南シナ海 - 憲法九条の会・はだの

日本はなぜ南シナ海の監視・
哨戒活動に加わるのか?
リバランス戦略・ガイドライン改定・戦争法案
2015.07.24 憲法九条の会・はだの
ミニ学習会
1. 南シナ海への自衛隊哨戒機の派遣
ロイター(15年4月29日)南シナ海の哨戒活動を防衛
省検討、米軍と協力=関係筋
米軍が自衛隊に期待を寄せる南シナ海の哨戒活動について、防衛省内で検討
が始まっていることが分かった。米軍と自衛隊が協力し、同海域での存在感を示
すことで、自国の領海として囲い込もうとする中国をけん制するのが狙い。(中略)
沖縄県の嘉手納基地に最新のP8哨戒機6機を配備する米軍は、自衛隊の哨戒
活動拡大にかねてから期待を示している。ロバート・トーマス第7艦隊司令官は今
年1月、ロイターとのインタビューで「将来的に自衛隊が南シナ海で活動することは
理にかなっている」と発言した。(中略)28日にワシントンでカーター国防長官と会
談した中谷元防衛相は、南シナ海は「地域の平和と安定に直結をするし、日米及
び地域共通の関心の問題だ」と語った。
日経新聞(15年6月21日)
海自哨戒機、南シナ海に到着 フィリピンと共同訓練へ
海上自衛隊のP3C哨戒機1機が21日、フィリピン軍との共同訓練のため、南シナ
海の南沙(英語名スプラトリー)諸島に近い同国西部パラワン島のプルエトプリン
セサに到着した。
訓練名目は災害時の人道支援や捜索救助活動。だが南沙諸島で岩礁埋め立
てを急速に進め、実効支配を強化する中国をけん制し、フィリピンとの連携の強さ
を示す機会となる。
フィリピン海軍は海自との共同訓練とは別に米軍との定期合同演習を22日から
パラワン島東沖のスルー海で実施予定。(後略)
人民網(15年6月30日)
専門家「南中国海への日本の介入は『火遊び』中日関係改善に無益」
中国社会科学院の高洪副所長は「日本は南中国海の域外国であり、南中国海の敏感な問題へ
の介入には危険があり、『火遊びの要素がある』と述べた。中国新聞網が伝えた。
6月23、24両日に日本とフィリピンの軍用機が…南中国海にある礼楽灘(英語名リード・バンク)に
2度接近した。中国外交部は「関係国が地域のいわゆる緊張を人為的、故意に誇張し、さらには作
り出すことのないように希望する」と表明した。
高氏は「日本は域外国であり、南中国海情勢を騒がすことは両国関係の改善に無益だ」と指摘。
「日本が南中国海をかき乱し、トラブルを作り出すのは、こうした活動を通じて国際社会を中国の海
洋問題に注目させ、東中国海での自らの問題を緩和するのが目的だ。また、日本は米国の『アジ
ア太平洋回帰』の重要な支点でもあり、海洋問題で日本を利用して中国を封じ込めるのは米国の
政府と軍の既定方針だ」「こうした活動は中日関係改善の大局と逆行する」と述べた。(後略
2.
南シナ海問題〜領有権紛争の歴史と
現状
日本
南シナ海にはいくつもの島嶼・
岩礁群があり、その島嶼・岩礁
①:中国
③:台湾
群を沿岸諸国が占領・開発し領
有権を争っている。一つの島嶼
東沙
西沙
や岩礁の領有は、領海と排他的
経済水域の獲得につながるので
中沙
④:フィリピン
紛争の解決は容易ではないが、
一旦は解決への道筋も見えてき
②:ベトナム
南沙
⑤:マレーシア
ていたのだが…。
⑴列強の進出と中国による領有権の自覚
前史
年代
関係国・歴史事項
15世紀
中国(明)鄭和航海図
西沙諸島
中国の文献、航路図多
数
18世紀
中国(清)更路簿
ベトナム 大南寔録
ベトナム 撫邊雑録
中沙・東沙
石里石塘
他
17、18
南沙諸島
萬里石塘
30余島(航路)
黄沙群島開発
70余島(航路)
長沙海渚探検
萬里長沙、南澳気
列強の進出と中国(その1)
年代
関係国・歴史
事項
西沙諸島
南沙諸島
中沙・東沙
1887
清仏国境画定協定(仏のインドシナ支配)→陸上国境の東端、東経
108°3′13″より東側の島を中国領、西側の島を仏(ベトナム)領と規定
1898
米西戦争の講和パリ条約3条でフィリピンの領域を画定。南沙も中沙も領
域外
3条…(フィリピンの領域を決める)線は次のように引かれる。北緯20°を西
から東にとって、東経118°から127°へ線を引く。そこから東経127°に
