先進オフィス大研究

先進オフィス大研究
新時代のノンテリトリアルオフィスは
機能別にゾーニングされたワークプレイスの構築と
「楽しさ」を感じる空間づくりがキーワードになる
個人の専用デスクをなくしたノンテリトリアルオフィスを採用する企業が登場してから、すでに15年以上が経ちます。
この間、さまざまなケーススタディが重ねられていくことで、
「働く空間」への意識は大きく変わってきました。もともと
省スペース目的で始まったフリーアドレスやグループアドレスは、情報化の進展とともに進化し、今ではスペース効率
だけでなく知的創造性の向上や快適性といった目的に変わりつつあります。ワークスペースに集まることが楽しくなる
ような空間の演出。それこそがノンテリトリアル化の重要な目的といってもいいでしょう。今号の特集では、新しいタイ
プのノンテリトリアルオフィスを構築して成功している企業の例を、過去の掲載分を含めて7社、紹介していきます。ぜ
ひ、これからのオフィスづくりの参考にしてください。
■第五世代のノンテリトリアルオフィスは
ユーザーの満足度を優先する空間になる
■常に進化していくオフィスをつくることが
ファシリティマネジャーにとって最大の課題
最近、
オフィスのリニューアルを進め、
ノンテリトリアル型を採用した企
新世代のノンテリトリアルオフィスの取材を続けていて気づいたのは、
業には、
いくつか共通した特色が見られる。
どの企業のファシリティマネジャーも「最終的なゴールはない」と考えて
第一は、
その多くがこれまでにもフリーアドレスなどの導入を経験したり、
いることだ。たとえば、早くからフリーアドレスやグループアドレスを採用し
オフィスづくりへの高い意識を持っており、新しいノンテリトリアルオフィ
ていた日本アイ・ビー・エムとイトーキでは、
これまでに何度も調査を行い、
スの可能性を追求しようとしている点だ。このため、旧世代の省スペー
その経験をもとに、
より進化したノンテリトリアルオフィスの構築に挑んで
ス目的のノンテリトリアルオフィスとは異なり、ユーザー(ワーカー)の満
いる。また、新しくノンテリトリアル化した企業でも、ユーザーの声には熱
足度の向上を大きな目的としている。
心に耳を傾けて改善を継続しているだけでなく、時期が来れば再び大規
第二は、
オフィスに求められる機能と、ユーザーが期待する楽しさの両
模なリニューアルを行う計画だ。
立を目指している点だ。機能面の強化では、
「同じデスクでパーソナル
企業を取り巻く環境や社会の変化によって、
ビジネスモデルだけでなく、
な作業からコミュニケーションまですべてを完璧に行うことはできない」と
ワークスタイルもライフスタイルも常に変わっていく。だからこそオフィスは、
の考えから、仕事の内容に合わせた目的別スペースのゾーニングは常
空間的にも時間的にもフレキシブルなものでなくてはならない。
識になってきている。その結果、働く場所が選べるようになってくるとも
ここに紹介する新世代のノンテリトリアルオフィスは、
あくまで取材時
はや個人のデスクの必要性は少なくなり、結果としてノンテリトリアル化
点の姿だ。数年後、
これらのワークプレイスがどのように変化していくか、
がベターだという発想が、新しいオフィスレイアウトを生み出した。
本誌では今後もこのテーマを調査し、報告していく予定である。
オフィスの進歩は、経営環境の変化といった外的な要因だけでなく、
ユーザーの求める環境を実現するという内的な要因によっても起こる。
新世代のノンテリトリアルオフィスの登場は、
まさに時代の要請によるも
のといってもいいだろう。
ノンテリトリアルオフィスの歴史(情報化社会以前から現在まで)
● 第一世代 省スペースを目的とした情報化社会以前のノンテリトリアル
オフィススペースの不足から省スペースが課題に。在席率の低い営業部門などを中心に、
個人席を無くしたノンテリトリアルオフィスの導入がはじまる。。
● 第二世代 日本から世界に発信された情報化社会初期のノンテリトリアル
部署内に自由席ゾーンを採用したフリーアドレスオフィスが「日本アイ・ビー・エム 箱崎事業所」に誕生する。
このオフィスは米国で注目を浴び、
これをきっかけにホテリングオフィスが考案される。
● 第三世代 フレキシブルに対応できるノンテリトリアル
フリーアドレスオフィスは柔軟性の向上を課題にさらに進化。スペース効率はもちろんのこと、
生産性の向上を視野に入れたオフィスづくりが求められるようになる。
● 第四世代 ITの進歩によるノンテリトリアル
ITの進歩により、
モバイルを活用した「どこでもオフィス」が本格的に稼動。同時にそれは、
働き方の変化とも言え、工業社会(生産性)から知識社会(創造性)へシフトする幕開けとなった。
● 第五世代 機能と楽しさを両立させたノンテリトリアル
多目的スペースの採用による知的創造性の向上を目的としたオフィスづくりが求められるようになる。
空間の演出がノンテリトリアルオフィスの重要な課題に。
特集のバックナンバーは
http://websanko.comを
ご覧ください。
II 号
05年
04年 10月号
04年 7月号
04年 4月号
03年 11月号
03年 9月号
03年 7月号
03年 5月号
03年 3月号
02年 11月号
02年 9月号
02年 7月号
02年 5月号
02年 3月号
02年 1月号
01年 11月号
無線LANオフィス大研究
期待の『景観法』大研究!
日本橋再開発プロジェクト大研究
J-REITオフィスビル大研究
最新ビジネスエリア大研究(品川)
最新ビジネスエリア大研究(大手町・丸の内・有楽町、六本木、汐留)
「不動産新時代の賃貸借手法」大研究
街づくり計画大研究(チッタ・イタリア)
知識社会を勝ち抜くファシリティマネジメント大研究
ロフトオフィス大研究
大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画の全容
オフィススペースの満足度大研究
インフォーマル・コミュニケーション・エリア大研究
オフィスの人間工学(エルゴノミクス)大研究
一人あたりのオフィス面積大研究
新時代のオフィスビル大研究(丸ビル、六本木ヒルズ)
01年 9月号
01年 7月号
01年 5月号
01年 3月号
01年 1月号
00年 11月号
00年 9月号
00年 7月号
00年 5月号
00年 3月号
00年 1月号
99年 11月号
99年 9月号
99年 7月号
99年 5月号
検証J-REITビル<賃貸借Q&A>
オフィスの立地が変わる
(品川、難波)
新時代のオフィス内装システム大研究
空撮「都市再生」
IT最前線「データセンター」大研究
IT戦略とオフィスコスト大研究
一人あたりのオフィス面積大研究
オフィス立地が変わる
(汐留)
オフィスビル通信インフラ大研究
オフィス立地が変わる
(大江戸線情報、
トリトンスクエア、六本木)
働きやすさ大研究
オフィス内の設備・快適環境大研究
社内情報インフラ大研究
オフィスの満足度調査
モバイルオフィス大研究
ソニーファシリティマネジメント株式会社 本社オフィス
1
2
3
4
5
6
7
カフェ、
コラボレーションスペース、
そしてワーキングエリアと
機能別のゾーニングで生産性を向上させるオフィスへ
P6
日本アイ・ビー・エム株式会社 箱崎事業所
ネットワークで場所を意識せずに仕事ができる
ノンテリトリアルオフィスの最新バージョン
P10
日本テレコム株式会社 汐留コアオフィス
マーケット、広場、公園のある「街」をイメージし
感性を刺激するオフィスで創造性を発揮する空間に
P14
株式会社イトーキ 東京本社オフィス
人が集まる「楽しさ」を演出できるオフィスは
リアルコミュニケーションの促進につながる!
P18
株式会社サキコーポレーション 本社オフィス
社内のコミュニケーションを活発にするだけでなく
成長していく会社のビジョンを表現できるオフィス!
