JFRL ニュース Vol.5 No.20 Apr. 2016

ISSN 2186-9138
最近の合成甘味料事情 1/4
JFRL ニ ュ ー ス
Vol.5
No.20
Apr.
2016
最近の合成甘味料事情
はじめに
合 成 甘 味 料( 人 工 甘 味 料 )は シ ョ 糖( サ ト ウ キ ビ な ど ),ス テ ビ オ サ イ ド( ス テ ビ ア ),
グ リ チ ル リ チ ン( 甘 草 ),ソ ー マ チ ン( 西 ア フ リ カ に 生 育 す る ソ ー マ ト コ ッ カ ス ・ダ ニ エ リ
という赤い果実)に代表される天然甘味料とは異なり,甘味等を与える目的で加工食品等
に添加される非糖質系の食品添加物です(図-1 参照)。戦時中や終戦直後の砂糖不足の
時代では,砂糖の代替物質という位置付けでしたが,近年では食品の味質の改良,低カロ
リー食品のブームや,低う蝕性(虫歯になりにくい性質)を謳う菓子類への添加,インス
リン依存性糖尿病患者に対する食品等への利用など,機能性甘味料
1)
としても様々な食品
に使用されるほか,歯磨き粉や洗口液などの化粧品,医薬品の分野まで幅広く利用されて
います。
今回は様々な加工食品に組み合わせて使用される合成甘味料について,国内外の使用状
況や分析手法例をご紹介します。
図-1
国内で使用される主な甘味料
国内外における使用状況
現在,国内外にてよく利用されている合成甘味料ですが,とりわけ国内の法律にて指定
さ れ て い る 合 成 甘 味 料 は 表 - 1,諸 外 国 で は 一 部 使 用 が 認 め ら れ て い る が 国 内 で は 使 用 が 許
可 さ れ て い な い 合 成 甘 味 料 は 表 - 2 の 通 り で す 。 な お , EU で は 2009 年 1 月 20 日 以 前 に 認
可 さ れ た 一 部 の 添 加 物 は , 欧 州 食 品 安 全 機 関 ( EFSA) に よ る リ ス ク 再 評 価 が 進 め ら れ て お
り ,こ の う ち 甘 味 料 の 期 限 は 2020 年 末 ま で と さ れ て い ま す
2)
。最 近 で は ご く 微 量( 甘 味 度
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と し て 砂 糖 の 1000 倍 以 上 )に て 甘 味 を 呈 す る も の は 高 甘 味 度 甘 味 料 と 呼 ば れ ,そ の 利 用 方
法としては飲料や加工食品等における酸味及び塩味の低減といった役割だけでなく,健康
食品や医薬品等におけるビタミン,ミネラル,ポリフェノール類などによる苦味及び渋味
など不快味を和らげるマスキング剤として,さらには,ショ糖やエリスリトール,キシリ
トールと併用して,味覚としてのボディ感(コクや深み)を増加するなど,フレーバーエ
ンハンサー(風味強調剤)としての機能や役割も果たします。
余談ですが,現在ヒトが最も甘いと感じる物質は,ラグドゥネームという非糖質系の物
質 で す 。 そ の 甘 さ は 驚 異 的 で 砂 糖 の 22 万 〜 30 万 倍 と さ れ て お り ま す が , 毒 性 に つ い て は
詳細が不明であり,食品添加物としては未認可です
表-1
名
3)
。
国内で指定されている代表的な合成甘味料と諸外国の許可状況
称
CAS 登 録 番 号
EU(E 番 号 ) * 1
USA * 2
中 国 *3
砂糖に対する甘味度
アセスルファムカリウム
55589-62-3
◯ (E950)
◯
○
200 倍
アスパルテーム
22839-47-0
◯ (E951)
◯
○
100~ 200 倍
ネオテーム
165450-17-9
◯ (E961)
◯
○
7000~ 13000 倍
アドバンテーム
714229-20-6
◯ (E969)
◯
-
14000~ 48000 倍
サッカリン
81-07-2
◯ (E954)
◯
○
200~ 700 倍
スクラロース
56038-13-2
◯ (E955)
◯
○
600 倍
表-2
名
称
国内で使用が許可されていない合成甘味料
CAS 登 録 番 号
EU(E 番 号 ) * 1
USA * 2
中 国 *3
砂糖に対する甘味度
アリテーム
80863-62-3
◯ (E956)
—
○
1000~ 2000 倍
サイクラミン酸
139-05-9
○ (E952)
—
○
30 倍
ズルチン
150-69-6
-
—
-
200~ 400 倍
*1 Food Additives Database
https://webgate.ec.europa.eu/sanco_foods/main/?sector=FAD&auth=SANCAS
*2 Food Additives & Ingredients, Packaging & Labeling
http://www.fda.gov/Food/IngredientsPackagingLabeling/default.htm
*3 GB2760—2014 食 品 安 全 国 家 標 準 食 品 添 加 剤 使 用 標 準
食品等への使用量と表示
合 成 甘 味 料 の 食 品 へ の 使 用 量 は 食 品 衛 生 法 ( 厚 生 省 告 示 第 370 号 食 品 , 添 加 物 等 の 規 格
基準 第 2
添加物 F 使用基準)により品目ごとに定められていますが,アスパルテーム
( 1983 年 指 定 ) , ネ オ テ ー ム ( 2007 年 指 定 ) 及 び ア ド バ ン テ ー ム ( 2014 年 指 定 ) と い っ
た 一 部 の 高 甘 味 度 甘 味 料 に 対 し て は , 食 品 等 か ら の 摂 取 量 が ADI( 一 日 摂 取 許 容 量 ) を 大
きく下回ることから使用基準が定められていません。また,合成甘味料の食品表示は,物
