世界の諸地域 ~ヨーロッパ州

実践のまとめ(2学年
社会)
長岡市立南中学校 教諭 桶谷 圭介
1
研究テーマ
思考力・判断力・表現力を育てる活動を通じて、
社会的事象に対して自分の考えをもち、積極的にかかわろうとする生徒の育成
~世界の諸地域 ヨーロッパ州を通して~
2
研究テーマについて
(1)テーマ設定の意図
以下二つの点からテーマを設定した。
①
知識を問うテストや質問に対しては、一生懸命学習する生徒が多い。しかし、社会的事象の意
味、意義を解釈したり、事象の特色や事象間の関連を説明したりすることを求めると、自分で調
べたり説明を組み立てたりする生徒は少ない。社会的事象について意欲的に考える生徒の意見を
自分の意見にしたり、教師の説明を受動的に聞いたりする。将来、生徒が社会の課題に参画して
行くには、主体的に思考・判断し、自分の意見を根拠をもって表現する力を育成することを大切
にしたい。
②
普段の授業では生徒同士が学び合う場面が少なく、教師主導型の授業が多かった。生徒が資料
やデータを基にして自分の意見をもち、他と学び合うことで社会的事象への考えを深化、変容さ
せ、主体的に社会的事象とかかわっていくことを大切にしたい。
(2)研究テーマに迫るために
①
単元内の学習活動をア~エの視点で意図的に設定する。
小原は、単元の授業の中で「思考力・判断力・表現力」を育成するための活動として、
「知る」
「わかる」
「生きる」ための活動のもと、以下の四つ(・・・あとの「 」内)を提示している。
① 「知る」ための活動・・・「資料から必要な情報を集めて読み取る」
② 「わかる」ための活動・・・「社会的事象の意味・意義を解釈する」「事象の特色や事象間
の関連を説明する」
③ 「生きる」ための活動・・・「自分の考えを論述する」
【註】 小原友行編著『
「思考力・判断力・表現力」をつける社会科授業デザイン』 明治図書、
2009、p.10
この小原の考えを参考にしながら、思考力・判断力・表現力を育てる活動として、次の四つの
視点を入れた学習活動を設定することで、社会的事象に対して自分の考えをもち、積極的にかか
わろうとする生徒の育成を目指したいと考えた。
ア.資料から必要な情報を集めて読み取る
イ.社会的事象の意味・意義を解釈する
ウ.社会的事象の特色や、その事象間の関連を説明する
エ.社会的事象の中の問題や課題に対して自分の考えを論述する
この視点を入れて学習活動を組織するためには、社会的事象に対する生徒の疑問を生かして学習
活動を展開することが大切である。アでは「どのように、どのような」、イやウでは「なぜ、どう
して」
、エでは「どうしたらよいか、どの解決策がより望ましいか」と問い掛けることで、生徒か
らの疑問を引き出し、社会的事象に対する考えを深めていきたい。
② フォーマットを用いて言語活動を充実させる
単元の中の追究で言語活動を意図的に仕組み、ヨー
資料・データ
結論
ロッパの地域的特徴が生まれた理由を理解できるよう
にする。その際に左図のようなフォーマットを活用し、
生徒が自分の意見を考え、発表する際に整理しやすい
理由付け
ようにする。こうして、生徒が同じ方法で意見をまと
めることによって、相手の意見のどの部分に賛同・疑問なのかを明確にできる。生徒相互の学び合
いを通じて、ヨーロッパの地域的特色を深く理解させたい。
(3)研究テーマにかかわる評価
① 自分の意見を作るときに活用した資料や知識(習得したこと)が、学び合いを通じて増えてい
くことを評価する。
(ワークシート)
資料・データ
結論
資料・データ①
資料・データ②
資料・データ③
理由付け
結論①
結論②
結論③
理由付け①②③
② ア~エの活動を通じて、社会的事象から課題を見いだし、考えた過程や導き出した結果を段階
的に評価する。
(ワークシート)
3
単元と指導計画
(1)単元名
世界の諸地域 ヨーロッパ州
(2)単元の目標
・ヨーロッパ州を自然、文化、産業など様々な視点から大観する。
・EU加盟国の人々の生活の変化から、国同士の相互関係や地域間格差などヨーロッパ州の地域的
特色を理解する。
