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CO NTE NTS
巻頭インタビュー
糖尿病重症下肢虚血への集学的アプローチ
済生会横浜市東部病院 フットケア外来
同院 循環器内科医長 平野敬典 氏 ……………………………………………………… 1
DIABETES NEWS ………………………………………………………………………
2014
4
学会レポート
5
第78回 日本循環器学会学術集会
ol
V
第48回 日本成人病(生活習慣病)学会学術集会 ………………………………
.6
N o.2
第25回 日本糖尿病性腎症研究会
◆ 巻頭インタビュー
糖尿病重症下肢虚血
への集学的アプローチ
済生会横浜市東部病院
フットケア外来
平野敬典氏
患者さんの 9 割近くが糖尿病の方です。実際のとこ
ろ日常診療において「CLI のほとんどは糖尿病であ
る」というのが実感です。これは我々だけでなく、
CLI 治療に携わる医師の共通認識ではないでしょう
か。
糖尿病患者数の増加が続いていますから、今後は
さらに糖尿病 CLI の増加に拍車がかかると考えられ
ます。しかし、CLI 患者の大半が糖尿病であるとい
同院 循環器内科医長
う事実が糖尿病領域でどの程度認識されているのか
1996年 金沢医科大学卒業。東邦大学医学
部付属大森病院第二内科にて研修後、1998
年 同院循環器内科入局。1998年 川崎社会
保険病院循環器内科医員。2007年より済生
会横浜市東部病院循環器内科医長。日本冠
動脈内視鏡学会理事、
日本下肢救済・足病学
会評議員等を務める。
疑問です。PAD に関する世界的なガイドラインであ
重症下肢虚血に至る患者の大半は
糖尿病であるという事実が
より広く認知されるべき
──重症下肢虚血の基礎疾患として、糖尿病はどの
る TASC Ⅱには、潰瘍のあるすべての糖尿病患者は
CLI を疑い精査すべきと書かれており、この推奨は
我々のような CLI の臨床にいる医師の感覚と一致し
ています。初めから結論を言うようですが、糖尿病
が増えている今、
糖尿病を診ておられる先生方に、
血
管を積極的に診ていただくことが CLI 治療のスター
トになると思います。
── 血管を診ることが CLI 治療のスタートとする
と、CLI 治療のゴールとは?
究極的なゴールは、予後の改善です。つまり、患
程度、影響しているのでしょうか?
者さんに歩ける状態で帰っていただき、それによっ
我々の施設も含めて国内 11 施設が参加し、
膝下動
て運動療法を継続でき、全身の血管障害の進行が食
脈病変による重症下肢虚血(CLI)例、
約 1,000 肢に
い止められ、合併症が減って長生きしていただくと
対する血管内治療(EVT)の予後を追跡した J いうのが、我々の最終目標です。しかし現在、CLI
BEAT 研究では、その 7 割が糖尿病を有していまし
に積極的に介入し救肢に成功すれば生命予後が改善
た。また、我々のフットケア外来に紹介されてくる
することを示すデータはなく、現状では ‘ 救肢 ’ が一
CLI : clitical limb ischemia
EVT : endovascular treatment
J - BEAT : japanese below-the-knee artery treatment trial for critical limb ischemia
PAD : peripheral arterial disease
TASC : trans-atlantic. inter-society consensus
1
つのゴールだと考えています。
当院の救肢医療は循環器内科医が小切断を行うまで
血行再建、創傷管理、
フットケアが
救肢に不可欠な三本柱。
その集学的治療をチーム医療で実現
に創傷処置の技術が向上してきました。以前は整形
──さきほど、貴院では循環器内科のドクターも小
たとえ切断せざるを得ない場合でも、できる限り
大切断ではなく小切断にとどまるよう努力します。
外科での大切断が主流でしたが、最近では循環器内
科医が血管内治療と同時に小切断を行い創傷処置を
切断をされるとの話がありましたが、先生方がそこ
まで下肢診療に深く携わることになったのは、どの
行うことで、その当時よりも患者さんの予後が明ら
ような経緯からですか?