沿って北緯4°45′へ、さらに北緯4°45′に沿って東経119°35′との交点に
線を引く。そしてそこから東経119°35′に並んで北緯7°40′へ、そこから北
緯7°40′に沿って東経116°との交点へ結ぶ。そこから直接の線で北緯
10°と東経118°との交点へ。そしてそこから東経118°に沿って最初の
点(東経118°、北緯20°)へ線は引かれる。
1898年 米西(スペイン)戦争の 講和パリ条約でフィリピンの領域を画定
東沙
1887年
清仏国境画定
協定
西沙
E:118°
E:127°
N:20°
パリ条約による
フィリピンの領域
中沙
N:10°
南沙
N:7°40‘
E:116°
中沙も南沙も領域外
E:119°35’
N:4°45‘
列強の進出と中国(その2)
年代
1909
関係国・歴史事
項
中国
1913
中日島嶼引渡取
決
1917
中・日
1930
〜34
1937
1938
仏
1937
〜45
日
1945
西沙諸島
南沙諸島
西沙群島籌辨處設立
東沙(プラタ
ス)中国へ引
渡す
中国領と確認、日本
人開発中断
西沙群島領有主張
西鳥島占領
南沙群島占領
日
海軍が占領
西沙群島編入
アジア太平洋戦
争終結
中沙・東沙
長島(太平島)上陸新
南群島、台湾編入
日中戦争からアジア太平洋戦争へ
南シナ海諸島支配
日本敗戦で占領終結
⑵中国の復権とサンフランシスコ平和条約(戦後処理)(その1)
年代
関係国・歴史事項
1943
米国:戦後処理の検討
1944
西沙諸島
南沙諸島
中沙・東沙
領土小委員会検討文書:
「新南群島は1898年のパリ条約で設置されたフィリピンの国境外にあることは明白」
部局間極東地域委員会:
「米国は自国のためにもフィリピンのためにも当該諸島に対して権利を主張したことはない」
同委員会「西沙諸島について」「仏より中国の主張の方が歴史的正統性は高い」
1945
1946
中(中華民国):気象局
西沙群島接収
〃:南海諸島接収方針
永興島へ軍上陸
双子島、南極島、中
業島接収
気象局東沙接収
⑵中国の復権とサンフランシスコ平和条約(戦後処理)(その2)
年代
関係国・歴史事項
西沙諸島
南沙諸島
中沙・東沙
1946
1947
仏
パラセル(西沙)占領
仏⇔中:仏、西沙はベトナム領と宣言、永興島軍艦派遣⇔中、撃退
1947
中
南海特別行政区設置
1947
中
〃
広東省に編入
U字線(伝統的帰属線)設定
1950
中国(人民共和国)
1950
仏・ベトナム
1951
サンフランシスコ平和条約:「日本は西沙諸島ならびに新南群島に対する全ての権利を
放棄する」 → 帰属を決めなかったのは「紛争の種」→新規参入国を加えた領有権争い
中国、台湾は講和会議に招待されず、ソ連は署名しなかた。
中:周恩来声明「全ての南沙、中沙、東沙、西沙諸島…はこれまでずっと中国領であった。…南沙、
西沙諸島に対する中華人民共和国の侵すことの出来ない主権は対日平和条約の米英案で…どの
ように規定されようが何ら影響を受けるものではない。
永興島へ軍派遣
南海諸島主権声明
西沙、南沙の主権をベトナムに委譲
⑶沿岸国の紛争参入(以下以外にブルネイが南沙の南通礁を主張)
ベトナムを中心に
年代
1956
1956
1956
関係国・事件・事項
西沙諸島
南沙諸島
南ベトナム
仏から引き継ぎ一部島嶼接収
〃:南沙群島に対する主権声明⇔台湾:抗議声明
台湾
太平島再占領
1956
1957
南ベトナム⇔中国
〜
1974
甘泉島占領
永楽諸島上陸
中国漁船銃撃、拿捕、
破壊、砲撃頻発
中・台の主権声明頻発
中:米の領空侵犯非難
1971
南ベトナム
鴻麻島占領併合
1974
南ベトと中国軍事衝突
1975
ベトナム(民主共和国)
南ベトナム占拠
の各島接収
1985
ベトナム
安邦島に滑走路
中国の西沙全域支配
中沙・東沙
台湾支配の島嶼
年代
関係国・事件・事項
1956
フィリピン人占拠に対し再占領
1971
気象レーダー
東沙島に設置
観光開発
東沙環境公園
南沙諸島
中沙・東沙
太平島
1994 飛行場建設
フィリピンの紛争参入
年代
1956
関係国・事件・事項
フィリピン人:無主地発見と主張
1968
1971
フィリピン
中業島など数島占領・併合
