プロジェクト報告書(最終)Project Final Report 提出日 (Date) 2013/01/16 教育・展示用二重振り子の制作 Construction of Double Pendulum for Physics Education and/or Scientific Exhibition b1010207 三澤良介 1 背景 Ryosuke Misawa トロボスコープの光を照射した状態でデジタル一眼レフ カメラを用いて露光撮影し、そこから各時刻における運 まず最初に、二重振り子とは単振り子の先にもう1つ 動の様子を計測することを目標とした。 単振子をつけた二重になっている振り子のことを指す。 軌跡の撮影を行うことも目標とした、カメラやストロ 本プロジェクトの目的は、二重振り子という簡単な構造 ボスコープの設定、撮影に適した撮影場所を決定しなけ から生まれる不思議な動きを理解して教育や展示に活用 れば、軌跡がはっきりと記録されないことがわかったた することである。そのために二重振り子を制作的観点、 め、まずはカメラやストロボスコープの使い方、カメラ 計測的観点、理論的観点の主に3つからアプローチして とストロボスコープの兼ね合いを考えた設定方法の研 いった。 究、撮影場所の確保から行うこととした。 2 課題の設定と到達目標 2.3 理論分野 理論分野での最終目標は制作班が制作した二重振り子 2.1 製作分野 最初に、製作班は前期の目標として、プロトタイプを 製作することとした。これは、まずプロトタイプを作ら ないことにはプロジェクトを進めることができない思っ たので、このように目標を設定した。プロトタイプを作 るうえで、加工技術を習得する必要があった。そのた め、学校にある工房で、責任者である朝倉さんに指導し てもらい、プロトタイプを作ることができるくらいの加 を実際に動かし、計測班が計測したデータと理論班がモ デル化して製作した二重振り子のシミュレータの比較で ある。 目標を達成するために、二重振り子の運動方程式の学 習、その基礎となる単振り子の運動方程式の学習、数値 解析の方法の学習、支点を原点として表示した剛体棒 の二重振り子のシミュレータの製作を課題として設定 した。 工技術を習得することを課題と設定した。また、中間発 表で見せる二重振り子を支える土台の設計・製作も目標 3 課題解決のプロセスとその結果 に設定した。 3.1 製作分野 前期では、木材を使用したプロトタイプを作ることが 製作班の前期の課題、目標を達成するためには、加工 できたので、後期にはアクリルを材料とした二重振り子 技術の習得が第一であるため、前期は早い段階から工房 を作ることを目標に活動した。アクリル板を切ったり穴 のお世話になった。工房にお世話になる前に、プロジェ を開けたりする技術がまだ備わっていなかったので、ア クトのメンバー 1 人 1 つ材料は何でもいいという条件 クリルを簡単に加工することができるレーザーカッター で、二重振り子を試作した。やはり技術もない状態では の使い方を習得することを課題と設定した。また、前期 いいものはできなかった。工房では、朝倉さんに材料の の土台をより改良する必要もあったので、新しい土台の 選別や、製作の技術についていろいろなアドバイスをも 完成も目標とした。 らった。材料は、安価で加工しやすい木材にしたほうが 計測分野 いいというアドバイスをもらったので木材の加工技術を 2.2 計測分野は、製作した二重振り子の運動と、理論分野 指摘してもらい、木製の二重振り子もいろいろな大きさ で求めたシミュレータの結果とを比較するために、運動 で製作することができた。いろいろな大きさで製作した の様子を計測する。よって、二重振り子を専用の土台に のは、計測するときにどの大きさがよく回るのかを調べ 固定し運動させ、その運動の様子をビデオ撮影およびス るためである。前期が終わるころにはボール盤と呼ばれ る穴を開ける機械の使い方をメンバー全員が習得するこ 3.2 計測分野 とができた。ただ、ベアリングを使っての製作したかっ まず、我々は運動の様子をビデオ撮影し、二重振り子 たが、前期で習得した技術ではベアリングを使っての製 の下部振り子が 1 回転以上しなくなるまでの運動時間を 作はできなかった。これに関しては後期に持越しとなっ 計測した。結果は、およそ 1 分ほどであり、前期に製作 た。発表で使う土台も朝倉さん指導の下製作を行い、完 した二重振り子と比べると約 3 倍動きが続くことがわ 成させることができた。 かった。 前期では、木材でのプロトタイプの製作をして、基礎 次に、二重振り子にストロボスコープを照射した状態 的な木材の加工技術の習得をすることができた。しか でデジタル一眼レフカメラを用いて露光撮影した。後期 し、木材は環境によって劣化しやすく、振り子の長さを では、黒色のアクリル板を用いて二重振り子を製作した 長くするとしなって上部振り子と下部振り子がぶつかり ため、ストロボスコープの光を反射しづらく、カメラが やすくなる。