かに改善してきています。
私の場合は以前の勤務先での出来事がきっかけで
大切断ではなく小切断にとどめるには血行再建や
す。
創傷治療の技術ももちろん大切ですが、早期発見が
2000 年代初頭、PCI 施行件数が多い病院を中心に
鍵を握りますので、糖尿病を診る先生にも患者さん
EVT が行われるようになりました。その背景として
の足をこまめに観ていただくことが重要です。
は、
冠動脈疾患を有する症例の 10 〜 30%に PAD を
──救肢成功を生命予後改善に結び付けるには、何
併発している事実が、明らかになりつつあったこと
が必要なのでしょうか?
が挙げられます。私の前の勤務先も年間 1,000 件ほ
やはり全身の血管管理がポイントです。TASC Ⅱ
ど PCI を行っていたので EVT を始めることにな
では CLI を含む PAD 全体でみても心血管疾患以外
り、当時まだ若手だった私に白羽の矢が立ちました。
で死亡するのは 20 〜 30%に過ぎないと報告してい
そのころ私は心臓 PCI の技術を極めたいと思ってい
ます。下肢の動脈が狭窄している以上、全身の動脈
たので不満もありましたが、この領域の先輩に
硬化が進行し多臓器が虚血に瀕している可能性が高
「EVT は治療成功の喜びを患者さんと共感できる素
く、全身的な血管の精査と管理が必要です。CLI 発
晴らしい医療だよ」というアドバイスを受け、とに
症に関与する主な因子として、
糖尿病と脂質異常、
喫
かく始めてみました。そして診療が軌道に乗ってき
煙などが挙げられており(図 1)
、それらは取りも直
た時、第五趾が壊死した患者さんを治療したのです。
さず心血管イベントのリスク因子です。ASO 患者の
血行再建が成功し、あとは auto amputation になる
心血管イベント抑制のエビデンスのある ASO 治療
予測で循環器内科では意見が一致し経過観察してい
薬(図 2)や糖尿病患者の下肢切断抑制のエビデン
たところ、その患者さんは整形外科を受診し、その
スがある脂質改善薬も報告されていますので(図
後の当科受診時には下肢を大切断されていました。
3)
、適応があるなら糖尿病臨床で積極的に使用して
この経験から「このままではいけない、下肢診療
いただきたいと思います。
に携わる者は知識と情報を共有する必要がある」と
痛感しました。その後、現在の病院に移り糖尿病内
科の先生の協力を得ながら、血管外科、腎臓内科、皮
膚科、整形外科でチームを作りフットケア外来をス
脂質異常
(トリグリセライド)
糖尿病
×4
×2
重症下肢虚血
発症のリスク
年齢
>65
×2
喫煙
×3
ABI
<0.7
×2
<0.5
×2.5
図1 末梢動脈疾患患者の重症下肢虚血発症に
対するリスクファクターの影響力
〔日本脈管学会編:下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針Ⅱ、メディカルトリビューン、
2007〕より
2
ASO : arteriosclerosis obliterans
横浜市の中核病院の一つとして2007年に開設された
済生会横浜市東部病院
PCI : percutaneous coronary intervention
p=0.012
12
2
心/脳血管
イベント
5.4%
8
6
4
心/脳血管
イベント
3.4%
0
0
下肢症状の
増悪
3.0%
プラセボ群
62/590例
ハザード比 0.64
(95%信頼区間 0.44−0.94)
log-rank 解析
1
下肢症状の
増悪
5.1%
2
累積リスク
︵%︶
全身の血管イベント発生率
︵%︶
Mantel-Haenszel χ2
検定
10
プラセボ群
(n=4,900)
フェノフィブラート群
(n=4,895)
相対リスク
36%低下
p=0.02
0
1
2
3
4
5
6
無作為化割付後の期間(年)
図3 FIELDにおける初回全下肢切断の累積リスク
ベラプロスト群
38/594例
図2 ASO治療薬による下肢症状と
