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JFRL ニュース Vol.4 No.36 Aug. 2014

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ISSN 2186-9138
TOF/MS について 1/4
JFRL ニ ュ ー ス
Vol.4
No.36
Aug.
2014
TOF/MS に つ い て
はじめに
TOF/MS と は , 質 量 分 析 法 の 一 種 で Time of Flight Mass Spectrometry( 飛 行 時 間 型 質
量 分 析 法 ) の 略 称 で す 。 1946 年 に W.E. Stephens に よ り 紹 介 さ れ , 田 中 耕 一 氏 の ノ ー ベ ル
賞 受 賞 で 一 躍 有 名 に な っ た マ ト リ ッ ク ス 支 援 レ ー ザ ー 脱 離 イ オ ン 化( MALDI)法 と 組 み 合 わ
せて高質量の生体高分子の分子量決定などに広く利用されてきました。最近では高速液体
ク ロ マ ト グ ラ フ ( LC) と 組 み 合 わ せ る こ と に よ り , 食 品 ・ 環 境 ・ 高 分 子 分 析 , 薬 物 動 態 研
究などにおいて未知化合物の構造推定,網羅的解析など多岐の用途に活用されるようにな
っ て き て い ま す 。TOF/MS は 幅 広 い 質 量 範 囲 の 精 密 質 量 を 網 羅 で き ,測 定 条 件 の 設 定 が 容 易
なため農薬・動物用医薬品やカビ毒などのスクリーニング分析にも使用されています。
今 回 は , TOF/MS の 原 理 ・ 特 徴 と と も に , 弊 財 団 で の LC-QTOF/MS( 詳 細 は 後 述 ) の 活 用
例についてご紹介します。
TOF/MS の 原 理
イ オ ン 源 に お い て 一 定 の 電 圧 で 加 速 さ れ た イ オ ン は , ( m/z ) 1 / 2 に 比 例 し た 時 間 の 経 過 後
に 検 出 器 に 到 達 し ま す( 図 - 1 参 照 )。し た が っ て ,イ オ ン が 検 出 器 に 到 達 す る ま で の 時 間
( 飛 行 時 間 ) を 精 密 に 測 定 す る こ と に よ り , イ オ ン の m/z を 精 密 に 測 定 す る こ と が で き ま
す。
( 注: m/z は 従 来 ,質 量 電 荷 比 と 呼 ば れ て い た も の で ,イ オ ン の 質 量 を 統 一 原 子 量 単 位
で割り,さらにイオンの電荷数で割って得られる無次元量
2)
。)
TOF/MS の 原 理 的 に は 図 - 1 に 示 す よ う な , イ オ ン 源 か ら 検 出 器 ま で イ オ ン を 直 線 的 に 飛
行させる「リニアモード」がシンプルですが,単純に飛行時間を長くして分解能を高めよ
うとすると装置が巨大になるため,直線的に飛行させた後にイオンミラーを用いて反転さ
せる「リフレクターモード」のような改良型が一般的です。その他,同一軌道を複数回飛
行するようにすることにより,小型で分解能を数万以上にまで向上させたタイプも開発さ
れ て い ま す 。TOF/MS は 原 理 上 ,測 定 で き る 質 量 範 囲 に 制 限 が な い た め 高 分 子 の 分 析 に 適 し
た質量分析法ともいえます。
イオン源
検出器
加速電圧
V
図-1
自由空間
TOF/MS の 原 理 ( 簡 単 の た め イ オ ン ミ ラ ー の 無 い リ ニ ア モ ー ド で 示 し て い ま す 。)
○ 印 は イ オ ン を 示 し , そ の 大 き さ の 違 い は m/z の 違 い を 表 し て い ま す 。
Copyright (c) 2014 Japan Food Research Laboratories. All Rights Reserved.
一般財団法人日本食品分析センターJFRL ニュース編集委員会 東京都渋谷区元代々木町 52-1
TOF/MS について
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イオン化
原理的には高質量まで測定できるとしても目的物質をイオン化しなければ測定はでき
ま せ ん 。TOF/MS に 使 用 さ れ る イ オ ン 化 法 に は ,一 番 相 性 の よ い と い わ れ る MALDI の 他 に も
エ レ ク ト ロ ス プ レ ー イ オ ン 化 ( ESI), 大 気 圧 化 学 イ オ ン 化 ( APCI) な ど が あ り ま す 。 詳 細
は JFRL ニ ュ ー ス Vol.4 No.15( http://www.jfrl.or.jp/jfrlnews/files/news_vol4_no15.
