プロジェクト報告書(最終) Project Final Report 提出日(Date) 2013/01/16 地域に根ざした数理科学教育 Supports for regional education in mathematical science b1010077 成澤 美耶 Miya Narisawa 1 背景 結果、知識が分断され,単元毎単元毎の知識を体系的に用 現在,日本の社会問題の一つして「理数離れ」が挙げられる. 国際教育到達評価学会(IEA)による国際数学・理科教育 動向調査[1] によると,2007年度の調査では,2003年度 に比べ,日本の小学生における理数科目の学習への積極性 は向上しているものの,「算数が苦手」と回答した小学生4 いることができないという現象が起きている.このことは, 高校数学の初等的な内容を体系的に組み合わせた問題に, 新入生のほとんどが対応できないという現象が本学におい ても確認されることに現れている[6]. 年生や「数学が苦手」と回答した中学2年生の割合にあまり 2 課題設定と到達目標 変化は見られない(図1). 背景で述べた通り,「理数離れ」に対して様々な対策をが 算数が苦手だ(小学4年生) 数学が苦手だ(中学 2 年生) 成されているが,抜本的な解決策がない.従って,地域に 100 100 限定して具体的な事例から出発して,徐々に解決すること 80 80 が望まれる.そこで本プロジェクトは2点に着目して2つグ 60 60 ループを作り,目標を定めて活動した.Aグループは小学 40 40 20 20 0 生を対象とした総合型算数学習プログラムの開発・実践を 行うことを課題とし,Bグループは分断された知識を体系 0 2003 年 2007 年 2003 年 2007 年 図1 IEA国際数学・理科教育動向調査の年度別比較 的に用いる力を養成するため,自学自習型学習プログラム の提案を行うことにした. Aグループは,目的に対する実践として,前年度に引き また,PISA(OECD生徒の学習到達度調査)の15歳の学 続き本学と函館教育委員会間の小大連携を活用し,市立柏 習到達度調査[2]で,2006年度と2009年度の数学的リテ 野小学校の「おもしろ算数クラブ」での授業を行うことにし ラシーの日本の順位を比較しても大きな変化がない。さら た.そこで,「算数的活動」と「反復学習」の要素を授業に取 に,2005年のベネッセ教育研究開発センターが実施した り入れることを目標とした.「算数的活動」として,実際に 文部科学省委託調査「義務教育に関する意識調査」[3] では, 手を動かして作業することを毎回の授業に取り入れ,「反 中学生になると教科学習を「好き」と答える割合が低くなる 復学習」として,4回の授業を1つの共通したテーマ行うこ という結果が出ている.特に顕著な変化が見られるのは とを考えた. 「算数・数学」であり,小学校6年生から中学校1年生にか Bグループは,分断された知識を体系的に用いる力を養 けてこの割合が減少する. 成することで学習意欲の向上を目的とした.今回は二項展 このような背景から,2008年に文部科学省から公示さ 開に着目し,型学習プログラムの開発を行った.この学習 れた小学校の算数指導要領[4] では新たに「算数的活動」, プログラムは「可視化による助け」,「一般化へのステップ 「反復学習」が加えられた.これを受け,小学校の算数教育 アップ」,「類似性と規則性の発見」の3つで構成される.そ では,算数の知識と実生活との関連性を知るなどの「活用 れを通して,分断された二項展開に関する知識を,体系的 型」の授業を取り入れるなどの工夫が推奨されている.し に束ねて使うことを実感できるような教材の開発を目標と かし,それを実践して行なっている小学校は少ない.一方, した. 高校では,「ゆとり教育」による学習時間の減少[5]により, また,高大連携として市立函館高校1年生約20名が,本 単元毎の学習に生徒の意識が集中してしまっている.その プロジェクトの活動を見学に訪れたため,活動紹介や実際 に学習プログラムの一部を体験してもらった. 3 課題解決のプロセスとその結果 Aグループでは,(1) 実際に手を動かすなどといった を作り,いくつかの多面体の辺・頂点・面の数を数え,オ イラーの多面体定理が成り立っていることを確認した(図 3).また,一筆書きが出来る図形と出来ない図形の見分 け方を簡単なチャートを作って児童たちに示した. 算数的活動の組み込み,(2) 小学生に身近な例を挙げる, (3) 驚きや好奇心の呼び起こし,という3点を中心にス ライド,ワークシートといった教材の作成を行った.また, 計5回の授業のうち4回に「2進数」という共通したテーマを 盛り込むことで,反復学習ができるプログラムにした. 前期は3回小学校に訪問した.第1回目の訪問では,「2 進法と2進数」というテーマで,手袋やドット絵といった身 近な素材を使って「2進数」を紹介した.