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プロジェクト報告書 Project Report
提出日 (Date) 2013/01/16
科学技術展示における参加共有型システムの開発
Developing a system for facilitating experience sharing in science
exhibition
b1010080 前田卓哉 Takuya Maeda
展覧会で展示されているものは、多くの場合初めて知るものや
1 概要
内容的に難しいものである。これでは、展覧会にまだ来たこと
本プロジェクトでは、展覧会の参加者が、会場内の他の参加
がない人たちに自身の展覧会での体験を話す前に記憶が薄れ、
者、あるいはまだ展覧会に来ていない人と展覧会場の写真やそ
うまく伝えることができないかもしれない。そこで、この「展
こでの感想を共有することができるシステムの開発を行った。
覧会での体験」を何らかの形で残し、それをまだ展覧会に来て
展覧会場での写真や感想を共有することによって、展覧会場
いない人たちと共有することで展覧会の魅力を伝えることが
内の参加者は、展示についてより深く考えたりその展示につい
できれば、まだ展覧会に訪れていない人は展覧会への興味が増
て他者と会話を行う。また、展覧会に来ていない人は展覧会を
し、展覧会に足を運びやすくなるのではないかと考えた。
実際に見に行く。このような行動を促すシステムを開発する
ことが本プロジェクトの目的である。
3 目的
展覧会の参加者が、会場内の他の参加者、あるいはまだ展覧
2 背景
会に来ていない人と展覧会場の写真や感想を共有することが
科学技術に触れるきっかけとして、展覧会や博物館に訪れ
できるシステムを開発する。展覧会場内の人たちには、よりそ
るということがある。我が国における博物館の数は増加傾向
の展覧会について知ってもらうために、展覧会場内の展示が
にあり、平成 20 年度には 5775 館にも上っている。しかし、
撮影された写真を用いてコミュニケーションをとってもらう。
博物館への入館者総数に関しては平成 7 年度以降ほぼ横ばい
それによって展覧会場内における新しい発見を促し、展示を見
で推移しているが、博物館総数が増加傾向にあるため、1 館あ
に行ったりその展示について深く考える。また、その展示につ
たりの入館者総数は減少傾向にある [1]。
いて他者と会話をする。展覧会場にまだ来ていない人たちに
は、展覧会の参加者の感想をもとにした漫画を見せることで展
覧会に興味を持ってもらい、実際に展覧会を訪れる。こういっ
た行動を促すことが本プロジェクトの目的である。
4 課題
PhotoChat を用いて、PhotoChat を利用していない人に
も、PhotoChat 利用者の展覧会での体験を共有できるシステ
ムを開発する。このシステムによって、展覧会場内の人は展
図 1 1 館あたりの入館者数
覧会場内における新しい発見を促し、展示を見に行く。また、
その展示について他者と会話をするという行動を促す。
この博物館や展覧会への来場者数が減少している原因につ
いて、展覧会で何が行われているのか、またその魅力について
十分にアピールしきれていないのではないかと考えた。こう
した展覧会の魅力を伝えるためには、実際に展覧会に参加し
た人に、展覧会にまだ訪れていない人たちに、自身の体験を
もって伝えてもらうことが一番良い方法だと考える。しかし、
展覧会の魅力を伝えることができるストーリー漫画を自動
生成するシステムの開発をする。自動生成されたストーリー
漫画によって、展覧会場にまだ来ていない人たちには、展覧会
の参加者の感想をもとにした漫画を見せることで展覧会に興
味を持ってもらい、実際に展覧会を訪れるという行動を促す。
この二つのシステムによって本当に上記のような行動が促
されたかどうかを実証実験によって検証する。
5 課題解決のプロセス
5.1
前期の活動について
本プロジェクトの目的を達成するために、前期では Piccha-
rium と Funseea の二つのシステムの開発を行った。
Piccharium は、展示物の写真を撮影、感想を写真上に書き
込んだものを会場内の一つの大型ディスプレイに集約し表示
して、それを見た人が実際に展示物に興味を持ち展示物を見に
図 4 Piccharium
行ったり、展示物についてより深く考えたり、展示物について
他者との会話を促すシステムである。
図 5 Piccharium
図 2 Piccharium
– 大型ディスプレイに表示された写真を見ることで、
その写真に写った展示物に興味を持ち実際に展示を
見に行ったり、システム上で意見交換が行われる
• 評価項目
– 写真の表現の仕方について
– 写真に注目するきっかけについて
– 他者の撮影した写真への興味について
図 3 Piccharium
Funseea は、展覧会で見た展示を選択、感想を入力するこ
Funseea について
• 仮説
– 参加者が持ち帰ったストーリー漫画を見ることで展
とで、自分だけのストーリー漫画を自動生成し、それを展覧会
覧会への興味を持ち、ストーリー漫画を見た人がは
場から持ち帰り展覧会にまだ訪れていない人に見せることで、
こだて国際科学祭に来る
ストーリー漫画を見た人が展覧会に訪れ、その展示について考
えることを促すシステムである。
• 評価項目
– 科学祭に来たきっかけについて
この二つのシステムについて以下の仮説を立て、評価項目
– 自身の体験の入力形式について
を設定し、はこだて国際科学祭(2012/8/18 ∼ 8/26)にて検
– システムが科学祭の魅力を引き出すか
証実験を行った。
はこだて国際科学祭での Piccharium についての検証実験
Piccharium について
• 仮説
の結果は以下の通りである。
