JIME 中東動向分析 一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 中東動向分析 20130927 中東研究センター 2013 年 9 月 27 日 Vol. 12, No. 5 ISSN 1347-7668 目 次 シ リ ア の 蜂 起 と 同 国 の 将 来 ――進 行 す る 紛 争 の 分 析 ................................ 1 1. シ リ ア に や っ て き た 「 ア ラ ブ の 春 」 ............................................................. 1 2. 市 民 の 不 服 従 ................................................................................................. 2 3. 反 体 制 派 の 組 織 作 り ...................................................................................... 2 4. 紛 争 の 軍 事 化 ................................................................................................. 3 5. 反 体 制 派 の 軍 事 的 勝 利 ................................................................................... 4 6. イ ス ラ ー ム 主 義 武 装 組 織 と い う 外 観 ............................................................. 5 7. 国 際 社 会 の 反 応 .............................................................................................. 5 8. 流 血 の 膠 着 状 態 と そ の 波 及 ............................................................................ 6 9. 結 論 ................................................................................................................ 7 追 記 .................................................................................................................... 8 <レポート> GCC 各 国 の 石 炭 火 力 へ の 適 性 比 較 お よ び 貯 水 能 力 向 上 の 重 要 性 ( 日 本 が 貢 献 で き る こ と ・ 日 本 の 享 受 メ リ ッ ト ) ..................... 10 シ リ ア : 内 戦 の 激 化 で 崩 壊 寸 前 の 経 済 .................................................. 20 < ト ピ ッ ク > .......................................................................................... 27 欧 州 司 法 裁 判 所 、 複 数 の 対 イ ラ ン 制 裁 の 破 棄 を 求 め る ................................... 27 オ マ ー ン : 政 府 が Omantel の 株 式 比 率 を 51%ま で 引 下 げ る こ と を 表 明 .......... 27 オマーン:海底パイプラインによるイランからの天然ガス輸入に関する MOU を 締 結 ........................................................................................... 28 オ マ ー ン : 二 つ の LNG 合 弁 会 社 が 合 併 ........................................................... 28 カ タ ル : サ ッ カ ー FIFA ワ ー ル ド カ ッ プ 開 催 に 暗 雲 ......................................... 29 カ タ ル : Qatargas 4 が Petronas UK と 英 国 向 け LNG の SPA を 締 結 ............... 29 カ タ ル : ア ル ・ サ ダ ・ エ ネ ル ギ ー 工 業 相 が LNG 産 消 会 議 ( 東 京 ) で 基 調 講 演 ................................................................................................ 30 サ ウ ジ ア ラ ビ ア : ジ ュ ベ イ ル 製 油 所 は 原 油 の 処 理 を 開 始 ................................ 30 サ ウ ジ ア ラ ビ ア : 3 都 市 で 地 下 鉄 等 輸 送 シ ス テ ム の 整 備 計 画 が 進 展 ............... 31 UAE: ド バ イ 水 ・ 電 力 庁 の CEO が ソ ー ラ ー パ ー ク の 進 捗 状 況 を 確 認 ............ 32 JIME 中東動向分析 20130927 シ リ ア の 蜂 起 と 同 国 の 将 来 ――進 行 す る 紛 争 の 分 析 1. シ リ ア に や っ て き た 「 ア ラ ブ の 春 」 2. 市 民 の 不 服 従 3. 反 体 制 派 の 組 織 作 り 4. 紛 争 の 軍 事 化 5. 反 体 制 派 の 軍 事 的 勝 利 6. イ ス ラ ー ム 主 義 旅 団 と い う 外 観 7. 国 際 社 会 の 反 応 8. 流 血 の 膠 着 状 態 と そ の 波 及 9. 結 論 追記 米国 ユタ大学 助教授 アサアド・サーレハ 1. シ リ ア に や っ て き た 「 ア ラ ブ の 春 」 2011 年 3 月 、テ レ ビ で 放 映 さ れ た「 ア ラ ブ の 春 」の 抗 議 デ モ の 影 響 を 受 け 、ダ ラ ア に 住 む 9 歳 か ら 15 歳 の 子 供 た ち が 学 校 の 壁 に 反 政 府 の 落 書 き を し た が 、彼 ら は た ち ま ち 治 安 部 隊に逮捕された。自宅に戻された彼らの遺体の顔や身体には激しい拷問の痕跡がみられ、 一部の子供たちは火傷を負い、他の子供たちは指の爪をはがされていた。子供たちの身に 起こった出来事に怒ったダラアの人々は街頭に繰り出し、 「 尊 厳 の 金 曜 日 」と 名 づ け ら れ た 平和的な抗議デモを行なった。治安部隊はデモ参加者を追い払う際に 4 名を殺害し、その ことが新たな抗議デモの引き金となった。政権はデモ参加者を弾圧しようとしたが、政権 側が暴力に頼ったことは、国内に広がる感情を完全に見誤ったものであり、抗議デモのさ らなる拡大を招くことになる。反体制派活動家は直ちに、改革の呼びかけから「人々は政 権打倒を望んでいる」という「アラブの春」のスローガンを取り上げるようになった。 この時期に、抗議デモの参加者が地元のモスクでの金曜礼拝後にデモを組織し、政権に 反対するスローガンを叫びながら町の中心部まで行進するというパターンが生まれた。こ れに対抗して、治安部隊は再びデモ隊に発砲し、しばしば数名の死者が出た。次いで、同 じく反政府抗議デモによる「殉教者」を弔うための大規模なデモ行進が行なわれるように なり、治安部隊は再度、デモの参加者に発砲した。これによって、抗議デモはさらに拡大 していく。こうしたことが延々と繰り返されるうちに、弔いのデモや毎週の抗議デモの規 模は大きくなり、時に数千もの数に達した。 1/32 JIME 中東動向分析 20130927 2. 市 民 の 不 服 従 抗議デモと殺害という連鎖が拡大していくと、政権側は、限定的な改革や民主化の促進 を約束することによって反体制派を鎮めようとする一方で、抗議デモは外国の資金提供を 受 け た 共 犯 者 や テ ロ リ ス ト に よ る も の だ と い う 、政 権 側 の 信 奉 す る ス ト ー リ ー を 主 張 し た 。 最終的に、アサド大統領は酷評されてきた非常事態法を解除し、デモを容認する法令を出 して新しい政党の結成を認め、反体制グループと交渉を行なうとの意図を表明したが、結 局、これらの約束は少な過ぎる上に遅過ぎるということが分かった。アサド政権はこれら の法律を制定する一方で、暴力と弾圧に満ちた作戦を強めていったのである。 同政権が悪名高い政権寄りの宗派民兵組織、シャッビーハ(アラビア語で「幽霊」の意 味)を初めて使うようになったのはこの頃である。こうした市民による民兵組織の圧倒的 多数はアサド大統領の出身母体である少数派のアラウィ派で占められており、しばしばス ンナ派の多い地域に送り込まれて抗議行動を粉砕し、非武装の抗議デモ参加者をたびたび 殺害した。政権側にとってシャッビーハは、責任を逃れつつ反体制派グループへの暴力や 威嚇を行なうのに都合がよい存在となった。さらに、シャッビーハのおかげでこの紛争は 宗派的な意味合いを帯びることになる。シャッビーハをスンナ派地域に送り込んで市民を 殺害し、恐怖に陥れたことによって宗派間の緊張が増しただけでなく、アラウィ派―その 多くはアサド政権を嫌っているにも関わらず―の運命をアサド政権と結びつけるという並 行的効果がもたらされた。これらのグループによる数多くの虐殺が行なわれた後、アラウ ィ派は、政権が打倒された際に報復攻撃を受ける可能性への懸念を強めるようになった。 こうして、アサド政権はアラウィ派とスンナ派の間の恐怖と猜疑心をうまく高め、アラウ ィ派やその他の少数派に同政権を見限らせようとする反体制派の取り組みを阻止したので ある。 3. 反 体 制 派 の 組 織 作 り 暴力の高まりと政権側の不十分な譲歩を受けて、多数の草の根の反体制派グループが出 現した。村落や近隣といったレベルで、あるいはしばしばその範囲を超えて、地域調整評 議 会 ( LCC) や 若 手 の 活 動 家 た ち が 抗 議 デ モ を 組 織 し 、 反 対 運 動 の 取 り 組 み を 指 揮 す る よ う に な っ た 。Facebook や Twitter、YouTube と い っ た ソ ー シ ャ ル ・ メ デ ィ ア の サ イ ト を 使 っ て、同評議会は抗議行動と治安部隊による暴力的な攻撃を記録した。政府が国際メディア へのアクセスに制限をかけ、国営メディアの報道も偏っていたにもかかわらず、地域調整 評議会は反体制派の話を世界に伝える手助けをした。反政府運動が抗議デモから武装攻撃 へとその中心を移し、同評議会の役割が低下した現在でも、多くのシリア人は、自分たち の社会をより代表しているのはこれらのグループだと考えている。というのも、武装組織 の兵士の多くとは異なり、地域調整評議会のメンバーは自分たちの活動する地域の出身者 だからだ。 市や地方レベルにおいて、反体制派は革命評議会を結成した。革命評議会は地元の有力 な知識人や実業家で構成され、革命の戦略的な支援に寄与している。これらの評議会はし ばしば「メディアセンター」を作って国際メディアと連絡を取り、地域調整評議会が集め た情報やビデオ映像を配信した。紛争が進行するにつれ、一部は各地域の文民指導部の役 2/32 JIME 中東動向分析 20130927 割も果たすようになり、アサド政権打倒後に現政権の地域政府の代わりとなり得る地方行 政組織を作ろうとした。 国家レベルにおいては、著名な反体制派活動家スハイル・アタシが率いるシリア革命総 合 委 員 会 ( SRGC) が 2011 年 8 月 に 創 設 さ れ 、 同 国 内 の 56 の 革 命 グ ル ー プ や 地 域 調 整 評 議会を代表する組織となった。この組織はその後解散したが、例えば有名な「反バッシャ ー ル ・ ア サ ド ・ シ リ ア 革 命 」 の よ う に 、 Facebook の ペ ー ジ 上 で 抗 議 活 動 を 記 録 し 、 支 援 す る手助けをするなど、国内に基盤を置く国内調整組織として、初期における重要な役割を 果たした。また同委員会は、シリア政府の人権侵害に対する認知度を高め、非宗派的なシ リア国民全体の代表作りを助けた。 シリア革命総合委員会が国内における国家レベルの反体制派グループであったのに対し て 、 シ リ ア 国 民 評 議 会 ( SNC) は 、 国 外 に お け る 国 家 レ ベ ル の 反 体 制 派 代 表 と し て 結 成 さ れた。同評議会にはダマスカス宣言グループの多くのメンバーおよびいくつかの少数派組 織が含まれ、革命への政治的支援を行なうとともに、国際社会に対して自分たちの要求を 表明することを目的としている。同評議会は、リビア政権に対する蜂起の政治・軍事的指 導 部 と な っ た リ ビ ア 国 民 評 議 会 ( LNC) を モ デ ル に し て い る 。 だ が 、 ム ア ン マ ル ・ カ ダ フ ィに対する反乱を国内で調整したリビア国民評議会とは異なり、シリア国民評議会の指導 者たちは国外に在住している。幹部の中の目立つ人物のおかげでその評判が高まったにせ よ、国内にいる革命勢力との調整不足のため、シリア国民評議会がシリア政治における反 体制派最大の代表となろうとする企ては困難になった。 4. 