講義ノート - lab.twcu.ac.jp

電磁気学 I (’14 年版)
(到達目標)
電気と磁気の基本法則を学びます。第 1 段階では静止している電荷、す
なわち静電気による電気力と電気的エネルギーを理解します。第 2 段階
では、電流によって生じる磁気力を学びます。第 3 段階では、電場が変化
すると磁場が生じ、磁場が変化すると電場が生じる現象を学びます。ま
た、実験を通じて、楽しみながら実際の電磁気現象に親しみます。
(スケジュール)
1. クーロン力
2. 静電界
3. 位置エネルギーとエネルギー保存則
4. 電位
5. ガウスの法則とその応用
6. 導体
7. コンデンサー
8. 定常電流 9. 静磁界 10. 電磁力
11. アンペールの法則 12. 磁性体
13. 電磁誘導
14. マクスウェル方程式
(参考書等)
「新・基礎 電磁気学」佐野元昭著 サイエンス社 「電磁気学」 田中秀数著 培風館
「ベーシック 電磁気学」河辺哲次著 裳華房
「わかる電磁気学」松川宏著 サイエンス社
「電磁気学入門」阿部龍蔵著 サイエンス社
「電磁気学とは何か」和田正信著 裳華房
「身近に学ぶ電磁気学」河本修著 共立出版
「電磁気学」馬場敬之・高杉豊著 マセマ
2
そのほか必要に応じて紹介します。 (成績評価方法)
平常点 (授業・実験への出席・参加状況) とレポートにより総合的に評価
する。
(ホームページ)
講義ノート、期末レポート問題等は、林の個人 HP の「講義内容」
http://lab.twcu.ac.jp/lim/sub4.html の所に、また休講等の急なアナウンスは個人 HP の「トップページ」
http://lab.twcu.ac.jp/lim/index.html
に掲示するので活用して下さい。 3
5
第1章
クーロン力
乾燥した日に下敷きで頭をこすると、髪の毛が逆立つ。これは「静電
気」として日常的に経験することである。静電気により物が互いに引き
寄せられるが、この力を「静電気力」という。こうした静電気の正体は
何であろうか?
ここでは、こうした静電気力の正体である、電荷とその間に働くクー
ロン力について考える。
1.1
電荷と電気量
質量(重さ)のある物体の間には万有引力が生じる。即ち質量が万有
引力の源(source)であると言える。これと同様に、静電気力の源を電荷
(electric charge) と呼ぶ。それぞれの素粒子(物質を構成する最も基本的
な粒子)は、特有の質量と電荷を持つ。電荷を持つ代表的な素粒子は電子
であるが、ニュートリノ (neutrino) の様に電荷を持たない素粒子もある。
ちょうど質量には大きさ(量)があり、質量が大きいほど、その粒子に
働く万有引力が大きくなるように、電荷にも大きさがあり、それを電気
量(或いは単に電荷)という。質量の単位は kg であるが、電気量の単位
は C (クーロン) である。電子一個の電気量(の絶対値)e は
e = 1.6 × 10−19 (C)
(1.1)
である。e は “電気素量(あるいは素電荷)”と呼ばれる。電荷を持つ粒
子のことも単に “電荷”と言ったりするので注意しよう。
1.2
電荷の符号
第1章
6
クーロン力
万有引力においては、二つの粒子(物体)の間に働くのは常に引力で
あるが、静電気力には引力だけでなく、互いに反発しあう斥力も存在す
る。これは、電荷には正負の符号があり、同符号の電荷どうしには斥力
が、異符号の電荷の間には引力が生じると考えることで矛盾なく説明す
ることが出来る。
電荷 (電気量) には「相加性」がある。即ち、Q1 と Q2 の二つの電荷を
合わせると Q1 + Q2 の電荷となる。即ち電荷を代数的に扱う事が可能で
ある。
所で、全ての物質は色々な種類の原子から出来ている。原子は、その
中心部の原子核とその周りを回る電子から構成されている。上で述べた
様に電子の電気量は負で −e である。これに対して原子核の構成粒子であ
る陽子の電気量は e(中性子 (neutron) は電荷を持たない) であり、(通
常)電子と原子核中の陽子の数は等しいので、正負の電荷が打ち消し合
い、原子全体としては電荷を持たない(“電気的に中性”)。その為、原子
の間には静電気力は(殆ど)働かないのである。
(実際には、陽子と電子
の位置はわずかに異なるので、ファン・デア・ワ−ルス力と呼ばれる余剰
的な力が働く。)実は、ミクロの素粒子の世界では重力に比べ電気力の方
がずっと強いのであるが、日常生活で経験するマクロの世界では重力が
重要となる。これは、電気的に中性の原子間には殆ど電気力が働かない
のに対して、万有引力については、質量に正負が無く、常に粒子間には
引力が加算的に働くので、“塵も積もれば山となる”のごとく、マクロの
世界では重要となるからである。
物質中の電子の中には比較的自由に原子の間を動けるものが在る。下
敷きと髪の毛の摩擦で静電気力が生じる理由は、摩擦によって一方から
他方に電子が移動し、移動先は負に帯電し(電子は負の電気量を持つの
で)、逆に移動元は正に帯電するために、これらの間に引力が働くためで
ある、と考えられている。
1.3
クーロンの法則
ニュートンは、質量 m, M の二つの物体間には、mM に比例し、両者
の間の距離の逆 2 乗に比例する引力(万有引力と呼ばれる)が働くこと
を 17 世紀に発見していた。クーロン (Coulomb) は、静電気力についても
万有引力と同様の法則が成りたつのではないかと考え、当時としては精
1.4. クーロン力の重ね合わせの原理
7
密な実験を行い次のような法則を発見した (1785 年): 距離 r 離れた二つの点電荷 Q, q に関して
(1) 両電荷に働く力は、同一作用線上あり、その大きさは等しく互いに逆
向きである (作用・反作用の法則)。
(2) 両電荷に働く力の大きさは r2 に反比例する。
(3) 両電荷に働く力の大きさは |Q| と |q| の積に比例し、Q と q が同符号
なら斥力、異符号なら引力になる。 これをクーロンの法則 (Coulomb’s law)。また、これに因み、静電気力の
ことをクーロン力 (Coulomb force) と呼ぶ。 この法則を数式で表すと、クーロン力の大きさ F は F =k
Qq
r2
(1.2)
となる。ただし、実際には Q, q が異符号の場合には F は負になるが、こ
れは引力を表すと考える。つまり、正確には力の大きさは |F | で与えら
れる。また、比例定数 k は SI 単位系では k=
1
c2
= 7 ' 9.0 × 109 (Nm2 /C2 )
4π²0
10
(1.3)
となる。ここで c は光速度。よって、例えば 1 (m) 離れた 1 (C) の電荷
同士には 9 × 109 (N) という大きなクーロン力が働くことになる。(1.2)
は、万有引力の法則 F =G
mM
(G : 重力定数)
r2
(1.4)
と、少なくとも形は全く同じであることに注目しよう。 力は、大きさだけでなく方向も持ったベクトル量である。ベクトルを
~ は
用いると、例えば q が Q から受けるクーロン力 F
Qq
Qq
F~ = k 2 ~rˆ = k 3 ~r
r
r
(1.5)
と書くことが出来る。ここで、~r は点電荷 Q から点電荷 q に向かうベク
トルで、また ~rˆ = ~rr (r = |~r|) は、その方向の単位ベクトルである。
1.4
クーロン力の重ね合わせの原理
8
第1章
クーロン力
電荷が代数的に足したり出来るように、ある電荷が他の複数の電荷か
らクーロン力を受ける場合には、それらを数学的に足したベクトル(合
力)が、実際にその電荷にかかる力となる。この様に足し合わせること
が出来ることを “重ね合わせの原理”という。例えば、電荷 q が他の二つ
~1 、F~2 のクーロン力を受けたとすると、実
の電荷 Q1 、Q2 からそれぞれ F
~ は
際に q が受ける力 F
F~ = F~1 + F~2
(1.6)
で与えられる。 (演習 1)
一辺の長さが 10 m の正三角形の頂点 A, B, C に、それぞれ QA = 0.020
