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プロジェクト報告書(最終)Project Final Report
提出日 (Date) 2011/1/19
地域のためのイベント支援サイト構築/運用
Building and Operating Websites to Support Events for an Area
b1008195 鈴木飛翔 Sho Suzuki
1 背景
に, そして広く伝えるのに効果的な手段となりうる. そ
こで, 本プロジェクトはそこに注目し,Web を活用する
科学技術は私達の身の回りに溢れている. 例えば, 高
画質, 高音質な映像を配信するテレビのデジタル放送や
ことで, 科学イベントを周知させ, 科学を広めようと考
えた.
パーソナルコンピュータや携帯端末の普及, それに伴う
インターネットの浸透, また, 携帯端末さえあれば現金
を持たずに買い物ができ, インターネットからでも簡単
2 課題の設定と到達目標
本プロジェクトでは Web システムを活用し, 科学に
に買い物ができるようにもなっている.
対する興味・関心を喚起するイベントを提供することを
このように我々は多くの場面で科学技術を利用してい
目標とした. そのなかで, 効率よく目標を達成するため
るが, 科学技術に関心を持っている人が少ないというの
にイベント班とシステム班の 2 グループに分かれて作業
が現状である. 現在, 欧米のメディアは科学技術に関する
を行った.
話題を積極的に取り上げて, 理科離れの対策を行ってい
イベント班は, 市民の科学に対する興味・関心を喚起
るのに対し, 同じ先進国である日本では, メディアが科学
する科学イベントのよりよい企画/運営を目指すことを
技術に関する話題をあまり取り上げていない. その結果,
目標とした. そのために専門家と市民の間で双方向なコ
日本では一般市民が科学に触れる機会が少なく, 科学へ
ミュニケーションが行われるサイエンス・カフェに注目
の関心が薄らいでいるのではないかと考えられる. また,
した. ここで本プロジェクトが企画/運営するサイエン
理科に対しての苦手意識も, 理科離れの原因の 1 つであ
ス・カフェを科学夜話と呼ぶ.(図 1)
ると考えられる. 小学校で学ぶ理科に比べ, 中学校で学
ぶ化学というのは突然内容が難しくなるという印象を持
つ人が非常に多い. そのため, 幼い頃からの理科への苦
手意識が, 科学技術に対する関心の低さに繋がっている
と考えられる [1].
そこで, この現状を改善するために, 本プロジェクト
ではサイエンス・コミュニケーションに着目した. サイ
エンス・コミュニケーションとは, 科学の楽しさや面白
さを子供から大人まで多くの人々に伝え, 科学技術につ
いて共に考え, 人々の科学に対する意識を高める活動全
てのことである. 現在, この活動は広まってきており, 多
くの場所で行われている. しかし, 積極的にイベントへ
と参加する人は少なく, このままでは, 一般市民の関心
図1
はこだて国際科学祭にて開催した科学夜話の様子
を高めることは難しい.
一方で, 近年では一般家庭でのインターネット普及率
が高まってきており, 今や市民の生活に深く根付いたメ
ディアとなった. 使い方によっては, 情報を手軽に, 安価
システム班は, 昨年度の同プロジェクトが開発した「誰
でも, 簡単, 予約システム REYKA」を利用し, イベント
に興味を喚起させるサイト作りを行った. 昨年度まで
のシステムは, 予約システムとして最低限の機能しか備
ベントの満足度について, 最終的に高い値を得る事
わっていなかった. そこで, 図 2 のように, より多くの人
を目標に設定した.
に興味, 関心を持ってもらうために, イベント中だけでな
く, イベント前, イベント後と三度楽しめる,Triple-FUN
(3) システムの開発・運用技術の習得 前 期 で は, シ ス
なイベント支援サイト構築を目標とした.
テム開発とデザインの技術習得, 引き継いだ予約
システムの構造の把握と機能拡張,Triple-FUN 実現
に必要な機能の洗い出しを行った. また,8 月に開催
されるはこだて国際科学祭にて, 予約システムを利
用するため, それに向けてのシステム開発, 提供を
行い, 本格的な開発の知識と経験を深めることを目
標とした.
(4)Triple-FUN なシステムへの拡張 後 期 で は, は こ だ
て国際科学祭でシステムを運用した経験や, 反省
図 2 Triple-FUN な予約システムのコンセプト図
点を活かし, システムを Triple-FUN なイベント支
援サイトへと拡張することを目標とした. 具体的に
は, イベント前はイベントへの期待を高める. イベ
各班の目標を達成するに当たり、2 班合同で 4 つの課
ント中はイベントに参加していない人でも楽しめる
題と, 課題毎の小目標を設定した. それぞれの課題の詳
ようにする. イベント後は, イベントを振り返るこ
細を, 以下に記す.
