プロジェクト報告書(最終)Project Final Report 提出日 (Date) 2012/01/18 地域に根ざした数理科学教育 Supports for regional education in mathematical science b1009241 花田愛子 Aiko Hanada そ、算数を生活に活用する格好の契機と考え、市立 1 背景 柏野小学校の「おもしろ算数クラブ」を実践の場と 国際教育到達評価学会(IEA)による国際数学・ 理科教育動向調査 [1] では、 「算数が苦手」と答えた して、算数から他分野への「ひろがり」を導入する 学習プログラムを製作と実践を目標とした。5 つの 日本の小学 4 年生は 4 割を、「数学が苦手」と答え テーマからなるプログラムの具体内容は,次章にて た中学 2 年生は 6 割を上回り、国際的にも高率であ 詳しく述べる。市立柏野小との連携は、本学と函館 るという結果が 2003 年調査で判明し、社会に衝撃 市間の小大連携協定の実践例でもある。 を与えた。教育界の種々の対応策を経た 2007 年調 B グループは、中学・高校課程での教育項目の不 査においても、苦手の回答率は微減(小 4)あるい 連続性に着目した。すなわち、高校後期段階で現れ はむしろ微増(中 2)である。このような状況下で、 る重要項目で、その萌芽的概念は中学初中期に現れ, 2008 年に告示された文部科学省・学習指導要領 [2] その後は顕には言及されないものが少なくない。項 では、「理数教育の充実」を重視し、算数・数学授 業数の増加や、知識と実生活を関連させる、「活用 型」授業の指針が盛り込まれている。残念ながら、 実施方法や内容が具体的に示されておらず、具体化 は現場裁量とも解釈できる。ここに、本プロジェク トは、「地域限定型」で児童・生徒の数理科学への 興味向上を促す算数・数学プログラムの制作・実践 の意義を見出し、目的に定める。地域貢献の視点か らも意義深い活動と考えている。 目間を自然に「つなげる」プログラムが学習意欲の 向上を促すと考え、その製作と実践を行った。 さて、 「地域に根ざした数理科学教育」のプロジェ クト名に恥じぬように、未来祭企画や、HAKO- DATE アカデミックリンク 2011 に参加して情報発 信にも取り組んできた。未来祭では、小中生を含め た近隣住民の来場を想定した、本プロジェクトの活 動内容を紹介と、学習プログラムのミニ体験を行っ た。HAKODATE アカデミックリンクでは、一般 市民や教育関係者、8 大学学生との交流を通して、 本プロジェクトの活動内容の情報発信を行った。2 月には、東京・秋葉原でのプロジェクト成果発表会 にて、情報発信する予定である。 3 課題解決のプロセスとその結果 図1 PISA(学習到達度調査) グループ A が実践してきた、「おもしろ算数クラ ブ」(全 5 回)で取り上げるテーマは、指導要領に 2 課題の設定と到達目標 捉われず、児童が実際に手を動かすことができ、驚 きや好奇心を持って学習できることを要件として 背景で述べたとおり、本プロジェクトは,指導要 検討を重ね、「黄金率」(第 1 回)、「2 進法とモノク 領 [2] には,同要領が奨励する算数・数学「活用型」 ロドット絵」(第 2 回)、「2 進法とカラードット絵」 授業への具体的記述が見られない点に着目して,目 (第 3 回)、「2進数のたし算」(第 4 回)、「2 進数 的を定めて活動した。本プロジェクトは、 「活用」の と回路」[3](第 5 回)を選んだ。また、「チャレン 具体化指針として、小学校高学年対象で活動する A ジの必要性」という伊勢校長の助言に従い、わかり グループは「(他分野への)ひろがり」、中高生対象 やすさとチャレンジのバランスを心がけて制作に臨 で活動する B グループは「(学齢間の)つながり」 んでいる。「黄金率」では芸術と数学、第 2、3 回目 を定めた。 の「2 進法とドット絵」では情報、図工、数学、第 A グループは、科目間の垣根が低い小学校期こ 4、5 回目の「2 進数と回路」では情報、理科、図工、 数学の繋がりの紹介と学習を目的に授業を行った。 これらは身近なものとの関連付けを行い、「算数の 活用」への意識を高める内容を目指している。これ らのテーマを理解してもらう前提として、チュータ の説明を「単に見たり聞いたり」するのではなく、 自らが道具を使いながら行うので定着度を高めるよ うな構成としている。さらに、参加児童とのインタ ラクティブな質問・応答を取り入れている。クラブ 内の班編成に対応し、サポートにプロジェクトメン バーを配置している。そうすることで円滑な進行に 図2 カラードット絵制作 配慮している。その結果、ワークシートの問題を楽 しそうに解く姿が多く見受けられた。 第 1 回の授業である「黄金率」は電卓や定規を 使って測ってもらい学んでもらった。一昨年の反省 を生かし定規で長さを測る際には十分な説明をし、 丁寧にサポートした。また、授業の最後には「黄金 率」が身近に使われている例として「ミロのヴィー ナス」 、 「iPod の画面」 、 「名刺」などを紹介した。