テクニカルレポート50号(2008年1月)(PDF形式

■メタルマスク製造用感光性フィルムHM-4000シリーズ
電子機器の小型化および高機能化に伴い,BGA
(Ball Grid Array)およびCSP(Chip Size Package)
などの半導体パッケージ基板の高密度化が急速に進
み,はんだバンプ形成に使用されるはんだペースト
印刷用メタルマスクには,高精細かつ位置精度,マ
スク厚み精度などが要求されている。メタルマスク
製造法として,アディティブマスク(電鋳法)
,エッ
チングマスク(エッチング法),レーザーマスク
(YAGレーザー加工法)が実用化されている。
HM-4000シリーズは,アディティブマスク(電鋳
法)用途に開発した感光性フィルムであり,フィル
ム重ね貼りによる任意の膜厚設定かつ厚膜化が可能
であり,ステンレス母材上の解像度,密着性に優れ
るレジスト形成が可能である。
テクニカルレポート
第 50
号
2008年1月
巻頭言
師に会うチャンスと人材育成 ─────────────────────────────────────────── 5
田口 常正
論 文
表面実装型LED用白色反射モールド材 ─────────────────────────────────────── 7
浦崎 直之・小谷 勇人・水谷 真人・湯浅 加奈子
CZ法による12CaO・7Al2O3(C12A7)単結晶の育成 ───────────────────────────────── 11
蔵重 和央・上田 俊輔・平野 正浩・細野 秀雄
環境対応低伝送損失多層材料MCL-LZ-71G ───────────────────────────────────── 17
清水 浩・鴨志田 真一・富岡 健一・土川 信次
製品紹介 ──────────────────────────────────────────────────── 21∼26
ダイボンド用印刷ペースト SA-200シリーズ
はんだ代替接続フィルムのMFシリーズ
薄型パッケージ 用低熱膨張・高弾性多層材料 MCL-E-679GT
メタルマスク製造用感光性フィルム HM-4000シリーズ
プラスチック部品塗料用アクリル樹脂 ヒタロイド1473/3204EB/D1004B
換気量測定用ドーザ(トレーサガス放散器)
オルタネーター回生車両用バッテリー
自動車樹脂外板用 2液ウレタン接着剤4630-1
低ランニングコスト小型蒸発濃縮装置
3
Contents
Commentary ──────────────────────────────────────────── 5
Tsunemasa Taguchi
White reflection molding compound for LEDs of surface-mounted devices ──────────────── 7
Naoyuki Urasaki・Hayato Kotani・Makoto Mizutani・Kanako Yuasa
Czochralski Growth of 12CaO・7Al2O3 (C12A7) Single Crystals ───────────────────── 11
Kazuhisa Kurashige・Shunsuke Ueda・Masahiro Hirano・Hideo Hosono
Low-Transmission-Loss Multilayer Material, MCL-LZ-71G,
for Environmentally Friendly Printed Wiring Board ─────────────────────────── 17
Hiroshi Shimizu・Shinichi Kamoshida・Kenichi Tomioka・Shinji Tsuchikawa
Product Guide ───────────────────────────────────────── 21∼26
4
巻 頭 言
師に会うチャンスと
人材育成
私は大学院の博士課程を修了し,そのまま大学に残り,教育と研究を続
けて今年で約34年目を迎えた。前半の20年間は大阪大学で,後半は山口
山口大学 大学院 理工学研究科 教授
大学で教鞭をとり14年目となった。私は大学教授になる夢を持っていたの
で,何の抵抗もなく大学で教鞭をとっている。一度も企業などで働いた経
験がないが,年をとるにつれ,交流する企業の方々が自分の年代と研究テ
ーマにそって変わって行くことを実感している。私がこれまで経験した
“師に会って”,非常に大きな影響を受けたことを中心に,大学における人
田口常正(たぐち つねまさ)
Tsunemasa Taguchi
略歴:
1974年大阪大学大学院工学研究科博士課
程修了。英国・サセックス大学客員研究員,
大阪大学講師を経て,1994年山口大学教
授。
2004年より研究特任教授。1998∼2003年
経済産業省「高効率電光変換化合物半導体
開発(21世紀のあかり)」国家プロジェク
トのプロジェクトリーダーに就任。2004
年からは,文部科学省の知的クラスター創
成事業「高輝度LED(半導体発光素子)技
術を基盤とする医療機器開発(やまぐち・
うべ・メディカル・イノベーション・クラ
スター)」の研究総括を兼務。
第1回白色LEDと固体照明国際会議(11/26
∼30,2007,東京)委員長を務める。
材育成について紹介したい。まず,20代後半から30代前半,そして30代
前半から40代後半,最後に40代後半から50代前半にかけてみると,それ
ぞれの時期に研究・教育に多大な影響を受けた方々がいる。
最初は,仁科記念財団の当時理事長であった(故)朝永振一郎先生であ
る。博士課程終了後,日本の大学における教授の研究指導力の無さに落胆
し,外国へ留学する目的で海外派遣研究員の面接を受けた時,“研究には
指導者はいない。自分に打ち勝つことです。”と言われた。帰国後,朝永
先生の追悼講演でSchwinger博士から,“朝永は,教授らに邪魔をされな
かったからノーベル賞を取れた”(Tomonaga Sin-itiro: A memorial Two
Shakers of Physics, Julian S. Schwinger, July 8, 1980)と聞いた時,若い
時は自分を信じ,実行あるのみと決心をした。
2番目は,英国留学から帰り,1983年頃に,青色・紫外LEDの研究に着
手したころ,化学メーカーから共同研究を持ちかけられた。日亜化学工業
㈱の当時専務であった勝頼章一氏と三菱モンサント(現,三菱化学㈱)の
渡辺俊経部長である。勝瀬さんは,非常にまめで良く気が付き,私を可愛
がってくれた。小川英治さん(現,社長。当時は部長だったと記憶してい
る)にZnS蛍光体から,宝石の様に光る青色LEDの話しを得意げにしてい
たことを覚えている。一方,渡辺さんは,研究成果と論文が出るとすぐに
特許にしてくれた。このころから,企業は特許が命,産学連携の成果は必
ず知財にするという精神を学んだ。どちらも,企業戦士といわれるくらい
の仕事人間で,ポジティブ思考の持ち主であった。世界初めて,大型ZnS
バルク単結晶育成に成功し,MOCVD(有機金属気相法)によりホモエピ
タキシャルZnS青色LEDを開発した。ZnS,ZnSeを中心としたワイドギャ
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
5
ップII-VI族化合物半導体における光物性の基礎的研究を独自で進め,数多
くの優秀な学生を世に送り出すことができた。このころが,学生とともに
研究の楽しさと苦しさを味わった,最も充実した時代である。
最後は,金属系材料研究開発センターの専務理事であった鍵本潔氏であ
る。平成3年から,白色LED照明における省エネルギー・地球環境保全の
エネルギー実用化を研究開発テーマに国家プロジェクト“21世紀のあか
り”を立案し,現在の白色LED光源研究のバックグラウンドになっている。
10年前に,蛍光ランプと同じ原理で発光する光源である全固体の白色LED
照明の開発に挑んだ。私の研究の集大成である。その時,国家の産業・技
術戦略とは何かを徹底的に教え込まれた。私の研究室の大学院生のほとん
どが,白色LEDの研究を手掛けた。
以上の様に,私の教育活動と研究人生は,4人の師の多大な影響を受け
ていると考えられる。もちろん,学生は直接間接,そして,有形無形に影
響を受けて育っていった。
私のモットーは,技術系大学の教授は,幅広い人脈と,基礎研究の成果
を生かして,ものづくりを徹底して行うべきであると考えている。そこで,
研究活動を通じて教育ができるものと確信している。特に,優秀な博士課
程学生を育成することが教授の使命であり,国際性豊かな人材輩出が必要
である。現在進めている半導体(LED)照明の新技術には電気・電子系技
術者と材料・素材系研究者が融合し,競争力をつけて行くことにより,エ
レクトロニクス分野の将来像が描けるものと考えている。
6
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
U.D.C.
621.382.2.032.3:535-202:66.022.3:66.017:628.9
表面実装型LED用白色反射モールド材
White reflection molding compound for LEDs of surface-mounted devices
浦崎直之* Naoyuki Urasaki
水谷真人* Makoto Mizutani
小谷勇人* Hayato Kotani
湯浅加奈子** Kanako Yuasa
青色発光ダイオードと蛍光体を組み合わせた白色発光ダイオードは,1990年代後半
に開発され携帯電話を始めとする液晶モニターを有する携帯機器に数多く使用されて
おり,その高輝度化の流れから将来的には一般照明への展開が期待されている。当研
究所では,表面実装型の高輝度発光ダイオード用に白色反射モールド材料の開発を進
めている。高反射率と高信頼性を両立するために,共役系を持たない樹脂に屈折率の
異なる無機充填材を高充填したトランスファ成形可能な材料を開発した。開発材は,
800 nmから350 nmの近紫外領域まで90%以上の高い反射率を有していた。開発材を
用いて作製した発光ダイオードは,リフロー試験,温度サイクル試験,および恒温恒
湿点灯試験において良好な信頼性を示すことを確認した。さらに,本開発材の熱およ
び光照射試験から,130℃以下のパッケージ温度で60,000時間以上の寿命を持つと予
測できたことから高輝度発光ダイオード用パッケージ材料として有用と考えられ,長
寿命化の要求が強い一般照明用途や液晶TVバックライト用途への普及に寄与できる
ものと期待している。
We have developed a reflection molding compound that has a high reflectance (over 90%)
up to near the ultraviolet region and good reliability. This material was used to fabricate
light-emitting diode (LED) packages for surface-mounted devices (SMDs) using the
transfer molding process. This SMD LED packaging showed no luminous saturation up to
150 mA; moreover, it showed good luminosity and voltage retention stability during the
temperature humidity lighting test as well as the during the thermal cycle test.
Furthermore, using the Arrhenius plot, we estimated the lifetime of this material to be more
than 60,000 h under 130℃.
から405 nmへとさらに短波長となるためこれまで以上にパッ
〔1〕 緒 言
ケージ材料の劣化が懸念される。また,一般照明や液晶TVバ
発光ダイオード(Light-Emitting Diode:LED)は,小型,
軽量,省エネルギーなどの特長を有し青色LEDと蛍光体を組
み合わせた白色LEDの実用化により携帯電話のバックライト
ックライト用では40,000∼60,000時間の長寿命が要求されて
いる。
以上の背景から,当社で保有しているポリマー材料技術お
用 光 源 な ど 携 帯 機 器 向 け に 数 多 く 使 用 さ れ て き て い る 1 )。
よび充填材の高充填化技術を応用し,LEDから発生する熱や
LEDパッケージの構造は砲弾型,表面実装(Surface-Mounted
光に対する劣化が少ない,SMD型LED用途へ向けた熱硬化性
Device:SMD)型,COB(Chip On Board)型,パワーLED型
の白色反射モールド材を開発中である。本報告では,熱や光
など種々のものがある 2)。そのなかでSMD型パッケージは,
に対する着色を低減した表面実装SMD型LEDパッケージ用白
一般的な半導体パッケージと同様にリフロープロセスでプリ
色反射モールド材料の開発状況について報告する。
ント基板に実装できるという特長があり広く使用されてい
る。現在SMD型LEDパッケージには,リフロー温度以上の融
〔2〕 開発方針
点を持つ熱可塑性樹脂にガラス繊維や酸化チタンを配合した
当社では,電子材料用のポリマー技術をはじめ無機充填材
ものが使用されている 3)。この材料は,はんだリフローの耐
を高充填した材料やその高充填化技術を有している。そこで,
熱性を有し可視光領域(800∼420 nm)での反射率が高いと
これらの技術を有効に活用し,従来の熱可塑樹脂に代わる熱
いう特長を持っている。しかしながら,今後LEDの高輝度化
硬化系の新規なSMD型LEDパッケージ用白色反射モールド材
が進むとLED素子から発生する熱や光によってパッケージ材
を開発中である。開発にあたり,次に示すような開発方針を
料の劣化が進むと予想される。さらに,近紫外LEDに赤緑青
設定し材料設計を行った。
3色の蛍光体を組み合わせた白色LEDの開発も進められてお
①良好な光学特性:高反射率,40,000∼60,000時間の長寿命.
