肺がんCT検診を巡る国内外の動向と現状 ─ 低線量CT検診の普及に向けて─ 4.低線量肺がん CT 検診の 普及に向けて ─ 被ばく線量管理システムの提案 石垣 陸太 京都医療科学大学医療科学部 被ばくの形態は, 「医療被ばく」 「公衆 高速演算処理,高感度検出器等の実現に 被ばく線量値の管理に 必要な規格と情報 被ばく」 「職業被ばく」の 3 つに大別される。 より, 「より速く,より高画質,より低線量」 なかでも一般の関心を引くのは, 「医療被 と,被ばく低減を強く意識した流れにある。 ばく」である。放射線に携わる関係者以 現在,肺がん死の減少を目的として, 外でこの 3 つを区別し,かつ単位の持つ 低線量 CT の下で検診を行う「低線量肺 医療分野における通信と画像保存の 意味を把握することは,時間,お金,労 がん CT 検診」が実施されており,その実 世界標準規格として,DICOM 規格 1)が 力を必要とし,迅速さを求める状況下では, 施施設数,認定資格保有者数は共に増加 ある。DICOM PS 3 . 16 2009 Content 困難と言える。昨年 3 月の福島第一原発 傾向にある。ここで,低線量 CT 検診のさ Mapping Resource 2)には,DICOM 事故では,医療被ばくも一括りにされて らなる普及を考えた場合に,方法は 2 つ DoseSR(SR:Structured Report)が 報道されることも多く,混乱を招いている。 考えられる。1 つは,最新情報を遅滞なく 示されている。 原発事故をきっかけに再び,放射能と被 関係者へ案内すること,2 つ目に,実態 CT 画像ファイルは CT Image Stor- ばくへの関心は,これまでになく高くなっ 把握により医療の質にばらつきが生じない age Class と同じように,線量情報ファ ているのが現状である。 ように支援することである。ここで,2 つ イルには X-Ray Radiation Dose SR 医療被ばくの大小という話題になると 目について,日本 CT 検診学会技術部会 Storage Class がある。X-Ray Radia- 必ず引合いに出されるのが,IVR(inter- (部会長:花井耕造氏・国立がん研究セ tion Dose SR Storage Class は,PS ventional radiology)と CT 検査である。 ンター東病院)は, 「何かと引き合いに出 3 . 16 に示されている構造化体系で作成 むろん,臨床ではリスクとベネフィットの される CT 検査は,世論の関心からも推測 されたデータ(ファイル)である。 常識的判断によって検査,治療は進めら されるように,低線量で実施したことの証 C T 装 置 の 線 量 情 報 とし て,C T れるが,時に臨床的成果を求めるあまり, 拠(検証)が求められる」と,述べている。 Radiation Dose SR IOD Templates 非常に大きな積算線量になってしまう場 この証拠が持つ意味は,対外的には顧客 Structure を使用して作成される。これ 合がある。このため,手技中は患者状態 サービスのひとつである“安心”であり, は DICOM CT RDSR(RDSR:Radia- の監視に加えて,照射の条件設定と積算 対内的には自施設の意識の高さと医療の tion Dose Structured Reports)と呼ば 線量の注視も必要であると言える。 質と考えられる。なお,証拠とは画質等 れており,構造はツリー状で,その中に これまで X 線画像診断装置は, 「より速 も含めて多く考えられるが,本稿では「被 被ばくに関係する CTDI,DLP,Total く,より高画質」をめざして大線量を必要 ばく線量値」とする。 D L P の項目が納められている。また, としてきたが,近年はさらなる技術進歩で, IHE はこれらの活用方法について,特定 機能として相互通信を意味するテクニカ ルフレームワークを IHE-REM 3) (IHERadiation Exposure Monitoring)とし て示しており,IVR やマンモグラフィが 対象である。なお,この IHE-REM は, 日本では実現していない。 これらの値を示せるアプリケーション としては,装置付属と専用とに分けられ る。装置付属は,CT 装置メーカー独自 16 INNERVISION (27・7) 2012 〈0913-8919/12/¥300/ 論文 /JCOPY〉 特 集 のアプリケーションで,C T 検査後に 問した UCLA があるカリフォルニア州で 肺がんCT検診を巡る 国内外の動向と現状 いる。 Dose Report としてデータ提供の準備が は,医療施設およびクリニックの診断レ 図 1 に,UCLA の ACR DIR 構成を示 されるものである。専 用については, ポートに被ばく線量値を記載する法令 6) す。PACS へは,DICOM 規格の付帯情 Web 検索すれば有料,無料と多く存在 が決まっている。 している。また,国外の高機能なアプリ ケーションを取り扱う代理店もある。こ のように,被ばく管理の動きが国内でも, ここ数か月で急速に見受けられるように なった。 米国の現状 DIR 運用の実際 本サービスを受けるには,事前に自施 報と画素情報が送信される(→) 。専用 アプリケーションへは一部の付帯情報の みが送信されて,ACR 送信リストに表 示される(→) 。その後,一日に一度, 匿名化されて ACR へ自動送信され,リ 設の CT 装置が Dose Index Registry ストから消える。容量は付帯情報しか扱 (DIR)に対応しているかを確認しなけれ わない( →は D I C O M R D S R)ため, ばならない。D I R 対応の確認方法は, 1 検査あたり数十 KB であり,1 日分確 DIR の登録サイト 4)から確認できる。