金平 誠 開発・技術センター長 兼京田辺工場長 (取締役 専務執行役員) 特集 つばきグループの競争優位の源泉 「モノづくり現場」での 間断なきパワーアップ メーカーにとっての競争力の源泉は、技術・開発・生産といった 「モノづくりの現場」における力量であると考えています。 どの市場で、どの商品が、どのような背景で、どれだけ売れたかといった 「マーケティング情報」の陰に隠れて、見逃されがちな「現場」における 私たちの差別化戦略をご覧ください。 11 1. 基礎技術力 「メーカー」の優勝劣敗を決める数々の要素のうち、もっとも根幹に位置するもの。 それは「基礎技術力」であるとつばきグループは考え、高水準な投資を継続することで 他社との差別化を図っています。 差別化された基礎技術を構成する 3 つの主要項目 基礎技術力は、主として 3 つの構成項目から成り立っています。まずは、 「材料技術」 。どの ような素材を、どの部分に、どの程度使うことが、耐久性・耐摩耗性・静粛性や環境保護の点 で優れた商品づくりにつながるのか、高度な材料工学に基づいた研究開発と改良・改善を日々 続けることが重要です。2 つめは「加工技術」 。例えば理想とする切断面や表面を実現するた めに、どのような熱処理を行い、どのような加工を、どのような手順で施すかなど。 これは、単に耐久性・耐摩耗性・静粛性などの品質の良し悪しのみならず、生産コストにも直 結し、商品の価格競争力を大きく左右することとなります。そして 3 つめの重要項目が「評価 技術」 。例えば、自動車部品事業の第 2 の主力商品として期待しているパワードライブチェーン。 チェーンとスプロケットの噛み合わせ具合、チェーンにかかる張力や騒音など、事前のシミュ テクニカルセンター(京田辺工場) レーションによる評価を緻密に行っていることで、顧客の信頼を獲得しました。 基礎技術を重視する姿勢と投資余力に格差 「基礎技術」は、まさにメーカーの生命線でありながらも、直接的・短期的に、また、目に 見える形での業績への貢献度が測りにくいこともあり、投資への手が緩みがちになる分野で もあります。しかしつばきグループでは、業績の低迷期においてもこの分野に対して積極的 な投資を継続的に行ってきました。例えば、グループ最大の生産拠点である京田辺工場に設 置されているテクニカルセンター。延べ床面積約 1 万 4 千 m2 の同センターでは、最新鋭の 解析&シミュレーション、画像処理機器などを備え、人間の目や計算だけでは不可能な数々 の解析、シミュレーション、検査を日々行っています。小規模な企業が比較的多いチェーン 業界においては、グローバル化を続けるつばきグループと、同業他社との業績面での格差が 拡大しており、そのことが、投資余力の差を通して、基礎技術におけるつばきの競争優位性 をいっそう強固なものとしています。 研究開発投資 つばきグループの技術開発への投資 % 億円 40 36.0 34.2 4 36.8 3 30 22.2 2.3 20 2.2 2.3 2 1.7 10.9 10 1 0.9 0 0 03 研究開発費(左軸) 12 04 05 06 売上高研究開発費比率(右軸) 07 年度 つばきグループの競争力を支える 「解析&シミュレーション」と「画像処理」の技術 チェーン伝動の挙動・応力同時解析 2. 生産技術力 どんなに良い商品でも、それを効率良く、経済性の高い価格で、また顧客の絶対的な信頼に つながる最高品質で作り上げてこそ、業績の拡大につながります。この点においても、 つばきグループならではの優位性が確立されています。 「セル生産方式」の導入 セル同期生産活動の取り組み 大阪市鶴見区にあった本社工場を京都府京田辺市に移転させた 2001 年から 2002 年、 「現場改革」から「経営全体の改革へ」 つばきグループの事業環境は極めて厳しいものでした。需要全般の落ち込みと重い償却負担 04 年度 組立工程レベルの改革 が業績の足を引っ張りました。しかしその厳しい時期にチェーン事業部では、安易な不採算 組立作業のセル化により 商品からの撤退やアウトソーシング化に踏み込まず、むしろ果敢に生産方法の変革(=セル • 生産性アップ • 工程品質の改善 第一次セル同期生産活動期 生産方式の導入)に挑戦し、コストの引き下げと品質向上の両面を実現したことが、今日の 05 年度 高成長の礎となっています。セル生産方式は、一人または複数の作業者がひとつのセルの中 工場レベルの改革 部品加工と組立作業の同期化により で、製造工程の初めから終わりまでを一貫して受け持つ「自己完結性」の高い生産方式です。 • リードタイム短縮 • 在庫圧縮 ベルトコンベヤ等を使ったロット生産と比べ、工程ごとの仕掛品が発生せず、作業者の意欲 06 年度 と責任感の高揚に有効であることから、生産性と品質の向上に直結しています。 事業部レベルの改革 機械メンテナンスとの連動により • リードタイム短縮 • 設備停止時間の低減 セル生産方式がもたらした多くの飛躍的効果 第二次セル同期生産活動期 セル生産方式導入以降、労働生産性は 20%以上の向上をみせ、在庫回転率も大きく改善。 