り,演色性に優れることから一般照明用途への展開が期待さ
②良好な信頼性:鉛フリーはんだ条件でのリフロー試験,
れている4)。この方式では,励起光源の波長が青色の460 nm
−40℃⇔85℃温度サイクル試験,85℃/85%RH恒温恒湿点灯
*
当社 先端材料研究所 **当社 ディスプレイ材料部門
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
7
試験において,輝度低下が初期の20%以内.
①については,樹脂として共役系を持たない熱硬化性樹脂
100
の選定,充填材として近紫外領域に吸収を持たないものを高
充填化することで高反射率材料の材料開発を目指した。②に
る鉛フリーはんだリフロー条件でパッケージにはく離やクラ
ックが生じないことと,信頼性の確保を目標とした。
〔3〕 開発材の特性
3. 1
80
反射率(%)
ついては,環境問題の観点から表面実装の主流になりつつあ
60
初期
150℃, 72h後
40
開発材の物性
20
開発した材料の光学特性および硬化物物性を表1に,反射
0
300
スペクトルを図1に示す。また,従来材で使用されている酸
400
化チタンの反射スペクトルを図2に示す。
500
600
波長(nm)
700
800
開発材は,可視光領域で高い反射率を有しており,さらに
400∼350 nmにおける反射率も90%以上と高い値を維持して
いる。一方,酸化チタンは800∼420 nmの範囲では非常に高
い反射率を有しているが,420 nm未満では急激に反射率が低
下する。これは,酸化チタンの屈折率が2.71と高いことから,
図1 開発材の反射スペクトル 充填材の選定により近紫外領域での反射
率が高い。
Fig. 1 Diffuse reflection spectra of the white reflection molding compound.
The high reflection rates are the result of specific fillers up to near the ultraviolet
region.
可視光領域においては反射率が高くなっているが,420 nm未
満では,3.2 eVのバンドギャップ構造が紫外線を吸収するた
めである 5)。また,この吸収したエネルギーにより光触媒作
用を示し,樹脂の劣化を早めることが予想される。開発材は,
100
バンドギャップ構造を持たない無機充填材を高充填化するこ
とで,近紫外領域で吸収が存在せず反射率が高い特性を得る
の青色の波長である460 nmにおいて1.5%と小さい。これは,
樹脂骨格に共役構造を持たない素材を選定することで熱によ
る酸化劣化を抑制しているためと考えている。また,無機充
80
反射率(%)
ことができた。また, 150℃,72 h後の反射率の低下はLED
60
40
填材を高充填することで材料の吸水率が低く抑えられてお
20
り,この点から加水分解による劣化も抑制されていると考え
られ,高温時の反射率の低下を抑制できている理由と推定し
0
300
ている。材料の吸水はリフロー試験によるクラック発生の原
400
500
因のひとつであるため,この点からも低吸水性は重要である。
600
波長(nm)
700
800
熱膨張係数は,パッケージに加わる熱ストレスによる応力を
低減するため,リードフレームの材料として一般に使用され
ている銅の17 ppm/℃に近くなるように設計した。ガラス転
移温度,曲げ強度,弾性率は,半導体パッケージ用封止材の
図2 酸化チタンの反射スペクトル 420 nm付近から急激に反射率が低
下する。
Fig. 2
Diffuse reflection spectrum of titanium dioxide.
The reflection rate falls sharply below 420 nm.
物性値を参考に材料設計を行った。
3. 2
開発材を用いたLEDパッケージの試作工程と結果
図3に本開発材を用いたLEDパッケージの作製プロセス
を,図4にLEDパッケージの試作結果を示す。
表1 開発材の特性 光学特性と信頼性の両立する組成を考慮した材料設
計を行った。
Table 1
Properties of white reflection molding compound.
The molding compound has been designed for both high optical stability and
項 目
反射率
単 位
460 nm
405 nm
%
黄変度
ガラス転移温度
α1
硬 線膨張係数
化
α2
物
物
吸湿率
性
曲げ強度
弾性率
8
スで白色反射モールド樹脂を金型に流し込み加熱加圧し硬化
(2)LED素子実装
high reliability.
光
学
特
性
LEDパッケージは,以下の3つのステップで作製される。
(1)リードフレームを金型に配置しトランスファ成形プロセ
開発材
備 考
97
分光光度計
96
拡散反射スペクトル
0∼1
による
℃
150∼160
TMA法による
ppm/℃
11∼13
TMA法による
ppm/℃
30∼40
TMA法による
%
0.02
MPa
130
3点曲げ試験による
GPa
2
DMS法による
ASTM
D 570
(3)透明封止樹脂充填,硬化
図4
(a)
は,リードフレームに白色反射モールド材を成形
したパッケージの作製例である。図4
(b)
は,青色LED素子
を実装し点灯させたときの写真である。LEDパッケージの信
頼性の評価には,このパッケージを用いて行った。図4
(c)
は,小電流用チップと大電流用チップの2種類の青色チップ
を用いたときの電流と光出力の関係を示したものである。こ
の結果から,順方向電流50 mAまでの小電流用チップおよび
150 mAの大電流チップいずれの場合においても光束の飽和が
見られなかった。このことから,開発材を用いたパッケージ
は0.5 Wクラスの高輝度用途への適用が期待できる。
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
図3 LEDパッケージの製法 リードフ
Molding compound
Mold
Chip
Lead frame
Encapsulation resin
Wire
レームを金型に配置しトランスファモール
ドプロセスで成形する。その後,LEDチッ
プを搭載し透明樹脂で封止する。
トランスファモールド
チップ実装
Fig. 3
透明樹脂封止
Fabrication process of LED
packages.
LED packages are fabricated using transfer
molding, chip mounting, and encapsulation
processes.
光出力(相対値)
800
(a)
SMD型LEDパッケージ作製例
700
図4 SMD型LEDパッケージ試作例
600
(a)はリードフレームにトランスファ成型
500
した後の外観
400
(b)は青色LED素子を実装し点灯させたと
大電流チップ
300
きの外観
小電流チップ
200
(c)は電流と光出力の関係で,高電流域ま
100
0
で光出力の飽和が無く安定した動作を確認
0
50
100
150
200
順方向電流(mA)
した。
Fig. 4
Prototypes of SMD type LED
packaging.
(b)青色LEDチップ搭載
SMD型LEDパッケージ作製例
(c)電流と光出力の関係
(a) Top view of SMD packages after molding.
(b) Photograph of a blue LED.
(c) Forward current vs. relative luminosity.
3. 3
⇔85℃の温度サイクル試験と,85℃/85%RHの条件で恒温恒
LEDパッケージの信頼性
湿点灯試験を行い,輝度変化率および電圧変化率を測定した。
開発材の信頼性は以下のように測定した。耐リフロー性は,
最高温度265℃,260℃以上保持時間20 sのIPC/JEDEC J-STD-
結果を図5に示す。輝度変化はいずれの試験においても目標
U20Bに準じた鉛フリーはんだリフロー条件に従って窒素雰囲
である初期の輝度に対し20%以内の変化であった。また,電
気下でリフロー試験を行い,パッケージのはく離やクラック
圧変化率についても初期に対し5%未満でありワイヤボンド
などの発生状況を観察した。また,LEDパッケージで−40℃
などの接続部や素子の劣化などは小さいと判断できる。リフ
1.4
1.1
1.2
目
標
1.05
電圧変化率
輝度変化率
1.0
0.8
0.6
0.4
1.0
0.95
0.2
0.9
0
0
200
400
600
800
0
1,000
200
400
600
800
1,000
時間(h)
試験時間(h)
(a)
高温恒湿度点灯試験による輝度変化特性
(b)高温恒湿度点灯試験による電圧変化特性
1.4
1.1
図5 信頼性試験結
1.05
は小さいことを確認し
果
目
標
輝度変化率
1.0
0.8
0.6
0.4
電圧変化率
1.2
輝度や電圧の変化
た。
Fig. 5
1.0
Reliability tests
of the SMD type LED
package.
0.95
The SMD type LED
0.2
package showed good
0.9
0
0
200
400
600
800
サイクル数(cyc)
1,000
0
200
400
600
800
サイクル数(cyc)
1,000
stability in luminosity
and voltage retention
during temperature
(c)熱サイクル試験による輝度変化特性
(d)熱サイクル試験による電圧変化特性
humidity lighting and
thermal cycle tests.
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
9
ロー試験においてパッケージ材のはく離やクラックなどは発
生せず良好な結果であった。現在,ものづくりの特性として
必要な成形性の確認を行っているところである。
3. 4
100,000
開発材の寿命
200
175
150
125
60,000 h
10,000
130℃
酸化劣化であると仮定すれば,温度を上昇させて加速劣化し,
時間(h)
一般照明や液晶TVのバックライト用の光源には,40,000∼
60,000時間の寿命が必要とされている。この劣化が熱による
アレニウスプロットを応用して材料単体の寿命を予測するこ
1,000
100
とができると考えた。LEDの寿命は,2005年7月に(社)日
405 nm照射
10
本照明器具工業会より「白色LED照明器具性能要求事項」が
技術資料として制定され,初期光束の70%に低下した時間を
1
2.1
寿命とすることが決められている。そこで,温度を3段階に
100
2.2
2.3
2.4
2.5
2.6
2.7
1,000/T
(K−1)
変化させ反射率が初期の70%となる時間の対数と絶対温度の
逆数をプロットした。図6に結果を示す。これを直線で近似
し,外挿することで寿命を推定した。その結果,チップの温
度を含めたパッケージの動作温度が130℃以下の条件で
60,000時間以上あると推定した。さらに,175℃おいて405
nm,0.5 W/cm2の光を照射し熱と光が同時に材料に照射され
たときの劣化を評価した。その結果を図6に示す。照射部と
図6 開発材の熱による寿命予測 反射率が70%になるまでの時間を各温
度で測定しアレニウスプロットで60,000時間の寿命となる温度を推定した。
Fig. 6
Lifetime estimation of SMD type packages against heat degradation.
70% lifetimes under three accelerated temperature conditions were plotted on
the Arrhenius diagram. By extrapolating the straight approximate line, the
expected lifetime at 130℃ was estimated to be 60000 h.
その周囲における劣化の違いは観測されなかったことから,
405 nmの光による劣化は少ないと考えられ,開発材は青色
LEDや近紫外LEDの光が照射された実使用環境においても同
等の寿命を持つものと思われる。
参考文献
1)大黒弘樹:“LED照明の最近の動向 パワー白色LED”
,O plus
〔4〕 結 言
E,29,No. 6,pp. 567-571(2007)
以上のように,当社で保有するポリマー材料技術および充
2)杉本勝,葛原一功,木村秀吉,横谷良二,西岡浩二,石崎真也:
填材の高充填化技術を応用し,SMD型高輝度LEDパッケージ
“照明用高出力白色LED光源”
,松下電工技報,53,No. 1,pp. 4-9
への適用を目的に,新規トランスファ成形用白色反射モール
ド樹脂を提案し開発中である。本開発材は,従来の半導体封
止材と同様なプロセスでパッケージを作製することが可能
で,熱や光に対する劣化が少なく長寿命のLEDパッケージを
作製することが可能である。本開発材を用いたLEDは,一般
照明や液晶TVバックライトなどの長寿命が必要とされるアプ
リケーションへ適用できると期待している。
10
(2005)
3)安達正樹,北島知和,小原省治,都博之:“車載用LEDランプ向
けの半導体封止用小型射出成型機”
,東芝レビュー,56,No. 6,
pp. 54-57(2001)
4)田口常正:“LED照明の技術動向”,O plus E,29,No. 6,pp.
562-565(2007)
5)日本化学会:表面励起プロセスの化学,季刊 化学総説 No. 12,
pp. 132∼134(1991)
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
U.D.C.