南ベトナム:フィリピンに対して南沙の主権を通告
中国解放軍参謀長:南沙は中国領土と発言
フィリピン、マルコス大統領:「フィリピンが占領したのは南沙群島以外の島嶼。
南沙の領土権は侵害していない」
フィリピン
礼楽灘で海底探査秘密協定
フィリピン
雙黄砂州占領
フィリピン:カラヤーン群島宣言
カラヤーンをパラワン省編入
200海里水域宣言
パラワン島一帯に飛行場
フィリピン⇔マレーシア
マレーシア占拠のリスカ島に再上
陸
フィリピン⇔中国
黄岩島などで
中国旗撤去
中国漁船に発砲・拿捕・射殺
中国漁船拿捕・
発砲
1976
1978
1980
1997
〜
1999
南沙諸島
一部島嶼をカラヤーン群島と命名
中沙諸島
マレーシアの参入
年代
関係国・事件・事項
南沙諸島
1974
マレーシア
弾丸礁占領
1979〜
マレーシア
海底油田探査着手
1988
〃
フィリピンや台湾漁船拿捕
1991〜
1999
マレーシア:観光開発
フィリピン抗議→マレーシア拒否
⇔ フィリピン、台湾、中国
弾丸礁にリゾート・ホテル、滑走路、国王訪問
建設工事、資源開発遂行
⑷ASEANと関係国による紛争解決への努力と米国の再登場
年代
関係機関・関係国
内容・事件・事項
インドネシア主導、潜在的紛争を地域協力で解決を
1990
ASEAN(学者研究者)非公式会議
1992
ASEAN+(前年の第2回会議から中国、6項目の共同声明
1 領土権、支配権棚上げ → 協力地域を形成
台湾、ベトナム参加)非公式会議
2 航行、通信の安全、捜索救助の調整、生物資源保護と合法
的利用の促進等協力
3 領土要求で対立→情報交換、共同開発協力の可能性
4 領土・支配権の対立→平和的手段で解決を
5
〃
→解決へ武力行使をしない
6 紛争当事国に状況複雑化する行動を控えるよう勧奨
1992
ASEAN外相会議(ベトナム参加)
南シナ海共同宣言:紛争の平和的解決を
1992
中・フィリピン外相会談
南沙の共同開発方針合意
1995
中・台
気象研究の共同実施
1995
ASEAN
武力行使と領土の現状凍結を柱とする行動基準提示
1995
中・フィリピン協議
フィリピン、ラモス大統領
武力行使・威嚇の自粛について合意、共同声明
多国間信頼醸成の枠組み形成を提案
⑷ASEANと関係国による紛争解決への努力と米国の再登場
年代
関係機関・関係国
内容・事件・事項
1996
ASEAN外相会議
中国:各国との話合いに応ずる
議長声明:「平和的解決」を呼びかけ
1997
中・フィリピン外相会談
無害航行の原則適用確認
1997
ASEAN・中国首脳会議
領有権問題の平和的解決を合意
1999
中・フィリピン
信頼醸成第一回会議
1999
中・マレーシア首脳会談
平和的解決に合意
1999
中・ベトナム
領有権問題棚上げ・トンキン湾の領海画定合意
2002
ASEAN+中国:南シナ海各行動宣 紛争の解決に先立ち(領有権棚上げ)協力、平和解決
言
2003
ASEAN首脳会議+中国
東南アジア友好協力条約調印
2005
フィリピン、中国、ベトナム
三ヶ国の国営石油会社、共同で海底探査実施合意
⑷ASEANと関係国による紛争解決への努力と米国の再登場
年代
2011
関係機関・関係国
アメリカ
内容・事件・事項
オバマ大統領、オーストラリア議会でリバランス発表
2012
ASEAN首脳会議へ米・ロ参加
ボイス・オブ・アメリカは「議長国カンボジアは南シナ海
問題を調整すべき」「だがカンボジアはそう望んではいな
い.それは中国が圧力をかけているからだ」(人民網
2012.6.15)
議長国カンボジアとフィリピン・ベトナムが対立。共同声
明出せず。
「2つの国が、二国間領土争いである南シナ海問題を…
共同声明に直接明記しなければ賛同しないという立場を
とったからです」「ASEANは(どちらかの)サイドをとるべき
ではありません。…今まで…共同声明は…特定の島や地
域を述べることはありませんでした」「二国間争いについ
てどちらが正か悪かを判断する裁判所ではありません」
「カンボジアは争いが深まることを抑える努力をしました。
…関係国が、将来、交渉する余地を残そうと考えるからで
す」
フィリピンのパラワン島基地使用
新軍事協定調印
