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プロジェクト報告書 Project Report
提出日 (Date) 2014/01/15
biblive : 情報ライブラリーでの体験の記録・共有支援
biblive : Recording and sharing experiences in Information Library
1011063 山本貴文 Takafumi Yamamoto
1 はじめに
本学の図書館には, 図書館司書が学生に読んでほしい
学図書館の利用者が, 図書館内で本を選ぶ方法, 本を選
んだ後の行動を記録することで, 他の利用者の本の検索
の支援を行う.
本をキュレーションした本棚, 学生の専門に会わせた
本のキュレーションをした本棚があるなど, 他の図書
館には無い, 独特な取り組みの多い図書館である. しか
3 biblive street
3.1 概要
し, 無作為に選んだ本学学生 50 名による質問紙調査で
このシステムは,Google ストリートビューの技術を用
は,76% の学生が月に 2 度以下しか本学の図書館を利用
い, 本学図書館の仮想空間を構築し, 仮想空間上に教員
していないことが分かった. 私達は, 本学学生の学んでい
に関連した本の情報を提示するものである. 図 1 は本シ
る分野や, 研究分野に関わる本が多くある本学の図書館
ステムの動作例である.
を, もっと利用・活用する人を増すべく「本との出会い
を促す新しいシステムを開発し, 情報ライブラリーの利
用を活性化させる」という目標を掲げ,1 年間活動を行っ
てきた. そして,3 つのアプローチ,biblive street,biblive
stream,biblive search というシステムの開発を行った.
2 着眼点
開発したシステム毎の着眼点について, 下記で説明
図 1 biblive street
する.
2.1
仮想空間による本棚の可視化
3.2 システムが達成する目的
本学図書館の空間で撮影された写真を用い, 仮想空間
普段ライブラリをあまり利用しない人に対してライブ
を構築するということに注目した. 仮想空間上に表示さ
ラリにある魅力的な本に対して興味を持ち, 実際にその
れる本棚に, 仮想空間ならではの情報を付加し本に興味
本を情報ライブラリーで借りる体験をさせることが目
関心を持ってもらう. 実際の図書館に出向く切っ掛けを
的である. 本システムはサービスの利用者が Web ブラ
作り出す.
ウザ上で完結するものではない. 本学図書館で撮影した
2.2
本のキュレーションをアーカイブ化する
冒頭の説明の通り, 本学の図書館には独特な取り組み
が多い. しかし, 展示期間が過ぎた, 過去のキュレーショ
ンの情報は私達は見返すことが出来ない. そこで, キュ
写真を利用し, ストリートビューを生成する本システム
は,Web ブラウザ上で図書館の棚が持っていた, 今まで
可視化されなかった情報を知ることができる. また, 実
際の図書館の写真を用いる仮想空間であるため, 本シス
レーションの情報を収集し, 簡単に閲覧できるように
テムで得た図書館の細かな配置、今まで気づかなかった
することに注目した. 本学図書館の利用者に向けたキュ
書籍の場所などの情報をそのまま実際の図書館でも活用
レートを, 最大限に生かす.
2.3
利用者の動きを保存し可視化する
既存の検索システムとは違う方法で本を選び出す方法
がないか, 利用者が行う本の検索の方法に注目した. 本
することが出来る.
また本学の図書館には, 旧来からある OPAC という検
索システムを利用して本を検索することが出来ていた
が, 検索された本の情報は本の分類番号や表紙のイメー
ジ図などであった. これでは, 本棚が収納する本のジャン
ルなどを俯瞰して観察することが難しい.biblive stream
3.5 三次元仮想空間書籍情報との空間的なインタラク
ションを実現
では, 本学図書館にある何十何百という本棚 1 つ 1 つに,
また, 本棚や書籍の意味合い等から, 教員と書籍の関連
図書館利用者にとって有益で分かりやすい情報を付け
を導くのではなく, 教員を基軸とした本の探し方も模索
加えることで, 本を探しに来る図書館利用者に「探して
した.Unity を使用した教員の本棚可視化システムは, 教
いた本の周辺本」を見つけやすくさせることで, 図書館
員と本を物理的な制約を取り除いて, 関連性を表したシ
の利便性を向上させ, 図書館の利用者数を増やす試みで
ステムである. 図 2 は開発したシステムの動作例である.
あった.