548.55:548.5:546.41'261:666.762:543.442
CZ法による12CaO・7Al2O(C12A7)
3
単結晶の育成
Czochralski Growth of 12CaO・7Al2O3 (C12A7) Single Crystals
蔵重和央* Kazuhisa Kurashige
平野正浩** Masahiro Hirano
上田俊輔* Shunsuke Ueda
細野秀雄*** Hideo Hosono
ナノポーラス構造を持ち,その構造内のケージ中に包接するアニオンにより,さま
ざまな活性を有する12CaO・7Al2O3(C12A7)に着目し,その単結晶の開発を行った。
その結果,イリジウムるつぼを用いたCzochralski(CZ)法により,酸素を2%含む乾燥
窒素雰囲気で,良質なC12A7単結晶を育成できることが分かり,<100>,<110>お
よび<111>方位の単結晶を育成した。得られた結晶は約500 wt ppmのIr4+イオンを含む
ことによりオレンジ色に着色したが,透明度の高い単結晶であった。高分解能X線回
折による解析の結果,得られた単結晶は,正方晶(空間群 I42m)に属することが分
かった。
We have developed single crystals of 12CaO・ 7Al2O3 (C12A7), which have nanoporous structures and expected to have several properties due to the anions cathrated in
the crystallographic nano-cage. We successfully grew the C12A7 using the Czochralski (CZ)
method with three different growth directions of <100>, <110> and <111>. A 2.0%
oxygen-containing dry nitrogen atmosphere and use of iridium crucible were critical in
obtaining the single crystal. The crystal had an orange color due to the presense of Ir4+ ions
of ca. 500 wt ppm. High resolution X-ray diffraction analysis indicated that the C12A7 single
crystal has tetragonal symmetry belonging to the space group.
〔1〕 緒 言
現在の産業基盤を支えている機能材料には,希少元素が含
まれていることが多い。例えば液晶やPDPなどの薄型ディス
プレーには,スズ添加酸化インジウム(ITO)透明導電膜が
透明電極として使われているが,インジウムはクラーク数
(地殻中の存在比)で0.00001%(存在比の多い元素から数え
て68番目)程度しかない貴重な資源であり,枯渇が危ぶまれ
ている。このような希少元素を基幹産業の根幹とすることは,
産業社会としてのリスクが大きく,可能であれば,ありふれ
た元素(ユビキタス元素)を中心とする産業構造への転換が
望まれる。ユビキタス元素で求める機能を発揮させることが
できれば,資源枯渇の心配がなく,また結果として環境にも
やさしい。
12CaO・7Al 2O 3(以下C12A7)は,クラーク数(地殻中の
存在比)で,1,3,5番目と,非常にありふれた元素のみで
b
構成される絶縁体である。結晶構造はナノポーラス構造をと
り,通常直径0.5 nmのケージの中に包接されている酸素イオ
ンをすべて電子で置き換えることにより,室温・大気中で安
定なエレクトライド(電子が負イオンとして振る舞う化合物)
となり得る1)。室温付近では,金属的な電気伝導を2,3),また
低温(約0.4 K)においては超電導4)を示すという機能性を持
c
a
図1 C12A7の単位格子(図中の球は大きい順にCa,Al,O元素を
示す。
)また,色の濃い部分12個のO2−,6個のCa2+,8個のAl3+で作
られる1つのケージを示す。単位格子は12個のケージを含み,2個の
フリー酸素が12個中の2個のケージに包接される。
ち,まさにユビキタス元素機能材料として期待される。また,
Fig. 1
エレクトライドの状態でも,光透過性を持つという特徴も有
six Ca2+ (biggest ball), and eight Al3+ (middle size ball) ions form a cage (dark).
する1)。
Schematic representation of C12A7 unit cell. Twelve O2- (smallest ball),
The unit cell contains 12 cages; the free oxygen ions (not shown) are trapped
in 2 of the 12 cages.
*
当社 機能性材料研究所 **東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 特任教授
東京工業大学 フロンティア創造共同研究センター 教授
***
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
11
この様なおもしろい特徴をもつC12A7であるが,単結晶の
作製が困難であり,これまでの研究は主に,焼結多結晶試料
を用いておこなわれてきた。
単結晶の育成を試みた25,29,30)。
CZ法は,原料を坩堝の中で融かし,種結晶を融液に接触さ
せ,回転しながらゆっくりと固化させることで,単結晶を成
4+
C12A7の結晶構造は,図1に示すように5),
[Ca24Al28O64]
長させる方法で,円柱状の単結晶を得る単結晶育成方法であ
で表されるフレームワーク(骨組み)をもち,そのフレームワ
り,回転引き上げ法とも呼ばれる。CZ法の模式図を図3に示
ーク内には0.4 nmの内径をもつ12個のケージが存在する5,6)。
す。CZ法は,純度の高い良質な大型の単結晶を得られる単結
12個のケージ中の2個のケージに,酸素イオン(O2−)が包接
晶の製造方法であり,半導体材料のシリコン単結晶の合成な
されている。包接された酸素イオン(フリー酸素イオン)は,
ど,最先端技術で使用されている単結晶の製造には欠かせな
フレームワークに属する酸素イオンに比べ,周囲のイオンと
い技術である。われわれは,これまでCZ法を用いて
ゆるく結合しているため,比較的容易にほかの陰イオンと置
Gd2SiO5:Ce(GSO)単結晶の育成を行い,直径100 mmを超
換できる。また,置換されたイオンにより,C12A7はさまざ
えるGSO単結晶の製造技術を確立,量産してきた 31)。GSO単
まな活性を示し,その活性を利用した多くのアプリケーショ
結晶は医療用画像診断装置であるPET(陽電子放出核種断層
ンが提案されている1-4,7-25)。図2に,C12A7がフリー酸素イオ
撮像法Positron Emission Tomography)の放射線検出用シン
ンを失うことで,絶縁体から導電体に変わるメカニズムの模
チレータとして使用されている。
式図を示す。これまで,C12A7単結晶は,チョクラルスキー
(CZ)法およびフローテイングゾーン法(FZ)で育成が検討
されてきたが,いずれの方法も,大型で良質な単結晶は得ら
れていなかった26,27)。このため,これまでの研究は主に,焼
結多結晶試料を用いておこなわれてきた。良質なC12A7の単
結晶を作製できれば,その特徴的な物性を精度良く評価でき
るばかりでなく,新たな特徴を見出すことができる可能性が
あると考えられる。そこで,われわれは,大型で良質な
C12A7単結晶を作製することを目指した。C12A7単結晶育成
耐火物
には,多くの困難がある。例えば,C12A7融液は,非常に高
い酸素溶解度を持つが,その溶解度は,過冷却状態の融液や
シード
ガラス状態になると,大きく低下する 28)。ゆえに,融液から
固化する際に泡欠陥の元となる酸素ガスが発生する。したが
結晶
高周波
加熱コイル
って,泡欠陥の発生しない単結晶を育成することは非常に難
しい。結晶を作製する方法は種々存在するが,各方法とも,
得手不得手がある。われわれは,CZ法による高品質なC12A7
O2-
O2-
O2-
O2-
O2-
るつぼ
O2-
融液
図3 CZ法の模式図
Fig. 3
Schematic diagram of CZ method.
Electrical insulator
〔2〕 検討方法
2. 1
e−
e−
e−
e−
e−
e−
e−
単結晶の育成方法
原料として,純度99.99%の炭酸カルシウム(CaCO3)およ
e−
びアルミナ(Al2O3)を用いた。アルミナ原料には結晶構造の
e−
e−
e−
e−
異なるαおよびγがあるが,両者による差は無かった。原料
e−
e−
e−
を化学量論組成で秤量,混合したものを1,200℃,12時間の焼
結により,C12A7相にし,その粉末を結晶育成の原料とした。
e−
e−
e−
得られた粉末をイリジウム(Ir)製あるいは白金(Pt)製るつ
ぼにチャージし,高周波過熱コイルによる誘導加熱によりる
Electrical conductor
つぼを過熱し,るつぼ内の原料を融点(1,450℃)以上にする
図2 C12A7はフリー酸素イオンを失うことで,絶縁体から導電体
に変わる。
ことで原料を融解し,シードを融液に接触させ回転しながら
Fig. 2
Schematic representation of C12A7 changing to electrical conductor
from insulator with loose oxygen ions.
12
ゆっくり引き上げることで,結晶を育成した。引き上げ速度
は0.8∼1.0 mm/h,回転速度は1.0∼5.0 min−1とした。育成中
の雰囲気は窒素または酸素を含んだ窒素雰囲気とし,雰囲気
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
を変えて結晶育成を行った。CZ法では,一般的に育成する単
る相図32,33)と異なり,水分の無い雰囲気でも,酸素が2%あれ
結晶と同じ単結晶の種結晶を用いる必要があるが,研究開始
ばC12A7相ができることを見出した。各条件で得られたるつ
当初はC12A7単結晶が入手できないため,イリジウムの針金
ぼ内の生成物の写真を図4に示す。
(棒)をシードとして用いた。C12A7単結晶が得られてからは,
この一連の実験で,るつぼに用いているイリジウムと酸素
得られた単結晶から目的の方位の種結晶を切り出し,シード
との反応が見られた。したがって,イリジウムるつぼを用い
とした。必要な重量を育成後は,融液から単結晶を切り離し,
る際は,酸素濃度は低い方がるつぼのダメージが少なく望ま
20∼50時間かけて室温まで徐冷した。
しい。そこでC12A7相が生成する最も酸素濃度が低い雰囲気
2. 2
評価方法
すなわち酸素濃度2%雰囲気で,CZ法による結晶育成を試み
育成した単結晶の評価としては,粉末X線回折,X線ラウエ
ることとした。最初のシードとしてはイリジウム棒を用い,
回折,高分解能単結晶X線回折法を用い,結晶構造や結晶方位
その先端に自然核発生によりC12A7相の結晶核を作り出すこ
を調べた。また,得られた結晶はオレンジ色に着色した結晶
とをまず行い,それを起点として単結晶の育成を行った。得
であったため,この原因を探るために,透過率測定,誘導結
られた単結晶を図5
(a)
に示す。得られたインゴットは,結
合プラズマ(ICP)分析を行った。単結晶の内部のゆがみや対
晶径の大きいところで30 mm,直胴部の長さ50 mm,重さ85
称性の評価としては,簡便な偏光写真による方法を用いた。
gであった。単結晶はオレンジ色に着色していたが,透明度
の高いものであった。得られた単結晶の一部を砕き,粉末に
〔3〕 結果と考察
3. 1
して粉末X線回折測定を行い,単結晶がC12A7相であること
CZ法による単結晶育成結果
を確認した。今回の育成ではイリジウム棒をシードとしてい
CZ法による酸化物単結晶の育成では,多くの場合,融点が
るため,結晶方位は結晶化しやすい自由な方向になると考え
高く原料融液と反応しないイリジウム(融点2,466℃)製るつ
られる。そこで,X線回折により育成方位を測定したとこ
ぼ,または白金(融点1,768℃)製るつぼが使用される。イリ
ろ,<110>軸から3°30′傾いた方位であることが分かった。
ジウム製るつぼの方が融点が高く,高融点の単結晶育成に使
したがって,C12A7単結晶は<110>方向に成長しやすい可
用できるが,イリジウムは高温で酸素と反応しやすく酸化イ
能性があると考えられる。その後の単結晶育成としては,結
リジウム(IrO2)となり蒸発するため,高い酸素濃度雰囲気
晶方位による育成の違いを調べるため,育成した結晶より<
を必要とする単結晶には適さない。一方白金は融点の制限は
100>および<111>方位のシードを切り出し,これらを用い
あるが,高い酸素濃度でも使用可能である。C12A7は融点が
て<100>および<111>方位の結晶を育成した。得られた結
1,450℃であり,イリジウムるつぼおよび白金るつぼの両者が
晶を順に図5
(b)
(c)
に示す。方位によって結晶の作りやすさ
使用可能である。
に差は見られなかった。
そこで単結晶育成を開始する前に,るつぼ材質と雰囲気の
以上の結果から,C12A7相を得るためにはC12A7のケージ
検討を行った。すなわち,まずイリジウムるつぼ内に原料を
中にテンプレートとして存在するアニオンが必要であるが,
入れ,乾燥窒素雰囲気に酸素を0∼2.0%混合した雰囲気にて
そのアニオンはOH−以外にO2−を用いることが可能であり,酸
融点まで加熱後冷却し,得られた生成物の相を調べた。その
素濃度が2%あれば,充分テンプレートとしてのO2−を供給で
際に輝度温度計を用いて融点も測定した。酸素濃度0∼1.5%
きることがわかった。
では,原料の融点は1,600℃であり,得られた相は3CaO・
Al2O3(C3A)とCaO・Al2O3(CA)の混相であった。これに対
次にわれわれは,白金るつぼを用いたCZ法育成を検討し,
るつぼ材が結晶成長に与える影響について調べた。雰囲気は
し,酸素濃度2.0%では,融点が1,450℃に下がり,冷却後の
イリジウムるつぼを用いた条件と同じ,酸素2%窒素98%とし
生成物はC12A7相であった。すなわち,これまで知られてい
た。得られた結晶を図5
(d)
に示す。得られた結晶のサイズ
0%
0.1%
0.5%
Concentration of oxygen in the furnace
(a)
<110>
1%
1.5%
2.0%
Concentration of oxygen in the furnace
図4 乾燥窒素中の酸素濃度が1.5%以下ではCA相とC3A相の混合物
になるが,2.0%ではC12A7単相を得られる。
Fig. 4
(b)
<100>
(c)
<111>
(d)With a Pt Crucible
図5 2.0%の酸素を含んだ窒素雰囲気で,Irるつぼを用い,
(a)
;
<110>,(b)
;<100>,(c)
;<111>方位で育成した結晶を示
す。<110>はIrの針金をシードとして,<100>および<111>は育
成した結晶から切り出したシードを用いた。同じ雰囲気で白金るつ
ぼを用いた結晶を右(d)に示す。
Fig. 5
CZ-grown C12A7 single crystal ingots oriented along (a); <110> , (b);
Crystallographic phase change with oxygen concentration (0-2.0%) in
<100>, and (c); <111>. Atmosphere during the CZ-process is 2.0% oxygen-
dry nitrogen gas. Mixed phase of CA + C3A occured when oxygen
containing nitrogen. An Ir rod was used as the seed for <110> growth, while
concentration was below 1.5%. C12A7 phase occures when oxygen
oriented single crystals were used for <100> and <111> growth. Photo (d)
concentration is 2.0%.
