YES WE CAN が歌い継ぐ歴史コミュニケーション

Kyushu Communication Studies, Vol.8, 2010, pp. 10-20
©2010 日本コミュニケーション学会九州支部
【
研究発表論文
】
♪YES WE CAN♪ が歌い継ぐ歴史コミュニケーション
宮下
和子
(鹿屋体育大学)
♪YES WE CAN♪ Sings the History of the United States of America
MIYASHITA Kazuko
(National Institute of Fitness & Sports in Kanoya)
Abstract.
This paper aims to discuss the significance of the CD album, YES WE CAN,
in terms of its relationship with American history. The album was released on
December 18, 2008, six weeks after Senator Barack Obama was elected the President
of the United States and made his victory speech in Chicago on November 3. The
74-minute-long album is compiled of 18 pieces of music from varied genres, which were
selected from 10 hours of music offered for this unique project. Also, the album is
accompanied by a number of speeches and “spoken words” of both the late Dr. Martin
Luther King Jr. and Senator Barack Obama.
0.はじめに
2008 年 11 月アメリカ大統領選を劇的に勝ち抜いたオバマ氏の勝利演説、その6週間後
に発表されたアルバム, YES WE CAN-Voices of A Grassroots Movement は、オバマ氏並
びに故キング牧師の演説を随所にちりばめた 18 曲からなる記念 CD である。そのライナ
ーノートの冒頭で、製作者マッキーヴァー(Steve McKeever)は、“Probably never before
in modern history has a political campaign inspired so many artists to create art in the
reflection of the themes, hopes, aspirations and ideals embodied in the movement that
was created in its wake.”と述べている。すなわち、オバマ・キャンペーン中の「草の根
運動」に、どれほど多くの多彩なアーティストたちが各自のサウンドとともに熱狂的に関
わっていたかを強調している。実際、10 時間に及ぶ膨大な提供楽曲の中から厳選された曲
目リストは、ロック&ロール、ポップ/スポークン・ワード(Spoken Word)、リズム & ブ
ルース、ヒップホップ、カントリー、ゴスペル、ジャズ、クラシックと多岐なジャンルに
渡り、まさにアメリカ史と連動するアメリカ音楽を「アメリカ物語」として歌い継いでい
るかに見える。
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本稿では、約 230 年前、矛盾を抱えて誕生した「理念の国」アメリカを、その正と負の
物語が織りなす歴史コミュニケーションとして歌い奏でる本アルバムの意義について考察
する。具体的には、アメリカ史を 18 世紀の独立戦争に集約される「多数から一つへ」(E
Pluribus Unum)、19 世紀の南北戦争と黒人音楽文化の台頭、20 世紀の「戦争の世紀」の
反映と公民権運動の遺産、21 世紀の「911」後のテロとの戦いがあぶりだした「永遠性」
という時代性で捉え、本アルバムの歴史コミュニケーション力を 18 曲それぞれのコンセ
プトとともに考察したい。なお、研究発表においては、音源をフル使用したが、本稿では
叶わないため、必要に応じて歌詞とスピーチを引用したい。
1. Yes We Can の誕生―Voices of Grassroots Movement
1.1.製作者スティーヴ・マッキーヴァー
シカゴ出身のマッキーヴァーは、ハーバードロースクールを卒業後、ロス・アンジェル
スで芸能界弁護士(Entertainment lawyer)を務めた後、音楽業界に転身し、1991 年か
ら 1997 年までデトロイトのモータウン・レコードに勤務した。1998 年、自ら Hidden Beach
Recordings(HBR)を設立し、大学生のインターンシップ・プログラム(400 名)など画
期的な試みなど、業界のリーダーと目され、2004 年 11 月 17 日号の The HistoryMakers
にもインタビュー記事が掲載されている
1) 。
本アルバムのライナーノートで、マッキーヴァーは、“This CD is just a hair shy of the
maximum content limit. We are now discussing vehicles to provide proper attention to
