1

プロジェクト報告書(最終)Personal Final Report
提出日 (Date) 2014/01/15
地域に根ざした数理科学教育
Supports for regional education in mathematical science
1011091 栗須征宏 Masahiro Kurisu
であると言える.しかし,学力調査と同時に行われた質問紙調
1 背景
文部科学省は 2009 年に新学習指導要領 [1] の先行実施を小
査 [3] によると,「数学を学ぶことに興味がある」と答えた日
本の生徒はわずか 38 % (OECD 平均では 53 %) である.
本プロジェクトでは,この問題に対しまずは限定的な地域に
中学校の算数・数学と理科の科目で開始した.この先行実施は
絞り新学習指導要領の特徴を強調した解決策を考えた.「算数
日本の社会問題となっていた「理数離れ」の対応策であり,こ
的活動」とそれに伴う「反復学習」を2つのグループ活動の柱
れまでの学習指導要領から特徴的な改訂が成されている.指
とし,後述するキーワードで特徴づけを行っている.すなわ
導内容に加えられた「算数・数学的活動」とは,児童・生徒が
目的意識を持って算数や数学に主体的に取り組む活動を指し,
これを円滑に行うための学習方法として,系統の同じ分野を年
ち,グループ A はおもしろ算数クラブへの訪問活動を算数的
活動支援と位置づけて実施した.グループ B は高校と大学で
それぞれ学ぶ数学間での反復学習を行っている例は現在では
次に応じて発展させた内容を学ぶことで知識の定着を促す「反
無いことから,高大連携接続を目的とした教材作成を行った.
復学習」が強調されている.
さらに学習者の環境の変化に伴い,e-learning での教材作成
をした.
2 課題の設定と到達目標
背景で述べた通り,「算数的活動」と「反復学習」の効果的
実践は理数教育の充実に重要である.背景で述べた 2 グルー
プから成るプロジェクト構成に則して,課題と到達目標を定め
て活動した.以下各グループごとに分けて報告する.
2.1 グループ A
グループ A は小学生を対象とした総合型算数学習プログラ
ムの制作・実践を行うことを課題とした.この総合型算数学習
プログラムの制作とは,昨年度から人気のあったテーマ内容を
引き継ぎ,学習対象者である小学生に授業内容が理解しやす
図 1 PISA2012 の結果([2] より引用)
いようスライドやワークシートの再構成や変更を行っている.
引き継ぎだけでなく,始めから作り上げる新たなテーマも提案
し検討することで,毎年新しいテーマを授業に取り入れ組み込
2013 年 12 月に発表された PISA2012[2] による学力調査の
んでいる.提案や構成,授業を実践することは基より学習対象
結果では,
「読解力」
「数学的リテラシー(応用力)
」
「科学的リ
者にアンケートをもらいフィードバックすることで次回の活
テラシー」の全3分野で,日本の平均点は現在と同じ調査方法
動に向けて内容をより良くできるような一環した学習プログ
になって以降,最高点数を記録した.これは「算数・数学的活
ラムのスタイルを実践している.これにより,過去の成果物を
動」の効果が有効であることが表れていると判断でき,この取
さらに分かりやすいものへと工夫し,次年度以降に引き継ぎを
り組みは今後も引き続き理数教育充実の重要なキーポイント
行っている.
目標と達成する方法として,グループ A は,昨年度に引き
続き本学と函館教育委員会間の小大連携協定を活用し,市立柏
野小学校の「おもしろ算数クラブ」で授業を行うことにした.
授業では,新学習指導要領にある「算数的活動」を意識し,活
動内容に取り入れ実践するよう心がけた.「算数的活動」を意
識する上で,「反復学習」と「パターンの発見」に着目しテー
マを考えた.「反復学習」では,知識の定着や学習対象者が主
体的に授業に取り組むことを狙いとしており,「2 進数」につ
いて徐所に学習内容に応用力を加えつつ,繰り返し学習するこ
とを徹底した.「算数的活動」では,テーマを考え学習者に説
明するにあたり,身近な例を用いることで,計算力だけでなく
算数に対する興味・関心を促すことを狙いとした.
3.1 グループ A
グループ A では,(1)実際に手を動かすなどといった算数
的活動の組み込み,
(2)小学生に身近な例を挙げる,
(3)驚き
や好奇心の呼び起こし,という 3 点を中心にスライド,ワー
クシートといった教材の作成を行った.また,計 5 回の授業
のうち 3 回に「2 進数」という共通したテーマを盛り込むこと
で,反復学習ができるプログラムにした.
前期は 2 回小学校に訪問し,1 回の授業は未来大で行った.
第 1 回目の訪問では,
「2 進数と足し算」というテーマで,手袋
を使い「2 進数」を紹介した.第 2 回目の訪問では,「カラー
ドット絵」というテーマで,図工や情報といった他教科と関連
させた授業を行った.第 3 回目は,「パスカルの三角形」とい
2.2 グループ B
うテーマで,児童でも理解できる簡単なルールから,パスカル
の三角形という大学レベルの難しい図形を作成してもらった.