P22
コクヨオフィスシステム株式会社 本社オフィス
ソリューション型の仕事スタイルを推進する
コラボレーション重視の「新世代」オフィスへ
P26
富士通株式会社 富士通ソリューションスクエア
社内のコミュニケーションを活発にするだけでなく
成長していく会社のビジョンを表現できるオフィス
P28
先進オフィス大研究
1
ソニーファシリティマネジメント株式会社 本社オフィス
ソニーファシリティマネジメント株式会社 本社オフィス
カフェ、
コラボレーションスペース、
そしてワーキングエリアと
機能別のゾーニングで生産性を向上させるオフィスへ
カフェ、コラボレーションスペース、そしてワーキングエリアと
機能別のゾーニングで生産性を向上させるオフィスへ
1
■新しいオフィスの概要
対してサービスを行なうコンシェルジュ・カウンターが新たに置かれた。
「オフィス内に<何でも相談所>的なコンシェルジュ・カウンターを設け、
村山 智樹氏
石井 智氏
東京事業部
設備工事部FM課
統括係長
ファシリティエンジニアリングセンター
エンジニアリング部
■ノンテリトリアル化の経緯
オフィスソリューションのプロとして
誇りと自信の持てるワークプレイスへ
カフェやコラボレーションスペースの
多様により「楽しめるオフィス」を演出
サポートや管理を一元化しました。これにより、社員が本来業務に専念
できる環境をつくり出しています」
(村山さん)
ちなみに、
コンシェルジュ・カウンターはカフェ内に設置し、
さらにドリンク
SFMの新しいオフィスに入り、多くの人が最初に感じるのは「楽しさ」
コーナーや文具などのストック、複合機(2台)
もその周囲に集中させるこ
かもしれない。エントランスを入るとまず目に入るのは、街にあってもおか
とで、社員が自然に集まってくるようなレイアウト上の工夫もされている。
しくないようなカフェ。入口の黒板には、手書きメニュー風に「コンシェル
ジュ」
「リビングルーム」
「デジタルミーティング」などの文字が並んでいる。
私たちはソニーグループだけでなく、他の企業に対しても先進的なワー
「これからのオフィスは、パーソナル席からパブリック席へという転換が進
クプレイスのソリューションを提供しているのに、
自社のオフィスがこれで
み、
コミュニケーションの場へと進化していきます。このため、
ワーキング
は仕事に誇りと自信が持てません。そんな理由と拠点戦略から、ゲートシ
エリアは一部だけを固定席にしたノンテリトリアルとし、
それ以上に多様
ティ大崎への移転を決めたのです」
(村山さん)
なコラボレーションスペースを設けたのです」
(村山さん)
約1500名の社員のうち多くは社外で業務に就いているため、本社ス
実際、
「ミーティング」に使えるスペースは多岐にわたる。
■オフィスの評価とビジョン
ワークスタイルの変革に成功したオフィス
今後も定期的に満足度調査を実施する予定
2005年2月14日に運用を開始した新オフィスでは、
それから数日かけて、
ソニーグループの総務・ファシリティ機能を担うとともに、
グループ内
タッフは100人ほど。それでも前のオフィスは使い勝手に問題があったた
気軽に会話や打ち合わせができ、飲食などのリフレッシュにも使える
全社員に問題点や改善点のヒアリングを行った。その結果、
ガラスなど
外の企業に対してワークプレイスの構築支援・コンサルティング・サポー
めスペース効率が悪く、全部で1650㎡ほど借りていたそうだ。
カフェ。会議やプレゼンテーション用のCommunication-Fieldは、通常
を多用した先進的なデザインに「明るくなってよかった」という声が多く、
「賃料コストは現状維持のまま新しいビルに移るには、当然、
スペースの
トサービスなどを行っているソニーファシリティマネジメント
(以下、SFM)
のタイプ以外にも、
リビングルーム風、
ダイニングルーム風など大小6部
また「社外の人にも堂々と見せることができ、
なおかつ社員の働き方を
は、2005年2月まで東急目黒線不動前駅近くのビルに2階と7階の2フ
大幅縮小が課題になりました。
しかし、移転した結果、社員が『狭くなった』
屋が用意されていて、気分で選べる。ちなみにその予約は社内のシステ
変えるという新オフィスの目的は、
ほぼ達成できた」
(石井さん)
と評価で
ロアを借り、本社オフィスとして使っていた。
と感じるようではソリューションとはいえません。そこで私たちは、
オフィス
ムからオンラインで可能だ。
きる内容だったという。
しかし、
オフィスづくりは継続した作業だと認識し
「雰囲気としては、
まったく普通の『日本のオフィス』でした。デスクは6
に求められる機能を徹底的に分析し、
スペース活用の最適化を図って
「これらに加え、集中作業用のConcentration-Field、バブリックファイル
ているだけに、1カ月後、6カ月後、1年後に満足度調査を実施し、
さらに
いったのです」
(石井さん)
を貯蔵するStorage-Field、複合機(コピー、
プリンター、
ファクシミリ)や
人ずつの島型対向配置で、
まわりには書類が溢れている
(笑)。一方で、
文具などの共通サービスを行うパントリーOffice・service-Fieldなど、機
最適化を進めていく予定だ。
「ノンテリトリアルのワーキングエリアは、事前に在席率を調べたうえで、
能ごとにオフィス内を明確に分類することでスペース効率が大幅に高ま
人数の半数程度に減らしましたが、共有スペースを充実させたため、特
っただけでなく、
ワークスタイルそのものが、個人作業からコラボレーショ
に問題は生じていません。結果として、賃借スペースは764㎡と前のオ
ン主体へと変わっていったのです」
(石井さん)
フィスの半分以下にでき、賃料コストを増やすことなく移転できました。フ
ァシリティマネジメントの第一目的は、
あくまで、ユーザーである社員への
■生産性向上のための工夫
サービスの向上ですから、今後も、
もっと使い勝手のいいオフィスになる
ようにさまざまな改善を加えていくつもりです」
(村山さん)
ロッカーとの移動が簡単になる専用バッグ
オフィスサービスのコンシェルジュを設置
ワーキングエリアをノンテリトリアル化することには、社員からの抵抗は
ほとんどなかったという。
「プロジェクトへの対応、
スペースの効率化、
コミュニケーションの促進
の重要性は自分たちの仕事の中でよくわかっていますから、
フリーアドレ
スは当然のことだと受け止められていたようです。ただ導入にあたっては、
自席がなくても不便を感じないように、
さまざまな工夫をしました」
(村山さん)
その一つが、各自に配布されたパソコンバッグだ。ノートパソコンと筆
記具、個人書類などをひとまとめに入れられるバッグを用意し、出退社時
におけるパーソナルロッカーとの移動を簡単にした。加えて、全社員に
気軽に打合せができ、飲食にも利用できるカフェ。
1
ソニーファシリティマネジメント株式会社
本社オフィス
●Executive - Field(エグゼクティブ・フィールド)
エグゼクティブ専用のフィールド。できるだけオープンにし、風通しの良い雰囲気にしている。
●Entrance - Field(エントランス・フィールド)
お客様やチーム内での打ち合わせ、社内イベントやタッチダウンなど多目的に活用できるフィールド。
また、
オフィスコンシェルジュを配置し、
ノンコア業務のサポートも行っている。
●Communication - Field(コミュニケーション・フィールド)
2∼3人でのコラボレーション、
ディスカッション、
プレゼンテーションやテレビ会議などそれぞれのシーンに適したフィールド。
●Work - Field(ワーク・フィールド)
ワークを行うフィールド。席が決まっていないノンテリトリアルになっているため、
どこにでも座って働ける。
また、
オープンな環境のため、
自席周りで即打ち合わせが行える。
●Concentration - Field(コンセントレーション・フィールド)
ドキュメントや報告書などを作成するときに短期集中するフィールド。空いているときは予約せずにいつでも利用できる。
●Storage - Field(ストレージ・フィールド)
契約書やプロジェクトファイルなどのパブリックファイルを貯蔵するフィールド。その他は、
できるだけ倉庫を利用したり電子化を行っている。
●Office service - Field(オフィスサービス・フィールド)
複合機、パントリー、文具などワークプレイス共通のサービスを提供するフィールド。
エントランス部分。左側がカフェ。
リビングルーム風のミーティングルーム。
コミュニケーション
フィールド
コンセントレーション
フィールド
エントランス
フィールド
ワーク
フィールド
全社員に対してサービスを行うコンシェルジュ・カウンター。
サービス
