プロジェクト報告書 Project Report 提出日 (Date) 2012/01/18 筋電義手の開発 Development of myoelectricity hand 1009155 高見 充 Mitsuru Takami 1 背景 を小さくすることを課題とした。信号処理班は筋電位の信号 によって動作を変えるプログラムの作製を課題とし、最後に、 何かしらの理由によって腕を失ってしまった人々のために、 これまで多くの義手が開発されてきた。義手には多くの種類 ロボットハンド班では目標とする動作を可能とするロボット ハンドを作ることを課題とした。 があり、例えば、外見を重視した装飾用義手、特定の作業を目 的とした作業用義手、ほかの体の動作に合わせて動く能動式義 手等がある。現在、それらとは異なる義手として、 「筋電義手」 3 課題解決のプロセスとその結果 作製を始める前に、講義を受け、それから各人が望む班に分 の開発が行われている。それは生体信号の1つである筋電位 かれた。その後にそれぞれの班で必要な知識を学習し、活動す によって、その動作を制御するもので、本物の手のように装着 る準備をした。その後にもう1度話し合い、私たちの目標を設 者の思い通りに動かすことができる義手のことである。筋電 定した。それらを踏まえた上で中間発表までの目標を話し合 位とは筋肉を動かそうとするときに筋肉で発生する微弱な電 い、手を握る動作と開く動作のロボットの作製をはじめた。 位差を計測したものである。筋電義手の実例として、シカゴリ ハビリテーション研究所で開発されたバイオニックアームと 筋電位測定班では、はじめに手を握る時に活動する屈筋と 呼ばれるものがあり、実際にそれを装着している女性がいる。 開く時に活動する伸筋の特定、及び筋電位の計測を行なった。 金槌のようにある程度の重さのあるものや、鍵のような小さな 試行錯誤し、握った時に活動する筋と開いたときにする筋を もの、更にクラッカーのように壊れやすいものも持つことがで それぞれ特定することができた。次に計測器の製作を行なっ きる。しかし、この義手は筋肉に直接電極を埋め込むために、 た。製作するにあたり、電気回路の知識が必要となり、特に、 大手術が必要で感染症の危険性も伴い、費用も増えてしまうと 反転増幅回路、非反転増幅回路、コンデンサー、ハイパスフィ いう欠点がある。 ルタ、ローパスフィルタ、差動増幅回路、インスツルメンテー 本プロジェクトは昨年から始まり、皮膚表面で計測するこ ションアンプについて勉強した。反転増幅回路は電圧の正負 とができる表面筋電位を活用した義手の開発を行なってきた。 の値を反転して増幅する回路、非反転増幅回路は電圧の正負を これは、電極を直接筋肉に埋め込む必要がないため、安全で安 反転せずに増幅する回路、ハイパスフィルタはカットオフ周波 価である反面、欠点もある。筋肉は層となっているため筋電位 数より高周波数の信号を通し、低周波数の信号を通さない回 発生部位の特定が難しい点と、計測する環境によってノイズが 路、ローパスフィルタはカットオフ周波数より低周波数の信号 入りやすくなってしまう点である。 を通し、高周波数の信号を通さない回路、差動増幅回路は2つ 2 課題の設定と到達目標 ある入力電圧の差を増幅する回路、インスツルメンテーション アンプは計測用として広く用いられる入力インピーダンスが 上述の問題を解消するために、私たちは到達目標を設定し 高い差動増幅回路である。以上の知識を用いて、アンプを作製 た。まず初めに各指の動作に対応した筋活動の識別ができる した。このアンプの役目は、筋電位のノイズを減らして値を増 こと、次にジャンケンができること、最後にやわらかい物を掴 幅し、信号処理をしやすいものに変換することである。今回は むことができることなどを目標とした。これらの目標を達成 屈筋と伸筋の二箇所の筋電位を計測するので、このアンプを二 するために3つの班に分かれ、それぞれの班がこれらを達成す つ搭載した回路を作製した。一箇所の筋電位を計測するため るために活動していくこととした。3つの班は筋電位測定班、 には電極が2つ必要であるため、合計で4つの電極を作製し、 信号処理班、ロボットハンド班である。筋電位測定班は活動 アンプにこれらの電極を取り付けて筋電位計測器が完成した。 している筋肉を特定できるような計測器の作製、及びノイズ 信号処理班では PIC マイコンを使用した。マイコンの主な 役割は、A/D 変換と信号の処理である。筋電位はアナログ信 号であるため、PIC によって A/D 変換しデジタル信号にし た。ここでは2つのことを心がけており、1つは A/D 変換に よって得られるデジタル量を大きくすることである。