3.3
本棚に持たせたい情報
本学図書館では、本学が専門とする情報工学系の書籍
に関わらず, 人文系などの異分野の本も積極的に購入, 蔵
書化している. しかも本学の教員が自ら学生に読んでほ
しい本を選択し, 書籍の購入を図書館司書へ依頼するこ
ともある. 教員を通じてライブラリーへ入ってきた蔵書
には面白い魅力的な本も数多くあるが, その本の存在を
知らない学生も少なくない. さらに, 本学図書館の蔵書を
利用した, テーマに沿った本のキュレーションも定期的
図2
三次元仮想空間による教員と書籍の関係性を提示
に行われる. 本システムでは, 教員が関わる書籍や、キュ
レーションされた書籍を, 図書館の本棚と関連づけし情
報を付加することを考えた. また, ターゲットを未来大
学生に絞り, 本学図書館を日常的にほとんど利用しない
が, 必要に迫られたときに利用する人をターゲットユー
ザとし, 特に本学の学部 3,4 年生であることを想定した.
また今回作成したシステムでは「自分の卒業研究の分野
について調べる」ために訪れる利用者というペルソナを
4 biblive stream
4.1 概要
本学図書館に設置されている貸し出し書籍を返却する
棚 (返却棚) を可視化し, 図書館の出入り口に設置した
タッチパネルを想定した利用者の興味に合った本の提示
するシステムである. 図 3 は, 本システムの設置イメー
ジ図である.
立てた.
3.4
教員室の本棚
図書館の蔵書と教員の関連を見い出す際, 本学図書館
の本棚以外にも, 各教員の仕事場である教員室の本棚に
注目した. 図書館で購入以来される本は謂わば, 本学学生
や他分野の教員, 地域の人に是非観てほしい入門書的な
本が多いのではないかと推測を行った. しかし, 研究の
最先端や図書館に依頼するまでもない本, そもそも図書
館に本の蔵書を依頼しない先生等のがいる場合, 普段の
図 3 biblive stream
講義等では知り得ることが無い, 教員が読んでいる本と
の偶発的な出会い方は, 本システム上では行えない. そ
のため, 教員室の本棚を本学図書館と同様の方法で撮影,
仮想空間化し, 本システムの利用者が簡単に教員室の本
棚にアクセスできるようにした.
4.2 システムが達成する目的
本学の図書館には様々なキュレーションされた本棚が
存在する. 今回, システムへ取り込んだキュレーションは
図書館で貸し出された書籍を返却する棚「返却棚」での
情報である. 本学図書館の検索システムは, 特定の書籍名
まで絞り込んだ段階で検索するには優れている. しかし,
漠然としたテーマから本を探索するために利用すること
は困難である. もし, 既存のシステムで漠然とするテーマ
グラミング技術と関連することが多いはずである. 返却
についての書籍を検索する場合は, テーマからキーワー
棚に返される本は, 日本十進分類法の垣根を越えて借り
ドをいくつか考え, 検索をさせる必要が有る. しかし, わ
られているものも多く, 本を探す一つの新しいアプロー
ざわざキーワードを考え本の検索を行わなくても, かつ
チになると考えた.
て同じ漠然としたテーマについての本が借りられた可能
4.5 可視化の方法と類似度計算
性は高い. 事実, 返却棚では, 既存の分類法を超えた本の
本の借り主が, 返却棚に同時に返した本をひとつのグ
纏まりを推測することができる. 私達は, この本の纏まり
ループとし, 様々な本の借り主が返却した本のグループ
こそ, 検索に利用するための, 残すべきキュレーションと
をネットワーク状に表示する方法を考えた. また,OPAC
考え, 返却棚の情報を収集, 可視化することを考えた. こ
には, 書籍ごとにジャンルやカテゴリなどが示された
のシステムを利用することで, 利用者が漠然と抱く「読
キーワードが登録されている. 今回私達のシステムでは,
みたい本のイメージ」から, 利用者に会う本のマッチン
このキーワードを基に, 本のグループ毎の類似度を下記
グ, キュレーションを行い, 利用者が求めている「今まで
の方法で算出し, 画面上に表示させた.
探せなかった本」との出会いをさせることができる.
4.3
可視化する情報の検討
前期の開発期間では,Twitter のタイムラインからツ
イートを取り出し, その情報から本を検索, ユーザーに
リアルタイムで興味に合った本を提示するシステムを
開発した. しかし, ツイートが, 利用者にとって興味のあ
る本と出会える可能性が高いか, 疑問が残る結論に至っ
た. この問題を解決するため,Twitter による情報収集で
はない別の方法を, 後期の開発期間で模索してきた. ま
た,Twitter を利用することは, プロジェクトの目標とし
1. Wordnet と呼ばれる単語の概念を辞書にしたもの
に関連キーワード入力し, 返却棚にある本の関連
キーワードの意味を辞書で引く.
2. 本のグループに含まれる, それぞれの本の関連キー
ワードのすべての意味を辞書で引く.
3. 比較対象とする別の本のグループに含まれる本の
関連キーワードからも意味を辞書で引いた後, キー
ワードの意味を相互に計算して, 得られた数値を用
いて, 本のグループ同士の関連性を導き出す.