(3)単元の評価規準
社会的事象への
関心・意欲・態度
社会的な
思考・判断・表現
・ヨーロッパ州の自然 ・ヨーロッパ州の国家
環境、産業、生活・
間の統合が進めら
文化、歴史的背景な
れてきた理由や、統
どの特色について
合が可能となった
概観する中で、特に
理由について、多面
国家間の統合に関
的・多角的に考察
心をもち、設定され
し、その過程や結果
た学習テーマを意
を適切に表現して
欲的に追究しよう
いる。
としている。
・ヨーロッパ州の国家
・日常的に用いられる
間の統合による変
挨拶や、生活と深く
化について、背景に
結び付いているキ
合った文化の共通
リスト教の習慣な
性や統合による
どから、ヨーロッパ
人々の生活の変化
州の文化について
などと関連付けて
の関心をもとうと
考察している。
している。
資料活用の技能
社会的事象について
の知識・理解
・ヨーロッパ州の交 ・ヨーロッパ州につい
通、通勤、買い物、
て、小国が多いこ
通貨など、統合の成
と、地域により異な
果などについて、
る農業がさかんな
様々な資料を収集
こと、世界経済にお
している。
ける地位が低下し
・収集した資料から、
てきた様子を概観
ヨーロッパ州の地
し、それぞれの基礎
域的特色について
的・基本的な知識を
有用な情報を適切
理解している。
に選択して、それを ・ヨーロッパ州につい
基に読み取ったり
て、「国家間の統合
図表などにまとめ
による変化」の学習
たりしている。
テーマを基に地域
的特色を理解し、そ
の知識を身に付け
ている。
(4)指導計画(全4時間、本時4/4時間)
次
主な評価の観点と方法
学習内容
学習活動
時数
(方法は【 】内で記述する)
1
・ヨーロッパの国々の ・ヨーロッパの国々の位置と国 ・高緯度の割にヨーロッパ
位置と国名
名を調べ、白地図に記入する。
の気候が温暖である理由
・ヨーロッパの自然と ・ヨーロッパの気候の特徴を雨
について説明することが
気候
温図から読み取る。
できる。
・ヨーロッパの地形的特徴を白 (思考・判断・表現)
地図に記入する。
【ワークシート】
・ヨーロッパの国名や自然
環境(地形や気候)を特
色付ける用語を理解して
いる。
(知識・理解)
【ワークシート】
2
・ヨーロッパの文化と ・ヨーロッパの宗教分布につい ・地図や写真などを使って、
歩み
て調べる。
(共通性)
ヨーロッパにおける宗教
○共通するキリスト
・ヨーロッパの民族や言語を調
や言語の共通性と多様性
教の伝統
べる。
(多様性)
を読み取ることができ
○多様な言語と民族
・ヨーロッパの植民地支配の概
る。(技能)
○ヨーロッパの歩み
要をつかむ。
【ワークシート】
・なぜEUを作ったか。
・ヨーロッパに共通する文
化的特色を挙げることが
できる。(知識・理解)
【ワークシート】
3
・ヨーロッパの産業
・ヨーロッパの農業の概要を調 ・ヨーロッパの農業や食文
○農業と食文化の伝
べる。
化の地域による違いを、
統
・ヨーロッパの工業の概要を調
自然環境とのかかわりか
○ヨーロッパの工業
べる。
ら説明することができ
る。(思考・判断・表現)
【ワークシート】
・ヨーロッパの農業や工業
の特色に関する用語を挙
げ、それらの意味を理解
している。
(知識・理解)
【ワークシート】
4
本時
4
・EU発足に伴う生活
の変化
・EUの課題
・EUのメリット、デメリット
を考える。
・EUの課題を考え、なぜ課題
なのか説明する。
・EUのメリット、デメリ
ットを理解している。
(知識・理解)
【ワークシート】
・EUの課題を説明するこ
とができる。
(思考・判断・表現)
【ワークシート】
単元と生徒
(1)教える側からとらえた本単元の価値
本単元は、ヨーロッパ州について基礎的・基本的な知識を習得させ、それらの知識を活用して主
題を追究することで、ヨーロッパの地域的特色を理解する学習である。「日本より緯度が高いヨー
ロッパの国々がなぜ温帯の気候になるのか」
「言語や民族など生活習慣や文化が異なるヨーロッパ
の国々がどうしてまとまることになったのか」「現在のEUが発足する中で、人々の生活にどのよ
