プロジェクト全体報告書 Project Report 提出日 (Date) 2014/01/15 ICT に基づく医療の場の環境デザイン Environmental design of the field of medical care based on ICT 1011056 中田友貴 Yuuki Nakata 1 背景 現代の日本の医療現場は、高齢化や生活習慣病の蔓延 に伴う患者数の増大、医師と患者間のコミュニケーショ ン不良から起こる医療訴訟、医師の偏在からなる地方の 勤務医師不足など、様々な問題を抱えている。 医療現場が抱えるいくつかの問題に対し、IT を用いた アプローチで問題の解決にあたるといった試みが活発に なっており、北海道の道南地方では 2008 年 4 月から病 院間で情報共有を行う医療連携ネットワーク「MedIka」 が稼動しており、病院間の連携の円滑化、医療従事者一 人の仕事量の軽減化を図り、ひいては患者への対応など の医療現場の環境改善を図っている。その他にも、日常 の診療に役立つ IT 機器や新たなソリューションの提案 等、更なる現場の環境改善が期待されている。 1.1 本プロジェクトにおける目的 医療関係者で構成された「病気の治療」や「健康の維 それぞれの提案を各グループで、市立箱函館病院及び高 橋病院の方々への提案と、最終成果発表に向けて活動を 開始した。 1.3 背景と提案 ここでは4つのテーマそれぞれについて提案の背景を 述べる。 • パーキンソン病患者のリハビリ近年の研究によって パーキンソン病患者のリハビリで音楽療法が効果的 であることがあるが分かったが、現在行われている 音楽療法は事前に収録した曲でしか音楽療法に取 り組めない、自分のリハビリの成果がわからなく飽 きやすい等の問題が挙げられる。そこで、それらの 問題を解消し、パーキンソン病患者が楽しく、継続 的に音楽療法に取り組めるような機能を実装した 「パーキンソン病患者のためのリハビリツール」を 提案する。 持」にかかわる現場を対象として、問題の発見、発見さ れた問題を ICT を用いて解決、評価までの活動を経験 する。 1.2 課題設定までのアプローチ • 医師とのコミュニケーション本グループの中に診察 の際に医師に自分の健康状態を上手く伝えることが できずに不安になった経験を持つ者がいた。また、 本プロジェクトは始めにプロジェクトメンバー全員が 本グループメンバーの身内の医療関係からも同じよ 現在の医療問題に対して知識を得る為に、プロジェク うな事例があると意見を頂いた。そこで、このよう ト担当教員等から提供された現代医療の問題を参考に、 な問題を解決するため「医師と患者のコミュニケー それらに関連する文献、書籍、関連研究等を読み、イン ション支援ツール」の提案する。 ターネットを利用し調査を行った。その後、調査から得 た医療現場の問題点とそれに対する解決策の提案をプレ • 服薬管理服薬管理の問題は幅広い年齢層であるため ゼンテーションし、それに対して学生及び教員からコメ に、全ての年齢層を支援するツールの提案は現実的 ントをもらった。そのコメントを踏まえ、自身の提案内 ではないと考えた。年齢層を比較的に薬を多く飲む 容をより深いものへとするためさらなる調査をし、再び 高齢者に絞り、高齢者の服薬管理おける、飲み忘れ、 プレゼンテーションをするという工程を約1ヶ月間かけ 管理が難しい、1人で飲むことが億劫などの問題に て行った。それぞれの提案内容から、「パーキンソン病 着目し、高齢者が1人でも簡単に管理でき、且つ楽 患者のリハビリ」、「医師とのコミュニケーション」、「服 しく服薬管理を行えるように、キャラクターを用い 薬管理」、 「小児病棟での転落事故」の4つのテーマを作 た「高齢者に向けた服薬管理支援ツール」を提案す 成し、各テーマ4名程度ずつでグループ編成を行った。 る。 ことができないという問題が挙げられる。そこで、 • 小児病棟での事故子供のベットからの転落事故等の 本グループは簡単に親が子どもの健康管理ができ、 小児病棟での事故に着目し、小児病棟の環境をより また病院での診察の際に子供の状態が一目に分かる 良くするというテーマを設定した。現場を知るため ものを表示できるようにし、医師にとっても診察の に市立函館病院小児病棟を訪問し、その際に入院マ 際に役立つツールの開発を目標とする。 ニュアルを拝見したところ、入院マニュアルは病室 外持ち出し禁止のため、親がマニュアルを読んでい • 高齢者に向けた服薬管理ツール初めにグループ内で る間、子供の世話が困難であることに気がついた。 