紛 争 の 軍 事 化 抗議運動の規模と組織が拡大するにつれ、政権側にとって抗議活動は直ちに存亡に関わ る 脅 威 と な っ て い っ た 。ア サ ド は 、そ の 父 親 が 1980 年 代 初 め に ハ マ ー で 起 き た 反 乱 に 容 赦 ない弾圧を加えて 1 万人以上の死者を出した事実に倣い、早い時期から「治安部隊による 解決」を図る。抗議運動の脅威が最も高いとみられていたダマスカス郊外のダラア、ホム スやラタキアといった場所に軍隊が投入された。初めのうちは治安部隊が抗議デモの群集 に発砲していたが、やがて戦車や迫撃砲、武装ヘリコプター、ジェット機を使った軍事攻 撃に変化していった。兵士たちは現在、自分たちが戦う相手だといわれてきた外国人テロ リ ス ト で は な く 、武 器 を 持 た な い 無 防 備 な デ モ 隊 に 発 砲 す る よ う 命 じ ら れ て い る 。YouTube のビデオ映像の中で自らの亡命を公表してそれ以降の軍隊離脱の流れを作り出したワリー ド・カシャミという名前の兵士は、彼の部隊がダマスカス近くにいる武装した集団を攻撃 するよう命じられたと語った。だが、現場に到着すると、人々は武器を持っておらず、女 性や子供も含まれていたという。こうした状況に直面して軍を離脱する兵士の数は増え、 その多くが政権に対して武器を取ることを選んだ。 2011 年 7 月 、リ ア ド ・ ア サ ア ド 大 佐 は 、軍 隊 を 離 脱 し た ば か り の 6 人 の シ リ ア 軍 将 校 と ともに、 「 自 由 で 武 器 を 持 た な い シ リ ア 国 民 を 守 り …( さ ら に )自 由 と 尊 厳 を 獲 得 し 、政 権 を 打 倒 す る た め 」 の 緩 や か な 軍 事 統 括 組 織 と し て 、 自 由 シ リ ア 軍 ( FSA) の 創 設 を 宣 言 し た 。当 初 の 段 階 で は 、自 由 シ リ ア 軍 は 平 和 的 な 抗 議 行 動 と 緊 密 な 関 係 を 持 ち つ つ 活 動 し た 。 しばしばデモ隊を保護する役割を果たし、治安部隊によるデモ隊への発砲を阻止しようと 3/32 JIME 中東動向分析 20130927 した。自由シリア軍には、軍からの離脱者に加えて政権に不満を抱き、武器をとって立ち 上がった市民も含まれており、この時期、デモ隊と自由シリア軍との境界線はしばしばあ いまいだった。平日は銃を携行している自由シリア軍のメンバーが、金曜日になると武器 を持たずに抗議デモに加わることもしばしばだったのである。しかし、親政権側の軍事行 動が反政府運動を過激化させる役割を果たすようになると、区別は徐々に明確になり、最 終的には平和的な抗議デモを弱体化させてしまう。 5. 反 体 制 派 の 軍 事 的 勝 利 ロシアとイランから供与された政権側の戦車、航空機および迫撃砲は、武装勢力側の銃 器 や 急 ご し ら え の 武 器 を は る か に 凌 い で い た 。2012 年 初 め に 反 乱 軍 が ホ ム ス な ど の 市 街 地 から追い出されると、彼らは地方や都市近郊地域に再び結集して、多くの新メンバーを徴 募した。ここで自分たちのゲリラ戦術に磨きをかけて、それをうまく実行した。同年の夏 の初めまでに、武装した反体制派は政府軍をこれらの地域から追い出し、北部および中部 の農村部の多くの地域を手中に収めて、これらの地域を安全地帯にしてここから攻撃を計 画・開始できるようになった。 2012 年 7 月 18 日 、 ア サ ド 大 統 領 の 「 側 近 」 に よ る 会 議 の 最 中 に 治 安 機 関 本 部 が 爆 破 さ れ、国防大臣や国防副大臣を初めとする国防関係の幹部 4 名が死亡、アサド大統領の弟や 悪名高い共和国防衛隊の司令官を含む数名が重傷を負った。この事件は、反体制派弾圧を 担当する重要人物の死から立ち直ろうとしていたアサド政権を追い詰める一方で、反体制 武装運動に新しい息吹を吹き込むことになる。その後数週間にわたって反体制派武装勢力 は新たにいくつかの攻撃を開始して、トルコ、イラクとの国境沿いの国境検問所および北 部の都市アレッポの半分の支配権を得るようになり、政府軍は北部のクルド地域の大半か ら撤退を余儀なくされた。政権側にとってもうひとつの打撃となったのは、リヤド・ヒジ ャーブ首相と、アサド大統領の友人であり、ムスタファ・トラス元国防相の息子であるマ ナーフ・トラス准将の二人が反体制派に寝返ったことである。 この時期が、政府に対する軍事作戦の転換点だったといえるだろう。これ以降、反乱軍 は農村部で多くの勝利を収め、主要都市の多くの地域でもしのぎを削るようになる。政府 軍が地方から撤退したことで、反乱軍は、農村部や都市近郊のさらに多くの村や町が「解 放された地域」であると宣言することができるようになった。現在、同国の北部と東部全 域が反体制派の支配下にあり、武装した反体制派は、南部のヨルダン国境沿いでも多くの 地域を支配下に納めている。その上、反乱軍は国内の各県に拠点を置いている。 そ の 後 も 、反 乱 軍 は 主 導 権 を 維 持 し た が 、2012 年 の 夏 か ら 秋 の 初 め に か け て の よ う な 立 て続けの勝利に比べるとかなり減速し、政権側は、反乱軍が支配していた補給ルートを含 むいくつかの重要地域を奪還することができた。今では、政府軍の基地に対する包囲攻撃 の長期化や政府軍の支配下にある都市部における膠着状態が始まっている。防御を固めた 政府軍を陣地から追い出し、政府軍の制空権を無力化するために必要な重火器や大量の銃 弾の入手ができなかった反乱軍の進み方は、遅くなっている。 4/32 JIME 中東動向分析 20130927 6. イ ス ラ ー ム 主 義 武 装 組 織 と い う 外 観 反体制運動の平和的な抗議運動から武装した反乱軍への変容は、宗教的な原理主義グル ープの台頭と時期が重なっていた。これらのグループの様子を鑑みて、アサド政権打倒を 支持する国々は反体制派への武器供与には慎重であり、武器が過激派グループの手に渡る ことを恐れている。欧米諸国のこうした懸念はもっともであるが、武装した反体制派に加 わ っ た 人 々 の 大 半 は 、自 ら を ジ ハ ー ド 主 義 者 と い う よ り 兵 士 で あ る と み な し て お り 、ア ル・ カーイダが提唱するイスラームのカリフ制への回帰ではなく政権打倒を求めているのであ る。反体制派兵士の一部は徐々にスンナ派イスラームに由来する言葉を使い始め、自分た ちの大隊にイスラームの名前をつけるようになった。しかし、表向き宗教的情熱の徴候が 見られるとはいえ、多くの人々はイデオロギーを信奉することなくイスラームという外観 を取り入れたに過ぎない。例えば、サラフィー主義者風のあごひげは単なる宗教的なシン ボルではなく、反政府レジスタンスのひとつなのだ。 しかし、主要なイスラーム主義武装組織のひとつであるヌスラ戦線はアル・カーイダと つながりを持つようになり、米政府は外国のテロ組織と断定している。武器を保有し、イ ラクでの戦闘経験のあるヌスラ戦線は、シリアでは最も能力の高い戦闘部隊のひとつであ り 、政 府 軍 と の 戦 い で い く つ か の 勝 利 を 収 め て 注 目 を 集 め た 。ヌ ス ラ 軍 は 、 「解放された地 域」において食料その他のサービスを提供する活動も行なっており、絶望的な人道状況に 置かれている多くのシリア人の支持を得ている。ヌスラ戦線およびその他の保守派のイス ラーム主義グループの戦闘能力や人々を養う能力は、湾岸諸国から受け取っている相当額 の支援金によるところが大きい。これは、民族主義の自由シリア軍系の旅団に対する資金 提供や供給が十分ではないのとは対照的である。 ヌスラ戦線の卓越した軍事的能力にもかかわらず、多くのシリア人は、ヌスラ戦線が日 常生活を支配しようとすることには反対してきた。デリゾール県やラッカ県などでは、ヌ ス ラ 戦 線 に よ る 超 保 守 主 義 的 な イ ス ラ ー ム 統 治 に 人 々 が 苛 立 つ よ う に な っ て い る 。さ ら に 、 自由シリア軍の穏健派の一部はヌスラ戦線の戦場での能力を認めているものの、両者の間 に は 、不 和 と 争 い の 例 が 数 多 く み ら れ る 。自 由 シ リ ア 軍 の 司 令 官 の 一 人 は 、 「アサド政権が 倒れた次の日には、我々は(ヌスラ戦線)と戦うだろう…そのときまで、我々がともに活 動することはもはやない」と述べている。 7. 国 際 社 会 の 反 応 域 内 の 国 々 は 反 体 制 派 へ の 軍 事 支 援 の 提 供 に 意 欲 を 示 し て い る が 、 米 国 や EU は よ り 慎 重 な 姿 勢 を み せ て い る 。 反 体 制 派 側 が 求 め て い た 最 新 兵 器 を 提 供 す る 代 わ り に 、 2011 年 5 月 、欧 米 は ア サ ド 政 権 に 対 し て 厳 し い 制 裁 を 課 す よ う に な っ た 。加 え て 、オ バ マ 大 統 領 は 、 この紛争がもたらした甚大な人道的被害を和らげる活動を進めている。米国は、近隣諸国 に 設 置 さ れ た 難 民 キ ャ ン プ に 登 録 し て い る 130 万 人 近 い 難 民 の た め 、現 在 ま で に 5 億 1000 万ドルの人道支援とともに、国内難民のためにさらに何百万ドルの支援を行なってきた。 EU も こ れ ら の 取 り 組 み を 支 援 し 、支 援 金 の 額 は 合 わ せ て 4 億 1000 万 ユ ー ロ( 5 億 4500 万 ドル)にも上る。 政治面では、欧米諸国は引き続き政治的反対勢力と協力して、最終的には暫定的な亡命 5/32 JIME 中東動向分析 20130927 政府の発足につながるような包括的な代表機関を作ろうとしている。当初、欧米諸国はシ リア国民評議会がこの代表機関になることを望んでいたが、同組織が正統性を欠き、国内 にいるさまざまなグループを十分に代表しているとはいえないことから、この構想は脇に 追いやられた。それ以来、国際社会は、より広範なシリア人社会から構成員を集めた新た な グ ル ー プ 作 り を 強 く 求 め る よ う に な っ た 。2012 年 11 月 、カ タ ル で シ リ ア 国 民 連 合( SOC) の設立が発表される。この組織は、反体制派内のばらばらな派閥を、欧米およびアラブの 支援国との調整が可能なひとつの組織の下にまとめることを狙いとしている。マスカスの ウマイヤド・モスクのイマームであり、長らくアサド大統領を批判してきたモアズ・ハテ ィーブ師が議長に、スハイル・アタシ氏と、反体制派の有力人物であるリアド・セイフ氏 が副議長に選出された。 カタルとアラブ連合は、シリア国民連合をシリア反体制派の代表として承認した。その 後 、 フ ラ ン ス も シ リ ア 国 民 連 合 の 大 使 受 け 入 れ に 同 意 し 、 EU は 同 連 合 を シ リ ア 国 民 の 唯 一 の 代 表 と し て 承 認 し て い る 。 2012 年 12 月 、 シ リ ア 国 民 連 合 の 設 立 の す ぐ 後 に 、 オ バ マ 政権は次のような発表をおこなった。 「( 米 国 は ) シ リ ア 国 民 連 合 が 十 分 に 包 括 的 で 、 シ リ ア 国 民 を 十 分 に 代 表 す る 組 織 になったと判断し、同組織をアサド政権に反対するシリア国民の正統な代表として 承 認 す る 。」 シリア国民連合設立の直後、自由シリア軍の旗の下に戦ってきたさまざまなグループの 軍事リーダーが集まって軍事指導部評議会を結成した。現在の最高軍事評議会である。最 高軍事評議会はシリア国民連合の文民指導部に忠誠を誓った。シリア国内における反体制 派の行動にある程度の影響力を行使でき、より国民を代表する組織が設立されたことで、 オバマ政権は同年 2 月、初めてシリア国民連合に直接、非致死型兵器の供与を行ない、こ れを最高軍事評議会が分配すると発表した。 8. 流 血 の 膠 着 状 態 と そ の 波 及 米国がその後、反乱軍に対する支援を拡大すると決定したとはいえ、欧米諸国では、反 体制派が能力とまとまりを備えた暫定政府を樹立するまでには、より大きな物質的な支援 が必要となることに嫌気がさしている。欧米諸国としては、反乱軍側が支配している地域 を統治でき、アサド政権が倒れたらその代わりとして機能できるような、信頼できる暫定 政権を望んでいるのだ。シリア国民連合が存続可能な暫定政府を設立するまでは、欧米諸 国がシリア国民連合や最高軍事評議会に対して、彼らの望むレベルの支援を続ける可能性 は低い。 し か し 、 ロ シ ア が ア サ ド 政 権 に 対 し て S-300 地 対 空 ミ サ イ ル を 提 供 し て い る 可 能 性 が あ る 以 上 、 反 乱 軍 の た め に 介 入 す る よ う 米 国 に 求 め る 圧 力 は 高 ま っ て い る 。 EU は シ リ ア に 対する武器禁輸を解除したが、米国の今後の政策については未知数だ。イスラエルと同じ く 、米 国 も こ の 紛 争 が 地 域 戦 争 に 拡 大 す る こ と は 何 と し て も 避 け た い と 望 ん で お り 、ア ル・ カーイダとの提携を明らかにしているヌスラ戦線に最終的に武器が渡ってしまう可能性を 6/32 JIME 中東動向分析 20130927 深く懸念している。それにもかかわらず、紛争の国際化が進んでいることを示す兆候がす でにある。国内的には、反乱軍はシリア北部および東部の過疎地のほぼ全域の支配権を奪 取することに成功したが、アサド政権は、ダマスカス、ハマー、ホムス、アレッポの大部 分といった主要都市では強固な支配権を維持している。最近になって、反乱軍は南部戦線 を再開させ、ダラア県やダマスカス郊外で大きな戦果を挙げた。しかし、ヒズボッラーか らの支援を受けた政権側は、反乱軍が征圧していたシリア・レバノン国境周辺の地域を最 近になって取り戻し、ホムス県やハマー県での攻撃に成功した。現在は、どちらの側も相 手を倒すことができない流血の膠着状態に陥っている。 