shows a C12A7 ingot grown with a Pt crucible.
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
13
は,結晶直径の最大値で27 mm,直胴部分の長さが33 mmで
ぼを用いた際の得られた結晶の差になっていると考えられ
あった。写真から分かるように,多数のクラックが発生した。
る。この結果より,C12A7単結晶の育成には,白金るつぼは
また結晶内部に多量に存在する微小なコロイドによるチンダ
適さないことが分かった。
ル散乱が見られ,不透明な結晶であった。なお,結晶内部に
単結晶育成において,一般にクラックは冷却過程での熱応
存在する多量のコロイドは,白金るつぼからの白金コロイド
力により発生する場合が多い。図7に冷却過程でクラックの
であると考えられる。
入った結晶を示す。
(110)面に平行な割れが見られ,この方
同じ酸素2%窒素98%雰囲気にもかかわらず,イリジウムる
つぼを用いるとC12A7の良質な単結晶が得られるのに対し,
向にへき開性を有していることが示唆される。
3. 2
評価結果と考察
白金るつぼを用いた際は良質な単結晶を得ることができなか
得られたC12A7単結晶は,透明であるがオレンジ色に着色し
った。原因は,イリジウムと白金の高温での酸素との反応性
ていた。不純物を含まないC12A7は無色透明であることが知ら
の差によると考えられる。
れていることから8),オレンジ色に着色した原因は,何らかの
C12A7の融点は1,450℃であり,るつぼ中の融液温度の最高
不純物であると考えられる。不純物として最も可能性のある
温度は融点より約100∼200℃高いすなわち1,550∼1,650℃と
ものは,るつぼ材であるイリジウムである。そこで,ICPによ
推定できる。図6に示すように,熱力学的考察34,35)によれば,
る分析を行った結果,得られたC12A7単結晶中のイリジウム含
この温度領域ではイリジウムの方が白金より酸素との反応性
有量は500 wt ppm(5×1017 cm−3)であった。さらに着色を
が高く,したがって酸化されやすい。そこで,融液中に溶け
調べるために,透過率を測定した。サンプルの厚みは0.5 mm
込んだイリジウムはイリジウムイオンとして存在し,C12A7
とした。結果を図8に示す。図8から500 nmを中心とした吸
単結晶が結晶化する際にイオンとして結晶中に均一に取り込
収によりオレンジ色に着色していることが分かる。透過率測
まれるが,白金の場合は融液中にコロイド状で存在し,
定サンプルの厚みとイリジウムイオンの濃度から計算すると,
C12A7単結晶が結晶化する際に白金コロイドとして取り込ま
振動子強度は3.6×10−2,吸収係数は2.5×103(M・cm)−1であ
れると考えられる。この差が,イリジウムるつぼと白金るつ
った。得られた波長と振動子強度から,この吸収はO2−からIr4+
への電荷移動による吸収であると推定される25)。
ここで,イリジウムイオンがどの元素と置換して,結晶中
に取り込まれるのか考察を試みる。イリジウムイオンは陽イ
オンであるため,おなじ陽イオンであるカルシウムあるいは
PtO2
酸素分圧(atm)
1
Pt
0.02 atm
Ir4+は通常6配位をとる。ここで,C12A7中のAl3+とCa2+はそれ
ぞれ4配位と6配位をとるため,配位数からは,イリジウムイ
IrO2
10−10
アルミニウムと置換すると考えられる。配位数から考えれば,
オンはカルシウムサイトに入りやすいと言える。
Ir
一方,イ
オン半径から考察すると,Ir4+ のイオン半径は76.5 pmであ
り,4配位のAl3+のイオン半径は53 pm,6配位のCa2+のイオン半
−20
径は114 pmであるため,Ir4+はイオン半径の近いAl3+と置換し
10
結晶育成時の
融液の温度範囲
やすいと言える。電荷の観点からも,Al3+と置換されるほうが
自然である。これまでのところ,イリジウムがいずれの元素
10−30
0
1,000
2,000
温度(℃)
と置換して結晶中に取り込まれるかの確証は得られていない。
いずれのサイトに入った場合でも,イリジウムイオンの方が
図6 平衡酸素圧(p)の温度依存性
O2
[g]
+Ir
[s]
=IrO2[s]
,O2[g]
+Pt
[s]
=PtO2[s]
Fig. 6
1.0
Equilibrium oxygen pressure (p) of O2 [g] + Ir [s] = IrO2 [s] and O2 [g] +
Pt [s] = PtO2 [s] as a function of temperature
0.8
透過率
0.6
0.4
0.2
0.0
500
(a)Side view
(b)Bottom view
1,000
1,500
2,000
図7 冷却過程で発生した(110)面クラック,
(a)は側面,
(b)は
底面からの撮影。
図8 C12A7単結晶の透過率(t=0.5mm)
Fig. 7
Fig. 8
Side (a) and bottom (b) views of the <100> grown crystal, cracked
along (110) plane during the cooling process.
14
2,500
3,000
波長(nm)
Optical transmittance spectrum of C12A7 single crystal wafer (t=0.5
mm).
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
置換されるイオンより価数が高いため,フレームワークのチ
ャージが増加し,チャージバランスを取る必要が生じる。化
学量論組成のC12A7では,6分の1のケージにのみO2−が存在し,
残りの6分の5のケージは空であるため,空のケージ中に入る
酸素イオンの増加によってチャージバランスを取るものと類
推できる。
図8中の1,800 nmと2,600 nmの透過率の減少はOH−イオン
の存在によると考えられる24)。しかしながら,OH−イオンの吸
−1
収係数14(M・cm)
を用いて21),OH−イオンの濃度を計算す
ると1×1019 cm−3以下となり,結晶中には,実質的に,OH−イ
(a)Laue pattern
(b)Cross-sectional polarization contrast image
オンは存在しないといって良いレベルであった。また,電子
図1
0 育成したC12A7単結晶から作製した(100)ウエハのX線ラウ
エパターン(左)と偏光写真(右)
。4回対称を示す。
スピン共鳴(ESR)による測定をおこなったところ,酸素ラジ
Fig. 10
カルの濃度も1×1019 cm−3以下であることが確認された。従っ
(b) with (100) wafer obtained from grown C12A7 crystal, showing fourfold
て,育成されたC12A7単結晶はほぼ,化学量論組成のCa12Al14O33
X-ray Laue pattern (a) and cross-sectional polarization contrast image
symmetry.
に若干のイリジウムがカルシウムもしくはアルミニウムを置
換したものであるといえる。
た。一方(100)面ウエハの偏光による観察結果を図1
0
(b)
に
d=0.9991
カウント
(相対値)
の結果を図1
0
(a)
に示す。図からわかるように4回対称のパタ
ーンが観測され,得られた結晶が単結晶である事が確認でき
0012
カウント
(相対値)
に , 得 ら れ た 単 結 晶 か ら , 10 mm× 10 mm× 0.5 mm厚 の
(100)面ウエハを作製し,X線ラウエパターンを測定した。そ
100.8860
がC12A7相に帰属し不純物相の存在は認められなかった。次
1200
0120
100.978
育成した結晶を粉末に砕き,粉末X線回析測定を行った。図
9にCuKα線によるX線回折パターンを示す。すべてのピーク
d=0.9984
示す。図から大きな角度がずれた大きなグレインは観測され
ず,良質な単結晶であることが分かった。また,4回対称のパ
ターンが見られ,育成時に発生した応力が残留している事が示
100.7
100.8
100.9
2 theta
(度)
101.0
100.5
101.0
101.5
2 theta
(度)
唆される。
次に,育成した単結晶より,
(100)面ウエハを切り出し,高
分解能X線回折装置を用いて,インプレーンおよびアウトオブ
図1
1 (a)アウトオブプレーンおよび(b)インプレーンの高分解能
X線回折パターン
プレーンでの回折ピークの測定を行った。測定は(0012)
,
Fig. 11
High resolution (a); out-of-plane and (b); in-plane XRD patterns
(1200)および(0120)に対して行った。結果を図1
1に示す。
a軸とb軸の長さは共に1.1981 nmであるが,c軸は1.1989 nm
であり,得られた単結晶は正方晶に属すことを示す結果であ
属することになる。格子緩和を取り込んだ計算結果から,2個
る。すなわち,C12A7の単位格子中の12個のケージは,結晶
のフリー酸素が12個のケージにランダムに包接されるより,特
対称性を考慮するとすべて等価であるが(空間群の有する対
定のグループに選択的に包接された方がエネルギー的に安定
称操作で,お互いに変換できる。
)
,バルク結晶で考えた際は,
化することが示されている。もし,この12個のケージ中の2個
結晶に固定されたx,y,z軸とキラリティーにより,6つのサ
にランダムにフリー酸素が入った場合は結晶は立方晶になる
ブグループに分かれ,各々のサブグループには2個のケージが
はずであるが,特定のサブグループのみに入った場合は,正
方晶(空間群 I42m)となる。われわれが育成した結晶が正
方晶を示す実験結果は,自由酸素が規則的に配列されている
ことを示唆している。しかし,得られた格子定数の値が,計
算結果と異なるため,さらなる検討が必要である。
3. 3
今後の課題
回析強度(相対値)
今回CZ法により育成に成功したC12A7単結晶はイリジウム
を含有したものである。イリジウムを含有しないC12A7単結晶
を必要とする用途も存在すると考えられるので,イリジウム
を含有しないC12A7単結晶の育成方法を確立する必要があると
考えられる。
今回CZ法により育成に成功したC12A7単結晶は,そのケー
ジ中にアニオンとして酸素イオンO 2− を含んだものである。
C12A7の特徴として,ケージ中のアニオンを比較的容易にほか
15
30
45
60
75
2θ(度)
のアニオンと置換でき,例えば,O−,O2−,H−あるいは電子
(e−)を包接することができると考えられる3)-21)。実際,今回
CZ法により育成に成功したC12A7単結晶を石英ガラス管にTi
図9 育成したC12A7結晶の粉末X線回折パターン
Fig. 9
と共に真空封止し,1100℃で24時間加熱処理することで,こ
Powder X-ray diffraction pattern of grown C12A7 crystal.