フィールド
コミュニケーション
フィールド
集中作業用のコンセントレーション・フィールド。
コンセントレーション
フィールド
コミュニケーション
フィールド
オフィスサービス
フィールド
ワーク
フィールド
コミュニケーション
フィールド
コミュニケーション
フィールド
エグゼクティブ
フィールド
プレゼンテーションなどに使われるコミュニケーション・フィールド。
フリーアドレスを導入したワーク・フィールド。
先進オフィス大研究
カフェ、
コラボレーションスペース、
そしてワーキングエリアと
機能別のゾーニングで生産性を向上させるオフィスへ
先進オフィス大研究
2
日本アイ・ビー・エム株式会社 箱崎事業所
日本アイ・ビー・エム株式会社 箱崎事業所
ネットワークで場所を意識せずに仕事ができる
ノンテリトリアルオフィスの最新バージョン
ネットワークで場所を意識せずに仕事ができる
ノンテリトリアルオフィスの最新バージョン
2
■ノンテリトリアル化の経緯
約15年前に始めたグループアドレス
その進化系としてのリニューアル
山本智巳氏
理事
経営企画担当
「多くのハードウェアやソフトウェアを組み合わせて販売するソリューショ
ラボレーションスペースなどを加えると、従業員数の7割分の席は用意し
ンビジネスが主流になっている一方で、社内の組織が製品ごとや職種ご
てあり、
ピーク時にも充分対応できる設計になっておりスペース削減が
とにわかれているようでは、情報の伝達ルートが一本化できず、
どうしても
目的ではないことは明確です。」
効率が悪くなってしまいます。このため、次の経営目標として私たちが掲
げるオンデマンド・ビジネスに合わせたワークスタイルはないかと模索した
■生産性向上のための工夫
結果、単なるオフィス改革ではなく、総合的なワークスタイルの変革プロ
ジェクトをスタートさせることになったのです」
オンデマンド・ビジネスとは、社内の組織の枠を超えてお客さまのニー
サテライトオフィスやネット環境により
外出先からも会議に参加できるシステム
ズに応え、
スピーディな業務プロセスを実践していこうという考え方だ。
を配置するようにしました。その後、
シェアドオフィスとなって適用範囲を
「簡単に言えば、
『組織図の線』をなくし、
プロジェクト単位で必要な人
目に見えるレイアウトの工夫だけでなく、
日本IBMの新オフィスの最大
広げ、全社員の半数近くが共有のデスクとノートパソコンで仕事をする
間がチームを組み、対応していくのです。それを実践していくには、
ただ
の特色は、バーチャルな部分でも最大限にコミュニケーションの促進を
ようになったのです」
省スペースのためだけのノンテリトリアル化ではなく、個々の力を最大限
可能にしている点だ。
「オンデマンド・ビジネスを実現するうえで大切なのは、
いうまでもなくコラ
まずいくつかの事業所で新しいモデルをつくり、
その成功事例をオフィ
に発揮できる新しいノンテリトリアルオフィスを考え出さなければなりませ
ススタンダードの形にして全国100カ所近い事業所に展開していく。こ
ん。幸い、私たちは10年以上の経験の中でさまざまなことを学んできまし
ボレーションの推進でしょう。オフィス内に打ち合わせのためのスペース
日本アイ・ビー・エム(以下、
日本IBM)の先進オフィスへの取り組みは、
のような大胆なオフィス改革の試みは、世界のIBMグループの中でも日
た。そういう意味では、昨年1月に製造業向け営業部門においてリニュ
を増やしたのもその目的からですが、同時に、
ネットワークによるコミュニ
すでに15年以上の歴史を持つ。
本が最も先行していた。このため、最初はノンテリトリアル化に消極的だ
ーアルした箱崎オフィスは、
日本国内はもちろん世界でも類をみない最
ケーション機能の強化も、
リニューアルの目玉の一つだったのです」
1989年、
コンピュータシステムのダウンサイジングという転換期に直面
った米国などでも、現在では同じようなレイアウトを採用しているという。
新鋭のオフィス環境を実現しているのではないかと自負しています」
日本IBMが早くからノンテリトリアルオフィスを実現したのは、
自社のネ
し、
日本IBMでは全社的に働き方の見直しを進め、社内では「グループア
そんな経緯がある日本IBMだけに、第二次オフィス改革ともいえる新し
ドレス」と呼んでいたフレキシブルなオフィスレイアウトを導入した。
いリニューアルプロジェクトへの取り組みも早かった。やはり課題は、新し
「営業部門などで個人席をなくし、
グループごとに人数より少ないデスク
い時代の市場環境に対応した生産性の高いワークプレイスの実現である。
ットワーク技術を駆使してモバイル化を推進できたからだが、
「10年間の
ITの進歩」は確実に、
より先進的なワークスタイルを可能にした。
■新しいオフィスの概要
「離れたところにいてもチームで打ち合わせのできるe-ミーティング、情
報交換のできるメッセージ・センター・サービス、共用できるスケジューラー、
「線のない組織図」を具現化するレイアウト
会議や集中作業などの機能別スペースの充実
ユビキタスを可能にしたワイヤレス環境など、今の技術を使えば、
ワーク
プレイスはオフィスだけでなくどこにでも広がっていきます。ノンテリトリア
ルであっても機能的に仕事をするには、
これらの最新システムを駆使す
多くの企業において、今でも、組織図をそのまま平面展開したような
ることが重要なのです」
デスクレイアウトがなされているのに対し、
日本IBMの箱崎オフィスは、
ま
その成果は、
ワークスタイルの変革プロジェクトを推進してきた山本さ
さに部門ごとの壁がまったくなく、
「線のない組織図」を具現化している。
ん自身が強く感じている。
新しいオフィスのスタンダードとなるODWS(オンデマンド・ワークスタ
「今回のプロジェクトでは、箱崎などの中核事業所をリニューアルするだ
イル)基準レイアウトでは、
マネージャーや管理スタッフが座るマネジメント・
けでなく、新宿、渋谷、池袋、三鷹、大宮、幕張、新橋、大崎、川崎、横浜、
コックピットが複数あり、
その周囲にチームテーブルが置かれているが、
こ
大和へとサテライトオフィスを拡充していきました。その結果、私たちは
の配置は部門単位の区分にはなっていない。マネージャーも他の社員
出先から近いオフィスに立ち寄れば、
ネット経由でチームの会議に参加
も席は固定されていないからだ。
することもできますので、移動による時間ロスは大幅に軽減されたのです。
そしてオフィス全体の3分の1近くは、打ち合わせやプレゼンテーション
また、PHS経由で外出先からも社内のネットワークにアクセスでき、
まさ
用のコラボレーションスペースと、集中作業用のコンセントレーション・ゾ
に場所に制限されず仕事ができるようになりましたね」
ーンにあてられ、必要に応じて使い分けられるようになっている。
ITの活用例として画期的なのが「Sametime」と呼ばれるシステムだ。
「従来のように1つのデスクでほとんどの作業をするというオフィスは、決
これは、海外を含めたIBMの全社員が利用できるコミュニケーションツー
して機能的とはいえません。横でわいわいがやがやと情報交換していて
ル製品で、
リアルタイムにメッセージのやりとりが可能なため、
チャット感
は落ち着いて電話もかけられませんからね。このため、新しいオフィスで
は徹底的に機能とスペースの最適化を図り、
たとえば、静かに電話がで
2004年、渋谷駅前にできたサテライトオフィス。サテライトオフィスの利用で、
ワーカーがお客様に返信するスピードが速くなった。
覚で情報交換ができる。
「たとえオフィス内で同じ空間を共有していても、数メートル離れると気
きるテレフォンルームまでつくりました」
軽にコミュニケーションできなくなるものです。しかし、
このシステムがあ
最初はオフィス内に電話ボックスを設置したが、
「座って作業をしたい」
れば、全員が隣りあって座っているのと同じ環境が実現できる。究極の
との要望が多かったことから、
テレフォンルームは一度、
スタイルを変えて
情報共有ツールといえるかもしれません」
いる。
機能性を追求したリアルオフィスと、
ネットにアクセスできる環境ならど
また、全体の席数については、事前に在席率を綿密に調査して決め
こにでも広がるバーチャルオフィス。日本IBMの試みは、
ノンテリトリアル
たという。
の概念をさらに拡大したまったく新しいワークスタイルへの挑戦といえる
「単純に見てスペース効率はかなり高いといえるでしょう。
しかしながらコ
だろう。
2
先進オフィス大研究
日本アイ・ビー・エム株式会社
箱崎事業所
■オフィスの評価とビジョン
情報伝達におけるさまざまなロスがなくなり
顧客との直接的なコミュニケーションが可能に
担当者間で伝言ゲームのように情報を伝えていくしかなく、
そこにかかる
