写真のプロセス 感光材料の種類

歯学部 2 年生・編入 3 年生講義 生体理工学 II 写真理論・放射線技術
写真のプロセス
写真のプロセスは基本的に「光・X線などの放射エネルギーの変調(波長・強度・位相の
変化)によって、対象となる物体(被写体)から発する空間的な分布を持った情報信号(映
像)を、フィルムなどの感光材料で把握(検知・変換・蓄積)した後、それを化学的(また
は物理的)に処理して、安定な再生画像をつくる方法である」
光・X線などの
被写体または
放射エネルギー
被検体
撮影・露光
感光
感光材料
(入力)
変調エネルギー
透過・反射
カメラ
現像・定着
潜像
画像
(検知・変換・蓄積) (増幅・固定)
(記録・表示)
感光材料の種類
利用形態
光還元
主な感光物質
通常型写真感光材料
ハロゲン化銀
銀塩感光材料
主な市販品・用途
一般撮影・医療用放射
線写真・オートラジオ
グラフィ等
光還元
インスタント写真
光還元
ピクトログラフィ
蓚酸第二鉄塩
ジアゾ化合物
光還元
光分解
桂皮酸樹脂
光重合・架橋
光分解
青写真感光紙
ジアゾ感光紙
PS版
マイクロ写真
樹脂凸版
拡散転写写真
感光材料
熱現像写真感光材料
鉄塩感光材料
非銀塩感光材 ジアゾ感光材料
料
感光性樹脂
キノンジアジド樹脂
電子写真材料
ジアゾ樹脂
非晶質 Se
ZnO
IC 作製用フォトレジ
スト
光電導
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ゼロックス
銀塩感光材料
感光物質にハロゲン化銀を用いる。
ハロゲン化銀
塩化銀
臭化銀
ヨウ化銀
AgCL
AgBr
AgI
感光機構
Gurney-Mott の感光説
感光材料の乳剤層に光が当たると、その中に含まれるハロゲン化銀が光化学変化
をおこし潜像が生成されるがその時個々のハロゲン化銀がどのようになっている
か説明したもの。
1. ハロゲン化銀に光があたると結晶内部に伝導帯電子と正孔を生じる
2. 伝導帯電子は結晶内を動き回りエネルギー準位の低い点(感光核・増感中心)
に捕獲される。
ここまで電子過程
3. 伝導帯電子を捕獲した感光核は負に帯電し結晶内部の格子間銀イオンを引き
寄せる。
4. 伝導帯電子と格子間銀イオンが結合し銀イオンを生成する。
5. このようにして出来た銀原子はさらにつぎの伝導帯電子を捕獲して格子間銀
イオンを引き付けて銀原子を生成していく。
ここまでイオン過程
このような電子過程とイオン過程を繰り返すことにより現像され易い大きさ
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の銀原子の集合体(潜像)に成長する。潜像自体が画像そのものであるが粒
子内部での変化が微細であるため未露光のハロゲン化銀と見分けが付かない
現像処理
現像処理の意義
現像処理は銀塩写真法の特徴を最も顕著にするプロセスである。
露光(撮影)によって感材に捉えられた像はそのままでは見ることが出来ない潜像であり、
また光に対しての感光性も有している。そのため現像処理により潜像を可視化して画像とす
ると共に光に対して安定化する定着処理も合わせて行うのが現像処理と言われる化学処理で
ある。
現像
定着
水洗
乾燥
のステップから成り立ち
現像は露光を受けたハロゲン化銀粒子は、そのうちのごく1部(107~108 分の1)が銀に変
わり潜像になっているが、これを現像液に浸すと、速やかに大部分が還元されて黒い銀粒子
に変わり可視像となる。そのため 107~108 倍も増幅された事となり、この極めて大きな増幅
が銀塩写真法の特徴といえる。
一方、露光されていないハロゲン化銀粒子は適切な現像ではそれほど還元されず、ほとん
どハロゲン化銀粒子のままで残っているが、そのまま明るいところに出すとすべて銀粒子に
変わって全面が黒くなってしまう。そこで、還元されないで残っているハロゲン化銀粒子を
溶かして感光性をなくす処理が定着処理で、そのための処理液を定着液といい銀はほとんど
溶かさないが、ハロゲン化銀を可溶化する薬剤の水溶液である。