ASEAN外相会議
カンボジア大使館説明
2013
2014
アメリカ
アメリカ・フィリピン
*ASEAN南シナ海各行動宣言は、紛争の管理と関係国の
協力を通して、長期的に紛争の平和的解決を
はかろうとするものであり、紛争当事国もそれに沿う動き
を始めていた。
*
しかし他面で、当事国は施設の建設、軍事駐留、他
国船の排除などで実効支配を強めようともしていた。
*2011年にアメリカがアジア回帰して以来、紛争当事国の
対立が深まってきたように見える。
3. アメリカのリバランス戦略と改定日米防衛指針
⑴ アメリカのリバランス戦略
① アメリカ国防計画(ウォルフォウィッツ・ドクトリン)
ニューヨーク・タイムス1992年3月8日号が政府機密文書の草稿を暴露したことか
ら知られ、冷戦後のアメリカの世界戦略を通底していると考えられるアメリカの国防
計画。責任者ウォルフォウィッツ国防次官の名をとってウォルフォウィッツ・ドクトリ
ンとも呼ばれる。以下抜萃(武意訳)
「合衆国戦略計画 ライバルの登場を許さない宣言
最終草稿段階の政治宣言では…冷戦後の時代の米国の政治と軍の任務は、西
欧、アジア又はソ連の後継領域においてライバルとなる超大国の出現を許さない
ことを主張している。…
機密文書は一つの超大国によって支配される世界を造り出す。その超大国の地
位は…それに挑戦することを国家や国家群に思いとどまらせるに足る能力をもっ
た軍の力によって不滅になる。…
ペンタゴン文書は…五大国が作り上げたところの、紛争を和解させ、暴力の出現
を取り締る国連、その集団的国際主義の約束を拒絶する、とはっきり述べている。
…この戦略目標の継続は…必要があれば北朝鮮、イラク、いくつかのソ連の後
継国、欧州で、核兵器やその他の大量破壊兵器の拡散を防止するために軍事力
を行使することを強い調子で説いている。…『我々の核戦力は復活したか、あるい
は予測できなかったグローバルな脅威の可能性に対する重要な抑止力を提供す
る。同時に報復の脅威によって第三国による大量破壊兵器の使用を思いとどまら
せている』と米国の核兵器の役割を正当化している。…
…米国の核戦略兵器は旧ソ連軍の装置を対象にし続ける。欧州にグローバルな
ミサイル防禦システムの『早期導入』を求めている。…『欧州拠点の核攻撃機の撤
退を任意に考えるべきではない』と述べ……ロシアから旧ワルシャワ条約機構加
盟国を守るために明示的な関与をしている。…東アジアでは『我々は最大の軍事
力としての地位を維持しなければならない』『これは力を均衡させることで地域の
安全と安定に寄与し、地域覇権国の出現を阻み続けることを米国に可能にする』
…
…ペンタゴンから漏れてくる文書によれば、冷戦後の米軍の使命の重要部分は、
『重要な役割を果たそうと望む必要がない潜在的な競争者、それらを圧倒すること
による』。こうしてライバルとなる超大国の出現は許されないのである。」
② リバランス戦略(アジア太平洋への旋回)
・ クリントンの「米国の太平洋の世紀」(フォーリン・ポリシー2011年11月号、米大使館訳)
「今後10年間の米国の国政における最も重要な目的の一つは、外交、経済、戦
略などの面でアジア太平洋地域への投資の大幅な増加を確実にすることである。
……『前方展開』外交…『外交資産』をアジア太平洋地域のあらゆる国や地域へ…
送り続ける。
(詳細は、別紙資料1参照)
・ オーストラリア議会でのオバマ大統領演説(2011年11月17日) ( )内は引用者
…「この10年の2つの戦争を戦った後、米国はアジア太平洋地域の大きな可能性
に、その関心をシフトしている。…この地域は世界で最も急成長している地域であ
り、世界経済の半分以上を占めている。…
…私は米国の大統領として慎重かつ戦略的な決断をした。それは、米国は太平
洋国家として核心的諸原則を堅持し、同盟国や友好国との緊密なパートナーシッ
プの下、この地域とその将来を形作るために、より大きなかつ長期的な役割を果
たしていくというものである。…
…国防予算のある程度の削減が(なされるなか)…アジア太平洋地域における
我々のプレゼンスを最優先課題とするように指示した。…
…我々は、この地域において強力な軍事的プレゼンスを維持するために必要な