(C)、QB = −0.020 (C)、QC = 0.020 (C) の点電荷が置かれている。点電
荷 QA に働くクーロン力の大きさを求めなさい。 9
第2章
静電界
例えば点電荷 q が点電荷 Q から受けるクーロン力(1.5)は
~
F~ = q E
(2.1)
~ は、q の存在する点において単位電荷 ( 1 (C))当
とも書ける。ここで E
たりに働くクーロン力と見なされ ~ r) = k Q ~rˆ
E(~
r2
(2.2)
~ を電界あるいは電場と呼ぶ。電荷 Q が存在する事で ~r の
である。この E
~ r) が生じ、それによって、その場所に在る別の電荷 q が力
場所に電界 E(~
を受ける、という風に考えるのである。
2.1
遠隔相互作用と局所的相互作用
上で述べたことは、数学的には単なる (1.5) の書き換えに過ぎない様に
思える。しかし、物理的な概念は大きく違うのである。(1.5) の様に書く
と、これは単に 2 点に存在する q, Q の間に “瞬時に”(1.5) の力が働くこ
とを暗に仮定している。こうした力を
「遠隔相互作用」 という。これに対して (2.1)、(2.2) の書き方では、まず、電荷 Q が存在
すると、それによってその周りの空間の各点に電界(電場)が生じると
考える。この様に、空間の各点で与えられる物理量を一般に
“場 (field)”
という。(電場はベクトルの場なのでベクトル場とも呼ばれる。)その場
から電荷 q が力を受ける、という様に考えるのである。この場合、電気
的な力(相互作用)は瞬時に伝わるのではなく、電荷の周りの点に局所
的に徐々に伝わって行くと考える。仮に電荷 Q がある時刻にある場所に
第 2 章 静電界
10
急に現れたとすると、それによって q が力を受けるのは rc (r : Q と q の
間の距離) 遅れた時刻になる。これは電気的な力が光速度 c で空間を伝わ
ることを意味している。こうした力を
「局所的相互作用」
と言う。
因みに、実際には、電気的および磁気的な力は、アインシュタインが
提唱した光の粒子である “光子 (photon)” が空間を光速度 c で伝播するこ
とで伝えられる、と考えられている。その為、力が伝わるのに要する時
間が rc となるのである。
現在の物理学では、電磁気の力のみならず、素粒子に働く4つの相互
作用(電磁、弱、強、重力)全てについて、力は局所的相互作用であり、
それぞれの力に対し、光子の様な、その力を伝える(媒介する)粒子が
存在すると思われている。
2.2
電気力線
電界というのは目に見えずイメージし難い。そこで、視覚的に電界の
様子を表すことができる
「電気力線」
~ の方
というものを導入する。電気力線は、空間の各点での電界ベクトル E
向を連ねたもので、正の電荷から “湧き出て”負の電荷で “消滅”する(図
を参照)。電気力線は磁気の場合の磁力線にちょうど対応するものである。
磁力線も N 極から発し、S 極で終わる。
空間のある点での電気力線を考えると、その方向(正確には接線の方
向)は、そこでの電界の方向に一致するが、その密度、即ち力線に垂直
な単位面積を通過する電気力線の数は、電界の大きさに比例すると考え
るのが妥当である。
仮に原点に Q の電荷を置き、他には電荷が無いとすると、電気力線は
原点から四方八方に広がるが、原点を取り巻く任意の球面を貫く電気力
線の総数は常に同じである。例えば原点を中心とする半径 R と半径 2R
の二つの球面を考えると、半径が 2 倍になると、球面上の電界の強さは 14
になる(逆 2 乗則)。一方、球の面積は 4 倍になり、球面を貫く電気力線
の総数は変わらないので、単位面積当たりの力線の数(密度)もやはり
1
になる。そこで、
4
2.3. 電荷密度
11
「ある点での電気力線の密度(単位面積当たりの力線の数)は、そこで
の電界の強さと等しい」
とする。
さて、では、この原点に置かれた電荷 Q から生じる電気力線の総数は
何本であろうか?それには、任意の半径 R の球面を貫く力線の総数を数
えれば良い。この球面上での電界の強さは、クーロンの法則より
E=k
Q
R2
(2.3)
で与えられる。これは、球面上の単位面積を貫く力線の数に等しく、ま
た球面の面積は 4πR2 である。よって、球面を貫く電気力線の総数は
k
Q
Q
× 4πR2 = 4πkQ =
2
R
²0
(2.4)
となる、ただし、ここで
1
(2.5)
4π²0
の関係を用いた。²0 は (真空中の) 誘電率と呼ばれるものである。こうし
て、次の重要な結論が得られる:
k=
「電荷 Q から生じる電気力線の総数は
Q
本である。」 ²0
(2.6)
(演習 2) 十分大きな 2 枚の互いに平行な金属板(極板)からなるコンデン
サーを考える。それぞれの極板に +Q, −Q の電荷が帯電している。この
時、コンデンサーの極板間、および極板の外での電界の大きさを求めな
さい。ただし、各極板の面積を S とする。また、電界の大きさは極板間
の距離に依るかどうか述べなさい。 2.3
電荷密度
電荷が空間に連続的に分布している時には、ある1点の電荷というの
を考えるのはあまり意味がなく
「電荷密度」
を考えるのが適当である。ある点 P の周りの微小体積 ∆V の領域の中に
微小な電荷 ∆Q が存在している時、点 P での電荷密度 ρ は
∆Q
dQ
=
∆V →0 ∆V
dV
ρ = lim
(2.7)
第 2 章 静電界
12
で与えられる。意味的には “単位体積当たりの電荷”という事になる。こ
こで dQ, dV は、少し抽象的ではあるが、それぞれ ∆Q, ∆V を限りな
くゼロに近づけた時の “無限小”の電荷、体積を表しているものと考える。
微分を表す時の書き方と同じである。この様に書くと、微分は単なる分
数の様に扱える。(2.7) より、∆Q を
∆Q = ρ ∆V
(2.8)
dQ = ρ dV
(2.9)
あるいは
の様に表すことが出来る。 (N.B.) (2.8)より、一点での電荷を考えると ∆V = 0(点は体積ゼロ)な
ので ∆Q = 0 となり、一点の電荷を考えることは意味を成さないことが
分かる。
電荷が平面的に(2 次元的に)分布している場合には、単位面積当たり
の電荷である「表面電荷密度」σ を考える: dQ
↔ dQ = σ dS
(2.10)
dS
ここで dS は無限小の面積である。 同様に、電荷が線的に(1 次元的に)分布している(導線の場合など)
時には、単位長さ当たりの電荷である「線電荷密度」λ を考える: σ=
dQ
↔ dQ = λ dl
(2.11)
dl
ここで dl は無限小の長さである。
一般に電荷密度 ρ 等が場所に依らず一定の時の電荷分布を 「一様な電荷分布 (homogeneous charge distribution)」
と言う。 (演習 3) (表面)電荷密度 σ で一様に帯電した無限平板が、平板から距
離 h の点 P に作る電界を求めよ。
λ=
2.4
荷電粒子の運動方程式
~ からの力を受けて運動する場合を
電荷 q 質量 m の荷電粒子が電界 E
考えよう。電界は単位電荷 (1 (C)) が受けるクーロン力なので、電荷 q が
受ける力は
~
F~ = q E
(2.12)
2.4. 荷電粒子の運動方程式
13
~ = m~a (~a は加速度ベクトル)
となる。よって荷電粒子の運動方程式は F
より
2
~ = m~a → d ~r = q E
~
qE
(2.13)
dt2
m
という “微分方程式”になる。ここで ~r は荷電粒子の位置を表す “位置ベ
q
クトル”である。(2.13) に現れる m
は “比電荷” とも呼ばれる。
~
こうした運動の具体例として、z 軸方向を向いた一様な電界 E (E = |E|)
の中で、電荷 q 質量 m の荷電粒子を、原点から x 軸の方向に初速度 v で
発射した場合を考える。(2.13) はベクトルの各成分についての方程式に分
~ = (0, 0, E) は x 成分を持たないので、x 方向の加速
解できるが、電界 E
度はゼロである:
d2 x
= 0 → x = vt.
