眼球運動に基づく被験者群の選好パターンの考察

眼球運動に基づく被験者群の選好パターンの考察
A steady of preference patterns for subjects grouped according to eye movements
腰山 至
松下 裕
Itaru Koshiyama
Yutaka Matsushita
金沢工業大学
金沢工業大学
Kanazawa Institute of Technology
Kanazawa Institute of Technology
Abstract: In this paper we investigate the relation between gaze-parameters preference patterns when paired
comparisons of fashion stimuli are conducted. First, subjects are divided into two groups according to gaze-parameters.
Second, the preference pattern of each group is studied by the conjoint analysis.
1
はじめに
製品の感性評価には一対比較法がしばしば用い
られる.一対比較では,設定した評価基準に照らし
合わせて,2 つの代替案の差異の大きさの判断が要
求される.従って,設定した評価基準や代替案で差
異の大きさを明確に認識できるならば,有効な評価
方法となり得る.しかし,一人の評価者に全ての一
対比較判断を行わせると,多大な生理的,心理的負
担をかけるという問題も持っている.そこで,評価
者がどのような労力をかけて一対比較判断を行い,
最終的な選好結果を導くかを分析することは意味
があると思われる.
この観点で,村山ら[1]は,服飾のイメージ評価
の視線を分析をすることにより,影響のあるパラメ
ータの抽出を行った.その結果,2 つの固定された
イメージ(エレガンス,スポーティー)に対して,
視線総停留時間の影響力が強い可能性があること
を示した.本研究も,基本的にこのアプローチに従
うが,一対比較による服飾の選好に対して意味のあ
る視線パラメータの抽出を試みる.具体的には,次
の手順によって,視線パラメータと選好特性との関
係を検討する.
1. 視線分析のパラメータに基づいて被験者のグ
ループ分割を行う.
2. 各グループの選好特性を中屋の変法[2]とコン
ジョイント分析[3]によって考察する.
2 実験と視線分析
2-1 実験方法
被験者にファッションモデルを提示する.モデル
の要因は髪,トップス,パンツである.特に,トッ
プスとパンツの要因を考慮したものをケース 1 と
し,髪とパンツ考慮したものをケース 2 とする.各
ケースの要因と水準を表 1 に示す.
表1
要因
水準
各ケースの要因と水準
Case1
トップス
パンツ
白
黒
青
黒
Case2
パンツ
髪
黒
金
青
黒
表 1 より,ケース毎に 4 種類のモデルができる.
一対比較を行うために,4 種類のうち,2 組を選び
対表示した静止画像刺激(計 6 枚)を用いる.静止画
像刺激の例を図 1 に示す.
図1
静止画像刺激の例
被験者は大学生 20 人(男性 16 人,女性 4 人),年
齢は 22~23 歳である.
実験の測定環境を図 2 に示す.アイマークレコー
ダと刺激提示するパソコンまでの距離は約 60 ㎝で
ある.この距離は提示刺激がカメラのディスプレイ
全体に写るように定めた.また,アイマークレコー
ダでは測定精度を上げるため,右眼だけの視線を記
録する.両眼の測定を行うと,両眼間隔の個人差が
問題となるためである.
実験は次の手順で行った.
①アイマークレコーダを装着し,刺激を提示する
パソコンの四隅と記録する視線を合致させるた
めのキャリブレーションを行った.
②注視スライド(背景が白,中央に+印だけを表示)
を提示し,刺激提示が始まるまで見続けさせた.
③被験者の視線が注視スライドの+印を注視して
いることを確認した上で,静止画像刺激を提示し,
口頭で選好に対する評価値を回答させた.回答は
選好の程度について 7 段階尺度(図 3)で行わせた.
④手順の②~③が 1 試行であり,刺激提示から回答
が行われるまでが回答時間となる.この作業を一
人の被験者に対して,1 つのケースのみ,6 試行
繰り返した.