れまでで最高の電気伝導度1500 S/cmで,金属的な電気伝導
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
15
を示すC12A7エレクトライドが得られることが分かり,結晶性
参考文献
の良さがアプリケーションに有用であることが確かめられ
1 )S. Matsuishi et al., Science, 301 (2003) 626
た 。
2 )S. Kim et al., Nanoletters, 7 (2007) 1138
2)
このように,O を包接した単結晶を後処理することで,こ
2−
れらアニオンを包接する単結晶を得ることは可能であるが,置
換プロセスは,これらのアニオンの拡散(イオン伝導)を伴
うため,高温・長時間処理が必要である。したがって,これ
ら特徴あるアニオンを包接した単結晶を,直接的に育成でき
る方法を確立できれば,さらにさまざまなアプリケーション
に有用であると考えられる。
3 )P. V. Sushko et al., J. Am. Ceram. Soc., 129 (2007) 942
4 )M. Miyakawa et al., J. Am. Chem. Soc., 129 (2007) 7270
5 )H. Bartl et al., Neues. Jahrb. Mineral. Monatsh., 35 (1970) 547
6 )J. Imlach et al., Cem. Concr. Res., 1 (1971) 57
7 )H. Hosono et al., Inorg. Chem., 26 (1987) 1192
8 )K. Hayashi et al., Nature, 419 (2002) 462
9 )K. Hayashi et al., J. Am. Chem. Soc., 124 (2002) 738
10)P. V. Sushko et al., Phys. Rev. Lett., 91 (2003) 12601
11)K. Hayashi et al., Chem. Mater., 15 (2003 1851)
〔4〕 結 言
12)M. Lacerda et al., Nature, 332 (1988) 525
Irるつぼを用いたCZ法により,酸素濃度2.0%を含んだ乾燥
13)K. Hayashi et al., J. Phys. Chem. B, 108 (2004) 8920
窒素雰囲気中でC12A7単結晶の育成に成功した。得られた結晶
14)H. Kamioka et al., J. Photochem. Photobiol. A, 166 (2004) 141
は約500 wt ppmのIr4+イオンを含みオレンジ色であった。一
15)S. W. Kim et al., J. Am. Chem. Soc., 127 (2005) 1370
方,酸素濃度2%未満の乾燥窒素雰囲気中では,CA相とC3A相
16)K. Hayashi et al., Electrochem. Solid-State Lett., 5 (2002) J13
の混合物が得られることが分かった。Ptるつぼを用いた場合
17)K. Hayashi et al., J. Mater. Res., 17 (2002) 1244
は,Ptがコロイド状に結晶中に取り込まれ,多数のクラック
が発生し,単結晶の育成に適さないことが分かった。<100>
<110><111>各方位育成での結晶の作りやすさに明確な差
18)L. Quanxin et al., Jpn. J. Appl. Phys., 41 (2002) L530
19)L. Quanxin et al., Appl. Phys. Lett., 80 (2002) 4259
20)M. Miyakawa et al., Adv. Mater., 15 (2003) 1100
21)Y. Toda et al., Thin Solid Films, 445 (2003) 309
は見られなかったが,育成条件によって(110)面にへき開状
22)Y. Toda et al., Adv. Mater., 16 (2004) 685
の割れが見られた。高分解能X線回折により,得られた結晶は
23)S. Yang et al., Appl. Catal. A, 277 (2004) 239
正方晶(空間群 I42m)に属すことが示された。この結果か
24)K. Hayashi et al., J. Phys. Chem. B, 109 (2005) 11900
ら,これまでランダムに包接されると考えられてきたフリー
25)細野 ほか,透明酸化物機能材料とその応用,シーエムシー出版
酸素が規則的に包接されている可能性が示唆された。
26)W. Whatmore et al., Mater. Res. Bull., 14 (1979) 967
27)S. Watauchi et al., J. Cryst. Growth, 237 (2002) 801
28)H. Hosono et al., J. Am. Ceram. Soc., 70 (1987) 867
29)K. Kurashige et al., Cryst. Growth Des., 6 (2006) 1602
30)K. Kurashige et al., Thin Solid Films, In press
31)K. Kurashige et al., IEEE Trans. Nucl. Sci., 45 (2004) 522
32)W. Nurse et al., Trans. Br. Ceram. Soc., 64 (1965) 323
33)Hallstedt, B. J. Am. Ceram. Soc., 73 (1990) 15.
34)S. Nakamura et al., Metall. Mater. Trans. B, 28B (1997) 103
35)S. Nakamura et al., Metall. Mater. Trans. B, 29B (1998) 411
16
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
U.D.C.
621.3.049.75:621.382.09:621.315.5.09:001.892
環境対応低伝送損失多層材料MCL-LZ-71G
Low-Transmission-Loss Multilayer Material, MCL-LZ-71G, for Environmentally Friendly Printed Wiring Board
清水 浩* Hiroshi Shimizu
富岡健一* Kenichi Tomioka
鴨志田真一* Shinichi Kamoshida
土川信次** Shinji Tsuchikawa
情報通信分野の電子機器では,使用する信号の高速大容量化が進んでいる。そこで,
これらの機器に搭載されるプリント配線板には信号の高周波数化対応が必要であり,
基板材料には伝播遅延時間の短縮,伝送損失の低減に有効な誘電特性(低誘電率,低誘
電正接)が求められている。また,環境対応として実装時の鉛フリーはんだプロセスに
対応した高耐熱性や,ハロゲンフリー化の要求も高まっている。そこで当社では,ハ
ロゲン系難燃剤を使用せずに信号の高周波数化に広く対応できる,ハロゲンフリーの
低伝送損失多層材料MCL-LZ-71Gを開発した。
MCL-LZ-71Gは独自の樹脂変性技術により,優れた誘電特性と難燃性に加えて高耐熱
性を有している。また,はんだの鉛フリー化に伴う高温化への対応をはたし,かつス
ルーホール接続や絶縁性において優れた信頼性を有している。その特長から,種々の
ネットワーク関連機器,基地局基板,高周波部品を中心に,今後の環境対応での展開
が期待される。
With the evolution of information technology, the frequencies used by electronic
devices have become higher to handle the growing volumes of data. Signals on printed wiring
boards (PWBs) used in these applications use higher frequencies. It is necessary to
improve the dielectric characteristics (lower dielectric constant and dissipation factor) of
the base material of PWBs used in the field of imformation technology to achieve
reductions in both the signal propagation delay time and transmission losses. Moreover, high
heat resistance, which is required for the lead-free soldering process, and halogen-free
material are both necessary for the manufacture of environmentally friendly products. We
have developed a new low-transmission-loss multilayer material, MCL-LZ-71G, that is
suitable for higher frequencies and which does not contain any halogenated compounds.
MCL-LZ-71G has good dielectric characteristics (lower dielectric constant and
dissipation factor) and flame resistance. Moreover, this material has high heat
resistance which is suitable for the lead-free soldering process, high reliability in its
through-holes, and good insulation resistance. These features mean that MCL-LZ-71G is
suitable for use in network devices, signal processors for base transceiver stations, and highfrequency modules.
〔1〕 緒 言
伝送損失(α)=導体損失(αc)+誘電体損失(αd)
近年の情報通信技術や情報処理技術の発展はめざましいも
αc:導体の種類,抵抗,粗さ,回路形状に起因
のがあり,信号の高速,大容量伝送を可能にするため高周波
αd:誘電体の誘電特性に起因(dB/m)
数帯域の利用が進んでいる。一方でプリント配線板(PWB)の
回路に高周波信号を伝送した場合,導体や誘電体に起因する
f
αd=27.3 × ×
c
伝送損失が周波数に比例して増加し,信号を効率よく伝送す
(Dk:比誘電率,Df:誘電正接,f:周波数(Hz),c:光の速さ(m/s)
D k × Df
ることが難しくなる。誘電体の伝送損失は,その誘電率や誘
電正接に依存し,これらが小さい程,伝送損失が小さくなる。
このため,高周波信号を利用する電子機器に使用されるPWB
図1 PWBの伝送損失
周波数が高くなるにしたがって伝送損失が大きく
なり,信号の減衰が大きくなる。このため,高周波信号を扱う基板には低誘電
には高周波信号に対応した低誘電率化,低誘電正接化された
率,低誘電正接材が要求される。
基板材料の要求が高まっている(図1) 1)。また,環境への
Fig. 1
関心も高まっており,使用される基板材料の実装時の鉛フリ
Higher frequencies result in higher transmission loss. As indicated in the
ーはんだ対応やハロゲンフリー化も進んでいる。
Transmission loss through PWB
formula, lower Dk and Df is needed to reduce transmission loss and resultant
signal attenuation; reducing Df is more effective.
*
当社 配線板材料部門 開発部 **当社 電子材料研究所
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
17
高周波用基板材料を利用する機器は,ネットワーク関連機
の配合量が必要である。一方,新規ハロゲンフリー難燃剤は
器,大型コンピュータ,計測器,アンテナのほか,通信機器
少ない配合量で,誘電特性の低下が小さく難燃性UL94 V-0を
や携帯電話で使用される高周波発振器,高周波フィルター,
達成することができる。また,熱分解温度が高いため耐熱性
パワーアンプなどの高周波実装部品がある。特に高周波実装
の低下が小さいことも特長である。
部品では現在ハロゲンフリー材が強く望まれている。
本樹脂システムでは樹脂構造中には直鎖状オレフィンの構
本報では,ハロゲン化合物を含まずに,優れた誘電特性,
造を有するため,熱膨張率が大きくなることが懸念された。そ
高耐熱性を発現し,信頼性を向上した高周波対応基板材料を
こで,熱膨張率の低減を目的に,フィラーを導入した。フィ
開発したので報告する。
ラーは凝集が発生したり,樹脂との密着性が悪いと,吸水率
が大きくなり,誘電特性を低下させる原因となる。このため,
〔2〕 MCL-LZ-71Gの開発
本樹脂系にはMCL-E-679F,MCL-E-679FGに適用されている独
自の樹脂/フィラー界面の処理技術を採用して,フィラーの
樹脂の誘電特性はその構造と密接に関係しており,誘電率
分散性を向上させた5∼9)。
を小さくする方法として,モル体積当たりのモル分極率の小
さな原子の導入,極性の低減,嵩高い構造の導入,吸水率の
低減などの方法が考えられる。特に水酸基などの極性基が構
造中に存在した場合,誘電特性が低下する要因となる。また,
4.4
オレフィン系の材料はその構造上誘電特性が良好である2)。
4.2
従来,基板材料をハロゲンフリーで難燃化する手法は,金
Dk at 1 GHz
属水和物やリン酸エステル類を利用することが一般的である。
しかしながら,金属水和物はその構造から誘電特性を悪化さ
せ,またリン酸エステル類は可塑剤となるため耐熱性を低下
させる問題点があった。
そこで,優れた誘電特性,高耐熱性,ハロゲンフリーを同
金属水和物
難燃性 V-0
4.0
3.8
3.6
新規難燃剤
難燃性 V-0
3.4
時に満たすための開発コンセプトとして,ベース樹脂単独で
3.2
より低誘電性と高耐熱性を発現させ,これら特性を低下させ
小
ることの少ないハロゲンフリー難燃剤を選択することにした。
大
配合量
ベース樹脂には加工性や成形性の観点から,誘電特性が優
れる嵩高い構造を有する高Tg系熱硬化性樹脂3∼4)に,直鎖状オ
0.011
レフィンに官能基を付加した変性低誘電ポリマーを導入した。
0.010
この官能基は高Tg系熱硬化性樹脂との反応で低誘電性の阻害
Df at 1 GHz
要因となる水酸基が生成しないことが特長である。一方で,直
鎖状オレフィンが主骨格であるため,耐熱性が低い課題があ
った。そこで,官能基を変性することで硬化物の耐熱性の向
上を図った。表1に低誘電性高Tg熱硬化性樹脂と変性低誘電
性ポリマーの硬化物の特性を示す。自己重合性の低誘電性高
金属水和物
難燃性 V-0
0.009
0.008
新規難燃剤
難燃性 V-0
0.007
0.006
Tg熱硬化性樹脂単独と比較して,変性低誘電性ポリマーの官
0.005
能基を窒素含有系の高耐熱性官能基に変性することで,低誘
小
電性高Tg熱硬化性樹脂単独よりもさらに低誘電性と高Tgを発
大
配合量
現することができた。この樹脂システムでは官能基の変性量
が調整可能であり,最終的な特性バランスに応じて最適化が
図2 ハロゲンフリー難燃剤の配合量と誘電特性 新規ハロゲンフリー
図れることが特長である。
難燃剤を適用した基板は誘電特性の低下が小さく,難燃性UL94 V-0が達成され
ハロゲンフリー難燃剤は熱分解温度が300℃以上と高く,誘
る。
電特性の低下の小さい非極性の新規ハロゲンフリー難燃剤を
Fig. 2
選択した。図2に金属水和物との比較で本樹脂系への配合量
flame retardant compounds
と基板の誘電特性の変化を示す。金属水和物は配合量を多く
The laminate containing a new halogen-free flame retardant compound had a
Dilectric property of laminates with various amounts of halogen-free
flammability level of UL94 V-0 with only a slight decrease in dielectric
するとDk,Dfともに増大し,難燃性UL94 V-0を得るには多く
properties.