その点は順次改善していく計画だ。
時間や手間が無駄だとされていました。新しいオフィスでオンデマンド・
「コミュニケーションが活性化し、
オフィス内の会話が増えたのはいいの
ビジネスを実践したことにより、営業担当者はそれだけ多くの時間をお客
ですが、集中作業がしにくくなったとの声もあり、
コンセントレーション・ゾ
さまとの打ち合わせにあてられ、
ビジネスの質は飛躍的に向上したのです。
ーンの拡充は必要でしょう。また新しいワークスタイルの中で若手の育
また、
お客さまからも『レスポンスが早くなった』との声があり、
これはその
成をどうやっていくかなど、
コミュニケーションの工夫やコーチングの促進
まま私たちの会社への評価につながっているといえるでしょう」
も必要となります。いずれにしろ、
オフィスが変われば仕事も変わるので
行っている。その結果、
「お客さまへの訪問時間が約4割増加した」
「約
効果が確認できたことから、
日本IBMでは続いて箱崎内の製造業向
すから、経営の方針に従って、単にオフィス環境のみならずワークスタイ
5割のワーカーが『オフィスのオープン化によりコミュニケーションが活性
け以外の営業部門でもオフィスのリニューアルを進め、2006年1月まで
ルの変革まで視野に入れることがこれからのファシリティ担当者の仕事
化した』と回答した」といった効果が確認されている。
には5000人以上がODWSの環境で仕事ができるようになるという。
になるのです」
オフィスのリニューアル後、
日本IBMではODWSのパイロット評価を
「従来の固定された組織では、お客さまからの問い合わせがあっても、
ネットワークで場所を意識せずに仕事ができる
ノンテリトリアルオフィスの最新バージョン
ただその一方で、パイロット評価によって判明した新たな課題もあり、
16階のオアシスゾーン。
21階のカンファレンスルーム。15名以上の会議のための部屋。
21階の執務室全景。オフィス全体の3分の1近くは、打ち合わせやプレゼンテーションル
ーム用のコラボレーションスペースと集中作業用のコンセントレーション・ゾーンにあて
られ、必要に応じて使い分けられている。
マネジメント・コックピットと呼ばれる管理職席。
1階のオアシスゾーン。 リフレッシュのためのスペースであると共にインフォーマルなコミュニケー
ションの場としてオフィスの中心に用意されている。
14階のオアシスゾーン。
ハイ・スツール等が配された、
カフェ型のスペースになっている。
21階のコラボレーションスタジオ。
オープンなコラボレーション用のスペースで、予約なしで利用できるスペースである。常
設のプロジェクターを3台設置。館内のテレビ放送もこのコラボレーションスタジオを活
用して放送する仕組みとなっている。
先進オフィス大研究
3
日本テレコム株式会社 汐留コアオフィス
日本テレコム株式会社 汐留コアオフィス
マーケット、広場、公園のある「街」をイメージし
感性を刺激するオフィスで創造性を発揮する空間に
マーケット、広場、公園のある
「街」
をイメージし
感性を刺激するオフィスで創造性を発揮する空間に
3
■ノンテリトリアル化の経緯
レイアウトから情報までのノンテリトリアル化
新しいワークスタイルの提案を自らのオフィスでも実現
門性を発揮し、同時に共有する目標に向かってプロセスを同期させるこ
とのできる環境を実現するために考え出されたのが、4つのレイヤー
(階層)
Squareは仕事とコラボレーションに専念できるように落ち着いた色の
によるワークプレイスの設計プランである。
カーペットで統一し、少人数用の打ち合わせスペース、
プロジェクターと
両澤 龍平氏
インダストリーマーケティング部 マネジャー
(公園)」に分かれている。
スクリーンを常設した小規模会議室のほか、
オープンエリアにはカウンタ
●レイヤー1:"どこでも"オフィス
ー状デスク、丸テーブル、四角テーブル、ベンチといった多様な「席」が
オフィスを固定・特定の場ととらえず、必要な人と、
どこでもいつでもコ
用意されている。フリーアドレスであるため、社員はその日の仕事状況や
ミュニケーションがとれるようにフリーアドレスによるノンテリトリアル化
一緒に作業するメンバーに合わせて、
どこに座ってもいい。
を行う。
一方、Parkは芝生を模したグリーンのカーペットに季節に応じて植え
●レイヤー2:デジタル&モバイル
替えられる木々が配置され、屋外のイメージを演出している。ここでは仕
もともと通信キャリアとしてスタートした日本テレコムは、今ではネットワ
ネットワーク技術を駆使し、
モバイルを通してどこからでもアクセスでき
事の緊張から解放されてリラックスすることもできるし、集中して作業に
ーク・システムといったICT領域でのソリューションを推進する先進企業
る仕事環境を実現する。
没頭することも可能だ。さらに明るい雰囲気を活かし、
お客さまとの打ち
として「21世紀のネットワーク社会におけるライフスタイル、
ワークスタイル、
●レイヤー3:"統合"アプリケーション
合わせに利用する社員も多いという。
ビジネスモデルを提案し、最先端の技術を使い、
その実現を推進します」
ネットワーク環境を最大限に活用するために社内アプリケーションを
「執務スペースを2タイプのゾーンに分けることで、
オフィス全体にキーワ
のビジョンを掲げ、積極的な事業展開を行っている。それだけに、
自社の
統合し、情報へのアクセスを容易にする。
ードである『楽しさ』を具現化できたと思っています。特にParkは、従来
2004年3月、
日本テレコムでは、中央区八丁堀のビルから本社を移転
オフィスにおいても、新しいライフスタイル、
ワークスタイル、
ビジネスモデ
●レイヤー4:ナレッジシェアリング
のオフィスにはないデザインで、
いい刺激になり創造的な仕事ができると、
する計画が浮上した。その後同年7月、
ソフトバンクグループの一員とな
ルを具現化した空間を構築することで、
その姿勢を社外にアピールして
社内外からの情報シェアリングを実現し、
それぞれお互いのナレッジを
評判はいいようです」
り、
グループ各社の多くが入る東京汐留ビルディングの14∼16階への
いくことが重要な目的の一つだった。
共有できるような仕組みをつくる。
さらに両ゾーンには休憩のできるカフェコーナーが設けてあり、社員は
本社移転が決まった。それを機会に、
まったく新しいワークプレイスの実
このような方針から、新オフィスワークスタイルのコンセプトとなったの
現が課題になる。
が「Professional & Collaboration」だ。そして、
すべての社員が高い専
好きな時間に利用できる。
「単なるレイアウトの刷新に留まらず、情報ネットワークを含めたワーク
執務スペースの中に異質な空間として存在するのが「Market(市場)」
プレイス環境の整備を階層的に行うことでノンテリトリアルオフィスの機
だ。レンガ敷きの円形の空間には、文房具などをストックしてあるキオスク、
能を最大限に活用する」という方針のもとに半年近い準備期間を経て、
休憩できるカフェ、42インチのプラズマディスプレイを前にしたカウンター、
2005年1月17日、新しい汐留コアオフィスがオープンした。
社内外の情報を放映する大型スクリーン、階段式ベンチなどが設置さ
■新しいオフィスの概要
れる。たとえばプレゼンテーションをしていれば、
その様子を通りがかりに
れている。ここは人とモノが行き交う場所として設計され、多目的に使わ
見ることができ、社内の情報共有に役立っているという。
オフィスのゾーニングは機能だけを考えず
「楽しさ」を感じられる空間を演出したい
そして、
エレベーターホールからオフィスにつながる「Passage(通路)」
は、
あえて50mの長さを確保した。
「モノトーンの色彩に加え、絵画や音楽によって気分転換できる通路を
汐留コアオフィスの設計を具体的に進めるにあたり、
プロジェクトチー
設けることで、外部とオフィスの行き来に感性のスイッチをオン・オフでき
ムの中でキーワードになっていたのが「楽しさ」である。
るようにしました。これにより、
オフィスの中は一定の雰囲気を保てるよう
「どんなビジネスを行うにしても、
これからは社員が創造性を発揮できなけ
になり、試みとしては成功したのではないかと思っています」
れば成果にはつながりません。では、創造性とはどういう環境で生まれる
のか? 人間、一人で苦しんでいても新しい発想なんかできません。コラ
■生産性向上のための工夫
ボレーションをきちんとして新しいものを生み出して、
それをお客様にご評
価いただくことでモチベーションが上がる。そして充実感を感じられる。で
すから、第一にオフィスは仕事をしていて楽しいと感じられる場所でなけ
広いオフィスで明るく開放的な空間を実現
役員も共有席にしたことで見直された効果
ればならない。そう考えたのです」