定着が終わった感光材料は明るいところに取り出せるが、そのままではまだ乳剤膜中に定
着液や溶解した銀塩が含まれ保存中に画像を汚染するので、清水(水道水など)で充分に水
洗したあと、乾燥して画像を完成する。
現像の機構
現像の基本反応
潜像は直接肉眼で見ることはできず、現像液で現像することによってはじめて黒色の銀画
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像になる。現像においては、潜像を触媒として現像主薬による銀イオンの還元が起こる。通
常の化学現像においては、現像される画像銀はハロゲン化銀を構成する銀イオンである。
① 現像主薬から銀核(潜像核、現像中心)への電子伝達
② 銀核内の電子伝達
③ 粒子内に銀イオンの移動
④ 銀イオンへの電子伝達
⑤ ハロゲンイオンの遊離(溶解)
現像には大きく分けて化学現像と物理現像がある。両者の相違点は、化学現像では、現像
液中の現像主薬がハロゲン化銀粒子の現像中心に電子注入し、ハロゲン化銀結晶内の Ag+を還
元し金属銀として次第に黒化していくので Ag+の供給は結晶自体であるが、物理現像では、ハ
ロゲン化銀の外部から Ag+を供給し、現像液により還元して現像中心上に金属銀を析出させ黒
化させる点である。
通常の現像は化学現像であるが、現像液に亜硫酸塩やチオ硫酸塩などのようなハロゲン化
銀を溶解する作用を持った化合物が含まれている場合、液中に溶解したハロゲン化銀の Ag+
も現像主薬で還元され、現像中心に金属銀として析出し、黒化に寄与する。この過程は機構
的には物理現像なので溶解物理現像と呼ばれる、しかし、一般的に行われる現像では純粋に
化学現像だけというのではなく、多少なりとも溶解物理現像が関与するのが普通で、それに
よらない化学現像(結晶内部の Ag+だけによる現像)を特に直接現像と言う。
なお物理現像には、感光材料を化学現像、定着してから、さらに物理現像して不足の黒化
度を補い、画像を鮮明にする定着後物理現像とそれを定着前に行う定着前物理現像とがある。
a. 直接現像
b. 溶解物理現像
c. 定着前物理現像
d. 定着後物理現像
現像によるハロゲン化銀粒子の変化
現像されているハロゲン化銀粒子から金属銀が析出される状態は化学現像の場合、反応の進
行は局部的(現像中心とハロゲン化銀の界面)で、電子顕微鏡下で見ると、析出された銀粒
子は固塊ではなく、綿の繊維に似たフィラメント構造を持っている。
このフィラメント状の銀が成長するにつれて、母体のハロゲン化銀は金属銀に変わってい
き、ハロゲンイオンは現像液中に拡散し、現像銀粒子は次第に大きくなる。現像主薬の種類
とアルカリ度の強弱によって金属銀成長の速さも形も異なる。比較的活性の低い現像液では、
綿状の現像銀の形は長時間現像してもほぼ元のハロゲン化銀の外形の範囲内にとどまってい
るが、活性の高い現像液では外形の範囲から飛び出す形の現像銀ができる。高活性現像液で
現像粒子が粗くなるのはこのためである。
物理現像では現像銀は一般に塊状の金属銀粒子となり、フィラメント状の銀の生成はみら
れない。
平板状粒子では、球状粒子に比して現像銀形態がこれらの現像条件にあまり依存しないで、
元の平板状を保った中で細かくフィラメントができる。
現像の機構
現像は、充分に感光して潜像核が生成されたハロゲン化銀粒子が、潜像核を持たない粒子よ
りも速やかに現像されることを利用している。普通の写真乳剤では、ハロゲン化銀の表面は、
Br⁻などのハロゲンイオンを吸着して負に帯電している。これを荷電障壁(charge barrier)
といい、その負荷電の強い粒子表面には、陰イオンの形で解離した現像主薬は反発されて容
易に吸着することができない。しかし、荷電障壁は現像核の付近では局部的に弱まり、そこ
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に現像主薬が吸着すると考えられる。実用の条件では、潜像核(銀核)に吸着した現像主薬
の還元電子のエネルギー準位は、潜像核の電子が占められているエネルギー準位よりも高い
ので、現像主薬から銀にでんしが移動して反応が進むと考えるのが一般的である。