(2.14)
dt2
一方 z 方向には一様な電界がかかっているので、この方向には等加速度
運動をする: d2 z
qE
dz
qE
=
→
=
t (初速ゼロ)
dt2
m
dt
m
qE 2
→ z=
t (原点より発射).
2m
(2.15)
この二つの式から荷電粒子の軌道を決めることができる。そのために、
(2.14) から t = xv とし、これを (2.15) に代入すれば z=
qE x 2
qE 2
( ) =
x
2m v
2mv 2
(2.16)
が得られるが、これが軌道の図形の方程式に他ならない。つまり荷電粒
子の軌道は放物線となる。一様な電界中の運動は、一定の重力下の運動
と同様であるので、放物線となるのは当然であると言える。
15
第3章
位置エネルギーとエネル
ギー保存則
次に、電気的な位置エネルギーである 「電位」
について学ぼう。物体が受ける力によって位置のみで決まるエネルギー
を持つ時に、これを
「位置エネルギー」
と呼ぶ。例えば地表近くでは、質量 m の物体は重力による位置エネルギー
mgh (g : 重力加速度、h : 地表からの高さ) (3.1)
を持つ。
位置エネルギーを持つ場合には、それと運動エネルギーの和である「力
学的エネルギー」は時間に依らず一定である。これを 「エネルギー保存則」
と言う。
3.1
仕事と運動エネルギー
位置エネルギーは「仕事」という概念を用いて定義されるので、まず
この仕事について考えよう。簡単のために、一定の力、したがって一定の
加速度 a で x 軸上を運動する、等加速度運動を考えよう。速度 v 、位置座
標 x は、加速度 a を時刻 t について順次(不定)積分すれば得られ、 a(定数) → v = at + v0 (v0 : 初速度)
1
→ x = at2 + v0 t (最初原点にいたとする)
2
(3.2)
第3章
16
位置エネルギーとエネルギー保存則
となる。この 2 式から t を消去し v と x の関係をみよう。そのために (3.2)
0
の上の式から t = v−v
として下の式に代入し、少し整理すると a
x=
v 2 − v02
2a
の関係が得られる。両辺を
m
2
→ v 2 − v02 = 2ax
(3.3)
倍すると(m: 物体の質量)
1 2 1 2
mv − mv0 = max = F x
2
2
(3.4)
となる。F は物体に働く力であり、運動方程式 F = ma を用いた。ここ
で、物体の運動エネルギー K を
1
K = mv 2
2
(3.5)
また、力が物体にした仕事 W を W = F x (力 × 移動距離)
(3.6)
で定義すると、(3.4) は K − K0 = W,
(3.7)
つまり 「された仕事の分だけ物体の運動エネルギーは増加する」
ということを言っていることになる。
この事は、力が一定ではなく、F (x) のように場所 x に依る場合であっ
ても一般的に言えることである。少し数学的(形式的)であるが、以下
のように示すことができる。まず、運動方程式 F = ma = m dv
から出発
dt
する。両辺に v を掛けると (両辺を入れ替えて) mv
dv
= Fv ↔
dt
d 1 2
dx
( mv ) = F
dt 2
dt
(3.8)
これを t について 0 から t まで定積分すると Z x
1
1
1
1 2
mv |t=t − mv 2 |t=0 = mv 2 − mv02 =
F dx
2
2
2
2
0
(3.9)
が得られる。ここで左辺の v, v0 はそれぞれ時刻が t および 0 での速度を
表す。また、右辺では
Z
0
t
Z x
dx
F
dt =
F dx
dt
0
(3.10)
3.2. 位置エネルギー、エネルギー保存則
17
という “置換積分”を用いた。この (3.10) は、ある場所での力 F に無限小
の距離 dx を掛けた “無限小の仕事”を足し合わせたものなので、原点か
ら x の位置に移動するまでに力によって成された仕事 W を表している。
こうして(3.7)の関係は一般に言えることが分かる。
~ がする微小な仕事は、ベクトル
なお、3次元空間に拡張すると、力 F
の内積を用いて
∆W = F~ · ∆~r
(3.11)
と定義される。ここで、∆~r は物体の位置の変化を表す “変位ベクトル”
~ と ∆~r は直交するので (3.11) の様に定
である。実際、等速円運動では F
義された仕事はゼロになるが、一方で、等速なので運動エネルギーは増
加せず (3.7) が相変わらず成立して都合が良いのである。 3.2
位置エネルギー、エネルギー保存則
次に「位置エネルギー」を導入しよう。
例えば、ある人が物体 (質量 m) を地面上の点 O から鉛直上方の高さ h
の点 P まで、重力に逆らって静かに持ち上げたとする。この時に人が物
体にした仕事は
mg × h = mgh
(3.12)
である。その後手を離すと、物体は P から O まで自由落下するが、この
間に重力が物体にした仕事もやはり人がした仕事に等しく mgh である。
それは、両者を比べると力の方向は逆だが、移動方向も逆のため (3.11)
の内積が同じになるからである。
そこで
「人が物体に働く力に逆らって、基準点からある位置まで物体を運ぶ時
に物体にした仕事 = 位置エネルギー」
と定義し位置エネルギーを U と書くと、高さ h における位置エネルギーは
U = mgh
(3.13)
であると言える。
物体が自由落下する場合について (3.7) を具体的に書くと、落下時の速
さを v として 1 2
mv = mgh
(3.14)
2
第3章
18
位置エネルギーとエネルギー保存則
となるが、この関係は
「運動エネルギーの増加 = 位置エネルギーの減少」
と見なせるので、運動エネルギー K と位置エネルギー U の合計を “力学
的エネルギー”E と呼ぶと 「力学的エネルギー E = K + U は保存される」
と言うことができる。これが
「エネルギー保存則」
である。
エネルギー保存則は、上述のような等加速度運動の場合だけでなく、一
般的な直線運動の場合にも(実際には 3 次元的運動の場合でも)成立す
る。これを示そう。まず、上の例に倣い、x の位置での位置エネルギー
U (x) を
Z
Z
x
U (x) =
0
(−F (x)) dx = −
x
F (x) dx
(3.15)
0
で定義する。被積分関数が −F (x) となっているのは、物体に働く力 F (x)
に逆らって人が加える力だからである。
例えば位置座標 x が a の点 A から座標が b の点 B まで物体が動く場合
について考えると (3.7) より
KB − KA =
Z
Z
b
b
F (x) dx =
a
0
F (x) dx −
Z
a
F (x) dx
(3.16)
0
2
が言える。ここで vA,B を点 A、B での物体の速さとして、KA, B = 12 mvA,B
は点 A、B での運動エネルギーである。また右辺は物体に働く力がこの
間にした仕事である。これを点 A、B での位置エネルギー UA , UB で書き
直すと、(3.15) より KB − KA = UA − UB
→ KB + UB = KA + UA → EB = EA .