some incredible works not contained here.”と述べ、
「これはほんの一部だ」と今後への制
作意欲をのぞかせている。こうした試みは奥田(2005)の以下の指摘が予言していよう。
過去 300 年あまりの間に、さまざまな音楽の共存を許し、それらの触れ合いと反発
の間に新しい表現法を育み、それを「アメリカの音楽」として育ててきたこの国は、
今後も巨大な実験室として、今までに増しての混沌の中から、アメリカならではの
何かを生み出していく潜在力を保っているように思われる。(p. 292)
1.2.スポークン・ワード(Spoken Word)―理想を語る生の声
スポークン・ワードは、歌詞、詩、物語を「歌う」というより「話す」ジャンルで、パ
フォーマンス・ポエトリーとして、1990 年代に関心を引くようになった。その代表として
トラック(Tr.)14 “Promised Land”( Malik Yusef With Kanye West And Adam Levine Of
Maroon)を挙げたい。シカゴサウスサイド出身のマリク・ユセフはスポークン・ワード
のリーダーといえ、映画「Love Jones」(2004)のポエトリー・シーンへの出演も果たし
ている
2) 。
本作品“約束の地”は、ソロアルバム
The Great Chicago Fire-A Cold Day in Hell
(2003)からの抜粋で以下のフレーズが際立っている。
And this is a declaration that we’ll be there again
Especially to those Americans
Who were Americans before there were Americans
次に、Tr. 6 “Make It Better”(Los Lonely Boys)を取り上げたい。テキサス出身のラテ
ン・ロック・バンド、ガルサ 3 兄弟(Henry Garza, Jojo Garza and Ringo Garza)の作
品及び演奏で、アルバム Forgiven (2008)に収録された。以下の歌詞が続くオバマ氏の
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フレーズ“Yes, We Can”とシンクロしている。
Take your time
And you’ll find what you’re looking for
And search your heart
And your mind, you will soon discover
Obama Speech:
For when we have faced down impossible odds
When we’ve been told that we’re not ready
Or that we shouldn’t try, or that we can’t
Generations of Americans have responded with a simple creed
That sums up in the spirit of the people
Yes we can, yes we can
2.歴史と連動するアメリカ音楽
2.1.18 世紀(独立戦争)「多数から一つへ」
“E Pluribus Unum”というラテン語のフレーズは“out of many, one”(多数から一つへ)と
意味し、アメリカ合衆国の記章に描かれたハクトウワシが口にくわえた布に記されている
(図1)。両翼を広げたワシは、右足に「平和」を象徴する 13 枚の葉をつけたオリーブの
枝、左足に「戦争」を象徴する 13 本の矢をつかむ。ワシの頭はオリーブの枝のほうに向
けられ、戦争ではなく平和な世界を願った思いがこめられている。ワシの頭上には「栄光」
を表す 13 個の星が六芒星の形に並べられ、青地の中に輝いている。
この 18 世紀の建国理念を代弁するのが、Tr.10 の“One Is The Magic #” で、作詞者ジ
ル・スコット(Jill Scott)が歌い、アルバム Who Is Jill Scott(2000)に収録されたもの
である。スポークン・ワードのフィールドで鍛えた彼女は、Identity と相互理解の大切さ
を訴える。「何かを変えたいのら、まず自分自身をしっかり持って、”I”という魔法の数字
に含まれた意味と力を信じること。そして、同じように、違う”I”を持つ人と分かりあった
上で一つになる」トラック9の最後のオバマ氏のスピーチ「万人は 1 人のために 1 人は万
人のために」に呼応している。そして以下のオバマ氏のスピーチが続く。
Obama Speech:
E pluribus Unum: out of many, one
In the end that’s what this election is about
Do we participate in a politics of cynicism
Or do we participate in a politics of hope
One voice can change a room
And if one voice can change a room
Then it can change a senate
And if it can change a senate
It can change a state
And if it can change a state
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図1:アメリカ合衆国の記章