そして、楽しい空間とは何かと検討を重ねた結果、多くのメンバーが共
写真を見てもらえばわかるように、
日本テレコムの汐留コアオフィスは、
通してイメージしたのは、
「街」だったという。
非常に広い空間が特徴だ。ワンフロア約1000mのスペースを細かく仕
「街を歩いていて楽しいのは、
そこにいろいろなものが集中してあり、刺
執務スペースの一つ「Park」。芝生を模したグリーンのカーペットが敷きつめられ、屋外のイメージを演出してる。
明るい雰囲気のため、
お客様との打ち合わせに利用する社員も多い。
2
切ることなく有効に使い、
その大半をノンテリトリアルオフィスにした例は、
激に溢れているからです。そして、
そういう空間こそが、創造力を発揮でき
これまでもあまり例がない。
る場所になる。この結論に達したとき、
自然に設計プランが形づくられて
これだけの広い空間を上手に活かす意味では、街を模したゾーニング
いきました」
は効果をあげている。特に、Parkによる開放的な雰囲気は、大きな窓か
その言葉通り、
日本テレコムのオフィスは、
まさに街そのものになって
ら眺められる浜離宮庭園とその先に続く東京湾の景色も加わって、
オフ
いる。
ィスのイメージを一新した。
まず、
もっとも広い執務スペースは、大きく「Square(広場)」と「Park
「旧本社は島型対向レイアウトの普通のオフィスで、当然、固定席だけ
3
先進オフィス大研究
日本テレコム株式会社
汐留コアオフィス
マーケット、広場、公園のある「街」をイメージし
感性を刺激するオフィスで創造性を発揮する空間に
でしたから、最初、
ノンテリトリアルのフリーアドレスにすることに不安を
いうのは、
かなり異例のレイアウトだと思います。
しかし、今回の新しいワ
ィス、
モバイル、
アプリケーション、ナレッジなどのあらゆる階層によって社
「現在では、多くの仕事が部門を超えたプロジェクトチームのコラボレー
感じる社員は少なくなかったのです。
しかし、移転した日に初めて新しい
ークプレイスの実現は、
もともと経営トップから提案があったプロジェクト
員が有機的に結びつくダイナミックなワークスタイルこそが、
ノンテリトリ
ションによって進められますから、
どこにでも集まって仕事をできるほうが、
オフィスを目にした彼らは、広くて明るいスペースがすぐに気に入り、以降、
だっただけに、
この方針もすぐに了承されました。逆に役員からは、
『個
アル化の最大の目的といえるのではないでしょうか」
スペース効率は飛躍的に高まるのです」
不満は聞かれません。むしろ、新しいオフィスに移ってよかったという声
人で部屋に隔離されるより、
かえってコミュニケーションが活発になって
のほうが圧倒的に多い。つまり、
しっかりしたコンセプトに基づいて空間
いい』と評判はいいようです」
を構築していけば、個人の席があるかないかといった問題は、
あまり関係
ちなみに、役員が他の社員と一緒に通常の執務スペースで仕事をす
なくなってくるのです」
ることもあり、部門だけでなく階層による壁もほとんど感じられなくなった
日本テレコムの新オフィスが徹底しているのは、役員エリアにも個人
ことは、
ノンテリトリアルオフィスにした効果の一つだった。
の席がないことだ。共用のデスクと会議用テーブル、
ラウンジなどが配
「このような完全なフリーアドレスが可能になったのは、
もちろん、最新の
置され、社長もその日によって座る場所を変える。
ただ、
コーナーごとに利用状況の違いは生じてきているようで、
その点
■オフィスの評価とビジョン
については、今後の運用改善も部分的には必要だと感じている。
「一番、人気が高いのは、集中して作業ができるように用意したブース
オフィスの機能を最大限に発揮していくには
空間づくりと運用ルールの両方が必要になる
式のデスクです。
しかし利用状況をチェックしてみると、必ずしもそこで仕
事をする必要がないケースでも使われているようで、
この点は新たなル
ールづくりが必要でしょう。いずれにしろ、運用面についてはこれからも
ネットワークシステムを導入しているからです。同じ場所で顔をつきあわ
現在、汐留コアオフィスに勤務するスタッフの数は約2000人。このう
継続的な調査が必要で、
このハードウェアをどう活かすソフトウェアをつ
「すぐ横にある秘書エリアだけは、業務内容上、社内でも数少ない固定
せて情報交換するだけでなく、
たとえそばにいなくてもネットを通してすぐ
ち、管理部門には全員分の席が用意されているが、
それ以外は80∼85
くるかが、私たちの仕事になるのです」
席を残してあるにもかかわらず、役員に個室どころか専用デスクがないと
に連絡できることで多様なコミュニケーションが可能になる。つまり、
オフ
%の配席率で特に問題はないという。
エレベーターホールからオフィスにつながる「Passage」。気分転換を目的にしているため、50mの長さを確保している。
執務スペースの一つ「Square」。フリーアドレスのため、仕事の状況に合わせてどこに座ってもよい。そのため少人数用の打ち合わせスペースや小規
模会議室、丸テーブル、四角テーブル、ベンチなどさまざまな「席」が用意されている。
「Passage」
「Square」 「cafe」
「Market」
「Park」
執務スペースに設けられた「cafe」。社員は好きな時
間に利用できる。
レンガ敷きの円形の空間「Market」。人とモノが行き交う場所として、多目的に使われている。文房具のストックスペースやカ
フェ、42インチのプラズマディスプレイ、階段式ベンチ、社内外の情報を放映する大型スクリーンなどが設置されている。
先進オフィス大研究
4
株式会社イトーキ 東京本社オフィス
株式会社イトーキ 東京本社オフィス
人が集まる「楽しさ」を演出できるオフィスは
リアルコミュニケーションの促進につながる!
人が集まる「楽しさ」を演出できるオフィスは
リアルコミュニケーションの促進につながる!
4
■ノンテリトリアル化の経緯
フリーアドレスをいち早く導入した経験が
新しいオフィスの構築に活用されている
当時の調査の過程で判明した課題には次のようなものがあった。
最大限に発揮させるとともに、多様なワークスタイルの変革を促してい
ます」
(竹内さん)
竹内 重隆氏
筧田 昭文氏
法人営業部
ソリューション推進室
室長
プロジェクト営業部
SI企画推進室
室長
1.オフィス内のネットワークとしては、導入時に唯一、製品化されていたワ
一方、5階フロアは完全なフリーアドレスではなく、
チームごとのグルー
イヤレスシステムである赤外線LANを採用したが、通信速度や安定性
プアドレスによるノンテリトリアル化を実現している。
への不安から同時に有線LANも併用。結果、容量の大きいデータなど
「ここも営業ですが、組織構成上若手の社員が比較的多く、担当市場
の検索は有線のほうが高速であったため、有線接続を選ぶ人が存在し
の特性(業界や規模において多種多様な市場)からも、
リーダーも含め
無線LANへの完全移行までは実現しづらい環境であった。
たメンバー同士の密接なコミュニケーションが業務遂行上不可欠であ
ることから、顧客満足度の向上とOJTの効果が最大限発揮できるよう
2.内線兼外出時の電話として構内PHSを導入。外出時に走行中の電車
なオフィスデザインにしました。チーム単位で一つのテーブルをシェアし、
なら、私たちイトーキはオフィスサポートの専門企業として何か提案できる
のなかや、一部高層ビルの上層階など、場所によってはPHSがつながり
その中では座る位置は自由です」
(筧田さん)
のではないかと考えていました。そして、
ノンテリトリアル時代にふさわし
難くなるケースがあり、
ほとんどの人が個人の携帯電話を補完的に使用
グループアドレスの採用は、
フリーアドレスを実施したときに行ったア
い最先端オフィスを実現するため、人員やチームの変動に柔軟に対応
するようになり、2台を使い分けることにストレスを感じるケースが生じた。
ンケートにおいても、社員から提案されていたという。
「やはり、
リーダー
が部下の顔をちゃんと見ながら仕事をするほうがいいという指摘は何人
できるワークテーブルや赤外線LAN、構内PHS、紙のファイリングシステ
ムなどを組み合わせたフレキシブルなワークプレイスを構築したのです」
(筧
3.リーダーの席が固定席であった為、必然的にその周りに部下が集まり
かのワーカーからありました。たしかに、仕事の報告をするだけなら席が
中央区入船にあるイトーキの東京本社オフィスでは、
まだユビキタスと
田さん)
出した。また、完全なフリーアドレスだと若手社員のそばに必ずしもリー
離れていてもネット経由でできますが、
そのとき、上司がすぐに声をかけて
いう言葉があまり知られていない1999年、営業部門の一部にフリーアド
イトーキの試みは一定の成果をあげ、大阪などの営業部門でも同様
