プロジェクト報告書(最終) Personal Final Report 提出日(Date) 2014/01/15 魅惑的なハイブリッドミュージアムの開発 Production of a fascinating hybrid museum b1011233 赤木勇極 Yugo Akagi 1. 背景 づくりのポイントなどに注目して様々な店舗を調査し、モ 博物館には様々なジャンルの貴重な資料が数多く収めら ノを実際に手に取り触ることができる「体感」という要素と、 れている.しかし博物館に実際に訪れる人々はあまり多く ものがぎっしりと陳列されている「圧縮陳列」という展示形 はない.それは資料がガラスケースに入っているという状 態の 2 つが大きなポイントであると考察した。その後我々 態が、盗難や破壊から守るためには必要ではあるが、観客と は展示物の考案を行った。担当教員による世界中の博物館 [1] の間に距離を隔て興味を失わせているからである. その の展示方法の工夫についてや、展示に利用できそうな情報 ため博物館への抵抗意識が生まれ、博物館へ訪れることを 技術に関する講義を受け、それを踏まえたうえで、調査して ためらわせていると考えらえる. きた博物館の展示物の魅力と雑貨店の大きな特徴とした 「体感」 「圧縮陳列」を意識した展示物の考案をメンバー全員 2. 課題の設定と到達目標 本プロジェクトでは、博物館の魅力を伝わりやすく表現 で行った。その結果 4 つのメインの展示物の制作が決まっ た。それぞれ「フリップフォトブック」 「スクロールビューア した小さな博物館「ハイブリッドミュージアム」を開発・開 ー」「意匠の印影化」「宝飾空間」という名前である。 催する.展示会のコンセプトとして、雑貨店のような気取 らない雰囲気を持った展示会を目指す。展示会を通して多 「フリップフォトブック」は、ハンドルを回すことで写真 くのお客さんに来てもらい魅惑的なハイブリッドミュージ のパラパラ漫画を見ることができる装置である。パラパラ アムを見てもらうことで、実際の博物館の展示物の魅力を 漫画の中では博物館に展示されている魚類や動物の剥製に 感じてもらい、博物館に興味を持ってもらうことが、我々の 関する映像で、剥製の一部分を拡大した状態から、どんどん 目標である。展示会を開催するにあたり必要な作業として、 引いて行って最終的に剥製の全体像へと移り変わるような 博物館の展示物の魅力を抽出しわかりやすくした展示物の コンテンツになっている。装置は1辺30cm程の立方体 制作、展示会場の確保と日程の決定、展示会の広報活動が必 のような形をしており、木製である。側面に手で回すための 要である。また、目標を達成できているかの評価を得るため ハンドルが付いていて、ハンドルを手前に回すことで、写真 に、展示会でアンケートを行い、数値的に評価する必要もあ のパラパラ漫画が箱の中で再生される(図1)。剥製の細 る。 部の細かさを魅力とし、それを表現するために高精細なデ ジタルカメラで撮影をし、画像の加工には Photoshop を使用 3. 課題解決のプロセスとその結果 した。また写真の耐久性を高めるために、ラミネート用紙と まず展示物の制作についてだが、博物館の展示物の魅力 ラミネーターを使った加工処理も行った。全部で4つのフ の調査、雑貨店のような雰囲気を出すために雑貨店へのフ リップフォトブックを制作し、それぞれハリセンボン、タン ィールドワーク、展示物の考案、展示物の制作という作業段 チョウ、オオカミウオ、キタキツネという4つの剥製の写真 階が必要である。初めに我々は函館市内にある市立函館博 を使用した。すべて市立函館博物館に所蔵されている剥製 物館へのフィールドワークを行った。学芸員の話を聞きな である。 がら館内を回り写真を撮ったりメモを取るなどして、博物 館の魅力的な展示物についての理解を深めていった。その 後我々は雑貨店の特徴について調査するために、雑貨店へ のフィールドワークを行った。雑貨店の展示の工夫、雰囲気 意匠の印影化は、刀の鍔をスタンプにした展示物である。 このスタンプは刀の鍔をモチーフにしているため、見た目 は刀の柄のようになっている。利用者には実際に朱肉をつ けて紙に押してもらい、刀の鍔の模様の細かさを、赤と白の 二色のコントラストから感じてもらおうという狙いがある。 