戦闘の継続による危険は、シリアだけにとどまらない。膠着状態が長引くにつれ、シリ アの暴力が近隣諸国に波及するリスクは高まっている。ヨルダン、レバノン、イラク、ト ルコ、さらにはイスラエルの占領するゴラン高原の全てで爆撃や戦闘を経験した。おそら く最も危険なのは、真っ先に戦闘に引き込まれる瀬戸際にある脆弱な国家、レバノンであ ろう。 レバノンにおける最大の軍事勢力であるヒズボッラーは、シリア国内で政権側のために 戦っていることをもはや隠そうとはしない。自由シリア軍は、レバノンのヒズボッラー陣 地に砲撃を開始して対抗したが、一方で、レバノン領内におけるヒズボッラーとシリア反 乱軍との戦いは拡大を続けている。それどころか、シリア政府はレバノンで積極的に暴力 行 為 を 犯 す 姿 勢 を 示 し て い る 。2013 年 2 月 、レ バ ノ ン の ミ シ ェ ル ・サ マ ー ハ 元 情 報 相 が レ バノンの聖職者暗殺を企てたとして逮捕され、シリアの情報省高官が彼に爆発物を供与し たことを認めた。最近では、シリア政府がレバノン東部のスンナ派ムスリムの町、アルサ ルを爆撃した。 9. 結 論 紛 争 の 発 生 か ら 2 年 以 上 を 経 て 、 400 万 人 以 上 の 人 々 が 避 難 を 余 儀 な く さ れ 、 被 害 額 は 800 億 ド ル 以 上 、 死 者 は 9 万 人 を 超 え た 。 そ し て 、 か つ て 域 内 の 共 存 モ デ ル で あ っ た 同 国 の 多 様 な 社 会 構 造 は 、修 復 に 一 世 代 も か か る ほ ど に 引 き 裂 か れ て し ま っ た 。残 念 な こ と に 、 政治・軍事的な膠着状態が続くにつれ、これらの数字は増加の一途を辿る可能性が高い。 政 治 的 に は 、反 体 制 派 と 政 権 側 の 隔 た り に は 対 話 の 余 地 が 残 さ れ て い な い 。2013 年 1 月 30 日 に シ リ ア 国 民 連 合( SOC)リ ー ダ ー の モ ア ズ ・ ハ テ ィ ー ブ が 政 権 側 と の 交 渉 を 提 案 し た際、交渉による解決の望みが一時的に浮上した。しかし、ハティーブの提案に対して、 アサドは真剣な対応ができなかった。さらに、多くのシリア人はハティーブのイニシアテ ィブを歓迎したが、シリア国民連合内に交渉への支持がなかったため、今後、他の勢力が 同様の協議を提案することは困難になるだろう。 軍事面では、すでに国内の多くの領域でアサド政権の支配が及ばなくなっている以上、 政権側が反乱軍を消滅させることは不可能だ。それでも、外国から流入する武器の数が大 幅には増えず、しかも、この大幅増加が実現する可能性が現時点では分からないため、反 乱軍が政権側を打ち破るには何年もかかる可能性がある。その上、同国内で広がる分裂を 考えると、反乱軍の勝利がどのようなものになるのか定かではない。 アサド政権の軍隊による化学兵器使用が明らかなことを含め、昨今の状況からは、より 7/32 JIME 中東動向分析 20130927 大規模な介入への支持が高まっているようである。米国がヨルダンにおいて密かに反乱軍 の訓練を行なっているとの報告書が浮上し、米議会においては、反乱軍側への武器供与と 反乱軍の制圧した地域での飛行禁止区域設定に対して超党派の支持が高まっている。オバ マ政権は、アサド政権による化学兵器の使用は「レッドライン」になると言明しており、 化学兵器による攻撃の可能性を伝えた最近の報告書を受けて、同政権は反乱軍への武器供 与に同意した。さらに、ヌスラ戦線は、シリア国内で武器や支配地域、影響力を蓄え続け ている。一方で、シリア紛争をいつまでも猛威を振るうまま放置するリスクには域内戦争 への拡大やシリアの崩壊も含まれるため、米国と、もしかするとフランスや英国も行動を 起こさざるを得なくなるかもしれない。 戦争が長引くにつれ、シリアが破綻国家に陥る可能性は拡大し、地域の不安定化やヌス ラ戦線のような過激派グループの存在感が増す可能性も高まる。反乱軍に対する致死兵器 供与の大幅な拡大や外国軍の介入、あるいは外交上の重要な打開策などによってパワーバ ランスが著しく変化しない限り、近い将来にこの紛争が終結する可能性は低い。残念なが ら、時間は最大の敵である。国際社会が危機を解決する方法で合意しようと奮闘する一方 で、軍事紛争は流血の膠着状態に陥り続け、その間、シリアの人々は自分たちの国の崩壊 を目の当たりにしつつ、さらなる大きな苦難を耐え忍ばざるを得ない。 ( 2013 年 6 月 末 執 筆 ) 追記 シ リ ア 革 命 の 大 き な 転 換 点 と な る 出 来 事 は 、 2013 年 8 月 21 日 に 起 き た 。 ダ マ ス カ ス 近 郊 の ゴ ウ タ で 、化 学 兵 器 使 用 に よ り 1400 人 以 上 の 人 々 が 殺 害 さ れ た の で あ る 。遺 体 の 様 子 や何とか生き延びたものの苦しんでいる被害者の映像が、初めのうちはソーシャルメディ アを通じて、急速に世界中に広まった。報道はたちまちシリア政府による犯行を示唆する ようになった。同政府がこうした化学兵器を保有していることはよく知られていたからで ある。当初、シリア政府は化学兵器攻撃が行われたことを否定していたが、その後、政府 軍の犯行に見せかけるためのいわゆる「偽旗作戦」だとして反乱軍を非難した。化学兵器 攻撃の直後、アサド大統領のメディア顧問を務めるブサイナ・シャアバーンは、反乱軍側 が、沿岸部のラタキア(その大部分はアサド政権の支配下にある)から住民や子供たちを 誘拐してきて、ダマスカスにおいて毒ガスで殺害したと主張したが、この話は反政府のシ リア人の嘲りの的となった。 報道によれば、アサド政権は過去の攻撃でも小規模な化学兵器を使用したとされるが、 ゴウタの大量虐殺は、同政権による反乱軍弾圧の拡大としても前代未聞であり、おそらく は 予 測 不 能 の も の で あ っ た 。こ の 事 件 は 化 学 兵 器 使 用 の 責 任 が ア サ ド 大 統 領 自 身 に あ る「 紛 れもない」証拠であるとしたオバマ政権は、かねてより「レッドライン」とみなしてきた ことが起きたことに対し、攻撃的な反応を示した。情報機関やソーシャルメディアの証拠 に基づき、アサド大統領は、米国および欧米や中東における米国の同盟国の一部から罪に 問われることになった。米国はシリア政府に対する軍事攻撃を求めるキャンペーンを開始 したが、シリア政府の見解を認め、攻撃は反乱軍側によるものと非難しているロシアやイ ラ ン は こ れ に 反 対 す る 。8 月 26 日 、国 連 は 、ダ マ ス カ ス に 駐 在 し て い た 調 査 団 に よ る 事 件 8/32 JIME 中東動向分析 20130927 の調査を開始した。 8 月 31 日 、オ バ マ 大 統 領 は シ リ ア 危 機 に 関 す る 演 説 を 行 い 、米 国 は ア サ ド 政 権 に 対 し て 行動を起こすべきであると述べた。同政権の攻撃能力を削ぎ、米国と同盟国の国益を守る ために、米軍は化学兵器の将来的な使用抑止を目的とした「小規模な攻撃」を実行する用 意があると断言したのである。但し、オバマ大統領は同時に、こうした軍事攻撃を命じる 前に米議会の承認を求める考えを明らかにした。この演説は、英国議会がシリアへの軍事 攻撃を否決した 2 日後に行われた。しかし、米国のジョン・ケリー国務長官は、引き続き アサド政権に対して行動を起こすことへの国際社会の支持を求めた。 今回の危機は、9 月 9 日にロシア政府とシリア外相がモスクワで交渉を行った時点で、 さしあたっては終わりを告げたようである。攻撃を回避するためにシリアが保有するすべ ての化学兵器を引き渡すよう求めたロシア側の提案に対し、シリアはこれを受け入れるこ とにした。この動きが起きたのは、オバマ大統領の提案したシリア攻撃に、米国の世論の 大多数が反対しているさなかのことであった。この外交的解決が明らかになった後、オバ マ大統領はその日のうちに、米議会に軍事攻撃の承認を求めていた要請を撤回し、外交に より多くの時間を与えることを明らかにしたが、アサド政権に対しては、外交的努力が失 敗 す れ ば 軍 事 行 動 に つ な が る 可 能 性 が あ る と 警 告 し た 。一 方 、国 連 は 9 月 16 日 、ゴ ウ タ の 化学兵器攻撃にサリンガスが使用されたことは間違いないという「明白で説得力のある証 拠」があると発表した。シリアが保有する化学兵器の廃棄に同意したため、米国とロシア は、シリア紛争の解決が政治的なものになるべきであると繰り返し述べている。一方で、 反 体 制 派 の シ リ ア 国 民 連 合 ( SOC) は 9 月 14 日 、 元 政 治 犯 の ア フ マ ド ・ ト ー メ を ( 暫 定 ) 首相に選出し、トーメは解放した地域の安定を取り戻し、生活水準を向上させることを誓 った。その後、シリア問題に関する「ジュネーブ会議」を再び開催するとのニュースも浮 上しているが、現地では、政府と反体制派の間だけでなく、一部では自由シリア軍と過激 派組織の間でも戦いが続いている。 ( 2013 年 9 月 23 日 執 筆 ) ※ こ の 論 文 は 、 著 者 ア サ ア ド ・ サ ー レ ハ 氏 が 米 国 の Institute for Social Policy and Understanding( ISPU) 及 び New America Foundation の Middle East Task Force( NAF) か ら の支援を受けて行なった研究の一部を翻訳したものです。 (翻訳:上田恵美子) 9/32 JIME 中東動向分析 20130927 GCC各 国 の 石 炭 火 力 へ の 適 性 比 較 お よ び 貯 水 能 力 向 上 の 重 要 性 (日本が貢献できること・日本の享受メリット) 中東研究センター 研究主幹 鈴木 清一 はじめに 中 東・北 ア フ リ カ( MENA)に お い て 石 炭 火 力 を 導 入 し て い る の は 、ト ル コ 、モ ロ ッ コ 、 イスラエルである。いずれも石油・天然ガス(純)輸入国であり、燃料費が安い石炭で発 電 す る こ と に よ り 、高 い 石 油 ・ 天 然 ガ ス の 輸 入 を 抑 制 し て き た 。ま た 、GCC 諸 国 に お い て 石 炭 火 力 の 導 入 が 予 定 さ れ て い る の は UAE の ラ ア ス・ア ル = ハ イ マ 首 長 国 、ド バ イ 首 長 国 であり、こちらも石油・天然ガス(純)輸入国である。 産油国・産ガス国の発電は天然ガス主体であり、天然ガスが不足する国では石油発電の 構 成 比 は 高 く な っ て い る 。い ず れ の 国 も 天 然 ガ ス と 石 油 で 発 電 の ほ と ん ど を 占 め て き た が 、 サウジアラビア等では近年原子力発電やソーラーなどの再生可能発電を導入する動きが加 速 し て い る 。こ れ は 石 油 や LNG の 輸 出 力 維 持 の た め で あ り 、エ ネ ル ギ ー の 輸 入 国 日 本 と し て歓迎すべき動きであるが、安い輸入炭で発電するというのも同様の効果が期待できるも のである。 本 論 で は 石 炭 火 力 の 特 性 に 鑑 み 、水 資 源 が 豊 富 で あ る こ と 等 の 理 由 に よ り GCC 諸 国 の 中 で石炭火力に適した国はオマーンであることを述べるとともに、その実現に日本が貢献で き る こ と と そ の メ リ ッ ト を 論 じ る 。さ ら に GCC 各 国 に お い て 自 然 水( 降 雨 )の 貯 水 と 有 効 活用が今後重要になっていくことを論じる。 1. GCC各 国 の 水 資 源 比 較 表 1 の と お り 、オ マ ー ン は 人 口 当 た り 降 雨 量 は 日 本 の 3 倍 と 豊 富 で あ り 、GCC 他 国 よ り は る か に 大 き な 数 字 と な っ て い る 。イ ン ド 洋 に 面 し て い る こ と か ら 降 雨 量 が 他 の GCC 諸 国 より豊富である上に、人口が国土に比べ少ないためこの格差となっている。また、オマー ン は 適 度 に 高 低 差 が あ り ダ ム の 建 設 に よ り 貯 水 能 力 も 他 の GCC 諸 国 よ り 大 き い 。 オ マ ー ン の ダ ム は 洪 水 防 止 や 農 業 灌 漑 が 目 的 で 建 設 さ れ て お り 水 力 発 電 は な い 。 Wadi (洪水時に発生する川)の適切な管理や都市の地下ダム等を進めれば貯水能力をさらに引 上げることは検討価値がある。後述のとおり、石炭火力は天然ガスや石油火力に比べ水を 多 く 消 費 す る た め 、 石 炭 火 力 の 適 性 に お い て オ マ ー ン は GCC 他 国 よ り 優 位 に あ る 。 10/32 JIME 中東動向分析 20130927 表 1: GCC 各 国 に お け る 降 雨 量 比 較 サウジ ① 降雨量 mm/年 2008-2012年平均 ② 国土面積 平方Km ③=①×② 百万トン/年 ④ 人口 百万人 ⑤ 一人当り降雨量 トン/年人 <参考> UAE クウェート オマーン バハレーン 59 74 78 121 125 83 2,217,949 11,437 82,880 17,820 309,500 620 130,859 28.4 846 1.8 6,465 5.4 2,156 3.7 38,688 3.0 51 1.1 4,613 478 1,202 586 12,939 45 日本 ① 降雨量 mm/年 2008-2012年平均 カタル イラク 1,668 216 イラン 228 イエメン 167 ② 国土面積 平方Km 374,744 ③=①×② 百万トン/年 625,073 93,347 373,008 88,171 127.9 4,887 32.7 2,857 75.2 4,964 25.1 3,509 ④ 人口 百万人 ⑤ 一人当り降雨量 トン/年人 432,162 1,636,000 527,970 出 所 : The World Bank 資 料 等 を 元 に 筆 者 作 成 図 1: オ マ ー ン の ダ ム ( WADI DAYQAH DAM) 出 所 : Oman daily Observer, 2013.04.29 11/32 JIME 中東動向分析 20130927 2. 