(3.17)
となる。ここで EA, B は点 A, B での力学的エネルギーであり、(3.17) は
エネルギー保存則に他ならない。
19
第4章
電位
~が
上の議論を受けて、いよいよ「電位」を定義しよう。空間に電界 E
存在する時
電位: 単位電荷 (1(C)) が持つ、電界から受ける力(クーロン力)による
位置エネルギー
である。電位を φ と書くことにしよう。
一番簡単な例として、
(重力の場合との類推で)z 軸と逆向きの一様な、
~ = (0, 0, −E)。単位電荷
大きさ E の電界が存在している場合を考える: E
~ = q E(
~ (2.12)参照) で q = 1 なので E
~ と同じになる。
が受ける力は F
よって、基準点を原点に採ると、高さ z の位置、つまり z 座標が z の点
での電位は、重力の時の mgh で mg → E, h → z に替えれば
φ = Ez
(4.1)
となる。あるいは、(3.15)の様に z 軸に沿った定積分を行うと、(3.11)
より z 方向に運ぶ時には力の z 成分のみが寄与するので(電界の z 成分
が −E なので)
φ=−
Z
Z
z
z
(−E)dz = E
0
dz = Ez
(4.2)
0
の様に求めることも出来る。
次に、ある電荷 q が原点にあるとき、これにより生じる電位を求めて
みよう。この場合には電界が一定ではないので、少し計算が必要である。
原点から無限遠に伸びる x 軸を考えると、座標が x の位置での電界の大
きさ E は、クーロンの法則より
E=k
q
1
(k =
)
2
x
4π²0
(4.3)
である。この場合、基準点を原点にすると (4.3) が x = 0 で発散するため
に問題が生じるので、基準点は E がゼロとなる無限遠点に採る。すると、
第4章
20
電位
原点からの距離が r の位置での電位(φ(r) と書く)が φ(r) = −
Z
r
∞
E dx = −
Z
r
∞
k
kq
q
dx
=
x2
r
(4.4)
と求まる。(積分区間では、電界の x 成分は正であるので E を用いて良い
事に注意。) 電位は、単位電荷 (1 (C)) が持つ電気的な位置エネルギーである。では
電荷 Q が持つ位置エネルギー U (r) はどうなるであろうか?電界から受
~ = QE
~ のように Q 倍になるので、位置エネルギーについても
ける力は F
単位電荷の場合の Q 倍になるはずである。つまり
U (r) = Qφ(r) (4.5)
の関係がある。
(演習 4) 水素原子では、電子と陽子(原子核)の間にクーロン力が引力として
働いている。同様に、原点に電気量 q の荷電粒子 A が固定されていて、
これから r0 の位置に電気量 −q 0 の別の荷電粒子 B があるものとする。た
だし、q, q 0 > 0 とする。
(1) この時、荷電粒子 B の持つ(クーロン力による)位置エネルギー U (r)
を求めなさい。 (2) 原点から r0 の位置にある荷電粒子 B に、どれ位の運動エネルギーを
与えればクーロン力による引力を振り切って無限遠方まで到達出来るか、
計算で求めなさい。
(ヒント:エネルギー保存則を用いて、無限遠方まで
到達出来るための条件を求めるとよい。)
4.1
電位差
電位ももちろん重要であるが、エネルギー保存則を用いる時などに重
要なのは、場所による電位の差、即ち
「電位差」あるいは「電圧」
である。その単位は 「ボルト (V)」
である。乾電池の 1.5 (V) 等がこれである。(4.4)は基準点が無限遠方で
少々抽象的なので、点 A を基準点とする別の点 B の電位というのを考え
4.2. 等電位面と勾配
21
ると、これは人が A から B まで単位電荷を運ぶのに要する仕事なので、
2点の電位差に等しい。原点から A, B までの距離を rA,B とすると、そ
の電位差(V と書く)は V = φ(rB ) − φ(rA ) = −
Z
rB
∞
E dx − (−
Z
rA
∞
E dx) = −
Z
rB
E dx (4.6)
rA
例えば、原点に電荷 q がある時の電位差は (4.4) より V = φ(rB ) − φ(rA ) = kq(
1
1
1
− ) (k =
)
rB rA
4π²0
(4.7)
である。
2枚の十分大きな平行極板 A, B(極板の面積を S 、極板間の距離を d と
する) からなるコンデンサーを考える。A, B に電荷 Q、−Q が帯電して
いるとする。演習 2 から分かるように、電気力線の密度から極板間(コ
ンデンサー内)の電界は一定で大きさは E=
Q
²0 S
(4.8)
となる。従って、(4.1) から分かるように、極板間の電位差は,
V = Ed =
d
Q
²0 S
(4.9)
となる。これから
V
d
となり、電界の単位は (V/m) とも書ける。
E=
4.2
(4.10)
等電位面と勾配
~ に垂直な方向に単位電荷を移動する場合に人がす
ある点から、電界 E
る仕事はゼロである。依って、垂直な方向に行っても電位は変わらない
~ が面に垂直である
ことになる。つまり、ある面があり、面上の各点で E
時、この面は(どこでも電位が同じ)
「等電位面」
になるのである。
第4章
22
電位
ある点に点電荷 q を置いた時の等電位面は (4.4) より r が一定の面、即
ち点電荷を中心とする、
(同心)球面になる。この場合、確かに電界は等
電位面である球面に垂直になっている。簡単のため、空間を2次元とし
てこの様子を表すと図のようになる。この様子は、ちょうど点電荷の位
置に高い山がある時の状況に似ている。山の場合、重力による位置エネ
ルギー一定の線は、(3.13) より高度一定、即ち「等高線」になり、これが
等電位の円に対応する。
山の場合に、ある地点から下を見た場合に、一番勾配の大きい(きつ
い)、つまり一番高さ、従って位置エネルギーが減少する方向は、明ら
かにこの地点での重力(正確には、その山の面に沿った分力)の方向で
ある。 電界と電位の関係
4.3
まず一次元で考えると、(4.4) より φ(x) = −
Z
x
∞
E(x0 ) dx0
(4.11)
と書けるので dφ
d Zx
=− (
E(x0 ) dx0 ) = −E(x)
dx
dx ∞
(4.12)
の関係が得られる。3 次元の場合に拡張すると、電位は位置ベクトル ~r の
関数 φ(~r) と書け、また (4.12) の E(x) は Ex (~r) と書くべきものである。す
ると、(4.12) と同様に
∂φ(~r)
∂φ(~r)
∂φ(~r)
= −Ex (~r),
= −Ey (~r),
= −Ez (~r)
∂x
∂y
∂z
(4.13)
が言えそうである。
ここで、
∂φ ∂φ ∂φ
,
,
)
(4.14)
∂x ∂y ∂z
で定義される grad (gradient、勾配)を用いると、(4.13) の関係は、ま
とめて ~ = −gradφ
E
(4.15)
gradφ = (
と書ける。勾配と呼ばれる理由は、等高線について述べた様に、力(こ
~ )の方向は勾配の(きつい)方向に一致するからである。
の場合 E
4.3. 電界と電位の関係
23
なお、偏微分の記号(関数に作用する “演算子”という言い方もする)
を成分とする “ナブラ (nabla)” ベクトル
~ =( ∂ , ∂ , ∂ )
∇
∂x ∂y ∂z
(4.16)
を定義すると、(4.15) の関係は
~ = −∇φ
~
E
(4.17)
~ 。 とも書くことができる: gradφ = ∇φ
(演習 5) コンデンサーがあり、極板間の電圧が V であるとする。この時、
電子 1 個を極板の間で負極の所に静かに置いてから手を離したとする。電
子が正極に到着した時に持っている運動エネルギーを求めなさい。 (演習 6) 原点に点電荷 Q が置かれている時の原点からの距離 r の点での
電位は
kQ
φ=
r
である。この φ の勾配 grad φ を計算し、- grad φ が点電荷 Q が作る電
界に一致することを確かめなさい。(ヒント)r は位置座標 (x, y, z) を用い
√
て r = x2 + y 2 + z 2 で表される。 25
第5章
ガウスの法則
2 章で述べたように、電荷 Q から発する電気力線の総数は ²Q0 である。
すると、任意の閉じた曲面 S 、S で囲まれる体積を持った領域 V におい
て次のことが言える:
「S を外に向かって貫く電気力線の総数は
荷の総量)。」
Q
²0
である (Q は領域 V 内の電
ここで、領域 V の内部から外に向かう電気力線の数を n+ 、外から内部
に向かう電気力線の数を n− とする時、「外に向かって貫く電気力線の総
数」は
n+ + (−n− ) = n+ − n−
(5.1)
を意味する。
上述の関係が成り立つことは、以下の様に考えると容易に理解できる。
(1) V 内の電荷
V 内に電荷 Q1 , Q2 , . . . が在るとすると、それぞれから外に向かう電
気力線の本数は Q²01 , Q²02 , . . .。よって外に向かう電気力線の総数は
Q1 Q2
Q1 + Q2 + . . .