It can change a nation
And if it can change a nation
It can change the world
Your voice can change the world
Your voice can change America
つまり、「変革」は自分から声をあげ、やがては世界を変えるのだと強調する。
2.2.19 世紀「南北戦争」
19 世紀のアメリカは、antebellum(南北戦争前)という言葉があらわすように南北戦
争抜きには語れない。その象徴として、かつて奴隷船の船長であった英国人牧師、ジョン・
ニュートン(John Newton, 1725-1807)が作詞した“Amazing Grace”や、アメリカ初のプ
ロソングライターであるフォスター(Stephen Collins Foster, 1826-1864)による黒塗り
(Blackface)のミンストレル・ショーの農園歌(Plantation Melodies)があげられるだ
ろう。
本アルバムではその具現化として Tr.4 の“American Prayer” をあげたい。歌い手はイ
ングランド東部、サンダーランド出身の Dave Stewart で、U2 の Bono とリメイクした真
にソウルフルな楽曲である。スチュアートは、
「アメリカの祈り」として、オバマが山の頂
に立つまでの 40 年間、
「変革の賛歌」を歌い続けた人々を忘れてはならないと歌い、1968
年 4 月 3 日の暗殺前夜のキング牧師の演説“I’ve been to the mountaintop.”が続く。
Dr. Martin Luther King Jr. Speech:
I just want to do God’s will
And he’s allowed me to go to the mountain
And I’ve looked over, and I’ve seen the Promised Land
I may not get here with you
But I want you to know tonight
That we as a people will get to the Promised Land
また、当時西部開拓を推し進めていたアメリカの自然を象徴するものとして、Tr.16 の
“America the Beautiful” をあげたい。ケブ・モ(Keb ‘MO’)がブルース調で歌う「アメ
リカ・ザ・ビューティフル」は 1882 年、ベイツ(Katherine Lee Bates)の詞にウオード
(Samuel A. Ward)が-作曲したもので、ベイツは 14,000 フィートのパイク峰から見て感
激したアメリカの自然の美しさを、“ America!
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America!/ God shed his grace on thee,/
And crown thy good/ With brotherhood,/ From sea to shining sea. と表している。そのあ
とにオバマ氏のスピーチが続く。
Obama Speech:
We’ve made our share of mistakes
And there are times when our actions around the world
Have not lived up to our best intentions
But I also know how much I love America
I know that for more than two centuries
We have strived at great cost and great sacrifice
To form a more perfect union
ベイツの自然の美しさに加え、より完璧な団結(国家)を求め続ける母国を謳っていると
いえよう。
2.3.20 世紀「戦争、公民権運動」
「戦争の世紀」の別名を持つ 20 世紀には、黒人霊歌、ジャズ、ゴスペル、ロックンロ
ール、ブルース、ソウル、ブルーグラス、ラップ等々、多種多様な音楽が生まれた。80 年
代になると、アーティストたちが結集し、アフリカ飢餓支援のための USA for Africa によ
る“We Are the World”(1985)や、キング牧師連邦祝日(King Holiday)制定を祝福する
King Dream Chorus による“King Holiday”(1986)などが生まれた。
本アルバムからは、King Holiday 制定推進運動のリーダーでもあった Stevie Wonder
の Tr. 2 “Signed, Sealed, Delivered I’m Yours”をあげたい。ミシガン州サギノー出身のス
ティービー・ワンダーはオバマ・サポーターのリーダーでもあり、本楽曲を「僕の未来は
君に託された」(My future in your hands)とオバマ氏が遊説に使用した。
I’ve done a lot of foolish things
That I really didn’t mean, didn’t I?
Seen a lot of things in this old world
When I touch them, they mean nothing, girl
Oo, baby here I am, signed, sealed, delivered, I’m yours!