石 炭 の 短 所 ・ 長 所 オ マ ー ン は か つ て ド ク ム 港 で の 石 炭 火 力 の 可 能 性 を 検 討 し た が 、石 炭 が CO2 発 生 量 の 最 も 大 き な 燃 料 で あ る た め 見 送 ら れ た 。こ の よ う に 地 球 環 境 へ の 悪 影 響 と な る CO2 が 多 い こ とは石炭の最大の弱点である。 長 所 は 燃 料 費 の 安 さ で あ る 。末 尾 に 記 載 し た と お り GCC 各 国 は 天 然 ガ ス の 国 内 価 格 を 低 く 設 定 し て い る 。GCC 諸 国 が 輸 入 す る 場 合 の 石 炭 価 格 は そ れ と 比 較 す る と む し ろ 高 く な る が 、LNG と し て 輸 出 で き る ネ ッ ト 価 格( 液 化 コ ス ト や 海 上 運 賃 を 控 除 し た も の )よ り は 低 く な る 。つ ま り 天 然 ガ ス で 発 電 す る こ と に よ り LNG 輸 出 量 が 減 少 す る よ り は 、石 炭 で 発 電 し て LNG 輸 出 量 を 維 持 す る ほ う が 外 貨 を 稼 げ る 。た だ し 、設 備 投 資 額 は 石 炭 の 方 が 大 き く なるので総合的な経済性は詳細な分析が必要である。 短所にも長所にもなりうるのが石炭灰の問題である。中国における大気汚染は石炭灰が 石炭の短所になっている事例である。 図 2: 中 国 の 大 気 汚 染 出 所 : SankeiBiz×SANKEI EXPRSEE, 2013.07.10 し か し 、石 炭 を 燃 焼 し た 後 の 燃 え カ ス で あ る 石 炭 灰 は 、産 業 廃 棄 物 と し て 埋 め 立 て 処 理 、 12/32 JIME 中東動向分析 20130927 セメント原料、肥料などに利用されている、いわば資源でもある。表 2 に日本での活用状 況を示すが、石炭灰は有効に活用すれば資源であることが、この実績により明快である。 下表以外では埋立処分されているが、石炭灰がなかったならばその分だけ国土を刻まなか け れ ば な ら な か っ た で あ ろ う 。 つ ま り 埋 立 て も 一 種 の 有 効 活 用 で あ り 、 石 炭 灰 は 100%有 効活用されていると言える。石炭灰は処理コストが嵩むものだが、日本国全体としてはむ しろプラス面があった。つまり石炭の輸入は、国土を輸入したというプラス面があったの である。 表 2: 日 本 で の 石 炭 灰 の 有 効 利 用 出 所:財 団 法 人 石 炭 エ ネ ル ギ ー セ ン タ ー『 石 炭 灰 全 国 実 態 調 査 報 告 書( 平 成 21 年 度 実 績 )』 地球温暖化を考慮して米国のオバマ政権による新規石炭火力建設に対する融資を規制し ようとする動きがあるが、シェールガス革命で天然ガスの生産が増えたことによりその動 き が 加 速 1 し て い る 。 石 炭 は CO2 発 生 が 多 い 燃 料 で あ る こ と は 事 実 で あ り 、 他 の 化 石 燃 料 との可採年数とのバランスを考えて地球全体で適切に使用していくことが重要である。ま た、石炭は運搬コストが高い燃料であるので地産地消が適しているが、各国の発電コスト 軽減や石炭灰の資源活用の観点から各国でバランスよく消費していくことが重要である。 1 Bloomberg, 2013.08.06 13/32 JIME 中東動向分析 20130927 3. GCC諸 国 に お け る 石 炭 火 力 の 適 性 比 較 末尾記載の石炭火力の特性で示すとおり、石炭火力を導入するには以下の 3 要件を満た す必要がある。 ・石炭灰の処理(陸上埋め立て、海上埋め立て、セメント原料)が可能であること ・石炭を大型船で輸入できる港湾があること ・水が豊富であること また、適性を比較する上では以下の 3 点が重要なポイントとなる。 ・天然ガスが不足しているかどうか(理由は後述) ・雇用増加に貢献するが、自国民雇用の雇用拡大につながるかどうか ・港湾と電力消費地との電線系統が容易かどうか 以上を踏まえて各国を比較したものが表 3 である。網掛け部分が適性を示す。港湾につ いての比較が不十分であるが、オマーンが石炭火力に適していると判断する。また、オマ ー ン は GCC 諸 国 の 中 で も バ ハ レ ー ン に 次 い で 財 政 が 逼 迫 ( Moody’s の 分 析 で は 2013 年 の オ マ ー ン の 財 政 均 衡 収 支 原 油 価 格 は $104/b) し て お り 、 石 炭 火 力 の 有 用 性 も 他 国 よ り 大 き い。 表 3: GCC 諸 国 に お け る 石 炭 火 力 の 適 性 比 較 セメント生産 能力(2009年) 港湾 水 天然ガス不足 国民雇用 港湾との電線系統 総合 評価 サウジ 4,400万トン/年 n.a. △ 不足気味 汚い作業イメージを 甘受できるか? 内陸に主要都市 多い △ カタール 430万トン/年 Doha 7m RLF 12m 新Doha 13.5m × まだ余力あり × 国土狭く問題なし × UAE 2,970トン/年 n.a. × 天然ガス 純輸入国 北部首長国は 豊かでなく、適応性 ある(か?) 国土狭く問題なし △ オマーン 510万トン/年 Sohar 17m Duqm 18m Salalah 16m 降雨量多く ダムあり 不足気味 GCCの中では さほど裕ではなく 適応性ありそう 港湾都市=大都市 なので問題なし ○ クウェート 260万トン/年 n.a. × LNG輸入増加 バーレーン 50万トン/年 n.a. × 発展途上国からの LNG輸入検討 帰化国民いるので 適応性ありそう 汚い作業イメージを 国土狭く問題なし 甘受できるか? 国土狭く問題なし × △ <参考> イラン 5,200万トン/年 △ 余力十分 ○ 大都市は高地 (湾岸から遠い) な お 、 オ マ ー ン は 電 力 消 費 が 年 率 7.6%で 増 加 ( 2012-2019 年 ) す る と 予 想 さ れ て お り 天 14/32 JIME 中東動向分析 20130927 然 ガ ス の 消 費 増 加 が 予 想 さ れ る 。天 然 ガ ス の 増 産 や 輸 入 に つ い て は 不 透 明 な 要 素 2 が あ り 、 LNGの 長 期 契 約 更 改 の 是 非 が 今 後 問 題 と な る 。 4. オ マ ー ン へ の 石 炭 火 力 導 入 等 に お け る 日 本 の 貢 献 と 日 本 の 享 受 メ リ ッ ト 砂 漠 だ ら け の 国 土 の 上 に さ ま ざ ま な イ ン フ ラ 投 資 や 緑 地 化 を 行 っ て い く GCC に と っ て 、 石炭灰は有効な資源となりうる。石炭灰は石炭の種類・産地・燃焼方法・処理方法により 成分が異なる。環境に悪影響を与える石炭灰もあり、日本でもその理由により使用されな くなった石炭銘柄もあった。日本は厳しい環境規制の下で石炭灰を資源化してきた。石炭 利 用 経 験 の な い GCC 諸 国 に 対 し て そ の ノ ウ ハ ウ は 役 立 つ も の で あ り 日 本 の 貢 献 を ア ピ ー ルできる格好の材料とである。なお、その国の国土状況・セメント需要等々により石炭灰 が 有 効 利 用 で き る 量 に は 限 度 が あ る が 、GCC 諸 国 は ま だ 石 炭 火 力 が 設 置 さ れ て お ら ず 、限 度 の 心 配 は 現 時 点 で は 不 要 で あ る 。 日 本 の CCT( ク リ ー ン ・ コ ー ル ・ テ ク ノ ロ ジ ー ) は そ の 他 に も 脱 硫 ・ 脱 硝 に よ る 大 気 汚 染 防 止 や 後 述 の EOR に よ る CCS ( Carbon Capture &Storage: 二 酸 化 炭 素 の 回 収 ・ 貯 蔵 ) な ど が あ り さ ま ざ ま な 貢 献 が で き る 。 筆 者 は 注 釈 2 の 情 勢 分 析 報 告 会 に お い て 、日 本 は 中 東・北 ア フ リ カ か ら の LNG 輸 入 に つ い て 現 状 を 維 持 す べ き だ が 各 国 の LNG 輸 出 力 は 不 安 点 が あ る こ と を 報 告 し た 。こ の 事 情 に 鑑 み 、オ マ ー ン 国 に お い て 石 炭 火 力 が 導 入 さ れ る こ と に よ り 日 本 が 享 受 で き る メ リ ッ ト は 、 同 国 の LNG 輸 出 力 が 維 持 さ れ る こ と が 第 一 に 揚 げ ら れ る 。ま た 、機 器・エ ン ジ ニ ア リ ン グ のビジネスチャンスも期待できる。さらには日本に対する評価がさらに向上し、さまざま なビジネスにプラスに働くというメリットも期待できる。 ( 1) 日 本 が オ マ ー ン に 石 炭 火 力 を 推 奨 す る 際 の ポ イ ン ト 石 炭 に 馴 染 み の な い GCC 諸 国 に 対 し て は 、 ① EOR ②雇用拡大 ③石炭灰の資源性を PR す る こ と が ポ イ ン ト で あ る 。 天 然 ガ ス の 国 内 消 費 削 減 に よ る LNG 輸 出 力 の 維 持 と い う メリットを指摘することは言うまでもない。 EOR と は Enhanced Oil Recovery (原 油 増 進 回 収 )の 略 で 、 石 油 の 回 収 率 を 高 め る 技 術 の こ とである。一次採取法による採取量が減衰してきた際に、油層に人工的な圧力をかけて、 採 油 す る 技 術 で 、水 を 圧 入 す る 水 攻 法 、天 然 ガ ス や CO2 な ど を 圧 入 す る 方 法 が あ る 。天 然 ガ ス よ り 石 炭 の 方 が CO2 発 生 が 多 い か ら 石 炭 発 電 導 入 に よ り CO2 に よ る EOR を 進 め 易 い という点である。 石炭は石油・ガスよりも後処理に手間がかかるので雇用が増えるという面がある。自国 民の雇用を増やさなければならない国ではプラス面となる。オマーンは自国民雇用増加の ス ロ ー ガ ン で あ る Omanisation を 進 め て お り こ の 点 の PR は 有 効 で あ ろ う 。な お 、世 界 一 の 金持ち国で失業がないカタルの場合は作業労働が国民に馴染まないので外国人労働者を使 うことになるであろう。 石炭灰の資源化については既に述べた。鉄道や高速道路の大型プロジェクトを控えてい る オ マ ー ン で は 石 炭 灰 が セ メ ン ト 原 料 ( 増 量 材 ) に な る こ と は 大 い に PR で き る 。 貯 水 能 2 鈴 木 清 一 情 勢 分 析 報 告 会 2013年 9月 13日 「 中 東 ・ 北 ア フ リ カ の LNG動 向 」 15/32 JIME 中東動向分析 20130927 力を高めるダム建設でもセメント需要は増大するので、ダム建設と石炭火力導入は水とセ メント原料を相互に供給しあう事業になる。 ( 2) オ マ ー ン に お け る 水 の 有 効 活 用 オ マ ー ン の ダ ム は 洪 水 防 止 や 農 業 灌 漑 が 目 的 で 建 設 さ れ て お り 水 力 発 電 は な い 。 Wadi (洪水時に発生する川)の適切な管理や都市の地下ダム等を進め貯水能力をさらに引上げ ることは検討可能と思われる。日本の技術が貢献できる。 石炭火力以外に水を有効活用する手段としては農業拡大が考えられるが、この場合でも 石炭灰が土壌改良剤として利用できる。また、水冷技術の導入も考えられる。電力消費の 削 減 に よ り 天 然 ガ ス 消 費 の 削 減 に つ な が り LNG 輸 出 力 の 維 持 と い う メ リ ッ ト を 日 本 は 享 受できる。オマーン国の日本に対する評価がさらに向上し、さまざまなビジネスにプラス に働くというメリットも期待できる。 ま た 、海 水 を 工 業 的 に 淡 水 化 し て い る GCC 他 国 へ 水 を 輸 出 す る と い う こ と も 事 業 化 で き る 可 能 性 が あ る 。海 水 の 淡 水 化 は エ ネ ル ギ ー コ ス ト や CO2 発 生 量 の 増 加 お よ び 濃 縮 海 水 の 投 棄 と い う 環 境 問 題 を 引 き 起 こ し て い る 。そ の 緩 和 に 貢 献 で き れ ば GCC 諸 国 の 日 本 に 対 す る 評 価 が さ ら に 向 上 し 、さ ま ざ ま な ビ ジ ネ ス に プ ラ ス に 働 く と い う メ リ ッ ト も 期 待 で き る 。 5. GCC各 国 に お け る 水 資 源 確 保 の 重 要 性 と 日 本 の 貢 献 貯 水 能 力 の 向 上 は GCC 各 国 に お い て 重 要 な テ ー マ で あ る 。 ま た 、 GCC 諸 国 が 海 水 を 工 業的に淡水化していることを鑑みれば、オマーンが貯水能力を高め水を有効活用すること は有意義かつ商業化できる事業と思われる。 オ マ ー ン を 除 く GCC5 ケ 国 は 海 水 に の み 水 供 給 を 頼 っ て い る と い っ て も 過 言 で は な い 。 近 年 進 め ら れ て い る イ ラ ン 、UAE で の 原 子 力 導 入 お よ び サ ウ ジ で の 検 討 に よ り 海 水 の 汚 染 リ ス ク が 生 じ た こ と に GCC 諸 国 も 気 づ い て き た 。 サ ウ ジ に は 紅 海 が あ る が 、 ク ウ ェ ー ト 、 カ タ ル 、バ ハ レ ー ン 、UAE に は ア ラ ビ ア 湾( ペ ル シ ャ 湾 )し か な い の で あ る 。