資源配分を行う。…オーストラリアのような同盟国に対して、条約上の義務を含め
たコミットメントを維持する。…この地域において我々が永続的な利益を保つため
には、この地域における我々の永続的なプレゼンスが必要となる。米国は太平洋
国家であり、ここに留まるつもりである。…
事実、我々はアジア太平洋地域にまたがる米国の防衛態勢を既に近代化しつ
つある。それは日本及び韓国における強力なプレゼンスを維持しながら、東南ア
ジアへのプレゼンスを強化するという、より広範な米軍の配備態勢となろう。…多
くの訓練と演習の実施を通して、同盟国やパートナーの能力構築を支援すること
で、我々の態勢は一層持続可能なものになる。…
…同盟関係にも米国の強化されたプレゼンスは確認できる。日本(との)同盟は
…地域安全保障の礎石。タイでは災害救助(で)提携.フィリピンでは船舶の訪問
と訓練の機会を増やしている。そして…韓国の安全保障のための我々のコミット
メントは決して揺るがない。…
また東南アジア全域においても、米国のプレゼンスの強化を確認できる。インド
ネシアとは海賊対処…。シンガポールに艦船を展開…。また…既存の地域機構に
改めて関与していく。今週のバリでの会議は私にとってASEAN首脳との3回目の
会議であり、また私は東アジアサミットにはじめて参加する米国の大統領となる。
そして我々は共に、南シナ海での協力を含め、核拡散問題や海洋安全保障問
題に…取組む。
…(中国に対して)我々は、国際的な規範を守ること、中国の人々の普遍
的人権を尊重することの重要性について北京に率直に訴え続けるが、同
時に協力の機会も模索し続ける…
…我々は、自由で公正な貿易を求める…開かれた国際的経済システムを
求める。…米国は、全ての国々に機会を与えるような経済的連携を構築し
つつある。韓国との歴史的貿易協定…TPPを達成する途次にある。…21世
紀のアジア太平洋地域に米国は全面的に関与していく。…」
* このオバマ大統領のオーストラリア訪問時に、米国とオーストラリアは、
アジア太平洋地域の安全保障の強化を目的とした軍事協力拡大を発表し
た。
北部のダーウイン基地に米国海兵隊2,500人をローテーション展開
米軍機のローテーション配備、装備品、補給物資の事前集積、米豪空軍
の緊密な協力
③ 米国国防戦略指針
「米国の国際的な指導力の維持—21世紀の国防の優先順位」2012年1月5日
抜萃
「挑戦的でグローバルな安全保障環境
「…米軍は必然的にアジア太平洋地域に向けて再編していくであろう。…
我々は…既存の同盟国を重視する。…また…新たなパートナーとの協調関係を
進展させる。
…中東では…湾岸での安全保障を重視し…必要があれば湾岸協力会議各国の
協力を得てイランの核開発の進展を阻止し…イスラエルの安全保障(などのた
め)米軍及び同盟軍のプレゼンスや、同地域及び周辺のパートナーからの支援
を重視する。…
欧州では…NATOへの支持・強化・存続に絶えず関心を払っている。
現在、殆どの欧州各国は安全保障の受益者ではなく提供者である。…これ
が…在欧米軍を再編するという戦略機会をもたらした。…(ただし)変化があれ
ば在欧米軍の態勢もまた呼応する。…
…アフリカやラテンアメリカ諸国を含む多くの国家との連携を追求する。…可
能ならば、我々の安全保障の目的を達成するために演習、ローテーション・
プレゼンス、アドバイザー能力により革新的で低コストの小規模のアプローチ
を発展させる。
米軍の任務
…
c.アクセス阻止/エリア拒否(A2/AD=Anti-Access/Area Denial)
…米国は我々のアクセスや作戦の自由が侵されたエリアへの戦力投射能力を維
持しなくてはならない。これらのエリアはでは、精強な敵は電子戦・サイバー戦・
弾道弾及び巡航ミサイル・先進的な防空能力・地雷(などの)非対称戦能力によ
り、我々の作戦立案を複雑化させるだろう。…中国やイランのような国家は我々
の戦力投射能力に対抗する非対称戦能力の獲得を追求するだろう。従って、米
軍はアクセス阻止/エリア拒否(A2/AD)下でも効果的な作戦能力を確保するた
め必要に応じて投資する…これはJOAC(注1)の遂行、水中戦能力の維持・新型ス
テルス爆撃の開発・ミサイル防衛の改良・宇宙配備戦力の対障害弾力性有効性