表1 ベース樹脂の硬化物特性 変性低
項 目
測定条件
単 位
硬化物A
樹脂板
硬化物B
樹脂板
硬化物C
樹脂板
低誘電高Tg熱硬化性樹脂
−
%
100
50
50
変性低誘電ポリマー
誘電ポリマーの官能基を窒素含有系にするこ
とで低誘電,高Tgを発現
Table 1
Physical properties of cured base
resins
−
%
0
50
50
ポリオレフィン
−
mol%
−
75
75
官能基X
−
mol%
−
25
0
官能基Z(窒素含有)
−
mol%
−
0
25
TMA法
℃
201
170
214
1 GHz
−
3.02
2.72
2.82
We found that both low dielecric constant and
high Tg can be achieved by using the
nitrogen-containing functional group of
modified low-dielectric polymers.
ポリマー中の成分
ガラス転移温度(Tg)
比誘電率(Dk)
1)
1)マテリアルアナライザ法
18
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
表2 MCL-LZ-71Gの一般特性 MCL項 目
LZ-71Gは優れた誘電特性のほか,低熱膨張
率,高耐熱性を有している。
Table 2
比誘電率(Dk)
MCL-LZ-71G has a low coefficient of thermal
expansion, high heat resistance, and good
誘電正接(Df)
dielectric properties.
UL-94
MCL-LZ-71G
ハロゲンフリー
市販高周波材
含ハロゲン
FR-4
含ハロゲン
−
V-0
V-0
V-0
*1
−
3.5-3.7
3.4-3.6
4.0-4.2
1 GHz
*1
−
0.005-0.007
0.005-0.007
0.021-0.023
1 GHz
*2
−
0.004-0.006
0.003-0.005
0.019-0.021
170-180
180-190
120-130
210-220
225-245
150-160
40-50
50-60
50-70
280-310
300-370
250-300
TMA法
Tg
*1:トリプレートライン共振器法
(IPC-TM650 2.5.5.5)
*2:マテリアルアナライザー法
(IPC-TM650 2.5.5.9)
*3:IPC-TM 2.4.24.1
注)上記表中記載のデータは代表的な実験結果で
あり,保証値ではありません。
単 位
1 GHz
難燃性
General properties of MCL-LZ-71G
条 件
℃
DMA法
CTE
厚さ方向(Tg以下)
(熱膨張係数)
厚さ方向(Tg以上)
銅箔引きはがし強さ
18 µm
熱分解温度
℃
350-370
325-345
300-320
耐熱性
T-288(銅箔付き)*3
min
>60
>20
<3
288℃ 10s float
cycle
>10
>10
<3
h
>1,000
>1,000
>1,000
ppm/℃
kN/m
耐電食性(CAF) 85℃ 85%RH,DC100 V
0.8-1.1
0.7-1.0
(ロープロファイル箔)(ロープロファイル箔)
1.4-1.6
以上の樹脂システムと新規ハロゲンフリー難燃剤,フィラ
ロゲンフリーで1 GHzにおける誘電特性はDk:3.6,Df:0.006
ー技術を組み合わせることで,優れた誘電特性,高耐熱性を
を達成しており,また耐熱性も良好である。図3および図4
発現するハロゲンフリー低伝送損失基板材料MCL-LZ-71Gを開
に示すように,MCL-LZ-71Gの誘電特性は高周波数帯域でも安
発した。
定しており,また伝送損失は一般FR-4と比較して3 GHzにお
いて約8 dB/mの低減が可能である。このことから,信号の高
〔3〕 MCL-LZ-71Gの特性
周波数化に広く対応できる誘電特性を有していると考える。
MCL-LZ-71Gの一般特性を含ハロゲン系である市販高周波対
図5にスルーホール接続信頼性を示す。MCL-LZ-71Gは温度
応材および一般FR-4と比較して表2に示す。MCL-LZ-71Gはハ
サイクル試験において2,000サイクル後でも抵抗変化率は1%以
下と優れている。これはフィラーの導入によりTg前後の熱膨
張率が小さいためである。表3に多層板の耐熱性を示す。板
厚2.57mmの12層板において,260℃(Max.)リフローを6サイ
クル以上通しても基板に層はがれは発生せず,鉛フリーはん
4.2
4.1
だプロセスに対応した優れた耐熱性を有している。このこと
FR-4
4.0
から,MCL-LZ-71Gは高多層にも対応可能な材料と考えられる。
3.9
表4に吸湿耐熱性を示す。4層板において,85℃,85%RH,
Dk
3.8
168 hの吸湿処理後,260℃(Max.)リフローを3サイクル以
3.7
MCL-LZ-71G
3.6
3.5
上通しても基板に層はがれの発生は無かった。このことから
吸湿耐熱性が要求される高周波部品にも対応可能な材料と考
市販高周波材
3.4
えられる。
3.3
3.2
0
2
4
6
8
10
周波数(GHz)
0.025
Df
0.015
市販高周波材
0.010
0.005
MCL-LZ-71G
0
0
2
図3 誘電特性の周波数依存性
4
6
周波数(GHz)
8
10
・ライン幅(W):
0.124∼0.138mm
・層間(b):0.26mm
・銅箔厚(t):18 µm
・ライン長:500mm
伝送損失(dB/m)
伝送損失
0
(S-パラメーター(S21)
)
・評価PWB:
ストリップライン
−10
・温度/湿度:25℃/60%RH
・インピーダンス:50Ω
−20
w
t
b
−30
FR-4
0.020
市販高周波材
FR-4
−40
MCL-LZ-71G
−50
−60
0
1
2
3
4
周波数(GHz)
5
6
MCL-LZ-71Gは広い周波数帯域で誘電特
性の安定性に優れている。
図4 高周波帯域での伝送損失 MCL-LZ-71Gは特に高周波数域でFR-4よ
Fig. 3
り低い伝送損失を有している。
Dielectric constant and dissipation factor of MCL-LZ-71G at high
frequencies up to 10 GHz
Fig. 4
MCL-LZ-71G has good and stable dielectric properties in high-frequency
MCL-LZ-71G has lower transmission loss than FR-4 especially at high
Transmission loss of MCL-LZ-71G at high frequencies up to 6 GHz
bands.
frequencies.
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
19
1.0E+16
15
0.10∼0.15 mm
市販高周波材
・吸湿処理:
130℃85%RH
・DC 5.5 V印加
10
5
MCL-LZ-71G
0
−5
1.0E+14
壁間 0.15 mm
1.0E+12
壁間 0.10 mm
1.0E+10
1.0E+08
0
500
1,000
サイクル数
1,500
100
200
300
処理時間(h)
400
500
図6 HAST試験結果 MCL-LZ-71Gは500時間経過後も優れた絶縁性を示す。
Fig. 6
図5 スルーホール接続信頼性試験結果
0
2,000
・温度サイクル:−65℃ 30 min→常温5 min→125℃ 30 min
・回路:φ0.7 mmスルーホール, 400穴, メッキ銅厚25 µm
・板厚:2.7 mm
(22層板)
MCL-LZ-71Gは優れたスルー
Result of HAST test
MCL-LZ-71G showed good insulation resistance even after 500 h of HAST
testing.
ホール信頼性を有している。
Fig. 5
絶縁抵抗(Ω)
導通抵抗変化率(%)
20
Thermal cycle reliability of through-holes
MCL-LZ-71G has high reliability in through-holes.
表3 多層板の耐熱性 MCL-LZ-71Gは
多層板においても優れた耐熱性を発現する。
Table 3
評価基板:12層板(スルーホール,レーザービア付)
板厚:2.57mm
項 目
Heat resistance of multilayer board
評価条件
サイクル数
LZ-71G
3
○○○
6
○○○
6
○○○
The multilayer board made using MCL-LZ71G showed good heat resistance.
288℃ 10 s, floating
耐熱性
リフローMax. 260℃
○:膨れ無し, ×:膨れ発生
表4 吸湿耐熱性 MCL-LZ-71Gは吸湿下
でも優れた耐熱性を発現する。
Table 4
評価基板:4層板(スルーホール付)
板厚:0.42 mm
項 目
吸湿条件
リフロー条件
サイクル数
MCL-LZ-71G
Max. 235℃
3
○○○
Max. 260℃
3
○○○
Heat resistance under moisture
absorption
The multilayer board made using MCL-LZ-
リフロー耐熱性
85℃ 85%, 168 h
71G showed good heat resistance under
moisture absorption.