1. 現像主薬などの粒子表面への接近(浸透と拡散)
2. 現像主薬の粒子表面への吸着
3. 現像主薬から現像核への電子以降
4. 核の中での電子伝導
5. 核の“下側”(核と AgX とも界面)での電子と銀イオンの結合
6. 銀原子が銀核へ取り込まれる
7. 粒子結晶の動き:銀イオンは核へ向かって粒子内を移動し反対側の面ではピットを残し、
臭化物イオンが遊離される。
8. 吸着している現像主薬の酸化生成物(1電子酸化体)は、
a. 脱着して系外に出る
b. さらに高次の酸化生成物(2電子酸化体)となり、脱着して系外へ出る。
c. 2電子酸化体が亜硫酸イオンなどと反応する。
d. 第二の現像主薬により、現像主薬の酸化体が還元される。(超加生成現像の場合)
現像液の組成と作用
現像液は基本的に露光されたハロゲン化銀粒子を銀に還元する処理液
現像主薬
保恒剤
現像液
促進剤
抑制剤
その他
溶媒
現像主薬
ハロゲン化銀の還元剤
感光している粒子
感光していない粒子
速やかに還元
ゆっくり還元
主薬となり得る化合物は有機、無機化合物いろいろあるが、実用的には有機化合物が多く
用いられる。
特に多いのはベンゼン核に官能基として水酸基-OH、またはアミノ基-NH2(または置換アミ
ノ基-NHR、NRR´)を結合させた有機化合物である。重要なポイントは次のようなものである。
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① 水酸基、アミノ基が少なくとも2個なければ現像作用はない。
② これらの2個の官能基は、たがいにオルトかパラの位置にあるものだけが現像力を持ち
メタの位置にあるものは現像力を持たない。
③ 一般に官能基3個は2個のものより現像力が強い。
④ 一般に-OH 基の方が-NH2 基より現像作用が強い、-NH2 基の H 原子をアルキル基で置換す
ると現像力は強くなる。
現像主薬の化学構造と現像作用の強さとの関係はそれらが作用する時の液の pH によっても
変わって来る。
現像主薬の超加生成
ある種の現像主薬と別の現像主薬とを併用すると、双方の長所が組み合わされるだけでなく、
それぞれ単独で用いた時の和以上に高い現像活性を示すことがある。これお現像主薬の超加
生成といい、その典型がメトール-ハイドロキノンを併用した MQ 現像液、フェニドン-ハイド
ロキノンを併用した PQ 現像液である。
現像主薬以外の現像液成分
保恒剤
現像液の保恒剤は、一言でいえば酸化防止剤である。したがって、これは一般に現像主薬よ
りも酸素と結合しやすく、しかもハロゲン化銀還元力は弱いという特性をもち、水にとけや
すくなければならない。多くは無機化合物であるが、特別な用途には有機化合物も用いられ
る。現在、実用されている化合物は、主として以下に記すような亜硫酸塩系の無機化合物で
ある。
亜硫酸ナトリウム
Na2SO3
亜硫酸水素ナトリウム
NaHSO3
二亜硫酸ナトリウム
Na2S2O3
亜硫酸カリウム
K2SO3
亜硫酸水素カリウム
KHSO3
二亜硫酸カリウム
K2S2O3
硫酸ヒドロキシルアミン
(NH2OH)2・H2SO4
アスコルビン酸
促進剤
現像液は、一般にアルカリ性が強くなるほど現像活性が高くなるが、現像活性が高いほど、
感度・コントラスト・カブリが高くなり、画像の粒状性が粗くなる傾向がある。また、アル
カリ性が強いほど一般に現像液の経時劣化も大きくなるので、現像液は目的に応じて適度の
アルカリ性をもつようにしなければならない。
水酸化ナトリウム
水酸化カリウム
燐酸ナトリウム
炭酸ナトリウム
炭酸カリウム
四硼酸ナトリウム
メタ硼酸ナトリウム
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抑制剤
抑制剤として主に用いられるものは、水溶性のハロゲン化アルカリ金属塩で、特に臭化カリ
ウム、KBr が一般的であるが、NaBr も用いられている。
臭化物塩を添加すると、ハロゲン化銀粒子への Br イオンの吸着が増し、荷電障壁が強くなっ
て現像主薬の接近・吸着が妨げられるので、現像の開始・進行が抑えられる。この効果は、
