小型犬の脳炎に要注意

第 22 回 治療実践編:その 11
小型犬の脳炎に要注意
渡辺 直之 渡辺動物病院
てんかんの治療開始時期について2回にわけてお話し
ましたが、これは基本的にてんかんに対する治療である
■ 脳炎はすべての年齢に起こりうる
ことを忘れないでください。つまり、症候性てんかんと
脳炎は比較的若い犬での発症が目立ちますが、5歳
呼ばれる脳疾患に対する治療は抗てんかん薬療法とは別
を越えても起こりますし老齢犬にも起こりますので、
に必要だということです。
すべての年齢で起こると解釈してください。その中で
も発症しやすい犬種があります。つまり、パグ脳炎に
■ 増大している小型犬脳炎
代表されるパグを筆頭にチワワ、パピヨン、マルチー
今回の内容は最近増えてきている小型犬の脳炎の話
ンド、シーズー、ペキニーズなどの小型犬種や柴犬、
です。1995 年に日本でもパグ脳炎の報告
(筆者)
があり、
雑種などです。またジステンパー脳炎はすべての犬種
当院で約5症例ほど診察する機会がありました。実は
で起こります。性差はありません。
その間にも小型犬のてんかんと診断した症例で脳炎を
犬の臨床的に多く認められる犬の脳炎には犬ジステ
持っていた症例が数例ありましたが、ここ数年で同じ
ンパーウイルス脳炎、壊死性髄膜脳炎、壊死性灰白質髄
ような症例をかなり経験してきています。
膜脳炎(ヨークシャー・テリアの壊死性脳炎)
、肉芽腫
ズ、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・ダックスフ
性髄膜脳炎(眼型・焦点性・多焦点性)があります。こ
この話をする理由は、てんかんと診断された小型犬
こでは簡単に説明します。詳細は既存発刊物から各脳炎
の発作が、実は脳炎に起因している例があるというこ
の特集が出ていますのでそちらを参考にしてください。
とを認識して頂きたかったからです。脳炎に罹患した
通常、発作を起こす場合には大脳・間脳に病変があ
症例に抗てんかん薬療法を行ってもなかなか発作をコ
ります。逆に発作を伴わない神経学的徴候となると、
ントロールすることは難しいのです。そのうちに発作
脳幹や小脳に病変があります。各脳炎ではそれぞれ病
以外の神経学的徴候が認められてきますが、その症状
変部位に特徴が出る場合があります。
が何を意味するのかわかっていないと抗てんかん薬の
副作用ではないかと考えたりすることになります。最
■犬ジステンパーウィルス脳炎(CDVE)
終的にてんかん重積状態になって昏睡へ、あるいはそ
多病巣へと進行します。また、中枢神経系すべてが
のまま昏迷・昏睡状態となり死亡するという結末を迎
発症部位となりますので大脳、脳幹、小脳、脊髄と神
えてしまうわけです。
経学的徴候は多病巣性となります。そして脱髄病変が
つまり、脳炎に対する治療をするために積極的な診
主体となります。ですから空洞化病変や萎縮を起こす
断をしていく必要があると断言します。早期に発見で
ことになります。私の経験した症例で考える CDVE は
きれば脳炎の進行を食い止めることができますから、
発作以外の神経学的徴候を認めない場合、無治療でも
病変が広がらないうちに脳炎の治療と抗てんかん薬療
よくなる場合があります。多病巣性の CDVE は後遺症
法を併用することが重要なのです。
が残る場合が多いと感じています。
脳炎の治療を行なわないと半年から1年の間には悪
化あるいは死亡してしまう症例がほとんどですが、初
■壊死性髄膜脳炎(NME)
期から診断治療ができれば2∼3年以上生存させるこ
主に大脳ですが、脳幹部に病変を起こすことがあり、
とが可能(当院例および文献)なのです。
この場合は急性症状となり多くは早期に死亡します。
※ NJK は、みなさんで作る雑誌です。症例紹介、御質問、御意見をどしどしお寄せください。応募、質問方法は投稿フォームを御覧ください。
Jul 2008
やはり脱髄病変ですので大脳の病変部は時間の経過と
現れます。焦点性の GME は名前の通り孤立性の病変
ともに空洞化病変となります。
ですので、病変が現れた部位の神経学的異常が認めら
れることになります。多病巣性は病変が2個以上多発
■壊死性灰白質髄膜脳炎(NLE)
した場合です。壊死性脳炎と違う点は脱髄病変ではな
ヨークシャー・テリアに起こるパグ脳炎ですが、間
く肉芽腫が脳にできる、つまり mass 様の病変という
脳(視床)に病変が出ることが特徴的で大脳病変も同
ことになりますので、腫瘍に類似した占拠性病変とも
時に起こります。これも同様に脱髄病変です。
言えます。
■肉芽腫性髄膜脳炎(GME)
最後に再発性発作を主徴とする、主に小型犬へのア
3つのタイプがあり、眼型は初期に視神経炎を起こ
プローチを箇条書きにしてみました。参考にしてくだ
しますが、進行性網膜萎縮等の眼疾患との鑑別が非常
さい。また、脳炎に関する治療については次回お話し
に難しいと言われています。時間の経過と共に多病巣
ます。
性へと広がっていきますので、盲目以外の神経症状が
再発性発作を主徴とする、主に小型犬へのアプローチ
・シグナルメントとして以下の犬種に注意
パグ、チワワ、パピヨン、マルチーズ、ヨークシャー・テリア、ミニチュア・ダックスフンド、
シーズー、ペキニーズ、ジャックラッセル・テリア
・年齢:若齢から老齢犬
・性差:なし
・診断手順としてのスクリーニング検査およびウイルス検査は必須
※この時点でオーナーには画像診断と併せて CSF 検査の必要性を説明する。
・MRI による画像診断を勧める(なるべく早期に)
・CSF 検査:抗アストロサイト抗体の判定
※ NME or NLE or GME と診断されたら免疫抑制剤と抗てんかん薬療法の開始。
※ M RI・CSF 検査の希望がなければ月1度の検診を勧める。また発作頻度を判定して抗てんか
ん薬療法を開始する。
・発作以外の神経学的徴候の有無:最低月に1回は神経学的検査を実施
渡辺 直之(わたなべ・なおゆき)
最近のマイブームはギターの改造です。画像は私が 20 歳の時に借金して購入した Greco の SE1200 です。ラッ
カー仕上げのボディを剥いで白地に赤・濃紺・水色のマルティニカラーに仕上げ、ネックをスキャロップド(指
盤の溝が深くなります)仕上げに、ピックアップとピックガードを変更、そしてトレモロブリッジを変更し見
事な変身をとげました。実は2本目の改造もやってしまいましたので次回にお見せします。
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Jul 2008