の強化を含む。…
米軍の任務
…
f.安全、確実で効果的な核抑止力の維持
…如何なる状況下でも敵との対峙が可能で、彼らが受け入れがたい損害を予想
する核戦力を配備する。…」
注1 JOAC(Joint Operational Access Concept)は統合作戦アクセス概念とも言う。
米国の敵対国がA2/AD能力を獲得していく状況に対処するために、陸・海・空、
宇宙、サイバー空間の中から状況に応じていくつかの次元で優位を保ち、それ
によって他の次元での弱点を相殺し、作戦に必要な行動の自由を確保するとい
う概念。JOACの下位概念のエアーシーバトル構想では通信ネットワークを強化し、
外縁部から中心部へ攻撃を進める従来型の作戦とは異なり、遠距離攻撃能力
を駆使し深奥部(センサー類、情報、司令系統のなど)を早期に攻撃する作戦。
⑶ 日米防衛指針再改定へ
① 第3次アーミテージ報告 :CSIS(国際戦略研究所)2012夏 日本講座報告書
アーミテージ(ブッシュJr政権で国務副長官)とジョセフ・ナイ(クリントン政権の国
防次補、ハーバード大教授)による3回目の対日提言。エネルギー安全保障、経
済と貿易等いくつかの課題に付いて情勢と問題を示し、最終的には日本と米国、
日米同盟への提言がなされている。
(IWJ山崎淑子和訳監修より抜萃)
近隣諸国との関係 日米韓関係を再興するために
…重要なのは日米韓関係の強化である。
…北朝鮮の核兵器開発を抑止し、また中国の再台頭に対処する最適な地域環
境を整えるために… 大いに必要とされている3国間の協力は、短期的な不和に
よって進展を妨げられている。…日本が、韓国との関係を悪化させ続けている歴史
問題に向き合うことが不可欠である。…慰安婦の記念碑を建立しないよう働きかけ
る日本政府のロビー活動のような政治的動きは…戦略的優先事項に目が向かなく
なるだけである。…
① 第3次アーミテージ報告(続)
新しい安全保障戦略に向けて
地域的防衛連携
…東京(注:日本の意)はASEAN、ASEAN地域フォーラム…などと同様に、特に
インド、オーストラリア、フィリピン、台湾などの民主的パートナーとの連携
維持に務めるだろう。
…今日では、日本の利害地域は…遠く南へ、さらには遥か西の中東まで拡
大している。我々は戦略を十分に再定義し実行手段の調整を行うべきであ
る。今後の新たな見直しでは…より広範な地理的範囲を含めるべきである。
① 第3次アーミテージ報告(続)
防衛戦略:同盟の相互運用性に向かって
…新たな役割と任務の見直しにあたっては、…地域の緊急事態における米国と
の防衛を含めた日本の責任範囲を拡大すべきである。…中国は…東シナ海の
大半、実質的な全南シナ海(へ進出しており)、これは北京による第一列島線
(日本、台湾、フィリピン)、もしくは北京が考える『近海』全体に対しての、より強
大で戦略的な影響を与える意志を示している。これらの…
接近阻止・領域拒否(A2/AD)という挑戦に対し、米国はエアーシーバトルや
JOACなどの新たな作戦構想へ取組み始めている.…米国海軍と海上自衛隊
(の)より強大な連帯と両国における部局横断的な相互運用性及び両国間の
相互運用性を明確に必要としている。…
① 第3次アーミテージ報告(続)
同盟防衛協力の潜在力が増加した2つの追加地域はペルシャ湾での掃海作
業と南シナ海の共同監視である。…日本は単独で掃海艇を派遣すべきである。
南シナ海における平和と安定は特に、特に日本にとって大変重要な…同盟利
害である。…安定と航行の自由を確保するために米国と協力して監視を増強す
ることは日本が関心を示すところである。…日本の活動領域を十分に拡張させ
…また相互運用性のある情報・監視・偵察(ISR)能力と作戦が必要である。…
…東京は…防衛上の秘密と秘密情報を保護するために防衛省の法的能力を向
上させるべきである。
集団的自衛の禁止
「…集団的自衛の禁止は同盟の障害である。…」
冒頭、指摘したように、最後は日本と日米同盟、米国への提言となってい
る。提言は資料2を参照。
*米国は、東シナ海は日本と韓国、南シナ海は日本とオーストラリア、インド
洋はオーストラリアとインドとそれぞれ協力することでパワーバランスを優
