プロジェクト報告書(最終)Project Final Report 提出日 (Date) 2013/1/26 進化ゲームの数理とシミュレーション A mathmatical principle of evolutionary game theorem and its simulation b1010045 安齋僚 Ryo Anzai 式と進化的安定戦略の 3 つの関係について学ぶことができた。 1 背景 ゲーム理論は、経済学、心理学などの多分野に応用されてい る。しかし、現在の教育制度では、高校までにゲーム理論を学 4 後期の活動 後期は、テキスト [2] からテーマ「HIV 感染症」を選択し、 ぶ機会が少ない。本学の講義でも、タカハトゲームや、囚人の そのシミュレーションツールを作成した。去年は、テーマを理 ジレンマといったゲーム理論における代表的な例しか学ばな 解し、システム班のシミュレーションツール開発をサポートす い。その上、大学の複雑系コース選択科目ということで複雑系 る理論班と、選択したテーマのシミュレーションツールを開 コース以外はゲーム理論を知る機会が少ない。 発するシステム班の 2 つに分かれていた。しかし、今年は人 昨年のプロジェクトでは、ゲーム理論うち進化ゲームの「言 数が少ないため、メンバーそれぞれが理論とシステムの両方 語の進化」というテーマを取り上げて、シミュレーションツー を担当して互いに助け合う形で進めることにした。テーマに ルを作成して視覚化し、発表した。結果は好評で、ゲーム理論 ついての学習は、テーマの式がどのような動きをするのかを、 に親しみを持ってもらえたようだ。 前期の学習を元に進めた。テキストの式だけでなく、実際の 2 課題の設定と到達目標 体の HIV についてもインターネットで勉強した。シミュレー ションについては、processing を用いて作成した。 本プロジェクトの目標は、昨年と同様に、多くの人にゲーム 理論に親しみをもってもらうために、進化ゲームを取り上げ、 発表についても、前期のアンケートからの改善点を考え、最 終発表では改善点を意識して発表を行った。 それを視覚化し、進化生態学・ゲーム理論・力学系の観点から それを分析し、その結果を iPad2 で視覚化するツールを開発 することである。また、それを高校生レベルでも理解できるよ 5 HIV 感染症 今回のプロジェクトでは、テーマに「HIV感染症」を選択 うに説明することである。 した。体内に入り増殖するHIVと、それを阻止しようとする 3 前期の活動 抗体という構図である。シミュレータの動きを現実に近づけ るために、実際の HIV 感染症の仕組みも調べた。ここでは、 前期は、進化ゲームの基礎を学ぶために、教員から指定さ れたテキスト [1] を用いて、メンバーを 2 人ずつに分けてプロ ジェクトメンバー全員がゲーム理論について理解できるよう にするため、5 月から 7 月までゲーム理論を考察する上で必 要となる数学の基礎知識を身につけるためのセミナーを毎週 1 度行った。セミナーでゲーム理論を考察する上で必要となる ロトカ・ヴォルテラ方程式や、レプリケータ方程式といったも のを中心に考え、それらの関係性について学んだ。輪読を行っ た。その結果、ロトカ・ヴォルテラ方程式、レプリケータ方程 体の HIV 感染症の仕組みについて述べる。HIV 感染症に関 する主な物質はヘルパー T 細胞、B 細胞、抗体、HIV のウイ ルスである。 ヘルパー T 細胞とは、人間の免疫応答で司令塔のような役 割を担う細胞である。ウイルスが体に侵入すると、そのウイル ス個別に対応したヘルパー T 細胞が活性化される。活性化さ れたヘルパー T 細胞は、後述の B 細胞を活性化する命令を出 す。また、ウイルスに感染した細胞を殺すキラー T 細胞とい う細胞も、ヘルパー T 細胞によって活性化させる。 抗体を出す元となる細胞である。T 細胞と 1 対 1 対応して 6 シミュレーションツール いて、自分と対応している T 細胞からの命令で活性化する。 活性化された B 細胞はプラズマ細胞となって増殖し、自分に 命令を出した T 細胞を活性化したウイルスに対する抗体を作 る。ウイルスが十分に殺されると、プラズマ細胞は自らを必要 ないと判断し、死んでいきます。しかし、一部のプラズマ細胞 はメモリー B 細胞として残り、同じウイルスが再び侵入して きたときには、初回より素早く対応することができます。よ く、「はしかに一度かかると二度とかからない」と言われてい るのは、このメモリー B 細胞の働きによるものである。 抗体産生細胞で作られた抗体は血液中を巡り、対応したウ イルスに付着し、ウイルスを無力化する。無力化されたウイル スはマクロファージなどに食べられて処理される。 人間の免疫はウイルスを攻撃するが、ウイルスも体を攻撃 している。ウイルスは体に侵入すると細胞に取り付き、そこ で自分のコピーを作らせて、最終的にその細胞を破壊してコ ピーと共に細胞外へ出ていくという流れは一般のウイルスと 同じである。