現像核が小さいほど大きく適切な添加量ではカブリや低露光部の現像が強く抑制される。
臭化物塩の抑制効果はハイドロキノンに対して大きく、メトール、フェニドンに対しては
比較的弱い、アルカリ性が弱いと強く作用し、アルカリ性が強いと抑制効果が小さい。
硬膜剤
X線フィルムを迅速に処理するための自動現像機用の現像液には、硬膜剤が含まれているこ
とがほかの現像液にはない大きな特徴である。
自動現像機で処理する場合、乳剤膜や保護膜の物理的強度が弱いと処理中に膜が著しく軟
化膨潤するので、膜面の傷つきや乾燥不良などの問題を生じやすい。また、高温の現像液で
軟化膨潤した膜を、定着液で急激に硬膜収縮させるとレチキュレーション(縮緬状のしわ)
を生じることがある。そのような問題を防ぐために、元々の乳剤膜の硬膜をあまり強くする
と現像の進行が遅くなるので、フィルムでの硬膜は適度に抑え、現像液での硬膜が併用され
ている。
水質調整剤
現像液や定着液の調液に用いる水は、実用的には、飲料水として適する水をそのまま調液
に使用してもほとんど問題ない。しかし、Ca 塩や Mg 塩を多く溶解している硬度の高い水は
もちろんのこと、フィルムに使われているゼラチンから溶出するカルシウム成分が、現像液
成分の CO32-、SO32-、などと結合して難溶性の塩をつくり、フィルムの表面や現像液の各部
に付着するなどして故障を生じる事がある。Ca2+、Mg2+などの金属イオンを可溶化するため
に現像液に添加する添加剤を水質調整剤または硬水軟化剤という。
ピロ燐酸四ナトリウム Na4P2O7
トリポリ燐酸ナトリウム
ヘキサメタ燐酸ナトリウム
エチレンジアミン四酢酸
ジエチレントリアミン5酢酸
現像の停止
手処理では現像の進行を適切な時間で停止させるのに、フィルムを現像液から取り出して
酸性の液に浸漬するのが最も効果的である。自動現像液では、現像工程から定着工程に、ス
クイズだけされて直接移るので、定着が停止を兼ねている。現像と定着との中間で用いられ
る酸性の処理液を、現像停止液、酸性停止液、あるいは単に停止液という。停止液としては
酢酸1~3%程度の溶液を用いる。停止の処理は、通常 20℃30 秒位でよい。
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定着液の組成と作用
定着液は、乳剤層中に未現像のまま残っているハロゲン化銀粒子を溶かしだす作用をする
処理液であるが、黒白写真で一般に用いられているのは酸性硬膜定着液で次のような成分で
構成されている。
定着主薬
保恒剤
酸性硬膜定着液
酸性剤
緩衝材
硬膜剤
その他
溶媒
定着主薬
未露光のハロゲン化銀と反応して可溶性の銀塩に変える化合物である。ただし、画像をつ
くっている金属銀とはできるだけ反応しない化合物でなくてはならない。
チオ硫酸ナトリウム
チオ硫酸アンモニウム
保恒剤
酸性硬膜定着液のような酸性の液中では、チオ硫酸塩は不安定で分解しやすく、徐々に硫
黄を遊離して白濁して定着能力を失う。従って、定着液を酸性の状態で安定に保つための保
恒剤としては、亜硫酸塩や重亜流酸塩など、酸性の液中で HSO3⁻イオンが有効で、これらの
塩はチオ硫酸塩が分解するのを防ぐ。
また空気酸化に対しても亜硫酸塩や重亜硫酸塩は、現像液の場合と同様に溶け込んでくる空
気中の酸素を身代わりに受け止めて主薬の酸化を防止する
酸性剤
酸性硬膜定着液は、新液時から使用中を通じて液を一定 pH 領域に保つ事が重要である。現
像の停止、現像主薬による着色汚染の防止には pH が低い方が有効であり、Aℓ塩硬膜剤の硬膜
作用や安定性も、pH が低いほどよい。従って、酸性硬膜定着液は新液の状態で pH4.2~pH5.0
位に調整され、pH4.2~pH5.5 位の間で使用される、そのための酸性剤としては、酢酸が最も
広く用いられているが、クエン酸や酒石酸も用いられる。酸性剤だけで pH を適正な範囲に保
つのは困難なので酸性硬膜定着液では硼酸やメタ硼酸ナトリウムなどの pH 緩衝剤が併用さ
れる。ホウ酸塩類は酢酸と共存するとき、pH 緩衝作用だけでなく、硬膜剤の Aℓ塩が沈殿する