位に保とうと構想していると言われる。
*A2/AD打破の作戦では、敵の深奥部を遠距離攻撃で一気に撃破するた
め、情報・監視・偵察(ISR)が重視される、日本がその一翼を担うことが期
待されている。
② 日米防衛指針(ガイドライン)再改定と安保法制案
4月27日に再改定された日米防衛指針は、日本の防衛に関わって平時か
ら有事までのあらゆる事態に切れ目なく対応し、日米がアジア太平洋地域を
はじめ世界規模に展開する同盟であることを強調している。
以下指針の要点と指針の柱立てに対応する安保法制の法案を抜萃列記。
Ⅰ.指針の目的
・平時から有事まで、日本の平和と安全を切れ目なく確保。アジア太平洋とこれ
を越えた地域の安定に寄与
Ⅳ.日本の平和・安全の切れ目ない確保
★平時、グレーゾーン
・情報収集、警戒監視・偵察(ISR)
・海洋安全保障→海洋値秩序を維持するため…自衛隊と米軍は…ISR及び訓練・
演習を通じ日米両国のプレゼンスの維持、強化
★日本の平和・安全に対して発生する脅威への対処 ⇒ 重要影響事態法(周
辺事態法改正)案
日本の平和・安全に重要な影響を与える事態…地理的に定めることはできない。
・海洋安全保障…日米両政府の情報共有、船舶検査など
・後方支援…補給、整備、輸送、施設、衛生を含むが、これに限らない
★日本に対する武力攻撃への対処
・陸上攻撃に対処…自衛隊は島嶼を奪回するための作戦を実施、水陸両用
作戦及び迅速な展開
★日本以外の国に対する武力攻撃への対処 ⇒ 自衛隊法改正、武力攻撃
事態法改正
自衛隊は、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これ
により日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底
から覆される明白な危険がある事態に対処し、日本の存立を全うし、日本の国
民を守るため、武力の行使を伴う…作戦を実施
・海上作戦…機雷掃海、艦船防護、敵に支援を行う船舶活動の阻止
・弾道ミサイル攻撃に対処…弾道ミサイル迎撃において協力
・後方支援…日米両政府は、中央政府及び地方公共団体の権限・能力、民
間の能力を活用
Ⅴ.地域及び世界の平和・安全のための協力 ⇒ 国際平和支援法案
★国際的な活動における協力
・パートナーの能力構築支援
・情報収集、警戒監視、偵察(ISR)
・後方支援
★三か国及び多国間協力…日米両政府は三か国及び多国間の安全保障防衛協力
を推進
Ⅵ.宇宙及びサイバー空間における協力
Ⅶ.その他日米共同の取組
★防衛装備・技術協力…相互運用性を強化
★情報協力・情報保全…秘密情報の保護に関連した政策、慣行、手続きの強化
③ 日米防衛指針再改定に伴う共同声明・記者会見
(4月27日 岸田、中谷、ケリー、カーター)
ア.共同声明「変化する安全保障環境のためのより力強い同盟」(外務省訳)
「1. 概観
…米国はアジア太平洋地域へのリバランスを積極的に実施している。核及び
通常戦力を含む…軍事力による、日本の防衛に対する米国の揺るぎないコミッ
トメントがこの取組の中心…。
…米国は、日本の最近の重要な成果を歓迎し、支持する。これらの成果には、
…2014年7月1日の閣議決定、国家安全保障会議の設置、防衛装備移転三原
則、特定秘密保護法、サイバーセキュリティ基本法、新『宇宙基本計画』及び
開発協力大綱が含まれる。…
閣僚は…尖閣諸島が日本の施政の下にある領域であり、…日米安保条約第
5条の下でのコミットメントの範囲に含まれ…
同諸島に対する日本の施政を損なおうとする…一方的な行動にも反対する。
2. 新たな日米防衛協力のための指針
…米国は、日本の『積極的平和主義』の政策及び2014年7月の閣議決定を反
映する当該法制を整備するために現在行われている取組を歓迎し、支持する。
…
3. 二国間の安全保障及び防衛協力
…現代的かつ高度な米国の能力を日本に配備することの戦略的重要性を確
認した。…閣僚は、米海軍によるP-8哨戒機の嘉手納飛行場への配備、米空軍
によるグローバル・ホーク無人機の三沢 飛行場へのローテーション展開、改
良された輸送揚陸艦であるグリーン・ベイの配備及び2017年に米海兵隊F-35B
