がん哲学の花 第30号

がん哲学の花
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一般社団法人「がん哲学外来」関西支部ニュースレター 第 30 号
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発行日:2016 年 8 月 15 日
■□■神戸に開催頻度の高いカフェがあります。主催者のドクター、笹子先生は、予約制で個人面談もしてくださいます。■□■
「御影がん哲学外来・メディカルカフェ
こころのともしび」を始めて
笹子三津留・真由子
2015 年の 9 月に樋野先生の名著「こころにみことばの処方箋」と出会って、心が激
しく揺すぶられました。私が長年、実現しないだろうなと思いながらぼんやりと描いて
いた夢がこんな形で実際に行われていたのです。いつもゆっくり話せない現実、時間に
追われる診療にもどかしさを感じていました。停年になったら、バーでも開いてお酒を
提供しながらカウンター越しに、ゆっくりとした時間の中でがん患者さんと何にもとら
われることなくお話しが出来たらいいな、こんな夢でした。バーじゃないけど、カフェ
があったんですね。
数千人のがん患者さんとおつきあいをしながら、死を目の前に突きつけられた人間の嘘のない真実の姿に多くのことを教わりま
した。困惑、苦悩、焦り、嫉妬、不安、恐怖、受容、渇望、諦観、感謝、様々な姿のどれもが人間の真実でした。診察室では、経
験した患者さんから教わったことを糧にして、目の前の患者さんに一言・二言お話しする事くらいしかできていません。もっとゆ
っくり時間があればと思いつつも、診察室の外には沢山の患者さんが待っています。
今年の 5 月から私達が通う御影の教会の協力を得て、場所を提供していただき、がん哲学外来・メディカルカフェを始めること
が出来ました。
「こころのともしび」と命名しました。来られる方のお一人お一人の心に灯火がともる場所になればいいなという思
いを込めました。私達は他の多くのがん哲学外来・メディカルカフェがやっているように、1-2 ヶ月に 1 回、見識のある方の講演
とカップリングして人を集めてやろうというよりは、事情の許す限り、出来るだけ頻回に開こうと考えました。多くの患者さんや
ご家族にとって、とても困っているとき、不安で仕方がないとき、誰かに今聴いて欲しいとき、それは待ったなしだというのが私
達の感じてきたことだからです。当面週に 1 回を目標にしています。個人面談を希望される方だけには、予約を取っていただいて
パーティションで区切られた一画で 30-45 分程度の時間を掛けて私が面談をしています。樋野先生に習って出来るだけ聴くこと、
ゆったりした気持ちを前面に押し出すこと(もっとも暇げな風貌となっているかどうかはかなり怪しいですが)を心がけています。
ただし、私は樋野先生のように聖書、哲学書、教育書などにちりばめられた先陣の名言はあまり持ち合わせていません。私に出来
ることは、ゆったりした時間の中で、愛を持って傾聴し、がん医療の現場で沢山の過去の患者さん、殊に亡くなっていかれた患者
さんから教わった言葉、ヒントになるキーワードを差し上げることくらいです。でも、皆さんに本当に喜んでいただき、感謝の言
葉をいただいていますことが何よりの励みです。人によっては、緊張が解きほぐされ、心からの涙をながされて晴れ晴れと、でも
泣きながら帰られる方もありました。
複数回来ていただいている方も数人あり、この様な機会をいただいていることの恵みを感謝しながら毎回楽しみに運営しており
ます。
これまでは平日のみの開催でしたが、8月以降は休日の開催も考えており、このときはミニレクチャー、ミニコンサートとも組
み合わせて開催しようと思っております。これからも一人でも多くのがん患者さん、ご家族のお役に立てればと願っております。
一般社団法人「がん哲学外来」関西支部の website の URL です。各カフェのスケジュールや連絡先を掲載しています。
http://azuma-clinic.wix.com/cancer-philosophy
■□■先日、東京の「たまケア Live」に参加しました。地域包括ケアが謳われる昨今、
「たまケア Live」は専門職と地域住民が、
気軽にフラットな関係で話ができ、参加した方が繋がっていけるような場です。今回は、10 月に開設予定のがんケアセンター「マ
ギーズ東京」の共同代表 鈴木美穂さんのお話をお伺いするために参加させていただきました。
「たまケア Live」では、代表のこと
を「キャプテン」と呼んでおられるそうで、キャプテンの糟谷さんにご寄稿いただきました。■□■
たまケア Live キャプテン
糟谷明範
医療・介護専門職と東京都多摩地区の住人に向けたイベント「たまケア Live」を平成 28 年 6 月 11 日に東京都三鷹市で開催しまし
た。たまケア Live は、
『医療・介護専門職と地域住民を“つなぐ”
』をコンセプトに東京で活動を行っている団体です。今回は癌を
テーマとし、NPO 法人マギーズ東京の鈴木美穂共同代表をゲストにお迎えし、自身のがん経験と 10 月開設予定の癌ケアセンター
「マギーズ東京」についてお話をして頂きました。
鈴木美穂さんは 24 歳の時に乳癌を経験。講演の冒頭では、実際にご本人ががん告知を受ける映像や手術室に入る映像が流れ、当
時の絶望感や孤独感がひしひしと伝わってきました。
『目の前が真っ暗になり、手術、抗がん剤、放射線、ホルモン治療、分子標的
薬と治療のフルコースを受ける中、何よりも苦しかったのは、その先の未来が想像できなかったこと。
「なぜ私だけが…」とどん底
の気持ちになり、家族や友達に囲まれていてもどこか孤独で、不安で、死ぬことばかり考えて、うつ状態で闘病していました。
』と
美穂さんは語っています。その後、
『一番苦しかった頃の自分と同じような状況の人に、あの時欲しかった情報や居場所を届けたい』
と、
「STAND UP」と「Cue」という 2 つの団体を立ち上げました。治療に関してはセブンスオピニオンまで行った経験を話され
ていました。
『納得して望む治療を選択することが大切であり、複数の医師に出会い、病気の治療だけではなく精神面もサポートし
てくれるかどうかなど、医師との相性も重視すべきで、患者さんは医師などの専門職に物言える患者力を身につける事が大切』と
いう言葉がとても印象に残っています。
今回のたまケア Live では、専門職のプロとして、専門職である前に一人の人として、それぞれの立場での考え方を見直すきっか
け作ってくれました。一人でも多くの住人や一人でも多くの専門職がこのような考え方にシフトしていけるよう、これからも“つ
ながる”活動を続けていきます。つながりが生まれることで、専門職は地域のことを知り、そこで暮らす人は専門職が何をしてい
るのかを知ることができます。私たちは医療・介護専門職である前に、その地域に暮らす一人の人です。ただ単に専門的な知識を
伝えるだけではなく、地域にある問題や文化、慣習を理解し、対等な関係で繋がっていくことが大切です。人と人とのつながりが
1 つのコミュニティとなり、さらにコミュニティ同士が繋がることで、たくさんのワクワクするようなことが住んでいる街の至る
ところで行なわれている。そんな未来を想像しながら、活動を続けていきます。
↑ 鈴木美穂さん
<<編集後記 by あず>>
「たまケア Live」への参加は 2 回目である。初めて参加したとき、対話の場の雰囲気が「あずまや」と似ている印象をもった。が
ん哲学外来やリレー・フォー・ライフの活動を通じて、職種を超えて語り合える仲間がたくさんいることを実感している。メディ
カルカフェでもいい。患者会でもいい。リレー・フォー・ライフでもいい。自分が行ってみようと思える場が一つあるだけで、そ
こに自分の役割が花開く。