+
+ ... =
,
²0
²0
²0
(5.2)
つまり、V 内の電荷の総量を ²0 で割ったものに等しい。
(2) V 外の電荷 領域 V の外部の電荷は、電気力線の総数に寄与しない。それは領域外
の電荷による電気力線は、ある場所で曲面 S に入っても、S の別の場所
から出て行ってしまうため、(5.1)の計算において寄与しない (n+ = n−
の場合に相当) からである。
こうして、(1)、(2) の議論から「外に向かって貫く電気力線の総数」に
は、V 内の電荷のみが寄与する事が分かる。 第 5 章 ガウスの法則
26
この関係を、
「面積分」を用いて表すことも出来る。曲面 S 上に面積 dS
の微小な(無限小の)面を考え、その場所での電界ベクトルの面に垂直
な方向(“法線方向”)の成分を En とする。ただし、法線方向は V から外
に向かう方向にとる。En に dS を掛けて、S 上の全ての微小面に対して
足し合わせたもの、即ち面積分
Z
S
En dS
(5.3)
を考えると(積分記号の下の S は、曲面 S 上で積分することを意味す
る)、これは「外に向かって貫く電気力線の総数」に等しい事が分かる。
~ が微小面に垂直な場合(法線方向と同じ方向)には、
実際、例えば電界 E
~ であり En dS = EdS は微小面を貫く電気力線の数に
En = E (E = |E|)
~ が面に平行な場合には En はゼロであるが、これは
他ならない。また、E
~ が法線方向と逆方向の場合
微小面を貫かない事を言っている。更に、E
には En は負になるが、これは V の外から中に向かう電気力線の数は負
として数える ((5.1) 参照) 事に相当する。
こうして、上で述べた関係は、面積分を用いて Z
S
En dS =
Q
²0
(Q : 領域 V 内の電荷の総量)
(5.4)
と表すことが出来る。この関係式を
「ガウスの法則」
という。
5.1
ガウスの法則を用いた解法
ガウスの法則を用いた解法の例として、電気量 Q の電荷が、半径 a の
球殻上に一様に分布している場合の、球殻の中心 O から距離 r の点 P に
おける電界を求めてみよう。
(r > a の場合) 電荷分布は、球殻の中心の周りに回転しても不変である(“回転対称性”
がある)ので、それによって生じる電界も回転しても不変に成るはずで
ある。よって、電界は球殻の中心から(放射線状に)外に向かう方向を
向く。そこで、球殻と同じ中心を持つ半径 r の球面 S を考え、S 上でガウ
5.1. ガウスの法則を用いた解法
27
~ は常に球面に垂直で En = E であり、E
スの法則を用いると、面上で E
は球面上どこでも同じなので
Z
S
Z
En dS = E
S
となる。よって
E=
dS = E · 4πr2 =
1 Q
4π²0 r2
Q
²0
(5.5)
(5.6)
が得られる。
1
ここで注意するのは、 4π²
= k (k : クーロンの法則の比例定数) なの
0
で、(5.6) は、
「あたかも電荷 Q が球殻の中心に集まった時に生じる電界と等しい」
という事である。ただし、球殻状の電荷分布が一様でなく、回転対称性
が無い場合にはこのような事は言えないので注意が必要である。 (r < a の場合)
この場合にも、電界は(存在するとすれば)回転対称性により放射線
状に外に向かうはずであるので(5.5)と同様な計算が可能であるが、こ
の場合には半径 r の球面 S で囲まれる領域 V 内には電荷は存在しない。
よって
Z
En dS = E · 4πr2 = 0 → E = 0
(5.7)
S
となる。つまり、球殻内には電界は存在しない、という事になる。物理的
には、球殻内に単位電荷 (1 C) を置いた時、球殻に分布する各電荷から
斥力 (Q > 0 とすれば) を受けるが、それらが打ち消し合うのである(単
位電荷が原点にあれば自明)。
この例から分かる様に、ガウスの法則は、電荷分布に何らかの 「対称性」
が在る時に有効である。更には、この法則の “微分形”がマクスウェル方
程式の一つとなるという意味でも重要である。
(演習 7) ガウスの法則を用いて、電荷密度 ρ で一様に帯電した、半径 a の
球体が作る、球内外の電界を求めなさい。
(演習 8) ガウスの法則を用いて、線電荷密度 λ で一様に帯電した、無限
に長い直線電荷が作る電界を求めなさい。 29
第6章
導体
物質を電気の通し易さで分類すると
金属のように良く電気を通すもの:導体 ゴムの様に電気をほとんど通さないもの:絶縁体
に分かれる。 金属が良く電気を通すのは、金属には比較的自由に金属内を移動でき
る
“自由電子”
が存在するからである。自由電子の移動で生じるのが
「電流」
であり(電流の方向は電子の移動方向と逆ではあるが)、“良く電気を通
す”というのは電流が流れ易いという事に他ならない。
6.1
導体内部の電界
~を
導体内部の自由電子は、そこに電界が存在する限りクーロン力 −eE
受けるので動き続ける。逆に言えば、電子の移動のない “平衡状態”では
「導体内部には電界は存在しない」
ということが言える。例えば、電界の存在する空間に導体を置くと、導
体中の自由電子がクーロン力を受けて動き、金属内部の電界がゼロとな
る様な配置になって平衡状態になる(図を参照)。
6.2
導体内部の電荷
上述の様に、導体内部では電界が存在しないので、内部で任意の閉曲
面を考えて曲面上の面積分を行うとゼロとなる。すると、ガウスの法則
第6章
30
導体
からこの曲面内の電荷の総量はゼロである。閉曲面は任意にとれるので、
これは
「導体内部には電荷は存在しない」
という事を意味する。よって、導体に電荷が存在するとしても、それは
導体表面のみに存在することになる。 6.3
導体の電位
~ = −grad φ (4.15) より
導体内部の電界がゼロ、という事は E
∂φ
∂φ
∂φ
=
=
= 0 → φ : 場所に依らず一定 ∂x
∂y
∂z
(6.1)
と言える。つまり 「導体全体が等電位」
なのである。
6.4
導体表面の電界
上述のように、導体全体は等電位なので、当然導体の表面も等電位で
ある。すると、電界ベクトルに垂直な面が等電位面であったので、
「導体表面(のすぐ外側)の電界、また電気力線は、導体表面に垂直」
という事が言える(図を参照)。導体表面のある場所における表面電荷密
度が σ の時、その点での(直ぐ外側の)電界の大きさ E は
σ
E=
(6.2)
²0
となる。これは
「クーロンの定理」
と呼ばれるものである。実際、この点において断面積 ∆S の微小な円柱
を考え (図を参照)、ガウスの法則を適用すると、円柱の底面や側面には
電界が存在せず、
(外側に向いた)表面のみに、面に垂直な電界があるの
で、円柱の表面での面識積分は E∆S となる。よってガウスの法則より
σ∆S
σ
E∆S =
→ E=
(6.3)
²0
²0
となり、クーロンの定理が証明される。 6.5. 静電遮蔽
6.5
31
静電遮蔽
雷が落ちている状況でも、自動車の中は安全だと言われる。これは、自
動車が導体で、導体の中には電界、電気力線が入り込まないからである。
こうした現象を
「静電遮蔽」
と言う。似た様な現象としては、例えば、自動車が金属で出来た橋を通過
する時に、急にラジオが聞こえなく(聞き難く)なるといった事がある。
静電遮蔽が起きる理由を考えてみよう。導体の内部に “空洞”がある場
合を考える。ただし、空洞内には電荷は存在しないとする。すると、仮
に導体の外部から電界がかかったとしても、導体内部だけでなく、空洞内
にも電界は入り込めない。それは、空洞内で仮に、空洞の壁の表面に垂
直な電気力線が生じたとすると、空洞内には電荷が存在しないので、空