スタンプの制作のために、レーザーカッターを使用した。博 物館で刀の鍔の写真を撮影し、Adobe Illustrator, Photoshop などの画像編集ソフトを用いてベクトルデータを作成し、 未来大学にあるレーザーカッターを使って、ゴム板に焼き 付けて作成した。また持ち手の柄の部分もレーザーカッタ ーを使用し木板を切り取り、それを重ね合わせ接着した積 図1.フリップフォトブック 層式のものを制作した。また、見た目にもこだわり、靴紐や カラースプレーなどを使って装飾を行った。スタンプは全 スクロールビューアーは、博物館にある掛け軸の魅力を 伝えるための展示物である。タブレット上のアプリケーシ ョンで、掛け軸の拡大、縮小、遷移をタッチ操作で行うこと 部で6種類制作し、 「椿透鍔」 「草花文様図鍔」 「大根鼠図鍔」 「紗綾形透鍔」 「格子透鍔」 「たばね熨斗図鍔」の6種類の刀の 鍔を元に制作した(図3)。 ができる。タブレットは Nexus10 を使った。対象とした掛け 軸は2種類あり、唐美人図という人物画の掛け軸と、富嶽之 図(蠣崎波響)という風景画の掛け軸の二種類を利用した。 タブレットを使って掛け軸の拡大図を見ることを容易にし、 掛け軸の細部まで描かれているこだわりを見てもらう展示 物である。初めて操作する人はどこを拡大すればよいのか わからないという問題を解消するために、掛け軸のいくつ かの部分拡大写真をパネルにしたものを用意し、展示会で はタブレットの近くに設置した。またタブレットの横にス ケッチブックとペンを用意し、気付いた点、面白いと思った 点を記入し、利用者同士のコミュニケーションをとるよう な仕掛けも施した(図2)。 図3.意匠の印影化 宝飾空間は、博物館の種々の展示物が持っているオシャ レな要素を魅力的な部分であるとし、それを伝わりやすく するような展示物である。例を挙げると、土器や刀の鍔(ツ バ)の細かな模様や、掛け軸のきれいな淵飾りなどである。 制作するのは雑貨店のアクセサリコーナーを模した。アク セサリの元となる展示物の撮影を行い、その写真をベクト ルデータに変換し、レーザーカッターでその切り出しアク セサリの制作を行った。また、アクセサリを装飾するための 棚の制作も行った。また、アクセサリーの元となった博物館 図2.スクロールビューアー にある実際の展示物についての紹介映像をインタラクティ ブに見てもらうために、スクロールビューアーと同様に Nexus10 のタブレット上で動くアプリケーションを作成し た。展示されているアクセサリーにはそれぞれ「○」 「×」 「◇」 「□」で構成される 4 ケタのコードが値札のように取り付け られており、そのコードをアプリケーションに入力するこ とで、アクセサリーに対応した展示物の紹介映像を見るこ とができるようになっている。また、展示台は市販のカラー ボックスを使用しているが、その上段をコルクボードで覆 い塞ぎ、数か所に穴をあけた。ボックス内には蛍光塗料を塗 ったアクセサリーと夜行ライトを取り付け、来場者が穴を 除くことで幻想的にアクセサリーの形を楽しむことができ るような仕掛けも考案し、実装した(図4)。 図5.剥製のパネル またアドバータイジングピラーとは、巨大円柱広告のこ とであるが、これを2本製作した。大きさとしては直径70 cm、高さ2mの円柱であり、比較的大きな展示物である。 アドバータイジングピラーの制作には、ボイド管と呼ばれ る芯材を利用した。ボイド管は本来、コンクリートを円柱に 固めるための紙製の円柱であるが、これにプリントアウト した広告をスプレーのりで貼り付けた。その巨大さから、通 りがかった人々の目を引き、展示会の開催を知らせる役割 があった。制作した2本は、展示会場に 1 本、店舗の外に 1 図4.宝飾空間 本置くものを想定して制作した(図6)。 その他の制作物として、剥製のパネルと、アドバータイジ ングピラーを制作した。剥製のパネルは、担当教員である川 嶋教授の研究用に撮影した市立函館博物館の魚類や虫類の 写真を、見ている人に魅力的に伝わるようにレイアウトし、 美しく印刷しパネルに張り付けたものである。大きさとし ては A2 サイズ前後のもので、手分けして合計20枚程度の パネルを制作した。こちらも魅惑的なハイブリッドミュー ジアム開催時に展示した(図5)。 