グループ B は,現在小中高で行われている反復学習により
また,第 4 回目は「組みひも」というテーマで,児童に身近
学習内容のスパイラル方式での算数・数学教育が行われてるこ
である「ミサンガ」を題材にした.これは,組みひもを作るた
とを受け,高校と大学の学習内容の接続を図るために,その間
めのルールを記号化し,実際に児童にミサンガを作成しても
での反復学習を支援する教材の提案を行うことである.現在
らった.
高校までの反復学習の実践は各所で行われており,新学習指導
最終の第 5 回目のテーマは「世界の算数」であった.これ
要領の実践結果の報告が複数上げられているが,高校から大学
は児童の算数に対する視野を広げて,算数に興味を持ってもら
へ進学した後の反復学習までは文部科学省は定めていないた
うことが狙いであった.アメリカ人のおつりの考え方やイン
め,高大連携接続の必要性や研究の提案が行われているのみに
ド式計算法,ロシア農民のかけ算を紹介し,世界にはさまざま
とどまる.グループ B では,本学の学部 1 年生を対象に大学
な考え方があるということを知ってもらった.国によって違
進学後の数学教育において,高校内容の反復学習が必要かを調
う考え方の背景には,その国の歴史や文化などの社会との繋が
査した上で,スパイラル方式を取り入れた学習教材の提案を行
りがあることを伝えるために,その国を少しだけ紹介するなど
う.さらに,学習者の学習スタイルに合わせた教材提案を行
の工夫した.結果として,アンケートの内容より児童の興味を
うことで,自発的に学習に取り組めるものを設計する.また,
引くことができたと言える.
成果物として成案された教材を本学の学生に使用してもらい,
今年度の計 5 回の柏野小学校への訪問は昨年度よりも厳し
教材を用いた学習にどれだけの効果があるのかをその後ユー
い日程で行った.それに対応するべくグループメンバーの役
ザーテストを実施する.ユーザテストの結果を検証し,さらに
割は流動的なものとなり,スケジュール管理も厳密に行った.
より学習効果のある教材提案を行う.以上の一連の行程を経
ることをグループ B の目標の達成と定める.
「おもしろ算数クラブ」に参加している児童は 4 年生から 6 年
生までの全 3 学年,参加人数が 8 人となっている.また,授
業実施において,児童に堅苦しさを与えないよう工夫した.た
とえば,授業のことは「スライドショー」と呼ぶことにした.
3 課題解決のプロセスとその結果
これは,クラブ活動が授業とはまったく異なるものであり,楽
しむべき時間であるということを児童にわかってもらうため
2 章で報告した,各グループごとの課題と目標設定に応じた
課題解決のプロセスを報告する.
の工夫である.また,授業を行っているグループ A メンバー
のことを,「先生」ではなく,あだ名で呼んでもらうようにし
た.その影響もあり,授業回数を重ねるごとに児童との距離感
がなくなっていき,クラブ活動を楽しく行うことができた.
成果として,毎回授業後にアンケートをとっていた.アン
ことができる構成とした.
ケート結果から,各回で行った算数的活動を児童が楽しいと感
学習プログラムの内容が決定し,教材の形態や媒体をどのよ
じてくれていることがわかった.また,反復学習として行った
うにするかグループ内で話し合いを行った.その結果,学生
「2 進数」と「パターンの発見」に関する授業は大変な人気を
の読書時間の減少 [5] やインターネット利用者の増加 [6] など
誇っていた.2 進数を取り扱い,応用した「カラードット絵」
,
「パターンの発見」として取り扱った「組みひも」が全 5 回ク
を考慮し,e-learning 教材とすることに決定した.e-laerning
教材の具体的な構成を話し合った結果,マンガを導入するこ
ラブ活動終了後のアンケート結果から同率で 1 番人気だった.
ととなった.マンガによって学生の興味を引くことができる
このことは実際に手を動かして学ぶ「算数的活動」が児童に好
と考えた.また,数学を学ぶ e-learning 教材でマンガを用い
評であったことを示している.
ているものはないため,他の e-learning 教材との差別化を図
ることができていると考えた.マンガを導入する効果として
社会科学で実践された実験結果 [7] があり,長期の記憶保持
3.2 グループ B
グループ B では,まず初めに,中学校から大学で使用す
る教科書の分析を行った.また,各自苦手意識を持っている単
元を挙げていった.このときブレインストーミングと KJ 法
を用いて分析を行った.分析の結果,グループメンバー全員
が関数を中心に「関数」を中心に「微積分」
「三角関数」
「逆関
数」に苦手意識を持っていることが分かり,メンバー全体で
テーマを「関数」に絞ることになった.
次に「関数」という大きなテーマを更に絞るため,話し合
いを行った.話し合いの結果,本学の解析学 I で学ぶ内容に
対して苦手意識を感じている学生が多いのではという結論に
至った.解析学 I では高校数学で学んだ逆関数が再び扱われ
ている.その際に,高校では必要のなかった定義域や値域など
のことを気にしなければならなくなり,高校で学んだとこを
そのまま使うとつまずいてしまう.一人や二人ではなく毎年
多くの学生がこの逆関数でつまずいてしまっている.そこで,
本グループで扱うテーマを「逆関数」に決定した.