未 保の容量も CT 台数によるが,最大 1 GB あれば余裕と考えられる。 本年(2012 年)1 月に日本 CT 検診学 対応の場合は,線量レポートを O C R 会技術部会では,低線量肺がん CT 検 (optical character reader:光学式文 次に,データ参照するには Web を使 診の普及を目的として作成された検診 字読取装置)にて取り込むサービスも用 い,NRDR の DIR からユーザー区別, データベースの改良と,新たに追加され 意されている。 施設 ID,利用者名およびパスワードで る機能として線量管理の必要性が議論 W e b サ イト で A C R が 関 係 す る 入る(↓↑) 。ログイン者は,A C R の された。この中で,日本での CT におけ National Radiology Data Registry 7) Triad Server で自動解析された結果を る被ばく線量管理の方法において,先例 (以下,NRDR)から DIR(CT に限局) 参照できる。参照項目は部位別の線量, を知ることが必要との結論に達した。先 を選択し,使用の同意後,施設名をは 件数等である。また,自施設の結果を 例とは,2005 年に Richard L. Morin, じめ各項目を登録する。その後,ACR 自施設が所属する地域の施設群や,全 Ph.D.(Mayo Clinic in Jacksonville, より,CT 装置と直接通信する専用のア 参加施設群と比較できる。この根拠に Florida)によりパイロットスタディが開 プリケーションが提供される。この専用 より,検査プロトコールの見直しを行う。 始され,今日の米国放射線医学会(The アプリケーションは,自施設のハードウ American College of Radiology:以下, エアに入れて自施設で設定する(ACR ACR)による被ばく線量指標値の管理 のカスタマーに相談可) 。そのため,事 システムが運用されている事例である。 前に医療情報系の担当者の協力を得な これは,DICOM CT RDSR ファイルを ければならない。また,そのほかにも, 扱われ,他施設の線量値は推測される 用いて,Dose Index Registry 4)として 施設により検査名および部位名が異なる のみであった。ACR DIR の企画意図 実 現されている( 以 下,A C R D I R) 。 ため,ACR の指定する分類に従い区分 は,単に北米医療施設,あるいはそれ以 ACR DIRは,米国内に限らずブラジルや けをしなければならない。これは ACR 外の医療施設における線量情報を収集 カナダと,その参加登録施設を増やして Dose Tagging と呼ばれている。 し,その結果を参加施設に報告すること DIR の目的 米国においても線量値は自施設のみで いる(2012 年 3 月で約 400 施設) 。立 利用料金は初回のみの登録費用が にある。 ち上げた Richard L. Morin,Ph.D. は現 500 ドル,放射線科医数および登録する DIR での収集情報により,例えば, “米 在,ACR DIR の Chairman である。 CT 台数で決まる。UCLA の場合は,日 国における胸部 CT に使用されている標 米国における DIR の現状調査とユー 本円で約 18 万円 / 年(1 ドル 80 円換算) 準線量は如何ほどか”といった,非常に ザーインタビューを目的として,村松禎 である。 単純な疑問に根拠に基づいて答えられる 久氏(国立国際医療研究センター)を中 D I R に対応した C T 装置であれば, ようになる。次に,各施設がこうした情 心としたチームが組まれ,その調査先が, CT オペレーションのシステム設定から 報を持っていれば,自施設の線量が標 David Geffen School of Medicine at “Send DIR”にチェックを入れる。検査 準と比較して妥当かどうかを判断するこ 5) UCLA(以下,UCLA)教授の Michael 後は PACS へ送信するのと同時に,専 とができる。そして,自施設の線量が他 M c N i t t - G r a y , P h . D . に決定された。 用アプリケーションへも患者個人情報, 施設と比較して著しく高いと判断できれ UCLA は Dose Index Registry Partici- 線量値を含めて送信される。すなわち, ば,線量を低くする根拠となる。次に, pating Facilities の 1 つであり,Michael 全検査において診療放射線技師の DIR DIR にかかわる職種は放射線科医,診 McNitt-Gray, Ph.D. は医学物理士で, 情 報 の 送 信 作 業 はない。M i c h a e l 療放射線技師,医学物理士であり,そ UCLA の ACR DIR 責任者である。この McNitt-Gray, Ph.D. は, 「ACR DIR れぞれの役割は以下のとおりである。 ACR DIR は RSNA の Stakeholder 以外にも線量のデータベースを作成する 1)放射線科医 ① プロトコールのレビューと診断タスク Meeting で扱われ,また,デモンストレー ソフトウエアがあるが,ACR DIR は少 ションも行われるなど,非常に重要な位 なくとも数千の施設をサポートすること 置づけとして運用されている。今回,訪 を目的として企画されている」と述べて が適切であることの確認 ② ACR DIR からのデータのレビューと INNERVISION (27・7) 2012 17
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