こ れ ら の 国 々 では貯水能力の向上がこれから課題になっていくであろう。 豊富なオイルマネーを背景に各国でインフラ投資が進められている。これは国土をセメ ン ト と ア ス フ ァ ル ト で 覆 う と い う こ と で あ り 、GCC は ま す ま す 高 温 化 し て い く こ と に な る 。 反面、降雨を直ぐに吸収してしまう裸の土地が減っていくということであり、貯水能力を 高めることが可能になることも意味している。逆に人工的な貯水・排水を行わないと、土 が雨水を吸収しなくなった分だけ水災害のリスクが増すことを意味している。 日本においては東京スカイツリー(東京都墨田区)で敷地の地下に設置する雨水を集め る「 雨 水 貯 水 槽 」 3 が 導 入 さ れ て い る 。ま た 森 ビ ル は 、ア ー ク ヒ ル ズ 以 降 す べ て の ビ ル で 、 雨 水 の 流 出 抑 制 も 兼 ね 、地 区 全 体 の 建 物 か ら 集 め た 雨 水 を 貯 留 し 、ろ 過 後 再 利 用 し て 水 資 源 の 有 効 利 用 を 図 っ て お り 、六 本 木 ヒ ル ズ を は じ め と す る 大 規 模 開 発 で は 、手 洗 い な ど の 比 較 的 汚 れ の 少 な い 雑 排 水 を ト イ レ 洗 浄 水 な ど の 中 水 (雑 用 水 )と し て 利 用 し 、 一 層 の 水 資 源 有 3 朝 日 新 聞 Digital, 2011.06.17 16/32 JIME 中東動向分析 20130927 効 利 用 を 図 っ て い る 4 。洪 水 対 策 の た め の 首 都 圏 外 郭 放 水 路 は 国 道 の 地 下 50 メ ー ト ル に ト ン ネ ル を 設 け た も の で あ る が 、 道 路 建 設 が 進 む GCCに お い て 応 用 で き る 技 術 で は な か ろ う か。なお、国土交通省水資源部では水資源の有効利用の普及に努めており、事例も紹介 5 さ れ て い る 。 日 本 に お け る 都 市 の 地 下 ダ ム 化 の 事 例 は GCCの 都 市 に お い て も 活 用 で き る も のと思われる。 おわりに 本 論 で は GCC 諸 国 の 中 で 石 炭 火 力 に 適 し た 国 は 水 資 源 の 豊 富 な オ マ ー ン で あ る こ と を 述 べ る と と も に そ の 実 現 に 日 本 が 貢 献 で き る こ と と そ の メ リ ッ ト を 論 じ た 。 さ ら に GCC 各国において自然水(降雨)の貯水と有効活用が今後重要になっていくことを論じた。オ マ ー ン は GCC の 中 で も よ り リ ッ チ な カ タ ル 、UAE、サ ウ ジ ア ラ ビ ア 、ク ウ ェ ー ト に 比 べ て 日 本 の 注 目 度 は や や 低 い よ う に 思 え る 。ま た 、GCC で の 工 事 入 札 は 韓 国 勢 が 圧 倒 的 に 落 札 し て お り 欧 州 勢 が そ れ に 続 く 。最 近 行 わ れ た Orpic( Oman Oil Refineries and Petrochemicals Co) の ソ ハ ー ル 製 油 所 拡 張 計 画 に お い て も 、 韓 国 勢 が 上 位 4 社 を 占 め た 。 し か し 、本 論 で 述 べ た よ う に CCT 活 用 し た 石 炭 火 力 や 貯 水 能 力 向 上 は 、日 本 の 技 術 が 有 効活用でき、単なる入札価格の競争ではないビジネス関係を築ける可能性が高い。官民協 力したアプローチが望まれる。 4 5 森 ビ ル 株 式 会 社 HP よ り http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/g_resources/jirei/jireisyousai.html 17/32 JIME 中東動向分析 < 参 考 1> 20130927 各国の天然ガス国内価格(政府補助で安い) リビア MENA で 最 低 アリジェリア リビアに次いで安い サウジ $0.75/MMBTU( 電 力 ・ 石 化 ) カタル $0.75/MMBTU~ $2.75/MMBTU イラク $0.6/MMBTU( 肥 料 会 社 ) ~ $1.20/MMBTU( 電 力 ) バハレーン $2.50/MMBTU( ア ル ミ 精 錬 会 社 向 け ) オマーン $1.50/MMBTU か ら $3.00/MMBTU に 引 上 げ 決 定 エジプト $3.00/MMBTU・ ・ ・ エ ネ ル ギ ー 多 消 費 産 業 向 け $6.00/MMBTU に 引 上 げ る 方 針 ( セ メ ン ト 向 け は 既 に $6) イラン < 参 考 2> $0.75/MMBTU( 小 口 ) ~ $3.73/MMBTU・ リ ア ル 安 の 影 響 あ り 石炭火力の特性 図 3: 石 炭 火 力 ( 微 粉 炭 ) の フ ロ ー 図 出 所 : 沖 縄 電 力 HP 図 3 は日本の一般的な石炭火力である微粉炭火力のフロー図である。天然ガスや石油と 大 き く 異 な る の は 燃 え カ ス で あ る 石 炭 灰 の 処 理 が 必 要 で あ る こ と で あ る 。GCC 諸 国 の 主 要 電源である天然ガスと異なる点は燃料中に不純物(硫黄分、窒素分等)が含まれるため脱 硝・脱硫という排ガス処理が必要になる。また、固体である石炭を荷揚するには陸上に大 18/32 JIME 中東動向分析 20130927 型機器を設置する必要がある。微粉炭火力では、石炭を粉砕して微粉状にする粉砕機(ミ ル)も必要だ。石炭は天然ガスや石油より発熱量が低く燃料の投入量を多くするためボイ ラーを大きくする必要もある。すなわち、設備投資額は天然ガス火力や石油火力より多額 となる。また、設備が多い分だけ人出が必要で運転費が高くなるが、雇用を生むというプ ラス面でもある。 石炭灰や脱硫により製造された石膏(硫酸化合物の場合もある)の処理が石炭火力の適 正 上 最 も 重 要 な ポ イ ン ト と な る 。 ま た 、 大 型 船 で 受 入 れ る こ と が 燃 料 CIF 価 格 上 も オ ペ レ ーション上も必須となり、港の水深が問題となる。陸上に大型機器を設置するので、岸壁 前の水深が問題となる。石油タンカーではポンプによる圧送が行われるので海上の深い地 点に桟橋を建設することができるが、石炭ではそうはいかず十分な水深が確保できる地点 まで埋め立てなければならない。 また、石炭火力における水の消費は天然ガス火力や石油火力よりも大きくなる。石炭の 粉塵が飛散しないため、重機運転時の摩擦熱を冷やすため、脱硝・脱硫のため、石炭灰を 冷やすためやハンドリングのために水が必要である。石炭はほとんどがスチームタービン であり、ガスタービンよりも当然水の消費が多い。天然ガスや石油ではガスタービンやス チームとガス(燃焼ガス)の混合型も多い。 船舶により化石燃料を輸入し発電する国では臨海発電所が一般的である。石炭は固体で あ り 、パ イ プ ラ イ ン に よ る 輸 送 が で き る 天 然 ガ ス・石 油 に 比 べ 輸 送 コ ス ト が 高 く な る の で 、 輸入国では臨海発電所であることが必須となる。発電所からの送電コストを考えると電力 の 大 消 費 地 で あ る 大 都 市 が 内 陸 部 に あ る 国( 例 え ば イ ラ ン は 大 都 市 が 高 地 に 集 中 し て い る ) では石炭火力に適さないことになる。 19/32 JIME 中東動向分析 20130927 シリア:内戦の激化で崩壊寸前の経済 中東研究センター 外部研究員 中嶋 猪久生 シ リ ア 政 府 軍 は 反 政 府 軍 に 対 し 、戦 場 で 優 位 に 戦 闘 を 展 開 し て い る と は い え 、 “ 経 済 ”と いう戦線では敗走を重ねているようだ。 2011 年 3 月 の 内 戦 勃 発 以 来 、国 内 の 経 済 活 動 の 低 下 、外 貨 準 備 の 激 減 、通 貨 ポ ン ド の 下 落、ドバイやヨルダン、エジプト等近隣諸国への資本逃避に見舞われ、さらに、欧州や米 国による経済・金融制裁により糧道を断たれている。シリアの経済情勢に関する政府の公 式 発 表 が ほ と ん ど な い た め 現 状 分 析 は 難 し い が 、 UNDP、 経 済 専 門 誌 や 欧 米 メ デ ィ ア の 記 事 を 見 る 限 り 、内 戦 が 始 ま っ た 2011 年 3 月 以 前 と 現 在 を 比 較 す る と 、ど の 経 済 指 標 も 悪 化 の一途をたどり、シリア経済は今や崩壊寸前にある。 1. 経 済 社 会 生 活 全 体 に 及 ぼ す 影 響 シ リ ア の 経 済 社 会 全 般 に つ い て 、 The Economist ( 2013.08.10 )、 The New YorkTimes ( 2013.07.13)、 The Wall Street Journal( 2013.07.26)、 MEES 誌 ( 2013.02.15) の 経 済 専 門 紙 (誌)は次のように特色づけている。 ① 農業、貿易、製造業等の分野の操業率は内戦前の三分の一以下に落ち込んでいる。 ② 内 戦 前 に は 国 民 全 体 の 1%で あ っ た 貧 困 層 が 、 今 や 19%に 達 し て い る 。 ③ 内 戦 に よ る 損 失 コ ス ト は 約 400 億 ド ル 。4 分 野( 国 内 商 取 引 、第 一 次 産 業 、製 造 、輸 送 ) で 2012 年 12 月 末 ま で に 約 241 億 ド ル 。公 共 施 設 の 損 失 コ ス ト は 、少 な く と も 150 億 ド ル ( う ち 電 力 部 門 20 億 ド ル )。 ④ 物 価 は 商 人 や 消 費 者 の 実 感 か ら 、内 戦 前 の 少 な く と も 3 倍 。イ ン フ レ に 関 し て は 、2012 年 11 月 、中 央 銀 行 総 裁 は 対 前 年 比 49.51%と 発 表 し て い る 。内 戦 の エ ス カ レ ー ト と 共 に 、 生 産 体 制 や 供 給 ル ー ト の 崩 壊 に シ リ ア・ポ ン ド の 下 落 が 加 わ り 、イ ン フ レ は さ ら に 加 速 している。 ⑤ ポ ン ド は 、 政 府 の 防 衛 策 に も か か わ ら ず 、 内 戦 前 の 1 ド ル あ た り 47 ポ ン ド の 1/5~ 1/6 に下落している。 ⑥ 失 業 者 は こ の 2 年 間 で 5 倍 に 膨 ら み 、 失 業 率 は 60%に 達 し て い る 。 ⑦ 市 民 生 活 で は 、政 府 に よ る 公 共 サ ー ビ ス が 大 幅 に 欠 如 し 、予 算 不 足 の た め に 学 校 や 病 院 等の閉鎖、道路整備等への投資の凍結が目立つ。 ⑧ 政 府 は 兵 士 、 治 安 部 隊 、 警 察 官 を 含 む 約 200 万 人 の 公 務 員 の 給 与 の ア ッ プ ( 6/22、 約 40%)を 実 施 し た が 、燃 料 費 や 食 糧 費 の 値 上 げ に 吸 収 さ れ て 、購 買 力 の 損 失 を カ バ ー で きていない。 20/32 JIME 中東動向分析 20130927 ⑨ 外 貨 準 備 も 内 戦 前 に は 192 億 ド ル で あ っ た が 、今 で は 20 億 ド ル を 切 る 水 準 ま で 減 少 し 、 自 給 体 制 を 維 持 で き る 状 況 に は な い 。ロ シ ア 、イ ラ ン 、中 国 等 同 盟 国 か ら 食 糧 や 燃 料 の 供給、金融支援を受けて辛うじてしのいでいる。 2. GDPは 大 き く 減 少 2011 年 3 月 以 降 、GDPは こ の 2 年 間 で 60%減 少 6 し た 。2012 年 の GDPは 前 年 比 31%減 少 。 成長率も大きく落ち込んだ。 2010 年 3.2% 2011 年 ▲ 3.0% 2012 年 ▲ 10.0% 出 所 : MEES, 2013.05.31, 07.12 産 業 分 野 別 の GDP 寄 与 率 で は 、 2011 年 3 月 以 降 、 石 油 部 門 の 生 産 量 が 95%も 激 減 し た ため大きく変動している。 2010 年 2013 年 ( 推 定 ) 製造業 7% 2% 農業 17% 27% 石油 15% 3% 出 所 : MEES, 2013.07.12. 3. 農 業 生 産 は 十 分 の 一 に 低 下 内戦は農業に大きな影響を及ぼしている。生産量は十分の一と大きく減少し、今後さら に 悪 化 す る と の 見 方 が 有 力 で あ る 。 MEED 誌 ( 2013.08.02~ 08.08) は 、 UNDP を 引 用 し 、 次のように報告している。 ① シ リ ア 全 人 口 の 約 56%は 農 業 従 事 者 で 、こ の う ち の 80%は 農 業 収 入 に 依 存 し て い る が 、 このまま農業生産量が減少すれば、農業部門への打撃は大きい。 ② 小麦生産の見通しは、 2002~ 2007 年 465 万 ト ン ( 年 平 均 ) 2012/13 年 度 240 万 ト ン ( 政 府 見 通 し は 320 万 ト ン ) 2013/14 年 度 に は 、前 年 度 比 40%の 減 少 が 見 込 ま れ る た め 、約 150 万 ト ン の 輸 入 が 必 要 となる。 ③ 内 戦 は 国 土 の 荒 廃 を も た ら し て お り 、 2010 年 以 降 、 羊 や ヤ ギ な ど の 家 畜 用 牧 草 地 が 30 ~ 40%減 少 し た た め 、 食 用 肉 の 供 給 量 が 約 50%減 少 し た 。 6 The Economist, 2013.08.10 21/32 JIME 中東動向分析 20130927 4. 