第2回目の訪問で は,「カラードット絵と2進数のたし算」というテーマで図 工や情報といった他教科と関連させた授業を行った(図 2).第3回目は,「2進数と回路」というテーマで,児童が 実際に取り扱えるような回路を作り,スイッチのオン・オ フと2進数の0と1が対応していることなどを示した. 図3 多面体の辺・頂点・面の数を数えている様子 今年度の計5回の柏野小学校への訪問は昨年度よりも厳 しい日程で行った.それに対応するべくグループメンバー の役割は流動的なものとなり,スケジュール管理も厳密に 行った.「おもしろ算数クラブ」に参加している児童は4年 生から6年生までの全3学年,参加人数が9人となっている. また,授業実施において,児童に堅苦しさを与えないよう 工夫した.たとえば,授業のことは「スライドショー」と呼 ぶことにした.これは,クラブ活動が授業とは全く異なる ものであり,楽しむべき時間であるということを児童にわ かってもらうための工夫である.また,授業を行っている グループAメンバーのことを,「先生」ではなくお兄さんや 図2 「カラードット絵と2進数のたし算」でドット絵を書いてる様子 お姉さん,またはあだ名で呼んでもらうようにしてもらっ た.その影響もあり,授業回数を重ねるごとに児童との距 また,第4回目は「オートマトンとパスカルの三角形」と いうテーマを用意した.オートマトンは大学レベルのテー マであるため,入力と出力に話題を絞り,自動販売機や電 卓など身近な例を紹介した.そして,パスカルの三角形が もつ上の段によって下の段が決まる性質が,入力と出力の 関係に対応しているというような流れで行った.また,2 進数のパスカルの三角形を紹介することで,2進数のたし 算などの復習も行った.最終の第5回目は「オイラーの多面 体定理と一筆書き」というテーマを扱った.多面体の実物 離感がなくなっていき,クラブ活動が楽しくなった. 成果として,毎回授業後にアンケートをとっていた.ア ンケートの結果から,各回で行った算数的活動を児童が楽 しいと感じてくれていることがわかった.また,反復学習 として行った「2進数」に関する授業は根強い人気を誇って いた.最初に2進数を取り扱った第1回の「2進法と2進数」 と,2進数を最後に応用した「オートマトンとパスカルの三 角形」が1番人気と2番人気という結果につながったのは, 反復学習の成果だと思われる. Bグループは,まず初めに,中学校から大学で使用する 教科書と新旧指導要領の分析を行った.分析の結果,知識 教材を2種類制作するにあたって,本グループのメンバー を分断して学習している一つの例として二項展開に着目し を2つの班に分け後期は活動した. た.二項展開は,2乗の展開式から総和記号を含んだ二項 模型とワークシートを用いた教材制作班は,まず模型の 展開の公式までという幅広い知識を使うのにも関わらず, 制作を行った.模型は「可視化による助け」において支援す 知識同士の関連性が薄い.また,学年も中学校から大学と るために平面模型と立体模型を制作した.「可視化による 長い期間で知識を習得していくため,時間的にも関連性が 助け」の内容に沿って同じ面積や体積を同色にするなど気 薄いのではないかと考えた.また対象ユーザは高校生とし を配った.一方,ワークシート教材の作成は,一人一項目 た.なぜなら,二項展開を学習していることや二項展開に を作成することにした.TeXやイラストレータを使用し, 関わる知識を分断して学習しているためである.また,高 体裁にも気を配り作成した.自学自習のための教材である 校数学の初等的な内容を体系的に組み合わせた問題に,本 ため,言葉の言い回しにも気を配り,全体的にわかりやす 学の生徒が対応しきれてないことから,未来大生もユーザ いものに仕上がった(図4). とすることにした. テーマを二項展開に決定した後,グループで学習プログ ラムを提案する際,(1)二項展開をどのように学習する と,分断された知識を体系的に束ねて使うことができるか, (2)知識を束ねて使っていることを実感できる学習プロ グラムであることという2つの事に注意した.これらを踏 まえ,最終的に3つの項目で構成される学習プログラムを 提案した.3つの項目とは,「可視化による助け」,「一般化 へのステップアップ」,「類似性と規則性の発見」である. 「可視化による助け」は,2乗と3乗の展開式を数式ではな く図形に置き換えて考える項目である.構造を理解しない 図4 模型とワークシートを用いた教材とその使用例 まま暗記しているであろう公式を図形で表すことによって, 係数のつき方を理解するのがねらいである.「一般化への ブラウザを用いたディジタル教材制作班は,教材開発に ステップアップ」は,前項目を踏まえ,図形から数式を導 あたり,一人一項目を実装することにし,各担当の学習プ くという項目である.