こ のように、 「黄金率」は芸術、電化製品、職業用ツー ルに使われていることをクラブに参加した児童達に 知ってもらった。また、授業の最後には黄金率が用 第 4 回目の「2 進数とたし算」では、10 進数の 「1 + 1」と 2 進数の「1 + 1」の答えが異なること から、児童に驚きや疑問を持ってもらい、2 進数の 足し算を学ぶという流れとした。筆算を用いて学ぶ ことで、繰り上がりの計算がより身近にわかりやす くなるようにした。第5回目の「2 進数と回路」は 第 4 回目の「2 進数のたし算」の応用したテーマで ある。このテーマでは 2 進数のたし算が不可欠であ り、たし算ができないと回路が光る楽しさが理解出 来ない。しかし、参加児童たちは 2 進数のたし算の いられている名刺を渡した。第 2 回目のテーマであ 結果が光でわかるということに驚きを持って学習で る「2 進法とモノクロドット絵」は 10 進数を 2 進 きた。また、身近なものとして電卓やコンピュータ 法を用いて 2 進数に変換させた。このときに用いた を例に紹介した。 のが手袋を使った変換の方法である。この方法を使 用すると片手で 31 までの数を数えることができる。 実際に児童達に手袋をはめてもらい指を折りながら 確認してもらった。去年はゴムの指サックを用いた が児童の指に合わないことから今年は手袋を用い た。指の折り曲げに 0 と 1 を対応させ 1 の部分 を黒く塗るという方法で、モノクロドット絵を作っ た。第 3 回目の授業「2 進法とカラードット絵」で は、第 2 回目の授業「2 進法とドット絵」の応用と して、 「カラードット絵」をメインテーマにした。児 童が驚きと好奇心を持って学習できるように、児童 にとって馴染みが深い青、赤、白、黒の 4 色で「ド 図3 クラブで用いた回路 ラえもん」を題材に用いて、クラブの参加者全員で 1つの大きな「カラードット絵」の作成を行った。 一人一人が違う絵を書いていき何が出来るのか完成 するまでわからない期待や完成した時の達成感を感 じでもらえた。 前期の中間報告時点では、時間進行が窮屈なこ と、サポートメンバーによるワークシート配布タイ ミングのずれが改善すべき点であった。これらの点 は分業による作業後の情報共有が足りなかったと考 えられ、後期はいくつかの段階でスライドを全員が 見送った。後半のクラブ活動では少しずつ慣れてい きお互いにプリントのタイミングなど図れる様に なった。 だった」等のアンケート記述からは、2 つのプログ B グループの活動内容は以下のとおりである。学 ラムのいずれによっても、学習者は分数関数と反比 年進行に沿った不連続性が顕著な教育項目の洗い出 例+平行移動の繋がりに気付けたことがわかった。 しのため、教科書構成の分析から着手した。分析の 一方、方法 2 による学習は、方法 1 に比べて時間が 結果、数学 かかることも評価実験で明らかとなった。方法 2 に で取り上げられる分数関数の内容は、 中学校で学ぶ反比例と平行移動の内容を、うまく合 おいては、一般性を持つ分数関数の導入に、中学生 わせて活用できれば、中学生にも理解可能な構造と は時間を要することが原因と考えられるため、以後 判断した。この分析に基き、分数関数を教育プログ は方法 1 のみに基いて活動を進めることとした。後 ラムの題材に選定して、プログラム構成の検討を 期の活動では、前期に考案した方法 1 に基くプログ 行った。 ラムを e-learning 化した。e-learning 化は、(1) 学 関数を把握する常套手段としてのグラフ描画の観 習に要する時間の短縮、(2) 効果的な可視化が容易、 点からは、数 III の分数関数のグラフは、中学で学 (3) 自習が可能、という効果が期待できる。(2) に関 ぶ基本的な反比例のグラフの平行移動と捉えられる する工夫例は、以下のとおりである。数 点に着目し、以下の 2 つの接近法に沿った教育プロ 数、あるいは反比例のグラフ描画は、学習者の計算 グラムを検討した。第 1 の方法(方法 1)は、「実 に基きプロットを、マウス入力できるような形式と 社会に起こり得る内容を問題に設定し、その分析・ し、そのプロット数の増大極限として双曲線が出現 考察を一般化する」という接近法である。この方法 するような画面を作った。平行移動の可視化では、 は、具体例から徐々に一般化に到るという、教科書 数 の記述形態に近いものである。例えば、実社会の問 し、カーソルないしはマウス操作によるグラフの重 2 の分数関 の分数関数と反比例のグラフを同一画面に表示 題として「面積が 5cm のカードの右上隅に 1cm ね合わせの際には、移動量が「上に1」とか「左に 四方のロゴを描きたい時、縦と横の長さの関係を方 1」と表示されるようにした。(3) に関する工夫と 程式で表せ。」という問題から出発し、分数関数の して、学習者の入力解答に対する正誤判定と、問題 方程式に到る道筋である。第 2 の方法(方法 2)は、 が解けない場合のヒント画面を用意した。想定ユー 方法 1 とは逆に、「一般的な形の分数関数の問題提 ザーである中学生の P C 習熟度を勘案し、マウス入 示から、その問題が反比例や平行移動という部分問 力もキーボード入力も可能な仕様とした。