のを抑制する効果もある。
硬膜剤
酸性硬膜定着液用の硬膜剤は、弱酸性の領域において迅速で強力な硬膜作用を示し、溶解度
が大きく、安定で写真性への影響の少ないことが必要である。古くからクロムの塩やアルミ
ニウムの塩などの無機化合物が用いられてきたがクロムミョウバンで代表される Cr 塩は環
境上の問題で現在一般には使用されない
Aℓ塩の硬膜剤として最も一般的なのは、カリウムミョウバンであるがアンモニウムミョウバ
ンや硫酸アルミニウムミョウバンも用いられる。
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定着液の疲労と補充
一定量の定着液で次々とフィルムを処理すると、定着液は次第に疲労して定着速度は遅くな
り、ついには完全な定着ができなくなる。ハロゲン化銀の溶解により定着液中では遊離のチ
オ硫酸イオンが減少し代わりにチオ硫酸銀錯イオンやハロゲンイオンが蓄積する。従って、
乳剤層内への遊離のチオ硫酸イオンの供給が減り、反応生成物が乳剤層外へ排出されにくく
なるので、定着速度は遅くなる。さらにハロゲン化銀の溶け込みが進むと、定着液中に蓄積
するチオ硫酸銀錯イオンは銀含有率の高い Ag2(S2O3)34-や Ag3(S2O3)45-等が多くなり、それ
をフィルム中から水洗で除去するのが困難になる。水洗で除去されなかった銀錯イオンは保
存中に分解して Ag2S 等に変化して画像の変色や黄色汚染を起こす。また定着液は、フィルム
の処理によって持ち込まれる現像液、停止液などの前処理液により薄められ、汚染され、停
止液を用いない場合 pH が上昇して現像停止や硬膜反応が弱くなる。定着を確実にするために
は定着液を一定の仕様限度で新液と交換するか、フィルムの処理に応じて適切な補充をする
ことである。補充が不足の場合定着が不完全になるほか pH の上昇により乾燥不良や Aℓ塩析
出(白濁)などの故障を生じる。定着が不完全な場合、仕上がり時は異常がなくても、保存
経時により画像の変色、汚染を引き起こす。
水洗
定着が終わったフィルムの乳剤層中には、そのフィルムが浸漬されていた定着液とほぼ平衡
した濃度のチオ硫酸銀錯イオンと、チオ硫酸塩が含まれている。水洗はこれらの物質を除去
して、安定な銀画像を得るために行われる。
水洗速度は一般に流水量が多く攪拌がよくて乳剤膜面を常に新鮮水が急速に流れているほ
ど速く、また水温が高いほど速い。水洗はチオ硫酸塩の除去だけでなく、フィルムに使われ
ている種々の分光増感色素、ハレーション防止染料などの溶出、除去の役割も持っている。
これらの色素、染料の溶出、除去が不充分であると、残色となって写真画像に色味が加わる。
水温が低すぎると残色を起こす事がある。最近では全処理工程が 30 秒で完了するくらい、水
洗も短時間で完了するように、膜設計、各種化合物の分子設計がなされている。
乾燥
水洗によって水溶性塩が取り去られたフィルムや膜は吸水して膨潤している上水中から引
き上げられたフィルムは表面にも水が付着している。そこで、フィルム表面の付着水をでき
るだけよく取り除いた後、膜中に含まれている水分をゼラチンの通常の乾燥状態での平衡含
水率(おおむね15%くらい)まで減らして、安定な画像にするのが乾燥である。
表面に水滴が付いたまま乾燥すると、その跡が濃度ムラ(乾燥ムラ)になって残る事がある
ので、フィルム表面の付着水を取り除くために、やわらかいスポンジなどで拭き取るとか、
スクイズローラーまたはブレードで掻き落とす。
フィルムの乾燥は、小規模の処理で仕上げを急がない場合は、なるべく風通しの良いところ
にフィルムを吊るして自然乾燥すればよい。自動現像機では、電気ヒーターなどで温めた空
気を送風ファンでフィルムに吹き付けて乾燥させる。
乾燥に要する時間は、そのときのフィルムの含水量と乾燥の条件だけでなく、ゼラチン膜の
膜質によっても異なる。あまり急速な乾燥や過度の乾燥は、フィルムに強いカーリングを起
こしたり、スタチックによるフィルムの吸い付きやゴミ付を起こしやすくするほか、乳剤膜