石 油 生 産 は 95%減 少 2011 年 3 月 か ら 2013 年 6 月 ま で の 間 、 内 戦 に よ る 生 産 設 備 の 破 壊 、 2011 年 9 月 実 施 の 欧 米 諸 国 に よ る 経 済 制 裁 、 盗 掘 や 略 奪 等 に よ る 石 油 ・ ガ ス の 損 害 額 は 117 億 ド ル 7 に 達 し て い る 。生 産 量 は 内 戦 前 の 38 万 b/dか ら 95%減 少 し 、現 在 は 約 2 万 b/dの 水 準 。2011 年 以 前 に は 、年 間 32 億 ド ル (原 油 の 輸 出 は ほ と ん ど が 欧 州 向 で 、年 間 約 30 億 ド ル の 収 入 を も た ら し 、 GDPの 25.1%を 占 め 、 自 給 自 足 体 制 に あ っ た ) の 石 油 収 入 が 確 保 さ れ て い た 。 石油に比べ、ガス生産の減少率は低いが、反体制派による石油・ガス田の占拠によりジ リジリ減少している。 石 油 生 産 ( 万 b/d) ガス生産(年産 億立法メートル) 2010 38.5 2000 年 代 中 頃 55 2011 32.7 2010 80 2012 16.4 2011 87 2013/1~ 6 3.9 2012 76 2013/5 2.0 2013/1~ 6 59 出 所 : BP Statistical Review of World Energy 2013; MEED, 2013.08.02~ 2013.08.08 5. 外 貨 準 備 は 190 億 ド ル か ら 20 億 ド ル に 激 減 内 戦 直 前 に は 190 億 ド ル あ っ た 外 貨 準 備 は 、 今 で は 20 億 ド ル を 切 る 水 準 ま で 落 ち 込 み 、 3 カ月分の輸入を賄えるかどうかギリギリまで追い込まれている。石油及び石油化学製品 は輸入に大きく依存しており、月あたり 5 億ドル相当の原油及び石油製品の輸入が必要 8 となっている。 ロシア、イラン、中国との貿易取引の決済は、主として、これら友好国の通貨(ルーブ ル、リアル、元)で行われている。 外貨準備の推移(億ドル) 2010/12 192 2011/5 174 2011/12 148 2012/8 151 2012/12 48 2013/5 40 2013/7 20(推 定 ) 出 所 : MEES, 2013.05.31, 07.12, 07.26, 08.09. 7 8 MEES, 2013.07.26 The New York Times, 2013.07.13 22/32 JIME 中東動向分析 20130927 6. 為 替 相 場 の 暴 落 内 戦 前 に は 1 ド ル あ た り 47 ポ ン ド で あ っ た 為 替 相 場 は 、 戦 闘 の 激 化 と 共 に 、 2013 年 7 月 か ら 8 月 に か け て 、 闇 市 場 で は 、 一 時 350 ポ ン ド を 突 破 す る な ど 大 き く 暴 落 し た 。 こ の 間の政府の動き、市場の反応、投資家の動きは次の通り。 ① 政 府 に よ る 為 替 相 場 の 防 衛 目 標 と し て 、公 定 レ ー ト を 1 ド ル 105 ポ ン ド と し た が 、市 場 で は 250 ポ ン ド に 急 落 す る な ど ポ ン ド 防 衛 に は 成 功 し な か っ た 。資 産 の 一 部 を サ ウ ジ ・ リ ア ル や UAEデ ィ ル ハ ム に 代 え る 投 資 家 や 資 産 家 の 動 き が 出 て き た 9 。 ② 7 月 に は 3 週 間 か け て 、シ リ ア 中 央 銀 行 は 9 回 の 外 貨 オ ー ク シ ョ ン を 実 施 し た が 、ポ ン ド 防 衛 に 失 敗 し た 。 為 替 相 場 は 1 ド ル あ た り 200~ 315 ポ ン ド の 間 を ジ ェ ッ ト コ ー ス タ ーのように激しい上下動を繰り返した。 ③ 政 府 は 市 場 の 動 き の 中 で 、さ ら な る ポ ン ド 防 衛 策 を 打 ち 出 し た 。闇 市 場 で の 両 替 の 禁 止 (7 月)とすべての商取引にポンド以外の外貨使用を禁止する(8 月)というものであ る。特に後者の規制に違反した場合には、 ・ 取 引 金 額 が 500 ド ル 以 下 の 場 合 、 懲 役 1~ 3 年 。 ・ 500 ド ル 以 上 の 場 合 、 金 額 に 応 じ て 、 最 長 10 年 の 強 制 労 働 付 き 懲 役 刑 の 厳 し い 罰 則 10 が 科 さ れ る 。 こ の 規 則 の 実 施 以 降 、1 ド ル あ た り 200 ポ ン ド 前 後 で 推 移 し て い る が 、政 府 に よ る 市 場 へ の 外 貨 投 入 額 が 限 定 さ れ て い る た め 、 禁 止 さ れ た 闇 市 場 で は 250~ 300 ポ ン ド で 秘 か に取引されているという。 7. 戦 費 の 調 達 方 法 シ リ ア 財 政 は 、2012 年 に は 歳 入 が 激 減 し て 、政 府 の 見 通 し に よ れ ば 、7,450 億 ポ ン ド( 約 100 億 ド ル ) の 赤 字 と な る 見 込 み 1 1 。 し か し 、 戦 費 の 調 達 、 財 政 赤 字 の 穴 埋 め 、 イ ン フ レ 対 応 等 の た め 、 実 際 の 財 政 赤 字 は 200 億 ド ル 前 後 と み ら れ て い る 。 政 府 は 対 応 策 の 一 環 と して、自国ではなくロシアで印刷した銀行券(紙幣)を持ち込み、公務員の給与支払いに 充 当 し て い る ( 詳 細 は 9-( 2) -② )。 国庫が空っぽの中で、内戦継続のため、政府は上納金、資産の接収や金融機関に対して 国 債 を 引 き 受 け さ せ る な ど の 方 法 で 戦 費 を 調 達 し て い る 。 Financial Times( 2013.2.1213) は次のように分析している。 ・ シ リ ア の 財 閥 で ア サ ド 大 統 領 の 従 兄 弟 で あ る Rami Makhlouf が 実 質 保 有 す る 携 帯 電 話 会 社 Syriatel は 2012 年 1~ 9 月 の 間 に 政 府 に 205 億 ポ ン ド を 上 納 し た 。 こ の 額 は 前 年 同 期 比 6%の 増 加 。ま た 、も う 一 つ の 携 帯 電 話 会 社 MTN も 2012 年 1~ 6 月 の 間 、116 億 ポ ン ド を 上 納 、 前 年 同 期 比 12%の 増 加 。 ・シリアのビジネス界では体制に忠実な役員から現金を上納させたり、反体制派の資産凍 結命令を出して資産や金を接収している。 9 The New York Times, 2013.07.13 The Wall Street Journal, 2013.08.09 11 Financial Times, 2012.12.05 10 23/32 JIME 中東動向分析 20130927 8. 銀 行 は 多 額 の 不 稼 働 資 産 を か か え 、 破 綻 寸 前 シ リ ア に は 全 20 行( 国 営 商 業 銀 行 6 行 、レ バ ノ ン 系 銀 行 6 行 、ヨ ル ダ ン 系 銀 行 3 行 、カ タ ル 系 銀 行 2 行 、 そ の 他 3 行 ) の 銀 行 ( MEES, 2013.8.16.) が あ る が 、 銀 行 業 務 の 電 子 化 、 決済システム、貸出資産の管理等の銀行業務に関する多くの分野で、中東地域の銀行と比 べるとはるかに遅れが目立つ。 戦 費 調 達 の た め の 強 制 的 な 国 債 購 入 や 融 資 を 強 い ら れ て い る た め 、元 利 金 の 返 済 が 危 ぶ ま れ る 不 良 債 権 ( NPL) を 多 く 抱 え て お り 、 不 良 債 権 に 対 す る 貸 倒 引 当 金 の 計 上 額 も 不 足 し て い る と み ら れ 、 MEED 誌 ( 2013.8.2~ 8.8.) は 、 シ リ ア の ほ と ん ど の 銀 行 は 実 質 破 綻 に 近い状況にあると以下のように分析し、今後どこまで耐えられるかと指摘している。 2011/12 末 2012/12 末 NPL/貸 出 総 額 6.6% 23%超 貸倒引当金 66 億 ポ ン ド 160 億 ポ ン ド 上 記 は 財 務 諸 表 を 公 表 す る 14 行 の 累 計 。 民 間 銀 行 だ け の NPL の 比 率 は 20~ 40%。 1 行 平 均 は 約 23%。 し か し 、 実 態 は 40%超 と み る エ コ ノ ミ ス ト が 多 い 。 9. ロ シ ア な ど に よ る シ リ ア 支 援 ぶ り シリア経済を支え続けているのは同盟・友好関係にあるロシア、イラン、中国の 3 カ国 で あ る 。 こ れ ら 3 カ 国 を 通 じ て 、 エ ネ ル ギ ー 支 援 ( シ リ ア 原 油 の 販 売 ・ 決 済 の 協 力 等 )、 貿 易 及 び 金 融 支 援 ( 食 糧 ・ 燃 料 の 提 供 を 含 む )、 武 器 の 供 給 等 3 つ の 分 野 の 支 援 が 行 わ れ ている。内戦以降、漏れてきた支援の具体的概要は次の通りである。 ( 1) エ ネ ル ギ ー 関 連 支 援 ①シリア産原油の販売支援 ・欧州や米国の経済制裁によりシリア産原油の輸出に困難をきたしているが、それでも販 売 や 転 売 で 支 援 し て い る の は ロ シ ア 、 イ ラ ン 、 中 国 ( 珠 海 振 戎 公 司 1 2 )、 南 ア ( Avon Oil Trading 1 3 )、 ア ン ゴ ラ ( Sonangol 1 4 )。 ・タンカー調達で協力しているのはロシアとイラン。 ・原 油 の 販 売 代 金 の 決 済 で 協 力 し て い る の は ロ シ ア の 2 銀 行( Novicombank, Gazprombank) 15 。 ②シリアへの原油・ガス、燃料の供給支援 ・ ロ シ ア 、 イ ラ ン 、 中 国 の 3 カ 国 は 燃 料 ・ 石 油 製 品 の 供 給 で 、 月 あ た り 5 億 ド ル の 支 援 16 12 13 14 15 16 Reuters, 2012.03.30 The Wall Street Journal, 2012.08.14 The Wall Street Journal, 2012.08.14 The Wall Street Journal, 2012.8.14 The New York Times, 2013.07.13 24/32 JIME 中東動向分析 20130927 を行っている。 ・ イ ラ ク は シ リ ア に 燃 料 オ イ ル を 供 給 1 7 し て い る 。2012 年 6 月 契 約 し た も の で 、イ ラ ク か ら シ リ ア 西 部 国 境 を 経 由 し て ト ラ ッ ク で 輸 送 さ れ て い る 。 市 場 価 格 の 50%割 引 で 販 売 さ れている。 ( 2) 貿 易 及 び 金 融 支 援 ① イ ラ ン は シ リ ア に 対 し 、総 額 70 億 ド ル に 上 る 包 括 的 金 融 支 援 1 8 を 行 っ て い る と い う 。そ の概要は次の通り。 10 億 ド ル イ ラ ン か ら の 商 品 輸 入 に か か わ る 輸 入 フ ァ イ ナ ン ス 。 Export Development Bank of Iran と シ リ ア の Commercial Bank of Syria の 間 で 取 引 決 済 が 行 わ れ る。この取引は必要に応じて増枠が可能とされる。 30 億 ド ル イラン産原油及び石油製品の輸入ファイナンス。 30 億 ド ル 一般融資枠 但 し 、米 国 や EU に よ る 制 裁 で 苦 境 に 立 つ イ ラ ン が 、シ リ ア に 対 し て 70 億 ド ル も の 金 融 支 援 を 行 う 余 裕 が あ る の か 、金 融 支 援 の 信 憑 性 や 実 効 性 に 疑 問 を 投 げ か け る 専 門 家 も 多 い。 ②長引く内戦による通貨不足解消のため、紙幣印刷用の紙不足や印刷技術がないためにロ シ ア に 印 刷 を 委 託 。2012 年 6 月 か ら 9 月 に か け て 、総 重 量 240 ト ン に 及 ぶ 銀 行 券( 金 額 は 不 明 ) が ロ シ ア の 空 軍 輸 送 機 に よ り シ リ ア へ 運 ば れ た 19 。 ( 3) 武 器 供 与 ロ シ ア と シ リ ア の 武 器 取 引 の 転 換 点 は 2005 年 に さ か の ぼ る 。 こ の 年 、 ロ シ ア は 、 旧 ソ 連 時 代 の シ リ ア に よ る 武 器 購 入 の 未 払 い 債 務 134 億 ド ル の 75%( 約 100 億 ド ル ) の 債 権 放 棄 を 行 っ た が 、翌 2006 年 、新 た に 約 40 億 ド ル 、さ ら に 2011 年 に 5.5 億 ド ル の 武 器 購 入 契 約 を 締 結 し た 20 。 兵 器 の 供 給 は ロ シ ア の 国 営 兵 器 輸 出 会 社 Rosoboronexportを 通 じ て 行 わ れ て い る が 、購 入 対 象 と な っ て い る 兵 器 は 、カ ラ シ ニ コ フ 、マ シ ン ガ ン 、手 榴 弾 、夜 間 用 照 準 器 付 ラ イ フ ル 、 攻 撃 用 ヘ リ 、 P-800 Yakhout対 艦 ミ サ イ ル 、 Pantsir-S1 短 距 離 防 空 ミ サ イ ル 、 地 上 攻 撃 用 軽 戦 闘 機 Y-130、Mig29M/M2 戦 闘 機 、防 空 ミ サ イ ル シ ス テ ム S-300 等 2 1 。こ れ ら の 兵 器 が シ リ アにどの程度引き渡されたかは不明。 