とができるようにする. この 3 つをシステム上で実
(1) イベントの企画, 運営方法の習得 参 考 書 籍 を 調 査
現することを目標とした.
し, 科学コミュニケーション手法とは何か, サイ
エンスカフェとは何かといった知識を得る. その知
識を元に, 実際にサイエンスカフェを実施すること
で, イベントの企画, 運営方法を体得した. イベント
班に属するメンバが主体となって, それぞれ科学夜
話を企画, 運営することを目標に活動を行った.
3 課題解決のプロセスとその結果
2 で提示した課題についての解決方法と結果について,
以下に記述する.
(1) イベントの企画, 運営方法の習得 ま ず, サ イ エ ン
ス・カフェの知識を深めるために, 昨年のプロジェ
(2) 良いイベントにするための工夫 全 7 回, 科学夜話
の企画/運営を行った. その内 4 回は, はこだて国際
科学祭でのイベントとして実施した. はこだて国際
科学祭とは, 国際交流都市函館で, 人を繋げ, 日常生
活の中に科学が文化的活動として根付くことを目指
すイベントである. 科学夜話では, 多くの人がサイ
エンス・カフェに興味を持ち, 参加するために生活
に身近なテーマを設定した. イベント後には, 毎回
リフレクションを行い, イベント中の評価できる点,
できない点を挙げていくことや, ビデオカメラで記
録した映像を見直したり, イベントによって得られ
たこと話し合い, 次回へ生かすようにした. 参加者
に配布したアンケートの回答を分析して得られるイ
クトで行われたサイエンス・カフェのビデオ映像や,
成果物であるサイエンス・カフェのマニュアル, 担
当教員から推薦された参考書を用いて学習した. プ
ロジェクト全体では,『はじめよう!科学技術コミュ
ニケーション』[2] を輪読した. 次に, その知識を元
に大学内と大学外(函館市地域交流まちづくりセン
ター)で 7 回のサイエンス・カフェの企画, 運営を
行った. 全 7 回のサイエンス・カフェでプロジェク
トのメンバ, 特にイベント班がイベント進行役であ
るファシリテーターを務め, イベントを無事終了ま
で導いた. 全てのイベントが満足の行く出来ではな
かったが, ゲスト選びからテーマの設定, 会場選び
や広報, 機材の設営, イベントの進行と, イベントの
見つけ, 次の回では改善策を実施した. このように,
開催に必要な手順を一通り体験したことから, イベ
企画と運営, 結果, 改善というサイクルを繰り返す
ントの企画, 運営方法は習得できたと言える.
ことで, イベントの質の向上を図った.
これら結果はイベント中のアンケートに現れてい
(2) より良いイベントにするための工夫 7 回行った科
た. 図 3 に示すように,6 月 2 日に開催された第 1 回
学夜話では, イベントの実施によるイベント企画, 運
サイエンス・カフェでは, 参加者の満足度が低いと
営方法の習得だけでなく, どのようにすれば満足度
いう結果が得られ,11 月 16 日に開催された第 7 回
の高いサイエンスカフェが開催できるかを探った.
サイエンス・カフェでは, 参加者の満足度は大幅に
イベント終了後にはプロジェクトメンバ全員で集ま
向上するという結果が得られた. これによって, よ
り, リフレクションを行った.
り良いイベントを企画, 運営し, 提供することがで
科学夜話ではゲストの話を分かりやすく参加者に
きたと明らかになった.
伝えるため, 様々な工夫を凝らした.
第 2 回科学夜話では, テーマに関するクイズを出
題して, 聴講者がより深くイベントに参加できるよ
うにした.
第 3 回では, スライドだけではなくパネルも使い,
専門用語を解説するという方法を実施した. 予め聴
講者が疑問に思うであろう用語をピックアップして
おき, それを解説するパネルを準備しておくことで,
ゲストの話をスムーズに理解出来るよう促した.
第 4 回は, これまでとは変わって, 映像を一切使
わず, ゲストとファシリテーター, イベント参加者
との対話のみで行った. 講義よりも対話を重視した
図3
サイエンスカフェの回数別満足度の変化
イベントを意識することで, 堅苦しさを無くし, 気
軽に参加できるのではないかと考えた.
第 5 回では, テーマが海苔であったことから, 試
食の時間を設けた. 見て, 聴くだけではなく, 香りや
味も感じることで, テーマの理解をより深くするこ
とができると考えた.
第 6 回では, 過去にサイエンス・カフェへの参加
経験のあるゲストを選んだ. ファシリテータだけで
はなく, ゲストの方にも積極的に参加者へと話しか
けて頂くことで, 対話の機会を増やすことができた.