pdf) を ご 参 照 く だ さ い 。
質量校正(キャリブレーション)
TOF/MS の 特 徴 と し て ,測 定 さ れ た 精 密 質 量 数 か ら 物 質 の 組 成 式 推 定 が 可 能 な こ と が あ げ
られますが,そのためには質量数の精度が大変重要となります。質量数の明らかな化合物
の溶液を分析し,質量軸の校正を行います。また,イオンに適用するエネルギーのごくわ
ずかな変化でさえも質量軸のずれを引き起こす可能性があり,このような質量のずれを補
正する機構も必要です。
質量校正や微妙な質量のずれを補正する手法はメーカーにより様々ですが,必要に応じ
た校正を行い,精密な質量数を得ることが組成式推定においては不可欠です。
精密質量数と組成式の推定
炭素原子の安定同位体には
12
Cと
13
C が 存 在 し ま す が ,1 2 C の 質 量 数 を 12 と す る 各 元 素 の
精 密 質 量 数 は , 1 H= 1.0078, 14 N= 14.0030, 1 6 O= 15.99490 に な り ま す 。 精 密 質 量 数 が 得 ら
れると,このわずかな質量数の差を基に化合物の組成式を推定できるようになります。例
え ば ,と も に 質 量 数 44 の 二 酸 化 炭 素( CO 2 )と プ ロ パ ン( C 3 H 8 )は こ の ま ま で は 識 別 で き ま
せ ん が , 精 密 質 量 数 を 見 る と そ れ ぞ れ 43.9898 と 44.0624 と な り 識 別 可 能 で す 。
元 素 に は 同 位 体 が 存 在 し ま す が ,天 然 存 在 比 が 最 大 の 同 位 体
16
12
C( 98.93 %),1 H( 99.9885 %),
O ( 99.757 % ), 1 4 N ( 99.632 % ) だ け か ら な る イ オ ン ( 主 イ オ ン ) か ら 求 め た 質 量 を
monoisotopic mass と い い , 組 成 式 の 推 定 に 用 い ま す 。 一 方 , 1 3 C, 2 H, 1 7 O, 1 5 N な ど 主 イ オ
ン 以 外 の 同 位 体 を 含 む イ オ ン を 同 位 体 イ オ ン と い い ま す 。 そ の 中 に は 塩 素 ( 3 5 Cl: 3 7 Cl =
100: 31.98) や 硫 黄 ( 32 S: 33 S: 34 S= 100: 0.79: 4.43) の よ う に 独 特 の 同 位 体 パ タ ー ン を
持つ元素が存在します。推定した組成式にこれらの元素が含まれる場合,そのマススペク
トルには含まれる元素の同位体パターンが反映されることになります。したがって,同位
体パターンが一致するかを調べることにより特定の元素の存在を確認することができます。
これらの情報は,組成式推定の大きな手助けとなります。
分解能
質 量 分 析 に お け る 分 解 能 は , 隣 接 す る 二 つ の イ オ ン の m/z を 互 い に 分 離 さ せ る 能 力 の こ
とです。分解能の高い装置ほど,微小な質量差のイオンを分離することができます。質量
9999 と 質 量 10000 の イ オ ン を 分 離 で き る と き 分 解 能 は 10000 で あ る と い い ま す 。
こ こ で ,m/z が 500 付 近 で の 分 解 能 25000 と 100000 の 分 離 例 を 図 - 2,3 に 示 し ま し た 。
分 解 能 100000 で は m/z 500.00 と 500.01 の イ オ ン が 完 全 に 分 離 で き て い る の に 対 し ,分 解
能 25000 で は 完 全 な 分 離 に は 至 ら ず , 分 解 能 に よ る 分 離 の 違 い が 見 て 取 れ ま す 。
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TOF/MS について
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500.01
abundance
abundance
500.01
500.00
500.00
500.02
図-2
500.02
m/z
m/z
図-3
分 解 能 25000 の 例
分 解 能 100000 の 例
LC-QTOF/MS
LC-QTOF/MS と は ,四 重 極 型 質 量 分 析 計 (QMS)と TOF/MS が 直 列 に 連 結 さ れ て い る タ ン デ ム
型 質 量 分 析 計 に 試 料 導 入 部 と し て LC を 結 合 し た 装 置 の こ と を い い ま す 。
QTOF/MS の 構 造 図 を 図 - 4 に 示 し ま し た 。 イ オ ン 源 で 生 成 し た す べ て の イ オ ン か ら , 目
的 の イ オ ン の み を QMS で 選 別 し ま す 。 選 別 後 の イ オ ン は 衝 突 室 に 導 か れ , 必 要 に 応 じ て 分
子 衝 突 法 ( CID) に よ り プ ロ ダ ク ト イ オ ン を 生 成 さ せ , TOF/MS に よ り 検 出 し ま す 。 す な わ