血管イベント抑制効果
ASO患者を対象にベラプロストまたはプラセボを6カ月間投与し
た2つの無作為化比較試験のメタ解析。実薬群は下肢症状の増悪
と心/脳血管イベントを有意に抑制した。
下肢症状の増悪:下肢虚血増悪、下肢動脈血行再建、下肢切断
心/脳血管イベント:心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈血行再
建、
脳血管障害
[Jpn J Pharmacoepidemiol 9:45-51, 2004. 一部改変]
脂質異常症併発2型糖尿病患者をフェノフィブラート群とプラセボ
群(必要に応じてスタチン等の投与可)
に分け、二重盲検下で平均
5年追跡し、種々の合併症の発症・進展を比較。初回下肢切断の累
積リスクはフェノフィブラート群で36%有意に抑えられていた。
[Lancet, 373
(9677)
: 17801788, 2009]
ようになったのも、j. WALK を通じて他院の形成外
科医のもとに通い技術を身に付けてからのことです。
今では重症感染併発例に対し血行再建と小切断を同
タートさせました。当初は診療内容により近い ‘ CLI
時に施行できるため、理想的な時期でのデブリード
外来 ’ ‘ PAD 外来 ’ という名称を検討していたのです
メント処置が可能となり、在院日数の短縮を実現し
が、それでは開業医の先生方が紹介される際にハー
ています。
ドルが高くなってしまい、
結局「壊疽なら整形外科」
具体的な診療体制ですが、フットケア外来には週
という従来と同じ流れになってしまうと考え、どん
1 回、午前・午後の終日、診療時間すべてを当てま
な患者さんでも紹介いただけるよう ‘ フットケア外
す。スタッフは、循環器内科に形成外科、皮膚科、整
来 ’ という平易な名称にしました。
形外科の医師が合計で最大 7 名と、糖尿病認定看護
──現在の診療体制は?
師を含め看護師が 6 名です。さらに必要があれば血
現在は、
当初の 6 科に形成外科が新たに加わり、
計
管外科や糖尿病科の医師も加わり、治療計画をその
7 科が関与しています。形成外科の先生は、神奈川
場で決めていきます。4 つのブースがフル回転で約
県下の下肢救済医療連携システム ‘ j. WALK ’ に参加
30 名の患者さんを診ます。紹介入院される患者さん
したことがきっかけで知己を得て当院にきていただ
の 2 〜 3 割は精査の結果、冠動脈病変を有しており、
きました。j. WALK に参加した目的は地域の医療連
その血行再建を行うことになります。
携と、他科の医師との交流をもつことでした。そも
── CLI 医療の最近のトピックスをお聞かせくださ
そも当院の循環器内科医の多くが小切断を手掛ける
い。
今年 4 月、石灰化病変による閉塞を機械的振動で
貫通させるカテーテル治療を可能にする機器が使え
EVT件数
500
EVT件数
︵件︶
・外来初診患者数︵人︶
外来初診患者数
400
376
399
396
307
300
100
0
408
426
380
418
289
233
224
200
372
249
128
2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013(年)
同院フットケア外来とEVT件数の推移 3
FIELD : fenofibrate intervention & event lowering in diabetes
るようになりました。評価の確立はこれからといっ
たところですが、EVT の適応拡大が期待されます。
また陰圧閉鎖療法とトラフェルミンの併用による治
癒機転の改善が著しく(図 4 参照)
、両者とも今や
創傷管理に欠かせません。さらに間もなく臨床応用
が可能になりそうなツールとして薬剤溶出バルーン
があり、再狭窄予防に期待が寄せられています。
──経皮的冠動脈インターベンションがほぼ完
成された治療法であるのに比べて EVT はまだ発展
途上段階にあるといったところでしょうか?