HIV の特徴は、主に取り付く細胞がヘルパー T 複雑な現象を理解するために、その現象を簡易に表現でき るセル・オートマトンのライフゲームがある。セル・オートマ トンとは、2 次元に広がるフィールドを碁盤のようなマス目で 区切り、そのマス目で展開される離散的な計算モデルのことで ある。一つのマスはセル (細胞) と呼ばれ、各セルには、生と 死の状態がある。各セルの生と死は、そのセルの周りの 8 マ スによって決まる。ライフゲームを用いて、HIV ウイルスが 空間的に拡散する様子と HIV ウイルスと抗体の争い現象を視 覚的に表現した。 実際の HIV モデルでは、HIV 感染症に関する物質は、ヘル パー T 細胞、キラー T 細胞、B 細胞や抗体など様々ある。ラ イフゲームでは、2 次元空間の世界で登場するセルの種類は、 ウイルス、B 細胞、抗体の 3 種とした。それぞれのセルのルー ルは以下の通りである。 (1) 98 × 98 マスの空間に初期配置する HIV ウィルスの割 合 (今回は 1% で固定) 細胞という点である。ヘルパー T 細胞に取り付き、それを破 (2) ウィルスの複製増殖する確率 壊して自分のコピーと共に出ていくため、HIV に感染すると、 (3) ウィルスが B 細胞を破壊する確率 どんどんヘルパー T 細胞の数が減っていってしまう。そうす (4) 変異株の数 (今回は 19 で固定) ると、先ほど述べたような B 細胞への命令や、キラー T 細胞 (5) ウィルスが変異する確率 への命令が十分に行き届かなくなる。そうなることによって、 (6) 98 × 98 マスの空間に初期配置する B 細胞の割合 (HIV その人の免疫力はどんどん低下してしまい、普通の人であれば かからないような病気にもなってしまう。 ウィルスと同じく 1% で固定) (7) 抗体の体力 (今回は 2 ターンで固定) HIV に限らず、ウイルスは抗体に攻撃させると、変異を起 こして既存の抗体の攻撃から逃れようとする。しかし、変異を 起こしたウイルスに対しても、今までの説明と同様にして新し い抗体が作られる。そして、その変異を起こした抗体もさら に変異し、それに対する抗体がまた作られる。このように、ウ イルスと抗体のいたちごっこが体内で起きている。抗体は自 分 1 対 1 に対応しているウイルスしか攻撃できないのに対し、 HIV のウイルスはどの種類の T 細胞でも攻撃できるので、ど の種類の抗体も間接的に攻撃できる(例えば、抗体 1 は HIV1 にしか攻撃できないのに対し、HIV1 はヘルパー T1 だけでな く他のヘルパー T も攻撃できる)。この変異が、HIV による 抗体の弱体化につながっている。 操作できるパラメータの中でも (2)(3)(5) のパラメータを 変化させることで、挙動パターンが大きく変化した。以上の ルールを元に、processing というプログラミング言語を用い て、HIV 感染症をモデルとしたライフゲームのプログラムを 作成した。 HIV 感染症の数値モデルでは、即効性の疾患、無期限のウィ ルス制御、長い無症候期間後の疾患の 3 つのパターンに別け られることが分かっている。今回、HIV ウィルスと抗体の空 間的挙動を観察するためにライフゲームとして設定したルー ルでは、(2)(3)(5) のパラメータを変化させることで、即効性 の疾患と無期限のウィルス制御と思われる 2 つの挙動パター ンを観察することができた。 8 成果の評価 (2)(3)(5) のパラメータをそれぞれ (2)28%、(3)28%、(5)4% にすると、パターン 1 が見られる。このパターンからは、HIV ウィルスが拡散して増えている様子が見られる。最終的には、 全てのマスを HIV ウィルスが占領している。 次に、(2)(3)(5) のパラメータをそれぞれ (2)25%、(3)25%、 (5)3% にすると、パターン 2 が見られる。このパターンでは、 HIV ウィルスは拡散して増えているが、B 細胞と抗体によっ て HIV ウィルスの拡散は抑えられている。 まず、全体の成果の評価をする。複雑系を知らない人や高 校生に複雑系を視覚的に実感してもらうため、視覚化するシ ミュレーターを開発するのがこのプロジェクトの成果となる。 シミュレーションのテーマを「HIV 感染症」という身近なも のに設定したことで、「ウイルスに対する抗体」という複雑系 の知識が無い人でも理解しやすいプログラムの動きになった。 シミュレーターに興味を持った方もいらっしゃったので、複 雑系を知らない人や高校生にも楽しんでもらえるシミュレー 7 発表について 発表は、メンバー全員で行うことにした。 ターを作成できたといえ、プロジェクトの目標を達成すること ができた。 中間発表では、平均発表技術評価 5.2、平均発表内容 5.7 と 次に iPad2 の使用に対する評価をする。シミュレーション なった。アンケートの発表技術の項目では、声が小さいという に興味を持ってもらうために、iPad2 を使って聴講者に操作 意見が目立った。