• 魚の速さや大きさの変化があると写真が見やすくなる
見た人がはこだて国際科学祭の開催期間中に五稜郭タワーま
で来ることは少ないことから、参加者が持ち帰ったストーリー
漫画を見ることで展覧会への興味を持ち、ストーリー漫画を見
た人がはこだて国際科学祭に来るという仮説は支持すること
ができなかった。
この二つの結果、考察から後期の活動では Piccharium に
注力して改良を行うことにした。
5.2 後期の活動について
図6
実験の様子2
後期の活動では、はこだて国際科学祭での検証実験の結果
を踏まえ、大型ディスプレイまたは写真への注目を集めるこ
とが、展示物を見に行く、他者と意見交換を行うといった行動
を促すという仮説を立てた。そこで、Piccharium において写
真の数、動き、速さ、大きさに変化をつけるという改良を行っ
た。これら4つの変化により期待される効果は以下の通りで
ある。
• 数の変化により期待される効果
魚の増減、撮影した写真が魚となって大型ディスプレイ
に入ることが、大型ディスプレイへの注目を集める
図 7 Piccharium
• 動きの変化により期待される効果
新しく撮影された写真を目立たせることで、新着写真に
注目する
• 大画面ディスプレイによって、写真に注目するきっかけ
となった。しかし、写真の内容までは見ていなかった
• 他者との展示物に対する意見交換が実際に発生した
この結果から、以下のことがわかった。
• 大型ディスプレイには注目するが写真の内容までは見
ない
• 意見交換は行われていたが、小規模である
• 速さの変化により期待される効果
写真は遅いほど見やすくなる
• 大きさの変化により期待される効果
写真は大きいほど見やすくなる
これらの改良を行った Piccharium によって、大型ディスプ
レイまたは写真への注目を集めることが、展示物を見に行く、
他者と意見交換を行うといった行動を促すかどうかを検証す
るために、公立はこだて未来大学ミュージアム(図 8)にて 11
大型ディスプレイに表示された写真を見ることで、その写真に
月 20 日に実験を行った。
写った展示物に興味を持ち実際に展示を見に行ったり、システ
ム上で意見交換が行われるという行動は実際に行われていた
が、まだ改良が必要であるということがわかった。
Funseea についての検証実験の結果は以下の通りである。
• 観光客が多かったため、漫画を知って来た人の割合は低い
• 入力形式は選択式でも自由記入形式でもよかった
• 常設展示が一つしかなく、それだけでは科学祭の魅力を
伝えることはできなかった
はこだて国際科学祭が開催された五稜郭タワーへの来場客は
観光目的が多く、観光客がストーリー漫画を持ち帰ってそれを
• 開催日時
– 11 月 14 日 (水) の 4,5 限
• 被験者
– 展覧会を訪れた未来大学内外の人
• 使用機材
– ノート PC(1 台)
– プロジェクター (1 台)
– 中間発表ポスター (50 枚)
– 写真撮影用端末 (5 台)
5.3
会場図
6 まとめ
本プロジェクトの目的は、展覧会の参加者が会場内の他の
参加者、あるいはまだ展覧会に来ていない人と展覧会場の写真
や感想を共有することで、展覧会に来ていない人は展覧会を実
際に見に行く、会場内の他の参加者は、展示についてより深く
考えたり、他者と会話するという行動を促すシステムを開発す
ることである。この目的を達成するために、前期では探索的
に Piccharium と Funseea の二つのシステムを開発し、実証
実験を行った。それを基に後期では Piccharium についてよ
り絞り込んだ改良と実験を行った。
達成できたこととしては、展覧会場内において展覧会参加
者の体験を他者と共有し、新たな発見や気づきを促せたことで
ある。これは、Piccharium で表示する魚の数、動き、速さ、
図8
実験会場図
大きさを変えたためであるといえる。
しかし、展覧会場外の人に展覧会参加者の体験を伝えるこ
とで展覧会に興味を持ってもらい実際に展覧会を見に行くと
いう行動を促すことはできなかった。この行動は、Funseea
によって促すことができると考えていたが、自動生成するス
トーリー漫画が展覧会参加者の体験を完全に伝えきることが
できなかったこと、それによって展覧会の魅力をうまく伝える
ことができなかったため促すことができなかった。
7 今後の展望
展覧会場外の人にも展覧会参加者の展覧会での体験を伝え
図9
実験の様子
る、また大型ディスプレイや写真への注目度をさらに上げるた
めに以下の機能、運用方法が挙げられる。
実証実験のアンケート結果からは以下のことが分かった。
• 写真の持ち帰り機能展覧会に参加していない人に展覧会
• 魚の動き、速さ、大きさについての改良点では、大きな
効果は見られない
• 魚の数についての改良点は、大型ディスプレイへの注目
参加者の体験を伝える
• Piccharium 画面の複数設置会場内外での発見の機会を
増やす
度を上げる効果があるかどうかはわからない
また、被験者の中には大型ディスプレイを見ながらお互いの写
真について会話を行うといった行動が見られた。
アンケートの数値では、効果が見られない、または効果が
参考文献
[1] 文 部 科 学 省.
”2.
博 物 館 数 、入 館 者
数 、学 芸 員 数 の 推 移:文 部 科 学 省”.
わからないという結果であった。しかし、アンケートのコメ
http://www.mext.go.jp/a menu/01 l/08052911/1313126.htm,
ントや行動記録では、一部ではあったがその効果が見られた。
(参照 2012-1-14)
よって、「大型ディスプレイまたは写真への注目を集めること
が、展示物を見に行く、他者と意見交換を行うといった行動を
促す」という仮説は支持された。しかし、よりその効果を発揮
できるようには工夫が必要だということが分かった。