巨大壁面スクリーンを利用した一斉授業支援

巨大壁面スクリーンを利用した一斉授業支援システムの開発
Development of Lecture Supporting System using the Large Wall Screen
柳沢昌義
梶本奈都未
Masayoshi YANAGISAWA
Natsumi KAJIMOTO
東洋英和女学院大学
Toyo Eiwa University
<あらまし> 本研究では教室の壁全面をスクリーンとして、その一部を電子黒板化し,大学講義
等の一斉授業を支援するシステムのプロトタイプを構築した.本システムでは横 8m×高さ 2.8m の大き
さの電子壁に以下の機能をもたせた.1)コンテンツの大スクリーン表示機能 2)ソフトウェア&
ハードウェア・スポットライト機能 3)アバターを用いた携帯チャット機能 4)Web 検索機能 5)
手書き文字入力機能である.18 人の被験者による授業の実践の結果,大画面ならではのインパクト,
そして,特に壁上でのリアルタイム検索などの評価が高く,また,様々な応用案を得ることができた.
一方,大スリーン化するため,通常のプロジェクターでは明度を十分に出すことが難しく,部屋を完
全に暗くする必要があり,眠さの原因となることも分かった.今後,教室環境の改善とプロジェクタ
ーを高輝度に変更するなどの改良のほか,様々なインタフェース改善も行う予定である.
<キーワード> システム開発 学習環境 電子黒板
1.はじめに
携帯電話
電子壁 電子化教室
テムを提案・開発する.
2.システム開発の手順と概要
教育現場では長い間,授業で黒板を用い,教
壁全面サイズのスクリーンを実現するために,
師と学生の視覚情報の共有を行ってきた.一方で,
予備研究として様々な方法を模索した.
まず本シ
1950 年終盤から OHP が普及し,さらに現在では
ステムを開発する前に,モックアップシステムを
プレゼンテーションソフトを使用するように変
構築(図1)し,要件分析を行った.巨大スクリ
化している.黒板はサイズが大きく,教師が黒板
ーンでは巨大なタッチパネル部とコンテンツ表
に入り込んで講義を進めるため,教師が直接チョ
示部が必要なことや,ハード&ソフトスポットラ
ークで書き込むことで,教師の手が指示棒の役割
イト機能,学生とのインタラクションのためのチ
を果たし,かつメディアと教師の両方が学生の視
ャットシステムが必要なこと等が分かった.
野に入る.しかし,OHP やプレゼンテーションソ
その結果,プロトタイプシステムとしては図
フトの使用により,黒板に比べて、教室の片隅に
2に示すシステム構成を設計するに至った.横
配置された小さいスクリーンに教師が入り込め
8m×高さ 2.8m の壁全面のスクリーンにスライド
ず,別途支持棒やレーザーが必要となり、メディ
ショーを投影する.中央の 16:9 のメインスクリ
アと教師の分離が行われてしまった.
ーン(図2.①)と左右2つの余白となるサブス
現在ではプロジェクター性能の向上,プラズ
クリーン(図2.②③)の3つに分割し,それぞ
マディスプレイの巨大化やチューブディスプレ
れ3台のプロジェクター(図2.④⑤⑥)で投影
イ等の新技術の登場より,巨大スクリーンに授業
する.
コンテンツを投影することが可能となりつつあ
る.しかし,単に画像を拡大
表示するだけでは学生に与え
る有効な心理的効果が少ない
ため,コストが効果に見合わ
ない.そこで,本研究では,
佐藤・柳沢・赤堀(2004)が目
指した壁全面のインタラクテ
ィブ電子化教室「i-Room」構
想を実現すべく,巨大な提示
メディアと教師が融合する効
果的な提示方法及び講義方法
を実現するための現代の新し
い技術を用いた講義支援シス
図 1 本システムのモックアップシステム
左に各種授業関係のツール(次へ進む,教科書提示,チャット,学生ノート,電卓),右
は今回の授業テーマ,授業時計などが表示されている.
また,右サブスクリーン(図2.③)に
はシート型の電子黒板を使用し,さらに左
サブスクリーン(図2.②)には,別の電子
黒板ユニットを使用した.この2種の電子
黒板を使用することで,スクリーン②及び
③がタッチパネル化される.そこに,Visual
Basic for Application(VBA)を用いて作成
したコントローラ(図2.⑩,図3)を配置
し,それによりインターネットの文字及び
画像検索を行うフォーム(図2.⑫)
,授業
専用チャットシステムの起動,ソフトスポ
ットライト制御,巨大ビデオ映像の表示,
及びシステム環境の設定等ができるように
した.なお,本システムではチャットシス
テムとして服部・柳沢(2010)の学生代表ア
バターを用いた.図4に開発されたシステ
ムを使用した授業の様子を示す.
図2 プロトタイプシステム構成図
が,新しいハードウェアを用いて,全壁面の電子
3.実験
黒板化にすでに成功している.また,今回は表示
受講者 18 名の少人数授業において実際にシス
させるサブウインドウの位置及びサイズを上手
テムを利用して 90 分の授業を行い,システム評
く制御できなかったため,改良が必要である.
価を行った.本授業は中高教職課程の授業であり,
本研究により,教師の体全体を使った全身指示
教師となった場合での活用法などについても議
棒効果については実験デザイン的にも証明でき
論をすることができた.
なかったため,今後の課題である.
簡単な評価アンケート結果を表1に示す.おお
参考文献
佐藤弘毅,柳沢昌義,赤堀侃司 (2004) 受講者のフ
むね良好な評価を得られた.ただし,プロジェク
ィードバックを黒板に表示するソフトウェ
ターの輝度の関係で部屋を真っ暗にしなければ
アの開発と評価, 科学教育研究, Vol.28 No.5
ならず,それが眠気を誘う結果となった.
pp.295-305.
服部友美, 柳沢昌義 (2010) 多人数授業時におけ
表1 評価結果 (n=18 5件法)
る携帯チャット画面の共有効果に関する研
項目
平均値
究, 日本教育工学会研究報告集(JSET10-4),
pp.21-28.
興味がもてる
4.78
わかり易い
4.39
記憶に残りやすい
4.22
眠くならない
3.44
また受けてみたい
4.67
謝辞
本研究は,科学研究費基盤B(No. 20300277)およ
び挑戦的萌芽研究(No.23650552)の助成を受け
ている.
4.今後の課題
ソフトスポットライト
今回のプロトタイプシステムではメ
インスクリーン部がタッチパネルにな
っておらず,機能に制限がかかっている
チャットシステム
図3 タッチパネル対応コントローラ
メインスクリーン
コントローラ
図4 巨大壁面授業支援システム