なお,実験を行う前の準備として,本実験とは水準
が異なる刺激を用いて,アイマークレコーダを装着
せずに,1 試行リハーサルを行った.また,各ケー
スは実験順序の効果を無視するため,カウンターバ
ランスをとった.
8㎝
モデル
モデル
A
B
被験者
30㎝
16㎝
29㎝
60㎝
停留点回数に含めない.すべての停留点の合計時
間を総停留点時間とする.
すべての一対比較の試行で,総停留点回数と総停
留点時間が一方のモデルに対してのみ大きくなる
眼球運動をした被験者群をグループ 1 とする.また,
総停留点回数と総停留点時間がそれぞれ別のモデ
ルで大きくなる眼球運動をした被験者群をグルー
プ 2 とする.1 試行でもこれらのパラメータの値が,
別々のモデルで大きくなる被験者をまとめてグル
ープ 2 を定義した.
3 結果および考察
3-1 回答までの平均時間
ケース毎の平均回答時間を図 4 に示す.横軸は試
行番号,縦軸は平均回答時間を表す.棒グラフに重
ねた実線は平均値±標準偏差を意味する.図 4 より,
グループ 1 のケース 1 では回答までの時間が短くな
っている.これは,はじめに刺激の見方を定め,後
半はそのルールに従ったと考えられる.また,ケー
ス 2 においては,はじめに一定の見方のルールを定
めることができず,後半は評価が苦しくなったと考
えられる.図 5 より,グループ 2 ではどちらのケー
スにおいても見方になんらかの傾向はみられない.
表 2 に試行番号と平均回答時間の相関係数を示す.
18.0
ケース1
16.0
平均回答時間 (秒)
画面と被験者の距離 (横)
刺激提示画面 (正面)
図2
非
常
に
好
き
好
き
少
し
好
き
ケース2
14.0
40㎝
実験環境
ど
ち
ら
で
も
な
い
12.0
10.0
8.0
6.0
4.0
少
し
好
き
モデル
A
好
き
非
常
に
好
き
2.0
0.0
1
2
3
4
5
6
試行No.
図4
モデル
B
グループ 1 の平均回答時間
18.0
ケース1
図3
アンケート
16.0
ケース2
14.0
平均回答時間 (秒)
12.0
2-2 視線分析と被験者の分類
アイマークレコーダで測定した視線分析のパラ
メータの定義について述べる.アイマークデータ
が 0.1 秒以上停留した場合を停留点として定義す
る[4].提示されたモデル内に視線が停留された回
数の合計が総停留点回数である.このとき,提示
されたモデル以外の背景部分に停留したものは総
10.0
8.0
6.0
4.0
2.0
0.0
1
2
3
4
5
6
試行No.
図5
グループ 2 の平均回答時間
表2
平均回答時間と試行番号の相関係数
-1
ケース1 ケース2
グループ1
-0.89
0.46
グループ2
0.53
0.66
ト
ッ
プ
ス
-0.8
-0.6
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
黒
白
3-2 分散分析およびコンジョイント分析
ケース毎に中屋の変法に基づく分散分析を行っ
た結果を表 3,4 に示す.表 3 より,グループ 1 で
は主効果と主効果×個人でそれぞれ 1%及び 5%有
意であった.最も好まれた刺激と最も好まれなかっ
た刺激には有意差があり,且つ被験者によって選好
の度合いが異なる.また,グループ 2 においても主
効果及び主効果×個人でそれぞれ 5%及び 1%有意
青
パ
ン
ツ
黒
グループ1
グループ2
図5
であった.表 4 より,グループ 1 では有意差はみ
られなかった.グループ 2 では,主効果と主効果
×個人でそれぞれ 1%及び 5%有意であった.