ダーや同じチームのベテランが座るわけではなく、
日常的な教育効果が
あげるかどうかでモチベーションは変わってきます。
したがって、今回の試
レスを導入している。
「当時、
すでにフリーアドレスを導入した企業はいく
のオフィスを導入したものの、社内では、
これがノンテリトリアルオフィス
期待できないという理由からリーダーは半強制的に部下を近くに座らせ
みでは、
リアルコミュニケーションの重視を一つのテーマにしたのです」
つかあったものの、調べてみると、既存のオフィスレイアウトのままで共
の最終形とは位置づけていなかったという。
るようになったため、
フリーアドレスでありながら半固定席のような状態が
用机に入れ替えただけとか、席数を少なくしただけなど、新しいワークス
「リニューアル後、継続した利用状況の調査や、ユーザーへの満足度
タイルに最適なファニチャーやデザインまで実現しているケースはあまり
調査を行いました。その結果、
いくつか課題もわかってきたため、社内で
みられませんでした。
しかし、
このようなワークスタイルが広く普及してくる
次世代のノンテリトリアルオフィスの検討を始めました」
(筧田さん)
(筧田さん)
生まれた。
レイアウトは異なるものの、両方のフロアにも共通しているのは
これらのうち、1と2については、
その後のITの進歩でより満足度の高
「WORKING SHOWROOM」というコンセプトだ。
い環境が構築できるようになっている。また他の課題についても、検討
「私たちのオフィスは、
これから新しいワークスタイルを導入したいと考え
作業を続けてきたことでいくつかの解決策が見つかったことから、
イトー
ている企業の人にきていただき、課題解決するためのショールームとも
キでは第二期オフィス改革プロジェクトとして、2004年5月に東京本社
位置づけられています。このため、働き方を見せるオフィスという意味で
事務所の4階を、2005年1月に5階をリニューアル。それぞれまったく新し
ワーキングショールームと名付けました。ここにいるスタッフにとっても、
いスタイルのワークプレイスを構築した。
生き生きと働ける楽しい空間を目指すという意味でライブ感のあるオフィ
スにしようと思いました」
(筧田さん)
■新しいオフィスの概要
オフィスのユーザーにとって、
自分の席がなくなることはマイナス要因
として受け止められやすい。それだけに「ノンテリトリアルだからかえって
フリーアドレスとグループアドレスを
「目的」によって使いわけたオフィスデザイン
楽しい」と思わせる空間の演出は絶対に必要だという。
「フリーアドレス化したオフィスで、
どの場所が一番人気があるのかを調
べたところ、集中作業などに使う窓に面したカウンターに座りたいという
イトーキの新しいオフィスは、4階と5階で異なるレイアウトを採用している。
声が多数でました。このため、新オフィスではその部分を増やすなど、ユ
4階の入居部門と5階の入居部門では、同じ『営業部門』という職種で
ーザーにとって好ましい環境づくりを徹底しました。そう考えていくと、固
ありながら、組織の人員構成の違いや担当市場の違いがそれぞれ存在
定席に比べて空間がフレキシブルに使えるノンテリトリアルオフィスは、
し、
オフィスデザインも組織の戦略に合わせて変化しなければ、
目標を達
成できないという重要なメッセージを発信するためだ。
まず4階フロアはスタッフ席を除き、完全なフリーアドレスである。
『Working∼楽しくなければオフィスでない』をキーワードに、創造的で自
ユーザーの希望を採り入れやすいシステムといえるかもしれませんね」
(竹内さん)
■生産性向上のための工夫
由で楽しい空間を目指したオフィスデザインとなっている。具体的には個
人個人の能力を最大限に発揮させるため、
コミュニケーション・コラボレ
ーション機能を主体とした多様なワークスタイルに対応した家具とスペ
ノンテリトリアル化を支える
新しいシステムと新しい試み
ースを随所に散りばめ、
かつ自由度を増すために、移動できる家具を配し、
仕事の内容や好みに最も適した環境をワーカー個人が自由に選択でき
ノンテリトリアル化を進めるうえで、
インフラ整備も欠かせない要素のひ
るようにしている。
「画一的でない家具やレイアウトが楽しい雰囲気を演
とつであるが、今回イトーキでは最新のシステムである無線I
P携帯電話
出しています。そんなリラックスできる環境・空間が、個人個人の能力を
と無線LANを導入し、
ノンテリオフィス実現への課題を解決した。これに
株式会社イトーキ
東京本社オフィス
より営業担当者は、社内の内線電話では無線I
P電話として使うことが
また、
オフィスの中央に複合機や文房具のストック、休憩のできるドリ
でき、社外に出ると携帯電話として利用できる環境を手に入れ、
かつデ
ンクコーナーとソファなどを集中して置くことで、自然に人が立ち寄る工
ータ通信系では最大54Mビット/秒で通信可能な高速無線LAN規格の
夫もしている。
■オフィスの評価とビジョン
4
先進オフィス大研究
人が集まる「楽しさ」を演出できるオフィスは
リアルコミュニケーションの促進につながる!
一方で、
『帰りたくなるオフィス』には自然に人が集まります。本来の役
割のひとつであるリアルコミュニケーションが促進されます。そういう効
省スペースではなく「働き方」を進化させる
ノンテリトリアルオフィスという考え方へ
果こそを、
これからのオフィスは考えるべきなのです」
(竹内さん)
従来、
オフィスのノンテリトリアル化は、
スペースコストの削減が最大
メリットがある。
採用で、
オフィス内のどこでもパソコンが使える環境を手に入れた。
「リフレッシュコーナーを兼ね備えたスペースにして、気分転換をしてもら
また、
フリーアドレスでは個人の座っている場所がすぐに把握できない
うのが目的です。このため、静かな音で音楽を流したり、実験的にアロマ
ため、パソコン画面上でどこに社員が着席しているのかを確認できるプ
による香りの効果を試したりしています」
(筧田さん)
レゼンス
(在席管理)
システムを導入し、
フリーアドレスオフィスの課題で
これまで、
ファイリングシステムなどでペーパーレス化を進めてきたイトー
の目的だった。在席率を厳しく調べて席数を極限まで減らせば、
たしか
「個人情報保護法が施行されたことで、デスクの上に不用意に書類を
ある社員の所在確認という問題を解決している。
キでは、現在では受信したファックスも画像データにして各自のパソコン
に面積は少なくて済む。
しかしイトーキでは、
「これからのノンテリトリアル
おいておくことは許されなくなります。それを考えたとき、やはり整理整頓
に自動的に送るようなシステムを採用するなど、
ほとんど席を立たなくて
オフィスは、省スペースよりも働きやすさの向上を目指すものになる」と
を徹底できない個人席は限界があるはずです。そういう意味でも、
これか
も仕事ができるような環境になっている。それだけに、
リフレッシュのため
断言する。
らはオフィスのノンテリトリアル化は、
ますます進むのではないでしょうか」
「各自のパソコンでも、入口にある大型スクリーンでも検索が可能で、必
要なときにすぐに相手を見つけることができます。メールだけでなく、直接、
顔をつきあわせてのコミュニケーションを促進するためには便利なツール
のスペースに人が集まる工夫をすることで、偶発的なコミュニケーション
といえるでしょう」
(竹内さん)
の促進を図るのも、大きな効果につながっているようだ。
働き方そのものを変えていく。それは別の意味でも、企業にとって大きな
「今回、
オフィスをリニューアルし、楽しい空間を構築していったら、在席
(筧田さん)
率は高まってしまいました。もちろん仕事の必要があれば外出しますが、
4階オフィスの全景。2004年にノンテリトリアルオフィスが導入
されたが、今回はそのリニューアル版。スタッフ席を除き完全な
フリーアドレスとなっている。
4階窓際の集中スペース。リラックスできる環境・空間が個々の能力を最大限に発揮させている。
ノンテリトリアル化は、単にオフィスを機能的にするだけでなく、人々の
フリーアドレスでは、誰がどこに座っているかがすぐに把握でき
ないため、パソコン画面上で社員の着席場所が確認できる在
籍管理システムを導入している。
5階フロアは、
チーム単位で一つのテーブルをシェアし、
その中で
座る位置は自由となっている。
5階オフィスの全景。完全なフリーアドレスではなく、
チームごとの
グループアドレスによるノンテリトリアル化を実現している。
先進オフィス大研究
5
株式会社サキコーポレーション 本社オフィス
株式会社サキコーポレーション 本社オフィス
社内のコミュニケーションを活発にするだけでなく
成長していく会社のビジョンを表現できるオフィス!