ち , 1 段 階 目 の QMS は 狙 っ た イ オ ン だ け を 選 択 通 過 さ せ る フ ィ ル タ ー で あ り , 2 段 階 目 の
TOF/MS は 目 的 イ オ ン を 高 感 度 で 検 出 す る と と も に そ の 質 量 を 精 密 に 測 定 す る 優 れ た 検 出
器 で す 。 こ れ ら の 情 報 か ら 物 質 の 組 成 式 を 推 定 す る と と も に , CID に よ る プ ロ ダ ク ト イ オ
ンから構造情報も得られ,構造推定の有力なツールとして威力を発揮します。
LC-QTOF/MS で は , 試 料 導 入 部 に LC を 用 い て い る こ と か ら , LC に よ る 測 定 対 象 物 と 夾 雑
物との分離ができるため,事前の分離精製が不要となるメリットがあります。また,イオ
ン 化 に は LC と の 相 性 が 良 い ESI ま た は APCI と い っ た 大 気 圧 下 で の イ オ ン 化 法 が 一 般 的 で
す 。一 方 ,試 料 導 入 に LC を 用 い て い る こ と に よ り ,移 動 相 の 組 成 に 依 存 し た 付 加 イ オ ン の
生成,イオン化法に伴う脱離イオンの生成等が観測されるため,それぞれの特徴を考慮し
たイオンの解析が不可欠でもあります。
イオンミラー
イオン源
四重極
衝突室
検
出
プッシャー
排気
排気
図-4
排気
QTOF/MS の 構 造 図
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TOF/MS について
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活用例
弊 財 団 で は LC-QTOF/MS を 導 入 し て , 微 量 色 素 や 油 脂 の 簡 易 定 性 , 未 知 ピ ー ク の 同 定 ,
成分の調査及び異物検査等に活用しています。以下に数例をご紹介します。
1)
食肉の青色変色原因調査において,食肉の検印スタンプに使用される色素をごく微
量ながら検出でき,変色原因を明らかにすることができました。
2)
腸内細菌であるセラチア菌由来と考えられる食品の赤色変色についての調査でした
が,食品はすでに加熱処理されていたため原因菌の培養・検出はできず,原因の特
定には至りませんでした。一方,赤色変色部からの抽出物の精密質量数からは,セ
ラチア菌産生色素であるプロジギオシンの可能性が示唆されました。そこでセラチ
ア 菌 を 別 途 培 養 し ,そ の 産 生 色 素 を 抽 出 し て LC-QTOF/MS 分 析 に 供 し た と こ ろ ,保 持
時間とマススペクトルが変色部と一致し,食品の赤色変色はセラチア菌由来のプロ
ジギオシンが原因であると確認できました。
3)
香料中に析出した結晶状物質の調査では,プロダクトイオンを用いた推定から,香
料中の配合成分の一部が結合した構造の分子が結晶状に析出した可能性が示唆され
ました。
4)
食 品 表 面 に 付 着 し た 微 量 の 油 状 物 質 を APCI ダ イ レ ク ト プ ロ ー ブ 法 に よ り 測 定 し た
と こ ろ ,ト リ グ リ セ リ ド ,ジ グ リ セ リ ド の 他 に 植 物 ス テ ロ ー ル で あ る β -シ ト ス テ ロ
ール及びカンペステロール由来のイオンが検出されました。この結果から食品表面
に付着した油状物質は,植物性油脂であると推定しました。
おわりに
LC-QTOF/MS に よ る 測 定 に お い て は ,目 的 物 質 が イ オ ン 化 で き て い る か を 先 ず 判 断 す る 必
要があります。また,移動相やイオン化法によって多種多様な付加イオン,脱離イオンが
観測されるため,それぞれの特徴を考慮しつつ,得られたイオンを精査して組成式を推定
します。次に,一つの組成式からなる数十の候補から物質を絞るために,プロダクトイオ
ンスペクトルの解析や保持時間データベースによる照合を行います。プロダクトイオンか
ら基本骨格を想定し,想定した構造からの開裂の妥当性を確認し物質推定につなげていま
す。
弊 財 団 で は LC-QTOF/MS 以 外 に も フ ー リ エ 変 換 赤 外 分 光 光 度 計 ( FT-IR), 核 磁 気 共 鳴 装
置( NMR)な ど 可 能 な 限 り 多 く の 分 析 情 報 を 収 集・活 用 し ,総 合 的 な 判 断 に 基 づ い て 物 質 推
定を試みています。お気軽にお問合せください。
参考資料
1) 志 田 保 夫 ,笠 間 健 嗣 ,黒 野 定 ,高 山 光 男 ,高 橋 利 枝:こ れ な ら わ か る マ ス ス ペ ク ト ロ メ
ト リ ー , 化 学 同 人 (2001)
2) 日 本 質 量 分 析 学 会 編 「 マ ス ス ペ ク ト ロ メ ト リ ー 関 係 用 語 集 第 3 版 ( WWW 版 )」
http://www.mssj.jp/publications/books/glossary_01.html
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