て掲げた「徹底的にローカルであるものを開発する」か
算出された数値が高ければ, 比較したグループの関連
ら逸脱していると考えていた. そこで,「徹底的なローカ
度が高く, 数値が低ければグループ同士の関連度は低い
ル」で, さらに可視化されていない, 本学図書館に眠って
といえるようになった. 私達が制作した表示システムで
いる情報を, 可視化できないかと考えた. そこで, 私達の
は, 関連度の高い本のグループ同士を近づけ, ユーザー
話し合いでは返却棚の特異性を発見し, 返却棚の持つ特
の意図を正確に把握し, ユーザーのニーズに一致するも
徴を最大に活用できるシステムを開発してきた.
のを返すシステム開発を心がけてきた.
4.4
返却棚データの利用と既存の書籍分類の問題点
本学図書館は借りた本の返却時, 本の借主が直接本を
返却する返却棚と呼ばれる本棚が設置されている. この
5 biblive search
5.1 概要
返却棚は, ライブラリー利用者が自身の関心や興味に基
タブレット上のライブラリ画像を指でなぞることで,
づいて借りられた本が返される場所であり, 特定の興味
自分の歩いた軌跡を残すことができると共に, 他の人が
関心に基いて借りられたと本が集まる場所であると考え
歩いた軌跡を辿って気になる本を見つけることができる
た. 私達が提案するシステムは, 返却棚にある本を整理
システムである.
し, 本と本の関連性を抽出・計算し提示することで,利
用者と本との出会いを支援する. また, 既存の書籍分類は
日本十進分類法と呼ばれる方式で行われている. この分
類では, 数学や物理学に関する本と, プログラミング技術
に関する本は全く別の分類になってしまう. しかし, 本
の読者視点で考えてみると実際には数学や物理学はプロ
5.2 システムが達成する目的
ある目的を持ち本を探しに来た人に対して, 具体的な
興味を与えることが目的である. 図書館を利用する目的
は利用者によって様々である. このシステムがターゲッ
トにしているユーザは,「ある分野の本を読みたい・借り
たい」という目的を持つ図書館の利用者である. 既存の
検索システムは, あらかじめ決められている本を検索す
図4
biblive search
ることは, 比較的簡単に行えるが, 利用者が抱える問題,
課題を解決する為に, 利用者が読むべき本の存在を知る
図5
前期で制作したカート
ことは難しい. このシステムでは, 過去の図書館利用者
の図書館内での行動履歴を提示することで, 現状の図書
館の姿を大きく変えず, 既存の図書館を使いこなしてい
6 学内の成果発表会による評価・プロジェク
ト活動としての総評
た利用者の書籍の探し方の英知を利用した本との出会い
を増やす試みである.
5.3
カート制作と各種システムの開発
学内の成果発表会では,3 つのシステムについて様々な
意見を頂いた. 特に, すべてアイディアに対して, デモン
私達の提案するシステムは, カートとタブレット端末
ストレーションを行うことが出来たことが, 非常に評価
の 2 つを組み合わせることが必要である. そのため, ま
された. また, 個々のシステムの完成度はそれほど高く
ずこのシステムには足跡を収集するための方法を考える
ないが, 様々なアプローチをプロトタイピングし, 試行
必要があった. そのため, カートを開発し, そこに図書館
錯誤した結果, 私達が掲げていた「本との出会いを促す
内の行動を解析するためのセンサや通信用のコンピュー
新しいシステムを開発し, 情報ライブラリーの利用を活
タを搭載する必要があった. 前期の開発期間では, カー
性化させる」という目標に対して, 成果発表会で発表し
トの開発と解析用のシステム開発を行った. 解析用のシ
たすべての 3 つのシステムは, 着眼点の面白さを高く評
ステムでは, カートに取り付けた赤外線センサによって
価する人が多かった. とりわけ, 実際に私達の提案した
移動距離を算出するものであったが, 誤差が大きすぎる
システムが本学図書館内で稼働したとする場合, 利用し
ため別の方法を検討することとなった. そこで, 後期で
てみたいという意見を頂いた. 目標の設定, 各グループ
はシステム利用者が直接触れるタブレット端末のアプリ
が積極的に行ったプロトタイピングなどのプロジェクト
ケーション開発と改めて行動解析用のシステムを開発す
学習の時間の使い方についても評価があった.
ることとなった. 図書館の利用者にとって, 行動解析の
為にカートを移動してもらうことは, 必ずしも良い方法
とは言えなかった. そのため, 利用者の位置情報をより
簡単に収集するため,RFID を利用して位置測定を行う
ことを考えた. しかし,RFID の通信を行う為の端末の開
発に手間取ってしまった. そのため, 今回のプロトタイ
ピングでは, タブレット上でシステム利用者が直接足跡
を記録してもらうものとした.
図6
成果発表会の様子