社内のコミュニケーションを活発にするだけでなく
成長していく会社のビジョンを表現できるオフィス
5
■ノンテリトリアル化の経緯
としないので、
オフィスと一体化することにより、企画・開発・セールス・生
山岸 慶正氏
管理グループ
社長付
打ち合わせスペース、
サロンなどがある。
産・サービスの全部門が直接的に情報のフィードバックができ、業務の
「カウンターは主に集中作業をするのに便利なため、
ここに座っていると
効率は最大限に高められるのです」
きは話しかけないなど、自然に社内ルールができてきました。またサロン
そして同時に、
ほとんどの席をフリーアドレス化したノンテリトリアルオ
は靴を脱いであがるスペースになっていて、
リラックスしてブレーンストー
フィスにすることで、部門の壁のない環境で、人の動きを活発にし、
コミュ
ミングをしたり、夜には社員が集まってワインを飲んだりするのにも利用し
ニケーションの効果を高めるレイアウトを採用した。
ています」
■新しいオフィスの概要
このほか、
フロアの南側には、
「Asimov(アシモフ)」
「Atom(アトム)」
「HAL(ハル)」と名付けられた3部屋の多目的スペースがある。これらは、
サキコーポレーションの検査装置を導入したメーカーの技術者のトレー
毎年のように行わなければなりません。これまでずっと川崎市のKSP(か
ながわサイエンスパーク)の中で増床してきたのですが、立地的な問題
オフィスから工場まで見通せることで
自然なコミュニケーションが生まれる
ニング施設であるだけでなく、社内の会議やプレゼンテーションにも活
用されている。
情報を共有できる工場一体型オフィスは
仕事の効率を飛躍的に高める効果がある
もあり、2004年2月、品川インターシティへの移転を行うとともに、
まったく
生産設備に欠かせない電子回路自動外観検査装置で世界でもトッ
「品川に移るにあたって、私たちが考えたのは、生産設備まで持った工
さにある。ゾーニングとしては、北側半分がオフィス、南側が工場と多目
検査装置は事業化の第一ステップだと位置づけています。幸い、
ビジネ
プクラスのシェアを持つサキコーポレーションが設立されたのは1994年
場一体型オフィスを構築しようという試みでした。多くのメーカーでは、工
的スペースになっているのだが、
そのほとんどすべてが一つの空間の中
スが好調であるため、みんな仕事に追われていますが、
こういうスペース
4月のことだ。最初は現在の社長と副社長の2人でスタートした事業は
場とオフィスは別の場所にありますが、
これは決して効率がいいとはいえ
に収まっている印象だ。
に未来への思いを込めた名前をつけることで、会社の本来のビジョンを
急成長を遂げ、今では従業員数は本社で約60名、中国の上海と深セン
ません。たとえば営業がお客さまから注文を受けたとき、工場が離れてい
「DFCというコンセプトで工場一体型オフィスを構築する以上、見通しの良
忘れないようにしたいと考えているのです」
のオフィスを合わせると70名以上となっている。
ると、
そこに行って打ち合わせをするだけで移動の手間がかかり、仕事が
さは大前提でした。このため、会議室の多くもガラスのパーテーションで中
ただオフィスとしての機能を追求するだけでなく、空間全体の演出で社
「急激に事業が拡大し、人数も増えてくると、
オフィスのリニューアルは
ワンクッション遅れます。幸い、私たちの製品はそれほど広い工場を必要
が見えるようになっていますし、明確なルールは決めていないものの、室内
員のモチベーションを高める工夫も欠かせないというのがサキコーポレー
「これらの部屋は、SF作家で科学者のアイザック・アシモフ、鉄腕アトム、
新しいコンセプトによるオフィスづくりを進めたのです」
品川インターシティA棟のワンフロア(約440坪)
を使ったサキコーポ
映画『2001年宇宙の旅』の人工知能から名付けました。私たちの会社
そのコンセプトを表す言葉がDFC(ダイレクト・フィードバック・サイクル)
だ。
レーション本社オフィスの最大の特色は、全体が一望できる見通しのよ
は、
もともと人工知能や画像認識などの技術から出発しており、現在の
の中央部分に置く棚なども、高さを110cm以下に抑えるようにしています」
ションの考え方だ。
オフィスだけでなく工場まで視野に入るワークプレイスの効果は、最初
「このため、
ファニチャーについても、
ドイツのVitra・Design・Museumを
に予想した以上に大きかったという。
中心に揃えるなど、
使いやすく、
デザイン性にも優れたものにこだわりました。
「たとえば営業の人間は、工場で生産作業が忙しそうだとわかれば、
いち
その結果、
かなり理想に近いオフィスが実現できたと自負しています」
いち確認しなくても納期を考えながらお客さまとの交渉を進められます。ま
た、全員に一体感が生まれ、部門の壁はまったくないといっていいほどです」
見通しのいい空間が生むコミュニケーションの重要性に気づいたの
には、
もう一つ、
エピソードがある。
「実は、品川のオフィスをオープンしたとき、最初、社長室はガラスで仕切っ
た北側の端に置いていたのです。ところが、視線は全体に届くものの、音
が遮られることで社内の状況が正確に把握できないということに気づき、
今ではみんなが座るデスクの一番端が社長ほか役員の席になり、旧社長
室は会議室として使うことになりました。つまり、見通しだけでなく聞き通し
も、
コミュニケーション効果を高めるうえでは大事だと気づいたのです」
■生産性向上のための工夫
機能やデザインにすぐれたファニチャーと
目的を明確にした空間づくりへのこだわり
現在、社内で固定席を持っているのは、
これら役員と、必要な書類が
多い経理担当者だけだという。
「執務スペースは完全なノンテリトリアルです。ただしこれは、決してスペ
ースを減らすための制度ではありません。基本的には人数分の席は用
意し、
そのうえで、
どこに座ってもいいというルールになっているのです」
さらに、仕事をする場としては、窓際に設置されたロングカウンターや、
エレベーターから廊下を抜けると見えるエントランス。社名の下には企業コンセプトで
ある「The Future in Focus」とある。
株式会社サキコーポレーション
本社オフィス
■オフィスの評価とビジョン
5
先進オフィス大研究
社内のコミュニケーションを活発にするだけでなく
成長していく会社のビジョンを表現できるオフィス!
かホワイトボードを用意し、
自由に移動できるようにしてあります」
これらの多くの先進的な試みが認められ、
サキコーポレーションの本社
どこでも会議が始められるオフィスで
日経ニューオフィス賞でも高い評価に
は、2004年に日経ニューオフィス賞の「ニューオフィス推進賞」を受賞した。
「今回のオフィスリニューアルプロジェクトで最大の効果は、DFCの浸
透による円滑なコミュニケーションにありました。もちろん交通が至便の
KSP時代は、毎年のようにオフィスリニューアルを行っていた。営業グ
品川に移転できたという点、
そこの最新のビルで、
しかも受賞したオフィ
ループの中ではフリーアドレスも採用していたものの、今回のような全社
スで働けるという心理的効果はものすごく大きいものがあります」
的なノンテリトリアル化は初めてだけに、最初は不安もあったという。そ
その効果は人事面にも及び、
「社員募集をすると、応募者の数も質も
れでも、現在は、経営者、社員ともに非常に満足度は高いようだ。
比較にならないほど上がりました」という。ただそのことが、今後の課題
「ノンテリトリアルオフィスの最大のメリットは、部門を超えたコミュニケー
にもつながっていく。
ションが気軽にできる点です。例えば、生産体制の強化が課題になった
「事業の拡大に伴い、
これからも人数は増えていきますから、
すぐに次の
とき、事前に会議の予定を組まなくても、
自然に生産、人事、サービスな
リニューアル計画を考えなければならないでしょう。しかし、
オフィスは生
どの担当者が集まり、話を始められるので時間のロスがなくなります。そ
き物なのですから、必要に応じてベストな環境をつくっていくのが、次の
のような突発的なミーティングを支援するために、
オフィス内にはいくつ
課題なのです」
フリーアドレステーブルを採用した執務スペース。オフィス内のファニチャー
の高さはすべて1m10cm以下というのが特長だ。
他目的スペース
HAL(ハル) Atom(アトム)
Asimov(アシモフ)
ファクトリーエリア
ラウンジ
喫煙所
レインボーブリッジが一望できるビューカウンター。ノートPCを持ち込んで仕事をしても、
コ
ーヒーを片手にリフレッシュすることもワーカーの自由。
エントランス横の待合ルーム。華やかなカラーでお客
様をお迎えしている。
社長室として使用されていた応接室。オフィス全体が見渡せるデザインになっている。
先進オフィス大研究
6
コクヨオフィスシステム株式会社 本社オフィス
6
ソリューション型の仕事スタイルを推進する
コラボレーション重視の「新世代」オフィスへ
コクヨオフィスシステム株式会社 本社オフィス
ソリューション型の仕事スタイルを推進する
コラボレーション重視の「新世代」オフィスへ
■オフィスの評価とビジョン
ーティングスペースを含む)。実際の在席率は、
ビデオ撮影して調べると