洞表面から出た電気力線は空洞表面の別の点に戻るしかない事になる。
しかし、ちょうど重力の働く方向に位置が変わる、即ち高さが変化す
ると位置エネルギー mgh が変化する様に、電気力線に沿って位置が変化
すると電位は変化するので、電気力線が生じた点と消滅する点の間に電
位差が生じることになるが、これは導体全体が等電位という事実に矛盾
する。よって、空洞内には電気力線、従って電界は存在出来ないことに
なる。
33
第7章
コンデンサー
7.1
電気容量
2枚の十分大きな平行極板 A, B(極板の面積を S 、極板間の距離を d と
する) からなるコンデンサーを考える。A, B に電荷 Q、−Q が帯電して
いるとする。(4.9) より、極板間の電位差は
V =
d
Q
²0 S
(7.1)
である。この様に Q と V は比例する。そこで、その比例定数 C を
C=
Q
V
↔ Q = CV
(7.2)
で定義する。同じ電圧 V をかけても C が大きいと Q も大きくなり、たく
さん電荷を蓄えられるので、この C を
「電気容量(静電容量)」
と呼ぶ。単位は C/V であるがこれを特にファラデー F と表す: F = C/V。
C はコンデンサーの形状で決まる。実際、(7.1)、(7.2) より C = ²0
S
d
(7.3)
と求まる。S が大きくなるとたくさん電荷を蓄えられ、また d が大きく
なると、正負の電荷の引力が弱まるので電荷が蓄積し難くなる、と考え
ると (7.3) の結果はもっともなものであると言える。
7.2
静電エネルギー
第 7 章 コンデンサー
34
元々帯電していないコンデンサーを電荷 Q、電圧 V の状態に持って行
くには、
(人が)片方の電極から電荷をもう一つの電極に運ぶ必要がある。
正電荷を運んだと考えると、運び出した方が負極、運び込まれた方が正
極に帯電される。運ぶ途中で電極は帯電しているので、更に正電荷を運
ぶには人は仕事をする必要がある。この仕事はコンデンサーの持つ位置
エネルギーとして蓄えられ 「静電エネルギー」
と呼ばれる。ただし、帯電していない時の静電エネルギーをゼロとする。
この静電エネルギーを計算してみよう。正極に電荷が q だけ蓄えられ
る状態における電圧は、(7.2) より Cq である。更に無限小の電荷 dq を運
ぶのに要する(人がする)仕事は
q
dq C
(7.4)
である。これは、単位電荷を運ぶのに必要な仕事が電圧(電位差)なの
で、それに dq を掛ければ良いからである。この無限小の仕事を足し合わ
せる、即ち積分すると Q にまで帯電するのに要する仕事は
Z
Q
0
q
1 ZQ
1 2
dq =
Q
q dq =
C
C 0
2C
(7.5)
となり、これがコンデンサーの静電エネルギーとなる。(7.2) の Q = CV
の関係を用いると、静電エネルギー U は次のように 3 通りに書ける: U=
1 2 1
1
Q = CV 2 = QV
2C
2
2
(7.6)
35
第8章
定常電流
ここまで、電荷が静止している場合の静電気力に関することを学んで
きた。この章から、電荷が運動する事、つまり電流によって生じる色々な
現象について学ぶ。
8.1
電流
平衡状態にある導体中には電界は存在せず導体内は等電位であること
を学んだが、導線の様な細長い導体の両端に電池をつなぐと、両端の電
位差(電圧)は強制的に一定に保たれゼロとは成り得ないので、導線中
に電界が生じ、そのため導線中の自由電子は常時クーロン力を受けて加
速される。しかし、自由電子は導線中の結晶格子(原子核)にぶつかる
事で一種の抵抗力を受け、電圧をかけてから十分時間が経ち定常状態に
なると、電子は一定の平均的速さ hvi で “流れる”ようになる。こうした
電荷の流れを
「電流」
と言う。特に十分時間が経ち定常的になった電流を 「定常電流」
と言う。
電流の大きさ I は、導線のある断面を単位時間に通過する電荷で定義
される。単位は C/s であるが、これを特に A(アンペア)と表す。
導線の断面積が大きいと、断面上の場所によって電流の大きさは一般
に変化するので、各点での
「電流密度 ~j 」
を考える場合もある。~j の方向は、その場所での電流の方向であり、その
大きさ j は、考えている点において電流の方向に垂直な無限小の面積 dS
第8章
36
定常電流
の断面を dI の電流が流れている時 j=
dI
dS
(8.1)
で定義する。要するに、単位面積当たりの電流という意味である。
(N.B.) 断面(S と書く)全体を通過する電流 I は、電流密度の面積分 Z
(8.2)
I = jn dS S
で表わされる。
電流の大きさ 導線の電流 I は自由電子の(平均的)速さ v (ここでは hvi の代わりに
単に v と書く) に比例するはずである。どの様に与えられるか見てみよ
う。電子の電荷を −e (e : 電気素量)、導線中の電子の個数密度 (単位体積
当たりの個数) を n、導線の断面積を S とする。無限小の時間間隔 dt の
間に断面を通過する電子の個数は、体積 (vdt)S 中の電子の個数に等しい
ので(図を参照)
n(vdt)S
(8.3)
となる。従って、この間に通過した電荷 −dQ は −dQ = (−e)n(vdt)S
(8.4)
となる。よって電流の大きさ I は I=
dQ
= envS
dt
(8.5)
で与えられ、確かに v に比例していることが分かる。また、電流密度の
大きさ j は (8.5) を S で割って
j = env
(8.6)
で与えられることが分かる。この様に、電流密度は n, v という電子の局
所的な物理量のみで与えられる局所的な量であることが分かる。 8.2
電気抵抗
自由電子は結晶格子との散乱のために一種の抵抗力を受けるが、これ
による電流の流れ難さを表すのが
8.3. ジュール熱
37
「電気抵抗 R」
である。その定義は
V
(8.7)
I
である。V, I は導線にかかる電圧と、導線を流れる電流。同じ V でも R
が大きいほど I が小さく(電流が流れにくく)なることが分かる。R は
導線の材質や形状等で決まる定数である。(8.7) より
R=
V = IR
(8.8)
であるが、これを
「オームの法則」
という。なお、抵抗の単位は V/A だが、これを特に Ω(オ−ム) で表す。
電気抵抗は、導線の長さに比例し、断面積 S に反比例する。これは、S
が大きいほど電流は流れやすく、l が大きいほど流れにくい、という事を
言っていて、直感的にも分かり易い。その比例定数を抵抗率といい ρ で
表す:
l
(8.9)
R=ρ
S
つまり ρ は単位長さ、単位断面積当たりの抵抗、と言う意味があり、導
線の材質のみにより決まる量である。例えば銅、鉄の場合には、それぞ
れ ρ = 1.55 × 10−8 、(10∼20) × 10−8 (Ω·m) である。
8.3
ジュール熱
抵抗 R の導線に、電圧 V の電池をつなぐと I = VR の一定の電流が流れ
る。電荷 q が電池の正極から負極まで移動したとすると、電池の電圧 (電
位差) が V なので、この電荷の電気的位置エネルギーは qV だけ減少し、
従ってエネルギー保存則より、電荷の運動エネルギーは qV だけ増加する
はずである。しかし、実際には一定の電流が流れている状況では、自由
電子の速さは一定で運動エネルギーの増加はない。これは、自由電子が
結晶格子との衝突で運動エネルギーを失ったためであるが、逆に言うと、
結晶格子は、この衝突で qV だけのエネルギーを得る。具体的には、失わ
れたエネルギーは、衝突により結晶格子が振動して生じる熱エネルギー
になるのである。こうして電流を流すと導線は発熱するが、この熱エネ