また,提案物の対象者を設定する際に,プロジェクト全体
のテーマが「地域に根ざした数理科学教育」であることを考
慮し,函館に住む高校生から大学生までの生徒・学生に設定し
た.テーマ決定後は,グループで学習プログラムを作成する
際,逆関数をどのように学習するかということに注意した.こ
れを踏まえ,最終的に「関数」
,
「逆関数」の 2 項目から構成す
ることに決定した.この 2 項目にした理由は,教材の作成の
ために,グループメンバー全員が逆関数について再学習を行っ
た際に,逆関数を学習するためには「関数」の知識が必要であ
ることがわかったからである.「関数」の部分では関数の定義
を中心に,それに学習するために必要な集合と写像を順に利用
者が学習を行うことができる構成とした.「逆関数」の部分で
は逆写像,逆関数,逆三角関数から順に利用者が再学習を行う
に効果的であることや学習に対する関心を高めることができ
るなどの効果がある.この実験結果が数学学習にも効果があ
るのではないかと考え,マンガの導入を決定した.この教材
の使用場面として自学自習の場を想定しているため,時間や
場所を選ばない媒体にすることが必要不可欠である.そのた
め,HTML をベースとして開発することとした.HTML は
Processing や J avaScript などを用いることができるため,
この教材作成に適しているといえる.紙媒体とは異なり,動的
コンテンツの導入が可能なため,ユーザーの操作によって関数
のグラフが描写されるものを作成した.
教材を作成するにあたってイラスト班,シナリオ作成班,動
的コンテンツ作成班に分かれて後期は活動を行った.イラス
ト班はマンガに出てくる登場人物などのイラスト部分を担当
した.シナリオ作成班は関数部分と逆関数部分に分かれて活
動を行った.作成する際に,各自再学習で得た知識を活かして
活動を行った.対象者である大学生が高校に立ち返り,高校
の関数や逆関数の定義,例題の再学習を行うことをスパイラ
ル方式の応用と位置づけ,シナリオ部分の工夫点として取り
入れた.また,自学自習のための教材であるため,マンガ部分
のセリフの言い回しや文字が多くならないように気をつけた.
動的コンテンツ班はマンガの内容とリンクさせることで.最
終的に関数,逆関数を介した総合型数学学習プログラムのプロ
トタイプを作り上げることができた.
う.しかし,このワークシートは今年度実践することができな
かったため,次年度へ引き継いで実践してもらい,改良を重ね
内容の幅を広げ,自学型ワークシートの充実を図ってもらう.
グループ B は,決定したテーマについて分析を行い,その
後教材の開発を行ったが,対象ユーザによる評価実験やその結
果分析を行うことができなかった.従って,漫画を導入した数
学学習教材としてはまだ不十分である.今後は,現在作成中の
ものを完成させて,評価・実験を行う.また,その結果を分析
し,細部を改良することで,本学へ実装が可能となる.
図2
Processing による動的コンテンツ
参考文献
[1] 新学習指導要領・生きる力,”新学習指導要領(本文, 解
説, 資料等)”,文部科学省,
http://www.mext.go.jp/a menu/shotou/new-cs/
youryou/
[2] 朝日新聞デジタル,2013 年 12 月 4 日,国際学力調査、日
本は過去最高点「脱ゆとりが奏功」
,
http://www.asahi.com/articles/
TKY201312030495.html
[3] 『朝日新聞』 2013 年 12 月 4 日朝刊「数学には苦手意識」
[4] 国際研究・協力部,”PISA2012 年調査分析資料集”,国立
教育政策研究所,
図3
プロトタイプのマンガページ
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/
pisa2012 reference material.pdf
[5] 出版業界の豆知識,”大学生の 1 日の読書時間”,日本著者
4 まとめ
以上,グループ A はおもしろ算数クラブへの訪問活動の活
販促センター,
http://www.1book.co.jp/003792.html
[6] 情報通信統計データベース,”インターネットの普及率の
動プロセスとその結果について報告し,グループ B は学習プ
推移”,総務省,
ログラムの作成プロセスとその発表について報告した.
http://www.1book.co.jp/003792.html
今後の課題は,グループ A は,次年度への引き継ぎと自学
[7] 日本の論文を探す,”マンガによる表現が学習内容の理解
型ワークシートの改善・充実である.本プロジェクトは継続し
と保持に及ぼす効果 The Effects of Comic-based Pre-
て行われており,今年度も昨年度の成果物を改善し活動を行っ
sentation of Instructional Materials on Comprehension
た.今年度の成果を次年度に引き継ぐことで,さらに完成度を
and Retention”,CiNii
高めることが出来ると思われる.自学型ワークシートについ
ては,毎年授業が行われる「2 進数」と「ドット絵」を自学型
ワークシートに移植することができた.これにより,これまで
に行った授業を学校の進行補助者なしで,児童が個別に学習す
ることが出来るようになる.その結果,
「おもしろ算数クラブ」
に参加した児童だけでなく,より多くの児童が算数的活動を通
じて,算数に興味を持ってもらうことが出来るようになるだろ