解決すべき課題は技術的なことばかりではありま
◆ 巻頭インタビュー
せん。CLI の病態の基礎は虚血ですが、CLI 治療に
当院の糖尿病のドクターは、初診患者に対しては
占める血行再建の努力は医療行為全体の 1 〜 2 割に
ABI、超音波、SPP などを必ず行い、血管病変が疑
過ぎず、
あとの残りは感染制御や創傷管理であり、
フ
われれば当科にコンサルトしてきます。
もちろん、
一
ットケアです。血行再建、創傷管理、フットケアが
般的には検査機器の台数や検査技師の配置といった
三本の柱で、その一つでも欠けていては治療が成立
課題のため困難かもしれません。もしそうであれば、
しません。そして、救肢のすべてに精通したスーパ
糖尿病患者さんの足の異常を発見した時点で直ちに
ードクターが存在しない以上、j. WALK のような医
血管検査ができる施設に紹介していただくという方
療機関の垣根を超えた多科医療連携を、地域ごとに
法で問題はありません。それが糖尿病患者さんの下
構築する必要があると思います。
肢切断を減らし、予後を改善する初めの一歩だと思
また経皮的冠動脈インターベンションと EVT は
います。
その手技には大きな差異がないものの、CLI 治療に
(%)
100
臨む姿勢は自ずと異なるものが要求されます。大袈
下肢大切断回避・生存率
裟に言えば、患者さんの人生に付き添う覚悟が必要
となります。予後予測がしばしば困難で長期に及ぶ
治療の間、患者さんの苦悩により添い続ける忍耐力
や思わしい結果が得られなかった場合でも最後まで
見放さず、責任をもつことが重要であると考えてい
ます。主治医があきらめてしまうことは、患者さん
の救肢、ひいては生命予後の悪化にもつながりかね
80
77.5%
60
40
20
57.4%
P=0.056
log-rank 検定
現行の診療体制・治療法による小切断施行群
以前の診療体制・治療法による小切断施行群
0
ず、そのようなことがあってはいけないと考えてい
症例数 12カ月
24カ月
ます。患者さんを愛し、肢を愛し、傷を愛する(傷
変更後 26
14
12
変更前 23
16
7
としっかり向き合う)ことが大切であり、そのよう
に後輩の医師に伝えています。
──最後に、CLI 治療の現場から糖尿病のドクター
へ伝えたいことをまとめてください。
最初に述べたことと重複しますが、やはり患者さ
んの血管を評価していただきたいということです。
図4 同院での下肢大切断回避・生存率の変化
(診療体制・治療法の変更前後での比較)
2010年10月以降に循環器内科と形成外科の共同により下肢小
切断を施行した26症例(26肢)
と、それ以前の23症例(整形外科
で小切断した23肢)の比較。現行法への変更により、大切断と死
亡の回避率にほぼ有意な差が現れている。なお、現行法では9割
の症例に陰圧閉鎖療法とトラフェルミンの併用療法を行っている。
D IA B E T E S NE WS
米国で糖尿病合併症が大幅減少 糖尿病による下肢切断抑制
国内初の外用爪白癬治療薬
20年でAMIは-68%に
プロジェクト「AAA」がスタート 「エフィナコナゾール」承認取得
科研製薬の新規爪白癬治療薬
直近の 20 年間で糖尿病合併症
下肢切断抑制のための社会的な
発症率が大幅に低下したとの報告
(クレナフ
啓発プロジェクト「Act Against 「エフィナコナゾール」
が NEJM 誌に掲載された。CDC
Amputation. 略称:AAA」が6月に
ィン ® 爪外用液 10%)の製造販
の助成による研究結果。1990 年
一般社団法人となり本格的活動を
売が承認された。同薬は爪白癬の
から 2010 年の間に急性心筋梗塞
スタートした。今後は患者さんや
治療薬としては国内初の外用薬。
は−67.8%、高血糖による死亡は
一般生活者および医療従事者向け
1 日 1 回塗布する。従来、爪白癬
−64.4%、脳卒中は−52.7%、下
に、下肢切断の実態と予防・管理
に対しては経口薬のみが認可され
肢切断−51.4%、
末期腎症−28.3
に関する情報を Web や講演会な
れていたが、外用薬という新たな
%と、発症率はいずれも顕著に低
どで広く提供していく。なお、代
選択肢が加わり、より治療を進め
下している。血糖降下薬の進歩に
表理事は杏林大学医学部形成外科
やすくなるケースもあると考えら
加え、血圧や脂質などの危険因子
教授・大浦紀彦氏。
れる。
爪白癬は爪の肥厚や変形、
破
の多面的管理が徹底されるように
公式サイト:http://www.dm-net.