こうして 題に細分化に到る」という接近法である。 制作した e-learning ソフトの使用評価実験を行っ た。「反比例を基本として分数関数に発展していっ た」のようなインタビュー結果を使用者全員から得 られたことから、e-learning 化は、前期プログラム をより効果的にしたと判断した。全体を通して、考 案した教育プログラムは中学生にとって効果的であ ることが分かった。また、教材の e-learning 化が効 図4 方法 1,2 のダイアグラム化 果的であることも分かった。 これら 2 つの接近法に沿ったプログラムに共通 して重要な学習項目が「反比例と分数関数の類似性 の発見」である。この発見を促すための、学習者へ の作業課題が「平行移動の可視化」である。すなわ ち、分数関数が数学的基礎となっている事象をグラ フ化し、別に描いた反比例のグラフと重ねて比較す 図5 e-learning 化 る作業課題である。学習者が類似性に容易に気付 けるように、それぞれのグラフは透明シート(OH P)に描かれる。このような工程を経て制作された A、B 両グループとも参加したキャンパスコン 2 つのプログラムの評価実験を、中学生数名に対し ソーシアム函館主催アカデミック 2011 でプロジェ て実施した。「(分数関数は)反比例が発展した問題 クトの特色でもある、自分たちが主体となり考え、 工夫してコンテンツの提案や開発、実践するという の規模の拡大が可能になる。これにより、多くの被 ことが評価されて FM いるか賞を受賞することが 験者に教材を評価してもらうことができ、教材につ 出来た。また、参加することによって学内だけでは いて、より詳しい検証ができる。また、パッケージ なく学外の一般の方々に活動内容を紹介することが 化にマニュアルを加えることで、製作者が被験者の できたと思われる。今後 2 月に東京で課外発表が行 そばにいなくても勉強が可能になる。もしくは、こ われる。そこでも活動内容をわかりやすく紹介して れまで 5 人の製作者がそばにいて実践を行っていた いく予定である。 が、この人数よりも少人数での実践が可能になり、 そして余った人が別の場所で実践を行うことなど複 数の場所での実践が可能になると考える。 B グループは後期に行った実験授業で得た評価よ り、数字を入力するやり方や計算は普通紙を使用し て行った方が良いという旨の発言など操作性に関す る改善点が受講者から挙げられた。また、チュート リアルやヒントを見ても受講者に解けないような問 題などがあった場合に備え、ネットワークを通して 講師に質問ができるようにメールやチャットといっ た機能を搭載し利用できるようにすることも今後の 課題である。更に、今後の展望として中大連携教育 の実現が挙げられる。小学校と正式な契約を行い小 学校の授業内に大学生が行う授業がある A グルー プに対して、現在の B グループは数名の中学生に 図6 FM いるか賞 協力を依頼し実験授業を行っている。そこで、今後 は中学校との連携教育を目標に活動をしていく。 参考文献 4 今後の課題 [1] IEA 国 際 数 学・理 科 教 育 動 向 調 査 の 2007 A グループの今後の課題としては教材自体の更な る改善である。これまで A グループでは、手袋や、 ドット絵、回路などの教材を手作りで制作してきた。 これらの教材は、A グループの企画要件から児童が 手を動かすことができること、そして目で見て結果 がわかることを意識して設計、製作をしてきた。こ の点は、アカデミックリンクで賞をいただくなど、 成果をあげることができ、評価できる。しかし、今 後、さらに活動を発展させていくには、今のままで は難しい。それは、教材が手作りのため、一度に大 量生産することが難しいことである。結果、被験者 の数を増やすことができず、実践後の意見も少なく なり、教材の有用性について詳しく検証することが 難しい。また、現状の教材では、製作者が授業に参 加していなければ、被験者が各自で使用することが 困難であると思われる。以上のことが A グループ の問題として考えられる。この問題に対して、A グ ループでは、解決案として教材のパッケージ化を提 案する。教材をパッケージ化することで、手作りに よる大量生産の難しさを解消でき、実践フィールド 年 調 査 http://www.nier.go.jp/timss/ 2007/gaiyou2007.pdf [2] 文 部 科 学 省 小・中 学 校 の 授 業 時 数 に 関 す る 基 礎 資 料 http://www.mext.go.jp/b_ menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/ 07061432/005/001.html [3] ス イ ッ チ( リ レ ー )に よ る 半 加 算 器 http://www.infonet.co.jp/ueyama/ ip/semi_cnd/adder_r.html
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