-1
-0.8
-0.6
ケース 1 の部分効用値
-0.4
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1
金
髪
表3
グループ
1
2
要因
平方和
全体
93.00
主効果
41.50
主効果×個人 36.00
組合せ
3.10
誤差
12.40
全体
88.00
主効果
17.80
主効果×個人 53.20
組合せ
5.00
誤差
12.00
表4
グループ
1
2
ケース 1 の分散分析表
自由度 不偏分散 分散比
判定
30
3
13.83
13.39 [**]
12
3.00
2.90 [*]
3
1.03
1.00
12
1.03
30
3
5.93
5.93 [*]
12
4.43
4.43 [**]
3
1.67
1.67
12
1.00
ケース 2 の分散分析表
要因
平方和
全体
114.00
主効果
7.75
主効果×個人 71.75
組合せ
3.25
誤差
31.25
全体
53.00
主効果
18.13
主効果×個人 26.88
組合せ
2.63
誤差
5.38
自由度 不偏分散 分散比
判定
36
3
2.58
1.24
15
4.78
2.30
3
1.08
0.52
15
2.08
24
3
6.04
10.12 [**]
9
2.99
5.00 [*]
3
0.88
1.47
9
0.60
次に,コンジョイント分析を行った結果をグルー
プ 1,2 の部分効用値を重ね書き図 5,6 に示す.図
5 より,グループ 1 においてはトップスのレンジが
大きい.よって,トップスをパンツよりも重要視し
ている.グループ 2 では,部分効用値がトップスと
パンツで均等であるため,どちらの要因に重みがお
かれているかは判断できない.図 6 より,グループ
1 では髪を重要視している.グループ 2 では,ケー
ス 1 と同じように髪とパンツで部分効用値にほと
んど差がない.
黒
パ
ン
ツ
青
ト
ッ
プ
ス
黒
グループ1
グループ2
図6
パ
ン
ツ
ケース 2 の部分効用値
以上のことから考察を行う.グループ 1 について,
ツ
主効果が表れたケース 1 では,見方に一定のルール
を設けたため選好が明確に定まったと考えられる.
このとき,トップスに重みをおいたルールになって
いると思われる.そのため,見方が定まらなかった
と考えられるケース 2 では,主効果が有意ではない.
グループ髪2 において,主効果が有意の場合,刺激
を詳細に見ていたことに起因する可能性がある.
見
髪
方について一定のルールがないということは個体
差につながる.よって,グループ 2 のケース 1 では,
被験者のばらつきが大きくなり,
部分効用値も小さ
パ
ン
くなったと考えられる.
ツ
パ
しかし,アイマークレコーダによる視線の軌跡で
ン
ツ
は,各グループとも被験者によって多種多様であり,
一定の傾向がみられない.グループ 1 のケース 1 で
トップスが重要視されたことについて,視線の軌跡
からは根拠を抽出することができなかった.このこ
との原因を抽出するための実験を行うことが今後
の大きな課題である.
4
おわりに
本論文では,服飾を着用したモデルを一対比較さ
せた静止画像刺激の視線分析を行った.その結果,
被験者を 2 つのグループに分けることができ,グル
ープ 1 では,刺激の要因の置き方によっては,刺激
の見方に一定のルールがありモデルの選好を顕著
なものにした.グループ 2 では,特に見方に一定の
傾向はなく,そのことが被験者のばらつきを大きく
したと考えられる.
5
今後の予定
ケース 1 のグループ 1 において,トップスの部分
効用値が大きくなった原因を視線分析によって検
討する.また,視線パラメータと評価に対する迷い
を検討する.
参考文献
[1]村山早智子,磯山佳子,風間健.(1995).被服イ
メージの視覚判定の際の眼球運動,繊維機械学会
誌,Vol.48,pp.52‐59
[2]新版 官能検査ハンドブック.(1995).日科技連
pp.830-831
[3]神田範明.(1995).商品企画七つ道具-新商品開
発のためのツール集-,日科技連.
[4]横田幹朗,村川三郎,西名大作.(2005).眼球運
動特性からみた眺望景観評価に関する研究,日本
建築学会総合論文誌,No.3,pp.84‐90
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松下 裕
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