最後に第 7 回では, イグノーベル賞を受賞した
ばかりで話題性のある, 公立はこだて未来大学の中
(3) システムの開発, 運用技術の習得 は こ だ て 国 際 科
学祭用の予約サイト開発を行った. アプリケーショ
ン演習と Web デザイン演習を通して,Web サイト
を構築する技術を習得した. 昨年のプロジェクトか
ら引き継いだ予約システムには不具合が多々あった
ので, 習得した技術を活かし, デバッグを行った. ま
た, 主催者側からの要求があったキャンセル待ち対
応のシステム開発を行い, はこだて国際科学祭の予
約サイトとして提供し, 運用時のトラブルへも対応
した. これにより, 予約システムの構造を把握し, シ
ステム開発, 運用技術を習得した.
垣教授をお招きした. 研究発表の物品をお持ちして
いただき, 参加者に触れて頂いた. イベント参加者
のゲストへの関心が高いことから, 質問が多く飛び
交った.
工夫が必ずしもイベントの成功に繋がるわけでは
なかったが, リフレクションによって失敗の原因を
(4)Triple-FUN なシステムへの拡張 科学祭に提供する
システム開発と平行して,Triple-FUN を実現させ
る機能の洗い出しを行った. そこで,Web サービス
の Twitter,Ustream を使うことで,Triple-FUN を
実現できると考え, はこだて国際科学祭の科学夜話
で検証を行った. その結果,Twitter により, イベン
イベント班の開催したいくつかのサイエンス・カフェ
トの情報を予め周知することで, イベントの前や最
では, 空席が目立っていた. それにより参加者が少なく
中に参加者同士でコミュニケーションや情報交換が
なり, 自然とゲストと参加者との会話が少なくなってし
行われた. また,Ustream では, リアルタイムで配信
まった. これは, リフレクションから, 企画段階でのスケ
された放送や, イベント後に録画された映像を視聴
ジュールの遅延によって, 広報活動を十分に行えなかっ
する人がいた. このことから, これらの Web サービ
たことが原因と判明した. スケジュールの遅延は, イベ
スを活用することで,Triple-FUN を実現できると考
ント開催に不慣れであった事に起因する. これは, 今回
え, 開発方針を決定した.
の活動で経験を積んだことで, 今後はより効率よくイベ
実際に開発したのは, システムから Web サービス
ント開催の準備を進められると予測できる. それにより
を利用するための, 連携部分である.Twitter の連携
広報を行う期間を確保し, 実際に街に出てチラシを配る,
では, ハッシュタグを利用することで, キーワードを
システム班の構築したイベント支援サイトを活用するこ
登録し, それに関連した情報を表示させることがで
とで, イベントの参加者を増やすことができると考えら
きた. これにより, イベント前に情報を提供すること
れる. また, 参加者が少ない場合でも, イベント内での対
で期待感を持たせることができるようになった.(図
話を活性化する工夫が必要である. イベント参加者が話
4) また,Ustream の連携では, 予約サイト上で放送
しやすい環境を作るため, 例えば聴講者が参加できる実
を配信することで, イベントに参加できなかった人
験を設けたり, ゲストと参加者の壁を少なくするよう, 専
でも, 会場に居る気分になれるようにした. それに
門性のある話は補足を入れたりするなどの対策を行う.
加えて, 映像をサイト上に保存しておくことで, い
これからも, 引き続き科学イベントを開催し, 科学夜話
つでもイベントを振り返られるようになった. この
が市民にとって, 科学への関心を喚起するイベントとな
ように,Triple-FUN な機能を実装できたが, 実際の
るかを探求していく.
イベントにて利用するには至らず, 利用者の評価を
得ることができなかった.
システム班では, 前期での科学祭で予約システムを
実際に運用した経験を元に予約システムの開発を行
い,Triple-FUN な機能を実装することができた. 具体的
には, 図 4 に示すように,Web サービスとの連携である.
しかし, 実際のイベントで使用できず, 評価や検証を行
えなかった. 今後は, 実装した機能がイベントを周知さ
せるものとしてどれほどの有効性があるか, 実際のイベ
ントで運用して検証を重ね, 改善する必要がある.
それぞれの班の課題を解決することで, 今までより多
くの人にイベントへと参加してもらい, 科学への興味や
図 4 機能拡張を行った, 予約システム REYKA の画面
関心を喚起していきたい. そして, 将来たくさんの人が
函館の様々な場所でサイエンスカフェを行う事を期待し
ている.
参考文献
4 今後の課題
[1] 岡本暁子 (編集), 若杉なおみ (編集), 西本吉雄 (編
集): 『科学技術は社会とどう共生するか』 (東京電
イベントでは参加者を楽しませることができ, 科学に
対する興味, 関心を持って頂けた. しかしながら, イベン
ト参加者が少なかったため, 多くの人に科学を伝えるこ
とができなかった. それは, イベント班とシステム班の
それぞれに原因があると考えられる.
機大学出版局) 2009
[2] 北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニッ
ト: 『はじめよう!科学技術コミュニケーション』
(ナカニシヤ出版) 2008