うな変化があったのか」
「EUの抱えている課題は何か」など、ヨーロッパの地域的特色について、
なぜ、どうしてと疑問をもちながら思考していく。主体的に思考することで、社会的事象と積極的
にかかわり、ヨーロッパの地域的特色を日本と比較しながらとらえ直すことができる。また、EU
の課題について意見交換する中で、考えの変容や深化が期待できる。単元を通じて、思考力、判断
力、表現力を高めながら、主体的に社会事象とかかわる生徒を育てることができると考える。
(2)学ぶ側からとらえた本単元の価値
世界地誌を学ぶ機会が少ない生徒にとって、ヨーロッパについての知識は少ない。国名をいくつ
か知っているだけで、
「どんな国なのか」
「ヨーロッパはどんな地域なのか」など、説明できる生徒
は少数である。しかし、ヨーロッパの気候や食生活など、日本と比較しながら学習することで、日
本との共通点や相違点に気付きやすい。また、EUのように、日本を含む東アジアにはない「まと
まる」という発想は、生徒が社会情勢を見ていく一つの視点になる。ヨーロッパの地域的特色を日
本と比較する中で理解し、他地域や世界を見る新たな観点を獲得できると考える。
5
本時の展開
(1)ねらい
・EUがもたらすヨーロッパの人々の生活の変化をとらえ、今後のEUの課題について理解する。
(2)展開の構想
①
単元内の学習活動をア~エの視点で意図的に設定する。
・EUを作った意味、意義を資料から解釈する
・EUを作ることで変化したことと人々の生活を関連させ説明する
・EUの課題をとらえ、なぜそれが課題といえるのか説明する
②
フォーマットを用いて言語活動を充実させる。
資料・データ
①国境を越えて、東ヨーロッパの労働者が、
西ヨーロッパ各国へ流れる。
②イギリスがユーロを導入していない。
③加盟国の中に財政破綻している国がある。
結論(域内格差)
①労働者の生活水準の差
②加盟国のEUへの協力
度合いの差
③加盟国の経済格差
理由付け
①西ヨーロッパの国々に、労働者が多くなり、失業者が増え、EU加盟国の間に
不満が出てくるから。
②加盟国によっては、自国の利益を優先させている(EUに加盟するデメリット
を感じている)ので、EUが将来的に発展していくか疑問であるから。
③財政が破綻している国に、お金を使わなくてはいけないので、EUの存続が不
安定だから。
(3)展開
時間
導入
5分
展開
40 分
学習活動
◎EUのことを知る。
○教師の働きかけ
□予想される生徒の反応
○この旗は何の旗でしょう。
□「EU」
○このお金はどこで使われているでしょ
う。
□「EUの加盟国」
□評価
○支援
※留意点
※生徒に自由に発言を求め
る。
※日本の国旗、お金も用意し
比較する。
なぜEUを作ったのでしょう?
◎EUはどんな特色をもった
組織か知る。
○ワークシートを配布するので読んでく
ださい。
○説明文章を読む。
◎なぜEUを作ったのかを考
える。
○言語や民族が違うヨーロッパの国々は
なぜEUを作ったのでしょう。
□「アメリカやアジアの経済に対抗する
ため」
□「戦争を経験した反省で、戦争をなく
すため国同士の結び付きを強めた」
□EUの特色について関心
を もって調 べるこ とがで
きたか。
(関心・意欲・態度)
【ワークシート】
○机間を回り、個別にアドバ
イスをする。
EUを作ったことで人々の生活はどう変化したでしょう?
◎EUを作ったことで人々の
生活がどのように変化した
か良い変化、悪い変化に分け
て調べる。
○EUを作ったことで人々の生活がどの
ように変化したでしょう?良い変化、
悪い変化に分けて調べてください。
〈良い変化〉
□「パスポートなしで自由に移動できる
ので、国境を越えて買い物や通勤をす
る人や旅行する人が増えた」
□「ユーロを導入した国は他の国で両替
しなくてもよい」
□「輸入品にかかる税をなくしたので貿
易がさかんになった」
〈悪い変化〉
□「労働者の移動により、失業率が上昇
する心配がある」
□「加盟国の中に経済格差がある」
○机間を回り、個別にアドバ
イスをする。
EUにおける課題は何だろう?