○:膨れ無し, ×:膨れ発生
図6にHAST試験結果を示す。スルーホール壁間0.10 mmで
も安定した絶縁性を示しており,MCL-LZ-71Gは今後の小型化,
高密度化する高周波部品にも対応した優れた信頼性を有した
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の新規樹脂システムによりMCL-LZ-71Gを開発した。MCL-LZ71Gは信号の高周波数化に広く対応した誘電特性を有してお
り,高Tgで鉛フリーはんだプロセスに対応した高耐熱性を発
現している。また,スルーホール接続や絶縁性など優れた信
頼性を有している。
7000LX,日立化成テクニカルレポート,32,25-30(2000)
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クニカルレポート,45,31-35(2005)
20
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
製品
紹介
ダイボンド用印刷ペースト
SA-200シリーズ
形成する方法が採用されています。
ーストSAシリーズは,フィルム状ダ
小型軽量化,低消費電力化の流れを
本用途で用いられるダイボンディン
イボンディング材での蓄積技術を活
受け,メモリーパッケージはこれま
グ材には,良好な印刷性を有するこ
かし,優れた信頼性と良好な印刷性
でのTSOPからFBGAへと変化してい
とに加えてFBGAパッケージに用い
を兼ね備えております。
ます。また,その製造方法はこれま
られる有機基板に対応するため,低
今後,印刷で形成することができ
でのテープ状ダイボンディング材を
温で組立作業を行えることや応力緩
るという特長を生かし,さらに広い
用いた方法から,生産コストに優れ
和性,そして高い信頼性が求められ
用途での適用が期待されています。
る印刷方法でダイボンディング材を
ています。ダイボンディング印刷ペ
(電子材料事業部 半導体材料部門)
近年のメモリモジュールの高速化,
表1
SA-200シリーズの特性表
項 目
単 位
SA-200-6
SA-200-10
特 長
−
現行品
短時間プロセス
50∼200
粘 度
Pa・s
90∼140
チキソ指数
−
5
4∼7
温 度
℃
100∼120
85∼95
時 間
min
40∼100
40∼60
−
必要
不要
温 度
℃
100∼120
150
チップマウント
条件
圧 力
MPa
30∼50
30∼50
時 間
s
1
1
後硬化条件
温 度
℃
rt→100→175
150
ペースト特性
Bステージ
条件
チップマウント前のプリベーク
min
120(total)
5
弾性率(25℃)
時 間
MPa
200
60
ダイシェア強度(250℃)
MPa
3
2
耐リフロー性(JEDEC)
−
LEVEL1
LEVEL1
図1
製品外観
はんだ代替接続フィルムのMFシリーズ
携帯電話をはじめとする小型電子
機器は,年々,小型化,薄型化とと
対して限界があります。
携帯電話の多機能化および小型薄型
そこで,当社は異方導電フィルム
化を可能にしました。
「小さく薄く高
もに高機能化が図られており,高密
(ACF: Anisotropic Conductive Film)
機能」が要求される携帯電子機器や
度実装が可能な実装接続材料が必要
の技術を応用した表1に示すはんだ
OA機器などのはんだやコネクタに代
となってきています。現在,これら
代替接続フィルムを開発しました。
わる接続材料として,接続フィルム
電子機器の部品接続には,はんだや
この接続フィルムは,低温・高密度
を提案します。
コネクタが使われていますが,実装
実装および薄型化が可能であるとい
温度,実装電極ピッチ,取り付け高
う特長を持つことから,図1に示す
さなどの制約があり,これらの接続
ような携帯電話のカメラモジュール
方式では小型,薄型,高密度実装に
およびコネクタ接続部に使用され,
表1
<CMOSセンサ/基板>
部門)
はんだ代替接続フィルムMFシリーズ一覧
単 位
MF-311
MF-514
MF-534
−
タッチパネル,
電子ペーパーなど
携帯電話,OA機器
タッチパネルなど
携帯電話,OA機器
タッチパネルなど
特 長
−
低温圧着
狭ピッチ,
低温圧着
低温短時間
厚 み
µm
25
25,35,45
35
最小接続面積
µm2
60,000
45,000
60,000
最小スペース
µm
50
35
50
−
金めっき
プラスチック
金めっき
ニッケル
金めっき
ニッケル
項 目
用 途
センサ
(電子材料事業部 ディスプレイ材料
接続フィルム
コネクタ
基板
カメラモジュール部→低温実装,小型化
<コネクタ(はんだ)代替>
コネクタ
接続フィルム
FPC
基板
材質
サイズ
コネクタ接続部→小型薄型化
図1
導電粒子
携帯電話における適用例
10
µm
Ave.6
Ave.10
接続温度
℃
150
160
170
150
160
170
150
時 間
s
20
15
10
20
15
10
6
圧 力
MPa
2
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
3
3
21
製品
紹介
薄型パッケージ 用低熱膨張・
高弾性多層材料 MCL-E-679GT
が,その反面,加工性が劣ります。
半導体パッケージ 基板は,携帯用
来の高いガラス転移温度(Tg)をもつ
端末機器の高速化,高機能化および
FR-4に比べて熱膨張率(α1,α2)を
そこで,MCL-E-679GTでは,樹脂自
薄 型 化 に よ り , SiP( System in
約20%小さくした新規ハロゲンフリ
体を低熱膨張率化して充填材の使用
Package) や PoP( Package on
ー低熱膨張率多層材料「MCL-E-
量を最小限に抑え,プリント配線板
Package)構造の基板が主流となっ
679GT」を開発しました。この基材
の加工性を確保しました。
てきています。チップ実装時におい
を使うことによって,実装時のそり
なお,セミアディティブ工法で微
ては,チップと基材の熱膨張率の差
を大きく低下させることが出来ます
細配線が可能であることも,本開発
により生じるそりが,大きな課題と
(当社模擬実装条件下で従来の約1/2)
。
また,一般的に,無機充填材の高
なっており,はんだ接合不良や信頼
薄型パッケージ用低熱膨張・高弾性多層材料の特性
項 目
条 件
単 位
開発品
MCL-E-679GT
従来品
高TgFR-4
ガラス転移温度
Tg
TMA法
℃
165-175
165-175
11-12
6-7
21-23
110-120
27-29
14-15
10-12
27-29
140-160
25-27
1.0-1.1
1.1-1.2
0.7-0.8
0.7-0.8
熱膨張率
CTE
曲げ弾性率
接着力
X
Z
X
銅箔
(18 µm)
めっき銅
(20 µm)
ppm/℃
GPa
A
0.10
0.09
0.08
0.07
0.06
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0.00
0
E679GT
(常態)
従来品(常態)
50
100
150
Temp
(℃)
200
250
300
供試料を熱盤上に置き,25∼250℃における変位量をレーザー光
により測定した。
kN/m
A
Warpage
(mm)
を図ることは容易です
これらの課題に対応するため,従
α1
α2
α1
α2
A
(電子材料事業部 配線板材料部門)
充填化で低熱膨張率化
性低下の原因となっています。
表1
品の特長です。
図1
これらのデータは当社における代表的な測定値であり,保証値ではありません。
模擬パッケージでのそり量測定結果
メタルマスク製造用感光性フィルム
HM-4000シリーズ
電子機器の小型化および高機能化
密着性に優れたアディティブマスク
に伴い,半導体パッケージ基板など
(電鋳法)に適したメタルマスク製造
の高密度化が急速に進み,はんだバ
用感光性フィルムHM-4000シリーズ
ンプ形成などに使用されるはんだペ
を開発しました。
ースト印刷用メタルマスクには,高
主な特長
状(側壁)が得られます。
(3)高解像度を必要とする厚膜めっ
き形成などにも使用できます。
(電子材料事業部 感光性材料事業部門)
精細化,開口精度,位置精度および
(1)ステンレス母材に対して密着性,
マスク厚み精度などが要求されます。
解像度が優れ,感光性フィルム重ね
弊社では,感光性フィルムの重ね
貼りによる厚膜レジスト形成が可能
貼りで任意の膜厚設定(厚膜化)が
優れるため,良好なめっきライン形
です。
でき,ステンレス母材上の解像度, (2)レジストサイドウォール形状が
表1
HM-4000シリーズの感光特性
感光性フィルム
単 位
感光層膜厚
(ラミネート回数)
µm
56
(1回)
112
(2回)
168
(3回)
75
(1回)
露光量*
mJ/cm2
85
270
530
130
密着性*
µm
22
32
40
35
解像度*
µm
27
50
90
35
HM-4056
HM-4075
* 露光:平行光線露光機
ネガマスク:弊社オリジナルテストパターン(PETネガマスク)
22
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
図1
HM-4056のレジスト形状
(感光層厚:168 µm)
線幅/線間距離=100 µm/100 µm
製品
紹介
プラスチック部品塗料用アクリル樹脂
ヒタロイド1473/3204EB/D1004B
携帯電話,デジタルカメラ,ノー
もに,白・黒・赤・青といった各種
3204EBは各種プラスチックとの密着
トパソコンなどのいわゆるデジタル
顔料の分散性に優れており,多用な
性に優れ,幅広い基材用途での使用
家電の筐体に用いられるプラスチッ
色彩で高外観の塗膜を得ることがで
が可能です。ヒタロイドD1004Bは擦
ク塗装に使用される塗料は,光沢・
きます。
り傷性に特長を有しており,特にト
平滑性・発色性といった意匠性と,
このほか,トップコートあるいは
基材である各種プラスチックへの密
ワンコート上塗り用の2液ウレタン硬
着性が求められます。このようなプ
化型アクリル樹脂として,ヒタロイ
ラスチック向けの塗装は,着色・色
ド3204EB,ヒタロイドD1004Bを開
彩,意匠を担う着色層(ベースコー
発・上市しました。ヒタロイド
ト)と,光沢感,表面の擦り傷防止を
表1
担うトップコートから成り立ってい
ップコート塗料として使用が可能です。
今後,プラスチックコート用途全
般への展開が期待されます。
(機能性材料事業部 機能性ポリマー部門)
プラスチック塗料用アクリル樹脂 ヒタロイド シリーズの樹脂・塗膜特性例
項 目
条 件
単 位
ヒタロイド
1473
ヒタロイド
3204EB
ヒタロイド
D1004B
トップコート塗料おのおのに用いら
推奨用途
−
−
ベースコート
トップコート
1コート
トップコート
れるアクリル樹脂を開発しました。
加熱残分
108℃×3 h加熱
%
40
45
50
ベースコート塗料用として開発し
粘 度
ガードナ/25℃
−
Z2
Z2
U
ましたヒタロイド1473は,携帯電話
水酸基価
固形分換算
mgKOH/g
0
35
150
アルミ配向性1)
外観目視判定
−
優
良
−
PC基材
%
100
100
100
PMMA基材
%
100
100
100
ABS基材
%
100
100
100
タン硬化型アクリル塗料とも優れた
上塗りUV3)
%
100
−
−
密着性を示します。また,アルミ顔
クレンザー研磨100往
復後の光沢保持率
%
−
50
85
ます。当社では,ベースコート塗料用,
筐体として用いられるポリカーボネ
ート基材および,トップコート塗料
に用いられる各種UV塗料や2液ウレ
料を用いたメタリック塗料において
は,優れたアルミ配向性を示すとと
密着性2)
耐擦り傷性
注)1)塗料配合:樹脂/アルミペースト/硝化綿=100/30/20配合,エアスプレー塗装(ドライ膜厚5∼10 µm)
2)JIS K5600(%,クロスカット残存率)に準拠
3)ウレタンアクリレート系UV上塗り塗料配合;ヒタロイド7903-3/イルカギュア184=95/5
(固形分比率)
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
23
製品
紹介
換気量測定用ドーザ
(トレーサガス放散器)
住まいの気密性の高まりとともに
レーサガス放散器)を開発しました
室内空気が換気されにくくなり,建
(特許出願済み:出願番号2005-
から換気回数が容易に求めることが
できます。
334352)
。
材や家具などに使用されている接着
剤などから揮発する有機化学物質が
本換気量測定用ドーザは,細い針
シックハウスの原因の一つとなって
と分子拡散膜を組み合わせた拡散筒
います。シックハウス対策では,ホ
とガス発生バイアルより構成され
Sp=N×V×C×
〔1-EXP
(N×t)
〕
……………………
(式1)
Sp:放散速度,N:換気回数,
ルムアルデヒドなどのVOC(揮発性
(図1)
,電源やガスボンベなどの大
有機化合物)測定とともに室内空気
型機器を用いることなく,微量なト
の換気回数に注目が集まっており,
レーサガス(ヘキサフロロベンゼン)
化学物質などの排出のための換気回
を定量的に放散できます(図2)
。ま
さらに,部屋ごとに設置するトレ
数の設計基準値が建築基準法で定め
た,このドーザは,個体間の放散速
ーサガスの種類(オクタフルオロベ
られました。しかし,換気回数を実
度バラツキが少ない(表1)ので,
ンゼン,パーフルオロアリルベンゼ
測するには電源やガスボンベなどの