質 名 及 び 用 途 名 [ 甘 味 料 ( ア ド バ ン テ ー ム ) な ど ] に て 表 示 さ れ ま す (食 品 表 示 基 準 )。 な
お,アミノ酸由来の合成甘味料であるアスパルテームを使用した食品や添加物には,先天
的な代謝異常疾患であるフェニルケトン尿症の患者が誤って大量に摂取することを防ぐた
め ,「 L-フ ェ ニ ル ア ラ ニ ン 化 合 物 で あ る 旨 又 は こ れ を 含 む 旨 の 表 示 」が 必 要 で す 。し か し ,
ア ス パ ル テ ー ム 誘 導 体 で あ る ネ オ テ ー ム や ア ド バ ン テ ー ム は L-フ ェ ニ ル ア ラ ニ ン 化 合 物
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で す が ,仮 に 摂 取 し た ネ オ テ ー ム や ア ド バ ン テ ー ム が 全 て L-フ ェ ニ ル ア ラ ニ ン に 変 換 さ れ
るとしても,その摂取量は無視できる量であるため,製品への表示は義務付けられてはい
ません。
合成甘味料の分析方法
4)
加工食品に用いられる合成甘味料は,より砂糖に近い甘さを再現し,味質を均一化する
ため,複数種を混ぜて使用されることがほとんどです。合成甘味料の分析法は食品の種類
や 同 時 に 測 定 す る 食 品 添 加 物 (天 然 甘 味 料 , 保 存 料 な ど )と そ の 構 造 的 特 色 ( 図 - 2 参 照 )
により,種々の異なった抽出法,前処理法,測定方法が報告されています。弊財団におい
ては主に透析法,水又は弱酸性メタノール溶媒によるホモジナイズ法による抽出を行い,
その後必要に応じてイオン交換カートリッジカラム,逆相カートリッジカラムを用いて精
製するほか,サイクラミン酸のように紫外領域に吸収が認められない物質は誘導体化して
紫外吸収検出器付き高速液体クロマトグラフィーにて定性及び定量しています。特に高甘
味 度 甘 味 料 は 食 品 中 の 含 量 が ppm か ら ppb レ ベ ル ( 100 万 分 の 1 か ら 10 億 分 の 1 ) と ご
く微量しか含まれておらず,より正確かつ高感度に分析を行うために,液体クロマトグラ
フ -質 量 分 析 計 又 は 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ -タ ン デ ム 型 質 量 分 析 計 を 用 い て 定 性 及 び 定 量 し て
い ま す ( 図 - 3 参 照 ) 5)。
サッカリン
アセスルファムカリウム
スクラロース
アスパルテーム
ネオテーム
アドバンテーム
サイクラミン酸ナトリウム
ズルチン
アリテーム
図-2
合成甘味料の構造式
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図-3
4/4
液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ -タ ン デ ム 型 質 量 分 析 計 を 用 い た 甘 味 料 (13 種 )の 一 斉 分 析
( MRM ク ロ マ ト グ ラ ム ; 左 か ら 順 に ア セ ス ル フ ァ ム カ リ ウ ム [AK], サ ッ カ リ ン [SAC], サ イ ク ラ ミ ン 酸
[CYC], ス ク ラ ロ ー ス [SUC], ア ス パ ル テ ー ム [APM], ズ ル チ ン [DU], ア リ テ ー ム [AL], ア ド バ ン テ ー
ム [AD],ネ オ テ ー ム [NE],レ バ ウ ジ オ シ ド A[REB-A],ス テ ビ オ シ ド [STV],レ バ ウ ジ オ シ ド C[REB-C],
イ ソ ス テ ビ オ ― ル [IST], 各 濃 度 500 ng/mL)
おわりに
近年,合成甘味料(特に高甘味度甘味料)には砂糖代替の役割だけでなく,ごく微量で
作用し,マスキング剤やフレーバーエンハンサーなど多岐の機能性をもたせた製品が開発
されています。その需要と利用範囲はますます増加・拡大していくと予想されます。その
一方で,より正確かつ迅速な分析方法も求められており,従来の高速液体クロマトグラフ
装 置 を 用 い た 分 析 方 法 だ け で な く ,液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ -質 量 分 析 装 置 を 用 い た 高 感 度 な 一
斉分析の研究にも期待が高まっています。
弊財団においても,様々な製品における合成甘味料の分析及び測定技術の向上を図り,
皆様のお役に立てるよう努めてまいります。
参考文献
1) 小 田 恒 朗 : 調 理 科 学 18, 87-93( 1985)
2) 欧 州 委 員 会 規 則 (EC)No 257/2010
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2010:080:0019:0027:EN:PDF
3) 佐 藤 健 太 郎 :“ 分 子 の 世 界 の ギ ネ ス ブ ッ ク ( 2)”,( 2014) 東 京 化 成 工 業
4) 日 本 薬 学 会 編 ,“ 衛 生 試 験 法 ・ 注 解 ” , 361-380( 2015) 金 原 出 版
5) Hiroaki Sakai, Azusa Yamashita, Masayoshi Tamura, Atsuo Uyama, Naoki Mochizuki:
Food Additives & Contaminants:Part A, 32, 808-816(2015)
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