◎EUの課題を考える。(話合
い)
◎EUの課題を挙げてください。また、 ※仲間の意見で参考になっ
なぜそれが課題だと考えたのか理由も
た ことをワ ークシ ートに
付けてください。
メモを取るよう指示する。
□失業率が上昇すると、EU加盟国の中
で不満が出てくる。
□EUの課題を説明するこ
□イギリスなどがユーロを導入していな
とができたか。
いなど、加盟国によって条件が違って (思考・判断・表現)
いる。だから、EU内の調和が乱れる。
【発表、ワークシート】
◎話し合った結果を発表する。 ○発表してください。
まとめ
5分
6
◎授業で学んだことを記述す
る。
○机間を回り、個別にアドバ
イスをする。
○今日の学習で分かったことを書いてく
ださい。
実践を振り返って
(1)授業の実際
① 事象の特色や事象間の関連を説明する活動
-ヨーロッパの自然と気候(1/4時)-
ヨーロッパの地図と日本の地図を緯度に着目しながら重ね合わせた。すると生徒は、
「ヨーロ
ッパの国々の多くが日本よりも緯度が高い」ということに気付き、ヨーロッパが高緯度であるこ
とに着目した(事象1)
。
次に、ヨーロッパの気候に着目できるように、2月のフランスのニースと日本の札幌の写真と
平均気温に関するデータを資料として提示し比較させた。生徒からは、
「札幌は雪景色で、平均
気温が氷点下である」
「ニースは雪がなくて、札幌よりも平均気温が高い」などの違いが意見と
して出された。さらに、二つの都市の気候の分布図を補足資料として提示すると、ニースは温帯
に属しているということに気付き、同じ緯度でも気候が違うことに着目した(事象2)
。
ここで、ヨーロッパの気候における疑問を生徒から引き出すために、1年生の時に学習したこ
とを想起させた。
「緯度が高いと気候は寒くなる」という気候と緯度の関係や、
「北海道は冷帯に
属している」という日本の気候の特色(事象3)と関連付けることによって、「ニースは緯度が
高いのにどうして気候は温帯なのだろう」という疑問が出された。
そこで、
「どうしてニースは札幌より緯度が高いのに平均気温が高く、温帯に属しているのか」
と課題を設定した。そして、次のフォーマットの「結論」に入れて、「資料・データ」と「理由
付け」に当てはまる社会的事象を考えて説明するよう指示した。生徒は教科書や地図帳の資料を
参考にして、
「北大西洋海流と偏西風が影響しているのではないか」と気付く生徒は多かったが、
気候に対して海流や風の影響がどのように及ぼすのかを「理由付け」として記述する生徒も見ら
れた。
資料・データ
・ヨーロッパ西岸を北大西洋
海流という暖流が流れてい
る。
・偏西風というヨーロッパの
方向に吹いている風があ
る。
結論
ニースは札幌より緯度が高いのに平均気
温が高く、温帯に属している。
理由付け
暖流によって暖められた空気が、偏西風によっ
てヨーロッパに運ばれているから。
② 社会的事象の意味・意義を解釈する活動 -ヨーロッパの文化と歩み(2/4時)-
ヨーロッパの民族や言語の分布図を提示することで、生徒は、「ヨーロッパには言語や民族な
ど様々な文化の違いがある」というヨーロッパの多様性に気付いた。また、年表によってヨーロ
ッパ諸国の植民地政策や二度の世界大戦について学ぶことで、生徒は「ヨーロッパは二度の世界
大戦を経験している」
「ヨーロッパ諸国は、それぞれの国の繁栄のために植民地を拡大している」
というヨーロッパの歴史的背景に着目した。
前単元のアジア州では、経済的、政治的、文化的な結び付きを強めるために、東南アジア諸国
連合という組織が誕生し、国同士が協力したことを学習している。このことと関連付けてヨーロ
ッパにおける国同士の結び付きとしてEUを説明した。生徒から「様々な違いがあるヨーロッパ
の国々がどうして一つにまとまることができたのだろう」という疑問が出された。そこで、「文
化が違い、戦争をした国々がなぜEUとしてまとまることになったのか」という課題を設定した。
そして、次のフォーマットの「結論」に入れて、
「資料・データ」と「理由付け」に当てはま
る社会的事象を考えて説明するよう指示した。生徒は、教科書の資料を基にして、資料・データ
を読み取り、
「理由付け」して記述し説明することができた。
「民族や言語が違い、戦争をした歴
史があるから、戦争をしないために協力したのではないか」と、歴史的背景に着目する生徒が多