を日本に配備するとの米国の計画を歓迎した。…2017年までに横須賀海軍施
設にイージス艦を追加配備するとの米国の計画、…本年後半に空母ジョージ・
ワシントンをより高度な空母ロナルド・レーガンに交代させることを歓迎した。
弾道ミサイル防衛(AMD)能力の向上…特に2014年12月のAN/TPY-2レーダー
(Xバンド・レーダー)システムの経ヶ崎への配備…2017年までに予定されてい
る2隻のBMD駆逐艦の日本への追加配備の重要性を強調した。…
日本の新たな防衛装備移転三原則、及びF-35の地域における整備・修理・
オーバーホール・アップグレード能力の日本での確立に係る最近の米国の決
定に示された、後方支援及び防衛装備協
力の拡大を賞賛した。
4. 地域及び国際的な協力
…東南アジアでのパートナーに対する能力構築における…緊密な連携。
特に韓国及び豪州並びに東南アジア諸国連合等の主要なパートナーとの
三か国及び多国間協力の拡大。閣僚は、北朝鮮による核及びミサイルの脅
威に関する韓国との三者間情報共有取り決めの最近の署名を強調し…三か
国協力の拡大のための基盤として活用していくことを決意した。閣僚は、日米
豪安全保障・防衛協力会合を通じ…豪州とのより緊密な協力を追求…意図を
確認した。…」
イ。共同声明発表に係る記者会見(ア.に引き続く口頭発言、質疑への回答)
(中村訳)
岸田外務大臣:…南シナ海における現在の状況に関連して、我々は再び法の支
配の重要性について認識を共有し、国際社会と協力して様々な施策を推進して
いきます。…
在日米軍の再編に関しては、両政府は、辺野古に普天間代替施設を建設する
計画が、普天間のMCAS、米海兵隊航空基地の継続使用を回避する唯一の解
であることを再確認しました。…
中谷防衛相:省略
質問:…どのように、南シナ海における課題に対処するために同盟を…位置づけ
ることができますか?…
中谷防衛相:…南シナ海をめぐる問題に関して、それは直接にこの地域の世界
の平和と安定に関連しています。だから、これは両国のための共通の関心事で
す。…
質問:…新しいガイドラインが実質的に中国に向けられたものであると何故考
えてはいけないのですか?…新しいガイドラインは…グレーゾーンに対してよ
り良く対処する方法があるか、またそれらがこの地域での積極的な行動から
中国を抑止することができるのか…
カーター国防長官:…具体的に中国を狙ってはいません。…北朝鮮よる挑発
的な行為に対する抑止力があります。…中国に関しては、南シナ海における
中国の行動は、一例として、米国とパートナーになるという願いを促すような
ものとして地域の国々から受け取られています。…
私たちは…地域のすべての国々とパートナーになりたいと思っています、そし
てそれは中国を含み(ます)…
質問:…南シナ海に関する日米防衛協力をどのように進めるつもりですか?…
米国側は南シナ海で(・・・聞こえない)監視を期待しています。それは日本と米
国が共同で行うことになるのだろうか?…
中谷防衛相:…日本と米国は、海洋安全保障に関する協力をするでしょう。…南
シナ海に関する問題については、明日、カーター長官と一緒に私たちは相談す
るでしょう。そして平和と安定のために、これは直接関連しています。だから、こ
れは日本と米国の両方にとって懸念事項です。…
* 防衛指針は抽象的に書かれているが、共同声明になると現実に起こってい
る問題が具体的に取り上げられる。日本政府の、この間の施策と安保法制
(案)の国会提出まで評価され、新鋭兵器の配備など具体的であり、その配備
からはA2/AD打破のもくろみが見て取れる。
* まして記者会見となると話題となっている問題も取り上げられる。普天間・辺
野古や南シナ海の問題などである。南シナ海問題では日本側の発言の方が、
より反中国のニュアンスが感じられる。
☆ 以上の文脈のなかで安保法=戦争法制定に先
立って、冒頭の自衛隊哨戒機の南シナ海派遣は、なされ
たものである。
☆ A2/AD→情報・監視・偵察(ISR)→最新精密兵器→
敵の深奥部への攻撃。こうした軍事的対抗のなかに、集
団的自衛権行使を容認する安保法制=戦争法を制定し
て、日本が係っていくということは、どういうことを意味す
るのだろうか。