米ロで合意し、国連安保理で議論されている化学兵器の問題だけでなく、シリア経済の 17 18 19 20 21 Financial Times, 2012.10.08 MEES, 2013.05.31 PROPUBLICA, 2012.11.26 Christian Science Monitor, 2011.09.11, 2013.05.31 UTSan Diego, 2013.05.30 25/32 JIME 中東動向分析 20130927 疲弊が停戦の実現にどの程度の影響を与えるのかが、イスラエル、イラン、トルコ、サウ ジアラビア等近隣諸国の動向とあわせて注目される。 26/32 JIME 中東動向分析 20130927 <トピック> となる情報の多くは機微なもので、情報源 欧 州 司 法 裁 判 所 、複 数 の 対 イ ラ ン 制 裁 の 破 の特定につながる恐れもあり公表できな 棄を求める い」と申し立てたが、裁判所には受け入れ 欧 州 司 法 裁 判 所 ( The Court of Justice of られなかったという。 the European Union)に お い て 、欧 州 連 合 理 欧州司法裁判所は一方で、メッリ銀行 事会が決定し、実施してきた対イラン制裁 ( Bank Melli ) と 欧 州 イ ラ ン 貿 易 銀 行 の破棄を求める判決が、相次いで下されて ( EIH/European-Iranian Trade Bank) に 関 し い る 。 こ れ ら の 判 決 を 受 け 、 EU の 対 イ ラ ては、 「 制 裁 は 妥 当 」と の 判 断 を 下 し た 。メ ン制裁をとりまとめてきたアシュトン上級 ッリ銀行はイラン原子力エネルギー庁 代表は、 「 対 策 を 練 る 必 要 が あ る 」と 述 べ て ( AEOI)に よ る 奨 学 金 の 送 金 を 行 っ て い た いる。一方で米国財務省は声明を発表し、 こ と 、 ま た 、 EIH は 制 裁 対 象 に 指 定 さ れ た 「対イラン制裁レジームを弱体化させる」 金融機関の「肩代わり」を行っていたこと 欧 州 司 法 裁 判 所 の 一 連 の 判 決 に 対 し 、「 失 か ら 、こ れ ら の 銀 行 に 対 す る 制 裁 は「 正 当 」 望」を表明した。 であるとされた。 EU が 制 裁 対 象 に 指 定 し て お り 、 欧 州 司 欧州司法裁判所の判決に対しては控訴 法裁判所がそのような措置は不当であると が認められており、最終的な判決が確定す 判 断 し た 制 裁 対 象 は 、す で に 10 企 業 以 上 に るまでは、制裁は現行のまま維持される。 上 っ て い る 。 皮 切 り と な っ た の は 2012 年 また、たとえ欧州で資産凍結などの制裁が 12 月 11 日 に 下 さ れ た 、「 ス ィ ー ナ ー 銀 行 解除された場合でも「 、イランか米国かの二 ( Sina Bank)へ の 制 裁 は 無 効 」と の 判 決 で 者択一」を迫る、米国による非常に厳しい あ っ た が 、 そ の 後 2013 年 に 入 っ て か ら も 、 対イラン制裁が制定されている今日、制裁 1 月 に は メ ッ ラ ト 銀 行 、2 月 に は サ ー デ ラ ー 解除は名目上のものに留まるとの指摘もあ ト銀行に対する制裁を無効とする判決が下 る。しかし一連の判決を受けてイランの政 された。そしてこの 9 月には、まず 6 日に 府関係者は「 、国際法違反があまねく見受け イ ラ ン の 郵 便 銀 行 ( Post Bank)、 イ ラ ン 輸 られる今日において、このように『法の支 出開発銀行、ペルシア・インターナショナ 配』が尊重されたことに、勇気づけられる ル 銀 行 、 労 働 者 福 祉 銀 行 ( Bank Refah 思 い で あ る 」 な ど と 述 べ た 。( 坂 梨 ) Kargaran) を 含 む 7 企 業 お よ び 1 個 人 へ の 制 裁 を 無 効 と し 、さ ら に 16 日 に は 、イ ラ ン オ マ ー ン : 政 府 が Omantel の 株 式 比 率 を 国 営 海 運 会 社( IRISL)に 対 す る 制 裁 を 無 効 51%ま で 引 下 げ る こ と を 表 明 とする判決が下された。 Omantel ( Oman Telecommunications 欧州司法裁判所のプレスリリースによ Company)は 9 月 17 日 に 財 務 省 よ り 政 府 が れば、これらの制裁を無効とする根拠とし 同 社 の 株 式 の 26%( 株 主 資 本 の 19%相 当 ) ては、①制裁の根拠とされている証拠が不 をオマーン人およびオマーンの機関投資家 十分であり、第三者を納得させられるよう に 公 開 す る と の 通 知 を 授 受 し た 。 Omantel なものではないこと、②制裁の根拠とされ は通信接続サービス会社株式を通じて同日 て い る 証 拠 の 中 に 、誤 り が 認 め ら れ る こ と 、 こ の 旨 を 発 表 し 、 MSM ( the Muscat ③制裁対象となった企業に対し、その理由 Securities Market)に 届 け 出 て い る 。諸 条 件 説明を怠っていること、などが挙げられて は CMA ( Capital Market Authority)が 決 定 い る 。欧 州 連 合 理 事 会 の 側 は 、 「制裁の根拠 する。 27/32 JIME 中東動向分析 20130927 オ マ ー ン 政 府 の Omantel へ の 出 資 比 率 は ンにとってパイプラインによる天然ガス輸 現 在 70%で あ り 、 こ の 株 式 売 却 後 は 比 率 は 出は原油に比べ安定的に外貨を得る手段と 51%に 引 き 下 げ と な る 。 同 社 の 株 価 は 本 ニ 思 わ れ る 。イ ラ ン は 2013 年 に 入 り パ キ ス タ ュ ー ス に よ り 4.31%の 下 げ と な り 8 週 間 で ンおよびイラクへの同じくパイプラインに 最 低 の RO1.53 と な っ た 。 下 げ 幅 は 3 月 31 よる輸出に合意しており、オマーンは 3 国 日以降で最大値を記録した。この結果年初 目となる。 来 で は 4.1% の 上 昇 率 に 縮 小 し た 。 な お 、 一方、オマーンは天然ガスの国内消費が MSM イ ン デ ッ ク ス は 年 初 来 14%の 上 昇 率 増 加 し て お り 、 合 併 前 の Oman LNGの ハ リ である。 ブ・キ タ ニ CEOは 、LNGの 長 期 契 約 が 2024 売 却 す る 19%分 の 時 価 は 約 RO228 百 万 ( $5.92 億 ) で あ る 。( 鈴 木 ) 年 に 失 効 し た 後 は 、契 約 の 更 新 を 行 な わ ず 、 LNGの 生 産 を 停 止 す る と の 考 え を 明 ら か に し て い る 。 ( 国 別 定 期 報 告 2013 年 1-3 月 オ マ ー ン:海 底 パ イ プ ラ イ ン に よ る イ ラ ン 2.4.6. 参 照 ) 国 内 消 費 は 発 電 用 と 原 油 生 産 か ら の 天 然 ガ ス 輸 入 に 関 す る MOU を 締 結 EOR 1 用 に 増 加 し て お り 、 イ ラ ン と の 本 オマーンはイランとの間で海底パイプ MOUは 天 然 ガ ス 不 足 が 背 景 と な っ て い る 。 ラインによるイランからの天然ガス輸入に な お 別 途 記 載 の ト ピ ッ ク ス の と お り 、Oman 関 す る MOU を 8 月 26 日 に 締 結 し た 。オ マ LNGは Qalhat LNGと 9 月 1 日 に 合 併 を 行 っ ーンのルムヒー石油・ガス相とイランのザ ている。 ン ギ ャ ネ 石 油 相 が 署 名 し 、27 日 に ザ ン ギ ャ ネ石油相が発表している。 イランで穏健と言われるロウハーニ政 権が誕生して以降、オマーンとイランとは イラン側によると供給は 2 年以内に開始 経済面・外交面さらに軍事面でも接近して し 25 年 間 の 契 約 と な る 見 込 み で あ る が 、オ き て い る 。 本 MOU 締 結 は 、 オ マ ー ン の ス マーン側はこのスケジュールに懐疑的なよ ルタン・カブース国王がイランを訪問した うである。ザンギャネ石油相によると取引 期間内に行われている。(鈴木) 総 額 は 600 億 ド ル と の こ と で あ る 。し か し 、 本 構 想 は 2009 年 に 価 格 が 折 り 合 わ ず 流 れ オ マ ー ン : 二 つ の LNG 合 弁 会 社 が 合 併 た 経 緯 が あ り 今 回 の MOU に お い て も 価 格 国 別 定 期 報 告 2013 年 1-3 月 で 報 告 し た と に つ い て は 同 床 異 夢 の 可 能 性 が あ る 。な お 、 お り 、オ マ ー ン の 二 つ の LNG 合 弁 会 社 で あ 中 東 経 済 専 門 誌 MEES は 、 2013 年 9 月 20 る Oman LNG と Qalhat LNG が 合 併 す る こ 日 付 け で 、 イ ラ ン 国 営 NIGEC ( State-run とが決定していたが、9 月 1 日に一つの完 National Iranian Gas Exports Company) が 行 全 に 統 合 さ れ た entity に な っ た 。 統 合 会 社 った経済性評価の結果、オマーン側の海上 の 社 名 は Oman LNG で あ る 。 Oman LNG( 生 産 能 力 : 660 万 ト ン /年 ) パイプライン受入地は北部の主要都市であ るソハールが候補地となったと報じている。 は 、 オ マ ー ン 政 府 51%、 Shell 30%、 Total イランは、天然ガスの確認埋蔵量が世界 5.54%、 Korea LNG 5%、 三 菱 商 事 2.77%、 第 2 位の天然ガス大国であるが、トルクメ ニスタンからのパイプラインによる輸入と トルコ・アルメニアへのパイプラインによ る輸出がほぼ同量であり、現在の輸出入は これらのみである。経済制裁に苦しむイラ 1 EOR と は Enhanced Oil Recovery( 原 油 増 進 回 収 )の 略 で 、石 油 の 回 収 率 を 高 め る 技 術 の こ と で あ る 。一 次 採 取 法 に よ る 採 取 量 が 減 衰 し て き た 際 に 、油 層 に 人 工 的 な 圧 力 を か け て 、採 油 す る技術で、水を圧入する水攻法、天然ガスや CO2 な ど を 圧 入 す る 方 法 が あ る 。 28/32 JIME 中東動向分析 20130927 三 井 物 産 2.77%、ポ ル ト ガ ル Partex 2%、伊 を 完 備 す る か 、開 催 を 11 月 以 降 の 冬 季 に 移 藤 忠 商 事 0.92%の ジ ョ イ ン ト ベ ン チ ャ ー で す こ と を 提 案 し て い る 。FIFA 側 も 、選 手 や あ り 、 Qalhat LNG( 生 産 能 力 : 330 万 ト ン / 観客の健康を考えても、夏季の開催は非現 年 )は 、オ マ ー ン 政 府 46.84%、Oman LNG 実 的 で あ る と の 認 識 を 示 し て い る 。一 方 で 、 36.8%、 ス ペ イ ン Union Fenosa Gas 7.36%、 英国プレミアリーグは冬季がシーズン中に 三 菱 商 事 3%、 伊 藤 忠 商 事 3% 、 大 阪 ガ ス あ た る た め 、夏 季 開 催 を 強 く 主 張 し て い る 。 3%の ジ ョ イ ン ト ベ ン チ ャ ー で あ っ た 。統 合 そのため、事実上他国での開催を提案して 後 の 比 率 は 報 道 さ れ て い な い 。 Oman LNG いるといえる。 の 正 式 名 称 は Oman Liquefied Natural Gas カタル側はタミーム首長を中心とする、 LLC で あ り 、1994 年 に 創 立 さ れ た 有 限 責 任 2022 年 最 高 委 員 会 の 下 で 計 画 を 進 め て い 合弁企業である。第 1 トレーンと第 2 トレ る 。 こ れ ま で に 、 2,000 億 ド ル 近 い 開 発 投 ー ン は Oman LNG が 所 有 し て い た 。 Qalhat 資 計 画 が 発 表 さ れ て お り 、日 本 に と っ て も 、 LNG は 2003 年 に 創 立 さ れ 第 3 ト レ ー ン を 交通などインフラ開発事業で参入する可能 所有していた。両者の統合により顧客重視 性 が あ る 。ま た 、2013 年 8 月 末 に 安 倍 総 理 の姿勢が強まり、供給の信頼性が向上する がカタルを訪問した際、タミーム首長との と予想される。 会談のなかで日本がインフラ開発で二国間 統合のメリットとして、操業の効率化に 協力を拡大する提案を行っている。したが よるコスト削減、熟練労働者の知識の共有 って、当面の間、開催の可否や運営をめぐ 化 、国 際 LNG 市 場 に お け る 柔 軟 性 向 上 が 期 る動向を注視する必要があるだろう。 待 さ れ る 。 PDO ( Petroleum Development (堀拔) Oman ) か ら の ガ ス 供 給 の 一 本 化 や Oman Shipping Company の 輸 送 の 一 本 化 が シ ナ ジ カ タ ル : Qatargas 4 が Petronas UK と 英 ー 効 果 と し て 期 待 さ れ る 。( 鈴 木 ) 国 向 け LNG の SPA を 締 結 Qatargas 4 は Petronas UK と の 間 で 2014 カ タ ル : サ ッ カ ー FIFA ワ ー ル ド カ ッ プ 開 年 1 月 か ら の 5 年 間 に 年 間 114 万 ト ン の 催に暗雲 SPA( LNG 売 買 契 約: 英 国 の Dragon import 2022 年 に カ タ ル で の 開 催 が 予 定 さ れ て terminal 向 け ) を 9 月 17 日 に 締 結 し た 。 