かった。それに対して、
「ASEANと同じようにヨーロッパの国々が政治的、経済的に協力し、
アメリカやアジアの国々に対抗するためではないか」と、政治的・経済的に協力体制を作るとい
う視点から説明する生徒も見られた。
資料・データ
・民族や言語が違う。
・戦争をした歴史がある。
・ヨーロッパの国は日本に比
べ面積が小さく、人口もあ
まり多くない国が多い。
・ASEANも東南アジアの
国々が経済的、政治的、文
化的に協力した組織だ。
結論
文化が違い、戦争をした国々がEUとして
一つにまとまった。
理由付け
・戦争をしないために協力した。
・アメリカやアジアの国々に経済的、政治的に
協力して対抗しようとした。
・ASEANと同じようにヨーロッパでも国同
士の協力で発展しようと考えた。
③
社会的事象の中の問題や課題に対して自分の考えを論述する -EUの課題(4/4時)-
EUとしてまとまる意味・意義を解釈した生徒は、国同士が「本当にまとまることができてい
るのか」「協力するとはどういうことか」という疑問をもつ生徒が多くいた。
そこで本時では、
「現在のEUが発足する中で、人々の生活にどのような変化があったか」と
問い掛けて、教科書の資料を参考にEUの特色について、
「良い変化」と「悪い変化」の二つの
視点から調べさせた。ある生徒は、以下のようにワークシートに記述した。この生徒は、EUの
経済的な特色について、二つの視点からまとめることができている。
◎EUの統合による生活の変化
良い変化
・人々が自由に国境を越えて行き来できる。
→手続き不要、旅行者増加。
・輸入品に税金が掛からない。
→貿易が盛んになった。
・両替不要。
悪い変化
・加盟国同士の産業や生活の域内格差が生まれて
いる。
・新たに加盟した国の人々がドイツなど工業の発
達した国に出て行ってしまう。→失業者増加
・東ヨーロッパの国にドイツやフランスが工場を
出す。
・福祉の水準が低下。
・漁業が規制。
9割以上の生徒が良い変化に「国境を自由に行き来できる(パスポートがいらない)
」
「関税が
掛からない(貿易の拡大)」「共通通貨(ユーロ)」などを挙げ、悪い変化に「EU加盟国の産業
や賃金の差」が挙げられた。ここで生徒から、
「悪い変化があるのに、なぜ一つにまとまる必要
があるのだろうか」という疑問が出された。ヨーロッパの国々が協力して外国に対抗するために
組織したEUに対する「悪い変化」に着目することで、EUには課題があることをとらえること
ができた。
そこで、生徒がEUという社会的事象について今後もかかわっていく視点が得られるように、
EUの課題について自分の考えを論述させる活動を入れて「資料・データ」
「理由付け」を記述
させた。次の生徒は、教科書にある「加盟国が増えたEU内では、産業や生活の域内格差が大き
な課題となっている」という記述に着目し、次のフォーマットのように整理し、なぜ課題ととら
えられるかを理由付けた。
資料・データ
・加盟国が増え、域内格差が
生まれている。
結論
EUの課題は域内格差である。
理由付け
・大国アメリカと対抗するためにEUとしてまとまったのに、格差が生まれ一部の国しか発展
しなくては、まとまる意味がないから。
他にも「資料・データ」として、
「東ヨーロッパの人々が西ヨーロッパに働きに来る」
「賃金が
安い東ヨーロッパに工場を造る」に着目する生徒も見られたが、結論は「EUの課題は域内格差
である」としていた。
(2)研究テーマについて
① 単元内の学習活動をア~エの視点で意図的に設定することについて
「授業の実際①」において、事象1~3を関連させることで生まれた課題に対し、北大西洋海
流と偏西風がヨーロッパの気候に影響しているという事象を関連させて説明することができた。
生徒は、ヨーロッパの気候に対して、緯度だけで気候を判断するのではなく、海流と風邪の影響
という新しい視点入れて認識を深めることができるようになった。
また、「授業の実際②」では、ヨーロッパの歴史を背景とした事象と事象を関連させて生まれ
た課題「文化が違い、戦争をした国々がなぜEUとしてまとまることになったのか」に対して、
資料や既習の知識を活用しながらEU発足の意味や意義を説明することができた。生徒は、「戦
争をさけ、経済や政治などで力を増したアメリカ合衆国に対抗するため互いに協力して発展して
いこう」という考えに気付き、違いがあっても国同士がまとまることの価値を見いだした。