文献、書籍、インターネットなどから薬に関する情 そこで iPad と布絵本を合体させた「親子で楽しく 報を調べ知識を共有した。その後 KJ 法などを用い 学べる入院マニュアル」を提案する。 て服薬について深く掘り下げ、必要なアプリの機能 を挙げていった。必要な項目を考える際にはスマー 2 課題設定と到達目標 ここでは 4 つのテーマについてそれぞれの課題設定と 到達目標について述べる。 トフォンの既存のアプリを実際に触ってみることで 問題点を見つけ出し改善策を考えながら行った。ま た、薬を飲む人が多い高齢者を対象ユーザとした。 既存のアプリは「ボタンが小さい」、「画面上に情報 • パーキンソン病患者のためのリハビリツール現在販 をが多い」、「見づらい色」などといった UI に問題 売されている音楽療法に取り組むためのツールで が多いと考え、本グループのアプリは使いやすさを は、決まった(収録されている)曲でしか音楽療法 追求することとした。「高齢者が使いやすい UI と に取り組むことが出来ない、自分のリハビリの成果 は何か」を常に考え、書籍や文献だけではなく、高 が分からず飽きてしまいやすい等といった問題点が 齢者の方の話を参考にしながら試行錯誤を繰り返 挙げられる。我々はこれらの問題点と、音楽療法が し、デザインの決定を行った。 持つ、座って聞くのみでも歩行状態の改善が期待で きるという特徴から、音楽療法を身近な携帯デバイ • 親子で楽しく学べる入院マニュアルプロジェクトの スで行うことが可能になれば、音楽療法を簡単に、 グループを分けるにあたり、現代の医療が抱える問 また継続的に取り組むことが可能になるのではない 題について各自調査を行った。その中で、小児患者 か、と考えた。そこで我々は、パーキンソン病患者 のベッドからの転落事故について着目した現在のメ のための音楽療法支援アプリケーションを提案す ンバーが集まり、グループを結成した。この事故は る。本アプリケーションは携帯デバイスで音楽療法 小児病棟において絶えず発生しているものであり、 を取り組むことを可能にし、患者(以下ユーザー) また現段階での解決策が無いという問題があった。 の好みの曲を使用、リハビリ成果を記録、グラフ等 この問題を解決するため、小児病棟の環境をより良 で可視化することでユーザーに音楽療法をより気軽 くするということをテーマに、提案を進めていくこ に、また積極的に取り組んでもらうことを目的とし ととした。グループ内の目標は「使う人の視点を忘 ている。また、本アプリケーションは iPhone 上で れない」である。 の使用を考え、iPhone アプリとして開発をする。 3 成果 • 医師と患者のコミュニケーション支援ツール本グ ループは乳幼児を持つ親に起こる問題に着目した。 乳幼児を持つ親は、自分の子供の日々の健康記録を ここでは 4 つのテーマについてそれぞれのグループの 成果について述べる。 取る必要があるが、子育てに追われながら母子手帳 • パーキンソン病患者のためのリハビリツール などに記録し、管理する時間が十分にとれない問題 iPhone のミュージックライブラリーから楽曲を や、乳幼児自身が言葉で上手く自分の症状を伝える 参照する機能や楽曲の再生、停止など音楽再生全般 の機能を実装した。また、楽曲と音リズム刺激の同 時再生機能も CoreAudio を用いることで実装が可 能となり、これによって患者が自分の好きな楽曲で リハビリに取り組む事が可能となった。カレンダー 機能の開発ではインターネット上に公開されていた gamen3.eps サンプルプログラム群を解析し、UI を高齢者向け に改良したものを実装した。(図 1) 図2 グループ B 成果物 表示を行う機能である。2つ目は、直感的な操作で の時間設定を可能にするために時計の針を回して設 定するアナログ時計の機能を作成した。3つ目は、 na1.eps 設定した時間になるとアラームが鳴る通知機能を開 発した。この機能に関しては、設定した時間に1度 だけアラームが鳴るのではなく、時間が経過しても 高齢者が「服薬完了ボタン」を押さなければ、まだ 服薬を完了していないとみなし、もう一度服薬を忘 れていないかの確認を行うアラームが鳴るよう開発 を行った。 図1 グループ A 成果物 • 医師と患者のコミュニケーション支援ツール市立函 館病院さんの小児科へ訪問し問診の際にどの情報が 必要となるかを聞いた。その際に頂いた小児科で使 na3.eps 用している問診票や、訪問の際に頂いた意見をもと に体温、食事、ミルク、予防接種、機嫌、睡眠時間、 飲み薬、身長&体重、便、夜泣き、ママの体調、メ モの計 12 項目を記録対象とした乳幼児の健康管理 手帳としての iPad アプリケーションを開発した。 