ルギーを
第8章
38
定常電流
「ジュール熱」
と言う。
発生するジュール熱はどの様に与えられるであろうか?単位時間当た
りで考えてみよう。単位時間に電池から流れ出し、抵抗を通過する電荷
は、電流 I に他ならない。従って、この電荷の位置エネルギーの減少分
IV がジュール熱となるはずである。これは、見方を変えれば、電池が単
位時間当たり IV の電気的エネルギーを電気回路に供給している、と考え
ることも出来る。この様な単位時間当たり供給されるエネルギーを
「電力 P 」 という。即ち、
V2
P = IV = I 2 R =
(8.10)
R
ここでオームの法則 (8.8)(V = IR) を用いて 3 通りの書き方を行った。
電力の単位が W(ワット)である (W = J/s)。
ジュール熱に関連して、次のような問題を考えてみよう。電気容量 C
のコンデンサー、スイッチ S、抵抗 R(を持った導線)を直列につないだ
回路を考える(図を参照)。最初、スイッチは開いていて、コンデンサー
には Q, −Q の電荷が極板にあって、既に帯電しているものとする。ある
時刻にスイッチを閉じると、抵抗に電流が流れ、放電が始まり、十分時
間が経過するとコンデンサーの電荷は(ほぼ)無くなる。スイッチを入
れた時を時刻 0 とし、その後の時刻 t におけるコンデンサーの正極の電荷
を Q(t) として、この Q(t) を求めてみよう。
回路に流れる電流 I(t) は、コンデンサーの電荷の減少によるものであ
る。無限小の時間間隔 dt の間にコンデンサの電荷が dQ だけ変化したと
すると、単位時間当たりの電荷の減少は、単位時間当たり抵抗を通過す
る電荷、即ち電流に等しいので
I=−
dQ
dt
(8.11)
一方、抵抗の両端の電圧はオームの法則で V = IR と書けるが、これは
コンデンサーの電圧 V = Q
((7.2) 参照)にも等しいので
C
I=
Q
CR
(8.12)
とも書ける。よって (8.11)、(8.12) より
dQ
Q
=−
dt
CR
(8.13)
8.3. ジュール熱
39
という微分方程式が立つ。これは “変数分離法”で
Z
Z
dQ
dt
=−
Q
CR
→ log Q = −
t
+c
CR
→ Q(t) = Ce− CR (C = ec : 定数)
t
(8.14)
の様に解くことが出来る。ここで Q(0) = C = Q という初期条件を用い
ると、結局 t
Q(t) = Qe− CR
(8.15)
と求まる。
(8.15) より、確かに電荷は時間とともに指数関数的に急激に減少し、十
分時間が経つと(ほぼ)ゼロとなる事が分かる。この間、抵抗で発生する
ジュール熱を考えてみよう。単位時間当たり発生するジュール熱は(8.10)
より I 2 R となるので、無限小の時間間隔 dt の間では I 2 Rdt となる。よっ
て、これを t = ∞ まで足し合わせる(積分する)と、抵抗で発生する
ジュール熱が求められる:
Z
∞
I(t)2 R dt =
0
Q2
Q2 Z ∞ − 2t
CR dt =
e
C 2R 0
2C
(8.16)
となる。ここで、(8.15)より得られる
I(t) = −
dQ
Q − t
=
e CR
dt
CR
2
(8.17)
Q
は (7.6) に与えた、コンデンサーの持
を用いた。(8.16) の結果である 2C
つ静電エネルギーに他ならない。これは、スイッチを閉じる前にコンデ
ンサーの持っていた電気的エネルギーが、スイッチを閉じたことで回路
に “解放”され、抵抗におけるジュール熱という熱エネルギーに変換され
たことを言っていて、エネルギー保存則を表しているのである。
41
第9章
静磁界
これまで電気に関して学んで来た。ここから、電気と密接に関係する
磁気について学ぶ。これらをまとめて「電磁気」ということもある。実
際、相対性理論では、電気と磁気は独立なものではなく統一される。
電気と磁気は良く似た性質を持つが、違いもある。特に、
電気: 電荷が静止していても生じる(静電気)
磁気: 運動する電荷(電流)により生じる
という顕著な違いがある。 9.1
磁界と電流
二つの電荷があると、電荷が同符号であれば斥力、異符号であれば引
力のクーロン力(静電気力)が働く。同様に、磁石の N 極どうし、S 極ど
うしは反発し、N 極と S 極の間には引力が働く。磁石に働く力を
「磁気力」 という。
電気力は二つの電荷(電気量)の積に比例する。つまり、
電気力の源(source)
:電荷 と言える。同様に、
磁気力の源: “磁荷(磁気量)”
と言う。磁石の N、S 極は、+m、−m という異符号の磁荷をもつと考える。
~ が生じる。同様に磁荷が存在する
電荷が存在すると、空間には電界 E
と、空間に
~
「磁界(磁場)」H
が生じる、と考える。ある場所での磁界の定義は 「その場所に単位磁荷を置いたとき、その磁荷が受ける力」
である。よって、その場所に磁荷 m を置くと、磁荷が受ける力は
~
F~ = mH
(9.1)
第 9 章 静磁界
42
となる。これは、ちょうど電気の場合の (2.1) に対応する。
~ と並んで、これに比例する “磁束密度”B
~ というものが良く用
磁界 H
いられる: ~ = µ0 H
~
B
(9.2)
係数である µ0 は真空の “透磁率”と呼ばれ
µ0 = 4π × 10−7 (N/A2 )
(9.3)
である。
電界を考える際に電気力線の概念が役立ったが、磁気についても
「磁力線(磁束線)」
という概念が役立つ。磁力線は、電気力線と同様に、N 極から出て S 極
で終わる。磁力線は次のように決める: ・磁力線の方向: 磁力線の接線が、その場所での磁界 (磁束密度) の方向
に一致する。
・磁力線の密度: 磁力線に垂直な単位面積を通過する磁力線の数は、そ
~ に等しい。
こでの磁束密度ベクトルの大きさ |B|
この様に、磁気は電気と良く似た性質を持つが、大きな違いもある。電
気の場合には、正電荷、あるいは負電荷のみを取り出すことが可能であ
る。実際、原子から電子を “はがして”イオン化することも可能である。
このように単独で存在できる電荷を「電気単極子」と呼ぶことにしよう。
しかしながら、磁気の場合には、N 極、あるいは S 極のみを単独で取
り出すことは出来ず、N、S 極は常にペアーでしか存在しないのである。
この事実を
「磁気単極子(magnetic monopole)は存在しない」
という様に言ったりする。例えば、N、S 極を分離しようとして、磁石を
真ん中で切り二つにすると、より小さな二つの磁石になるだけで、磁気
単極子を取り出すことは出来ない(図を参照)。
では、限りなくこの操作をくりかえしたら、どうなるであろうか?最
後には原子の世界になるだけである。その世界では小さな磁石が存在し
ているわけではなく、電子が原子核の周りを回転していたり、電子がス
ピン(自転)しているだけである。実は、この電子の回転運動による
「円形電流」
が磁石の正体であり、マクロの世界の磁石は、こうした小さな磁石が集
まったものなのである。
9.1. 磁界と電流
43
電気の場合には、例えば正電荷が単独で存在可能で、この電荷から電
気力線が “発散”して出ていくので、これを囲む閉じた面(球面等)の上
で電界の面積分を行うと、ガウスの法則より正電荷に比例しゼロとはな
らない。しかしながら、上述のように磁気の場合には磁気単極子は存在
せず、常に N, S のペアーでしか現れないので、(ちょうど正負の電荷が
ペアーで存在し電荷が打ち消されるように)任意の閉じた曲面 S 上での
磁束密度の面積分はゼロとなる:
Z
S
~ · dS
~=0
B
Z
or
S
~ · dS
~ = 0.