図6.アドバータイジングピラー その後、我々は会場の確保を行った。会場の候補地として、 五稜郭アトリウムや、函館青年センターなどが挙げられた が、人通りの多さなどから函館文教堂書店昭和店昭和タウ ンプラザ内を使わせていただくことにした。文教堂書店に 誘導するようなチュートリアルが行われていたが、その後 電話で連絡を取り開催希望日時を伝え交渉し、11月29 のアクションへのつなぎ方に改善が必要そうであった。意 日(金)から12月1日(日)の3日間で開催することが 匠の印影化は、見た目の完成度からスタンプであることを 決まった。その後我々はポスターを印刷し函館市内を中心 来場者が認識できず、常駐員がスタンプであることを口頭 に様々な場所への掲示依頼を行ったり、Facebook や Twitter で伝えないと素通りしてしまいそうな人が多くいた。また、 などの SNS を運営し、開催情報の拡散に努めた。 用意していた朱肉が時間がたつにつれ乾いてきてしまい、 きれいにスタンプしにくいというアクシデントも起きたが、 展示会開催中は、交代交代でプロジェクトメンバーが最 予備のインクがあり、交換することで乗り切ることができ 低2人は常駐するようにシフトを組み、実施した。常駐して た。予備の必要性を強く認識できた。宝飾空間については、 いたメンバーは、呼び込みや、展示物に関する説明を来場者 タブレットの操作方法がわかりにくいという意見がとても に行ったり、展示物のメンテナンスや管理を行った。また 多かった。何度か操作するうちに使い方を理解する人もい 我々の目的が達成されているかどうかを検証するために、 れば、利用方法がわからないまま他の展示物へ移っていく 展示会場ではアンケートを実施した。展示会には3日間で 人もいた。感性的に利用方法を理解できるようなユーザイ 合計491名の方が来場し、アンケートは130枚を集め ンタフェースへの改善が必要である。制作した剥製のパネ ることができた。アンケートの集計結果、博物館に興味をも ルは、展示位置がかなり高かったため、その存在に気づかな ってくれたという方はアンケート回答者の92%、実際に いという人が大半であった。開催場所である文教堂書店昭 博物館に行ってみたいと思った人はアンケート回答者の9 和店でのパネルの設置は、店舗の営業を妨害しないように 0%という結果であり、我々の目的は十分達成できている しなければならないため、もっとしっかりとしたレイアウ といえる結果であった。 トの計画が必要であった。アドバータイジングピラーは、表 面に記載した文章が大きすぎるという意見が挙げられた。 様々な年齢層に対応できるようなポスターデザインが必要 4. 今後の課題 であるように感じた。このようにたくさんの改善必要点が 今回の展示会を通して得られたフィードバックは多い。 あげられた。もし今後同じように展示会を開催する機会が アンケートの意見から抜粋すると、 「博物館の魅力をよく伝 あるならば、これらの意見の改善ができるように努めてい えようという思いが感じられた」 「もっとよい展示方法があ きたい。 ったと思う」 「開催場所が適していないと思う」 「展示会場に 少し入りにくいと感じた」 「他の場所でもやってほしい」と いったような意見が多く寄せられた。展示物の改良点とし ても多くの意見をいただくことができ、主な意見としては、 「利用方法がわかりにくい」という意見が多くあった。展示 会当日は雑貨店のポップのように紙に展示物の説明や紹介 を書いたものを多く貼り付けたが、それでも伝わりにくい ことが多かったようだ。各展示物に関する改善点もいくつ か見られた。フリップフォトブックは、ハンドルを回す方向 が一目でわからないという意見が多く挙がった。ハンドル に矢印などで回す方向を明記するなどのユーザインタフェ ースに関する改善の必要があるようであった。スクロール ビューアーについては、拡大して掛け軸を見ることができ るのは良いが、やはりどこを見てよいのかわかりにくいと いう意見があった。アプリケーションの起動時には拡大を 参考文献 [1]目黒 実(1997)『チルドレンズ・ミュージアムをつくろ う』pp16, ブロンズ新社
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