家に着目して実態を考察してきた。
女性に対する学習支援環境は、女性センターにみるように、全国的に整備されてき
たが、その中でも、起業支援を行うところがでてきたことは、政府が後押しする女性
活躍推進の流れの中で注目されよう。さらに、起業動機をみると、男性に比して女性
は、「年齢や性別に関係なく仕事がしたい」という動機が高く、社会の既存の制度や枠
に満足できない女性の選択肢として起業があることがわかる。よって、女性の起業支
援は、男女共同参画視点と産業振興など経済的な視点双方を包含する。全国に広がる
既存の中間支援組織が、女性のキャリア形成とライフスタイルの選択肢の中で起業を
とりあげ支援していくことは意義があることがわかった。しかし、行政の場合は、部
局の枠を超えて推進することとなり、その具体的成果に課題が残るため、今後の官民
双方の役割を探る必要がある。
他方、ロールモデルの観点からは、4 事例から考察し、仮説を導くこととした。そ
— 14 —
21 世紀社会デザイン研究 2015 No.14
こには、5 つの特徴を見出した。
1 つは、ソーシャルビジネスを起業する背景には特徴的な経験や問題意識があり、
それが事業の経験ではなくとも新たに取り組む事業モデルの実現可能性を高めた点。2
つは、課題の特定化と新たな価値の認知に寄与している点。3 つは、長期的な視野を
もって事業に取り組んでいる点。4 つは、多様な人々を共感者や賛同者として巻き込
む参加型の事業を選好する傾向にあり、コミュニティの醸成に寄与していた点。しか
しながら、事業自体を拡大する選好を持ち合わせていない点から、持続可能性におい
て課題が残った。5 つは、これらの事業は、既存の事業モデルの適用とはいえない、
という点である。
いずれも既存の市場において異なる視点や発想をもった事業モデルであり、ハイブ
リッド組織の場合、必ずしもロールモデルの不足が起業に影響するとはいえないと考
えた。Kaplan and Vanderbrug (2014)が指摘した通り、「既存のシステムに適合しよう
と自らを変えることを女性に要求するのでなく、女性が新たな視点をもつこと」がハ
イブリッド組織の起業に重要であることがわかった。現在、子育てや介護など福祉の
分野では、女性の従来の家事を中心とした無報酬の労働に対して、様々なビジネス機
会が生まれている。ライフスタイルの変化と社会通念の変化に伴い、女性起業家が社
会課題解決に対する提案型の事業を立ち上げる点に意義を見出すことができるのでは
ないだろうか。家庭や行政の役割とみなされてきたことに市民一人一人が社会の課題
として認識し、自ら解決に関わるという価値観が顕在化してきたのではないか、つま
り、「ボランタリー経済」の進化が女性起業家にみることができるのではないか、とい
う仮説をもった。
しかしながら、社会性の高い使命をもった事業に対して、広く消費者の理解を得る
段階にはない。事業の何が成果といえるのか、それを証明することと、伝えることが
重要であり、社会に概念を普及させるうえでの課題が明らかとなった。
事例調査からみえてきたことは、事例の女性起業家たちが「ミクロな視点」でみた
身近に感じる課題を「マクロな視点」へと転化し、社会課題ととらえて解決策を見出
すことのできる人材であり、女性起業家の強みとなりうることであった。また、この
ような人材は、公共の利益であるパブリック・インタレストと身近な利害関係者の共
通の利益であるコモン・インタレストとのバランスをもっているとも考えられ、「公益
と共益のバランスをもった起業家モデル」として、女性起業家に着目していきたい。
■註
(1) GEM では、起業実態に関する独自の指標を開発し、国際比較を実施している。24 年度調
査では 69 カ国で実施され、日本は下から 2 位の位置づけである。起業活動率とは、起業準
備を行う段階から起業 3.5 年未満と推計される起業家の成人人口に占める割合を示したも
の。
(2) 女性センターとは、地域の女性問題解決のための拠点施設で、学習・研修事業、市民活動
への助成・支援事業、情報収集・提供事業、相談事業、調査研究事業などを行う。
(3) 家庭教育支援、男女共同参画活動を担う NPO 法人の具体的な例として、文部科学省が紹
介する「教育関係 NPO 法人の活動事例集」には、49 団体が取り上げられている。
(4) http://www.dbj.jp/pdf/ser vice/advisor y/wec/summar y.pdf
— 15 —
■ References
Carrier C., Julien P. and Menvielle W. (2008), Gender in Entrepreneurship research: a critical
look at the literature, In Aaltio I., Kyrö P., Sundin E. (eds.) Women Entrepreneurship and
Social Capital, Copenhagen Business School Press
Kaplan S. and VanderBrug J. (2014), The Rise of Gender Capitalism, Stanford Social Innovation
Review vol.12 number 4
U.S. Department of State (2012), Enterprising Women, Thriving Societies, E Journal USA vol.16,
number8
大野曜(2011)、女性関連施設の沿革と女性団体、日本女性学習財団編『女性の学びを拓く』ド
メス出版
菅原亜都子(2015)、「札幌市男女共同参画センター:男女共同参画視点の企業支援を目指して」
ウィラーン、vol.738、公益財団法人日本女性学習財団
日本政策金融公庫総合研究所編(2015)、『日本のソーシャルビジネス』同友館
服部篤子(2015a)、「新しい公共の担い手~NPO とソーシャルビジネス」松永佳甫編、『公共経
営学入門』大阪大学出版会
服部篤子(2015b)、「女性起業家と社会性」ウィラーン、vol.738、公益財団法人日本女性学習財
団
Website
大和総研(2009)、平成 20 年度大学・大学院における起業家教育実態調査報告書、経済産業省
委託調査
www.meti.go.jp/policy/newbusiness/kigyoukakyouikuhonpenhonbun.pdf (2015 年 1 月時
点)
日本政策金融公庫総合研究所(2013)、女性起業家の開業~「2013 年度新規開業実態調査(特
別調査)」の結果から~
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/topics_131224_1.pdf (2015 年 1 月時点)
日本政策金融公庫総合研究所(2014)、ソーシャルビジネスの経営実態
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/sme_findings141118.pdf (2014 年 11 月時点)
一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(2014)、平成 25 年度創業・起業支援事業
(起業家精神と成長ベンチャーに関する国際調査)「起業家精神に関する調査」報告書
http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/downloadfiles/140331_gem_tyousa_
houkokusyo.pdf (2015 年 1 月時点)
三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング(2015)、我が国における社会的企業の活動規模に関する
調査報告書、内閣府委託調査
https://www.npo-homepage.go.jp/toukei/sonota-chousa/kigyou-katudoukibo-chousa (2015 年 4 月時点)
— 16 —
Author
Document
Category
Uncategorized
Views
1
File Size
801 KB
Tags
1/--pages
Report inappropriate content