今までの間違った古い時代から新しい時代へと希望を託している。
さらに、もう一曲 Tr. 12 “Looking East ” (Jackson Browne)を挙げたい。ドイツのハ
イデルブルク生まれでロス・アンジェルス育ちのジャクソン・ブラウンは、アメリカン・
ロック史に名を残す男性シンガーソングライターの代名詞的存在である。1960 年代後半よ
り、イーグルス(the Eagles)などに曲を提供していたが、1972 年、アルバム Saturate
Before Using でデビューした。1980 年には Hold Out で全米チャート 1 位となり、1983
年、Lawyers In Love でレーガン政権下右翼化するアメリカを皮肉り、No Nukes では ス
リーマイル島原子力発電所放射能漏れ事故に抗議した。1985 年、南アフリカのアパルトヘ
イトに反対するチャリティ・アルバム Sun City に U2 らと参加した。本作品は 1996 年の
Looking East のタイトル曲で、 How long have I left my mind to the powers that be?/
How long will it take to find the higher power moving in me? という問いが、Looking
east というフレーズに呼応している。
14
2.4.21 世紀「911」を超えて
まず、Tr. 9 “Am I All Alon e” (Suai)を挙げたい。ミシガン州デトロイト出身で“モ
ータウン”とサインした 22 歳の新人スウェイは、ションテル同様に、このプロジェクト
に大抜擢されたニュー・ジェネレーション代表で、ゴスペル、ジャズの素養を持つ“才女
系”シンガーソングライターといわれる。不安と不穏に満ちたアメリカと地球への危惧を
子供の安否を気遣う母親の言葉に綴り、それにオバマ氏のスポークン・ワードが呼応する。
Mother are crying all night long
Waiting for their kids to come home
Does anybody see there’s something wrong?
The earth we’re living on today
Is never ever gonna be the same
If we don’t wake up and make a change, oh Tell me.
Obama Speech:
What holds this nation together is that fundamental belief
That we all have a stake in each other
That I am my brother’s keeper, that I am my sister’s keeper
And in this country, we rise and fall together
It’s an idea that’s familiar to all of you
Because it’s summed up by LULAC’s founding creed:
All for one and one for all
*LULAC=League of United Latin-American Citizens
続いて、Tr. 15“Hold On ” (Yolanda Adams)を挙げたい。テキサス州ヒューストン出
身のヨランダ・アダムズは小学校教師をしつつモデルを経たコンテンポラリー・ゴスペル
の歌姫である。本楽曲は 2007 年の What A Wonderful Time からのシングルカットで、
アメリカの夢に基づく自分の信念が描出されている。
You’ve got dreams and
You’ve got goals there’s a vision
Burning down in your soul
Hold on, there’s nothing that you can’t do.
3.キング牧師の遺産
3.1.I Have A Dream「アメリカの夢」
一つ目の遺産として、1863 年 8 月 28 日のワシントン大行進におけるスピーチ「私にも
夢がある」をとりあげたい。Tr. 8 “I Have A Dream ” (Bebe Winans)は、故キング牧師
(Martin Luther King Jr)のスピーチを基調とし、ミシガン州デトロイト出身のベンジ
ャミン(Bebe)・ワイナンズが楽曲化した。ベンジャミンは、世界で一番有名なゴスペル
界のロイヤル・ファミリー、ワイナンズ家 10 人兄弟姉妹の7番目で、本楽曲はソロ5作
目の Dream (2005)に収録されている。
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3.2.Non-Violence「非暴力」
二つ目の遺産といえる「非暴力の精神」は、Tr.7 “Pride, In The Name Of Love ”(John
Legend)に具現化されている。ジョン・レジェンドはオハイオ州スプリングフィールド出
身で、ゴスペルをルーツとする。オバマ氏の熱烈な支持者(“I’m strictly Obama!”)で、
オバマ応援歌、“Yes We Can” を will.i.am(William James Adams, Jr)と.共同制作し、
2008 年 2 月ネット配信して 2000 万人が見たという。オバマ大統領の half brother でハワ
イ大学講師のコンラッド・ング(Konrad Ng)博士は、アメリカの政治文化を文化的対象
或いは文化的想像として論じたが、特に新たなマス・メディアとして YouTube を取り上げ、
2008 年の大統領選においてオバマ氏が驚異的なグローバル・パワーを放った事実を基に、
そ の 政 治 的 活 動 を 取 り 上 げ 、 今 や YouTube は ア メ リ カ 政 治 の 「 文 化 的 語 彙 」( cultural
vocabulary)に定着したと強調している。本作品はアルバム Evolver (2007)に収録され
たものである。
3.3.キング牧師からオバマ大統領へ
上記の Tr. 7 の最後に以下のオバマ・スピーチが続き、キング牧師の「遺産」を受け継
ぐには、自分たち一人一人が「正義」に向かって行動することが必要であることを強く訴
えている。
Obama Speech:
Dr. King once said that
The arc of the moral universe is long
But it bends toward justice, bends toward justice
But here’s the thing
It does not bend on its own
It bends because each of us in our own way
Put our hand on that arc and we bend it
In the directions of justice
Because we organize, we mobilize
We march, we vote.