約30%だったが、朝にはほとんどの社員が顔を揃えるので、
そのときに余
(オフィスマーケット2004年4月号抜粋)
ビデオによる定点観測で利用状況を調査
オフィス機能の分析で生まれるコンセプト
裕ある空間を確保するのは、
モチベーションを低下させないために重要だ
と考えている。
今後のオフィスのあり方について、
コクヨオフィスシステムが考えている
■新しいオフィスの概要
仕事環境の変化によって常にスペースの利用方法は変わっていくが、
のは、仕事のスタイル別のワークプレイスの分化だ。業務には、創造力で
電話もすべてIP化する方向で、
オフィス内の配線を大幅に減らしている。
それをオフィスのレイアウトに活かしていくには科学的な調査も必要だ。
問題解決を進めるソリューション型と、単純作業の積み重ねによる技能
さらにレイアウト面では、前回は1600mm角の正方形のテーブルで統一
コクヨオフィスシステムでは継続してユーザーの満足度調査などを行うと
型という2つの方向性がある。そしてそれぞれ、個人作業と社内や社外の
し、外出することの多い営業部門は4人掛けのフリーアドレス、集中作業
ともに、天井にビデオを設置した定点観測でオフィス内の利用状況を撮
メンバーとの共同作業に分けられる。
が中心の管理部門は2人掛けの固定席としてスペースの有効活用を図
影し、
そのデータをもとに最適化を図っている。
これらの分類を頭に描いたとき、
より技能型で、個人でもできる仕事は
っていたが、新オフィスでは、機能ごとにファニチャーの使い分けを行った。
たとえば、以前、使っていた1600mm角のテーブルを変えたのも、
この
特にオフィスで行う必要はなく、
ネットワークなどのITインフラが発達すれば、
2003年12月、霞ヶ関ビル内に誕生したオフィスは、前回、1997年に
具体的には、営業部門ではコクヨのコラボレーション用テーブル「Atlabo
大きさが中途半端だとわかったからだ。ノートパソコンの横に資料を広げ
それこそ自宅でも可能だ。
しかし、複数の人が集まりアイデアを出し合うソ
新霞ヶ関ビルで構築したオフィスに続きノンテリトリアルを原則としてい
(アットラボ)」を採用している。リボン形、菱形、楕円形などの1人用の
ると、
だいたい1200mmの幅は必要になるため、4人では狭すぎるし、2人
リューション型の共同作業にはリアルコミュニケーションが欠かせず、
その
るが、ITの進歩を確実に反映し、飛躍的に使いやすいものとなっている。
テーブルを自由に組み合わせることで、個人作業から打ち合わせまで幅
だと広すぎる。つまり、多目的に使えると考えて導入したファニチャーが、
場を提供することがオフィスに求められる最大の機能になるだろう。
進化したノンテリトリアルオフィスを
2回目のオフィスリニューアルで実現
たとえば、旧オフィスの時代はネットワークインフラが、
まだ有線LANし
広いシチュエーションに対応できるのが大きな特徴だ。また窓際などに
必ずしも機能的ではないことに気づくのである。この点、現在のコラボレ
したがって、
これからのオフィスでは、個々に広い占有スペースは設けず、
か利用できなかったため、執務スペースの各テーブルや会議室などに、
は角机も配置し、仕事の内容によって働く場所を選べるようにしている。
ーション用テーブルによるフリーアドレス部分と、角机にとる固定席スペ
コラボレーションを重視したレイアウトが一般的になる。そのための方法
全ワーカー数の3倍近い数のLANポートを設置し、
ノートパソコンを接続
一方、管理部門は1200mm幅の角机とし、一部ではブース式や島型
ースのゾーニングは満足する結果につながっているという。
論の一つとしてノンテリトリアル化は有効であり、今後、
さらに新しい挑
すればどこでも仕事ができるようにしていた。しかし新オフィスでは完全
対向のデスク配置も残した。
また席数についても、営業部門であっても人数分だけを用意した(ミ
戦を続けていくつもりだという。
なワイヤレス化を図り、無線LANの導入で、
より自由度を高めた。加えて
個室スペース
(社長室)。
個室スペース
(社長室)。
外出や出張が多く、
オフィス内でも打合わせが多いため、 社長不在の時は、誰でも使ってよいことになっ
社長自らの発案ですぐにミーティングが行える丸テーブ ている。社長の収納はワゴン1台のみである。
ルとした。
お客様を迎える明るいイメージの受付とエントランス。
社内に設けられた、バーカウンター、
ラウンジ。簡単な飲食をしながらミーティングを行うことができる。なにより
インフォーマルなコミュニケーションの場として利用できるため社員の利用率が高い。
Runnerと呼ばれる営業部門のスペース。
机を組み合わせてフレキシブルに使用できる。
Sitterと呼ばれるサポートスタッフのスペース。広い空間を生かすために
デスクトップパネル。
情報コーナー。
ここで社員同士のコミュニケーションが活発に行われている。
喫煙ルーム(交楽煙)。
強制排気を行っている
ため煙草の臭いはほと
んど感じない。
先進オフィス大研究
7
富士通株式会社 富士通ソリューションスクエア
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富士通株式会社 富士通ソリューションスクエア
社内のコミュニケーションを活発にするだけでなく
成長していく会社のビジョンを表現できるオフィス
社内のコミュニケーションを活発にするだけでなく
成長していく会社のビジョンを表現できるオフィス
■新しいオフィスの概要
SEが求めた広いミーティングスペース
毎分更新される座席表で居場所を確認
こにいるかわからなくなるという問題が生じるが、
ここでは社内LANにノ
(オフィスマーケット2004年7月号抜粋)
ートパソコンを接続した段階で端末のIDから社員を特定し、1分ごとに新
対象となるSEからの「生産力はイコール提案力である」という声は、
オフィ
しい座席表を表示するようなシステムを採用している。また電話はVoIP
スづくりの基本コンセプトにつながった。つまり、開発は1人で行うのでは
技術を用いたロケーションフリーにしており、
オフィスのどこにいても自分
なく、複数が集まってアイデアを出し合いながら進めるものだという考え方
の番号で通話が可能だ。
だ。コミュニケーションスペースの拡充は、
まさにその方向に沿っている。
さらに外出先からPDAやノートパソコンで社内LANに接続できる環境
また、従業員の満足度を高めるため、
オフィス棟以外にも、お客さまと
め、席が固定される従来型の島型対向個人デスク配置を一切なくし、
自
を整えるのはもちろん、必要なデータはすべてサーバに保存することで「ど
の打ち合わせを行うソリューション棟を設けたほか、飲食施設の充実や
由に討論し、
お互いのナレッジを出しあえるノンテリトリアル型を採用した。
こでもオフィス、
いつでもオフィス」を実現している。
社内コンビニエンスストアの開業、医療センターの拡張など、
さまざまな
創造性を発揮できるオフィス」の実現が最優先課題だったという。このた
オフィスレイアウトとしては、集中作業のできる大型のワーキングスペ
ース
(デスク)
を並べるとともに、周囲にオープンミーティングスペース、
コ
2003年11月に運用を開始した大田区蒲田の富士通ソリューション
に参考にしたのは、社内からのさまざまな要望だったという。特に入居の
工夫を盛り込んだ。
■オフィスの評価とビジョン
運用開始後、毎月、ユーザーへのアンケート調査を行っており、評価
は非常に高い。ただ、
ノンテリトリアル化自体にはほとんど不満の声はな
ミュニケーションスペース、吹き抜けのパティオに面したオープンエアス
「生産力は提案力」がコンセプトとなり
コミュニケーションオフィスが生まれた
いものの、予想以上にコラボレーションの作業頻度が増え、充分に用意
スクエアは、7階建てのオフィス棟を持つ従業員4000人規模の事業所
ペースなどを多数配置することで、
どこででも仕事ができるようにしている。
全体でノンテリトリアル化を実現し、大きな話題になった。
さらに7階の全フロアを会議室とし、
ミーティングやプレゼンのスペースを
富士通では以前から、一部地域(大阪・神奈川)のSE部門ではフリ
充分に用意した。
ーアドレスを採用していたが、
その目的はあくまで省スペースだったのに
そして最大の得直は、最先端ITの大胆な導入だ。
富士通ソリューションスクエアのプランニングにあたり、
プロジェクトチー
スペースの運用方法やゾーニングの見直しを行い、常にベストな状態を
これだけの規模の事業所でノンテリトリアルオフィスにすると、誰がど
ムのメンバーは国内外の先進オフィスを見学し、知識を深めたが、最終的
保っていく計画でいる。
対し、SEの開発拠点となるソリューションスクエアでは、
「快適に働け、
したコミュニケーションスペースは社員の働き方が変わるとともに不足し
ていく傾向にあるという。このため、今後も定期的に利用状況を調べ、
開放感あるれるエントランスと受付。
オフィス棟の各所に配置されたコミュニケーションスペース。
パティオ
(吹き抜け)
予約席へのご案内など各階に設けられたコンシェルジェ。
簡単な打合せができるオープンミーティングスペース。
吹き抜けまわりのコミュニケーションスペース。
オフィス中央に面したオープンエアスペース。
ノンテリトリアル環境のワーキングスペース。