損を招きやすく、糖尿病フットケ
なった影響が大きいと考えられる。 co.jp/footcare/aaa/
アにおいても注意すべき疾患。
4
第48回日本成人病
(生活習慣病)学会学術集会
【2014年1月11日~12日・東京】
会長 : 東京慈恵会医科大学内科学講座消化器・肝臓内科/
内視鏡科主任教授 田尻久雄氏
った(p=0.003)
。この結果は、調
一般演題
ー法では eGFR cys の三分位それ
ぞれの群間に死亡リスクの有意差
が認められ、eGFR cys によって
2 型糖尿病患者の生命予後を精密
に層別化できることがわかった。
一般演題(ポスター)
糖尿病患者は非糖尿病患者
よりもヘリコバクター・ピロリ
菌除菌成功率が低い:メタ解析
査が行われた国・地域、糖尿病の
糖尿病患者では H. pylori 除菌
者背景のマッチングの有無といっ
Effects of Postprandial
Hyperglycemia and Hyperlipidemia
on Postprandial Endothelial
Dysfunction in Deranged Glucose
Tolerant Patients with Coronary
Artery Disease
成功率が有意に低いことがメタ解
た調査方法の違いを考慮し解析し
血管内皮機能の低下には、食後
析により示された。新潟県立大学
ても変わらなかった。
高血糖よりも食後脂質異常の影響
人間生活学部健康栄養学科の堀川
糖尿病で除菌成功率が低下する
が大きいことを、兵庫県立姫路循
千嘉氏が発表した。MEDLINE お
理由として堀川氏は「末梢血管障
環器病センター循環器内科の津端
よび EMBASE の 2012 年 11 月ま
害による胃粘膜障害と抗生物質の
英雄氏が報告した。糖代謝異常を
での収載文献から ‘ 糖尿病 ’ と
吸収不良、あるいは抗生物質のグ
有 す る 冠 動 脈 疾 患 患 者 45 名
‘ H. pylori ’ をキーワードで検索
リコシル化亢進による効果減弱が
(OGTT2 時間値 140mg/dL 以上
し、糖尿病患者と非糖尿病患者と
推測される」と考察、
「今後は血糖
かつ HbA1c 6.5%未満)にクッキ
で比較可能な縦断研究 8 件を抽
コントロール状況の違いによる除
ーテストを施行し、負荷前後の血
出・統合した結果、糖尿病患者で
菌成功率への影響を検討したい」
管内皮機能を FMD で評価した研
は除菌成功率が 18%有意に低か
とまとめた。
究。主な患者背景は、年齢 67.4 歳、
ほりかわ
ち か
病型、過去の除菌治療歴を有する
者を除外しているか否か、両群患
つ ばた
ひで お
男性 75.6 %、BMI 25.4、高血圧
第78回日本循環器学会学術集会
【2014年3月21日~23日・東京】
会長 : 自治医科大学学長/東京大学名誉教授 永井良三氏
75g の炭水化物と 28.5g の脂質を
含むクッキー摂取の前後の採血で
糖代謝異常の程度と食後脂質異常
観察期間中に死亡したのは 32
の有無を判定すると、対象の 73.3
Glomerular Filtration Rate (GFR)
Estimated by Cystatin C-Based
versus Creatinine-Based Equations
for Predicting Mortality in
Outpatients with Diabetes Mellitus
名(内、心血管死 16 名)
。死亡群
%が耐糖能障害、27.7%が糖尿病
一般演題(口演)
は生存群に比べて、年齢、尿蛋白、 で、全体の 4 割が食後脂質異常に
NT pro BNP が有意に高く、ヘモ
該当した。
なお食後脂質異常は、
ク
グロビン、eGFR cys は有意に低
ッキー摂取により TG が 66mg/
糖尿病患者の生命予後の予測に
かったが、eGFR cre の群間差は
dL または RLP C が 3.3mg/dL を