そうす ることで、連続的な変化をするアナログ量をデジタル量で表 現できるようになる。もう1つは、早い時間周期でデジタル 量に変換することである。そうすれば離散的な変化であるデ ジタル量を、より連続的な変化に近づけることができるから である。デジタル量とは情報を数値化したもので、アナログ 量とは時間や空間によって連続して変化する値のことである。 サーボモーターの制御はマイコンに搭載されている PWM と いう機能を用いて行なった。 ロボットハンド班では、はじめに、加工しやすさから木材 を用いて作製した。サイズはメンバー1人の手が元となった。 見た目はなるべく人の手に見えるように指の長さと太さを実 物の手に合わせて作った。各指の手の平側と甲側にワイヤー を付けて、手の平側のワイヤーをすべて引っ張ると握り、甲側 を引っ張ると開く仕組みとした。これをサーボモーター1つ 図1 中間成果物 で実現するために、どちらにも回転可能な位置でサーボホー ンを固定し、更にサーボホーンを延長してその先に手の平側、 甲側のワイヤーをそれぞれ全てつけた。これにより、手の平側 にサーボモーターが回転した時に握り、サーボモーターが初期 の位置に戻ろうとすると甲側のワイヤーが自然と引っ張られ るため、手が開く。そこから甲側にサーボモーターが回転する と、少しだけ指が曲がった状態からピンと指を張った状態にな 最終発表までの目標は、各指の動作に対応した筋活動の識別 とジャンケンができるロボットの作製とした。またセンサー を付けて、やわらかい物を壊すことなく持ち上げることも 目標とした。各指の動作に対応した筋活動の識別と述べたが、 実生活において、薬指と小指が別々に運動することはほとんど ないと判断し、この 2 本は同時に動作する機構にした。 る。このとき用いたワイヤーは PE ラインと呼ばれるもので 釣り糸として使われているものである。 筋電位測定班は、前期よりも精密な筋活動を区別するため にアンプを 12 個搭載した増幅回路を用いて計測することにし 実際に各班で製作した装置を組み合わせて制作物を作り、 これは目標とした手の開閉運動をした。しかし、連続で握る開 くの動作をさせていると、手の動きと異なる動作をするように なった。これは屈曲と伸展を連続で繰り返すことによって筋 疲労を起こし、プログラム内のしきい値を越える強さの筋電位 が発生しにくくなったためである。そこでプログラム内のし た。アンプを小型化するために、非反転増幅回路を2つ、リー ク型の積分回路、反転増幅回路を1つにまとめ、クワッドオ ペアンプを用いた。1 つのアンプ毎に電極を2つ使用するた め、24 個の電極を作製した。また、電極1つ1つをテーピン グテープで貼り付ける作業を省くため、24 個の電極を定位置 に付けた電極付きサポーターを作製した。 きい値を下げることによって問題が解決した。また、動作を繰 り返す度にロボットハンドの一部が欠けたり、ワイヤーがちぎ れたりした。これは材料の性質上避けられないことであった。 従って、最終発表までにロボットの材料を変更することとし た。図1は中間発表までに完成したロボットである。 信号処理班は、目標を満たすために PIC よりも多くの入出 力ポートを備えた Arduino というマイコンを使用した。これ によってアンプ 12 個分の入力と、サーボモーター 4 つの出 力が可能となった。言語は Processing を用いた。更にパター ン認識を行うための教師あり学習法の1つである SVM を勉 れた部分が壊れることはなくなった。 強した。SVM を用いることで、動作の分類ができるように なった。Processing における Java ライブラリの使用法を調 全体的に作業が順調に進まず、作業期間中に各班の装置を べていくうちに、ライブラリを拡張することで普段は使えな 全て組み合わせることができなかった。よって本番でしか組 い Java のライブラリが使えることを知り、それを活用するこ み合わせられなかった。実際に制作物に動作をさせると、筋電 とにした。それにより、Java のプログラムと同様の動作をす 位信号の学習は問題なくでき、かつ判別も予想通りにできた。 るプログラムができた。 今回は3つのプログラムを作製し しかし、数回くり返し動作をさせていると、ロボットハンド た。アンプで増幅した筋電位を PC に送るマイコンのプログ のワイヤーを通している穴とサーボモーターを支える部分が ラム、マイコンから送られた信号を学習して、その信号がど 壊れてしまった。図2は最終発表までに完成したロボットで のパターンに近似しているかを判別する SVM のプログラム、 ある。 