H
(9.4)
~ を磁界 H
~ で置き換えてもやはりゼロとなる。これは、磁力線の場合に
B
は、電気力線の場合の様にある点から出発して別の点で終わるというよ
うに始点、終点を持つことが出来ず、
「磁力線は常に閉じた曲線になる」
ことを意味している。
電流が流れる事が磁気の源であると述べたが、これを明確に最初に示
したのがエルステッドの実験である。エルステッドは方位磁針の上側に
南北方向に張られた導線を置き、これに、南から北に向けて電流を流す
実験を行った(図を参照)。すると N 極が西の方角に振れた。この実験か
ら、直線電流があると、電流の周りに円形の磁界が生じ、磁界の方向に
ついては 「電流の方向に右ねじが進むとした時に右ねじの回転する方向に磁界が
出来る」
という事が分かった。これを
アンペールの「右ねじの法則」
と言う。こうして、電流によって磁界(磁気的な力)が生じることがはっ
きりしたのである。なお、この場合、磁力線は電流を囲む円形になり、閉
じた曲線になっていることが分かる。
上で、円形電流が磁石の正体と述べたが、では円形電流によりどの様
な磁界が生じるであろうか?特に円の中心に出来る磁界を考えよう。円
をたくさんの微小部分に分けたとする。各微小部分が円の中心に作る微
小な磁界は、
「右ねじの法則」より、みな同じ方向で、円形電流の方向に
右ねじを回す時に右ねじの進む方向になるので(円の回転対称性からも
明らか)、それらの(ベクトル和)も同じ方向を向き、その大きさは微小
部分の作る磁界の大きさを単純に足せばよい。
実験によると、円形電流により円の中心にできる磁界の大きさは、電
流の大きさに比例し、円の半径 r に反比例する。単位系を適当にとると、
第 9 章 静磁界
44
磁界の大きさ H は
I
(9.5)
2r
である。この関係から、磁界の単位は A/m となる。既に述べたように、
円電流の作る磁界は、円の各部分を流れる電流の作る磁界を足したもの
になる。依って、(9.5) より、円の微小(無限小)長さ dl の部分の電流が
円の中心に作る磁界の大きさを dH とすると
H
I
dH =
dl =
dl
(9.6)
2πr
4πr2
となる。
(9.6) は dl の線分と直交する方向に r だけ行った点に作られる磁界であ
るが、より一般的には、ある方向に電流 I が流れている時に、導線の微
小部分を、以下で定義される d~l
・方向: 電流の方向 ・大きさ |d~l| = dl:微小部分の長さ
で表すと、この微小部分から ~r だけ離れた位置に、この電流の微小部分
~ は
が作る磁界 dH
~ ~
~ = I dl × rˆ (r = |~r|, ~rˆ = ~r : ~r方向の単位ベクトル)
dH
(9.7)
4π r2
r
となる。(9.7) を 「ビオ・サバールの法則」
1
と呼ぶ。(9.6)、(9.7)は、電荷 Q の作る電界 E = k rQ2 ~rˆ (k = 4π²
)((2.2)
0
参照) と良く似ている事に注意しよう。(9.7) の大きさ dH を見ると H=
dH =
I
dl sin θ
4πr2
(9.8)
となる。ここで、θ は d~l と ~rˆ (~r)との成す角。(9.6) は (9.8) で θ = π2 と
した場合に成っている。
次に、無限に長い直線上を電流 I が流れている時に、この直線から r
離れた点 P に出来る磁界の大きさ H を考える。これは、直線を微小な線
分に分割し、それぞれの線分が点 P に作る磁界をビオ・サバールの法則
を使って求め、それを全ての微小線分について足し合わせる(実施には
積分する)ことで求めることが出来る。磁界の方向は、電流と点 P を含
む面に垂直である。その大きさ H は、電流に沿って座標 l を導入し、点
P から電流に下した垂線の足の位置を l = 0 にとると、
Z ∞
r
I
√
dl
(9.9)
H=
2
2
−∞ 4π(r + l )
r2 + l2
9.1. 磁界と電流
45
と書ける。ここで l = r tan x と置き換えて “置換積分”を実行すると
I Z 2
I
cos
x
dx
=
4πr − π2
2πr
π
H=
(9.10)
と求まる。
この場合、電流 I に直交する面上で、電流と交わる点を中心とし半径
r の円を考えると、この円に沿って単位磁荷が動く時に磁界が磁荷に対し
てする仕事は
I
H × 2πr =
× (2πr) = I
(9.11)
2πr
となる。この関係は円に限らず、任意の閉じた曲線にそった仕事を考え
ても変わらない(証明はしない)。
ここで
「線積分」
~ のする微小仕事 ∆W
を導入し、仕事を線積分で表してみよう。一般に力 F
は (3.11) より ∆W = F~ · ∆~r
(9.12)
である。ここで ∆~r は微小な位置の変化を表す “変位ベクトル”である。
物体が基準点 O(普通は原点) から点 P まで、径路 C にそって動いたとす
る。径路 C を非常に多くの N 個の微小な区間に分け、i 番目の区間での
~i 、変位を ∆~ri とする。N を無限大に、従って区間の幅
物体に働く力を F
を無限小にする極限 lim
N
X
N →∞
を考える。これを
(9.13)
i=1
Z
C
R
F~i · ∆~ri F~ · d~r
(9.14)
とかく。 C は径路 C に沿っている事を表す。こうした径路(一般に曲線)
に沿った積分を「線積分」という。特に、経路が閉じた曲線の場合には
I
F~ · d~r
(9.15)
H
と書く。ここで は閉じた曲線に沿って一周する線積分を表す。
線積分を用いると、単位磁荷が閉じた曲線に沿って一周するときの、磁
界が磁荷に対してする仕事は
I
~ · d~r = I
H
(9.16)
第 9 章 静磁界
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H
と書ける。ここで は電流 I を囲む閉じた曲線に沿って一周する線積分。
この関係式を
「アンペールの法則」
と呼ぶ。
アンペールの法則はビオ・サバールの法則を積分の形で表現したもの
であると言え、電気の場合のガウスの法則に対応するものである。