よって、後期からは材料を木より丈夫なア 軌跡をうまく捉えることができない。そのため、塗装ス クリルにして二重振り子を製作することにした。アクリ プレーを用いて二重振り子を銀色に塗装し、ストロボス ルを加工するにはレーザーカッターという工作機械を コープの光を反射しやすいようにした。 使う必要があった。レーザーカッターとは設計図のデー 撮影は、購入したストロボスコープの光があまり強く タを入力することで、レーザーの力で少ない誤差でアク ないため、しっかりと光を捉えることができるよう場所 リルなどを加工してくれるものである。それを使って二 を選定した。3 階の暗室を使用する予定を立て、二重振 重振り子を製作することにした。そのレーザーカッター り子を持ち込んだが、部屋が狭く撮影に適していないた に入力するための設計図を書くために TURBO CAD め、3 階の映像音響スタジオを撮影場所にした。 STANDARD というソフトを予算を使って購入し、使 二重振り子は、映像音響スタジオの壁を背景にして設 い方を勉強して設計を行った。さらに製作班は、レー 置し、まず試しに撮影を行った。ところが、壁が白いた ザーカッターの講習会にも参加し、レーザーカッターに め、二重振り子よりも壁がストロボスコープの光を反射 関する知識を学習し、レーザーカッター修了証を受け してしまい、二重振り子の動きをうまく記録できないこ 取った。レーザーカッターが使えることで、高い精度で とがわかった。そこで、映像音響スタジオについている の加工が行えるようになったので、ベアリングを使って 褐色のカーテンを背景にして撮影をしたところ、背景に の二重振り子を製作することが可能になった。また前々 反射する光の映りこみを軽減することに成功した。 から考えていた発光ダイオードの埋め込みも可能になっ 撮影にあたって何度か試しに撮影を行い、動きの撮影 た。発光ダイオードを埋め込めるようになれば、二重振 に適した設定を決定した。カメラの設定は、F 値(光の り子の軌跡の撮影も行える。ただ、発光ダイオードを埋 量) を 4.5、ISO 感度を 1600、シャッタースピードを 1 め込むためには、発光ダイオードの他にボタン電池や配 秒に設定した。ストロボスコープの光の照射速度を 600 線も埋め込む必要も出てくる。これの設計に手間取った 回/分に設定して照射し撮影を行った。この設定で撮影 が試行錯誤を重ね、上手く二重振り子に組み込むことが すると、1 枚の画像の中に 0.1 秒ごとの動きが 10 個記 できた。土台も前期ではパーテーションを使った土台 録される。この画像から、上部振り子および下部振り だったが、後期は支持部分から自分達で作ることになっ 子の各時刻における角度と角速度が求められるまでに た。最初に完成させた土台は、横揺れが激しく土台とし 至った。 てはよくなかった。これでは計測や発表には使えないの 3.3 理論分野 で、斜めに支えを入れることで横揺れを軽減させること 課題を解決するために、前期では単振り子の運動方程 に成功した。しかし、縦揺れの問題が発生したため、足 式を学習した。この方程式を学習するために指導教員を 元に縦の木材を入れることで縦揺れの問題もある程度ま 講師とした講義を開講し受講した。高校の物理教育の復 では、解決することができた。 習も含み物理の基礎的な部分に触れた。前期では製作で の活動が主だったため、理論分野は以上の学習で終了し た。 後期では、二重振り子の学習、数値解析の方法の学 Output Y end f or 習、支点を原点にとって表示する剛体棒の二重振り子の (11) (12) シミュレータの製作、二重振り子とシミュレータの比較 を行った。 二重振り子の運動方程式は前期で単振子の運動方程 と要約することができる。 式を学習していたため基礎的な部分は理解はしていた。 二重振り子のシミュレータ製作には C 言語を用いて それをもとに、後期では、二重振り子をモデル化し、ラ プログラミングを行った。C 言語は他の言語に比べて グランジュ方程式を立て、運動状態の時間的変化を求め 処理速度が比較的速いと言われているので使用した。入 た。ラグランジュ方程式とは運動エネルギーと位置エネ 力する要素としては、二重振り子を動かす秒数、シミュ ルギーの差であるラグラジアン L を用いた運動方程式 レータを動かす回数、上部振り子と下部振り子の長さと である。 重さ、上部振り子と下部振り子の初期角度がある。入力 L=K −U した初期条件をもとに上述した、ラグランジュ方程式と ルンゲクッタ法を用いて、各時刻における角度や角速 そして、これを運動方程式にすると 度、上部振り子や下部振り子の端点の座標、運動エネル ∂L d ∂L )− ( =0 dt ∂θ̇i ∂θi (i = 1, 2) (1) ギー、位置エネルギーを出力することができる機能を実 装した。 