数式全体の仕組みを理解し,図形が ログラムの画面遷移図を作成した.それらを基に,内容に なくても数式を導けるようになるのがねらいである.なぜ, 適した表現をするため開発言語を検討した.この教材の使 図形がなくても数式を導けるような操作が必要かというと, 用場面として,高大連携や自学自習の場を想定してるため, 4乗の展開式からは可視化ができなくなるためである.「類 時間や場所などの学習環境を選ばない媒体であることも必 似性と規則性の発見」は,展開式における類似性と規則性 要不可欠である.そこで,コンピュータで手軽に操作でき を発見し理解する項目である.類似性と規則性を理解する るブラウザに着目し,HTMLをベースとして開発すること ことで大きい乗数の展開式も考えることができるようにな とした.HTMLは多種多様な表現が可能であり, るのがねらいである. ProcessingやJavaScriptなどを用いることもできるため本 学習プログラムの内容が決定し,教材の形態や媒体につ グループの開発に適しているといえる.その後,各自開発 いて話し合った.その結果,模型とワークシートを用いた を進めていったが,お互いの進捗上京や模型とワークシー 教材とブラウザを用いたディジタル教材の2種類に決定し トの教材の内容との整合性を確認しながら進めていった. た.2種類の教材を用意した理由として,提案する学習プ 最終的に,各項目を一つにまとめ二項展開を介した総合型 ログラムがより効果をあげる方法を探るためである.これ 数学学習プログラムのプロトタイプをつくり上げることが は,どちらの形態が適しているかはもちろん,各項目にお できた(図5). いても最適な形態はどれかを検証するという意味である. ことが出来るようになる.これにより,「おもしろ算数ク ラブ」に参加した児童だけでなく,より多くの児童が算数 的活動を通じて,算数に興味を持ってもらうことが出来る ようになるだろう. Bグループは,分析から教材の開発を行ったが,対象ユ ーザによる評価実験やその結果分析を行うことができなか った.また,二項展開の公式で用いている総和記号につい ては,教材に取り入れることができなかった.従って,二 図5 ディジタル教材 トップ画面 項展開を介した総合型学習プログラムとしてはまだ不十分 である.今後は,今回開発した教材に総和記号の内容を追 また,高大連携では市立函館高校1年生10名に対して, 加し,評価実験を行う.また,その結果を分析し,細部を 本グループの活動紹介や実際に学習プログラムの一部を体 改良することで教材のパッケージ化を行いたいと考える. 験してもらった.体験してもらったのは「可視化による助 け」の項目であり,既習事項に対する驚きや興味の発生を 感じることができた(図6).また,口頭で感想を述べて もらった際,「数式で考えるよりも分かりやすかった」とい うコメントを頂いた.このことから,「可視化による助け」 において学習意欲の向上が見受けられたため,「可視化に よる助け」は,本グループの目的を達成する内容であると 考えられる. 参考文献 [1] IEA 国際数学・理科教育動向調査の2007 年調査 http://www.nier.go.jp/timss/2007/gaiyou2007.pdf [2]国立教育政策研究所PISA(OECD生徒の学習到達度調 査)http://www.mext.go.jp/component/a_menu/educati on/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/12/07/1284443_01 .pdf [3]Benesse 教育研究開発センター小学生の計算力に関する 実態調査 2007http://benesse.jp/berd/center/open/report/keisanr yoku/2007/hon2_1.html [4]文部科学省新学習指導要領http://www.mext.go.jp/a me nu/shotou/new-cs/youryou/syo/san.htm [5]文部科学省 小・中学校の授業時数に関する基礎資料 h ttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/s iryo/07061432/005/00 [6]必修科目『解析学 I』の I~L クラスの実施状況、公立はこ だて未来大学、2012 年 図6 模型に注目する高校生 4 今後の課題 今後の課題として,Aグループは,教材のパッケージ化 である.今までに行った計5回の授業をパッケージ化した り,eラーニング形式で学習できるようにすることを目的 とする.教材のパッケージ化を行うことで,これまでに行 った授業を学校の先生が教えたり,児童が個別に学習する
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