「授業の実際③」では、EUに加盟する(国と国が協力する)ことによって起きた生活の変化
について、
「良い変化」と「悪い変化」の二つの視点からまとめて、新しくデメリットとなるE
Uの課題を自分の考えで論述させることができた。生徒は、国と国とが協力することには、経済
的なメリット、デメリットの二つの見方があり、EUの特色を多面的・多角的に理解することが
できた。
以上のことから、ア~エの活動を意図的に設定すると、生徒の思考力・判断力・表現力を育て
ることができる。また、自分の考えをもち、社会的事象にかかわろうとする生徒を育成できると
考える。
② フォーマットを用いて言語活動を充実させることについて
今回の実践では、
「どの資料・データを活用し、結論に結び付けるためにどんな説明(理由付
け)を行うか」ということを生徒が意識して言語活動することが思考力・判断力・表現力を育
てる活動になると考えた。授業の実際①~③のようにフォーマットを用いて説明する、自分の
考えをもつことは生徒の意見を整理するのに役立ったと考える。また、言語活動の際に、自由
記述をするよりも、お互いにどんな資料を選択したか、どんな理由付けをしたかが分かりやす
く、相手の意見と自分の意見を比較しやすかったと考える。
(3)今後の課題
① 社会的事象に対して何が課題なのかをとらえるための手立ての工夫
「授業の実際③」では、自分の考えでEUの課題をとらえ、論述する活動を行った。本実践前
は、自分の考えを論述するということのとらえは、
「どうしたらよいか、どの解決策がより望ま
しいか」という視点が必要であると考えていた。しかし、EUの課題に対して解決策を見付ける
ことは中学生段階では難しく、また、限られた時間の中では十分な解決策を考えることができな
いと感じた。例えば、同じようなことが「アフリカのモノカルチャー経済をどうしたらよいか」
「南アメリカ州の環境問題を解決するには」という課題設定でもいえる。
したがって、本実践のように、「大国アメリカと対抗するためにEUとしてまとまったのに、
格差が生まれ一部の国しか発展しなくては、まとまる意味がないから」という理由付けからEU
の課題をとらえることにも価値があると考える。つまり、社会的事象に対して何が課題なのかと
らえるということも、思考・判断した社会的事象を自分の考えで論述する(表現する)力を育成
することにつながるのではないかと考える。生徒が社会的事象に今後も主体的にかかわっていく
ためには、その事象の課題を明確にとらえ、なぜ課題といえるのかと自分の考えをもつことが必
要である。今後も様々な単元の中で検証していきたい。
②
多面的・多角的に社会的事象を見るための手立ての工夫
「授業の実際③」において、EUの課題を多角的にとらえることができるように、
「EU加盟
国でもイギリスのようにユーロを使用していない国もある」
、
「EU加盟国では1年間の所得に大
きな違いがある」という社会的事象に気付くような資料を提示した。
しかし本実践では、生徒はEUの課題を教科書にある「加盟国が増えたEU内では、産業や生
活の域内格差が大きな課題となっている」という記述でとらえてしまったので、「域内格差」に
ついて多角的に考察して理由付けることができなかった。つまり、生徒がEUの課題をとらえる
資料として活用しなかったのは、生徒の中でEUの課題を考える社会的事象として明確になって
いなかったということである。
そこで、次のように整理し、
「域内格差」が生じる具体的な社会的事象を見付けて理由付けを
論述する活動をすれば、多角的にEUの課題をとらえることができると考える。
資料・データ
・加盟国が増えている。
結論
EUの課題は域内格差である。
理由付け(例)
①西ヨーロッパの国々に、労働者が多くなり、失業者が増え、EU加盟国の間に不満が出てく
るから労働者の生活水準の差が課題である。
②加盟国によっては、自国の利益を優先させている(EUに加盟するデメリットを感じている)
ので、EUが将来的に発展していくか疑問であるから加盟国のEUへの協力度合いの差が課
題である。
③財政が破綻している国に、お金を使わなくてはいけないので、EUの存続が不安定だから加
盟国の経済格差が課題である。
「授業の実際③」のように、自分の考えを論述する時には、生徒が多面的・多角的に考えること
ができるように、生徒の思考を意識した資料提示も合わせて工夫したいと考える。