おいて、クレアチニンを用いた
有 意 で な か っ た(eGFR cys は
上回る上昇を示した者とした。
eGFR よりシスタチン C を用いた
p=0.002、eGFR cre は p=0.057)
。 結果だが、クッキー摂取前から
eGFR のほうが有用である可能性
全死亡の規定因子を Cox 比例ハ
摂取 2 時間後の% FMD の低下量
を、藤田保健衛生大学循環器内科
ザードモデルで解析すると、高血
(Δ%FMD)は、
食後脂質異常の
の奥山 龍 之介氏が報告した。同
圧の既往とともに、eGFR cys が
ない群は−1.5 ± 1.3%、食後脂質
院の外来 2 型糖尿病患者のうち
有意な因子として抽出された(オ
異常のある群は−2.6±1.3%で、
両
eGFR cre15mL/ 分 /1.73m2 以上
ッズ比 2.93、
p=0.0002)
。eGFR で
群間に有意な差が観察された
の 494 名(男性 64%、
平均年齢 67
三分位に分け第一分位を基準に死
(p=0.004)
。しかし耐糖能障害群
歳、HbA1c 7.0%、高血圧 59.3%)
亡リスクを比較すると、eGFR cys
と糖尿病群とでは群間差がなかっ
を 1,401 日間(中央値)観察し、
観
では第二分位 3.6、第三分位 9.6 と
た。また血糖値および TG の変化
察期間中に発生した全死亡を
有意にリスクが上昇するのに対し、 量(Δ PG、Δ TG)とΔ% FMD
eGFR cys と eGFR cre 別に検討
eGFR cre では同順に 0.89、3.5 と
の相関をみると、Δ PG とΔ%
したもの。
差が少なかった。カプランマイヤ
FMD は相関せず、Δ TG とΔ%
おくやま りゅう の すけ
5
86.7%、脂質異常症 84.4%など。
FMD:flow mediated dilation
BMS:bare metal stent
RLP-C:remnant-like particles cholesterol
DES:drug eluting stent
*CRI:chronotropic response index〔心拍予備能÷
(220−年齢−安静時心拍数)
〕
INS:in-stent restenosis
FMD は負の相関が認められた
食後高 TG 血症の ISR に対する
うち残存虚血がなく、洞調律、β
(r=− 0.46,p=0.0007)
。さらに
相対危険度は、BMS では 2.51(p
遮断薬非内服の連続 68 名で、PCI
% FMD 低下の関連因子について
< 0.05)と算出された。DES につ
後の OGTT により糖代謝異常を
多変量解析するとΔ TG のみが予
いては相対危険度に有意差がなか
判定し、IGT 群(38 名)と NGT
測因子として抽出され、
HbA1c や
ったものの、前記のように ISR +
群(30 名)の 2 群について、心肺
1,5 −AG、Δ PG などの血糖関連
群では食後高 TG 血症の割合が有
運動負荷時の心拍応答異常を評価
の指標は単変量解析でも有意な因
意に高く、また ISR の再発を繰り
した。2 群間に、年齢、性、BMI、
子でなかった。
返す例も多かった。以上より、食
既往症などの背景に有意な差はな
一般演題(ポスター)
後高 TG 血症は ISR の危険因子の
かった。
PostprandialHypertriglyceridemia is a Risk
Factor of In-stent-restenosis
一つと考えられる。
結果は、心拍予備能(最大心拍
一般演題(ポスター)
数−安静時心拍数)
、
単位負荷量あ
Heart Rate Response to the
Exercise is Impaired Even in the
Mild Degree of Dysglycemia
後の心拍減少幅、
CRI *という指標
食後高 TG 血症がステント内再
狭窄(ISR)の危険因子であるこ