部屋の4隅に4個のドーザを置き同時
ンなど)を変えることにより,従来
大型機器が必要で,換気回数を簡便
にトレーサガスを放散することによ
測定できなかった多部屋間の換気回
に検証する方法がありませんでした。
り,部屋内のガス濃度を均一にでき
数も測定できるので,換気回数の検
V:部屋の容積 t:ガス発生時間
C:トレーサガス濃度
ます。このトレーサガス濃度をパッ
証のみならずシックハウス原因物質
そこで,当社では,
(独)産業技術
シブVOC捕集管(VOC-SD:シグマ
の流れを調査できるものと期待され
総合研究所,シグマアルドリッチジ
アルドリッチジャパン製)で定量す
ャパン㈱と共同で換気回数を簡便に
ることにより,トレーサガスの放散
測定できる換気量測定用ドーザ(ト
量と部屋内の濃度との関係(式1)
ます。
(機能性材料事業部 電気機能材料部門)
20
18
拡散筒
放散量=0.22×放散時間
(相関係数)2=1.00
16
14
放散量(mg)
4.6φ
12
10
8
6
ガス発生
バイアル
4
40
2
0
0
25
50
(単位mm)
図1
換気量測定用ドーザの概観
表1
放散速度のバラツキ(測定回数19回)
図2
放散時間と放散量との関係(測定温度 20℃)
ロット
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
⑩
平均
放散速度(mg/h)
0.22
0.23
0.23
0.22
0.24
0.22
0.22
0.22
0.21
0.22
0.22
ロット
⑪
⑫
⑬
⑭
⑮
⑯
⑰
⑱
⑲
標準偏差
変動係数(%)
放散速度(mg/h)
0.23
0.21
0.21
0.22
0.21
0.21
0.21
0.22
0.22
0.01
3.77
変動係数=標準偏差/平均×100
24
100
放散時間(h)
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
製品
紹介
オルタネーター回生車両用バッテリー
地球環境保全に関して,各自動車
しています。
メーカーは燃費向上,CO 2削減に向
(1)短時間の充電性能を向上させる
けて新しい電源システムの自動車開
ために開発した,新しい負極活物質
発(ハイブリッド車など)を進めて
用添加剤を採用しました。
います。同時に現在のエンジン車で
(2)正極,負極,セパレーターから
も燃費向上,CO 2削減を達成できる
なる極板群を,新システムに最適な
新システムとして,
「オルタネーター
仕様として設計しました。
回生制御システム」を搭載した自動
(3)開発した高回生バッテリーは,
車が開発され販売されています。こ
当社従来品比で約50%という大幅な
の新システムは自動車の減速時に積
充電受入性能の向上を達成しました。
極的に電池へ充電を行い(回生)
,走
(4)今後ますます拡大することが予
行中およびアイドリング時に電池か
想されるオルタネーター回生車両へ,
らエネルギーを供給することで,エ
開発した「オルタネーター回生車両
ネルギーを効率よく使用して燃費向
用バッテリー」を展開できます。
(新神戸電機株式会社)
上,CO2削減を図るものです。
図1
製品外観
表1
バッテリー要項表
当社はこの「オルタネーター回生
項 目
単 位
数 値
制御システム」に適合する高回生バ
公称電圧
V
12
ッテリーを開発し,この新システム
5時間率容量
Ah
36
コールドクランキング電流
A
468
箱高さ
mm
225
幅
mm
127
長 さ
mm
236
質 量
約kg
13
搭載車に採用されています。
開発した「オルタネーター回生車
両用バッテリー」は以下の特長を有
自動車樹脂外板用
2液ウレタン接着剤4630-1
自動車製造において,車体の軽量
樹脂外板用2液ウレタン接着剤ハイボ
化・意匠性向上などのため,外板の
ン4630-1は,高分子量ポリプロピレ
樹脂化が進んでいます。樹脂用の接
ングリコール,多官能ポリオール,
おり,自動車樹脂外板全般,ほかの
着剤にはインナーパネルとアウター
低発泡性触媒の組合せにより,低粘
構造用途への展開も期待されていま
パネルの異種材料を強固に接着する
度・速硬化の特性を有し(図1)
,生
す。
ほかに,線膨張係数差により発生す
産性に優れています。また,強度7.0
るゆがみを吸収するための弾性的性
MPa・伸び650%という従来にない強
質および,構造用途として信頼性を
度と弾性的性質を併せ持っており,
ハイボンプライマーP-207との併用に
なります。
より,多種多様な被着体に対する強
このたび,当社が開発した自動車
皮
膜
4630-1
他社品
粘度{主剤/硬化剤}
(Pa・s)
1,300/1,400
2,600/2,400
可使時間(min)
5∼9
8∼12
ハンドリング可能時間(min)
約20
約30
混合比の許容範囲(%)
±10
±5
皮膜強度(MPa)
7.0
6.5
皮膜伸び(%)
650
550
1)
接着強さ(MPa)
耐
久
性
靭な接着性と優れた耐久性を実現し
ハイボン4630-1の物性
項 目
性
状
(日立化成ポリマー株式会社)
4.0以上 凝集破壊
4.0以上 凝集破壊
2)
耐候性(MPa)
4.0以上 凝集破壊
4.0以上 凝集破壊
凝集破壊率95%保持時間(h)
(90℃耐熱劣化性)
1,000
100
※本データは当社測定値であり,保証値ではありません。
1):オレフィン系被着体5種類にて評価 2):SWOM(カーボンアーク)2,000h後
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
図1
40
速硬化
30
4630-1
20
低粘度
10
0
0
10
20
30
混合後時間(min)
100
他社品
80
4630-1
60
40
図2
他社品
接着剤の増粘曲線
凝集破壊率(%)
表1
現在,数車種への採用が決まって
見かけ粘度(kPa・s)
確保するための高い耐久性が必要と
ています(図2)
。
0
500
1,000
90℃処理時間(h)
耐熱劣化性
25
製品
紹介
低ランニングコスト小型蒸発濃縮装置
近年,環境問題は全地球的な問題
されるヒートポンプ式で5 L/kWh※1
り扱いが容易です。また,使用目的,
となっており,各企業においても環
程度,一般的な蒸気圧縮式では10
廃液性状に応じて連続運転,サイク
境ISO(ISO14001)の認証取得やゼ
L/kWh程度です。本装置は,蒸気圧
ル運転を選択できます。
ロエミッションなど,積極的な取り
縮式採用に加え,圧縮機や廃液と蒸
標準機種
組みが行われています。そのため,
気の熱交換,凝縮した処理水の熱利
本装置は最大150 L/hの処理能力
廃棄物の減容化やリサイクルのニー
用などに工夫を重ね,15 L/kWhと
を有する機種を標準でそろえていま
いう高効率を可能としました(図2)
。
す。
(表1)必要なユーティリティー
ズはますます高まってきています。
このような各企業の環境問題への積
(特許申請中)
は電気(200 V,3φ)と少量の圧縮
極的な実施策に対して,当社は蒸発
(2)発泡性液体に対応
機用冷却水(35℃以下)のみであり,
効率に優れた小型蒸発濃縮装置を開
従来の蒸発濃縮装置は消泡剤を添
ボイラーユニットやチラーユニット
発・上市して,低ランニングコスト
加することで消泡していますが,本
などは必要としないので,設置後す
の廃棄物の減容化・リサイクル処理
装置はシャワーによる物理的破泡に
ぐに運転が可能です。
を提案しています。
(写真1)
加え,発泡の成長に応じた処理タン
実施例
装置原理
ク内の真空度制御機構により,発泡
①水溶性切削廃液の減容化
抑制を行っています。
(特許申請中)
②水系洗浄装置リンス水リサイクル
廃液の蒸発濃縮処理で発生する蒸気
消泡剤を添加しない運転で処理を行
③油汚染水の減容化
を圧縮機で断熱圧縮して昇温し,こ
うので,濃縮液を原料として再利用
④セラミックフィルタ洗浄液減容化
れを熱交換器で廃液と熱交換します。
することも可能です。発泡が激しい
⑤稀少元素回収
これにより,蒸気の持つ潜熱を再利
時は消泡剤を添加しますが,ほとん
などがあり,処理対象により異な
用することで省エネルギーを図って
どの場合装置立ち上げ時のみの添加
りますが,減容率は1/5∼1/20,廃液
います。蒸気は廃液に熱を与えるこ
ですみ,消泡剤の使用量を低減する
処理費は全量業者引取と比較して1/3
とで凝縮し処理水となり,廃液は蒸
ことができます。
∼1/10に低減可能です。
当社の蒸気圧縮式蒸発濃縮装置は,
気からもらった熱で蒸発するので, (3)省スペース
装置立ち上げ時以外は外部からの加
装置は製造設備に隣接して設置す
当社では装置の導入に際して,ビ
熱が不要となります。そのため,定
ることを前提として,60 L/hの機種
ーカー実験と60 L/hのテスト機によ
常運転時はわずかな機器類の電気量
で1.3×2.1×2.1 mとコンパクトなパ
る実証実験を行い,顧客の導入目的
のみで運転が可能です(図1)
。
ッケージ型としています。
や廃液・処理水性状に応じて,前後
主な特長
処理を含めた最適なシステムを提案
(4)簡単な運転操作
(1)高い蒸発効率
蒸発効率は比較的省エネルギーと
自動運転であり,通常の操作は運
しています。廃液の減容・リサイク
転スイッチを入れるだけなので,取
ル,有価物の回収を省エネルギーで
行える本装置が,環境問題に取り組
VP
真空P
気水
分離
圧
縮
機
主
熱
交
換
器
処理水
ヒ
タンク(65℃)ー
タ
ー ※
んでいる企業の要望により多く応え
られるよう今後も努力していきます。
(日化設備エンジニアリング株式会社)
デミスタ
処理
タンク
19kPaABS
(60℃)
廃液
P
P
P
(20℃)
濃縮液
(60℃)
処理水
(25℃)
予熱用熱交換器
※ヒーターは立ち上げ時のみ稼働
写真1
表1
小型蒸発濃縮装置
小型蒸発濃縮装置フロー
標準機種仕様
項 目
15
0.4
12
0.3
9
0.2
6
0.1
3
0.0
HCT-EV60
HCT-EV100
HCT-EV150
40
60
100
150
電気容量(kW)
11
14
23
35
消費電力(kW)
3.8
4
6.6
10
蒸発効率(L/kWh)
10
15
15
15
装置サイズ
(W×D×H)
1,300×2,100
×2,100H
1,300×2,100
×2,100H
1,800×2,100
×2,200H
1,800×2,300
×2,300H
日立化成テクニカルレポート No.50(2008-1)
0
単純
蒸発
型 式
HCT-EV40
処理水量(L/h)
26
図1
0.5
蒸発効率(L/kWh)
大気
(60℃)
処理エネルギー(kWh/L)
27kPaABS
(75℃)
ヒート
ポンプ
蒸気
圧縮
当社
装置
方式
図2
※1
処理エネルギーの比較
L/kWh:1(kWh)のエネルギーで処理で
きる廃液量(L)を蒸発効率とし
て示しています。
編集後記
お問い合わせ先
日立化成テクニカルレポート第50号をお届けします。今号は50
号という記念すべき号ですが,論文3報と若干軽量になっていま
す。経営上の都合から発表できなくなった論文があったためです
が,迫力不足である点は否めないと思っています。今号の内容で
すが,用途探索中の結晶のシーズ技術,従来分野の最先端向け多
層材料,新規分野へ打って出ようという白色LED用反射モールド
材という製品開発のフェーズを表す構成としました。製品紹介で
は,関連会社製品3つを含む9製品をご紹介しております。特に特
集ということは考えませんでしたが,論文,製品紹介の各タイト
ルを眺めていますと環境,省エネ対応のものが多いことにあらた
めて気づきました。社会のニーズが確実にその方向へ動いている
ことの現れであり,当社もそれに応えるべく着実に進んでおりま
す。
Y.T.
・掲載事項に関するお問い合わせにつきましては,弊社
インターネットホームページの下記アドレスのお問い
合わせフォームをご利用くださるか,または下記事務
局までお問い合わせください。
お問い合わせページアドレス:
https://www.hitachi-chem.co.jp/cgi-bin/contact/other/toiawase.cgi
・「製品紹介」に関するお問い合わせにつきましては,弊
社インターネットホームページの下記アドレスの各製品
紹介をクリックして,お問い合わせフォームをご利用
ください。
製品紹介ページアドレス:
http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/products/index.html
編集委員
沼
田
俊
一
相
原
章
雄
大
森
英
二
小
島
靖
中
一
市
村
茂
樹
前
川
麦
堀
部
治
入
口
剛
典
工
藤
茂
渡 辺 伊 津 夫
藤
岡
厚
塚
越
功
中
村
吉
宏
正
岡
和
隆
横
家
泰
彦
荻
長 谷 川 雅 之
関
泰
幸
山
口
正
憲
青
柳
寿
和
山
野
憲
晴
夫
日立化成テクニカルレポート 第50号
発 行
発
行
2008年 1月
元 日立化成工業株式会社
3346−3111
(大代表)
〒163-0449 東京都新宿区西新宿二丁目1 番1 号
(新宿三井ビル) 電話(03)
事務局 研究開発本部 研究開発推進グループ 電話
(03)
5381-2402
編集・発行人 義之
印
刷
所 日立インターメディックス株式会社
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町二丁目 1 番地 5
(ダイヤルイン案内)
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