ニュートンの運動方程式と同等であるが、ニュートンの 運動方程式が物体の一夜加速度を用いた記述に限定され 4 今後の課題 るのに対し、ラグランジュ方程式では一般化座標での記 4.1 製作分野 述が可能になる。このため、ラグランジュ方程式は座標 製作班は、ここまでいろいろな二重振り子を製作し 変換、回転に対する不変性が優れている。ラグランジュ た。前期では木材を使った二重振り子、後期ではアクリ 方程式を使う利点は加速度を直接方程式に含めなくて ルを使った二重振り子を製作した。前期の木材で作った いい点である。時間についての2回微分である加速度を 二重振り子は振り子の長さを長くすると、上部振り子と 様々な変数で表すのは処理しにくい事である。しかし、 下部振り子の二重振り子がぶつかってしまうという課題 ラグランジュ方程式はラグラジアン L さえ分かれば良 がでてきた。これを解決するために、後期ではアクリル い。この点からラグランジュ方程式を立てることを選択 を使った、二重振り子を作った。アクリルで作った二重 した。 振り子はベアリングを使うことがきたので木材で作った 数値解析の方法として 4 次のルンゲ・クッタ法を学習 二重振り子よりも、長く動くようになった。しかし、二 した。これは数値計算法の 1 つであり、次数が 4 の精度 重振り子の先が少しずれると、上部振り子と下部振り子 を持つ 1 段階法である。常微分方程式の近似解を高い精 がぶつかってしまい、壊れるという問題が発生した。こ 度で求めることができる数値解析の方法である。ルンゲ の問題は発表までに解決することができず、最終発表の クッタ法のアルゴリズムの骨格は 最後の発表のときに、壊れてしまうというアクシデント Input x, Y, a, b, n b−a h←( ) n F or i = 0, 1, 2,・・・, n − 1 (2) k1 = f (xi , Yi ) h h k2 = f (xi + , Yi + k1 ) 2 2 h h k3 = f (xi + , Yi + k2 ) 2 2 k4 = f (xi + h, Yi + hk3 ) h Y ← Y + (k1 + 2k2 + 2k3 + k4 ) 6 x←x+h (5) (3) (4) (6) も発生した。よって、こういうことが起こらないように していくことが今後の課題として残っている。土台もあ る程度までは揺れをなくすことができたのだが、まだ揺 れを完全になくすことができていないので、これも今後 の課題としたい。 4.2 計測分野 (7) 前期にも同様の撮影を行ったが、後期はカメラとスト (8) ロボスコープの明確な設定を見つけることができ、撮影 (9) 技術はかなり向上し、解析に使えるレベルの連続動作画 (10) 像を撮影することができた。しかし、今回の画像は 0.1 秒ごとの運動状態を 10 個しか記録できなかったため、 計測の質は低く、誤差を含んでしまっている。実際に は、ストロボスコープの光の照射速度を変更し、記録す る画像の数は増やせたのだが、その精度での解析につな げることができなかった。これは、画像から上部振り子 および下部振り子の角度を求めるために今回は定規と分 度器を使用し求める以外の方法が思いつかなかったため である。画像の数を増やしてしまうと画像同士が重なっ てしまい、各時刻における角度を正確に読み取れない、 あるいは全く読み取れないということになってしまっ た。よって、今回は 10 個の軌跡のみを表示することと した。今後は、プログラムなどを用いて画像から動作中 の振り子の角度を読み取るなどの方法を考え、計測の精 度を上げていきたいと考えている。 4.3 理論分野 振り子の力学をより深く理解した上で、このプロジェ クト名の中にも入っている教育用の二重振り子を制作 し、実際に高校に出向き授業を行いたい。この教育用の 二重振り子を使うことで高校生が物理学習にもっと興 味を持つことができればよい。他には、二重振り子の動 きを実測し、シミュレータからの出力データとよく照合 したい。さらには、ポアンカレ写像を計算出力し、実測 データと比較することにより、カオスの実測に近づくこ とを今後の課題としたい。 参考文献 とびしま ゆ う や [1] 飛島佑野. 二重振り子運動におけるカオスの評価. 論文, 北海道, 2011. ますだ けんじ [2] 増田 健二 . 二重振り子におけるカオス. 技術報告, 静岡,1998. こ い で しょういちろう [3] 小出 昭 一 郎 . 解析力学(物理入門コース 2). 岩波 書店, 1983. ご と う けんいち こ ば や か わ けいぞう くにともまさかず [4] 後藤憲一. 小早川恵三. 国友正和. 基礎 物理学演習. 共立出版, 1986. いしかわけんぞう [5] 石川健三. 解析力学入門. 培風館, 2008.
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