たりの心拍変化量、負荷終了 1 分
のいずれも IGT 群は NGT 群より
とを山口大学大学院医学系研究科
近年、糖尿病神経障害が IGT の
有意に低値で、心拍応答が乏しか
器官病態内科学の吉村将之氏
(現:
段階から発症している可能性が議
った。この機序として同氏はイン
吉村医院)が発表した。同氏らの
論されている。この点について群
スリン抵抗性によるコルチゾール
研究は二つのプロトコールからな
馬県立心臓血管センター循環器内
やカテコラミン分泌の増加、炎症
り、まず厚生連周東総合病院にて
科の伴野 潤 一氏は、心肺運動負
による神経線維脱落などを推定し、
ステント径 3.0mm 以上のベアメ
荷試験による心拍応答から検討し
IGT においても自律神経障害によ
タルステント(BMS)による PCI
た結果を発表した。対象は同院で
る心拍応答異常を生じ、予後悪化
施行例(86 名、113 病変)につい
PCI を施行した安定狭心症患者の
につながる可能性を述べた。
よしむらまさゆき
とも の じゅんいち
て、ISR の有無別に比較。ISR は
50%以上の再狭窄と定義し、食後
高 TG 血症は食後 8 時間以内の採
血による TG 値が 150mg/dL 以上
と定義した。すると ISR +群は−
群に比し、食後高 TG 血症に該当
【2013年12月7日~8日・東京】
当番世話人 : 順天堂大学大学院医学研究科腎臓内科学教授 富野康日己氏
して検討した。
一般演題
季節変動の幅が大きい群の平均
とΔ TG が有意に高く HDL C は
糖尿病患者では血清クレア
チニン値の季節変動が
腎機能低下を予測する
有意に低かった。その一方、年齢
eGFR の季節変動が大きい糖尿
有意に低下しており、その低下速
や BMI、LDL C、L/H 比、ステ
病患者は腎機能低下が有意に速い
度は−5.25/ 年だった。一方、季節
ント径、ステント長などに有意差
ことを、大阪府済生会千里病院糖
変動が小さい群は 69.95 から 76.68
はなかった。
尿病内科の星 歩 氏が報告した。
で、有意な変化はなかった(年換
次に山口大学医学部附属病院に
対象は2007年8月から2011年12 月
算では+ 2.24/ 年)
。また eGFR の
てステント径 2.25mm 以上の薬剤
の八尾市立病院の外来糖尿病患者
季節変動と年間低下速度の間には
溶出ステント(DES)による PCI
のうち eGFR cre の経年変化を追
有意な相関を認め(r=0.27)
、この
施行例(123 名、235 病変)につ
えた 168 名
(男性 94 名、
年齢 63.17
相 関 は 観 察 開 始 時 の eGFR や
いての解析では、食後高 TG 血症
歳、eGFR cre 69.32mL/分/1.73m 、 HbA1c で層別化し検討しても認
に該当する者の割合、フォローア
HbA1c 7.98%。eGFR100 以上の
められた。なお、シスタチン C も
ップ時の食後 TG、L/H 比が ISR
過剰濾過状態の者は除外)
。
対象者
測定していた 32 名を対象とする
+群で有意に高く、年齢や BMI、
全体の eGFR は夏に低下、冬に上
検討でも、季節変動が大きい群で
LDL C、ステント径、ステント
昇というパターンを繰り返してお
は eGFR cys 低下幅が有意に大き
長などに有意差はなかった。
り、その変動幅で三分位に群分け
かった。
する者の割合が有意に高く、また
フォローアップ時においても TG
6
第25回日本糖尿病性腎症研究会
SEASONAL POST
eGFR は、2008 年冬の観察開始時
が 74.04 で 2011 年冬には 58.28 と
ほし あゆむ
2
シーズナルポスト Vol.6 No.2 2014年8月1日発行
監修・企画協力:糖尿病治療研究会 提供:科研製薬株式会社 企画・編集・発行:糖尿病ネットワーク編集部
(創新社)
2014年8月作成
LIP69-14H-12-SO1