い る 、 サ ッ カ ー の FIFA ワ ー ル ド カ ッ プ の Qatargas 4( 生 産 能 力 780 万 ト ン /年 ) は 、 開催日程について、関係者からの発言が相 QP ( Qatar Petroleum ) と Shell と の 合 弁 次いでいる。 ( QP70%、 Shell30%) で あ り 、 第 7 ト レ ー FIFA の セ ッ プ・ブ ラ ッ タ ー 会 長 は 9 月 上 ン よ り 出 荷 さ れ る 。 Petronas は マ レ ー シ ア 旬 、 サ ッ カ ー 専 門 サ イ ト 「 Inside World 国 営 石 油 会 社 で あ る 。な お 、Reuters は 9 月 Football」と の イ ン タ ビ ュ ー に お い て 、カ タ 23 日 付 け で 、本 契 約 は Qatargas が 供 給 責 任 ル開催について「我々は判断を誤ったかも を負うものではなく、より高い価格の仕向 しれない」と発言した。ワールドカップは け 先 が あ れ ば 他 へ 販 売 す る こ と を Qatargas 通常、6 月から 7 月の夏季に開催されてい に許容する内容であると報じている。 るが、同時期のカタルは猛暑で、気温は Qatargas は 2013 年 7 月 22 日 に マ レ ー シ 50℃ に 達 す る 。 こ の こ と か ら 、 当 初 か ら カ ア 向 け 第 1 船 目 と な る LNG 出 荷 の 船 積 み を タルでの開催を危ぶむ声があった。 ラスラファン港で行っている。当カーゴは カタルはスタジアムやピッチ上の冷房 Petronas LNG Ltd が 買 主 で あ っ た 。 マ レ ー 29/32 JIME 中東動向分析 20130927 シ ア は 長 年 LNG の 輸 出 国 で あ り 今 後 も 長 昨年 9 月に行われた第 1 回会議とほぼ同様 期 契 約 に 従 い LNG を 輸 出 す る が 、国 内 の 天 であった。 然 ガ ス 消 費 の 増 加 か ら LNG 輸 入 が 必 要 と 世界の天然ガス市場は、シェールガス革 な っ て い る 。な お 、Qatargas は 2011 年 7 月 命でガス価格の低下した北米市場、原油価 に Petronas と の 間 で 、 2013 年 か ら 20 年 以 格 リ ン ク の 価 格 フ ォ ー ミ ュ ラ に よ り LNG 上 に 亘 り 150 万 ト ン /年 の LNG を 供 給 す る 価格が高止まりしているアジア市場および HOA を 締 結 し て い た が 、 基 本 売 買 契 約 その中間である欧州市場という 3 市場に区 ( MSPA : Master Purchase 分されているが、アル・サダ大臣は、世界 Agreement) が 締 結 さ れ 、 Qatargas2 か ら の の LNG 市 場 は 、価 格 方 式 や 需 給 見 通 し に よ 第 1 船 目 の 納 入 と な っ て い る 。( 鈴 木 ) り 3 つの地域に分断されており、この価格 Sales and 差は当面続くと述べている。 カタル:アル・サダ・エネルギー工業相が LNG 産 消 会 議 ( 東 京 ) で 基 調 講 演 アル・サダ大臣は、米国における発電用 天然ガスの需要増加と同アジアの需要増加 第 2 回 LNG 産 消 会 議 が 9 月 10 日 に 東 京 と輸送燃料としての利用に言及している。 で 開 催 さ れ 、LNG の 最 大 輸 出 国 で あ る カ タ ま た 、米 国 の LNG 輸 出 は 制 度 面 で 、カ ナ ダ ルのアル・サダ・エネルギー工業相が生産 はコスト面・人材不足面でリスクがあると 者側の代表として基調講演を行った。消費 述べている。欧州については、米国からの 側 閣 僚 で は 、茂 木 経 産 相 が 基 調 講 演 を 行 い 、 石 炭 に よ り LNG 輸 入 が 減 少 し て い る こ と イ ン ド の シ ュ リ・ヴ ィ ー ラ パ・モ イ リ ー 石 について、エネルギー安全保障上の点から 油・天然ガス相と韓国の韓珍鉉(ハン・ジ 批 判 し た 。ア ジ ア の LNG 輸 入 増 加 見 込 み に ンヒョン)産業通商資源部第 2 次官が特別 つ い て は 、新 規 LNG プ ロ ジ ェ ク ト に よ り そ 講演を行った。 の需要増加に対応できるかどうかは不透明 今回の会議も昨年に引き続き、原油価格 であると指摘した。 リンクの価格フォーミュラの是非が最大の 以 上 を 踏 ま え て 、需 要 増 加 に 対 す る LNG テーマであり、消費国側が原油価格リンク 供給力拡張には安定した数量引取りと原油 の是正を主張し生産者側が継続を主張した リンク価格フォーミュラの維持であると主 のも前回と同様である。前回と異なったの 張していた。 は、今回は北米の供給者の講演が独立セッ 日本との関係については、同大臣はさま ションとして設けられ、米国国内天然ガス ざまな場面で日本へ将来にわたり安定的な の 基 準 価 格 で あ る ヘ ン リ ー ハ ブ( HH)価 格 LNG 供 給 を 行 う こ と を 約 束 す る と 述 べ て を ベ ー ス と し た LNG 供 給 に 言 及 し た こ と お り 、本 基 調 講 演 で は 日 本 と カ タ ル は LNG で あ る 。北 米 か ら の LNG 輸 入 は 、米 国 国 内 お よ び Crude( 原 油 お よ び NGL を 指 す と 思 天然ガスの基準価格であるヘンリーハブ われる)で深い関係にあることを強調して ( HH)価 格 を ベ ー ス と し た 価 格 フ ォ ー ミ ュ いる。(鈴木) ラで交渉が進められており、その現状に沿 った発言が相次いだ。 アル・サダ・エネルギー工業相の基調講 演で触れた主要項目は、①市場の 3 元化② サ ウ ジ ア ラ ビ ア:ジ ュ ベ イ ル 製 油 所 は 原 油 の処理を開始 Saudi Aramco Total Refining and 市 場 ご と の LNG 需 要 変 動 の 違 い ③ 原 油 リ Petrochemicals Co.( SATORP)は 9 月 12 日 、 ンク価格フォーミュラの維持の 3 点であり、 アラブ湾岸に面している新設のジュベイル 30/32 JIME 中東動向分析 20130927 製 油 所 ( 能 力 40 万 b/d) が 原 油 の 処 理 を 開 6 つの地下鉄路線は首都の中心部、政府の 始したと発表した。製油所の推定総費用は 施設、大学、商業地区、空港及び金融地区 140 億 ド ル 。2 つ の 原 油 常 圧 蒸 留 装 置( CDU) を 結 ぶ 。 駅 の 数 は 85 で 、 総 延 長 距 離 は は 各 20 万 b/d で 、最 初 の 装 置 は 現 在 フ ル 稼 176km 世 界 最 長 の 地 下 鉄 網 。 無 人 運 転 で 、 働 し て い る が 、2 番 目 の CDU は 9 月 末 完 成 2019 年 完 成 予 定 。建 設 は 、2014 年 1Q に 開 予 定 で 、 試 験 を 行 い 、 両 方 の CDU は 今 年 始 さ れ 、今 後 5 年 間 に 15,000 人 の 人 員 を 必 11 月 後 半 か ら 12 月 に か け て フ ル 稼 働 を 予 要とする。 定するが、来年 1 月もしくは 2 月にずれ込 む可能性がある。 サウジ通信局は、リヤードの人口は現在 の 600 万 人 か ら 次 の 10 年 に 850 万 人 に 増 加 SATORP は そ の 最 初 の カ ー ゴ ( 重 油 ) を と 予 想 。 リ ヤ ー ド の 地 下 鉄 は 、 日 々 116 万 9 月末に輸出することを希望している。コ 人 の 乗 客 を 輸 送 し 、さ ら に 、10 年 以 内 に 乗 ーカー装置とその他の二次設備が今後 2 ヶ 客 は 360 万 人 近 く ま で 増 え る と 予 想 さ れ る 。 月の間に生産の準備ができれば、重油の出 荷は少なくなり、自社の装置に供給するフ ィードストックとしてそれを使用する。 ( 2) メ ッ カ の 輸 送 シ ス テ ム メ ッ カ 市 長 は 、「 4 つ の 路 線 と 88 の 駅 を ジ ュ ベ イ ル 製 油 所 の 工 事 は 2010 年 8 月 に 開 もつ地下鉄と高速バスサービス網を含むメ 始 さ れ た 。そ れ は SATORP に よ っ て 運 営 さ ッカの公共輸送システムは、巡礼者及び市 れ て い る 。 同 社 は Saudi Aramco 62.5% 、 フ 民の輸送面で劇的な改善をもたらす」と指 ラ ン ス の Total 37.5% の 権 益 で 構 成 さ れ る 。 摘 。 総 工 費 165 億 ド ル 。 高度化した同製油所は世界でも最も充 フ ェ ー ズ 1 は 来 年 半 ば に 開 始 、費 用 は 68 実 し た 能 力 を 有 し 、ア ラ ビ ア ン・ヘ ビ ー( 重 億ドルと推定、完成まで 3 年を要す。 質油)の処理のみに限定するよう設計され グランドモスクを取り巻く地域では地下鉄 て い る 。 Total は SATORP が 低 硫 黄 デ ィ ー が設置され、一方その他の地域ではモノレ ゼルの生産を最大化するよう設定され、パ ールを使用。フェーズ 1 には、アビディヤ ラ キ シ レ ン を 年 間 70 万 t 生 産 し 、ベ ン ゼ ン でのウム・アル・クラ大学からサイエダ・ を 15 万 t/y、 プ ロ ピ レ ン を 20 万 t/y 生 産 す ア イ シ ャ ・ モ ス ク ま で の 30km の 路 線 の 建 る。合弁事業はサウジのダンマン港の北に 設が含まれる。 位置するジュベイル第二工業都市で開発を 高速バスサービスが補完的に配置され、 進めている。(永田) カ バ ー す る 地 域 は 60 の 駅 と 60km。 サウジアラビア:3 都市で地下鉄等輸送シ ( 3) ジ ェ ッ ダ の 地 下 鉄 ステムの整備計画が進展 ( 1) リ ヤ ー ド の 地 下 鉄 ジ ェ ッ ダ で は 、 総 工 費 93 億 ド ル の 地 下 鉄 の 建 設 計 画 が 進 行 中 。総 延 長 距 離 108km、 サ ウ ジ 政 府 は 7 月 28 日 、3 つ の 外 資 が 牽 46 駅 か ら な る 。 3 つ の 路 線 が あ り 、 オ レ ン 引するコンソーシアムに契約を発注した。 ジ ラ イ ン は 市 の 南 北 を 走 り 、22 駅 、ブ ル ー 総 投 資 額 は 225 億 ド ル で 、 米 国 の Bechtel ラ イ ン は 国 際 空 港 か ら 市 の 中 心 ま で 17 駅 、 Group に 94 億 ド ル 、ス ペ イ ン の Fomento de グ リ ー ン ラ イ ン は Old Palestine Road に 沿 Construcciones y Contratas( FCC) に 78 億 って走り、7 駅で構成される。(永田) ド ル 、イ タ リ ア の Ansaldo STS に 52 億 ド ル を発注した。 31/32 JIME 中東動向分析 20130927 UAE: ド バ イ 水 ・ 電 力 庁 の CEO が ソ ー ラ ーパークの進捗状況を確認 ド バ イ 水・電 力 庁( DEWA)の サ イ ー ド ・ モ ハ メ ッ ド・ア ル・テ イ ヤ ー CEO は 9 月 10 日、進捗状況をレビューするため、ドバイ の シ ー・ア ル・ダ ハ ル の モ ハ メ ッ ド・ビ ン ・ ラ シ ッ ド・ア ル・マ ク ト ゥ ー ム・ソ ー ラ ー ・ パークの第一フェーズの建設場所を訪問し た。 同ソーラーパークの第一フェーズは、今 年 末 に 完 成 予 定 で あ る 。 総 費 用 120 億 デ ィ ル ハ ム ( 32.7 億 ド ル ) で 、 全 て の フ ェ ー ズ が 完 成 し た 時 、 プ ロ ジ ェ ク ト は 100 万 kW の発電能力をもち、先進の調査研究センタ ーならびに、プロジェクトの様々な面を検 討する学生と科学者を支援する施設が建設 される。 第一フェーズでは、太陽エネルギーによ る 発 電 能 力 1.3 万 kW の 建 設 が 含 ま れ 、 直 接 DEWA の 送 電 網 に 連 結 さ れ る 。 プロジェクトはムハンマド首相により 開始された持続可能な開発イニシアティブ のためのグリーン経済の確立の方針に沿っ ており、同イニシアティブはエネルギー効 率の面でのリーダーとしてドバイの立場を 強化することを狙っており、再生可能エネ ルギーの利用を強化し、エネルギー源多様 化を目指すドバイ統合エネルギー戦略 2030 を 補 完 す る 。ド バ イ の 総 発 電 量 の 71% を 天 然 ガ ス 、 24% を 原 子 力 と ク リ ー ン ・ コ ー ル 、 5% を 太 陽 光 で 構 成 す る 。 ア ル・テ イ ヤ ー CEO は 建 設 場 所 に 足 を 運 び、スケジュール通りに進展しているプロ ジェクトに関して満足したことを表明した。 (永田) 32/32 中東動向分析 Vol.12, No.5 2013 年 9 月 27 日 発 行 ISSN 1347-7668 編集・発行:一般財団法人日本エネルギー経済研究所 中東研究センター 104-0054 東 京 都 中 央 区 勝 ど き 1-13-1 イ ヌ イ ビ ル ・ カ チ ド キ Tel: 03-5547-0230 Fax: 03-5547-0229 URL: http://jime.ieej.or.jp/ 禁無断転載 不許複製
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