をゆがませて画像上での精密な計測に誤差を与える事があるので好ましくない。
一方、乾燥不足の場合は、フィルムに傷や汚れなどが付きやすいだけでなく、保存中に他の
フィルムや包装紙などと接着したり、画像の変退色やカビが発生するなどの故障を起こす事
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があるので、膜中の水分が平衡含水率に近くなるまで充分に乾燥しなければならない。
画像の保管
写真画像を長期間安定に保つためには、充分に定着、水洗すると共に、低温低湿で、活性
の強い有害ガスに触れないようにして保存しなければならない。また、強い光にあまり長時
間さらさないようにしなければならない。ただし、あまり低湿ではヒビ割れの恐れがあり、
20℃以下で相対湿度が 30~40%くらいの条件が好ましい。画像銀に損傷を与える有害ガスと
しては、自動車の排気ガスなどに含まれる種々の窒素酸化物や硫黄硫化物、さらに硫化水素
やメルカプタンのような化合物がある。酸化的の雰囲気の中で画像銀が酸化されて銀イオン
となって膜中を移動し、これがさらに局部的に還元されてコロイド状銀の黄色画像になるこ
とがある。この画像黄変は定着または水洗が不充分なために起こる画像変退色とは異なる。
X線フィルムのような現像銀粒子の大きなフィルムは、これらの有害ガスの攻撃に対して
比較的損傷を受けにくいが、マイクロフィルムなどは損傷を受けやすい。
増感
化学増感:感光する波長域はかわらないでハロゲン化銀固有の感度を上げる。
分光増感:ハロゲン化銀の感光する波長域を長波長側へ拡げる。
硫黄増感:増感剤によって生じた硫化銀の2量体(Ag2S)2 が電子トラップ
になり効率的な潜像中心形成を行うと考えられる。
化学像感
金増感
:最小潜像サイズを減らすことにより潜像形成効率を高める。
還元増感:粒子表面に Ag がつくられ、それが正孔を捕獲して電子との再結
合を防止して効率よく潜像を形成させる。
分光増感
乳材を製造する過程で分光増感色素(シアニン色素)を添加する。分光増
感された感材は感光する波長域により短波長側よりレギュラー・オルソ・
パンクロ・インフラレッドと呼ばれる。
感材のいろいろな波長の光に対する感光性およびその割合の特性を感色性
といい、分光写真で見る事ができる。
例えば、レギュラーフィルムの場合、青色光にしか感度がないため赤など
長波長の光には感光しないため暗室のセーフライトに赤色光が用いられて
いる。
増感紙・蛍光板
増感紙・蛍光板は、いずれも照射されたX線などの放射線により発光する微粒子螢光体が、
樹脂中に分散されて支持体上に塗布されている。直接X線撮影でフィルムに密着させて使用
する蛍光体塗布物を増感紙(スクリーン)といい、間接撮影や透視に用いる蛍光体塗布物を
蛍光板という。
増感紙の構造・特性
増感紙は必要とするX線の照射量を大幅に減少させ、被検体の動きなどによるボケを少な
くするほか、X線写真のコントラストを向上させる働きをもっている。
① 保護膜
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取り扱い時に蛍光体層が損傷するのを防ぐための透明で丈夫な薄い膜
蛍光体層
② 蛍光体層
蛍光体結晶の細かい粒子をポリウレタンや塩化ビニール樹脂、硝酸セルロースなどのバ
インダー中に分散した層で、その組成や厚さが増感紙の性能を決定する。
③ 下塗層
蛍光体を支持体にしっかり密着させるのが第一の役割であるが、併せて光反射層として
感度を高め、あるいは光吸収層として鮮鋭度を向上させる働きを持つ。
④ 支持体
板紙もあるが多くはPETで、高感度増感紙には白色顔料を入れて光反射率を高めたり、
高鮮鋭度増感紙には黒色顔料を入れて光吸収を図ったりする事が多い
増感紙に要求される主な特性としては、感度(増感の効率)
・コントラスト・鮮鋭度・粒状性
がある。それらは蛍光体の種類、結晶粒子の大きさ、蛍光体層の組成・構造・厚さ、光反射
層または光吸収層の有無などによって決まる。
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