4 バラク・オバマのスポークン・ワード
4.1.Change has come「変革の時代」
オバマ氏の代名詞ともなった Change( 変革)の象徴として、Tr. 3 “Waiting on the World
to Change”(John Mayer)を挙げたい。自作を歌うジョン・メイヤーは 1977 年、コネチ
カット州生まれでジョージア州アトランタ育ちのギタリストであるが、ブルース・ギタリ
ストとしてもエリック・クラプトンなどと競演し、
「現代版3大ギタリスト」
(Rolling Stone
誌)と称されている。本作品は、アルバム Continuum (2006)のリード・シングルカッ
トであるが、オバマ氏のスポークン・ワードに導入され、曲がスタートする。
Obama Speech:
There is something happening
When Americans who are young in age and in spirit
16
Who have never participated in politics before
Turn out in numbers we have never seen
Because they know in their hearts
This time must be different
4.2.Love and Hope「愛と希望は忘れるな」
オバマ氏の更なる代名詞として Love and Hope があげられるだろう。その象徴として
Tr. 11 “Love And Hope”(Ozomatli)を挙げたい。「Ozomatli」は、ロス・アンジェルス
暴動(1995)の発端となったストライキで知り合った、アフリカ系アメリカ人、メキシコ
人、キューバ人、日本人、フィリピン人、ユダヤ人から構成されるミクスチャーバンドで
ある。Ozomatli とはナワトル語(ユト・アステカ語族)で「アステカのダンスの神」を表し、
「国籍・人種・音楽」の壁を壊し、ボーダレスな世界観を提示する。
「愛と希望は絶対に捨
てるな!」とのアピールが、オバマ氏のスポークン・ワードとシンクロする。
Obama Speech:
But we always knew that hope is not blind optimism
It’s not ignoring the enormity of the task ahead
Or the roadblocks that stand in our path
It’s not sitting on the sidelines
Hope is that thing inside us
4.3.NAACP(全米黒人地位向上協会)賞受賞
NAACP(National Association for the Advancement of Colored People)は 1909 年 2
月 12 日(リンカーン誕生日)、アフリカ系アメリカ人委員会として設立され、特に 1950
年代は公民権運動の指導的組織として注目を浴びた。最近では、2004 年、ブッシュ大統領
が大会の招待演説を断ったことで話題になった。オバマ氏は、2005 年にイメージ賞(Image
Award)と特別賞(Chairman’s Award)をダブル受賞している
3) 。
NAACP の 1 世紀にも及ぶ闘いの象徴として Tr. 5 “Battle To Cry”(Shontelle)を挙げ
たい。ションテルは、カリブの島国バルバドス出身で収録時 23 歳、弁護士を目指すも音
楽に転向した。2008 年 11 月のデビュー・アルバム Shontelligence に収録された本作品は、
オバマ氏のスポークン・ワードで導入されている。
Obama Speech:
We know the battle ahead will be long
But always remember that
No matter what obstacles stand in our way
Nothing can stand in the way of the power of millions of voices
Calling to change
4.4.グラミー賞(Grammy Award)受賞―スポークン・ワード部門
オバマ氏はスポークン・ワード部門において、2 度のグラミー賞を受賞している。2005
年の第 48 回グラミー授賞式においては、Best Spoken Word Album として Senator Barack
Obama:Dreams From My Father で受賞した。また、2007 年の第 50 回年次授賞式では、
同ジャンルで、Barack Obama:The Audacity Of Hope: Thoughts On Reclaiming The
17
American Dream で受賞している
4) 。
これらの受賞後、オバマ氏が乗り越えていく試練の象徴として Tr. 18 “Wide River To
Cross”(Buddy Miller)を挙げたい。バディ・ミラーは、オハイオ州フェアバーン出身で
テネシー州ナッシュビルを拠点に活動するカントリー・ロック界のベテラン・ギタリスト、
シンガーソングライターかつプロデューサーである。本楽曲は、愛妻でカントリー界の人
気シンガー=ジュローミラーとのデュエットで Universal United House of Prayer
(2004)で披露したものであるが、多難な前途に決意を語る歌詞にオバマ氏のスピーチが
続いている。
But I can not look back now
I’ve come too far to turn around
And there’s still a race ahead that I must run