その判別結果と圧力センサーによってサーボモーターを制御 するプログラムの3つである。これらのプログラムによって、 ロボットハンドに各指の独立運動とジャンケンの動作をさせ ることができた。 ロボットハンド班では材料を木材からアクリル板に変更し、 PE ラインもスチールワイヤーに変えた。アクリル板に変更し たのは全体的に壊れる可能性を小さくするためである。PE ラ インは、摩擦によって切れることがあるためスチールワイヤー に変えた。サイズはこれまでと同様にしたが、手の構造を人体 の骨格を参考にすることで手の自然な丸みを表現した。指の 構造も中間発表までとは異なり、ボールベアリングを用いた。 可動部ではボールベアリングしか動かず、他の部分が擦れる ことはないので摩耗することがなくなった。指が曲がる仕組 みは中間と変わらないが、サーボモーターを4つ使用してお り、親指、人差し指、中指に1つずつサーボモーターを付け、 薬指と小指は1つのサーボモーターで動作させることとした。 これによって人の手の運動に近い動作ができるようになった。 腕部分にサーボモーター集合して配置した。手首にあたる部 図2 分にワイヤーを集中した時に、ワイヤー同士が絡まないように 最終成果物 穴を開けたパーツをつけて、その穴にワイヤー 1 本 1 本を通 した。 4 今後の課題 ロボットハンドが壊れてしまったので、その修復とそれ以 信号処理班の装置とロボットハンド班の装置を合わせてみ たところ、親指、人差し指、中指、が 1 本ずつ動作し、薬指 と小指の 2 本を動かすこともできた。また、ジャンケンの動 作もできた。なんども動作をさせているうちにロボットハン ドのワイヤーを通しているパーツが取れてしまった。原因は そのパーツに負荷がかかりすぎてしまったためである。その パーツが取れないように、硬く固まるように接着剤を変えた り、ネジでそのパーツを固定したりした。それによって一度壊 上壊れないようにする。最終発表において壊れてしまったの は、信号処理班の装置と組み合わせた時に壊れた部分を補強し たことによって、別の部分に負荷がかかってしまったからであ ると考えている。壊れてしまった部分を補強するのではなく、 ロボットハンド全体の構造を各パーツや部位に負荷がかから ないように考え直す必要があるかもしれないとも考えている。 今回のもう一つの目標である、柔らかいものを掴むことに関し ては、圧力センサーをとりつけて実現しようとしたが、今回の プログラムではセンサーが反応すれば指定の角度までサーボ モーターが回るというものであるため、特定の物体しか持つ ことができなかった。したがって、今後の課題として圧力セ ンサーのプログラムを考えなおす必要がある。今回は間に合 わなかったが、ロボットハンドのリアリティを表現するため に、シリコン製の手袋を作製する予定だった。電極付きサポー ターに関しても腕が極端に小さいと適切に測れないといった 問題もあるのでこれも改良が必要である。動作しないアンプ もあったので動作するアンプを作製しなければいけない。 以上のような問題点が挙がった原因としてスケジュール管理 がうまくできていなかったということもある。予定を立て、提 出物があるならば期限を設けるようにすることが大切である。 今後の目標は、まずはじめに製作する基板を小さくするこ とである。そうすることで、より小型化、軽量化ができるから である。今回作製した電極付きサポーターについてもこんお はもっと伸縮するものを開発することで、若年層から老年層ま で、広い層に装着させることが可能となる。ロボットハンド については、どのようなものを作るというよりはもっと勉強 をし、実際に装着する人の声を聞く必要があると考えている。 そうすることで、より装着者にとって自然な義手となることが できるだろう。 今の時点の研究成果では、まだまだ本物の手に代わること はできないものである。筋電義手は今後も開発されていく分 野である。いつかは本物と区別のつかないような義手ができ るかもしれない。 参考文献 [1] John Shawe - Taylor. サポートベクターマシーン入門 共立出版, 2005. よこちちひろ [2] 横地千仭. カラーアトラス 解剖と機能. 医学書院, 1970. [3] 建築発明工作ゼミ 2008. http://kousaku-kousaku.blogspot.com/. [4] オリエンタルモーター株式会社 www.orientalmotor.co.jp お の だ たかし [5] 小野田 崇 . サポートベクターマシン. 人工知能学会, 2007.
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