07 年度 国内外の営業・顧客レベルの改革 また何よりも作業者の生産性と品質向上への意識が高まることで、作業工程にかかわる自主 09 年度 • 売れる分だけ売れる速さで作る • 納期信頼性 100%の実現 • 棚卸在庫の半減 顧客との連動により 的な改善提案が活発になり、品質クレームが急減するという効果をもたらしました。京田辺工 場ではこれまで、同生産方式の適用範囲を、組み立て工程レベルから、工場レベルへ、さら に事業部レベルへと拡大させてきましたが、今後さらに、これを国内外の営業・顧客レベル にも拡大。 「売れる分だけ売れる速さで作る」という、よりジャストインタイムの理想に近づ けた「セル同期生産方式」へと改良していきます。 労働生産性と在庫回転率 向上を続ける労働生産性と在庫回転率 改善提案件数 セル生産方式導入以降に激増した 改善提案件数 回 130 クレーム件数 著しい減少傾向にある社外 品質クレーム件数 件 11 20,000 200 16,669 120 10 15,000 110 9 10,000 100 8 5,000 150 11,361 100 5,911 50 2,291 90 7 04上期 04下期 05上期 05下期 06上期 労働生産性( 2004 年度上期を 100 とする指数) 京田辺工場チェーン事業部における実績 06下期 07上期 在庫回転率(右軸) 07下期 年度 0 0 04 05 06 京田辺工場チェーン事業部に おける実績 07 年度 04 05 06 チェーン事業部 07 年度 精機事業部 自動車部品事業部 (2004 年度のチェーン事業を100とする指数) 13 3. 商品開発力 つばきグループは、自らが持つ技術優位性を最大限に生かし、時代が求めるニーズを絶えず 先読みした商品開発を行っています。 強い開発力が生み出した数々のヒット商品 効率的な工場内物流の切り札として、世界中の工場で今や当たり前に使われている天井走 行無人搬送システム「オートラン」 。この商品は、同業他社に先駆けて当社が開発した商品 です。同商品はその後さらに、集電子に接触することなく電力が供給される非接触給電型な パーツからシステムまで幅広い商品ラインアップ パーツ デバイス • チェーン • スプロケット • 歯付ベルト • 減速機 • パワーシリンダ モジュール システム • 搬送システム • 仕分けシステム ども開発され、高レベルのクリーン環境が要求される半導体工場などで活躍しています。こ の他にも、特殊コーティングを施すことにより耐食性能が従来品の 1.4 倍から 2.3 倍に向上 した「NEP チェーン」 、静粛性の高い自動車エンジンカム軸駆動用の「サイレントチェーン」 、 精機商品の「パワーシリンダ」や「パワーロック」など、つばきグループの強い開発力が生み出 したヒット商品が数多く存在しています。 • オートラン • 給紙 AGV 著しい増加をみせるつばきの特許件数 商品開発力における私たちの強さの根底には、前述した基礎技術力に加えて、極めて緻密 な商品開発戦略が存在します。詳細については、メーカーとしての競争力の根源にかかわる ことでもあり開示はできませんが、基本コンセプトとしては、まず自社のコア技術を客観的 に分析、さらに将来必要となるであろう技術や商品を複数の観点から予測、この 2 つを組み 合わせて、いつまでに、どのような技術開発・改良を行うべきかという「技術ロードマップ」を 今後の重点開発分野「モジュール」 期待の新商品「ジップチェーンリフタ」 作成していくというものです。私たちの特許保有件数は、ここ数年特に大きな増加を見せて います。 今後の注力分野は「モジュール」商品 つばきグループの強みは、パーツ、デバイス、モジュールからシステムまで一貫して供給でき るところにあります。このうち、今後私たちが特に重点的に商品開発を行っていく分野がモ ジュールです。その最も新しい実例が「ジップチェーンリフタ」 。チェーンでダイレクトに昇降 させる同装置は、一般に使われる油圧式に比べ、昇降速度が 3 ∼ 10 倍高速であり、かつ位置 決め精度が高いという特長があり、自動車の組み立てラインなどでの活躍が期待されています。 特許保有件数 従来の昇降装置の不可能を可能にするジップチェーン 増加傾向にあるつばきグループの特許保有件数 件 800 748 698 86 600 486 400 382 432 401 200 2 本のチェーンがジッパーのように噛み合って、1 本の 強固な柱状になることで、ダイレクトに昇降推力を伝 0 05 日本特許保有件数 14 06 外国特許保有件数 07 年度 達できる新開発のチェーン。従来の昇降装置では実現 不可能であった超高速・高精度運転を可能にした。
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