図3 グループ C 成果物 (図 2) • 親子で楽しく学べる入院マニュアル市立函館病院小 • 高齢者に向けた服薬管理ツール最終発表会までに、 児科病棟で現在使用されている入院マニュアルの 本 iPad アプリの基本的な機能のみを作成した。本 26 項目の内容を 8 つにカテゴリ分けし、それぞれ 提案で開発した主な機能は3つある。1つ目はデー の場面を絵本の1ページのようにイラストを用いて タベースである。服薬する薬の名前や写真、時間帯 子供が楽しめるようにゲーム形式で内容を提示する などの項目をデータベースに格納し、蓄積する。タ iPad アプリを制作した。iPad と子供のおもちゃで イムラインやお薬手帳などで薬の情報を表示する際 ある布絵本を組み合わせることをコンセプトとし、 にデータベース内に格納している情報を取り出し、 布で出来た人形を用いて画面を操作することができ る仕組みにした。 る。各機能、UI の修正を行い、ユーザにとって使 いやすいアプリケーションを開発する。また、リハ ビリの効果の実証という意味でも、ユーザテストは 必要である。 na4.eps • 医師と患者のコミュニケーション支援ツール本グ ループの提案アプリケーションにおいて、最終発表 図4 グループ D 成果物 会までに間に合わせることの出来なかった機能がカ レンダー機能とカメラ機能の部分である。これらの 機能に関しては 1 月もしくは 2 月に行われる病院 4 今後の展望 ここでは 4 つのテーマについてそれぞれの提案内容の 今後の展望について述べる。 • パーキンソン病患者のためのリハビリツール病院訪 問に向けてアプリケーションの完成度を高めてい く。具体的には、後期で開発した機能の UI やバグ の修正、楽曲の BPM 検出機能の実装、メトロノー ム機能の実装、加速度センサーを用いた歩行速度 の自動計測機能の実装などがある。BPM 検出機能 は C++ のコードを Objective-C に変換する必要 がある。後期の活動ではこの機能の完成には至らな かったが、このアプリケーションに BPM 検出機能 は必須であるため、完成させる必要がある。メトロ ノーム機能は、現在、120BPM のものしか用意し ていない。こちらについては、一つの音を、間隔を 空け、ループさせて再生することでメトロノームの 様にしている。そのため、120, 130, 140 といった BPM を自動で作成できる機能を実装する必要があ る。歩行速度計測機能は、現在、患者やヘルパー、 家族に、iPhone を手に持ってもらい、一歩歩くたび に画面をタッチして、歩かなければいけない。しか し、このままでは、患者には使用しにくい機能であ るため、加速センサーを用いて、歩行を検知するこ とで、自動で歩行速度を計算する機能を実装する。 また、実際にパーキンソン病患者及びその家族、ヘ ルパーに使用してもらうことを考えている。パーキ ンソン病患者や家族がどのような UI が使いやすい かは、使用してもらわないとわからない。患者など からフィードバックをもらうことで、使用者にとっ て使いやすいアプリケーションに近づくと考えてい 訪問までに完成させることを目標とし開発を行う。 また、最終発表会にていただいた意見を参考にし今 後の発展課題として、 「iPhone における本グループ 提案アプリケーションの実装」と「サーバーを介し データを蓄積させるデータベース機能及びグラフ描 画機能の実装」も検討していく。 • 高齢者に向けた服薬管理ツールよりよいアプリとす るために以下のような機能追加を予定している。・ メールで服薬状況を家族やかかりつけ医師に知らせ る機能・処方箋の QR コードを用いた薬の設定機 能・キャラクターの追加・キャラクターの動作機能 また最終発表会で頂いたアンケートや意見をもとに さらにアプリの改善を図ったり、メンバーの祖母に 実際に使用してもらうということも考えている。 • 親子で楽しく学べる入院マニュアルこのアプリケー ションは病室に置いて実際に使っていただきたいと 考えている。看護師さんへの聞き込み調査と日頃の 自身を振り返って現場のニーズを捉えることができ ているものの、実際の親子のニーズ自体に対する調 査は行えばもっと提案をよくする発見が見込めるだ ろう。また、システムの開発面としても、人形をよ り適切に使えるようなもっと楽しいコンテンツが提 供できると考えている。
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