一方で、声がよく聞こえたという意見もあっ してもらう予定だった。iPa2d で processing のプログラムを た。式の説明を絵やグラフを用いて説明しているのは良いと 動かすことのできるアプリを見つけたので、それを利用して、 いう意見もいくつかあった。発表内容の項目では、数式の理解 processing で作成したシミュレーションツールを見せること が難しいという意見が目立った。最終的にどういうものを作 にした。パソコンで作成したプログラムを iPad2 に移動する るのかわからないという意見もいくつかあった。良い方向の には、dropbox を用いた。まず、簡単なプログラムを iPad2 意見では、スライドは絵やグラフを使っていたので分かりやす に移動して実際に動くかどうかテストしたところ、問題なく動 いという意見があった。アンケートの意見から改善点を見つ 作し、iPad2 のタッチ機能も使うことができた。この、「タッ け、最終発表では改善点を意識した発表を行った。 チ機能の使える」シミュレーションツールの表示は、昨年では 最終発表では、平均発表技術評価 5.89、平均発表内容 6.4 できなかったことなので良い成果になった。しかし、最終的な となった。アンケートの発表技術の項目では、スライドを見 結果としては、iPad2 を利用したシミュレーションツールの表 すぎているという意見が目立った。また、中間に引き続き、声 示はできなかった。先ほど述べたように、同じ processing で が小さい人がいるという意見があった。良い方向の意見では、 作ったプログラムには表示できるものもあり、iPad2 のタッ 発表の流れを示したのは良いという意見があった。発表内容 チ機能も使うことができた。しかし、私たちの作成したプロ の項目では、シミュレーターがどのように役立つのかわからな グラムは表示できなかった。この原因を特定することができ い、HIV やシミュレーターのルールが複雑だったという意見 ず、iPad2 を用いたシミュレーションツールの表示はできな があったが、シミュレーションの動画は分かりやすかったとい かった。 う意見がいくつかあった。 最後に、シミュレーションツールの評価を行う。先ほど述べ 発表のまとめると、最終発表では中間発表の反省点である たように、processing であれば iPad2 で動かせるつもりだっ 声の大きさ、スライド・説明の分かりにくさを意識して発表を たので、processing でシミュレーションツールを作成するこ 行ったつもりだったが、声が小さい人がいる、発表が分かりに とに決めた。結局、iPad2 で表示させることはできなかった くかったという意見がいくつか見られたので残念だった。し ので、最終発表ではパソコンで表示した。シミュレーション かし、シミュレーターの動画が分かりやすいという意見が何件 ツールはライフゲーム形式で作成した。プログラムをより現 かあったので、良い結果となった。 実に近付けるために、実際の体の HIV 感染の仕組みも勉強し てプログラムに取り入れた。HIV の感染後の 3 つのパターン のうち、2 つまでは表すことができた。今回のモデルはウイル スの変異というものがあり、ウイルスの種類が増えていくモデ ルであったが、シミュレーションツールで視覚化したことに よって、ウイルスの変異していく様子が見え、式で見るよりも 分かりやすくなった。 9 今後の課題 シミュレーションツールを作成し、最終発表で興味を持っ てくれた聴講者もいたが、テーマの式が取る 3 つのパターン のうち 2 つしか再現できなかった。また、シミュレーション ツールは当初 iPad2 で表示・操作するつもりだったが、結局 iPad2 では表示できなかった。同じ言語で作成したプログラ ムの中には表示・操作できるものもあったので、私たちのシ ミュレーションツールが同じようにできなかった原因を特定 できれば、iPad2 を使ったシミュレーションツールの提示が できる。 参考文献 [1] Hofbauer J. and K Sigmand, Evolutionary Games and Population Dynamics. Cambridge University Press, 1998. (竹内康博, 佐藤一憲, 宮崎倫子, 進化ゲー ムと微分方程式. 京都: 現代数学社, 2001.) [2] Martin A. Nowak, Evolutionary Dynamics: Exploding the equations of life. The President and Fellows of Harberd University Press, 1998. (竹内康博, 佐藤一 憲, 巌佐庸, 中岡慎治, 進化のダイナミクス-生命の謎を解 き明かす方程式. 東京: 共立出版株式会社, 2008.)
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