I’m only halfway home I gotta a journey on
To where I’ll find the things that I have lost
I’ve come a long long road still I’ve got miles to go
I’ve come a wide wide river to cross
Obama Speech:
We want to talk about the men and women of every color and creed who serve
together
And we want to talk about how we’ll show our patriotism
By caring for them and their families
Giving them the benefits that they have earned
5.おわりに―歌い続けるアメリカ史
本稿では、矛盾を抱えて誕生した「理念の国」アメリカを、多種多様な音楽が故キング
牧師とオバマ氏のスポークン・ワードとシンクロしながら歌い奏でるアルバム YES WE
CAN の意義を、それぞれの楽曲のコンセプトとともに考察を試みた。研究発表で使用した
音源は提示できなかったが、歌詞とスポークン・ワードを部分的に引用し、本アルバムの
「アメリカ性」の提示を試みた。
このように歌い続けるアメリカ史の象徴として、Tr. 17 ”America”(Ken Stacey)を挙
げたい。ロス・アンジェルス生まれのケン・ステイシーは 1970 年代にはロックバンド「ア
ンブロージア」に籍を置いたボーカリストで、本楽曲では「アメリカ」を希望の光として
歌いあげている。
America
I sing to you tonight
You’re a candle in the darkness
A bright and shining light
So many different faces
Each one with a dream
You’re never changing tapestry
18
More than what you seem.
America
You live inside of me.
最後に、 YES WE CAN のために書きおろされた新曲で、そのコンセプトを「永遠なる
場所」として具現化している Tr. 1 “Eternity”(Lionel Richie)を紹介し、まとめとした
い。ライオネル・リッチーはアラバマ州タスキーギ出身で、コマドアーズ時代に R&B ポ
ップス界シンガーソングライターとして注目されるようになった。前述した“We Are the
World”(1985)は、故マイケル・ジャクソンとの共作として良く知られている。以下に、
コンセプトの連二つとイントロ及びエピローグのオバマ氏の演説を引用し、本アルバムの
アメリカ音楽史における意義を体感したい。
Obama Speech:
What we know, what we have seen
Is that America can change
That is the true genius of this nation
What we have already achieved gives us hope
The audacity to hope
For what we can and must achieve tomorrow
(Chorus)
There is a place for us
For all the world to see
There is a place out there. I know somewhere
For all eternity
(中略)
Yes, the sun will shine on, I know
For all that find hope
For all mankind
Where we can find love
Obama Speech:
I chose to run for President
To continue the long march of those who came before us
A march for a more just, more equal, more free
More caring and more prosperous America
註
1)
2)
3)
4)
Hidden Beach Recordings(http://www.hiddenbeach.com)を参考(2009 年 10 月 1 日閲覧)。
Malik Yusef( http://malikyusef.com)を参考(2009 年 10 月 1 日閲覧)。
NAACP(全米黒人地位向 上協会)(http://www.naacp.org)を参考(2009 年 10 月 1 日閲覧)。
Grammy Award(グラミー 賞)(http://www.grammy.com)を参考(2009 年 10 月 1 日日閲覧)。
19
引用文献
奥田恵二(2005)『「アメリカ音楽」の誕生―社会・文化の変容の中で』河出書房新社。
YES WE CAN-Voices of a Grassroots Movement (2008). Hidden Beach Recordings. ラ
イナーノート。
The 29 th Forum for American Studies by the Center for Asia-Pacific Exchange
(CAPE), at the University of Hawaii, August 4-11, 2009.
20